説明

結合型チタニアシリカ膜の製造方法およびコーティング液

【課題】塗膜の形成が容易であり、乾燥性に優れ、硬度・強度が高いというこれらの特性をすべて備えた結合型チタニアシリカ膜を提供する。
【解決手段】アモルファスチタニアの前駆体である有機チタン化合物と、シリカガラスの前駆体であるケイ素化合物(例えばオルガノシラン類またはポリシラザン類)を有機溶剤に溶解させた非水溶液からなるコーティング液を用い、基材に塗布してからの加水分解反応により結合型アモルファスチタニアシリカを生成させ、さらに過酸化水素を供給してペルオキソ化することによって光触媒活性を発現させるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アモルファスチタニアの前駆体である有機チタン化合物とシリカガラスの前駆体であるケイ素化合物を原料に用いた結合型チタニアシリカ膜の製造方法及びその原料となるコーティング液に関する。
【背景技術】
【0002】
現在市場にあるチタニア系光触媒溶液は、次の二つに大別される。一つは、アナタース型チタニア、ルチル型チタニアまたはブルッカイト型チタニアの結晶体の微粒子を水や溶剤、またはそれらの混合液に分散させた懸濁液またはエマルジョンである。もう一つは、ペルオキソ型チタニアの水溶液、およびそれを結晶化して得られるアナタース型チタニアの懸濁液またはエマルジョンである。
【0003】
上記ペルオキソ型チタニアの水溶液は、例えばゾル−ゲル法で製造することが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、チタンテトライソプロポキシド(TIP)およびイソプロパノール(IPA)の混合液と、IPAおよび水の混合液を所定量混合し、TIPの加水分解反応により生成されたチタニアを過酸化水素水に溶解させてペルオキソ型チタニアのゲル体を生成し、さらに過酸化水素水を添加してゾル体にするチタニア水溶液の製造方法が記載されている。こうして製造されたペルオキソ型チタニアの水溶液を原料にしてコーティング膜を製造する場合、基材に塗布してから加熱処理するか、ある一定期間放置することでアナタース化させるか、あるいは塗布前に水溶液自体を加熱処理してアナタース化させてから基材に塗布する。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されているチタニア水溶液は、溶媒が水であるため、塗膜から溶媒が蒸発するのに時間を要し、液垂れを起こす場合がある。そこで、塗膜を加熱処理して溶媒の蒸発を促進させることも考えられるが、基材の材質によっては加熱温度に制限があり、乾燥時間を短縮するための有効な解決策とはならない場合がある。またコーティング膜の硬度が十分でないため、経時劣化が起き易い。
【0005】
基材との密着性が高く、強度の高いコーティング膜が得られるコーティング液として、オルガノシランと光触媒を水及び/又は溶媒に溶かしたコーティング組成物が知られている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2には、オルガノシランが結合剤として働き、耐候性、密着性に優れたコーティング膜を形成できることが記載されている。
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載されているコーティング組成物は、光触媒の微粒子(粉末またはゾル)と、オルガノシランを水及び/又は溶剤に混合した溶液であるため、溶液中でオルガノシランがポリマー化してしまうと、厚みが均一な塗膜を形成するのが極めて難しくなるばかりでなく、光触媒の微粒子が均一に分散されたコーティング膜を得ることができない場合がある。また実施例に記載されている鉛筆硬度3Hという結果も、硬度不足の懸念がある。
【特許文献1】特許第3642490号公報
【特許文献2】特開2000−202363号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題には、上述した問題が一例として挙げられる。そこで、本発明の目的としては、塗膜の形成が容易であり、乾燥性に優れ、硬度、強度(基材との密着性)が高いというこれらの特性をすべて備えた結合型チタニアシリカ膜の製造方法およびそのコーティング液を提供することが一例として挙げられる。
