説明

結晶性−非晶質混合物を含む固体インク組成物

【課題】コーティングされた紙基材に画像を形成するまたは印刷する場合に、優れたレオロジー特性および堅牢性を有する固体インクを提供する。
【解決手段】約140℃で12cps未満の粘度、室温で1×106cpsを超える粘度を有する、少なくとも結晶性構成成分と、約140℃で100cps未満の粘度、および室温で1×106cpsを超える粘度を有する、少なくとも非晶質構成成分と、を含む相転移インクであって、前記相転移インクが、約140℃で12cps未満の粘度、および室温で少なくとも106cpsの粘度を有する、相転移インク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、室温にて固体であり、溶融インクが基材に適用される高温においては溶融状態であることを特徴とする固体インク組成物に関する。これらの固体インク組成物は、インクジェット印刷のために使用できる。本実施形態は、非晶質構成成分、結晶性材料、および場合により着色剤を含む新規な固体インク組成物、およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷プロセスは、室温で固体であり、高温で液体であるインクを利用できる。このようなインクは、固体インク、ホットメルトインク、相転移インクなどと称され得る。ホットメルトインクを利用する熱インクジェット印刷プロセスにおいて、固体インクは、印刷装置において加熱装置によって溶融され、従来の熱インクジェット印刷の場合と同様の様式では液体として利用される(噴出される)。印刷記録媒体と接触する際、溶融インクは素早く固化し、着色剤は、毛細管作用によって記録媒体(例えば紙)にもたらされる代わりに、記録媒体の表面に実質的に留まることができ、それによって液体インクで一般に得られるよりも高いプリント密度を可能にする。故に、インクジェット印刷における相転移インクの利点は、取り扱い中のインクの潜在的な漏出の削除、広範囲のプリント密度および品質、最小の紙のしわまたは湾曲、およびノズルの目詰まりの危険性なく、ノズルのキャッピングさえもない無期限のノンプリンティングが可能である。
【0003】
一般に、相転移インク(「ホットメルトインク」と称される場合もある)は、周囲温度において固相状態であるが、インクジェット印刷デバイスの高い操作温度では液相状態で存在する。ジェット操作温度において、液体インクの液滴は、印刷デバイスから放出され、インク液滴が記録媒体表面と接触したときに、直接または中間加熱転写ベルトもしくはドラムを介して、液滴は素早く固化し、固化したインク液滴の所定のパターンを形成する。
【0004】
カラー印刷のための相転移インクは、通常、相転移インク相溶性の着色剤と組み合わせた相転移インクキャリア組成物を含む。特定実施形態において、一連の着色された相転移インクは、インクキャリア組成物を相溶性の減法混色の原色と組み合わせることによって形成できる。減法混色の原色の着色相転移インクは、4つの構成成分染料または顔料、すなわちシアン、マゼンタ、イエローおよびブラックを含み得るが、インクはこれらの4つの色に限定されない。これらの減法混色の原色着色インクは、単一染料または顔料、または染料もしくは顔料の混合物を用いることによって形成できる。
【0005】
相転移インクは、輸送、長期間貯蔵などの間、室温にて固相状態を保つので、インクジェット印刷機に望ましい。加えて、液体インクジェットインクのインク蒸発の結果としてノズル目詰まりに関連する問題が大きく除外され、それによってインクジェット印刷の忠実度を改善する。さらに、インク液滴が最終記録媒体(例えば、紙、透明材料など)に直接適用される相転移インクジェット印刷機において、液滴は、記録媒体と接触直後に固化し、印刷媒体に沿ったインクの移動が防止され、ドット品質が改善される。
【0006】
上述の従来の固体インク技術は、一般に鮮明な画像を製造し、ジェット使用の経済性および多孔質紙にて基材自由度を与えるのに成功している一方で、こうした技術はコーティングされた紙については満足するものではない。したがって、既知の組成物およびプロセスはそれらの意図する目的に好適であるが、コーティングされた紙基材上に画像を形成するまたは印刷するための追加手段を必要とする。そういうものとして、すべての基材に対して優れた画像堅牢性を顧客に提供するための代替組成物を見出すことが必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
本明細書に例示される実施形態によれば、コーティングされた紙基材に印刷を含むインクジェット印刷のための優れた堅牢性を示す結晶性構成成分および非晶質構成成分の混合物を含む新規な固体インク組成物を提供する。
【0008】
特に、本実施形態は、約140℃で10cps未満の粘度、室温で1×10cpsを超える粘度を有する少なくとも結晶性構成成分、および約140℃で100cps未満の粘度、および室温で1×106cpsを超える粘度を有する少なくとも非晶質構成成分を含む相転移インクを提供し、ここで、相転移インクは、約140℃で12cps未満の粘度、および室温で少なくとも10cpsの粘度を有する。
【0009】
