説明

結像装置及び顕微鏡装置

【課題】光軸方向に合焦位置の異なる複数の標本断面の画像を観察するため、装置の製造や構成が簡単で操作の容易な結像装置及び顕微鏡装置を提供する。
【解決手段】結像装置10を備えた顕微鏡装置100は、標本Sからの光を集光する機能を有する対物レンズL1と、この対物レンズL1から出射した光を結像する第2対物レンズL2と、第2対物レンズから出射した結像光束を略平行光束に変換するリレーレンズL3,L4と、第2対物レンズL2及びリレーレンズL3,L4を介して略平行光束中に形成された対物レンズL1の瞳の共役像の近傍に設けられ、当該略平行光束を少なくとも2以上の光束に分割する光束分割素子20と、光束分割素子20で分割された光束の各々を結像するとともに、当該光束毎に結像する位置を光軸方向に変化させる位置可変結像素子としての結像レンズL5a〜L5cと、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結像装置及び顕微鏡装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光軸方向に合焦位置の異なる複数の標本断面の画像を同時観察する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1に開示されている結像装置は、光束分割手段を像面近傍に配置しており、瞳面での分割については提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−20298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、結像光束中で行う必要のある像面近傍での光路分割には、光路を分割する手段、及び、光路長差を設ける手段の双方において製造時や操作時に制約が多くなるという課題があった。
【0005】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、光軸方向に合焦位置の異なる複数の標本断面を同時観察する際に、結像光束中で行っていた従来の方法における、光束分割や適切な光路長差の設定手段の複雑かつ困難さを解消し、設計等の自由度を大きくして、構成が簡単で操作が容易な結像装置及びこの結像装置を有する顕微鏡装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明に係る結像装置は、標本からの光を集光する対物レンズと、この対物レンズから出射した光を結像する第2対物レンズと、第2対物レンズから出射した結像光束を略平行光束に変換するリレーレンズと、第2対物レンズ及びリレーレンズを介して略平行光束中に形成された対物レンズの瞳の共役像の近傍に設けられ、当該略平行光束を少なくとも2以上の光束に分割する光束分割素子と、光束分割素子で分割された光束の各々を結像する機能を有するとともに、当該光束毎に、結像する位置を光軸方向に変化させることができる位置可変結像素子と、を有することを特徴とする。
【0007】
このような結像装置において、光束分割素子は、一部の光を透過し、残りの光を反射するハーフミラーを用いて光束を分割することが好ましい。あるいは、光束分割素子は、所定の波長の光を透過し、残りの波長の光を反射するダイクロイックミラーを用いて光束を分割することが好ましい。
【0008】
また、このような結像装置において、位置可変結像素子は、分割された光束の各々の光路上に設けられ、少なくとも一つは光路上に固定され、残りは光路上を光軸に沿って移動可能な結像レンズを有することが好ましい。
【0009】
このとき、光束分割素子は、略平行光束を3つの光束に分割するように構成され、分割された光束の各々に設けられた結像レンズの一つは光路上に固定され、結像レンズの残りの2つは光路上を光軸に沿って移動可能なように構成されることが好ましい。
【0010】
さらに、位置可変結像素子は、光路上に固定された結像レンズを挟んで、残りの2つの結像レンズが互いに反対方向に光路上を移動するように構成されることが好ましい。
【0011】
あるいは、位置可変結像素子は、分割された光束の全てが透過するように配置され、分割された光束の各々を結像する機能を有する1つの結像レンズと、光束の少なくとも一つの光路長を変化させる結像位置調整部材と、を有することが好ましい。
【0012】
