説明

結合組織の修復

本発明は、ヒトの軟骨組織の全深部から単離される、および/または老化したヒトの軟骨から単離されるヒトの幹細胞、およびその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規なヒト由来の幹細胞に関し、特に関節軟骨幹細胞;それ由来の細胞群;前記幹細胞および前記幹細胞群の形成方法;組織修復、特に結合組織修復、さらに特には関節修復における前記幹細胞および細胞群の使用;前記幹細胞または前記細胞群を備えるまたは含むインプラントに関する。
【背景技術】
【0002】
関節軟骨は、無血管で、神経がなく、リンパ管がなく、筋肉のような他の結合組織と比較して代謝活性が低いが、エネルギーを主としてグリコールに依存する細胞としては活性を有すると考えられる。関節軟骨は同様に、豊富な細胞外基質を有し、軟骨へ低摩擦の無痛関節特有の特性を与えるため細胞外基質に依存する。関節軟骨の二つの主構成要素は、軟骨に特有の高度に特殊化した軟骨細胞と、合成物から成りプロテオグリカン、コラーゲン、および非コラーゲン性タンパク質を相互結合し配列する基質である(Buckwalter and Hunziker, 1999)。
【0003】
関節軟骨は、その深さ全域で4つの主層に分離できる。これらは各々、外側関節面から深軟骨下骨(deep subchondral bone)へといたる、表層、中間層、橈骨上部と橈骨下部層、および石灰化軟骨層である。名称付けられた層が存在するが、層間で視覚化される「実際の」境界線は存在しない。各層において、細胞形態学(大きさと形状)における差異、細胞充填、代謝活性、および層部の厚さを含む生体力学的変化および形態学的変化がある(Dowthwaite et al, 2004)。基質組成の差異は同様に層間で存在し、多種のコラーゲン、プロテオグリカン、および非コラーゲン性タンパク質の種類と量の変化を伴う。
【0004】
最大でも関節軟骨はほんの数ミリメートルの厚さであるが、臀部などの大関節においては最大で7ミリメートルの厚さまで達する。ほんの数ミリメートルの厚さにもかかわらず、関節軟骨は何とか荷重に耐え、負荷を分配する能力を示し、よって軟骨下骨に掛かる高荷重を軽減する(Buckwalter and Hunziker, 1999)。
【0005】
(軟骨細胞)
正常な関節軟骨は、一つの細胞型を含み、それは細胞外基質により囲まれる高度に特殊化した軟骨細胞である(Buckwalter, 1998)。大抵の場合、軟骨細胞はその隣接する細胞から「細胞質的に単離され」(Archer and Francis-West, 2003)、組織の最表部を除いてはめったに細胞間接触を形成しない。各軟骨細胞は従って、基質と自由に接触し、基質により完全に囲まれる。軟骨細胞は、関節軟骨の層間の形態および代謝活性において異なる。一般的に軟骨細胞は、軟骨細胞が扁平にまたは円盤状に現れることがある関節の関節面などの組織境界線を除いて、曲線的または多角形の形態を有する(Archer and Francis-West, 2003)。
【0006】
軟骨細胞の主たる役割は、軟骨の複雑な細胞外基質、具体的にはヒアルロン酸およびアグリカンなどの水溶性の親水性構造の維持である(Knudson, 2003)。細胞内で、軟骨細胞は、基質合成において中心的役割を果たす代謝活性細胞に特有である細胞小器官を含み(Archer and Francis-West, 2003)、大型基質を高い体積比で代謝回転(turnover)および合成するよう継続的に働き、主としてプロテオグリカン、グリコサミノグリカン、およびコラーゲンから構成される(Buckwalter and Hunziker, 1999)。
【0007】
一部の軟骨細胞は同様に、基質における機械的変化を検出できる短突起または微絨毛を含む。これは、それらが細胞から直接的に基質へ延出し実現される。細胞内の糸状体、脂質、グリコーゲン、および分泌小胞は、軟骨細胞と基質との接触を可能にする。成熟軟骨細胞は球状形態を有するので、他の細胞と容易に区別できる。成熟軟骨細胞は同様に、それらの細胞膜を覆いおよび結合し軟骨基質を形成する、メッシュワーク(meshwork)内で混ぜ合わされた富んだ量のII型コラーゲン、大凝集プロテオグリカン、および特有の非コラーゲン性タンパク質を有する(Buckwalter and Hunziker, 1999)。
