説明

結晶性ポリマー微孔性膜及びその製造方法、並びに濾過用フィルタ及び濾過装置

【課題】高流量、かつ、高強度である濾過装置に用いる濾過用フィルタの製造に好適であり、内側の層における破断を防止することができ、構造安定性に優れ、微小な孔径を有し、数十nmサイズの微粒子を効率良く捕捉することができ、自在に性能設計可能な結晶性ポリマー微孔性膜及びその効率的な製造方法、並びに濾過用フィルタ及び濾過装置の提供。
【解決手段】本発明の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法は、第1の結晶性ポリマーシート層で、第2の結晶性ポリマーシート層の両面が被覆され、かつ、前記第2の結晶性ポリマーシート層における、互いに対向する一対の長さ方向の端面が、前記第1の結晶性ポリマーシート層で被覆されてなる積層予備成形体を、長さ方向に、押出し、圧延して積層体を形成する積層体形成工程と、前記積層体を対称加熱する対称加熱工程と、前記積層体を延伸する延伸工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濾過装置に用いる濾過用フィルタ、並びに該濾過用フィルタに好適な結晶性ポリマー微孔性膜及びその好適な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微孔性膜は古くから知られているが、近年、電子工業用洗浄水、医薬用水、医薬製造工程用水、食品水等の濾過、滅菌に用いられる濾過用フィルタとして、その用途及び使用量が拡大しており、信頼性の高い微孔性膜が注目されている。
【0003】
このような微孔性膜の材料としては、例えば、セルロースエステル(例えば、特許文献1参照)、脂肪族ポリアミド(例えば、特許文献2参照)、ポリフルオロカーボン(例えば、特許文献3参照)、ポリプロピレン(例えば、特許文献4参照)、ポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」と称することもある)(例えば、特許文献5及び6参照)などが知られている。これらの中でも、前記PTFEを原料とした結晶性ポリマー微孔性膜は、耐熱性及び耐薬品性に優れているため、その需要の伸びが著しい。
【0004】
前記PTFEを原料とした結晶性ポリマー微孔性膜として、例えば、ホモポリテトラフルオロエチレンポリマーと変性ポリテトラフルオロエチレンコポリマーとを積層してなる予備成形体を、圧延して延伸することにより、小さな平均孔径を有する濾過層と、大きな平均孔径を有する支持層とからなる微孔性膜が製造されることが提案されている(例えば、特許文献5及び6参照)。
しかしながら、これらの提案では、前記濾過層の材料として前記支持層に用いられる材料よりも融点の低い材料を用い、その融点差は大きいほど効果的に濾過層の孔径を微細化できると期待できる一方で、融点の低いポリテトラフルオロエチレンポリマー又は変性ポリテトラフルオロエチレンポリマーは未加熱の状態では強度に劣るという難点がある。そのため、これらのポリマーを材料にして前記濾過層(内側の層)の端面が露出されている状態で予備成形体を作製し、前記予備成形体を押出して圧延ロールにより圧延すると、前記圧延する際にかかる外力によって、前記濾過層の素材により生じた亀裂や破断をきっかけに膜全体の破断が生じるという問題がある。また、前記内側の層における破断の開始を防止するために、層の厚みや位置などの設計に制限がかかり、自在に性能設計することが困難であるという問題がある。
【0005】
したがって、内側の層における破断を防止することができ、構造安定性に優れ、微小な孔径を有し、数十nmサイズの微粒子を効率良く捕捉することができ、自在に性能設計可能な結晶性ポリマー微孔性膜、及びその効率的な製造方法、並びにこれらの結晶性ポリマー微孔性膜を用いてなる、高流量、かつ、高強度である濾過装置に用いる濾過用フィルタの速やかな開発が強く求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第1,421,341号明細書
【特許文献2】米国特許第2,783,894号明細書
【特許文献3】米国特許第4,196,070号明細書
【特許文献4】西独特許第3,003,400号明細書
【特許文献5】特開平03−179038号公報
【特許文献6】特開平03−179039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、高流量、かつ、高強度である濾過装置に用いる濾過用フィルタの製造に好適であり、内側の層における破断を防止することができ、構造安定性に優れ、微小な孔径を有し、数十nmサイズの微粒子を効率良く捕捉することができ、自在に性能設計可能な結晶性ポリマー微孔性膜及びその効率的な製造方法、並びに濾過用フィルタ及び濾過装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、図7に示すような第1の結晶性ポリマーシート層4で、第2の結晶性ポリマーシート層5の両面(上下底面)が被覆された積層予備成形体10において、前記第2の結晶性ポリマーとして、融点の低い材料を用いると、前記積層予備成形体を押出した後に、圧延ロール20により圧延する際に、前記第2の結晶性ポリマーシート層の長さ方向の一対の端面5Bから破断16が生じることを見出した。
そこで、図4に示すように、前記第2の結晶性ポリマーシート層の互いに対向する一対の長さ方向の端面5Bを、前記第1の結晶性ポリマーを用いて被覆することにより、前記第2の結晶性ポリマーシート層における破断を防止することができ、構造安定性に優れ、微小な孔径を有し、数十nmサイズの微粒子を効率良く捕捉することができ、自在に性能設計可能な結晶性ポリマー微孔性膜が製造されることを知見した。
また、本発明者らは、前記結晶性ポリマー微孔性膜の効率的な製造方法、並びに、前記結晶性ポリマー微孔性膜を用いてなる、高流量、かつ、高強度である濾過装置に用いる濾過用フィルタを知見した。
【0009】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 第1の結晶性ポリマーシート層で、第2の結晶性ポリマーシート層の両面が被覆され、かつ、前記第2の結晶性ポリマーシート層における、互いに対向する一対の長さ方向の端面が、前記第1の結晶性ポリマーシート層で被覆されてなる積層予備成形体を、長さ方向に、押出し、圧延して積層体を形成する積層体形成工程と、前記積層体を対称加熱する対称加熱工程と、前記積層体を延伸する延伸工程と、を含むことを特徴とする結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
前記積層体形成工程では、前記積層予備成形体が、押出し、圧延して積層体が形成される。この時、前記積層予備成形体の第2の結晶性ポリマーシート層における、互いに対向する一対の長さ方向の端面が、前記第1の結晶性ポリマーシート層で被覆されてなるため、前記積層予備成形体を長さ方向に押出及び圧延する際に、前記第2の結晶性ポリマーシート層が破断することがない。次に、前記対称加熱工程では、前記積層体が対称加熱される。そして、前記延伸工程では、前記積層体が延伸される。その結果、結晶性ポリマー微孔性膜が製造される。
<2> 第2の結晶性ポリマーシート層の両面を被覆する2つの第1の結晶性ポリマーシート層の厚みが互いに異なる前記<1>に記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<3> 積層体における少なくとも1層が、前記積層体の厚み方向における少なくとも一部において、平均孔径が一定である複数の孔部を有する前記<1>から<2>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<4> 積層体における少なくとも第2の結晶性ポリマーシート層が、平均長軸長さが1μm以下のフィブリルを少なくとも含む微細構造を有する前記<1>から<3>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<5> 第1の結晶性ポリマーシート層に含まれる第1の結晶性ポリマーが、ポリテトラフルオロエチレン及びポリテトラフルオロエチレン共重合体のいずれかである前記<1>から<4>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<6> 第2の結晶性ポリマーシート層に含まれる第2の結晶性ポリマーが、ポリテトラフルオロエチレン及びポリテトラフルオロエチレン共重合体のいずれかである前記<1>から<5>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<7> ポリテトラフルオロエチレン共重合体が、テトラフルオロエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、ヘキサフルオロプロピレン、及びクロロトリフルオロエチレンから選択される少なくとも2種を共重合してなる共重合体である前記<6>に記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<8> 第2の結晶性ポリマーが、示差走査熱量計で測定して得られたDSCチャートにおいて、1つのピークと該ピークの高温側又は低温側にショルダー部を有し、低温側にピークと該ピークの高温側に高温側ショルダー部を有する場合には、積層体の対称加熱を低温側のピーク温度より高い温度で行い、高温側にピークと該ピークの低温側に低温側ショルダー部を有する場合には、積層体の対称加熱を低温側ショルダー部の温度より高い温度で行う前記<1>から<7>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<9> 積層体の対称加熱を第1の結晶性ポリマーの融点以下の温度で行う前記<1>から<8>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<10> 前記<1>から<9>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法により製造されることを特徴とする結晶性ポリマー微孔性膜である。