【0008】
また、本発明の他の目的は、コーティング膜内に結合型チタニアシリカが均一に分散されている結合型チタニアシリカ膜を形成することが一例として挙げられる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の結合型チタニアシリカ膜の製造方法は、アモルファスチタニアの前駆体である有機チタン化合物と、シリカガラスの前駆体であるケイ素化合物を有機溶剤に溶解させた非水溶液からなるコーティング液を、基材に塗布して塗膜を形成する工程と、前記塗膜を大気雰囲気中で乾燥させて、前記有機チタン化合物およびケイ素化合物の加水分解反応により結合型チタニアシリカ膜を形成する工程と、前記結合型チタニアシリカ膜に過酸化水素を供給してペルオキソ化する工程と、を含むことを特徴とする。
【0010】
前記ペルオキソ化した結合型チタニアシリカ膜を大気雰囲気中に放置して、膜中のアモルファスチタニアシリカの全部又は一部をアナタースチタニアシリカに変性させる工程をさらに含むことができる。
【0011】
さらに、前記ケイ素化合物を前記有機溶剤で溶解させた別のコーティング液を基材に塗布して塗膜を形成し、大気雰囲気中で乾燥させてシリカガラスの下地膜を形成した後、この下地膜の上に前記結合型チタニアシリカ膜を形成することができる。
【0012】
前記有機チタン化合物には、例えばチタンテトラアルコキシドを用いることができる。また前記ケイ素化合物には、オルガノシラン類またはポリシラザン類を用いることができる。そして前記オルガノシラン類には、モノアルキルシラン、ジアルキルシラン、トリアルキルシラン、テトラアルキルシラン、及びモノアルコキシシラン、ジアルコキシシラン、トリアルコキシシラン、テトラアルコキシシラン、及び前記シラン類の縮重合物、シリコーンオイル類のうちの少なくとも1種以上を用いることができ、前記ポリシラザン類には、パーヒドロポリシラザン、ヘキサアルキルジシラザンを用いることができる。さらにまた、前記有機溶剤には、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素、およびそれらのアルコール誘導体、ケトン誘導体、アルデヒド誘導体、カルボン酸誘導体、エステル誘導体、エーテル誘導体の中から選択される1種以上を用いることができる。
【0013】
前記結合型チタニアシリカ膜中のチタン(Ti)とケイ素(Si)のモル比率としては、Ti:Si=1:1〜1:5が良いが、1:1〜1:2であることが好ましい。
【0014】
本発明のコーティング液は、結合型チタニアシリカ膜の原料であって、アモルファスチタニアの前駆体である有機チタン化合物と、シリカガラスの前駆体であるケイ素化合物を有機溶剤で溶解させた非水溶液からなる溶液であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、アモルファスチタニアの前駆体である有機チタン化合物と、シリカガラスの前駆体であるケイ素化合物(例えばオルガノシラン類またはポリシラザン類)を有機溶剤に溶解させた非水溶液からなるコーティング液を用い、基材に塗布してからの加水分解反応により結合型チタニアシリカを生成させ、さらに過酸化水素を供給してペルオキソ化することによって光触媒活性を発現させるので、塗布による塗膜の形成が容易であり、例えば自然乾燥や低温加熱乾燥(例えば100℃以下)において速乾性を有し、しかも硬度及び強度の高いコーティング膜を形成することが可能となる。そして、薄膜を形成してからペルオキソ化させているので、光触媒活性を有する結合型チタニアシリカが表面に確実に露出したコーティング膜を製造することができる。
【0016】
さらに本発明によれば、非水溶液からなるコーティング液としたことにより、保管中や塗布作業中に有機チタン化合物およびケイ素化合物が加水分解反応を起こすことが少なく、液特性が安定している。そのため、良好に塗布することができ、厚みが均一なコーティング膜を形成することが可能であり、また結合型チタニアシリカが均一に分散されたコーティング膜を得ることが可能となる。
