説明

結晶性ポリアミド微粒子の製造方法

【課題】結晶性ポリアミドの微粒子を大きな容量の槽内で製造することが可能であり、従って溶解槽内で析出させることも可能で、簡便で再現性良く、粒径のばらつきが小さく、不規則な形状の粒子が発生しにくいポリアミド微粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】ポリアミドと、そのポリアミドに対し相分離温度以上では溶媒として作用し、相分離温度以下では非溶媒として作用する溶剤とを混合し、その混合物を加熱することによってポリアミド溶液を生成し、このポリアミド溶液を、相分離槽の槽内で器壁に析出しないように攪拌をしながら冷却する、結晶性ポリアミド微粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶性ポリアミド微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】特開昭52−107047号公報
【特許文献2】特開昭62−218421号公報
【特許文献3】特開平5−32795号公報
【特許文献4】特開平8−12765号公報
【特許文献5】特開2006−169373号公報
【特許文献6】特開2006−328173号公報
【0003】
結晶性ポリアミドの微粒子は、粉体塗料用材料、成型用焼結剤、塗料用配合剤、潤滑油添加剤、化粧品用基材、吸着剤、接着剤用配合剤、樹脂改質剤、複合粒子基材等として有用である。
【0004】
従来、結晶性ポリアミド粉末の製造方法として、結晶性ポリアミドのブロックやペレットをボールミル等により機械的に破砕する方法;結晶性ポリアミドの重合工程で製造する方法;結晶性ポリアミドを溶剤に溶解し、その溶液に非溶媒を加える方法、あるいは、温度によって結晶性ポリアミドの溶解性が変化する溶剤を用いて、その溶液に混合した結晶性ポリアミドを加熱して溶解し、その溶液を冷却する方法等が知られている。
【0005】
結晶性ポリアミドの重合工程で製造する方法、または、溶液から非溶媒等を用いて析出させて製造する方法を用いた場合、結晶性ポリアミドは丸みを帯びた粒子として得られる。しかし、結晶性ポリアミドのペレットなどをボールミル等により機械的に粉砕する方法では角を持った粉体しか得られない。
【0006】
一方、ポリアミドを溶解した溶液から析出させる方法として、ポリアミドと、ポリアミドに対して高温(溶解温度以上)では溶媒として作用し、低温(相分離温度以下)では非溶媒として作用する溶剤とを混合し、その後、加熱することによって均一溶液を生成し、この均一溶液を冷却することによりポリアミドの微粒子を析出する方法(以下、溶媒法という)が知られている(特許文献1〜6参照)。
【0007】
特許文献1には、ポリアミドを含水低級アルコールに高温高圧で溶解し、その均一溶液を冷却してポリアミドを析出させるポリアミド微粒子の製造方法が開示されている。ここで含水低級アルコールとして、メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール等が挙げられている。
【0008】
特許文献2には、ナイロン6、ナイロン12を低級アルコール溶媒に加熱溶解したのち、その均一溶液を徐冷してポリアミドを析出させるポリアミド微粒子の製造方法が開示されている。
【0009】
特許文献3には、非結晶性ポリアミドをエチレングリコールとモルフォリンまたはジメチルアミドの混合溶剤中に加熱溶解させ、その均一溶液を上層から冷却して効率良くポリアミドを析出させ、槽底部へのナイロン樹脂膜が生成するのを防止するポリアミド微粒子の製造方法が開示されている。
【0010】
特許文献4には、結晶性ポリアミドを相分離用溶媒に高温で溶解し、その均一溶液を相分離させながら冷却し、ポリアミドを単球晶状粒子として相分離された溶液を形成させ、溶媒のみを除去してポリアミド微粒子を得る、結晶性ポリアミド微粒子の製造方法が開示されている。
【0011】
また本出願人の出願に係る特許文献5には、ナイロン12をジプロピレングリコールに加熱溶解させ、この均一溶液を5℃/分以下で冷却することにより、ナイロン12の微粒子を析出させるポリアミド微粒子の製造方法が記載されている。
【0012】
これらの溶媒法を用いてポリアミド微粒子を量産する場合、ポリアミドと溶媒とを大容量の溶解槽で混合加熱し、その溶解槽を相分離槽としてその槽内で冷却するか、または別に設けた相分離槽へ移送した後、冷却することになる。このとき槽内の中心部と器壁に近い部分との間で温度差等が生じ、槽内の全域を一定に保持しながら冷却することは困難である。そのため、粒子の粒度分布幅が広くなったり、粒子同士がブドウの房状にくっついた塊になったりする問題があった。
【0013】
さらに、均一溶液を溶解槽内で冷却する手段として熱交換器を用いることも考えられるが、その場合、熱交換器上にポリアミドの凝集物が形成され、連続的な生産には適していない。
【0014】