<11> 前記<10>に記載の結晶性ポリマー微孔性膜を用いたことを特徴とする濾過用フィルタである。
<12> インレットと、アウトレットと、前記<11>に記載の濾過用フィルタとを有する濾過装置であって、前記濾過用フィルタにおける第2の結晶性ポリマーシートを前記アウトレット近傍に配置することを特徴とする濾過装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、高流量、かつ、高強度である濾過装置に用いる濾過用フィルタの製造に好適であり、内側の層における破断を防止することができ、構造安定性に優れ、微小な孔径を有し、数十nmサイズの微粒子を効率良く捕捉することができ、自在に性能設計可能な結晶性ポリマー微孔性膜及びその効率的な製造方法、並びに濾過用フィルタ及び濾過装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法の工程の一例を示す図である。
【図2】図2は、本発明の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法の他の工程の一例を示す図である
【図3】図3は、本発明の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法の他の工程の一例を示す図である。
【図4】図4は、予備成形体の一例を示す図である。
【図5】図5は、本発明の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法の他の工程の一例を示す図である。
【図6】図6は、本発明に係る3層構造の結晶性ポリマー微孔性膜の一例を示す模式図である。
【図7】図7は、結晶性ポリマー微孔性膜における膜の破断の一例を表す図である。
【図8】図8は、ハウジングに組込む前の一般的なプリーツフィルターエレメントの構造の一例を表す図である。
【図9】図9は、カプセル式フィルターカートリッジのハウジングに組込む前の一般的なフィルターエレメントの構造の一例を表す図である。
【図10】図10は、ハウジングと一体化された一般的なカプセル式のフィルターカートリッジの構造の一例を表す図である。
【図11】図11は、第2の結晶性ポリマー(低融点の結晶性ポリマー)のDSCチャートの一例を示す図である。
【図12】図12は、第2の結晶性ポリマー(低融点の結晶性ポリマー)のDSCチャートの一例を示す図である。
【図13】図13は、第2の結晶性ポリマー(低融点の結晶性ポリマー)のDSCチャートの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法)
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法は、積層体形成工程、対称加熱工程、延伸工程を含み、更に必要に応じてその他の工程を含む。
【0013】
<積層体形成工程>
前記積層体形成工程は、積層予備成形体を、押出し、圧延して積層体を形成する工程である。
【0014】
前記積層予備成形体の構造としては、第1の結晶性ポリマーシート層で、第2の結晶性ポリマーシート層の両面(上下底面、厚み方向に対して垂直な面)が被覆され、かつ、前記第2の結晶性ポリマーシート層における、互いに対向する一対の長さ方向の端面(互いに対向する一対の長さ方向かつ厚み方向の面)が、前記第1の結晶性ポリマーシート層で被覆されてなる構造であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、3層構造、5層構造などの積層構造が挙げられる。
【0015】
前記積層予備成形体の第2の結晶性ポリマーシート層における、互いに対向する一対の長さ方向の端面としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記端面が略平行であることが好ましい。なお、前記積層予備成形体が、円状である場合や多角形状である場合は、前記一対の端面が実質的に略平行でなくとも、対向していればよく、前記端面が、前記第1の結晶性ポリマーシート層で露出しないように被覆されてなればよい。また、図4を用いて示せば、前記一対の端面5Bが、前記第1の結晶性ポリマーシート層4で露出しないように被覆されてなる構造であればよい。
【0016】
前記積層予備成形体を作製する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、(1)図1に示すように、金型8の内部を金属板6で垂直に区切った外側1に、前記第1の結晶性ポリマー(「高融点の結晶性ポリマー」と称することがある)とその他の成分とからなる第1のペースト4Aのみを投入し、金型8の内部を金属板6で垂直に区切った内側2に、前記第1のペースト4Aからなる層上に、前記第2の結晶性ポリマー(「低融点の結晶性ポリマー」と称することがある)とその他の成分とからなる第2のペースト5Aからなる層を積層した上に、前記第1のペースト4Aによる層を積層した後に、金属板6を抜き取り、加圧することにより、積層予備成形体を作製する方法、(2)図2に示すように、中心部に略角柱状の芯棒3を有する金型8の内部に、前記第1の結晶性ポリマーとその他の成分とからなる第1のペースト4Aを充填し、前記芯棒3を抜き、生じた空洞部に、前記第2の結晶性ポリマーとその他の成分とからなる第2のペースト5Aを充填した後に、加圧して、積層予備成形体を作製する方法、(3)図3に示すように、予め、第1層目として、前記第1の結晶性ポリマーとその他の成分とからなる第1のペースト4Aからなる層、第2層目として、前記第2の結晶性ポリマーとその他の成分とからなる第2のペースト5Aからなる層、第3層目として、前記第1のペースト4Aからなる層を順次積層して加圧した後、得られた予備成型体における第2のペースト5Aの露出部分が大きい面の上下に、更に前記第1のペースト層4Aからなる層を設けて、再度加圧することにより、積層予備成型体を作製する方法、などが挙げられる。
【0017】
前記積層予備形成体を作製する際に用いる金型としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、プラスチック用金型、プレス金型、ダイカスト金型、鋳造金型、鍛造金型などが挙げられる。
【0018】
前記端面を被覆する第1の結晶性ポリマーシート層の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記PTFEを用いる場合、2mm以上が好ましく、3mm以上がより好ましく、5mm以上が特に好ましい。
前記PTFEを用いる場合における、前記端面を被覆する第1の結晶性ポリマーシート層の厚みが、2mm未満であると、前記積層予備成形体を圧延する際の変形時に生じる小さな裂けをきっかけに大きな破断が生じて、安定した製膜が困難となることがある。一方、2mm以上であると、第2の結晶性ポリマーとして単体の引っ張り強度が弱い素材を用いても、圧延や延伸による大変形を印加しても端部の破壊や破断を生ずることなく連続した膜を製膜することが可能となる点で有利である。
なお、前記端面を被覆する第1の結晶性ポリマーシート層の厚みの上限は特に定めないが、前記端面を被覆する第1の結晶性ポリマーシート層の厚みが過剰に広いと、微多孔膜として有効に利用できる面積が減少するので、前記積層体の全幅を考慮した上で適宜設定することができる。
【0019】
前記積層予備形成体の平均厚みは、後述する押出する方法あるいは圧延する方法に併せて設定される。つまり、押出する方法に併せて設定される場合は、押出装置の予備成形体投入部の寸法に併せて作製され、圧延する方法に併せて設定される場合は、圧延装置の入口形状によって概ね形状が決定される。