【0017】
さらに本発明によれば、ケイ素化合物(オルガノシラン類またはポリシラザン類)を有機溶剤に溶解させた別のコーティング液を用いてシリカガラスからなる下地膜を形成し、その上に結合型チタニアシリカ膜を形成するようにすると、基材との密着性が益々向上し、より長期に亘って劣化が少ない結合型チタニアシリカ膜を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の好ましい実施形態による結合型チタニアシリカ膜の製造方法および原料となるコーティング液について、添付図面を参照しながら詳しく説明する。但し、以下に説明する実施形態によって本発明は何ら限定されることはない。
【0019】
[コーティング液]
本実施形態においては、結合型チタニアシリカ膜の原料となるコーティング液として、アモルファスチタニアの前駆体である有機チタン化合物と、シリカガラスの前駆体であるケイ素化合物を有機溶剤に溶解させたコーティング液を用いる。このコーティング液は、溶媒に水を含まない非水溶液からなる。
【0020】
前記有機チタン化合物は、加水分解によりアモルファスチタニアを形成するものであれば特に限定されないが、本実施形態においてはチタンアルコキシド(アルコール分子のOH基のHがTiに置換された化合物)を用いるのが好ましく、その中でもチタンテトライソプロポキシド、チタンテトラエトキシドを用いるのが好ましい。
【0021】
前記ケイ素化合物は、加水分解によりシリカガラスを形成するものであれば特に限定されないが、本実施形態においてはオルガノシラン類またはポリシラザン類を用いるのが好ましい。
【0022】
前記オルガノシラン類は、モノアルキルシラン、ジアルキルシラン、トリアルキルシラン、テトラアルキルシラン、及びモノアルコキシシラン、ジアルコキシシラン、トリアルコキシシラン、テトラアルコキシシラン、及び前記シラン類の縮重合物、シリコーンオイル類のうちの少なくとも1種以上を用いるのが好ましい。なおアルコキシシラン単体では、下記の化学反応式に示すように、例えば大気雰囲気中の水分によって加水分解してアルキルアルコールを放出し、さらに水と反応し脱水してシリカガラスとなる特性を有している。
【0023】
【化1】

【0024】
前記ポリシラザン類には、パーヒドロポリシラザン、テトラアルキルジシラザン、ヘキサアルキルジシラザンがあるが、パーヒドロポリシラザンを用いるのが好ましい。SiとNとHの結合分子であるパーヒドロポリシラザン単体では、下記の化学反応式に示すように、例えば大気雰囲気中の水分によって加水分解してアンモニアを放出し、シリカガラスとなる特性を有している。
【0025】
【化2】

【0026】
さらに、有機溶剤は、前記有機チタン化合物とケイ素化合物が溶解するものであれば特に限定されないが、本実施形態においては例えば脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素、およびそれらのアルコール誘導体、ケトン誘導体、アルデヒド誘導体、カルボン酸誘導体、エステル誘導体、エーテル誘導体の中から選択される1種以上を用いることができる。その中でも、キシレン、シクロヘキサン、ミネラルスピリットを用いるのが好ましい。ここで、前記コーティング液の粘度が低すぎると液がサラサラで基材への乗りが悪く、反対に高すぎると伸びが悪くなるので、例えば粘度が20〜50mPa・sとなるように、溶剤の種類や、有機チタン化合物およびケイ素化合物の濃度を選択するのが好ましい。
【0027】
前記有機チタン化合物の濃度は、例えば0.1〜1.5質量%とすることができる。また、ケイ素化合物の濃度は、例えば0.1〜1.5質量%とすることができる。ここで、コーティング膜中のチタン(Ti)とケイ素(Si)の好ましいモル比率がTi:Si=1:1〜1:2であることを、実際にコーティング膜を製造することによって確認している。すなわち、有機溶剤の混合割合によって影響されるものの、Tiの比率がこれより高い場合にはTiのアルコキシドに比べSiのアルコキシドの加水分解速度が速いため、Ti-O-Siが不十分な状態で結合するため、膜が白く濁ってしまうことがあり、反対にTiの比率がこれより低い場合にはTi-O-Siの結合部分が相対的に少なくなるため期待する光触媒活性が得られないことがある。従って、コーティング膜中のTiとSiが前記比率となるように、コーティング液中に配合される有機チタン化合物とケイ素化合物の濃度もTi:Si=1:1〜1:2となるように調整するのが好ましい。