【0008】
(層)
(表層)
表層(図2)は非常に薄く、2つの層部から成る。最表層部は無細胞であり、輝板(lamina splendens)として既知である非晶質の薄い透明膜から成り、高密度に充填されたII型コラーゲン微小繊維(Buckwalter and Hunziker, 1999) の微粒子の薄皮を覆い、大部分はラブリシン(lubricin)から構成される。より深い細胞層は、コラーゲンが豊富な基質内に閉じ込められた扁平な円盤状の軟骨細胞から構成され、関節面と平行に位置する(Dowthwaite et al, 2003)。これらの細胞は、コラーゲン、フィブロネクチン、および水に富み、より深い層の細胞と比較してプロテオグリカン含有量が低い基質を合成する。
【0009】
コラーゲン原線維の緻密層部は、表面のそれと平行な配向を有し、軟骨に対して、高抗張力を有し軟骨に掛かるせん断力に耐えうる、特有の機械的特性を提供する(Buckwalter and Hunziker, 1999)。コラーゲン原線維のメッシュワーク(meshwork)は同様に、各々抗体および大軟骨の分子などの軟骨に出入りする分子の動きを可能にする。
【0010】
各種の研究は、関節軟骨の表面層が組織成長および増殖の調節に関係することを明らかにした。我々の研究室における発達的研究は、関節軟骨が関節面からの付加増殖により成長することを確認した(Hayes et al 2001)。また、この増殖方法は、この不均一組織の明確な層分布構造を確立することを可能とした。これらの研究は同様に、増殖は、関節軟骨の表面層における軟骨細胞群をゆっくりと分裂し、中間層における細胞群をより急速に分裂することにより促進されることを明らかにした(Hayes et al 2001)。これらの観測結果は関節軟骨成長および層分布変化の付加性質を説明するのみならず、表面層における特有の関節軟骨細胞の前駆細胞群の存在および中間層におけるTA細胞(transit amplifying cells)群の存在をも示唆する。
【0011】
更に表面層は、多様な増殖因子発現およびそれらの受容体発現に起因してシグナル伝達することが発見された。それらは、差異的基質合成(differential matrix synthesis)を経て、可動関節の形態形成で中心的役割を果たす(Dowthwaite et al, 2003)。表面層は同様に、インビボ(in vivo)で関節軟骨の付加増殖(Hayes et al, 2001)に関与することを明らかにし、最近のインビトロ(in vitro)研究は前駆細胞群を含む関節軟骨の表面層を明らかにした(Dowthwaite et al, 2004)。
【0012】
更に米国特許出願公開2006/0239980号明細書は、ヒト由来の軟骨組織の表面層から取得された関節軟骨が、培養によって軟骨前駆組織に脱分化できる軟骨細胞群を形成するために、酵素消化できることを教示する。しかしながら、この組織の表現型安定性に関するデータはこの文献において存在せず、組織が単離された幹細胞を表すことを断定または示唆せず、ゆえに組織修復のための信頼性のある物質源としてこの脱分化された組織の使用は問題がある。
【0013】
これまでに我々は、牛由来の関節軟骨の表面層内に軟骨前駆細胞群を確認した(Dowthwaite et al 2004)。この群は、牛由来の軟骨細胞をフィブロネクチンへの差異的接着に利用して取得された。軟骨前駆は、フィブロネクチンへのそれらの増加した接着により特徴付けられるとともに、コロニー形成能が増加した。更に、この軟骨前駆群は、インオボ(in ovo)で分析された場合、分化経路の観点から可塑性を示す。牛由来の軟骨前駆細胞は、腱、骨、および軟骨などの多様な鶏由来の結合組織系統に移植され、移植された細胞は、I型コラーゲンなどの特徴組織マーカーを示し、更に機能的な形に配向された。
【0014】
最近、我々は従来の研究を拡張し、驚くことにヒトの軟骨組織の全深部からヒトの幹細胞群を単離可能であることを発見した。これは、軟骨の表層または表面層が組織増殖および成長に関与することを教示する社会通念に反する。
【0015】
実際に、我々の実験は、軟骨組織の中間層および表面層からヒトの幹細胞群を単離可能であることを明らかにした。
【0016】