また、このような結像装置は、光束分割素子で分割された光束のうち、いずれか一つを基準となる光束とし、基準となる光束以外の光束の光路上の各々に、当該光束を基準となる光束に近づける光束折曲部材が設けられていることが好ましい。このとき、光束折曲部材は、プリズムあるいはハービングガラスで構成されていることが好ましい。
【0013】
あるいは、光束折曲部材は、光束分割素子内に設けられ、基準となる光束以外の光束の結像位置を、基準となる光束の結像位置に近づけるように反射する反射ミラーで構成されていることが好ましい。
【0014】
また、本発明に係る顕微鏡装置は、上述の結像装置のいずれかを有して構成される。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る結像装置、及び、この結像装置を有する顕微鏡装置を以上のように構成すると、光軸方向に合焦位置の異なる複数の標本断面を同時観察する際に、平行光束中の瞳共役面を利用するため、従来の方法における、光束分割や適切な光路長差の設定手段の複雑かつ困難さを解消し、設計等の自由度が大きくなり、装置の製造や構成が簡単で、操作の容易なものを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1の実施形態に係る結像装置を備えた顕微鏡装置の構成を示す説明図である。
【図2】第1の実施形態において、3光束の像面位置間隔を調整するため、結像レンズと撮像素子との間にプリズムを配置した状態を示す説明図である。
【図3】第1の実施形態において、3光束の像面位置間隔を調整するため、結像レンズと撮像素子との間にハービングガラスを配置した状態を示す説明図である。
【図4】光軸方向の合焦位置が異なる3つの取得画像を示す説明図である。
【図5】第2の実施形態に係る結像装置を備えた顕微鏡装置の構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施形態について、図面を参照して説明する。光軸方向に合焦位置が異なる標本断面を同時観察するには、標本からの光を対物レンズで集光し、その1つの光束を分割した後、各々の光束に光路長差を生じさせ、共通の撮像素子に結像させる必要がある。これに対して、異なる複数の撮像素子を使用するのは、構成的には容易となる面もあるが、コストアップ要因となり、また、画像取得後の処理等の複雑さを勘案すると好ましくない。そこで、本実施形態では、1つの撮像素子を使用し、撮像素子の面内を分割して合焦位置が異なる複数の画像を同時取得することを提案するものである。
【0018】
そのような目的を達成するため、従来の方法は結像光束中に光学素子を配置して実施していたが、光路分割や光路長差設定の手段として複雑な構成となり、撮像素子が小さい場合は光学素子の加工面でも困難であった。以降の説明では、これらの困難さを解決するため、再結像リレーレンズを利用し、対物レンズ瞳面の共役面を、平行系で構成されたリレーレンズの平行光束中に設け、瞳面で光束分割をすることで対応する。再結像リレーレンズを新規に設けるのでは、装置として却って複雑で大型になってしまうが、倒立顕微鏡装置においては、すでに有している機能であり、新規に必要とはされない。
【0019】
(第1の実施形態)
まず、図1を用いて、第1の実施形態に係る結像装置10を備えた倒立型顕微鏡装置100の構成について説明する。この顕微鏡装置100は、光源から放射された照明光を標本に照射するための図示しない照明装置と、この照明光により標本から出射する観察光を結像する結像装置10と、この結像装置10で結像された標本の像を検出する撮像素子30を有する撮像装置と、から構成される。
【0020】
結像装置10は、標本面Sからの光束を略平行光束に変換する対物レンズL1と、この対物レンズL1から出射した略平行光束を集光して像面Z1に標本面Sの一次像を形成する第2対物レンズL2と、この第2対物レンズL2からの光束を反射する第1反射ミラーM1と、第2対物レンズL2からの光束を略平行光束に変換するリレーレンズL3,L4と、リレーレンズL3からの光束を反射する第2反射ミラーM2と、第2対物レンズL2及びリレーレンズL3,L4を介して、対物レンズL1の瞳面P1と共役な位置に形成される瞳面P2近傍に配置され、光束を、透過する光と反射する光の割合が「2:1」となるように透過または反射する第1ハーフミラーHM1と、この第1ハーフミラーHM1で反射した光束をさらに反射する第3反射ミラーM3と、第1ハーフミラーHM1を透過した光束の光路上に配置され、透過する光と反射する光の割合が「1:1」となるように透過または反射する第2ハーフミラーHM2と、この第2ハーフミラーHM2で反射された光束をさらに反射する第4反射ミラーM4と、第2ハーフミラーHM2を透過した光束、並びに、第3反射ミラーM3及び第4反射ミラーM4で反射された光束を撮像素子30の方向に反射する第5反射ミラーM5と、この第5反射ミラーM5及び撮像素子30間の、分割された光束の各々の光路上に配置され、標本の像を像面Z2に結像する3枚の結像レンズL5a,L5b,L5cと、から構成されている。