前記積層予備形成体の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、公知の例を示すならば、押出する方法に併せて設定される場合における前記予備形成体の平均厚みとしては、例えば、5cm〜10cmであり、圧延する方法に併せて設定される場合における前記予備形成体の平均厚みとしては、例えば、0.5cm〜5cmである。
【0020】
前記積層予備成形体の外寸としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、後述する押出する方法あるいは圧延する方法に併せて設定されるが、積層予備成型体の断面を正方形に設計する場合は、50mm角〜150mm角が好ましい。
前記積層予備成形体の外寸が、過小であると層構成の寸法精度に問題を生じ、過大であると予備成型時の壁面抵抗によって材料に印加される圧力に位置的なムラが生じることがある。積層予備成型体の断面を長方形に設計する場合についても、正方形に設計する場合と同様に、前記外寸が過小であると層構成の寸法精度に問題を生じ、過大であると予備成型時の壁面抵抗によって材料に印加される圧力に位置的なムラが生じることがある。
【0021】
前記第1の結晶性ポリマーシート層及び前記第2の結晶性ポリマーシート層に用いる結晶性ポリマーは、同一であってもよく、異なっていてもよい。
前記結晶性ポリマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、分子構造の中に長い鎖状の分子が規則的に並んだ結晶性領域と、規則的に並んでいない非結晶領域が混在したポリマーが好ましい。このようなポリマーは物理的な処理により、結晶性が発現する。例えば、ポリエチレンフィルムを外力により延伸すると、初めは透明なフィルムが白濁する現象が生じる。前記現象は、外力によりポリマー内の分子配列が一つの方向に揃えられ、結晶性が発現したことに由来する。
【0022】
前記結晶性ポリマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリアルキレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリエーテル、液晶性ポリマーなどが挙げられ、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン共重合体、ナイロン、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、シンジオタクチック・ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエステル、フッ素樹脂、ポリエーテルニトリルなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、高結晶性を有するパウダー状の製品が入手しやすく、また、耐溶剤性及び耐熱性が高く、種々の用途に好適に利用できる点で、ポリテトラフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン共重合体が、好ましい。
【0023】
前記ポリテトラフルオロエチレンとしては、通常、乳化重合法により製造されたポリテトラフルオロエチレンを用いることができ、乳化重合により得られた水性分散体を凝析することにより取得した微粉末状のポリテトラフルオロエチレンを使用することが好ましい。
前記ポリテトラフルオロエチレン共重合体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、テトラフルオロエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレンから選択される少なくとも2種を含む共重合体が挙げられる。
【0024】
前記結晶性ポリマーの融点としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記第1の結晶性ポリマーの融点が、前記第2の結晶性ポリマーの融点よりも、1℃以上高いことが好ましく、3℃以上高いことがより好ましい。
前記第1の結晶性ポリマーの融点が、前記第2の結晶性ポリマーの融点よりも低いと、十分な流量が得られず、濾過効率が著しく低下するおそれがある。
なお、前記融点とは、示差走査熱量計で測定して得られたDSCチャートのピーク位置のことを示し、2つのピークを有する場合、又は1つのピークと、1つのショルダー部を有する場合は、ピーク強度の高い方を融点とする。
【0025】
前記第1の結晶性ポリマーの融点に該当するDSCチャートにおける吸熱ピーク位置の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、343℃〜350℃が好ましい。
前記第2の結晶性ポリマーの融点に該当するDSCチャートにおける吸熱ピーク位置の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、320℃〜338℃が好ましい。
【0026】
前記結晶性ポリマーの形態としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、粉末状の形態、粒子状の形態などが挙げられる。
前記結晶性ポリマーの粉末状の形態、粒子状の形態とする際の平均粒子径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.2μm〜0.4μmが好ましい。
【0027】
前記結晶性ポリマーのガラス転移温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、−100℃〜400℃が好ましく、−90℃〜350℃がより好ましい。
【0028】
前記結晶性ポリマーの重量平均分子量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1,000〜100,000,000が好ましく、10,000〜10,000,000がより好ましい。なお、前記重量平均分子量は、例えば、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。
【0029】
前記結晶性ポリマーの数平均分子量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、500〜50,000,000が好ましく、1,000〜25,000,000がより好ましい。なお、前記数平均分子量は、例えば、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができるが、前記PTFEは、溶剤に不溶であるため、DSC測定による結晶化熱〔ΔHc:cal/g〕測定を行い、関係式:Mn=2.1×1010×ΔHc−5.16、を用いて算出することが好ましい。
【0030】
前記結晶性ポリマーとしては、特に制限はなく、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
前記市販品としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(ダイキン工業株式会社製、商品名「ポリフロン PTFE」、品番名「F−104」、「F−106」、「F−201」、「F−205」、「F−208」、「F−301」、「F−302」、商品名「ルブロン」、品番名「L−2」、「L−5」)、ポリテトラフルオロエチレン(旭硝子株式会社製、商品名「Fluon(登録商標)PTFE」、品種名「CD1」、「CD141」、「CD145」、「CD123」、「CD076」、「CD090」、「CD126」)、ポリテトラフルオロエチレン(三井デュポンフロロケミカル株式会社製、商品名「テフロン(登録商標)PTFE」、銘柄名「6−J」、「6C−J」、「62XT」、「640−J」)などが挙げられる。
これらの中でも、比較的低い成型圧力で強度の優れた成型品を得やすい点で、ポリテトラフルオロエチレン(ダイキン工業株式会社製、商品名「ポリフロン PTFE」、品番名「F−106」)が好ましく、延伸後の孔径微細化の点で、ポリテトラフルオロエチレン(ダイキン工業株式会社製、商品名「ポリフロン PTFE」、品番名「F−205」、商品名「ルブロン」、品番名「L−5」)が好ましい。
【0031】
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、押出助剤である、ソルベントナフサ、ホワイトオイルなどの液状潤滑剤が挙げられる。前記押出助剤の市販品としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、炭化水素油(エッソ石油株式会社製、商品名「アイソパー」)などが挙げられる。前記押出所剤の添加量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記結晶性ポリマー100質量部に対して、15質量部〜30質量部添加することが好ましい。
【0032】
