説明

経鼻投与用組成物

本発明は、鼻道への投与のための医薬組成物に関する。特に、本発明は、セルロース、特にヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)と、1種以上の治療剤とを含む乾燥粉末組成物に関する。HPMCの鼻腔への投与は、天然粘液を高め得ることが示された。現在、これらの粉末、及び鼻道へ投与された場合に形成するゲルが、驚くべきことに、治療剤、特に薬草の薬剤又はホメオパシー剤を鼻腔内に投与する、非常に有効な手段であることを発見した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鼻道への投与のための医薬組成物に関する。特に、本発明は、セルロース、特にヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)と、1種以上の治療剤とを含む乾燥粉末組成物に関する。特定のグレードのHPMCは、鼻腔へ投与された場合に、天然(natural)粘液を高め得ることが示された。現在、これらの粉末、及び鼻道へ投与された場合に形成するゲルが、驚くべきことに、治療剤、特に薬草(herbal)の薬剤又はホメオパシー剤を鼻腔内に投与する非常に有効な手段であることを発見した。
【背景技術】
【0002】
医薬組成物の経鼻投与(intranasal administration)は、薬剤デリバリーの既知の方法である。治療剤を含む乾燥粉末製剤は、鼻粘膜に直接適用され、鼻の内側を覆う上皮細胞に対して、急速で、局所的又は全身的な治療効果を達成する。鼻粘膜を介した全身的なデリバリーは、多数の有利な特性を有する。例えば、医薬的活性剤の鼻粘膜を介した血流中への吸収は急速であり得、例えば、活性剤を経口投与した後の胃腸管を介した吸収よりも速い。鼻腔投与(nasal administration)はまた、ある種の医薬的活性剤の経口投与と関連する問題である、「初回通過」代謝の回避を可能にする。これに加えて、薬剤のより遅い、持続性の放出を提供するために、鼻腔投与を用いることも可能である。
【0003】
しかし、薬剤の経鼻投与には限界がある。第一に、鼻道からの治療剤の吸収、ひいては薬剤の局所的及び/又は全身的な投与は、治療剤の物理化学的特性、投与される製剤の濃度及び体積、沈着の部位及びパターン、並びに投与後の鼻腔からの損失などの因子の結果として制限され得る。薬剤の経鼻投与はまた、環境条件、酵素分解、及び鼻の血流などの鼻の生理機能と関連する因子により制限され得る。
【0004】
これに加えて、鼻への組成物の投与は、鼻道の生理機能に悪影響を及ぼし得る。
【0005】
気道上皮は、通常は、粘液の存在により、脱水、並びに吸入された感染因子及び毒物から保護される。粘液はまた、吸入粒子が肺の繊細(delicate)な肺胞に達するのを妨げるという非常に重要な役割も担う。
【0006】
気道粘液は、タンパク質、酵素、脂質、並びに水及び電解質から構成されるゾル相の複合混合物である。粘液の約95%は水であり、この水は、巨大な糖タンパク質であるムチンを含む粘弾性的なゲル中で束縛されている。埃、花粉、及び他のアレルゲンなどの粒子、並びに細菌及びウイルスなどの感染因子は、鼻道へと吸引される空気に混入している。鼻の外側の部分により、空気中に浮遊する、より大きな粒子の一部をフィルター除去することができる。鼻の内側の部分では、鼻道自体の形状により、「スモークリング」効果を引き起こし、鼻内の気流中に存在する、より小さな粒子及び細菌を即座にきれいな空気から取り除いて分離し、吸引した気流の周辺部で濃縮させる。このことによって、鼻道の内側を覆う粘液に粒子及び感染因子がくっつく一方で、きれいな空気が肺へと吸引されることが可能となる。粘液の表面張力が低い結果として、粒子及び感染因子が粘液により捕捉される場合に、それらはすぐに吸着され、最終的に無害な状態になる。
【0007】
アレルギー性鼻炎及び喘息、並びに吸引アレルゲンと関連する他の病態に罹患した人々は、しばしば、減少量の粘液、又は異常な特性の粘液を有する。これは、これらの病態と少なくとも部分的に関与すると考えられているアレルゲンへの曝露の増加を導くようである。
【0008】