【0028】
[コーティング膜の製造]
続いて、前述のコーティング液を用いて結合型チタニアシリカ膜を製造する工程について、図1の工程図を参照しながら説明する。
【0029】
図1のステップS100に示すように、予め調製したコーティング液を基材に塗布して塗膜を形成する。塗布方法は特に限定されることはなく、例えばスプレー法,スピンコート法、手塗り法、ディップ法など一般に公知の方法を採用することができる。また、塗膜(液膜)の厚みや塗布回数については、形成しようとするコーティング膜の厚みに応じて適宜設定することができる。基材の種類や用途にもよるが、通常、コーティング膜の厚みは、50nm〜500nmにする。
【0030】
続いて、ステップS101に示すように、大気雰囲気中で塗膜を乾燥させる。乾燥方法は特に限定されることはないが、速乾性を有する本発明の利点を最大限に活かすために、自然乾燥、通気乾燥、あるいは例えば100℃以下の低温加熱乾燥によって乾燥させるのが好ましい。こうして塗膜の乾燥が進行すると、有機チタン化合物とケイ素化合物が大気雰囲気中の水分によって加水分解し、アモルファスチタニアとシリカが結合した構造を有するアモルファスチタニアシリカが生成され、これにより基材に結合型アモルファスチタニアシリカ膜が形成される。
【0031】
加水分解により生成されたチタニアシリカは、粒界が存在しないアモルファスであり、それ自体に光触媒活性がないか、あっても非常に弱いものである。そこで、本実施形態では、次のように処理してより強い光触媒活性を発現させる。すなわち、ステップS102に示すように、酸化剤として例えば5〜30質量%、作業者の安全性を考慮して、好ましくは5〜6質量%の過酸化水素水をアモルファスチタニアシリカ膜に塗布または噴霧する。過酸化水素が供給されると、アモルファスチタニアシリカがペルオキソ化され、これにより光触媒活性を有する結合型ペルオキソチタニアシリカ膜を製造することができる。このとき、過酸化水素水の供給量や供給時間、濃度を調整することによって、ペルオキソ化の程度を調節することができる。そして、薄膜を形成してからペルオキソ化させているので、光触媒活性を有する結合型ペルオキソチタニアシリカが表面に確実に露出したコーティング膜を製造することができる。
【0032】
さらに、本実施形態では、ステップS103に示すように、ペルオキソ化した結合型チタニアシリカ膜を大気雰囲気中に放置して、膜中のアモルファスチタニアシリカの全部又は一部をアナタースチタニアシリカに変性させる工程をさらに含むことができる。ペルオキソ型のチタニアシリカは光触媒活性、特に可視光特性のあることが実証されているが、紫外光活性では、アナタース型の方が優れている。そのため、前記ステップS102によってペルオキソ型が形成されると、ペルオキソ濃度、太陽光の強弱や気温・湿度の高低によって時間的に長短の差はあれ、経時的に結晶化が進行し、最終的には表面がアナタース化する。このように、アナタース型が形成されることによって、当該結合型チタニアシリカ膜の光触媒活性をさらに向上させることが可能となる。
【0033】
上述の実施形態によれば、アモルファスチタニアの前駆体である有機チタン化合物と、シリカガラスの前駆体であるケイ素化合物(例えばオルガノシラン類またはポリシラザン類)を有機溶剤に溶解させた非水溶液からなるコーティング液を用い、基材に塗布してからの加水分解反応により結合型アモルファスチタニアシリカを生成させ、さらに過酸化水素水を塗布または噴霧してペルオキソ化することによって光触媒活性を発現させるので、塗布による塗膜の形成が容易であり、例えば自然乾燥や低温加熱乾燥(例えば100℃以下)において速乾性を有している。そして後述する実施例の結果からも明らかなように、硬度、強度の高い薄膜を形成することが可能である。