我々研究の更なる驚くべき態様は、我々の幹細胞が老化したヒトの組織(aged human tissue)から由来したことである。老化したヒトの軟骨は、正常な軟骨より薄い傾向にあり、代謝活性が低い。
【0017】
加えて、我々の単離されたヒトの幹細胞は、現在、分裂が80回を上回り生存する点において不死のように思われることを発見した。これは、テロメラーゼ依存性老化のいくつかの特徴が明白であった場合に、約50回の分裂により特徴付けられた、我々が前に単離した上記牛由来の軟骨前駆とは対照的である。これらの事実は、我々の牛由来の軟骨前駆は幹細胞ではなかったことを示唆する。
【0018】
一方、我々の幹細胞は、継続的な分裂から明らかなように自己再生をする。我々の現在の統計である80回の分裂を関連付けて状況を示すために、分裂に関するHayflickの統計は52回であることを念頭に置かなければならない。1965年にLeonard Hayflickは、細胞培養で分裂する細胞は死滅する前に約50回分裂することを観測した。新しい細胞を継続的に再生する能力を有する幹細胞は、内因性の有機体(endogenous organism)の全生涯存続する。
【0019】
その上、これら我々のヒトの幹細胞は、70回分裂した後に許容状態のペレット培養条件で培養した場合に、それでも軟骨を形成できることを明らかにした。
【0020】
我々の単離されたヒトの幹細胞は、新しい結合組織の提供を目的として大幅な拡張に耐える能力を有し、実際に拡張量は、単一幹細胞源を用いる軟骨など、ヒトの組織の全ての要素または大部分を置換できるほどである。
【0021】
加えて、我々の新規な幹細胞は、これらの細胞が、異なる種類の結合組織を形成するために各種の結合組織型へ機能的に移植できるという点において、表現型可塑性を表す。
【0022】
我々の新規な組織の単離は、特有の組織特性の利用を伴う。そうしたタンパク質配列の発現は、例外的に高親和性を備え、フィブロネクチンにおけるRGD配列と選択的に結合する。フィブロネクチンにおけるRGD配列は、アミノ酸アルギニン、グリシン、およびアスパラギン酸を備える。多くの細胞は、十分な時間の長さ(概して数時間)培養された場合に、この配列と結合する能力を有する。一方、我々の幹細胞は、極めて積極的な酵素の単離を経ても、数分以内に配列と結合し、実際には20分後、我々ヒトの幹細胞から成るコロニーを単離可能である。
【0023】
最後に、この幹細胞源からの分化した組織は、少なくとも一の構造的に関連するタンパク質、発生中の鶏由来の結合組織に移植された場合にはI型コラーゲン、で表現する。
【0024】
ここで、用語、幹細胞への言及は、継続的に不変の娘細胞(daughters)を形成でき、同様に、異なる厳しく制限される特性を有する娘細胞の形成能を有する細胞への言及を含む。
【0025】
ここで、前駆細胞への言及は、分化能を備える分裂細胞への言及を含み、それは自己再生がまだ実証されていない想定幹細胞を含む。
【0026】
当業者に自明であるように、軟骨組織は限定的な自己修復能を有する。自己修復するための軟骨の前記能力に対し、長期にわたり機能的な可動関節を復元する観点から、いくつかの制限がある。軟骨修復組織は、硝子軟骨と線維軟骨との間に中間体構造および中間体組織を有し、関節軟骨の実際の構造を複製することはまずない。コラーゲン原線維の組織体および配向の崩壊があり、特にプロテオグリカンおよびコラーゲン原線維ネットワーク(network)で、高分子間の重要な相互作用が不足し、ゆえに剛性およびを負荷重に耐える能力が減少する結果を生じる。関節軟骨の低修復能の主要な寄与因子は、組織が無血管および非神経なことである。
【0027】
関節軟骨欠損を治療しようとする場合に直面する問題を克服するための治療が開発されている。有力な治療は、首尾よく組織を関節軟骨と同一の機械的特性および構造特性を有する欠損に組み入れる必要がある。現在の細胞に基づく移植治療は、拡張された自己軟骨細胞を欠損に移植するための使用を伴い、願わくは天然の関節軟骨のそれと類似する修復組織を生成する。この細胞に基づく移植治療は自己軟骨細胞移植(ACI)として既知であり、全層軟骨欠損の治療に関してBrittberg et al (1994)に記載される。
【0028】