鼻粘液は、重力及び粘液線毛クリアランスにより鼻道から定常的に除去されており、粘液線毛クリアランスにより、鼻道粘膜上に位置する線毛のたたき出し(beating)が、消化器系を介した排除のために、粘液を咽喉へと移動させる。粘液線毛クリアランスによる鼻道からの粘液の除去は、吸入されたアレルゲン及び感染因子に対する、鼻線毛上皮の防御の重要な要素である。アレルギー性鼻炎の罹患者は、高頻度で、異常に遅い又は長期にわたる粘膜線毛クリアランスを有しており、これが、おそらくそれらの病態に寄与しているのだろう。
【特許文献1】英国特許出願公開第2378176号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
既知組成物の経鼻投与は、鼻粘膜の乾燥をもたらし得、繊細な鼻粘膜及び線毛に損傷を与え得る。これは、粘膜線毛クリアランスに悪影響を及ぼし得、それにより、鼻道の健康な状態(well−being)に損傷を与え得る。経鼻投与用組成物に通常含まれる成分は、多くの場合一過性であるとはいえ所望しない刺激(irritation)をもたらし得る。経鼻投与用組成物にはまた、投与された組成物が鼻道内に存在する時間を増加させるための、接着剤などの薬剤が高頻度で含まれる。このような薬剤は、鼻中の粘膜及び線毛に接着する。その際に、前記薬剤は不快感をもたらし得、呼吸に悪影響を及ぼし得る。薬剤の接着はまた、粘膜線毛クリアランスにも再度悪影響を及ぼし、その際に、鼻の正常な機能を妨げる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
しかし、経鼻投与用組成物中、治療剤用ビヒクルとしての粉末セルロースの使用は、驚くべき利点を有することが示された。鼻腔へのHPMCの投与により形成されるゲルは、水蒸気を放出又は吸収でき、それにより、それらが、鼻道中の湿度を調節することが可能となる。鼻道中の湿度が増加すると、ゲルは水蒸気を吸収する。前記湿度が低下すると、ゲルは水蒸気を放出する。これは、ゲルが鼻中の一定の湿度を提供できることを意味する。言い換えると、鼻道内の湿度は、天然粘液の含水量、ひいては天然粘液の粘弾特性に影響を及ぼし、かつ調節する。
【0011】
HPMC粉末は、20℃、2%水溶液中のHPMCの粘度として測定される、それらの粘度に関して一般に分類される。湿度の治療的に有益なレベルは、およそ10〜20 Pa.s(パスカル秒)、好ましくはおよそ13〜17 Pa.s、より好ましくはおよそ14〜16 Pa.s、最も好ましくはおよそ15 Pa.sの粘度を有するHPMCを含む組成物によってもたらされ、前記HPMCの粘度は、好ましくはUbbelohde粘度計を用いて、20℃、2%水溶液の粘度として測定される。
【0012】
粘液の粘弾性は、粘液線毛クリアランスに関与する線毛との相互作用のために重要である。粘液が適切な粘度を有していない場合には、流れやすくなり、鼻孔を介して鼻から滴り出るか、又は咽へと流れ落ちてしまうかのいずれかである可能性が高い。このような流れやすい粘液はまた、フィルターとして効率的に機能することができ難くなり、空気中に浮遊する粒子及び感染因子を効率的に捕捉することができ難くなる。さらに、たたき出す作用を有する線毛は、適切な粘度を有さない粘液を移動させられないだろう。同様に、粘液の粘度があまりにも高い場合には、やはり、たたき出す作用を有する線毛は粘液を移動させられず、粘液が鼻道を詰まらせる傾向にあり、これは、呼吸を困難にさせ得、その一方で、著しく不愉快にもさせ得る。このような高粘度の粘液はまた、粒子及び感染因子をあまり効率的に吸収及び捕捉し得ない。
【0013】
従って、正しい粘液の粘弾性は、粘液線毛クリアランスに必須である。従って、鼻道中の湿度を調節できるグレードのHPMCを含む組成物、及びそれらが鼻道へ投与された場合に形成するゲルは、アレルギー性鼻炎、喘息、及びアトピー性湿疹などの特定のアレルギー状態、細菌及びウイルスなどの吸入された感染因子によりもたらされる感染症、並びに乏しい又は異常な天然粘液産生と関連する病態の治療及び/又は予防に有用である。
【0014】
これに加えて、経鼻投与用組成物中、これらのグレードの粉末セルロースの使用は、他の鼻腔内に適用される組成物と関連する不利益、例えば、鼻粘膜の乾燥、並びに関連する不快感及び刺激などを回避する。
【0015】
実際に、鼻道中の湿度を調節できるHPMCを含む組成物を投与することにより、粘液線毛クリアランスが正常化され得る(すなわち、正常な速度(normal rate)に調整され得る)ことも発見された。