【0034】
さらに本発明によれば、溶媒に水を含まない非水溶液からなるコーティング液としたことにより、保管中や塗布作業中に有機チタン化合物およびケイ素化合物が加水分解反応を起こすことが少なく、液特性が安定している。そのため、一般的な塗布法で良好に塗布することができ、厚みが均一なコーティング膜を形成することが可能であり、また塗膜にしてから、有機チタン化合物とケイ素化合物をいわば同時に加水分解させているのでTi-O-Siの結合部分を有する結合型チタニアシリカが均一に分散されたコーティング膜を得ることが可能となる。
【0035】
本実施形態により製造される結合型チタニアシリカ膜の用途は特に限定されることはないが、一例を挙げておくと、(1)車両(自動車,電車,船舶,飛行機など)のボディーコーティング用、(2)車両(自動車,電車,船舶,飛行機など)の内装用(床,壁,天井など)、(3)キッチン・洗面所・トイレ・風呂場などの防汚・脱臭・抗菌コーティング用、(4)建物・遊園地・道路側面・トンネル内・看板・鉄塔・ステンレス・コンクリート・タイル・石材・木材・ウレタン・ガラス・鏡・クロス・フローリング(合成材)・陶器・プラスチック・樹脂類・塗料の塗装面などの防錆・防汚・塩害対策のためのコーティング用、などである。殆どのプラスチックにバインダーなしで塗布できることが特筆できる。
【0036】
上述の実施形態では基材にコーティング液を塗布して結合型チタニアシリカ膜を形成しているが、基材との密着性をより高めるための他の実施形態として、基材に下地膜を形成し、その上に結合型チタニアシリカ膜を形成するようにしてもよい。
【0037】
下地膜の原料となる第2のコーティング液としては、前記ケイ素化合物を前記有機溶媒に溶解させた非水溶液からなるコーティング液を用いることができる。すなわち、有機チタン化合物が配合されないことを除けば、上述したチタニアシリカ製造用の第1のコーティング液と同様の組成で構成されている。但し、ケイ素化合物や有機溶媒の種類については、第1と第2のコーティング液で同じあってもよく、第1と第2のコーティング液で異なるようにしてもよい。
【0038】
上記第2のコーティング液を塗布して下地膜を形成する方法としては、上述のステップS100〜101と同様にすることができる。これにより、基材にシリカガラス膜が形成されるので、このシリカガラス膜に上述のステップS100〜S104の工程を通じて結合型チタニアシリカ膜を製造する。なお、シリカガラスの厚みは、例えば数nm〜500nmとすることができる。
【0039】
上述の他の実施形態によれば、ケイ素化合物(例えばオルガノシラン類またはポリシラザン類)を有機溶剤に溶解させた第2のコーティング液を用いてシリカガラスからなる下地膜を形成し、その上に第1のコーティング液を塗布して結合型アモルファスチタニアシリカ膜、結合型ペルオキソチタニアシリカ膜、結合型アナタースチタニアシリカ膜を形成することにより、基材との密着性が益々向上し、より長期に亘って安定した結合型アナタースチタニアシリカ膜を得ることが可能となる。
【0040】
以上、本発明の具体的な実施形態に関して説明したが、本発明の範囲を逸脱しない限り様々な変形が可能であることは、当該技術分野における通常の知識を有する者にとって自明なことである。従って、本発明の技術的範囲は、上述した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲及びこれと均等なものに基づいて定められるべきである。
【実施例】
【0041】
本発明の効果を確認するために行った実施例について説明する。但し、以下に示す実施例は、発明者らが本発明を完成させる過程で行った試験の一例を示すものであり、上述の実施形態に挙げている他の材料を用いた場合も同様の効果が得られることを確認している。
【0042】
(実施例1)
予め、チタンとシリコンのモル比が、Ti:Si=1:2となるように、ミネラルスピリット29.29%、シクロヘキサン66.9%、パーヒドロポリシラザン0.7%、チタンテトライソプロポキシド2.5%の組成の非水混合溶液を調製した。
【0043】