この技術に関連する問題は、関節の非損傷領域および免荷の支持領域から健康な関節軟骨の抽出を伴うことである。先行研究は、再生医療および生分解性足場(biodegradable scaffolds)へのそれらの浸潤で用いる細胞源として、間葉系幹細胞(MSCs)の利用可能性を研究する。間葉系幹細胞由来の骨髄は、広範囲に注目されたが、他の多くの組織型は、軟骨および滑膜などの間葉系幹細胞源として現在検討されている。
【0029】
我々の幹細胞は、軟骨修復で意義深い使用法を有するということになる。また一方、我々の幹細胞は、靭帯、皮膚、または骨などの結合組織の他の形態の修復目的に使用することができる。
【0030】
更に、我々の幹細胞は自己修復、特に軟骨修復に適すが、他の多くの幹細胞は免疫抑制性であると示したから、これらの細胞は同様に、同種異系に使用することができる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0031】
本発明の第1の態様では、老化したヒトの軟骨(aged human cartilage)から単離されるヒトの幹細胞を提供する。
【0032】
ここで、老化したヒトの軟骨とは、成人に由来するものであり、最も好ましくは成熟した成人、または軟骨が正常な軟骨より薄いおよび/または代謝活性が低い傾向にある成人からの軟骨を含む。
【0033】
本発明の更なる態様は、軟骨組織の全深部(full depth)から単離されるヒトの幹細胞を提供する。
【0034】
本発明の好ましい実施例では、前記ヒトの幹細胞は、軟骨組織の表面層あるいは中間層、またはその両方から単離される。
【0035】
ここで、「軟骨組織の全深部」とは、表面から底面にいたる組織の深部(tissue depth)の全体が幹細胞源として使用されることを意味する。
【0036】
本発明の更なる態様は、次の特性のいずれか一以上によりに特徴付けられるヒトの幹細胞を提供する;
1.ヒトの関節軟骨の全深部から単離
2.フィブロネクチンまたはRGD配列を含むその断片へ高親和的な接着による単離
3.52回を上回る分裂
4.任意の結合組織型への分化能
5.次の幹細胞マーカーのいずれか一以上の発現:STRO1、MSX1、またはnotch1
6.ヒトの老化した軟骨から単離。
【0037】
本発明の更なる態様は、the National Institute for Biological Standards and Control (NIBSC) at Blanche Lane, South Mimms, Potters Bar, Hertfordshire EN6 3QG under Accession No.---に寄託されるヒトの幹細胞群を提供する。
【0038】
本発明の更なる態様は、同種幹細胞から由来するヒトの結合組織細胞群を提供する。
【0039】
本発明の更なる態様は、組織修復における前記同種幹細胞の使用を提供する。
【0040】
本発明の更なる態様は、組織修復における、ここで記載される幹細胞から由来するヒトの結合組織細胞群の使用を提供する。
【0041】
本発明の更なる態様は、ここで記載される幹細胞または幹細胞由来の細胞群を備える組織修復における使用のためのインプラントを提供する。
【0042】
本発明の更なる態様は、
a) 軟骨組織の全深部からヒトの関節軟骨組織を取得し、
b) 軟骨細胞を解離させるために酵素の使用により組織を消化し、
c) 単離された軟骨細胞をフィブロネクチンおよび/またはRGD配列を含むその断片にさらし、
d) フィブロネクチンまたは前記断片を結合するそれらの細胞を単離する、
ことを備えるヒトの幹細胞の単離方法を提供する。
【0043】
本発明の好ましい方法では、前記放出された軟骨細胞は、フィブロネクチン、またはRGD配列を含むフィブロネクチンの断片のような、RGD配列上で培養される。
【0044】
本発明の更なる好ましい方法では、前記関節軟骨はプロナーゼおよびコラゲナーゼを併用して消化される。より好ましくは、関節軟骨は70units/mlのプロナーゼに37度で3時間さらされ、続いて300units/mlのコラゲナーゼに37度で長時間、通常は一晩、さらされる。
【0045】
本発明の更なる態様では、消化された軟骨細胞は、軟骨細胞組織を単離するために濾過または遠心分離される。
【0046】
遠心分離は毎分2000回転で5分間行われる。
【0047】
そして、好ましくは、単離された軟骨細胞はフィブロネクチンで被覆されたウェル(well)に播種される。