さらなる実施形態において、少なくとも結晶性構成成分、および少なくとも非晶質構成成分を含む相転移インクを提供し、この相転移インクが、約140℃の温度で約12cps未満の粘度、および室温で少なくとも約10cpsの粘度を有する。
【0010】
さらなる他の実施形態において、インクジェット印刷装置に相転移インクを組み込む工程、インクジェット印刷装置内部にて相転移インクを溶融する工程、および溶融したインクの液滴を基材上に放出させて画像を形成する工程を含む印刷方法を提供し、この相転移インクは、少なくとも結晶性構成成分および少なくとも非晶質構成成分を含み、この相転移インクが、約140℃の温度で約12cps未満の粘度、および室温で少なくとも約10cpsの粘度を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施形態によって製造された固体インクの温度に対する複素粘度を例示するグラフである。
【図2】本実施形態によって製造された固体インクにレオロジー特性を例示するグラフである。
【図3】本実施形態によって製造された代替固体インクのレオロジー特性を例示するグラフである。
【図4】本実施形態によって製造された代替固体インクのレオロジー特性を例示するグラフである。
【図5】本実施形態によって製造された代替固体インクのレオロジー特性を例示するグラフである。
【0012】
すべてのレオロジー測定は、Peltier加熱プレートを備えたRFS3制御された歪レオメータ(TA instruments)にて、25mm平行プレートを用いて行った。使用された方法は、5℃の温度増加分にて、各温度の間は120秒の浸漬(平衡)時間で、1Hzの一定周波数にて高温から低温に温度を一掃させた。
【発明を実施するための形態】
【0013】
固体インク技術は、多くの市場に対して印刷能および顧客基盤を拡大し、印刷用途の多様性は、プリントヘッド技術、プリントプロセスおよびインク材料の有効な集積によって促進される。固体インク組成物は、室温(例えば20〜27℃)にて固体であり、溶融インクが基材に適用される高温においては溶融状態であることを特徴とする。上で議論されたように、現在のインク選択肢は多孔質紙基材について成功しているが、これらの選択肢はコーティングされた紙基材については必ずしも満足するものではない。
【0014】
固体インク配合物における結晶性および非晶質構成成分の混合物を用いることにより、堅牢性インクを提供し、特にコーティングされた紙上に堅牢性の画像を示す固体インクを提供することを見出した。結晶性材料は、示差走査熱量測定(DSC)によって溶融および結晶化ピークを示す材料を指す。反対に、非晶質材料は、溶融および結晶化ピーク、唯一のガラス転移温度(Tg)またはガラス転移温度を示さない。しかし、これらの材料の混合物を用いることは、結晶性材料または非晶質材料の既知の特性からは驚くべきことである。結晶性材料について、小分子は、一般に固化するときに結晶化する傾向があり、低分子量の有機固体は一般に結晶である。結晶性材料は一般に硬質であり、より抵抗性であるが、こうした材料は相当脆弱でもあり、結果として主に結晶性のインク組成物を用いて製造された印刷物は損傷に対して非常に感受性となる。非晶質材料に関して、高分子量の非晶質材料、例えばポリマーは、高温で粘稠になり、粘着性の液体になるが、高温において十分に低い粘度を示さない。結果として、ポリマーは、所望の噴出温度(≦140℃)にてプリントヘッドノズルから噴出させることができない。しかし、本実施形態において、堅牢性の固体インクは、結晶性および非晶質構成成分のブレンドを通して得ることができることを見出した。
【0015】
本実施形態は、一般にそれぞれ約60:40〜約95:5の重量比において(1)結晶性および(2)非晶質構成成分のブレンドを含む固体インク組成物の新規なタイプを提供する。より詳細な実施形態において、結晶性構成成分と非晶質構成成分との重量比は、約65:35〜約95:5、または約70:30〜約90:10である。実施形態の1つでは、重量比は70:30である。別の実施形態において、重量比は80:20である。一般の実施形態において、結晶性構成成分は、固体インクの総重量の60重量%以上で含まれる。一般の実施形態において、非晶質構成成分は、固体インクの総重量の5重量%以上で含まれる。
【0016】
結晶性構成成分は、インクに硬度を付与し、非晶質樹脂のタックを削減し、冷却時の迅速な結晶化を通してインクの相転移を駆動する。非晶質樹脂は、インクに可撓性および靭性を与え、ならびにインク中の他の材料を共に結合するように設計される。本実施形態に使用される非晶質材料は、小さい分岐分子に基づく。
【0017】