このような問題点を解決すべく、本出願人は、特許文献6に示すように、ポリアミドと、溶解温度でそのポリアミドを溶解し、かつ相分離温度以上でそのポリアミドに対して溶媒として作用し、相分離温度以下では非溶媒として作用する溶剤とを混合加熱して生成した均一溶液を、一定温度で保持された平面状素材あるいは線状素材の表面上で塗膜を形成させて冷却することによって球状粒子を析出させる方法を提示した。これにより、素材上の均一溶液全体の冷却速度を一定に保つことができ、また、均一溶液を静止の状態または層流の状態(乱流が形成しない状態)で冷却することができ、平均粒径が数μmから数十μmのポリアミド微粒子をバラツキ無く簡便に、そして再現性良く生産することができた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献6の方法は、溶解混合は多量にできるが、その後の析出工程では浅いパレット状の容量の小さい容器で行う必要がある。また量産するためには多数の前記パレットが必要である。
本発明は、特許文献6とは異なる方法で、結晶性ポリアミドの微粒子を大きな容量の槽内で製造することが可能であり、従って溶解槽内で析出させることも可能で、簡便で再現性良く、粒径のばらつきが小さく、不規則な形状の粒子が発生しにくいポリアミド微粒子の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の結晶性ポリアミド微粒子の製造方法は、結晶性ポリアミドと、そのポリアミドに対し相分離温度以上では溶媒として作用し、相分離温度以下では非溶媒として作用する溶剤とを混合し、その混合物を加熱することによってポリアミド溶液を生成し、このポリアミド溶液を、相分離槽の器壁にポリアミドが析出しないように攪拌しながら相分離温度以下まで冷却することを特徴としている。
【0017】
ここで「相分離槽の器壁にポリアミドが析出しないように攪拌する」とは、相分離槽の器壁や攪拌機の表面などにポリアミドが析出し、堆積しないように、かつ、相分離温度以下でポリアミド微粒子が相分離槽内全体でポリアミド微粒子が一様に生成するように攪拌することをいう。
【0018】
このような製造方法であって、ポリアミドの相分離温度近辺において、ポリアミド溶液を放冷により冷却するのが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の結晶性ポリアミド微粒子の製造方法は、結晶性ポリアミドと、そのポリアミドに対し相分離温度以上では溶媒として作用し、相分離温度以下では非溶媒として作用する溶剤とを混合し、その混合物を加熱することによってポリアミド溶液を生成し、このポリアミド溶液を相分離槽の槽内で器壁にポリアミドが析出しないように攪拌しながら冷却するため、ポリアミド溶液が相分離温度以下になったとき、槽内全体において相分離が均一におこり、ポリアミド微粒子の均一な分散体が生成し、かつ、器壁等においてポリアミドの堆積が起こらない。そのため、粒径のばらつきが小さい微粒子が製造される。
【0020】
このような製造方法であって、ポリアミドの相分離温度近辺において、ポリアミド溶液を放冷する場合、相分離槽全体において温度差ができにくく、一層粒径のばらつきが小さい微粒子が製造される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の方法では、ポリアミドと、そのポリアミドに対し相分離温度以上では溶媒として作用し、相分離温度以下では非溶媒として作用する溶剤とを混合し、その後、その混合物をポリアミドが完全に溶解するまで加熱する。得られたポリアミド溶液を相分離槽の器壁近辺にポリアミドの堆積が生じないように攪拌しながら冷却する。このとき、液面が激しく動揺したり、撥ねたりする現象が発生しない範囲で強力な攪拌を続けながら冷却する。そして、溶液が相分離温度以下に冷却されると相分離によって分散体となり、ポリアミド微粒子が生成する。
なお、攪拌速度が充分に大きくない場合は、相分離槽の器壁や攪拌翼の表面などにポリアミドの結晶が堆積して、均一な微粒子が得られない。また、攪拌速度が、液面が激しく揺れたり、液撥ねが起こるほど激しい場合には、相分離が均一に行われず、従って均一な微粒子が得られない。
【0022】
攪拌に用いる攪拌装置は、従来から使用されているものでよく、攪拌方法は、樹脂の析出温度付近で溶解槽の器壁に樹脂が析出して付着せず、かつ、溶液の液面状態が安定である限り、特に限定されるものではない。
【0023】
攪拌機の羽根として、タービン型、プロペラ型、溶解型、平板型、パドル型、いかり型等の一般的なものでよい。
冷却は、相分離温度よりいくらか高い温度までは強制冷却してもよいが、相分離が完了するまでは放冷あるいはさらに遅い冷却速度で冷却を行うのが好ましい。相分離が完了した後は、適時強制冷却して作業効率を上げても良い。
【0024】
樹脂濃度は、低いほど生成するポリアミド微粒子の平均粒子径が小さくなるので、目的とする粒子径によって任意に設定すればよい。ただし、高濃度では相分離が不安定で溶液が凝集しやすくなり、またあまり低濃度では生産効率が低くなる。
【0025】
本発明の製造方法を使用することができるポリアミドとしては、ポリマー主鎖に酸アミド結合(−CONH−)を有するもの、例えば、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン610等が挙げられる。しかし、これらは特に限定されるものではない。