【0048】
本発明の好ましい方法では、関節軟骨組織は老化した組織(aged tissue)である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】図1は、軟骨組織の断面を示す。
【図2A】図2Aは、ヒトの軟骨細胞のフィブロネクチンへの初期接着を示す。軟骨細胞のコホート(cohort)は、実験対照(p < 0.05)と比較して、20分以内にフィブロネクチンへ接着することを指摘する。
【図2B】図2Bは、20分以内にフィブロネクチンへ接着する軟骨細胞が、8日以内に32細胞以上から成るコロニーを形成し、更にコロニーの数は実験対照(p < 0.05)と比較して培養時間とともに増加することを示す。
【図2C】図2Cは、クローンに由来する、ヒトの幹細胞または軟骨前駆が、広範囲に継代培養でき、80回以上の分裂を経験することを示す。
【図3A】図3A−3Cは、フィブロネクチンと細胞内情報伝達分子Notch1、幹細胞マーカーSTRO1、および転写因子MSX1に対する抗体で免疫標識される同じ患者から任意抽出された細胞とへの差異的接着に由来するクローン細胞の図を示す。クローン細胞株において、すべての細胞はNotch1およびStro1に対する抗体で標識され、細胞の大部分はMSX1に対する抗体で標識される。一方、単層培養は、STRO1、Notch1、およびMSX1の幹細胞マーカーに対する抗体で標識される少数の細胞を含む。
【図3B】図3A−3Cは、フィブロネクチンと細胞内情報伝達分子Notch1、幹細胞マーカーSTRO1、および転写因子MSX1に対する抗体で免疫標識される同じ患者から任意抽出された細胞とへの差異的接着に由来するクローン細胞の図を示す。クローン細胞株において、すべての細胞はNotch1およびStro1に対する抗体で標識され、細胞の大部分はMSX1に対する抗体で標識される。一方、単層培養は、STRO1、Notch1、およびMSX1の幹細胞マーカーに対する抗体で標識される少数の細胞を含む。
【図3C】図3A−3Cは、フィブロネクチンと細胞内情報伝達分子Notch1、幹細胞マーカーSTRO1、および転写因子MSX1に対する抗体で免疫標識される同じ患者から任意抽出された細胞とへの差異的接着に由来するクローン細胞の図を示す。クローン細胞株において、すべての細胞はNotch1およびStro1に対する抗体で標識され、細胞の大部分はMSX1に対する抗体で標識される。一方、単層培養は、STRO1、Notch1、およびMSX1の幹細胞マーカーに対する抗体で標識される少数の細胞を含む。
【図4】図4は、インオボ(in ovo)での分析の使用し、クローンに由来する軟骨幹細胞が、骨、腱、軟骨を含む多種の鶏由来の組織に増殖することが示され、その増殖された幹細胞は構造的に関連するタンパク質、すなわちヒトのI型コラーゲン(図4)、を合成することが示されたことを示す。
【図5】図5は、老化したヒトの組織の骨ろう部(wax sections)は、転写因子MSX1(N20, Santa Cruz Biotechnology; 5ug ml-1 in PBS for 1 hour)に対する抗体で標識され、抗ウサギFITC標識二次抗体(Sigma; 1:100 in PBS for 1 hour)で検出される。MSX1陽性細胞は、組織の表面層および中間層に存在し、ここが組織内で幹細胞が存在する場所であることを示唆する。矢印は陽性細胞内標識を示す。
【発明を実施するための形態】
【0050】
(原料および方法)
12ウェルプレート(well plates)は、1mM の塩化マグネシウム(MgCl2) と 1mMの塩化カルシウム(CaCl2)(PBS+)を含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)において、10μg ml-1の血漿フィブロネクチン(Sigma, UK)により4度で一晩被膜された。ディッシュ(dishes)は、軟骨細胞が加えられる前にリン酸緩衝生理食塩水(PBS+)において1%BSA(Sigma)により遮断された。実験対照ディッシュは、リン酸緩衝生理食塩水(PBS+)により4度で一晩処理された。
【0051】