インク配合物中の結晶性構成成分は、冷却時の迅速な結晶化を通して相転移を駆動する。結晶性構成成分はまた、最終インクフィルムの構造を設定し、非晶質構成成分のタックを低下させることによって硬質インクを創製する。これらの材料は、約140℃で溶融時に結晶化を示さず、相対的に低い粘度(≦10センチポイズ(cps)、または約0.5cps〜約10cps、または約1cps〜約10cps、または約1.5cps〜約9cps)を示し、室温にて高い粘度(>10cps)を示す。結晶性構成成分はインクの相転移に影響するので、必要に応じて直後のさらなるプリント処理(すなわち展延、両面印刷など)を可能にし、コーティングされていない基材に過剰の裏写りを防止するために、迅速な結晶化が必要とされる。示差走査熱量測定(DSC)(−50から、200〜−50℃まで10℃/分)によって、所望の結晶性構成成分は、シャープな結晶化および溶融ピークを示し、ΔT(Tmelt−Tcrys)は55℃未満である。結晶性構成成分の相転移温度は、一般に70℃〜130℃で生じる。融点は150℃未満でなければならず、これは噴出温度の上限であり、または好ましくは約145℃未満または約140℃未満である。融点は、65℃を超えるのが好ましく、65℃まで、またはより好ましくは約66℃を超える、または約67℃を超える温度にあるときにブロッキングおよびプリント転写を妨げる。好適な結晶性材料の例を表1に例示する。
【0018】
【表1】

サンプルは、Q1000示差走査熱量計(TA Instruments)にて、10℃/分の速度にて−50℃から、200〜−50℃までで測定された、中間値が引用されている。
**サンプルは、Peltier加熱プレートを備えたRFS3制御された歪レオメータ(TA instruments)にて、25mm平行プレートを用いて測定された。使用された方法は、5℃の温度増加分にて、各温度の間は120秒の浸漬(平衡)時間で、1Hzの一定周波数にて高温から低温に温度を一掃させた。
【0019】
非晶質構成成分は、タックを提供し、印刷されたインクに堅牢性を付与する。本実施形態において、所望の非晶質材料は、約140℃で相対的に低い粘度(<10cps、または約1cps〜約100cps、または約5cps〜約95cps、または約10cps〜約90cps)を有するが、室温にて非常に高い粘度(約>10cps)を有する。一般に、非晶質構成成分の粘度は、40℃未満の温度にて10cpsを超える。約140℃での低い粘度は、広い配合自由度を提供する一方で、室温での高い粘度が堅牢性を付与する。非晶質材料は、Tgを有するが、DSC(−50から、200〜−50℃まで10℃/分)では結晶化および溶融ピークを示さない。Tg値は、通常、約10〜約50℃、または約10℃〜約45℃、または約10℃〜約40℃、または約10℃〜約35℃であり、所望の強靭性および可撓性をインクに付与する。選択された非晶質材料は、1000g/mol未満、または約100g/mol〜約1000g/mol、または約200g/mol〜約1000g/mol、または約300g/mol〜約1000g/molのような低分子量を有する。高分子量の非晶質材料、例えばポリマーは、高温で粘稠になり、粘着性の液体になるが、所望の温度では圧電プリントヘッドを用いて噴出可能になるには高すぎる粘度を有する。好適な結晶性材料の例を表2に例示する。
【0020】
【表2】

サンプルは、Q1000示差走査熱量計(TA Instruments)にて、10℃/分の速度にて−50℃から、200〜−50℃までで測定された、中間値が引用されている。
**サンプルは、Peltier加熱プレートを備えたRFS3制御された歪レオメータ(TA instruments)にて、25mm平行プレートを用いて測定された。使用された方法は、5℃の温度増加分にて、各温度の間は120秒の浸漬(平衡)時間で、1Hzの一定周波数にて高温から低温に温度を一掃させた。
【0021】
さらなる実施形態において、得られたインクは、約140℃の温度で約1cps〜約15cps、または約2cps〜約14cps、または約3cps〜約13cpsの粘度を有する。得られたインクは、室温にて約≧10cpsの粘度を有する。粘度の増大は、液滴の展延を制御し、必要に応じて直後のさらなるプリント処理(すなわち展延、両面印刷など)を可能にし、コーティングされていない基材での過剰の裏写りを防止するために、噴出直後に生じなければならない。インク粘度は、通常、噴出時の約10cps〜12cpsから、約65℃〜130℃の温度での約10cps〜10cps以上に変化し、これを相転移と称する。本実施形態のインクの貯蔵または弾性率G’は、相転移の前には非常に低く、約10−1〜約10−8Pa、または約10−2〜約10−7Pa、または約10−3〜約10−6Paであり、相転移後に、約10〜10Pa、または約10〜約10Pa、または約10〜約10Paの範囲の値に増大する。本実施形態によって製造された4つの異なる固体インクの温度に対してプロットされたlog複素粘度の形状を例示する。示されるように、相転移前の領域における曲線の傾きを低くして、噴出温度に自由度を与えるのが望ましい。図1に示される曲線の傾きに反映されるように、液滴の展延を制御し、必要に応じて直後のさらなるプリント処理(すなわち展延、両面印刷など)を可能にし、コーティングされていない基材への過剰の裏写りを防止するために、高い粘度へのシャープで急勾配の転移を有することが望ましい。0.2℃〜0.4℃−1以上の傾きの絶対値が望ましい。高い粘度に到達したら、log複素粘度の傾きは低下しなければならず、噴出領域における傾きと同程度に低くなり得る。
【0022】