なお、本明細書中では、第1ハーフミラーHM1、第2ハーフミラーHM2、第3反射ミラーM3、及び、第4反射ミラーM4を、まとめて光束分割素子20と呼ぶ。
【0021】
この第1の実施形態に係る顕微鏡装置100は、基本的には対物レンズL1に水浸対物レンズを使用したものであり、生体標本が主な観察対象である。この観察対象となる標本は、図示しないステージ上に載置されたシャーレ内に、培養液とともに収容され、標本の上面に、カバーグラスが貼り付けられ、このカバーグラスと対物レンズL1との間は、液浸用の浸液が満たされている。なお、この第1の実施形態における結像装置10は倒立型顕微鏡装置に適用されているが、本願がこれに限定されることはなく、正立型顕微鏡装置などの何れの顕微鏡装置にも適用することが可能である。また、生物標本観察用、その他標本観察用の顕微鏡装置等にも適用することが可能である。また、撮像素子30は、CCDやCMOS等を用いることができ、本実施形態では、2/3型CCDを用いている。この2/3型CCDは、顕微鏡装置用として一般的に使用され、何れのポートにも取り付けが可能であり、コスト面で有利であるとともに、高感度であるため蛍光に代表される暗い標本にも対応できるため好適に使用できる。なお、本実施形態では、撮像素子30として、この2/3型CCDを1つのみ使用し、同一撮像面内を分割して3つの像を結像させているが、2以上の撮像素子30を用いても良く、コストは高くなるが、目的に応じて標本断面の画像を扱う際の多様性が向上する。なお、これらの説明は、以降の実施形態においても同様である。
【0022】
以下、第1の実施形態の顕微鏡装置100を用いて、光軸方向に異なる合焦位置の複数の標本断面の画像を同時取得する仕組みについて説明する。図示しない照明装置により照明された標本(標本面S)からの光束は、図1に示すように、対物レンズL1で略平行光束となり、第2対物レンズL2により集光され第1反射ミラーM1を経て、像面Z1に一次像を結像させる。この一次像(像面Z1)は、リレーレンズL3,L4、及び、第2反射ミラーM2により再び略平行光束となる。なお、この結像装置10において、光束分割素子20及び第5反射ミラーM5を用いず、標本面Sの通常の観察を行う場合には、リレーレンズL4からの平行光束は、双眼鏡筒内の結像レンズL7により、第6反射ミラーM6を経て観察用二次像面Z4に結像し、この二次像面Z4に結像された像を図示されていない接眼レンズにより観察する。
【0023】
この顕微鏡装置100において、対物レンズL1の瞳面P1の共役面(瞳面P2)が、第2対物レンズL2及びリレーレンズL3,L4により形成される。ここで、リレーレンズL4から結像レンズL5a,L5b,L5cまでの間は、上述したように略平行光束である。そして、観察光束は、光束分割素子20に入射し、瞳面P2近傍に配置された第1及び第2ハーフミラーHM1,HM2、並びに、第3及び第4反射ミラーM3,M4により、3つの平行光束に分割される。上述のように、まず、第1ハーフミラーHM1により「2:1」に分割され、「1」の反射光束はさらに第3反射ミラーM3により反射され、「2」の透過光束は第2ハーフミラーHM2で今度は「1:1」に分割される。そして、「1」の透過光束はそのまま進み、他の「1」の反射光束は第4反射ミラーM4で反射されて、光量比「1:1:1」となった3本の光束に分割される。さらに、これらの光束は共通の第5反射ミラーM5で反射され、各々の光軸上に配置された結像レンズL5a,L5b,L5cで像面Z2に各々結像される。
【0024】