【0016】
アレルギー性鼻炎の罹患者は、多くの場合、より長い粘液線毛クリアランス時間を有する。非侵入性色素方法(non−invasive dye method)を用いてin vivoで行った試験により、アレルギー性鼻炎に罹患した対象における粘液線毛クリアランスに必要な平均時間は、一日に一回、およそ15 Pa.sの粘度を有するグレードのヒドロキシプロピルメチルセルロースを経鼻投与することを6週間続けた後では、39分から18.15分へと減少することが示された。従って、HPMCの経鼻投与により、粘液線毛クリアランスの速度が正常化された。
【0017】
HPMCゲルは鼻道から迅速に除去されると予期される(通常、18分の領域)ことから、粘液線毛クリアランスに対するHPMCのこの効果は、結果として、短時間のみ有効である組成物しかもたらさないと予期されるかもしれない。しかし、これは事実ではなく、驚くべきことに、アレルギー性鼻炎に罹患した対象は、有益な効果を得るために、一日に一回又は二回、HPMCを投与することしか必要としないことを報告した。
【0018】
本発明者らは、現在、粉末HPMCの経鼻投与の利点を利用して、1種以上の治療剤を投与するための、予期できない効果的なビヒクルを提供できることを発見した。粉末組成物が鼻腔に投与された場合に、前記粉末組成物が作用するという方法に起因して、これは驚くべきことである。
【0019】
治療剤は、粉末組成物が鼻道へ投与された場合に形成されるゲル内に捕捉されているだろう。従って、たとえ治療効果があるとしても、ほとんど治療効果を有していない共投与治療剤が予期されるかもしれない。
【0020】
しかし、本発明の組成物中に含まれる治療剤は、治療効果をもたらし、この効果は、前記薬剤が粉末HPMCとともに投与されない場合に観察される効果よりも、実際に有益であり得ることを発見した。HPMCが鼻道に投与された場合に形成されるゲルは、水蒸気、及び共投与された任意の治療剤を徐々に放出する。これは、結果として、投与後最大で24時間まで報告されている治療剤の有利な効果とともに、持続的な治療効果をもたらす。対照的に、従来の経鼻投与用組成物(例えば、ほとんどセルロースを含まないか、又は全くセルロールを含まない、液体組成物又は粉末組成物など)中、活性剤を鼻道に投与すると、典型的には、比較的短期間の治療効果しか提供されない。
【0021】
従って、本発明の第一の側面では、およそ10〜20 Pa.s(パスカル秒)の粘度を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースと1種以上の治療剤とを含む、経鼻用乾燥粉末組成物を提供する。
【0022】
好ましい実施態様において、HPMCの粘度は、およそ13〜17 Pa.s、より好ましくはおよそ14〜16 Pa.s、最も好ましくはおよそ15 Pa.sである。
【0023】
鼻へ投与するための治療剤用ビヒクルとしてのHPMCの使用は、治療剤の放出制御を達成し、かつ粘液線毛クリアランスの正しい機能及び鼻の健康な状態を促進し、その一方で、粘着剤などの追加の薬剤の必要性を避け、かつこれらの使用と関連する刺激及び不快感を回避する。
【0024】
本発明の組成物は、従来の経鼻投与用組成物を超える利点を提供する。既知の経鼻投与用組成物は、典型的には、治療剤の全身血中濃度において、急速かつ一過性の上昇を提供する。対照的に、本発明の組成物による活性剤の持続放出は、一貫した、より低い血中濃度を提供し、これは、ある種の活性剤にとって有益であり、同一又は高められた治療効果を依然として達成しながらも、より少ない用量の薬剤の投与を可能にし得る。より少ない用量の投与は、投与される活性剤の用量サイズと高頻度で関連する副作用を低減又は完全に回避できる。
【0025】
鼻道における、本発明の組成物からの活性剤の持続放出は、ある種の活性剤にとって有益であり、同一又は高められた治療効果を依然として達成しながらも、より少ない用量の薬剤の投与を可能にし得る。これは、投与される活性剤の用量サイズと高頻度で関連する副作用を低減又は完全に回避できる。
【0026】
ある実施態様において、治療剤は、鼻道における局所的な効果を有してよい。別の実施態様において、治療剤は、血流中に吸収されて、全身的な効果を提供してよい。別法として、治療剤は、局所的及び全身的な効果の両方を提供してよい。