この溶液の一部をガラス基板にスエードを用いて手塗りでコートした。コート後約2時間経過した後、生成した結合型アモルファスチタニアシリカを約5%の過酸化水素水を噴霧器で、5ml/m2の濃度で噴霧し、ペルオキソ化した。このサンプルを空気中に2週間放置した後、JISK5600-5-4の引っかき硬度(鉛筆法)とJISD02020の碁盤目テープ剥離試験を行った。鉛筆硬度は9Hで、セロハンテープ剥離試験では100/100(100個中の剥離しなかった個数)であった。
【0044】
(実施例2)
予め、チタンとシリコンのモル比が、Ti:Si=1:1となるように、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル19.0%、エタノール27.5%、メチルシリケート(オルガノシラン)19.0%、チタンテトライソプロポキシド34.5%の組成の非水混合溶液を調製した。
【0045】
この溶液の一部をガラス基板にスエードを用いて手塗りでコートした。コートしたサンプルをXRDで非晶質であることを確認(図2に示すXRDチャート1)すると共に、ULVAC理工製の活性テスターを用いてメチレンブルー分解試験を行い、分解活性があることを確認した。コート後約2時間経過した後、生成した結合型アモルファスチタニアシリカを約5%の過酸化水素水を噴霧器で、5ml/m2の濃度で噴霧し、ペルオキソ化した。このペルオキソ化したものを乾燥する前後でXRDを取ったところ、乾燥後に僅かにアナタースのピークが得られた(図3に示すXRDチャート2)。更に、このサンプルを空気中に2週間放置した後、JIS K5600-5-4の引っかき硬度(鉛筆法)とJIS D02020の碁盤目テープ剥離試験を行った。鉛筆硬度は8Hで、セロハンテープ剥離試験では100/100(100個中の剥離しなかった個数)であった。
【0046】
(比較例1)
チタニア総合科学技術有限責任事業組合が販売している、凛光(登録商標、以下同じ)R-P-TS(Ti:Si=1:1)はペルオキソチタニアシリカ水溶液(固形物濃度0.85%)であるが、これを用いて、実施例1、2と同じガラス基板にコートした。塗布後2週間後に、JIS K5600-5-4の引っかき硬度(鉛筆法)とJIS D02020の碁盤目テープ剥離試験を行った。鉛筆硬度は3Hで、セロハンテープ剥離試験では100/100(100個中の剥離しなかった個数)であった。
【0047】
(比較例2)
前述の凛光R-P-TSをアナタース化させたアナタースチタニアシリカ水溶液(凛光R-A-TS)を用いて、実施例1、2と同じガラス基板にコートし、JIS K5600-5-4の引っかき硬度(鉛筆法)とJIS D02020の碁盤目テープ剥離試験を行った。鉛筆硬度は3Hで、セロハンテープ剥離試験では100/100(100個中の剥離しなかった個数)であった。
【0048】
[図2に示すXRDチャートの考察]
図2は、実施例2におけるコートしたサンプルのXRDチャートである。比較として、アナタースチタニア(凛光R-A-T)のXRDも併せて示してある。このXRDチャートから明らかなように、実施例2のサンプルはアナタースのピークが見られず、非結晶であることが分かる。すなわち、結合型アモルファスチタニアシリカが生成されていることが確認できた。
【0049】
[図3に示すXRDチャートの考察]
図3(a)は実施例2においてペルオキソ化されたサンプル(液状)の乾燥前のXRDチャートであり、図3(b)は乾燥後のXRDチャートである。図3(a)及び(b)のXRDチャートから、ペルオキソ型のチタニアシリカが生成されているのを確認できる。さらに図3(b)の乾燥後のXRDチャートにはアナタースのピーク(図中矢印で示すピーク)が見られることから、ペルオキソ型チタニアシリカを生成後1日が経過した時点ですでにアナタース型チタニアシリカが生成されていることが確認できる。
【0050】
以上のように、本発明によれば、速硬性を有し、硬度及び強度の高いコーティング膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の好ましい実施形態による結合型チタニアシリカ膜の製造方法の工程図である。