前記積層予備成形体の押出する方法としては、図5を用いて示せば、前記第2の結晶性ポリマーシート層4における、互いに対向する一対の長さ方向の端面が前記第1の結晶性ポリマーシート層5で被覆されてなる前記積層予備成形体10を長さ方向に押出する方法であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、図5に示すような押出金型を用いて、前記積層予備成形体を押出する方法が挙げられる。なお、前記長さ方向は、前記第1の結晶性ポリマーシート層により被覆されており、前記積層予備成形体の押出方向をいう。
前記積層予備成形体の押出する温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、19℃〜200℃が好ましい。
【0033】
前記積層予備成形体を圧延する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、カレンダーロールにより5m/分の速度でカレンダー掛けする方法が挙げられる。
前記積層予備成形体を圧延する温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、19℃〜380℃に設定することができる。
【0034】
前記積層体を形成する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、「ポリフロンハンドブック」(ダイキン工業株式会社発行、1983年改訂版)に記載されている事項を適宜採用して、積層体を形成することができる。
【0035】
前記積層体の構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記積層体における少なくとも1層が、前記積層体の厚み方向における少なくとも一部において、平均孔径が一定である複数の孔部を有する積層構造が挙げられる。
【0036】
前記積層体が積層構造であることを確認する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記積層体を厚み方向に凍結して切断した切断面を光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、第1の結晶性ポリマーシート層と第2の結晶性ポリマーシート層との間に境界を有するか否かを確認することにより行うことができる。
【0037】
前記積層体の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、最終的に製造しようとする結晶性ポリマー微孔性膜の厚みに応じて適宜調整することができ、後の延伸工程による厚みの減少も考慮して調整することができる。
【0038】
<対称加熱工程>
前記加熱工程は、得られた積層体を対称加熱する工程である。
前記対称加熱することにより、平均長軸長さが1μm以下の短いフィブリルを含む微細構造を有する微孔性膜が得られ、微孔性膜の孔径が小さくなり、より小さな微粒子を効率よく捕捉することができる結晶性ポリマー微孔性膜が得られる。
【0039】
前記対称加熱することにより得られる積層体の構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、少なくとも第2の結晶性ポリマーシート層が、平均長軸長さが1μm以下のフィブリルを少なくとも含む微細構造であることが好ましい。
【0040】
前記対称加熱することにより得られる積層体が有するフィブリルとしては、融着した2つの結晶性ポリマー粒子同士に機械的な力を加えたときに、粒子間もしくは粒子内に紡ぎ出される繊維であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記フィブリルの平均長軸長さが、1μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましい。前記平均長軸長さが、1μmを超えると、微粒子等の液中のゴミを十分に捕捉できないことがある。
【0041】
前記対称加熱することにより得られる積層体が有する結節(ノード)としては、結晶性ポリマーの一次粒子のかたまりであって、前記結節の平均短軸長さ(平均直径)が前記フィブリルの平均短軸長さ(平均直径)よりも長ければ、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記結節の平均直径が、0.1μm以上が好ましく、0.2μm以上がより好ましい。前記平均直径が、0.1μm未満であると、十分な膜強度が得られないことがある。
【0042】
前記対称加熱する方法としては、前記積層体を満遍なく均等に加熱できれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばソルトバス、熱風加熱機、炉、ロール、IRなどにより加熱する方法が挙げられる。これらの中でも、積層体全体を加熱する際の加熱ばらつきを抑えることができる点で、ソルトバスにより加熱する方法が、好ましい。
【0043】
前記の対称加熱する際の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記第2の結晶性ポリマーが、示差走査熱量計で測定して得られたDSCチャートにおいて、1つのピークと該ピークの高温側又は低温側にショルダー部を有し、低温側にピークと該ピークの高温側に高温側ショルダー部を有する場合には、前記積層体の対称加熱を低温側のピーク温度より高い温度で行うことが好ましく、高温側にピークと該ピークの低温側に低温側ショルダー部を有する場合には、前記積層体の対称加熱を低温側のショルダー部の温度より高い温度で行うことが好ましい。
また、高流量化の点で、前記第1の結晶性ポリマーの前記融点以下の温度で、対称加熱することが好ましい。
前記対称加熱を好ましい温度から外れる温度で行うと、十分に孔径が小さくならず、微粒子捕捉性が低下してしまうことがある。
【0044】
ここで、対称加熱する際に用いられる積層体、及び対称加熱する際の温度について、図11〜図13をもとに説明する。
前記対称加熱する際の積層体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、示差走査熱量計で測定して得られたDSCチャートにおいて、図11に示すように、低温側にピークTと、該ピークの高温側に高温側ショルダー部Tを有する第2の結晶性ポリマー、又は図12に示すように、高温側にピークTと、該ピークの低温側に低温側ショルダー部Tを有する第2の結晶性ポリマーを用いてなる積層体が好ましい。
前記対称加熱する際の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、図11ではピークTより高い温度、図12では低温側ショルダー部Tより高い温度で行うことにより、短いフィブリルと結節(ノード)からなる複数層構造の結晶性ポリマー微孔性膜が得られる。なお、図13に示すように、第2の結晶性ポリマーが低温側ピークTと高温側ピークTとの2つのピークを有している場合には、前記積層体の対称加熱を、前記低温側ピーク温度Tより高い温度で行うことが好ましい。
【0045】
<延伸工程>
前記延伸工程は、前記圧延工程により得られた積層体を延伸する工程である。前記圧延工程により得られた積層体を延伸することにより、積層体のノードレス化及びフィブリルの微細化により、高捕捉性及び高流量の結晶性ポリマー微孔性膜を製造することができる。
【0046】
前記延伸する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、長手方向と幅方向の両方について延伸する方法が好ましく、長手方向と幅方向について、それぞれ逐次延伸を行う場合には、まず、長手方向の延伸を行ってから幅方向の延伸を行う方法がより好ましい。また、前記延伸は、長手方向と幅方向について、それぞれ逐次延伸を行ってもよいし、同時に二軸延伸を行ってもよい。
【0047】
前記延伸工程における長手方向の延伸倍率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1.2倍〜50倍が好ましく、1.5倍〜40倍がより好ましく、2倍〜10倍が特に好ましい。
前記延伸工程における長手方向の延伸温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、35℃〜330℃が好ましく、45℃〜320℃がより好ましく、55℃〜310℃が特に好ましい。
【0048】
前記延伸工程における幅方向の延伸倍率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1.2倍〜50倍が好ましく、1.5倍〜40倍がより好ましく、2.0倍〜10倍が特に好ましい。
前記延伸工程における幅方向の延伸温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、35℃〜330℃が好ましく、45℃〜320℃がより好ましく、60℃〜310℃が特に好ましい。