【0027】
本明細書で用いられる「治療剤」という用語は、本発明に従った任意の組成物、製剤、又は製品中における、患者(特に、哺乳動物患者)への鼻腔投与に適した任意の活性物質を意味する。
【0028】
本発明の組成物は、鼻腔内に投与された場合に、1種以上の治療剤の持続放出を提供する。好ましくは、治療剤は、30分間、1時間、2時間、4、6、8、10、又は12時間にわたって放出される。好ましくは、組成物は、経鼻投与から、30分間、1時間、2時間、4、6、8、10、又は12時間にわたって治療作用(therapeutic affect)を提供する。
【0029】
特に好ましい実施態様において、治療剤は、医薬品よりもむしろ、薬草の薬剤又はホメオパシー剤である。
【0030】
本明細書で用いられる「ホメオパシー」及び「薬草」という用語は、天然植物又は鉱物源に由来する産物を意味する。
【0031】
本明細書で用いられる「医薬品」という用語は、処方下のみで利用可能な薬剤、又は使用前に、医薬品・医療製品規制庁(the Medicines and Healthcare Products Regulatory Agency)から、有効性、毒性、及び販売の承認を受けることを必要とする薬剤を意味する。
【0032】
多くの人々は、治療及び/又は予防の両方の目的のために、可能な限りにおいて、医薬品を服用することを全く好まず、その代わりに、薬草及び/又はホメオパシー調製物(preparation)の使用を好む。
【0033】
薬草及びホメオパシー調製物の市場は、莫大な産業を構成しており、去年、英国単独で4.5兆(billion)ポンドの総収益をあげた。それにも関らず、薬草/ホメオパシー治療薬の圧倒的多数は、経口又は経皮形態で提供されている。しかし、このような投与方法は、不利益を被る。例えば、錠剤は、ある種の患者にとっては飲み込むことが困難であり得、かつ遅発性の作用を有し得る。さらに、経口投与用治療薬内の活性剤の多くは、それらが胃腸管を介して吸収される前に代謝される。皮膚を介した薬剤デリバリーは、皮膚により吸収され得る分子タイプ及びさらに吸収速度も制限する効果的な隔膜を形成する、角質層の結果として制限され得る。対照的に、上述のとおりの経鼻投与は、投与の効果的な手段を提供できる。
【0034】
さらに、鼻粘膜は、刺激に対して非常に敏感であり、鼻腔投与用治療剤の選択において、毒物学的考慮が主要な制限であることが周知である。薬草又はホメオパシー治療薬は、本発明のデリバリーシステムを用いて治療効果を生じさせるのに必要な濃度において、しばしば、全く毒性を示さないか、又は最小の毒性しか示さない。
【0035】
本発明の組成物中に含まれるべき治療剤には、ホメオパシー又は薬草治療薬であることが、当業者に理解されるものが含まれる。治療剤は、1つ以上の以下の特性を有するホメオパシー又は薬草治療薬であってよい:抗菌及び/又は抗真菌性、抗ウイルス性、抗生物質性、抗炎症性、抗不眠性、認識促進性、又は心臓血管機能に影響を及ぼす特性(例えば、強心特性、抗律動不整若しくは抗狭心特性、血管収縮若しくは血管拡張特性、又は降圧特性など)。
【0036】
特定の治療剤には以下が含まれてよい:アスピリン、セントジョーンズワート(St John's Wort)、バレリアン抽出物(セスキテルペン、バレリアン酸、イリドイド、バレポトリエート、アルカロイド、フラノフラン(furanofuran)リグナン、アミノ酸、γ−アミノ酪酸、チロシン、アルギニン、グルタミン、又はこれらの任意の組み合わせが含まれてよい)、イチョウ葉エキス(フラボノイド、ギンコライド及びビロバライド、又はこれらの任意の組み合わせが含まれてよい)、ビタミンA、E、若しくはC、ニンニク、ライム、1種以上のプロバイオティクス、生姜、エラグ酸、エキナセア、スウェーデン花粉、ブラックウォールナットの外皮、レモングラス、ヨモギ、グレープフルーツ種子抽出物、ブロッコリー、消化酵素、ヒアルロン酸、ゲンゲ(astralgus)、ローズヒップ、リンドウ、オトギリソウ、トチノキ、朝鮮人参、緑茶、ホスファチジルセリン、ホスファチジルコリン、シトラス、ピクノジェノール、カフェイン、ケルセチン(quercitin)、コエンザイムQ10、ノコギリソウ、ティーツリー、ノニジュース(モリンダ・シトリフォリア)、リパーゼ、フルクト−オリゴ糖、イヌリン、ブラッククミン(ニゲラ・サティバ)、又はアリシン。