なお、3本の光束の結像位置に合焦位置差を設けるため、図1に示すように、中央の光束(2)の光路を基準光路とし、この基準光路の結像レンズL5bを光軸上に固定し、その位置を基準の位置「0」とした場合、他の光束(1)、(3)の光路上の結像レンズL5a,L5cを光軸方向に移動させて位置をずらす。この場合、第5反射ミラーM5側を「+」、撮像素子30側を「−」とした場合、結像レンズL5aの位置が「+d」、結像レンズL5cの位置が「−d」となるように設定する。各結像レンズL5a〜L5cは、同一の焦点距離のレンズを用いるので、像面位置が、「+d」、「0」、「−d」となる3つの像を同一の撮像素子30上に得ることができる。つまり、光束(2)の光路上の結像レンズL5bの像側の焦点面に撮像素子30の撮像面を配置した場合、同一撮像素子30上に像面位置で「d」離れた軸上位置に相当する合焦位置の像が得られる。例えば、中央の画像の標本面Sにおける位置を「0」とした場合(すなわち、中央の画像は標本面Sと共役である)、右画面は標本面Sに対して「+δ」位置の画像(光束(1)の像)、中央画面は標本面Sに対して「0」位置の画像(光束(2)の像)、左画面は標本面Sに対して「−δ」位置の画像(光束(3)の像)となる。このように、この第1の実施形態では、結像レンズL5a〜L5cが位置可変結像素子を構成している。なお、「d」と「δ」との関係は、対物レンズL1の倍率に依存する。また、図4に、光軸方向の合焦位置が異なる3つの画像が取得された状態を示す。
【0025】
この結像レンズL5bに対する結像レンズL5a,L5cの位置の差「d」を可変とすることで、標本面Sに対する合焦位置差「δ」を任意に変えることが可能となる。また、「d」の変化は、結像レンズL5a,L5cを光軸方向に移動させるという簡単な方法で達成できる。なお、以上の説明では結像レンズL5bを光軸上に固定したが、3つの結像レンズL5a〜L5cの全てを光軸上で移動可能としてもよい。
【0026】
以上のように、第1の実施形態に係る顕微鏡装置100に設けられた結像装置10は、光軸方向に合焦位置の異なる複数の標本断面を同時観察する際に、平行光束中の瞳共役面を利用するため、従来の方法における、光束分割や適切な光路長差の設定手段の複雑かつ困難さを解消し、設計等の自由度が大きくなり、製造や構成が簡単で、操作が容易となる。その結果、最適な合焦位置差を得ることができ、高い結像性能を得て、所望の標本断面の高精度な画像を撮影することができる。
【0027】
なお、上記第1の実施形態では、像面Z2に結像された3つの像の大きさと撮像素子30の大きさとが一致しているので、光軸間隔の調整などの対応は特に必要はない。しかし、前述の通り、一般に使用される撮像素子30は、2/3型で横方向の撮像サイズが8.8mmと小さいので、撮像素子30の大きさに応じた対応が必要となる。図2及び図3は、その光軸間隔調整手段として、光束折曲部材40,40′を設けたものであり、両側の光束、すなわち、光束(1)及び(3)の光軸間隔を撮像素子30のサイズにマッチするように調整するものである。
【0028】
図2では、光束折曲部材40として、プリズムS1a,S1bを用いている。このプリズムS1a,S1bは、光軸に対して略垂直に配置されて光束を透過させる入射面aと、この入射面aから光軸に略平行に入射した光束を光軸方向にこの光軸に対して略垂直に反射する第1の反射面bと、この反射された光束を再度元の光軸方向と略平行方向に反射する反射面cと、この光軸方向の光束を通過させて撮像素子30の方向に射出させる射出面dとから構成される。そして、プリズムS1aを、光束(1)の光路上に、プリズムS1bを、光束(3)の光路上に、光束(2)を挟んで対称に配置している。光束(1)は、結像レンズL5aで集光された後、プリズムS1aの入射面aからプリズムS1a内に入射する。この入射した光束(1)は、第1の反射面bにより光軸間隔を狭める方向(基準となる光束(2)の光軸方向)に反射され、第2の反射面cにより、再び反射されて光束(2)の光軸方向に略平行となり、射出面dから射出して像面Z2に結像する。一方、光束(3)は、同様に、結像レンズL5cで集光された後、プリズムS1bの入射面aからプリズムS1b内に入射し、第1の反射面bにより光軸間隔を狭める方向に反射されるとともに、第2の反射面cにより、再び反射されて光束(2)の光軸方向に略平行となり、射出面dから射出して像面Z2に結像する。したがって、光束(1)及び(3)の光軸間隔を撮像素子30のサイズにマッチさせて結像させることができる。この場合、光軸間隔は、プリズムS1a,S1bの第1の反射面bと第2の反射面cとの間隔、すなわち、プリズムS1a,S1bの厚みに依存する。この厚みを変化させることで、光軸間隔を任意に狭めることができる。
【0029】