【0049】
前記延伸工程における面積延伸倍率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1.5倍〜2,500倍が好ましく、2倍〜2,000倍がより好ましく、2.5倍〜100倍が特に好ましい。前記延伸を行う際には、予め延伸温度以下の温度に前記結晶性ポリマーからなるシートを予備加熱しておいてもよい。なお、前記延伸後に、必要に応じて熱固定を行うことができる。前記熱固定の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、延伸温度以上かつ結晶性ポリマーの融点未満で行うことが好ましく、前記結晶性ポリマーがPTFE等のフッ素樹脂の場合には、融点以上で行うことが好ましい。
【0050】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、押出助剤除去工程、表面改質工程などが挙げられる。
【0051】
−押出助剤除去工程−
前記押出助剤除去工程は、前記圧延工程により得られた結晶性ポリマーからなるシートを加熱して押出助剤を除去する工程である。
前記押出助剤除去工程における加熱温度としては、特に制限はなく、用いる押出助剤の種類に応じて適宜選択することができるが、40℃〜400℃が好ましく、60℃〜350℃がより好ましく、前記結晶性ポリマーとして、ポリテトラフルオロエチレンを用い、押出助剤としてソルベントナフサを用いた場合における押出助剤除去工程における加熱温度としては、150℃〜280℃が好ましく、180℃〜260℃がより好ましい。
前記押出助剤除去工程における加熱方法としては、前記結晶性ポリマーからなるシートを熱風乾燥炉に通すことにより加熱する方法が挙げられる。このようにして製造される結晶性ポリマーからなるシートの厚みは、最終的に製造しようとする結晶性ポリマー微孔性膜の厚みに応じて適宜調整することができ、後の延伸工程による厚みの減少も考慮して調整することが必要である。
【0052】
−表面改質工程−
前記表面改質工程は、前記延伸工程により得られた結晶性ポリマー微孔性膜の少なくとも一部を表面改質する工程である。前記結晶性ポリマー微孔性膜の少なくとも一部には、結晶性ポリマー微孔性膜の露出している表面以外にも、孔部の周囲、孔部の内部などが含まれる。
前記表面改質する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、過酸化水素水又は水溶性溶剤の水溶液の含浸後、レーザーで照射することにより表面改質する方法(特開平7−304888号公報参照)、放射線及びプラズマ等で照射することにより表面改質する方法(特開2003−201571号公報参照)、化学的エッチング処理により表面改質する方法(特開2007−154153号公報参照)、架橋系材料で被覆することにより表面改質する方法(特開平8−283447号公報参照)、重合系材料で被覆することにより表面改質する方法(特開2000−235849号公報参照)などが挙げられる。
【0053】
ここで、図1〜図5を参照して、本発明の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法の一例について説明する。上述したように、図1〜図3に示す方法により、図4に示すような第1の結晶性ポリマーシート層4と第2の結晶性ポリマーシート層5とからなる積層予備成形体10が作製される。次に、得られた積層予備成形体10を図5に示す押出装置9のシリンダー部に収納した後、これを加圧手段(不図示)によって矢印方向に押圧する。図5に示す押出装置9のシリンダー部は、例えば軸直角方向断面は50mm×100mmの矩形であり、出口部でシリンダー部の一方が絞られたノズル50mm×5mmで構成されている。このようにして第1の結晶性ポリマーシート層4と、第2の結晶性ポリマーシート層5とが完全に一体化され、各層が均一な厚みを有する積層体(未加熱フィルム積層体)15が成形される。前記積層体を対称加熱した後に、延伸することにより、本発明の結晶性ポリマー微孔性膜が製造される。
【0054】
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法は、前記第2の結晶性ポリマーシートにおける互いに対向する一対の長さ方向の端面を、前記第1の結晶性ポリマーシートで被覆する工程を含むため、前記端面より生じる亀裂や破断をきっかけに膜全体の破断が生じることを防止することができ、従来、単独では製膜不可能な結晶性ポリマー(低融点である第2の結晶性ポリマー)を用いて製膜することを可能とし、自在に性能設計することを可能とした手法である。特に、第2の結晶性ポリマーは、比較的低温側にピークを有する素材であり、このような素材は、同時に溶融粘度が小さい、粒径が小さいという傾向を有するために、本発明の意図する微小な孔径を有する素材として好適に使用することができる。
【0055】
(結晶性ポリマー微孔性膜)
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜は、前記結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法により、製造された微孔性膜である。
【0056】
前記結晶性ポリマー微孔性膜の構造としては、前記第1の結晶性ポリマーシート層と前記第2の結晶性ポリマーシート層との積層構造であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、第2の結晶性ポリマーシート層の両面を被覆する2つの第1の結晶性ポリマーシート層の厚みが互いに異なる積層構造とすることが好ましい。前記積層構造とすることにより、微孔性膜の厚みを変えることなく、濾過における1次側の大きな孔径を有する第1の結晶性ポリマーシート層の厚みを増すことが可能となり、小さな孔径を有する第2の結晶性ポリマーシート層の目詰まりを効率的に抑制することができる点で有利である。
【0057】
前記結晶性ポリマー微孔性膜が積層構造であることを確認する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、結晶性ポリマー微孔性膜を厚み方向に凍結して切断した切断面を光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより検出する方法が挙げられる。
【0058】
前記結晶性ポリマー微孔性膜の孔部の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記結晶性ポリマー微孔性膜の厚み方向に貫通し、前記結晶性ポリマー微孔性膜における少なくとも1層が、前記結晶性ポリマー微孔性膜の厚み方向における少なくとも一部において、平均孔径が一定である複数の孔部を有する形状が挙げられる。前記孔部の形状とすることにより、微粒子を効率良く捕捉することができる。
ここで、前記結晶性ポリマー微孔性膜における少なくとも1層が、前記結晶性ポリマー微孔性膜の厚み方向における少なくとも一部において、平均孔径が一定である複数の孔部とは、横軸に結晶性ポリマー微孔性膜のおもて面からの厚み方向の距離t(おもて面からの深さに相当)をとり、縦軸に孔部の平均孔径Dをとったとき、(1)おもて面(t=0)からうら面(t=膜厚)に至るまでのグラフが、結晶性ポリマー層ごとに1本の連続線で描かれ(連続的)、グラフの傾き(dD/dt)は実質的に0(ゼロ)であることをいう。また、前記実質的に0(ゼロ)とは、平均値から±10%程度を含み、単調増加、単調減少は含まないことをいう。
【0059】
前記結晶性ポリマー微孔性膜の孔部の形状を確認する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより孔部の形状を確認する方法が挙げられる。
【0060】
前記結晶性ポリマー微孔性膜の孔部の平均孔径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記第1の結晶性ポリマーシート層における孔部の平均孔径と、前記第2の結晶性ポリマーシート層における孔部の平均孔径とが、異なる平均孔径を有している。
前記結晶性ポリマー微孔性膜の第1の結晶性ポリマーシート層における孔部の平均孔径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましい。
前記結晶性ポリマー微孔性膜の第2の結晶性ポリマーシート層における孔部の平均孔径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1nm〜200nmが好ましく、5nm〜150nmがより好ましく、10nm〜100nmが特に好ましい。
【0061】