【0037】
本発明の組成物には、2種以上の治療剤が含まれてよいが、但し、組み合わせた薬剤は、貯蔵及び使用条件下で互いに適合するものである。
【0038】
本発明の組成物には、さらに以下が含まれてよい:二クロム酸カリウム(kali bichromium);増粘剤、例えば、ガム又はスターチ;崩壊剤、例えば、デンプングリコール酸ナトリウム(sodium starch glycolate)又は架橋ポビドン(cross−linked povidone);放出剤(release agent)、例えば、ステアリン酸マグネシウム;乳化剤;界面活性剤;医薬として許容可能な賦形剤;アンチケーキング剤;造粒剤;保存料;所望し得る着色剤;又はこれらの任意の組み合わせ。
【0039】
本発明の好ましい実施態様において、粉末組成物には、刺激を生じさせ得るか、又は線毛運動に影響を及ぼし得る、経鼻投与用組成物(乾燥粉末又は溶液)で多くの場合に用いられる成分、例えば、プロピレングリコールなどの溶媒、シクロデキストリン若しくはグリコシドなどの吸収促進剤、又はキトサンなどの粘膜接着剤(mucoadhesive)などが含まれない。このような添加物の使用は、これらが、不快感を生じさせ得、鼻の正常な機能を妨げて、呼吸に悪影響を及ぼし得るので、望ましくなり得ない。
【0040】
本発明の組成物には、着香料又はシグナル伝達物質(signaling agent)又は添加物、例えば、メントール、ミント、スペアミント、ペパーミント、ユーカリ、ラベンダー、シトラス、レモン、ライム、又はこれらの任意の組み合わせがさらに含まれてよい。
【0041】
組成物中にこのような着香料又はシグナル伝達物質を含めることにより、使用時に、心地良い感覚フィードバックを患者に提供することができ、これにより、投与が生じていることを患者に認識させることができ、患者の投与の記憶を助け得る。このような因子は、患者のコンプライアンスを高めることができ、好ましい心理的効果を提供できる。
【0042】
さらに、着香料を含めることにより、本発明の粉末組成物の予防又は治療効果が高まることも発見した。より詳細には、ミント及びメントールなどを含む組成物は、シグナル伝達物質を含めない本発明の組成物よりも、アレルギー性鼻炎及び喘息の治療において、より効果的であると考えられる。
【0043】
着香料又はシグナル伝達物質はまた、対象に対して、有益な心理的効果を有してもよい。例えば、ミントを含む本発明の製剤は、気道を広げ、より容易な呼吸を可能にする効果を有するようである。これは、製剤を喘息罹患者の治療に用いた場合に、特に有用であり得る。ある種の患者、特に神経質な患者は、不規則なパターンで呼吸をする傾向にある。ミントなどの薬剤を含むHPMC製剤の投与は、正常な呼吸パターンを取り戻すのに有効であり得る満足感を提供できる。
【0044】
本発明のある実施態様において、HPMCとシグナル伝達物質と治療剤との組み合わせ物を、連続又は同時投与のために提供する。HPMC、シグナル伝達物質、及び治療剤は、単一の調製物中に一緒に含まれてよい。別法として、HPMC、シグナル伝達物質、及び治療剤を、連続投与のために、別々の調製物で提供してもよい。投与が連続的である場合には、HPMC及び/又はシグナル伝達物質を、治療剤の前若しくは後、又はその両方において投与してよい。同様に、治療剤を、HPMC及び/又はシグナル伝達物質の前若しくは後、又はその両方において投与してもよい。
【0045】
粉末HPMC及び/又はシグナル伝達物質を、治療剤と同一の調製物中に含める場合には、この調製物は、好ましくは、粉末の形態である。粉末HPMC及び/又はシグナル伝達物質を、治療剤とは異なる調製物中に含める場合には、HPMCは、好ましくは、粉末の形態である。しかし、治療剤は任意の形態であってよく、好ましくは、鼻腔投与に適した形態、例えば、粉末、液体又はクリーム又はゲルの形態などである。
【0046】
本発明の好ましい実施態様において、粉末HPMCは、組成物の総重量の少なくとも50%、好ましくは少なくとも60、70、80、90、95、97、又は99%を構成する。
【0047】