実施形態のインクは、従来の添加剤をさらに含み、こうした従来の添加剤に関連した既知の機能を活用してもよい。こうした添加剤としては、例えば少なくとも1つの酸化防止剤、消泡剤、スリップおよび平滑剤、浄化剤、粘度調整剤、接着剤、可塑剤などを挙げることができる。
【0023】
インクは、場合により、酸化から画像を保護するための酸化防止剤を含有してもよく、またインク貯蔵器にて加熱された溶融物として存在しつつ酸化からインク構成成分を保護してもよい。好適な酸化防止剤の例としては、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナムアミド)(IRGANOX 1098、BASFから入手可能)、2,2−ビス(4−(2−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナモイルオキシ))エトキシフェニル)プロパン(TOPANOL−205、Vertullusから入手可能)、トリス(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌレート(Aldrich)、2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)フルオロホスホナイト(ETHANOX−398、Albermarle Corporationから入手可能)、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニルジホスホナイト(Aldrich)、ペンタエリスリトールテトラステアレート(TCI America)、トリブチルアンモニウム次亜リン酸塩(Aldrich)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メトキシフェノール(Aldrich)、2,4−ジ−tert−ブチル−6−(4−メトキシベンジル)フェノール(Aldrich)、4−ブロモ−2,6−ジメチルフェノール(Aldrich)、4−ブロモ−3,5−ジジメチルフェノ−ル(Aldrich)、4−ブロモ−2−ニトロフェノール(Aldrich)、4−(ジエチルアミノメチル)−2,5−ジメチルフェノール(Aldrich)、3−ジメチルアミノフェノール(Aldrich)、2−アミノ−4−tert−アミルフェノール(Aldrich)、2,6−ビス(ヒドロキシメチル)−p−クレゾール(Aldrich)、2,2’−メチレンジフェノール(Aldrich)、5−(ジエチルアミノ)−2−ニトロソフェノール(Aldrich)、2,6−ジクロロ−4−フルオロフェノール(Aldrich)、2,6−ジブロモフルオロフェノール(Aldrich)、α−トリフルオロ−o−クレゾール−1(Aldrich)、2−ブロモ−4−フルオロフェノール(Aldrich)、4−フルオロフェノール(Aldrich)、4−クロロフェニル−2−クロロ−1,1,2−トリ−フルオロエチルスルホン(Aldrich)、3,4−ジフルオロフェニル酢酸(Adrich)、3−フルオロフェニル酢酸(Aldrich)、3,5−ジフルオロフェニル酢酸(Aldrich)、2−フルオロフェニル酢酸(Aldrich)、2,5−ビス(トリフルオロメチル)安息香酸(Aldrich)、エチル−2−(4−(4−(トリフルオロメチル)フェノキシ)フェノキシ)プロピオネート(Aldrich)、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニルジホスホナイト(Aldrich)、4−tert−アミルフェノール(Aldrich)、3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェネチルアルコール(Aldrich)、NAUGARD 76、NAUGARD 445、NAUGARD 512、およびNAUGARD 524(Chemtura Corporationが製造)など、ならびにこれらの混合物が挙げられる。存在する場合、酸化防止剤は、いずれかの所望のまたは有効な量、例えばインクの約0.25重量%〜約10重量%またはインクの約1重量%〜約5重量%でインク中に存在してもよい。
【0024】
さらなる実施形態において、固体インクは、場合により、染料または顔料のような着色剤を含有してもよい。故に本実施形態のインクは、着色剤を有するまたは有していないインクであることができる。着色剤は、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック(CMYK)セットから、またはカスタムカラー染料または顔料または顔料混合物から得られたスポットカラーからのいずれかであることができる。いずれかの所望のまたは有効な着色剤は、着色剤がインクキャリア中に溶解または分散でき、他のインク構成成分と相溶性である限り、相転移インク組成物に利用されることができ、それらとしては染料、顔料、これらの混合物などが挙げられる。染料系着色剤は、結晶性および非晶質構成成分およびいずれかの他の添加剤を含むインクベース組成物と混和性である。
【0025】