図3では、光束折曲部材40′として、平行平面板状のハービングガラスS2a,S2bを光束(1)と光束(3)との光路上にそれぞれ配置している。このハービングガラスS2a,S2bは、特に限定はなく、従来公知の何れのものを用いてもよく、光束の入射する入射面eと、光束の光軸を所定の方向に傾斜させる光路fと、傾斜した光軸を像面Z2方向に射出させる射出面gとを有して構成される。なお、入射面eと射出面gとは略平行に形成されている。この図3の例では、ハービングガラスS2a,S2bを、結像レンズL5a,L5c側が広幅で、像面Z2側が狭幅のハの字状となって、光軸(1)及び(3)が所定の光軸シフト量となるよう傾けて線対称に配置している。このような構成では、入射面eからハービングガラスS2a,S2b内に入射した光束(1)及び(3)が、光路fを通過する際に、光路fの傾斜方向に沿って、中央の光束(2)の光軸方向に向かって導かれ、光軸間隔が狭まる。そして光軸間隔が狭まった光束(1)、(3)は、射出面gから光束(2)と略平行に光軸方向に進み、像面Z2に結像する。
【0030】
以上のように、この第1の実施形態に係る顕微鏡装置100に設けられた結像装置10は、光軸間距離の調整も比較的容易に行えるため、撮像素子30の大きさへの対応も可能となる。なお、第1の実施形態では、光束分割を瞳面で行っているため、基準光路は全視野の光束が利用可能である。そのため、3分割の必要がなく、撮像素子30全面で画像取得を行いたい場合には、撮像素子30近傍に設けている光束折曲部材40,40′を光路から除くことで対応できる。さらに、全光量を利用する場合は、光束分割素子20の3分割用の第1及び第2ハーフミラーHM1、HM2を光路から除けばよい。
【0031】
また、光束を3分割する具体的方法は、使用する撮像素子30のサイズに大きく影響される。従来のように結像光束中で行っている場合は、光束分割素子と光路長差の設定は、撮像素子30のサイズで構成が全く異なるため、撮像素子30のサイズに対応した構成で、それぞれ製造する必要があり複雑で困難である。しかし、本実施形態では、光束折曲部材40,40′のみの交換で対応することができ、製作や構成が簡単で操作も容易である。また、3分割した撮像素子30の各部への他光路からの干渉を防ぐため、照明装置(照明光学系)の視野絞り面に固定絞りを設けるのが有効である。
【0032】
また、第1の実施形態では、第3及び第4反射ミラーM3,M4、並びに、第1及び第2ハーフミラーHM1,HM2からなる光束分割素子20を用いて光束を3つに分割しているが、本願はこれに限定されることはなく、例えば、ダイクロイックミラーやダイクロイックフィルターを用いて、各標本断面からそれぞれ発生する異なる光の波長によって光束を分割してもよい。これにより、標本面Sを、異なる波長の光により同時に観察することができる。すなわち、蛍光観察において発生する異なる波長の蛍光による像を同時に観察することができる。さらに、光束の分割数は3に限定されない。この構成は、以降の実施例においても同様である。
【0033】
(第2の実施形態)
次に、図5を参照して第2の実施形態に係る結像装置210を備えた顕微鏡装置200の構成について説明する。図5に示すように、この第2の実施形態に係る顕微鏡装置200の基本構成は、第1の実施形態と同様の構成を有しており、光源から放射された照明光を標本に照射するための図示しない照明装置と、この照明光により標本から出射する観察光を結像する結像装置210と、この結像装置210で結像された標本の像を検出する撮像素子30を有する撮像装置とから構成される。なお、第1の実施形態と同一の部材には、第1の実施形態と同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0034】
結像装置210は、対物レンズL1と、第2対物レンズL2と、第1反射ミラーM1と、第2反射ミラーM2と、リレーレンズL3,L4と、光束分割素子220と、第5反射ミラーM5と、結像レンズL6と、結像位置調整部材50と、結像レンズL7と、第6反射ミラーM6と、接眼レンズ(図示せず)とを有している。なお、結像レンズL7、第6反射ミラーM6及び図示しない接眼レンズは図示しない双眼鏡筒に収納されている。
【0035】