前記結晶性ポリマー微孔性膜における孔部の平均孔径を測定する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、走査型電子顕微鏡で膜表面あるいは、膜断面の写真(SEM写真、倍率1,000倍〜100,000倍)をとり、得られた写真を画像処理装置(本体:日本アビオニクス株式会社製、商品名「TVイメージプロセッサTVIP−4100II」、制御ソフト:ラトックシステムエンジニアリング株式会社製、商品名「TVイメージプロセッサイメージコマンド4198」)に取り込んで結晶性ポリマー繊維のみからなる像を得て、その像を演算処理することにより平均孔径を測定する方法が挙げられる。
【0062】
前記結晶性ポリマー微孔性膜における平均流量孔径とは、乾燥状態時の1/2と湿潤状態時の空気流量との交点から求まる孔径をいう。
前記結晶性ポリマー微孔性膜の第1の結晶性ポリマーシート層における孔部の平均流量孔径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましい。
前記結晶性ポリマー微孔性膜の第2の結晶性ポリマーシート層における孔部の平均流量孔径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1nm〜200nmが好ましく、5nm〜150nmがより好ましく、10nm〜100nmが特に好ましい。
【0063】
前記結晶性ポリマー微孔性膜の孔部の平均流量孔径を測定する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ハーフドライ法(ASTM E1294−89)により測定する方法が挙げられる。具体的には、前記平均流量孔径が、15nmを超える場合には、500psiの高圧パームポロメーター(PMI社製)で測定でき、前記平均流量孔径が、15nm以下の場合には、ナノパームポロメーター(PMI社製)により測定することができる。
【0064】
前記結晶性ポリマー微孔性膜の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1μm〜300μmが好ましく、5μm〜200μmがより好ましく、10μm〜100μmが特に好ましい。
前記厚みが、特に好ましい範囲であると、微孔性膜の厚みを薄くすることができ、流量の点で有利である。なお、前記厚みを測定する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、結晶性ポリマー微孔性膜を凍結割断し、走査型電子顕微鏡(SEM)により各層の断面観察を行うことにより、各層の厚みを測定することができる。
【0065】
前記結晶性ポリマー微孔性膜における第1の結晶性ポリマーシート層の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、2μm〜100μmが好ましく、5μm〜80μmがより好ましく、10μm〜60μmが特に好ましい。
前記厚みが、2μm未満であると、低融点の結晶性ポリマーシート層が摩擦、引っ掻きの影響を受け、安定な微粒子捕捉性を保てないことがあり、100μmを超えると、十分な流量を得られないことがある。一方、前記厚みが、前記特に好ましい範囲内であると、微粒子捕捉性及び流量の点で有利である。
【0066】
前記結晶性ポリマー微孔性膜における第2の結晶性ポリマーシート層の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.1μm〜50μmが好ましく、0.1μm〜25μmがより好ましく、0.5μm〜20μmが特に好ましい。
前記厚みが、0.1μm未満であると、均一な微孔性膜の製造や、孔部の孔径を小さくすることができず、孔径の面内均一性を失うおそれがあり、50μmを超えると、高流量化を図ることができないことがある。一方、前記厚みが、前記特に好ましい範囲内であると、孔径の面内均一性及び流量の点で有利である。
【0067】
前記結晶性ポリマー微孔性膜における前記第1の結晶性ポリマーシート層の最大厚みを前記第2の結晶性ポリマーシート層の最大厚みよりも厚くすると、結晶性ポリマー微孔性膜における流量特性は向上するが、微粒子捕捉率は低下する。
前記結晶性ポリマー微孔性膜における第2の結晶性ポリマーシート層の厚みを前記第1の結晶性ポリマーシート層の最大厚みよりも厚くすると、結晶性ポリマー微孔性膜における流量特性は低下するが、微粒子捕捉率は向上する。
【0068】
ここで、図6を参照して、本発明の結晶性ポリマー微孔性膜の一例について説明する。図6に示すように、第1の結晶性ポリマーシート層101、第2の結晶性ポリマーシート層102、及び第1の結晶性ポリマーシート層103を積層した3層構造の本発明の結晶性ポリマー微孔性膜における孔部101b、102b、103bの平均孔径は、いずれも積層体の厚み方向に変化なく一定であり、結晶性ポリマー微孔性膜全体としては、平均孔径が厚み方向に段階的に変化している部分がある。また、前記孔部の最大平均孔径Lm1、Lm2、及びLm3のうち最も小さい最大平均孔径Lm2を有する第2の結晶性ポリマーシート層102が結晶性ポリマー微孔性膜(積層体)の内部に存在している。
【0069】
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜は、構造安定性に優れ、微小な孔径を有し、数十nmサイズの微粒子を効率良く捕捉することができ、高流量であるので、濾過が必要とされる様々な用途に用いることができ、以下に説明する濾過用フィルタとして、特に好適に用いることができる。
【0070】
(濾過用フィルタ及び濾過装置)
本発明の濾過用フィルタは、前記結晶性ポリマー微孔性膜を用いる。
本発明の濾過装置は、インレットと、アウトレットと、前記濾過用フィルタとを有し、前記濾過用フィルタにおける第2の結晶性ポリマーシートを前記アウトレット近傍に配置する。
前記濾過用フィルタは、柔軟性を有する結晶性ポリマーからなるシートを高倍率で延伸することにより製造された結晶性ポリマー微孔性膜を用いてなるため、プリーツ耐性が高い。そして、前記結晶性ポリマー微孔性膜の比表面積が大きいため、その表面から導入された微細粒子は、最小孔径部分に到達する以前に吸着又は付着することにより除去かれる。したがって、目詰まりを起こしにくく、長期間にわたって高い濾過効率を維持することができる。
【0071】
前記濾過用フィルタとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記結晶性ポリマー微孔性膜における第2の結晶性ポリマーシート層が、濾過液の出口側(アウトレット側)に近くなるように配置することが、数十nmサイズの微粒子を効率よく捕捉でき、濾過効率の向上を図れる点で好ましい。
【0072】
前記濾過用フィルタの形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、プリーツ状に加工成形することが好ましい。前記濾過用フィルタの形状が前記プリーツ状であると、カートリッジ当たりのフィルタの濾過に使用する有効表面積を増大させることができる点で、有利である。
【0073】
ここで、図8〜図10を参照して、本発明の濾過装置に好適に使用できる濾過用フィルタの一例について説明する。
図8〜図10は、精密ろ過フィルターカートリッジの具体例であり、本発明はこれらの図面に限定されるわけではない。
【0074】
図8は、エレメント交換式のプリーツフィルターカートリッジエレメントの構造を示す展開図である。精密ろ過膜113は2枚の膜サポート112、114によってサンドイッチされた状態でひだ折りされ、集液口を多数有するコア115の周りに巻き付けられている。その外側には外周カバー111があり、精密ろ過膜を保護している。円筒の両端にはエンドプレート116a、116bにより、精密ろ過膜がシールされている。エンドプレートはガスケット117を介してフィルターハウジング(不図示)のシール部と接する。ろ過された液体はコアの集液口から集められ、流体出口118から排出される。
【0075】
図9は、カプセル式のフィルターカートリッジのハウジングに組込まれる前の精密ろ過膜フィルターエレメントの全体構造の展開図である。精密ろ過膜22は2枚のサポートである一次側サポート21、及び二次側サポート23によってサンドイッチされた状態でひだ折りされ、集液口を多数有するフィルターエレメントコア27の周りに巻き付けられている。その外側にはフィルターエレメントカバー26があり、精密ろ過膜を保護している。円筒の両端には上部エンドプレート24、下部エンドプレート25により、精密ろ過膜がシールされている。図9は、下部エンドプレート25とハウジングベースとのシールを、Oリング28を介して行う事例を示しているが、下部エンドプレート25とハウジングベースとのシールは熱融着や接着剤によって行われることもある。又はハウジングベースとハウジングカバーとのシールも熱融着の他に、接着剤を用いる方法も可能である。
【0076】