倫理委員会の承認を受けて、半関節形成術を受ける患者から組織は取得された。全深部の軟骨は、極めて正常な大腿顆から除去され、10% FCS (Gibco)を含む1:1 DMEM/F12 (Gibco) で一晩培養された。軟骨細胞はそして、前述した連続的なプロナーゼ(Roche)/コラゲナーゼ(Sigma)消化により単離された(Dowthwaite et al 2004)。一時的に軟骨破片は、プロナーゼ(70 units ml-1 in DMEM/F12 containing 5% FCS)を用いて37度で3時間培養された。プロナーゼは除去され、軟骨はコラゲナーゼ(300 units ml-1 in DMEM/F12 containing 5% FCS)を用いて37度で一晩培養された。軟骨細胞は毎分2000回転で5分間遠心分離され、浮遊物が除去され、血清を含まないDMEM/F12で再懸濁され、カウントされた。単離後、軟骨細胞(1,000 ml-1)は12ウェルプレートの個々のウェルに播種され、0.1% Gentamycin (DMEM/F12-) を含む1:1 DMEM/F12において37度で20分間培養された。20分後、媒体(および非付着細胞)は除去され、この媒体(および非付着細胞)が除去されて第3のディッシュに置かれる前に、第2のディッシュに37度で40分間置かれた。20分間および40分間での媒体の除去後、0.1% Gentamycin と 10% FCS (DMEM/F12+)とを含む新鮮な1:1 DMEM/F12 が、最大で17日間培養維持された残存する接着細胞に添加された。実験対照は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS+)において1% BSAで被膜されるディッシュの差異的付着に影響を受ける細胞を備える。
【0052】
3時間内の被膜で、初期軟骨細胞接着は、位相差光学系を備える倒立顕微鏡を用いて、ディッシュの底に接着する細胞総数の集計により分析され、初期播種密度の割合として表された。32細胞以上から成る軟骨細胞コロニーは、同じ顕微鏡を用いて8日、12日、14日、および17日間で集計された。コロニー形成能(CFE)はコロニーの数を接着細胞の初期数で割り計算された。
【0053】
32細胞以上から成るコロニーが形成されたらすぐに、それらは光学顕微鏡下で確認された。クローンはトリプシン処理(0.25%; Gibco)され、DMEM/F12 + 10% FCSにおいて広範囲に継代培養された。細胞数は各継代および個体群動態で計算された。
【0054】
クローン細胞株は、95% EtOH (Notch 1, STRO1) または 10% NBFS (MSX1)において5分間調整された後、Notch1 (C20, 5ug ml-1; Santa Cruz Biotechnology)、STRO1 (neat TC supernatant, gift from R Oreffo, Southampton University)、およびMSX1 (N20, 5ug ml-1; Santa Cruz Biotechnology)に対する抗体で免疫標識された。一次抗体は、関連する蛍光標識抗体を用いて場所を特定され、蛍光顕微鏡下で観察された。クローン細胞株は、使用説明書に従い10uM緑蛍光色素(cell tracker green)(Invitrogen)で標識され、前に窓付けした(windowed)生後3日の(HH St 12-14)鶏胚の翼芽に注入された。胚はセロテープ(登録商標)により再密封され、様々な時間、最大10日間(HH St 36-37)培養され、翼は10% NBFSにおいて調整され、骨ろうの埋め込み処理された。見本は、蛍光顕微鏡下で検査される前に、10μmで区分され、骨ろうを除去し、DPXに取り付けられた。追加の区分は、5D8 (抗ヒトI型コラーゲン; Abcam)抗体で免疫標識され、蛍光顕微鏡下で観察された。
【0055】
図5に示すように、転写因子MSX1に対する抗体で標識された老化したヒトの組織の骨ろう部、および幹細胞のためのマーカーは、幹細胞が軟骨組織の表面層および中間層の両方に存在したことを示す。これは、幹細胞は軟骨組織の表面にのみ存在すると推測されていた社会通念に反する。
【0056】
(引用文献)
Archer C and Francis-West P (2003) The chondrocyte. Int. J Biochem Cell Biol. 35, 401-404.