第2の実施形態は、このように、第1の実施形態とほぼ同様の構成を有しているが、結像レンズL5a〜L5cに代え、1つの結像レンズL6を使用し、この結像レンズL6と像面Z3との間に、結像位置を所定の距離だけずらすための、結像位置調整部材50を配置している。すなわち、この第2の実施形態では、結像レンズL6と結像位置調整部材50とが、位置可変結像素子を構成している。また、光束分割素子220の構成も第1の実施形態とほぼ同様の構成であるが、第3及び第4反射ミラーM3,M4の配置角度が異なっている。詳細は、後述する。当該光束分割素子220は、第2対物レンズL2及びリレーレンズL3,L4により形成された瞳面P2の近傍に配置され、光束を、透過する光と反射する光との割合が「2:1」となるように透過または反射する第1ハーフミラーHM1と、この第1ハーフミラーHM1で反射された光束(図5に(4)で示した光束)を反射する第3反射ミラーM3と、第1ハーフミラーHM1を透過した光束の光路に配置され、光束を、透過する光と反射する光との割合が「1:1」となるように透過または反射する第2ハーフミラーHM2と、この第2ハーフミラーHM2で反射された光束(図5に(6)で示した光束)を反射する第4反射ミラーM4と、から構成されている。また、第2ハーフミラーHM2を透過した光束は、図5に(5)で示している。
【0036】
ここで、第2の実施形態において、第1の実施形態と最も異なる構成部分は、前述の通り第3及び第4反射ミラーM3,M4の配置角度である。第1の実施形態の第3及び第4反射ミラーM3,M4の反射面は、互いに対向する第1及び第2ハーフミラーHM1,HM2の透過・反射面と略平行に配置しているが、第2の実施形態の第3及び第4反射ミラーM3,M4は、光束(5)の光軸を中心として、線対称に、それぞれ所定の角度だけ外方向に傾けて配置されている。そのため、第2ハーフミラーHM2を透過した光束(5)の光路は変化しないが、第3反射ミラーM3で反射された光束(4)及び第4反射ミラーM4で反射された光束(6)は、光束(5)の光軸を中心に、互いに線対称に傾いた状態で平行光束に設定される。すなわち、逆ハの字状に広がりながら反射ミラーM5方向に進む。
【0037】
そして、3つの光束(4)〜(6)は共通の第5反射ミラーM5で反射された後、共通の結像レンズL6に入射する。3つの光束(4)〜(6)は、それぞれ光軸の傾きが異なるので、撮像面Z3の異なる位置に3つの像として結像し、第1の実施形態と同様の効果が得られる。また、3つの像の間隔は、第3及び第4反射ミラーM3,M4の角度設定で調節できる。すなわち、撮像素子30が大きく、像間隔を広くできる場合は、第3及び第4反射ミラーM3,M4の傾斜角度を大きくし、反対に、撮像素子30が小さく、像間隔をあまり広くできない場合は、第3及び第4反射ミラーM3,M4の傾斜角度を小さくする。このように、光束分割素子220を構成する第3及び第4反射ミラーM3,M4が光束折曲部材の機能を有し、使用する撮像素子30のサイズに応じ、適切な角度が設定される。
【0038】
また、光束(4)及び(6)と、光束(5)とのそれぞれの像間隔は、光束(4)及び(6)の光軸と、光束(5)の光軸との角度、並びに、結像レンズL6の焦点距離の積として求められる。
【0039】
以上のように、第1及び第2の実施形態の目的は、3つの像を造り、各々の像に合焦位置差を設けることである。そのため、第2の実施形態では、両側の像(右画像と左画像)の結像位置を、光軸方向に所定の距離だけずらす操作が必要となる。前述の第1の実施形態では、結像レンズL5a,L5cの位置を光軸方向に移動させ、L5aは「+d」、L5cは「−d」となるように配置している。「d」は必要とする標本面S側の合焦位置差と、対物レンズL1の倍率とにより決定される。
【0040】
一方、第2の実施形態では、結像レンズL6と像面Z3との間の、各像の光束中に結像位置調整部材50として、所定の厚さの平行平面板S3a,S3bを配置して対応している。この平行平面板S3a,S3bは、従来公知の何れのものを使用してもよい。そして、この平行平面板S3a,S3bの厚さに応じた空気換算長差により「d」に相当する結像位置を得ることができる。
【0041】
以上のように、第2の実施形態に係る顕微鏡装置200においても、光軸方向に合焦位置の異なる複数の標本断面を同時観察する際に、平行光束中の瞳共役面を利用するため、従来の方法における、光束分割や適切な光路長差の設定手段の複雑かつ困難さを解消し、設計等の自由度が大きくなり、制作や構成が簡単で、操作の容易な顕微鏡装置200や結像装置210を得ることができる。その結果、最適な合焦位置差を得ることができ、高い結像性能を得て、所望の標本断面の高精度な画像を撮影することができる。