図10は、フィルターエレメントがハウジングに組込まれて一体化されたカプセル式のプリーツフィルターカートリッジの構造を示す図である。フィルターエレメント30はハウジングベース32とハウジングカバー31よりなるハウジング内に組込まれている。下部エンドプレートはOリングを介してハウジングベース32中心部にある集水管(不図示)にシールされている。液体は液入口ノズル33からハウジング内に入り、フィルターメディア29を通過し、フィルターエレメントコアの集液口から集められ、液出口ノズル34から排出される。ハウジングベース32とハウジングカバー31は、通常溶着部37で液密に熱融着される。
【0077】
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜を用いた濾過用フィルタは、このように濾過機能が高くて長寿命であるという特徴を有することから、本発明の濾過装置内にコンパクトにまとめることができる。従来の濾過装置では、多数の濾過ユニットを直列的に使用して濾過寿命の短さに対処していたが、本発明の濾過用フィルタを用いれば直列的に使用する濾過ユニットの数を大幅に減らすことができる。また、濾過用フィルタの交換期間も大幅に延ばすことができるため、メンテナンスにかかる費用や時間を節減できる。
【0078】
本発明の濾過用フィルタは、気体、液体等の精密濾過に好適に用いられ、例えば、腐食性ガス、半導体工業で使用される各種ガス等の濾過、電子工業用洗浄水、医薬用水、医薬製造工程用水、食品水等の濾過、滅菌、高温濾過、反応性薬品の濾過、電線被覆材料、カテーテル、人工血管、癒着防止膜、細胞培養足場、絶縁膜、燃料電池用セパレータなどに幅広く用いることができる。
【実施例】
【0079】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0080】
(実施例1)
<結晶性ポリマー微孔性膜の製造>
−積層体形成工程−
第1の結晶性ポリマーとしてポリテトラフルオロエチレンのファインパウダー(ダイキン工業株式会社製、商品名「ポリフロンF-106」)100質量部に、押出助剤として炭化水素油(エッソ石油株式会社製、商品名「アイソパーH」)23質量部を加えた。これをペースト1とした。
第2の結晶性ポリマーとして、ポリテトラフルオロエチレンのファインパウダー(ダイキン工業株式会社製、商品名「ルブロンL−5」)100質量部に、押出助剤として炭化水素油(エッソ石油株式会社製、商品名「アイソパーH」)23質量部を加えた。これをペースト2とした。
【0081】
図1に示すように、積層予備成形体を作製する際に用いる金型の壁面から幅2mmの部分を、厚み0.3mmの金属板で垂直に区切り、図1に示す外側1にはペースト1のみ、図1に示す内側2はペースト層の厚み比率が(ペースト1)/(ペースト2)/(ペースト1)=3/1/1となるように積層して敷き詰めた。
そして、金属板を抜き取った後、0.5MPaの条件で加圧し、第1の結晶性ポリマーシート層で、第2の結晶性ポリマーシート層の両面が被覆され、かつ、前記第2の結晶性ポリマーシート層における、互いに対向する一対の端面が、前記第1の結晶性ポリマーシート層で被覆されてなる矩形の積層予備成形体を作製した。
次に、前記積層予備成形体における前記一対の端面と略直交する方向に、ペースト押出金型の角型シリンダー内に挿入し、シート状に複層ペースト押出を行った。
これを、60℃に加熱したカレンダーロールによりカレンダー掛けして圧延した後に、250℃の熱風乾燥炉に通して押出助剤を乾燥除去し、平均厚み100μm、平均幅150mmの積層体を作製した。
【0082】
−対称加熱工程−
前記積層体形成工程により得られた積層体を、341℃に保温したソルトバスで50秒加熱して、前記積層体を対称加熱した。
【0083】
−延伸工程−
前記対称加熱工程により得られた積層体を、300℃にて長手方向に3倍にロール間延伸し、一旦巻き取りロールに巻き取った後、両端をクリップで挟み、300℃で幅方向に3倍に延伸した。その後、320℃で熱固定を行い、実施例1の結晶性ポリマー微孔性膜を製造した。
【0084】
(実施例2)
<結晶性ポリマー微孔性膜の製造>
実施例1の[積層体形成工程]において、図1に示す内側2のペースト層の厚み比率を(ペースト1)/(ペースト2)/(ペースト1)=8/1/1となるように積層して、第1の結晶性ポリマーシート層と、第2の結晶性ポリマーシート層とを有する矩形の積層予備成形体を作製したこと以外は、実施例1と同様にして、平均厚み100μm、平均幅150mmの積層体を形成し、実施例2の結晶性ポリマー微孔性膜を製造した。
【0085】
(実施例3)
<結晶性ポリマー微孔性膜の製造>
実施例1の[積層体形成工程]において、第2の結晶性ポリマーとして、ポリテトラフルオロエチレンのファインパウダー(ダイキン工業株式会社製、「ポリフロンF−205」)100質量部に、押出助剤として炭化水素油(エッソ石油株式会社製、「アイソパーH」)23質量部を加えて、ペースト3とし、図1に示す内側2のペースト層の厚み比率を(ペースト1)/(ペースト3)/(ペースト1)=2/2/1となるように積層して、第1の結晶性ポリマーシート層と、第2の結晶性ポリマーシート層とを有する矩形の積層予備成形体を作製したこと以外は、実施例1と同様にして、平均厚み80μm、平均幅150mmの積層体を形成し、実施例3の結晶性ポリマー微孔性膜を製造した。
【0086】
(実施例4)
<結晶性ポリマー微孔性膜の製造>
実施例3の[積層体形成工程]において、図1に示す内側2のペースト層の厚み比率を(ペースト1)/(ペースト3)/(ペースト1)=2/5/1となるように積層して、第1の結晶性ポリマーシート層と、第2の結晶性ポリマーシート層とを有する矩形の積層予備成形体を作製したこと以外は、実施例3と同様にして、平均厚み80μm、平均幅150mmの積層体を形成し、実施例4の結晶性ポリマー微孔性膜を製造した。
【0087】
(実施例5)
<結晶性ポリマー微孔性膜の製造>
実施例1の[対称加熱工程]のソルトバス温度を335℃とした以外は、実施例1と同様にして、平均厚み100μm、平均幅150mmの積層体を形成し、実施例5の結晶性ポリマー微孔性膜を製造した。
【0088】
(比較例1)
<結晶性ポリマー微孔性膜の製造>
実施例1の[積層体形成工程]において、図1に示す外側1におけるペースト1のみの部分を設けることなく、図1に示す内側2のペースト層の厚み比率が(ペースト1)/(ペースト2)/(ペースト1)=3/1/1となるように積層して、第1の結晶性ポリマーシート層と、第2の結晶性ポリマーシート層とを有する矩形の積層予備成形体を用いて積層体の形成を試みたが、カレンダー掛けの際に、端部より、図7に示すような膜の破断16が生じ、結晶性ポリマー微孔性膜を製造することができなかった。
【0089】
(比較例2)
<結晶性ポリマー微孔性膜の製造>
実施例1の[積層体形成工程]において、図1に示す外側1にペースト1のみの部分を設けることなく、図1に示す内側2のペースト層の厚み比率が(ペースト1)/(ペースト2)/(ペースト1)=8/1/1となるように積層して、第1の結晶性ポリマーシート層と、第2の結晶性ポリマーシート層とを有する矩形の積層予備成形体を用いて積層体の形成を試みたが、比較例1と同様に、カレンダー掛けの際に、端部より、図7に示すような膜の破断16が生じ、結晶性ポリマー微孔性膜を製造することができなかった。
【0090】
(比較例3)
<結晶性ポリマー微孔性膜の製造>
実施例3の[積層体形成工程]において、図1に示す外側1にペースト1のみの部分を設けることなく、図1に示す内側2のペースト層の厚み比率が(ペースト1)/(ペースト3)/(ペースト1)=2/2/1となるように積層して、第1の結晶性ポリマーシート層と、第2の結晶性ポリマーシート層とを有する矩形の積層予備成形体を用いて積層体の形成を試みたが、比較例1と同様に、カレンダー掛けの際に、端部より、図7に示すような膜の破断が生じ、結晶性ポリマー微孔性膜を製造することができなかった。
【0091】
(比較例4)
<結晶性ポリマー微孔性膜の製造>
実施例4の[積層体形成工程]において、図1に示す外側1にペースト1のみの部分を設けることなく、図1に示す内側2のペースト層の厚み比率が(ペースト1)/(ペースト3)/(ペースト1)=2/5/1となるように積層して、第1の結晶性ポリマーシート層と、第2の結晶性ポリマーシート層とを有する矩形の積層予備成形体を用いて積層体の形成を試みたが、比較例1と同様に、カレンダー掛けの際に、端部より、図7に示すような膜の破断が生じ、結晶性ポリマー微孔性膜を製造することができなかった。
【0092】
(比較例5)
<結晶性ポリマー微孔性膜の製造>
実施例1の[積層体形成工程]において、ペースト2のみで矩形の予備成型体を作製したが、前記予備成形体が非常に脆いために、押出シートが容易に崩れてしまいカレンダー掛けすることができず、結晶性ポリマー微孔性膜を製造することができなかった。
【0093】
(比較例6)
<結晶性ポリマー微孔性膜の製造>
実施例1の[積層体形成工程]において、ペースト3のみで矩形の予備成型体を作製したが、カレンダー掛けの際に端部より膜の破断が生じ、結晶性ポリマー微孔性膜を製造することができなかった。