【0026】
また、そのポリアミドに対し相分離温度以上では溶媒として作用し、相分離温度以下では非溶媒として作用する溶剤としては、それぞれポリアミドの種類によっても異なるが一般的に一種以上のアルコール類からなる溶剤系が適当である。例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ヘキシレングリコール等の一種以上の多価アルコール類が挙げられる。また溶解槽ないし相分離槽が耐圧装置である場合には、低沸点の一価アルコール類、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールの他、水や液化炭酸ガス等も選択が可能である。混合溶剤として使用する場合は、その混合比はポリアミドによって随時決めることができる。
【0027】
そして、ポリアミドとしてナイロン6を用いる場合、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールが好ましく挙げられ、特に、エチレングリコールが好ましい。また、ポリアミドとしてナイロン12を用いる場合、ジプロピレングリコールが好ましく挙げられる。
【実施例】
【0028】
[実施例1]
溶剤としてジプロピレングリコールを用いたナイロン12微粒子の製造(1)
ジプロピレングリコールにナイロン12のペレットを10重量%混ぜて得た混合物を、溶解型攪拌翼を備えた攪拌機がついた溶解槽に投入し、空間を窒素置換した後、190℃に昇温し、60分間、300rpmで攪拌して透明な溶液を得た。得られた溶液をそのまま、1200rpmで攪拌しながら放冷した。そして、130℃で相分離が起こり不透明な分散体が生成した。槽内を点検したが器壁や攪拌翼等にポリアミドの堆積は見られなかった。
【0029】
相分離した不透明な分散液は、流動性は良好で、取り扱いの容易な液体であった。この分散液を、遠心分離によって、溶媒を粗分離後、水洗浄、濾過を繰り返して微粒子を分離し、乾燥してナイロン12微粒子を得た。得られた微粒子の平均粒径は、46μmであった。また形状が不規則な微粒子は見られなかった。
【0030】
[実施例2]
溶剤としてジプロピレングリコールを用いたナイロン12微粒子の製造(2)
実施例1において攪拌機の羽根をプロペラ型に変更して、回転速度1400rpmと変更した以外は全く同じ方法でナイロン12微粒子を得た。
この場合も、溶解槽内の器壁や攪拌翼等に樹脂の堆積は見られなかった。さらに、分散液も流動性が良好で、以後の分離作業等も容易であった。
得られたナイロン12の微粒子の平均粒径は48μmであり、形状が不規則なものは見られなかった。
【0031】
[比較例1]
溶剤としてジプロピレングリコールを用いたナイロン12微粒子の製造(3)
実施例1において、溶液の放冷時の攪拌速度を300rpmと低くした以外は全く同様にして、ナイロン12微粒子を得た。しかし、その微粒子は、粒径のバラツキが大きく、かつ不規則な形状であった。また、溶解槽の液界面付近に樹脂が塊状に付着していた。
【0032】
[実施例3]
溶剤としてエチレングリコールを用いたナイロン6微粒子の製造(1)
実施例1と同一の装置を使用して、エチレングリコールにナイロン6の微粒子のペレットを10重量%混合した混合物を、同様に処理した。ただし、ナイロン6の溶解は185℃で1時間を要した。得られた溶液は1400rpmで攪拌しながら放冷した。相分離温度は130℃であった。槽内の器壁や攪拌翼等に樹脂の堆積は見られなかった。得られた分散液の処理も実施例1と同様に行いナイロン6微粒子を得た。その微粒子の平均粒径は28μmであり、形状が不規則なものはなかった。
【0033】
[比較例2]
溶剤としてエチレングリコールを用いたナイロン6微粒子の製造
実施例3において、ナイロン6のエチレングリコール溶液の放冷工程における攪拌速度を500rpmとし、攪拌機としてプロペラ型を使用した以外は全く同様にしてナイロン6微粒子を得た。
しかし、この方法では溶解槽の器壁の液面付近に樹脂の堆積が見られ、得られたナイロン6微粒子は形状が不規則であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性ポリアミドと、そのポリアミドに対し相分離温度以上では溶媒として作用し、相分離温度以下では非溶媒として作用する溶剤とを混合し、
その混合物を加熱することによってポリアミド溶液を生成し、
このポリアミド溶液を、相分離槽の槽内で器壁にポリアミドが析出しないように攪拌しながら冷却する、結晶性ポリアミド微粒子の製造方法。
【請求項2】
ポリアミド溶液をその相分離温度付近において放冷する、請求項1記載の結晶性ポリアミド微粒子の製造方法。


【公開番号】特開2008−303304(P2008−303304A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−152070(P2007−152070)
【出願日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【出願人】(592245535)株式会社メタルカラー (14)
【Fターム(参考)】