Brittberg, M, Lindahl, A, Nilsson, A, Ohlsson, C, Isakssin, O, Peterson, L. (1994) Treatment of deep cartilage defects in the knee with autologous chondrocyte transplantation. N Engl J Med. 331, 889-895.

Dowthwaite, GP, Flannery, CR, Lewthwaite, J, Flannelly, J, Archer, CW and Pitsillides AA. (2003) A mechanism underlying the movement requirement for synovial joint cavitation. Matrix Biol. 22, 311-322.

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Flannery CR, Hughes CE, Schumacher BL, Tudor D, Aydelotte MB, Kuettner KE, Caterson B. (1999) Articular cartilage superficial zone protein (SZP) is homologous to megakaryocyte stimulating factor precursor and Is a multifunctional proteoglycan with potential growth-promoting, cytoprotective, and lubricating properties in cartilage metabolism. Biochem Biophys Res Commun.254, 535-41.

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Knudson CB (2003). Hyaluronan and CD44: strategic players for cell-matrix interactions during chondrogenesis and matrix assembly.
Birth Defects Res C Embryo Today. 69, 174-96.


【特許請求の範囲】
【請求項1】
老化したヒトの軟骨(aged human cartilage)から単離されるヒトの幹細胞。
【請求項2】
前記細胞は、軟骨組織の全深部(full depth)から単離される請求項1に記載の幹細胞。
【請求項3】
前記幹細胞は、軟骨組織の表面層あるいは中間層、またはその両方から単離される請求項1に記載の幹細胞。
【請求項4】
次の特性のいずれか一以上により特徴付けられるヒトの幹細胞。
(1)ヒトの関節軟骨の全深部から単離、
(2)フィブロネクチン、またはRGD配列を含むその断片へ高親和的な接着による単離、
(3)52回を上回る分裂、
(4)任意の結合組織型への分化能、
(5)次の幹細胞マーカーのいずれか一以上の発現:STRO1、MSX1、またはnotch1、
(6)ヒトの老化した軟骨から単離。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1つに記載の前記幹細胞から由来するヒトの結合組織細胞群。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1つに記載の幹細胞の組織修復における使用。
【請求項7】
請求項5に記載のヒトの結合組織細胞の組織修復において用いる使用。
【請求項8】
請求項1乃至4に記載の前記幹細胞または請求項5に記載の細胞群のいずれか1つを備える、組織修復において用いるインプラント。
【請求項9】
(a)軟骨組織の全深部からヒトの関節軟骨組織を取得し、
(b)軟骨細胞を解離させるために酵素の使用により前記組織を消化し、
(c)前記単離された軟骨細胞をフィブロネクチンおよび/またはRGD配列を含むその断片にさらし、
(d)フィブロネクチンまたは前記断片に結合する当該細胞を単離する、
ことを備えるヒトの幹細胞の単離方法。
【請求項10】
前記解離された軟骨細胞は、フィブロネクチン、またはRGD配列を含むフィブロネクチンの断片のようなRGD配列上で培養される請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記関節軟骨はプロナーゼおよびコラゲナーゼを併用して消化される請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記消化された軟骨細胞は、軟骨細胞組織を単離するために濾過または遠心分離される請求項9乃至11のいずれか1つに記載の方法。
【請求項13】
前記関節軟骨組織は老化した組織(aged tissue)である請求項9乃至12のいずれか1つに記載の方法。
【請求項14】
ここに含まれる明細書の記載および図面を参照してここに実質的に記載されるヒトの幹細胞、ヒトの結合組織細胞群、前記幹細胞と前記組織細胞の使用、またはヒトの幹細胞の単離方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−517553(P2010−517553A)
【公表日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−548732(P2009−548732)
【出願日】平成20年2月6日(2008.2.6)
【国際出願番号】PCT/GB2008/000393
【国際公開番号】WO2008/096118
【国際公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【出願人】(501125275)ユニバーシティ カレッジ カーディフ コンサルタンツ リミテッド (5)
【Fターム(参考)】