本発明の好ましい実施態様において、組成物中の治療剤と粉末HPMCとの比(重量)は、0.1:9.9〜1.9:8.1、0.2:9.8〜1.8:8.2、0.5:9.5〜1.5:8.5、0.6:9.4〜1.4:8.6、0.8:9.2〜1.2:8.8、1.0:9.0〜1.5:8.5、1.5:8.5〜2.0:8.0、2.0:8.0〜2.5:7.5、2.5:7.5〜3.0:7.0、3.0:7.0〜3.6:6.4、3.6:6.4〜4:6.0、又は2.5:7.5〜3.6:6.4である。より好ましくは、比は、2.5:7.5〜3.6:6.4である。最も好ましくは、比は、3.3:6.7である。
【0048】
本発明の好ましい実施態様において、シグナル伝達物質は、組成物の総重量の最大で50%、好ましくは最大で40、30、20、10、5、2、1、0.5、又は0.25%を構成する。
【0049】
本発明の別の実施態様において、HPMCと治療剤との組み合わせ物を、連続又は同時投与のために提供する。HPMC及び治療剤は、単一の調製物中に一緒に含まれてよい。別法として、HPMC及び治療剤を、連続投与のために、別々の調製物で提供してもよい。投与が連続的である場合には、HPMCを、医薬的活性剤の前及び/又は後に投与してよい。別法として、活性剤を、HPMCの前及び/又は後に投与してよい。
【0050】
HPMC及び治療剤を、別々の調製物中に含める場合には、治療剤は、粉末、液体又はクリーム又はゲルを含む、経鼻投与に適した任意の形態であってよい。
【0051】
本発明の側面に従って、同時又は連続投与用の、HPMC粉末組成物と治療剤とを含むキットを提供する。
【0052】
本発明の別の側面に従って、同時又は連続投与用の、HPMC粉末組成物とシグナル伝達物質と治療剤とを含むキットを提供する。
【0053】
リボンブレンダー(ribbon blender)、又は類似タイプのブレンダーを用いて、およそ15〜20分間、粉末成分を一緒にブレンドしてよい。混合時間は、粉末の含水量及び適合性によって決まる。成分は、好ましくは、5%未満の含水量を有しており、含水量は、米国薬局方−米国医薬規格(the United States Pharmacopeia and National Formulary;USP/NF)の乾燥減量法を用いて確認される。
【0054】
本発明の組成物を投薬するのに適したデバイスが、英国特許出願公開第2378176号明細書に開示されている。そこに開示されているボトルは、投薬する粉末の量を制限するための、非常に単純なメカニズムを用いている。天然粘液を高めるために鼻道へデリバリーされる粉末セルロースの量は、正確に制御される必要はないが、あまりにも多くの粉末を投与すると、不快感を伴う鼻道の閉塞がもたらされる可能性があり、鼻による呼吸が困難になる可能性さえある。
【0055】
本発明の組成物は、好ましくは、鼻孔あたり、約1 mg〜約10 mgの量で投与する。好ましくは、用量は、約2.5 mg〜約7.5 mg、3 mg〜約7 mg、約4 mg〜約6 mg、又は約5 mgである。
【0056】
以下の実施例により、本発明をさらに例証するが、この実施例は、本発明を多少なりとも限定するものではない。
【0057】
[実施例1]
【0058】
【表1】

【0059】
(製造方法)
関連する分析証明書(Certificate of Analysis)を用いて、全ての物質を確認した。成分を個別に検量した。ついで、リボンブレンダー又は類似タイプのブレンダーを用いて、成分を20分間混合した。ついで、使用前に、ブレンドした粉末を密閉容器中に分注(dispense)した。
【0060】
[実施例2]
【0061】
【表2】

【0062】
(製造方法)
関連する分析証明書を用いて、全ての物質を確認した。成分を個別に検量した。ついで、リボンブレンダー又は類似タイプのブレンダーを用いて、成分を20分間混合した。ついで、使用前に、ブレンドした粉末を密閉容器中に分注した。
【0063】
[実施例3]
【0064】
【表3】

【0065】
(製造方法)
関連する分析証明書を用いて、全ての物質を確認した。成分を個別に検量した。ついで、リボンブレンダー又は類似タイプのブレンダーを用いて、成分を20分間混合した。ついで、使用前に、ブレンドした粉末を密閉容器中に分注した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