実施形態において、本明細書で記載される相転移インク組成物はまた、着色剤を含む。いずれかの所望のまたは有効な着色剤は、着色剤がインクキャリア中に溶解または分散できる限り、相転移インク組成物に利用されることができ、それらとしては染料、顔料、これらの混合物などが挙げられる。インクキャリア中に分散または溶解でき、他のインク構成成分と相溶性である限り、いかなる染料または顔料が選択されてもよい。相転移キャリア組成物は、従来の相転移インク着色剤材料、例えばカラーインデックス(C.I.)溶媒染料、分散染料、改質酸および直接染料、塩基性染料、硫黄染料、バット染料などと組み合わせて使用できる。好適な染料の例としては、Neozapon Red 492(BASF)、Orasol Red G(Pylam Products)、Direct Brilliant Pink B(Oriental Giant Dyes)、Direct Red 3BL(Classic Dyestuffs)、Supranol Brilliant Red 3BW(Bayer AG)、Lemon Yellow 6G(United Chemie)、Light Fast Yellow 3G(Shaanxi)、Aizen Spilon Yellow C−GNH(Hodogaya Chemical)、Bemachrome Yellow GD Sub(Classic Dyestuffs)、Cartasol Brilliant Yellow 4GF(Clariant)、Cibanone Yellow 2G(Classic Dyestuffs)、Orasol Black RLI(BASF)、Orasol Black CN(Pylam Products)、Savinyl Black RLSN(Clariant)、Pyrazol Black BG(Clariant)、Morfast Black101(Rohm&Haas)、Diaazol Black RN(ICI)、Thermoplast Blue 670(BASF)、Orasol Blue GN(Pylam Products)、Savinyl Blue GLS(Clariant)、Luxol Fast Blue MBSN(Pylam Products)、Sevron Blue 5GMF(Classic Dyestuffs)、Basacid Blue 750(BASF)、Keyplast Blue(Keystone Aniline Corporation)、Neozapon Black X51(BASF)、Classic Solvent Black 7(Classic Dyestuffs)、Sudan Blue 670(C.I.61554)(BASF)、Sudan Yellow 146(C.I.12700)(BASF)、Sudan Red 462(C.I.26050)(BASF)、C.I.Disperse Yellow 238、Neptune Red Base NB 543(BASF、C.I.Solvent Red49)、Neopen Blue FF−4012(BASF)、Fatsol Black BR(C.I.Solvent Black 35)(Chemische Fabriek Triade BV)、Morton Morplas Magenta 36(C.I.Solvent Red 172)、金属フタロシアニン着色剤が挙げられる。ポリマー染料はまた、例えばMilliken&CompanyからMilliken Ink Yellow 869として、Milliken Ink Blue 92、Milliken Ink Red 357、Milliken Ink Yellow 1800、Milliken Ink Black 8915−67、uncut Reactint Orange X−38、uncut Reactint Blue X−17、Solvent Yellow 162、Acid Red 52、Solvent Blue 44、およびuncut Reactint Violet X−80から市販されるものが使用できる。
【0026】
顔料はまた、相転移インクのための好適な着色剤である。好適な顔料の例としては、PALIOGEN Violet 5100(BASF)、PALIOGEN Violet 5890(BASF)、HELIOGEN Green L8730(BASF)、LITHOL Scarlet D3700(BASF)、SUNFAST Blue 15:4(Sun Chemical)、Hostaperm Blue B2G−D(Clariant)、Hostaperm Blue B4G(Clariant)、Permanent Red P−F7RK、Hostaperm Violet BL(Clariant)、LITHOL Scarlet 4440(BASF)、Bon Red C(Dominion Color Company)、ORACET Pink RF(BASF)、PALIOGEN Red 3871K(BASF)、SUNFAST Blue 15:3(Sun Chemical)、PALIOGEN Red 3340(BASF)、SUNFAST Carbazole Violet 23(Sun Chemical)、LITHOL Fast Scarlet L4300(BASF)、SUNBRITE Yellow 17(Sun Chemical)、HELIOGEN Blue