【図2】本発明の効果を確認するために行った試験のXRDチャートである。
【図3】本発明の効果を確認するために行った試験のXRDチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アモルファスチタニアの前駆体である有機チタン化合物と、シリカガラスの前駆体であるケイ素化合物を有機溶剤に溶解させた非水溶液からなるコーティング液を、基材に塗布して塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を大気雰囲気中で乾燥させて、前記有機チタン化合物およびケイ素化合物の加水分解反応により結合型チタニアシリカ膜を形成する工程と、
前記結合型チタニアシリカ膜に過酸化水素を供給してペルオキソ化する工程と、
を含むことを特徴とする結合型チタニアシリカ膜の製造方法。
【請求項2】
前記ペルオキソ化した結合型チタニアシリカ膜を大気雰囲気中に放置して、膜中のアモルファスチタニアシリカの全部又は一部をアナタースチタニアシリカに変性させる工程をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の結合型チタニアシリカ膜の製造方法。
【請求項3】
前記ケイ素化合物を前記有機溶剤で溶解させた別のコーティング液を基材に塗布して塗膜を形成し、大気雰囲気中で乾燥させてシリカガラスの下地膜を形成した後、この下地膜の上に前記結合型チタニアシリカ膜を形成することを特徴とする請求項1または2に記載の結合型チタニアシリカ膜の製造方法。
【請求項4】
前記有機チタン化合物は、チタンテトラアルコキシドであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の結合型チタニアシリカ膜の製造方法。
【請求項5】
前記ケイ素化合物は、オルガノシラン類またはポリシラザン類であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の結合型チタニアシリカ膜の製造方法。
【請求項6】
前記オルガノシラン類は、モノアルキルシラン、ジアルキルシラン、トリアルキルシラン、テトラアルキルシラン、及びモノアルコキシシラン、ジアルコキシシラン、トリアルコキシシラン、テトラアルコキシシラン、以上のシランの縮重合物、シリコーンオイルのうちの少なくとも1種以上であり、また、前記ポリシラザン類は、パーヒドロポリシラザン、ヘキサアルキルジシラザンであることを特徴とする請求項5に記載の結合型チタニアシリカ膜の製造方法。
【請求項7】
前記有機溶剤は、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素、およびそれらのアルコール誘導体、ケトン誘導体、アルデヒド誘導体、カルボン酸誘導体、エステル誘導体、エーテル誘導体の中から選択される1種以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の結合型チタニアシリカ膜の製造方法。
【請求項8】
前記結合型チタニアシリカ膜中のチタン(Ti)とケイ素(Si)のモル比率がTi:Si=1:1〜1:5であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の結合型チタニアシリカ膜の製造方法。
【請求項9】
結合型チタニアシリカ膜の原料であって、アモルファスチタニアの前駆体である有機チタン化合物と、シリカガラスの前駆体であるケイ素化合物を有機溶剤で溶解させた非水溶液からなるコーティング液。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−119431(P2009−119431A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−299155(P2007−299155)
【出願日】平成19年11月19日(2007.11.19)
【出願人】(507317627)
【出願人】(507317638)
【出願人】(507381318)株式会社アーバン (1)
【Fターム(参考)】