およそ10〜20 Pa.sの粘度を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースと、1種以上の治療剤とを含む、経鼻用乾燥粉末組成物。
【請求項2】
前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースの粘度が、およそ13〜17 Pa.s、より好ましくはおよそ14〜16 Pa.s、最も好ましくはおよそ15 Pa.sである、請求項1記載の乾燥粉末組成物。
【請求項3】
前記治療剤が、経鼻投与時に全身的な効果を有する、請求項1又は2記載の乾燥粉末組成物。
【請求項4】
前記組成物が、前記治療剤の持続的な放出を提供する、請求項1乃至3のいずれか一項記載の乾燥粉末組成物。
【請求項5】
前記治療剤が、薬草の薬剤又はホメオパシー剤である、請求項1乃至4のいずれか一項記載の乾燥粉末組成物。
【請求項6】
前記治療剤が、1つ以上の以下の特性:抗菌及び/又は抗真菌性、抗ウイルス性、抗生物質性、抗炎症性、抗不眠性、認識促進性、又は心臓血管機能に影響を及ぼす特性、を有する、請求項5記載の乾燥粉末組成物。
【請求項7】
前記治療剤が、アスピリン、セントジョーンズワート、バレリアン抽出物(セスキテルペン、バレリアン酸、イリドイド、バレポトリエート、アルカロイド、フラノフランリグナン、アミノ酸、γ−アミノ酪酸、チロシン、アルギニン、グルタミン、又はこれらの任意の組み合わせが含まれてよい)、イチョウ葉エキス(フラボノイド、ギンコライド及びビロバライド、又はこれらの任意の組み合わせが含まれてよい)、ビタミンA、E、若しくはC、ニンニク、ライム、1種以上のプロバイオティクス、生姜、エラグ酸、エキナセア、スウェーデン花粉、ブラックウォールナットの外皮、レモングラス、ヨモギ、グレープフルーツ種子抽出物、ブロッコリー、消化酵素、ヒアルロン酸、ゲンゲ、ローズヒップ、リンドウ、オトギリソウ、トチノキ、朝鮮人参、緑茶、ホスファチジルセリン、ホスファチジルコリン、シトラス、ピクノジェノール、カフェイン、ケルセチン、コエンザイムQ10、ノコギリソウ、ティーツリー、ノニジュース(モリンダ・シトリフォリア)、リパーゼ、フルクト−オリゴ糖、イヌリン、ブラッククミン(ニゲラ・サティバ)、アリシン、又はこれらの任意の組み合わせである、請求項5又は6記載の乾燥粉末組成物。
【請求項8】
前記粉末セルロースが、前記組成物の総重量の少なくとも50%、好ましくは少なくとも60、70、80、90、95、97、又は99%を構成する、請求項1乃至7のいずれか一項記載の乾燥粉末組成物。
【請求項9】
前記治療的活性剤と粉末セルロースとの比が、2.5:7.5〜3.6:6.4である、請求項1乃至8のいずれか一項記載の乾燥粉末組成物。
【請求項10】
シグナル伝達物質をさらに含む、請求項1乃至9のいずれか一項記載の乾燥粉末組成物。
【請求項11】
前記シグナル伝達物質が、メントール、ミント、スペアミント、ペパーミント、ユーカリ、ラベンダー、シトラス、レモン、ライム、又はこれらの任意の組み合わせである、請求項10記載の乾燥粉末組成物。
【請求項12】
前記シグナル伝達物質が、前記組成物の総重量の最大で50%、好ましくは最大で40、30、20、10、5、2、1、0.5、又は0.25%を構成する、請求項10又は11記載の組成物。
【請求項13】
刺激物又は他の添加物を実質的に含まない、請求項1乃至12のいずれか一項記載の組成物。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれか一項記載の乾燥粉末組成物の鼻道へのデリバリーに適した、前記組成物を含むデバイス。

【公表番号】特表2008−515870(P2008−515870A)
【公表日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−535251(P2007−535251)
【出願日】平成17年10月10日(2005.10.10)
【国際出願番号】PCT/GB2005/050179
【国際公開番号】WO2006/040596
【国際公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【出願人】(505271138)ナサリーズ・ピーピーエム・リミテッド (2)
【Fターム(参考)】