L6900、L7020(BASF)、SUNBRITE Yellow 74(Sun Chemical)、SPECTRA PAC C Orange 16(Sun Chemical)、HELIOGEN Blue K6902、K6910(BASF)、SUNFAST Magenta 122(Sun Chemical)、HELIOGEN Blue D6840、D7080(BASF)、Sudan Blue OS(BASF)、NEOPEN Blue FF4012(BASF)、PV Fast Blue B2GO1(Clariant)、IRGALITE Blue GLO(BASF)、PALIOGEN Blue6470(BASF)、Sudan Orange G(Aldrich)、Sudan Orange 220(BASF)、PALIOGEN Orange 3040(BASF)、PALIOGEN Yellow152、1560(BASF)、LITHOL Fast Yellow0991K(BASF)、PALIOTOL Yellow1840(BASF)、NOVOPERM Yellow FGL(Clariant)、Ink Jet Yellow4G VP2532(Clariant)、Toner Yellow HG(Clariant)、Lumogen Yellow D0790(BASF)、Suco−Yellow L1250(BASF)、Suco−Yellow D1355(BASF)、Suco Fast Yellow D1355、D1351(BASF)、HOSTAPERM Pink E02(Clariant)、Hansa Brilliant Yellow 5GX03(Clariant)、Permanent Yellow GRL02(Clariant)、Permanent Rubine L6B05(Clariant)、FANAL Pink D4830(BASF)、CINQUASIA Magenta(DU PONT)、PALIOGEN Black L0084(BASF)、Pigment Black K801(BASF)、およびカーボンブラック、例えばREGAL 330(登録商標)(Cabot)、Nipex 150(Evonik)Carbon Black 5250およびCarbon Black 5750(Columbia Chemical)など、ならびにこれらの混合物が挙げられる。
【0027】
インクベース中の顔料分散液は、共力剤および分散剤によって安定化されてもよい。一般に、好適な顔料は、有機材料または無機材料であってもよい。磁気材料系顔料はまた、例えば堅牢性磁気インク文字認識(MICR)インクの製作に好適である。磁気顔料としては、磁気ナノ粒子、例えば強磁性ナノ粒子が挙げられる。
【0028】
実施形態において、溶媒染料が利用される。本明細書に使用するのに好適な溶媒染料の例としては、本明細書に開示されるインクキャリアとの相溶性のためにスピリットソルブル染料を挙げることができる。好適なスピリット溶媒染料の例としては、Neozapon Red 492(BASF)、Orasol Red G(Pylam Products)、Direct Brilliant Pink B(Global Colors)、Aizen Spilon Red C−BH(Hodogaya Chemical)、Kayanol Red 3BL(Nippon Kayaku)、Spirit Fast Yellow 3G、Aizen Spilon Yellow C−GNH(Hodogaya Chemical)、Cartasol Brilliant Yellow 4GF(Clariant)、Pergasol Yellow 5RA EX(Classic Dyestuffs)、Orasol Black RLI(BASF)、Orasol BlueGN(Pylam Products)、Savinyl Black RLS(Clariant)、Morfast Black 101(Rohm and Haas)、Thermoplast Blue 670(BASF)、Savinyl Blue GLS(Sandoz)、Luxol Fast Blue MBSN(Pylam)、Sevron Blue 5GMF(Classic Dyestuffs)、Basacid Blue 750(BASF)、Keyplast Blue(Keystone Aniline Corporation)、Neozapon Black X51(C.I.Solvent Black、C.I.12195)(BASF)、Sudan Blue 670(C.I.61554)(BASF)、Sudan Yellow 146(C.I.12700)(BASF)、Sudan Red 462(C.I.260501)(BASF)、これらの混合物などが挙げられる。
【0029】
着色剤は、所望の色または色相を得るためにいずれかの所望のまたは有効な量、例えば少なくともインクの約0.1重量%〜インクの約50重量%、少なくともインクの約0.2重量%〜インクの約20重量%、および少なくともインクの約0.5重量%〜インクの約10重量%で相転移インク中に存在してもよい。
【0030】
実施形態において、インクは、約140℃の温度で約1cps〜約15cps、例えば約2cps〜約14cps、または約3cps〜約13cpsの粘度を有する。