【0042】
なお、本願では、結像光学系及びこれを備えた顕微鏡装置の制作や構成が簡単で、操作が容易となることが可能であれば、上述した実施の形態に限定されず、本願の要旨を逸脱しない範囲で種々変更できることは勿論である。
【符号の説明】
【0043】
10,210 結像装置 20,220 光束分割素子
100,200 顕微鏡装置 S 標本 L1 対物レンズ
L2 第2対物レンズ L3,L4 リレーレンズ
L5a〜L5c 結像レンズ(位置可変結像素子)
L6 結像レンズ(位置可変結像素子)
50 結像位置調整部材(位置可変結像素子)
HM1 第1ハーフミラー HM2 第2ハーフミラー
M3 第3反射ミラー M4 第4反射ミラー
S1a,S1b プリズム(光束折曲部材)
S2a,S2b ハービングガラス(光束折曲部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標本からの光を集光する対物レンズと、
前記対物レンズから出射した光を結像する第2対物レンズと、
前記第2対物レンズから出射した結像光束を略平行光束に変換するリレーレンズと、
前記第2対物レンズ及び前記リレーレンズを介して前記略平行光束中に形成された前記対物レンズの瞳の共役像の近傍に設けられ、当該略平行光束を少なくとも2以上の光束に分割する光束分割素子と、
前記光束分割素子で分割された前記光束の各々を結像する機能を有するとともに、当該光束毎に、結像する位置を光軸方向に変化させることができる位置可変結像素子と、を有することを特徴とする結像装置。
【請求項2】
前記光束分割素子は、一部の光を透過し、残りの光を反射するハーフミラーを用いて前記光束を分割することを特徴とする請求項1に記載の結像装置。
【請求項3】
前記光束分割素子は、所定の波長の光を透過し、残りの波長の光を反射するダイクロイックミラーを用いて前記光束を分割することを特徴とする請求項1に記載の結像装置。
【請求項4】
前記位置可変結像素子は、分割された前記光束の各々の光路上に設けられ、少なくとも一つは前記光路上に固定され、残りは前記光路上を光軸に沿って移動可能な結像レンズを有することを特徴とする請求項1〜3いずれか一項に記載の結像装置。
【請求項5】
前記光束分割素子は、前記略平行光束を3つの光束に分割するように構成され、
分割された前記光束の各々に設けられた前記結像レンズの一つは前記光路上に固定され、前記結像レンズの残りの2つは前記光路上を光軸に沿って移動可能なように構成されたことを特徴とする請求項4に記載の結像装置。
【請求項6】
前記位置可変結像素子は、光路上に固定された前記結像レンズを挟んで、残りの2つの前記結像レンズが互いに反対方向に前記光路上を移動するように構成されたことを特徴とする請求項5に記載の結像装置。
【請求項7】
前記位置可変結像素子は、分割された前記光束の全てが透過するように配置され、分割された光束の各々を結像する機能を有する1つの結像レンズと、前記光束の少なくとも一つの光路長を変化させる結像位置調整部材と、を有することを特徴とする請求項4に記載の結像装置。
【請求項8】
前記光束分割素子で分割された前記光束のうち、いずれか一つを基準となる光束とし、前記基準となる光束以外の前記光束の光路上の各々に、当該光束を前記基準となる光束に近づける光束折曲部材が設けられていることを特徴とする請求項1〜7いずれか一項に記載の結像装置。
【請求項9】
前記光束折曲部材は、プリズムあるいはハービングガラスで構成されていることを特徴とする請求項8に記載の結像装置。
【請求項10】
前記光束折曲部材は、前記光束分割素子内に設けられ、前記基準となる光束以外の前記光束の結像位置を、前記基準となる光束の結像位置に近づけるように反射する反射ミラーで構成されていることを特徴とする請求項8に記載の結像装置。
【請求項11】
請求項1〜10いずれか一項に記載の結像装置を有することを特徴する顕微鏡装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−209488(P2011−209488A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76774(P2010−76774)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】