【0094】
(比較例7)
<結晶性ポリマー微孔性膜の製造>
実施例1の[積層体形成工程]において、ペースト1のみで矩形の予備成型体を作製したこと以外は、実施例1と同様にして、平均厚み100μm、平均幅150mmの単層体を形成し、比較例7の結晶性ポリマー微孔性膜を製造した。
【0095】
(比較例8)
<結晶性ポリマー微孔性膜の製造>
実施例3の[積層体形成工程]において、ペースト1のみで矩形の予備成型体を作製したこと以外は、実施例1と同様にして、平均厚み80μm、平均幅150mmの単層体を形成し、比較例8の結晶性ポリマー微孔性膜を製造した。
【0096】
(比較例9)
<結晶性ポリマー微孔性膜の製造>
実施例1の[対称加熱工程]に替えて、345℃に加熱した金属ロール上にペースト2が外側に近い側を10秒間接触させた以外は、実施例1と同様にして、平均厚み100μm、平均幅150mmの積層体を形成し、比較例9の結晶性ポリマー微孔性膜を製造した。
【0097】
(評価)
<DSCチャートの測定>
示差走査熱量計(セイコーインスツルメンツ製、DSC7200)を用いて10℃/minの昇温速度で測定を行い、DSCチャートの微分曲線からチャート上のピーク位置を特定した。実施例1〜7及び比較例1〜9にて使用した各結晶性ポリマーの高温側及び低温側のピーク位置を特定した。結果を表1に示す。
【0098】
<結晶性ポリマー微孔性膜の平均厚みの測定>
実施例1〜5及び比較例7〜9の結晶性ポリマー微孔性膜を、凍結割断して走査型電子顕微鏡(SEM)(JEOL社製、製品名「JSM−6360」)を用いて断面を観察して、その平均厚みを計測した。結果を表1に示す。
【0099】
<第2の結晶性ポリマー層の繊維長の測定>
実施例1〜4の結晶性ポリマー微孔性膜における第2の結晶性ポリマーシート層、並びに比較例7及び8の結晶性ポリマー微孔性膜における第1の結晶性ポリマーシート層を観察して、その繊維長を映像から10点計測し、値を平均して繊維長とした。ただし、平均値が0.5μm未満である場合は「<0.5」とした。結果を表1に示す。
【0100】
<平均流量孔径の測定>
実施例1〜5及び比較例7〜9の結晶性ポリマー微孔性膜について、パームポローメーター(PMI社製)を用いて平均流量孔径を測定した。結果を表1に示す。
【0101】
<流量テスト>
実施例1〜5及び比較例7〜9の結晶性ポリマー微孔性膜について、イソプロピルアルコール(IPA)を差圧100kPaで流した時の単位面積(m)、及び単位時間(min)あたりの透過量を流量(L・m−2・min−1)として、測定し、流量テストを行った。
【0102】
【表1】

【0103】
実施例1〜5の結晶性ポリマー微孔性膜は、内側の層における破断を防止することができ、構造安定性に優れ、微小な孔径を有し、数十nmサイズの微粒子を効率良く捕捉することができ、自在に性能設計可能であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜及びこれを用いた濾過用フィルタは、濾過が必要とされる様々な状況において使用することができ、気体、液体等の精密濾過に好適に用いられ、例えば、腐食性ガス、半導体工業で使用される各種ガス等の濾過、電子工業用洗浄水、医薬用水、医薬製造工程用水、食品水等の濾過、滅菌、高温濾過、反応性薬品の濾過、電線被覆材料、カテーテル、人工血管、癒着防止膜、細胞培養足場、絶縁膜、燃料電池用セパレータなどに幅広く用いることができる。
【符号の説明】
【0105】
1 外側
2 内側
3 芯棒
4 第1の結晶性ポリマーシート層
4A 第1のペースト
5 第2の結晶性ポリマーシート層
5A 第2のペースト
5B 端面
6 金属板
8 金型
9 押出装置
10 積層予備成形体
15 積層体(未加熱フィルム積層体)
16 破断
20 圧延ロール
21 一次側サポート
22 精密ろ過膜
23 二次側サポート
24 上部エンドプレート
25 下部エンドプレート
26 フィルターエレメントカバー
27 フィルターエレメントコア
28 Oリング
29 フィルターメディア
30 フィルターエレメント
31 ハウジングカバー
32 ハウジングベース
33 液入口ノズル
34 液出口ノズル
37 溶着部
101 第1の結晶性ポリマーシート層
102 第2の結晶性ポリマーシート層
103 第1の結晶性ポリマーシート層
101b 孔部
102b 孔部
103b 孔部
111 外周カバー
112 膜サポート
113 精密ろ過膜
114 膜サポート
115 コア
116a エンドプレート
116b エンドプレート
117 ガスケット
118 液体出口
Lm1 孔部の最大平均孔径
Lm2 孔部の最大平均孔径
Lm3 孔部の最大平均孔径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の結晶性ポリマーシート層で、第2の結晶性ポリマーシート層の両面が被覆され、かつ、前記第2の結晶性ポリマーシート層における、互いに対向する一対の長さ方向の端面が、前記第1の結晶性ポリマーシート層で被覆されてなる積層予備成形体を、長さ方向に、押出し、圧延して積層体を形成する積層体形成工程と、
前記積層体を対称加熱する対称加熱工程と、
前記積層体を延伸する延伸工程と、
を含むことを特徴とする結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項2】
第2の結晶性ポリマーシート層の両面を被覆する2つの第1の結晶性ポリマーシート層の厚みが互いに異なる請求項1に記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項3】
積層体における少なくとも1層が、前記積層体の厚み方向における少なくとも一部において、平均孔径が一定である複数の孔部を有する請求項1から2のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項4】
積層体における少なくとも第2の結晶性ポリマーシート層が、平均長軸長さが1μm以下のフィブリルを少なくとも含む微細構造を有する請求項1から3のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項5】
第1の結晶性ポリマーシート層に含まれる第1の結晶性ポリマーが、ポリテトラフルオロエチレン及びポリテトラフルオロエチレン共重合体のいずれかである請求項1から4のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項6】
第2の結晶性ポリマーシート層に含まれる第2の結晶性ポリマーが、ポリテトラフルオロエチレン及びポリテトラフルオロエチレン共重合体のいずれかである請求項1から5のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項7】
ポリテトラフルオロエチレン共重合体が、テトラフルオロエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、ヘキサフルオロプロピレン、及びクロロトリフルオロエチレンから選択される少なくとも2種を共重合してなる共重合体である請求項6に記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項8】
第2の結晶性ポリマーが、示差走査熱量計で測定して得られたDSCチャートにおいて、1つのピークと該ピークの高温側又は低温側にショルダー部を有し、
低温側にピークと該ピークの高温側に高温側ショルダー部を有する場合には、積層体の対称加熱を低温側のピーク温度より高い温度で行い、
高温側にピークと該ピークの低温側に低温側ショルダー部を有する場合には、積層体の対称加熱を低温側ショルダー部の温度より高い温度で行う請求項1から7のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項9】
積層体の対称加熱を第1の結晶性ポリマーの融点以下の温度で行う請求項1から8のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法により製造されることを特徴とする結晶性ポリマー微孔性膜。
【請求項11】
請求項10に記載の結晶性ポリマー微孔性膜を用いたことを特徴とする濾過用フィルタ。
【請求項12】
インレットと、アウトレットと、請求項11に記載の濾過用フィルタとを有する濾過装置であって、前記濾過用フィルタにおける第2の結晶性ポリマーシートを前記アウトレット近傍に配置することを特徴とする濾過装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−192308(P2012−192308A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56350(P2011−56350)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】