【0031】
インク組成物は、いずれかの所望のまたは好適な方法によって調製できる。例えば、インクキャリアの各構成成分は、共に混合されることができ、その後この混合物を少なくともその融点、例えば約60℃〜約150℃、80℃〜約145℃および85℃〜約140℃に加熱する。着色剤は、インク成分を加熱する前またはインク成分を加熱した後に添加されてもよい。顔料が選択された着色剤である場合、溶融混合物は、磨砕機または媒体ミル装置での粉砕に供されることができ、インクキャリア中の顔料の分散に影響を与える。次いで加熱された混合物は、約5秒〜約30分以上撹拌され、実質的に均質で、均一な溶融物が得られ、続いてインクを周囲温度(通常約20℃〜約25℃)まで冷却する。インクは周囲温度にて固体である。インクは、直接印刷インクジェットプロセスのための装置および間接(オフセット)印刷インクジェット用途に利用できる。本明細書に開示される別の実施形態は、本明細書に開示されるインクをインクジェット印刷装置に組み込む工程、インクを溶融する工程、および溶融したインクの液滴を記録基材上に画像様パターンに放出させる工程を含むプロセスを対象とする。本明細書に開示されるさらに別の実施形態は、本明細書に開示されるインクをインクジェット印刷装置に組み込む工程、インクを溶融させる工程、溶融したインクの液滴を中間転写部材上に画像様パターンに放出させる工程および中間転写部材から画像様パターンのインクを最終記録基材に転写する工程を含むプロセスを対象とする。特定実施形態において、中間転写部材を、最終記録シートを超える温度で、印刷装置の溶融したインクの温度未満の温度に加熱する。別の特定実施形態において、中間転写部材および最終記録シート両方を加熱し、この実施形態において、中間転写部材および最終記録シートの両方を印刷装置の溶融インクの温度未満の温度に加熱し、この実施形態において、中間転写部材および最終記録シートの相対温度は、(1)中間転写部材を、最終記録基材を超える温度で、印刷装置の溶融したインクの温度未満の温度に加熱する、(2)最終記録基材を、中間転写部材の温度を超える温度で、印刷装置の溶融したインクの温度未満の温度に加熱する、または(3)中間転写部材および最終記録シートをほぼ同じ温度に加熱することであることができる。1つの特定実施形態において、印刷装置は、圧電印刷プロセスを利用するが、ここでインクの液滴は、圧電振動素子の振幅によって画像様パターンに放出される。本明細書に開示されたインクはまた、他のホットメルト印刷プロセス、例えばホットメルト音響インクジェット印刷、ホットメルト熱インクジェット印刷、ホットメルト連続ストリームまたは偏向インクジェット印刷などに利用されることができる。本明細書に開示される相転移インクはまた、ホットメルトインクジェット印刷プロセス以外の印刷プロセスに使用できる。
【0032】
いずれかの好適な基材または記録シートが利用でき、これらとしては、普通紙、例えばXEROX 4200紙、XEROX Image Series紙、Courtland4024DP紙、罫線入りノート紙、ボンド紙、シリカコーティングされた紙、例えばSharp Companyシリカコーティングされた紙、JuJo紙、HAMMERMILL LASERPRINT紙など、光沢コーティングされた紙、例えばXEROX Digital Color Elite Gloss、Sappi Warren Papers LUSTROGLOSS、特にXerox DURAPAPERなどのような紙、透明材料、布地、繊維製品、プラスチック、ポリマーフィルム、無機記録媒体、例えば金属および木材など、透明材料、布地、繊維製品、プラスチック、ポリマーフィルム、無機基材、例えば金属および木材などが挙げられる。
【0033】
本明細書に記載されるインクはさらに、次の実施例に例示される。すべての部およびパーセンテージは、特に指示のない限り重量による。
【実施例】
【0034】
実施例1
固体インクの調製
非晶質および結晶性材料を合成した。対象とする化学構造および特性を表1(結晶性構成成分)および表2(非晶質構成成分)に示す。
【0035】
効率の良い噴出を可能にするために、インク配合物は溶融時に均質でなければならない。故に、非晶質および結晶性材料は、溶融時に混和性でなければならず、結晶性構成成分は、噴出温度において長期間あるときに相分離してはならない。実験により、上述の材料に関して、結晶性構成成分と非晶質構成成分との好ましい比は、それぞれ65:35〜約95:5(w/w)であったが、結晶性材料のレベルがより高いまたはわずかに低くてもよい。使用される特定の結晶性および非晶質構成成分に依存して、最適な性能は、比がそれぞれ約65:35〜約95:5(w/w)にあるときに期待される。いくつかのインクは、表3Aおよび3Bに例示されるように、結晶性および非晶質構成成分を溶融混合することによって配合した。すべてのレオロジー測定は、Peltier加熱プレートを備えたRFS3制御された歪レオメータ(TA instruments)にて、25mm平行プレートを用いて行った。使用された方法は、5℃の温度増加分にて、各温度の間は120秒の浸漬(平衡)時間で、1Hzの一定周波数にて高温から低温に温度を一掃させた。
【0036】
【表3−1】

同時係属中の米国特許出願整理番号13/095,715(代理人明細書番号20101141−390607)に記載されているように合成された。
ii 同時係属中の米国特許出願整理番号13/095,770(代理人明細書番号20101142−390608)に記載されているように合成された。
iii 同時係属中の米国特許出願整理番号13/095,555(代理人明細書番号20101094−390676)に記載されているように合成された。
iv 同時係属中の米国特許出願整理番号13/095,784(代理人明細書番号20101140−390605)に記載されているように合成された。
同時係属中の米国特許出願整理番号13/095,795(代理人明細書番号20100868−388982)に記載されているように合成された。
【0037】
【表3−2】

vi インクの粘度が11cpsであるときの温度を近似。
vii 粘度が少なくとも約100倍増大する(すなわち相転移)前の最後の温度測定。
viii 相転移が生じる前の最小G’値(上記留意viiを参照)、G’minは、T相転移から140℃の間で生じる。
ix 相転移が生じた後の最大G’値(上記留意viiを参照)、G’maxはT相転移から室温までの間で生じる。
相転移について温度の関数としてのΔlog複素粘度の傾きの絶対値(上記留意viiを参照)。
【0038】
図1に示されるように、4つの調製されたインクの温度に対してプロットされたlog複素粘度の形状を例示する。
【0039】
実施形態において、所望の固体インクの転移相についてのターゲット値は、約65〜130℃の温度で生じ、粘度が約11cpsである温度(Tjet)は約100〜約140℃である。こうした実施形態において、G’minのターゲット値は約10−2〜約10−7Paであり、G’maxは約10〜約10Paであり、傾き相転移の絶対値(Δlog複素粘度/ΔT)は0.2℃−1を超える。
【0040】
インクA〜Dの分析は、上記ターゲット値をすべて満たすことを実証した。例えば、インクAからDの転移相が約65℃〜110℃の温度で生じ、粘度が約11cpsであった温度(Tjet)は約105〜約120℃であった。加えて、固体インクAからDのG’minの値は約10−3〜約10−6Paであり、固体インクAからDのG’maxは約10〜約10Paであり、傾き相転移(Δlog複素粘度/ΔT)は0.6〜約1.0℃−1であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
約140℃で12cps未満の粘度、室温で1×10cpsを超える粘度を有する、少なくとも結晶性構成成分と、
約140℃で100cps未満の粘度、および室温で1×10cpsを超える粘度を有する、少なくとも非晶質構成成分と、を含む相転移インクであって、前記相転移インクが、約140℃で12cps未満の粘度、および室温で少なくとも10cpsの粘度を有する、相転移インク。
【請求項2】
約65〜約130℃の温度にて相転移を有する、請求項1に記載の相転移インク。
【請求項3】
前記相転移インクの粘度が、約65℃未満の温度にて少なくとも約10cpsに増大する、請求項1に記載の相転移インク。
【請求項4】
前記相転移インクが液体である場合に、約10−2〜約10−8Paの弾性率G’minを有する、請求項1に記載の相転移インク。
【請求項5】
前記相転移インクが固体である場合に、約10〜約10Paの弾性率G’maxを有する、請求項1に記載の相転移インク。
【請求項6】
相転移の傾きの絶対値(Δlog複素粘度/ΔT)が0.2℃−1以上である、請求項1に記載の相転移インク。
【請求項7】
前記結晶性構成成分が、前記相転移インクの総重量の60重量%以上で含まれ、前記非晶質構成成分が、前記相転移インクの総重量の5重量%以上で含まれる、請求項1に記載の相転移インク。
【請求項8】
前記結晶性および非晶質構成成分が、約60:40〜約95:5の重量比でブレンドされる、請求項1に記載の相転移インク。
【請求項9】
顔料、染料またはこれらの混合物からなる群から選択される着色剤をさらに含む、請求項1に記載の相転移インク。
【請求項10】
印刷方法であって、
インクジェット印刷装置に相転移インクを組み込む工程であって、この相転移インクが、
少なくとも結晶性構成成分と、
少なくとも非晶質構成成分と、を含み、前記相転移インクが、約140℃の温度で約12cps未満の粘度、および室温で少なくとも10cpsの粘度を有する、工程と、
このインクジェット印刷装置内部にて前記相転移インクを溶融する工程と、
前記溶融したインクの液滴を基材に放出して画像を形成する工程と、
を含む、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−233175(P2012−233175A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−91198(P2012−91198)
【出願日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】