説明

結晶性リン酸アルミニウム多孔質構造体およびその製造方法

【課題】 マクロ細孔とミクロ細孔の二種類のタイプの細孔を有し、しかも、ゼオライト構造を有する新規な結晶性リン酸アルミニウム多孔質構造体を提供する。
【解決手段】 細孔径0.1〜30μmのマイクロメートル領域の孔径を有するマクロ細孔と、細孔径3〜20Åのオングストローム領域の孔径を有するミクロ細孔との二種類のタイプの細孔を有してなり、その骨格がゼオライト構造である結晶性リン酸アルミニウム多孔質構造体であり、その組成はAl/Pモル比で0.8〜1.2の範囲を採り得る。また、上記多孔質構造体は、非晶質多孔質リン酸アルミニウムのゲル体を構造規定剤の存在下に、水熱処理又は水蒸気処理することにより得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規な結晶性アルミノリン酸多孔体およびその製造法に関する。さらに詳しくは、マクロ細孔およびミクロ細孔の二種類のタイプの細孔を有する結晶性リン酸アルミニウム多孔質体およびその製造方法に関する。本発明の結晶性リン酸アルミニウム多孔質体は、例えば固体触媒、触媒担体、吸着材、分離材などの材料として好適に使用される。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトは、オングストロームサイズのミクロ細孔を結晶構造の内部に有する結晶性多孔質体であり、様々なタイプの結晶系のものが天然鉱物として知られているが、その一部は合成することも可能である。ゼオライトのミクロ細孔構造は結晶系に対応しており、分子篩効果により選択的な吸着・分離挙動を示す。
【0003】
多くのゼオライトは、シリカを主成分としアルミニウムやチタニウムを含有するが、近年リン酸アルミニウムにおいてもゼオライト構造を有する結晶性リン酸アルミニウムの作製が報告されている。ここで、上記リン酸アルミニウムは、アルミノリン酸とも呼ばれ、アルミニウムの三価とリンの五価が当量存在することによって電気的中性となるため、1:1の組成比では固体酸性が低く、またイオン交換能も小さい。そのため、リンの一部を四価のカチオン、例えばシリコンに置き換えたシリコアルミノリン酸として、もしくはアルミニウムを二価のカチオン、例えばマグネシウムに置き換えることによって酸性能やイオン交換能を持たすことができる。
【0004】
このような結晶性アルミノリン酸は、適度な酸性度によって、ZSM−5などの固体強酸触媒では進み過ぎる反応に対して、優れた特性を示す。
【0005】
最近、ドライゲルコンバージョン法によるアルミノリン酸ゲルからのゼオライト構造を有する結晶性アルミノリン酸の合成方法が報告されている(非特許文献1)。
【0006】
しかしながら、上記方法においては、アルミノリン酸ゲルを沈殿法により作製していることから、得られる結晶性アルミのリン酸は粉末状であった。
【0007】
そのため、前記方法によって得られる粉末状の結晶性アルミのリン酸の実用化に当たってはアルミナスラリーなどのバインダーと共に焼結して適当な大きさの構造体に成形する必要があった。
【0008】
ところが、前記アルミナをバインダーとして得られた結晶性アルミノリン酸構造体は、結晶性アルミノリン酸に存在するミクロ細孔中の分子拡散のみに依存するため、構造体内部の物質輸送効率が低く、触媒等への実用化にあたっては触媒性能において改善の余地があった。また、成形時に加えられるバインダーによりアルミナが触媒機能に悪影響を与えることもあり、バインダーを使用しない構造体の開発が要望されていた。
【0009】
尚、前記ドライゲルコンバージョン法とは、構造規定剤を含む乾燥ゲルを水蒸気自己圧下で処理することによるゼオライト合成法である。
【0010】
【非特許文献1】M.Bandyopadhyay,R.Bandyopadhyay,Y.Kubota,and Y.Sugi,“Synthesis of AlPO4−5 and AlPO4−11 Molecular Sieves by Dry−Gel Conversion Method” Chem.Lett.,(2000年)1024−1025頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、アルミニウムとリンによってゼオライト骨格を有する結晶性リン酸アルミニウムにおいて、ミクロ細孔とマクロ細孔とを併せ有する構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、非晶質アルミノリン酸の多孔質ゲル体を結晶形成に必要なアルキルアミンなどの構造規定剤(以下SDAともいう)の存在下に、水熱処理又は蒸気処理を施してゼオライト結晶に変換することにより、ゼオライト結晶を有する一次粒子によるミクロ細孔の形成と共に、該一次粒子の適度な凝集による二次粒子の形成によりマクロ孔が形成され、前記目的とする、ミクロ細孔とマクロ細孔とを併せ有する結晶性リン酸アルミニウム多孔質構造体を得ることに成功し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は、細孔径0.1〜30μmの孔径を有するマクロ細孔と、細孔径50〜1000nmの孔径を有するミクロ細孔とを併せ有することを特徴とする結晶性リン酸アルミニウム多孔質構造体である。
また、本発明は、非晶質多孔質リン酸アルミニウムのゲル体を構造規定剤の存在下に、水熱処理もしくは水蒸気処理することを特徴とする結晶性リン酸アルミニウム多孔質構造体の製造方法をも提供する。
上記構造規定剤(以下SDAという)とは、非晶質多孔体をゼオライト構造の結晶質に変換する際、構造誘導、調節、促進、構造決定作用をする有機アンモニウム化合物あるいは有機アミン類等の添加剤の総称である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の結晶性リン酸アルミニウム多孔質構造体は、マクロ細孔とミクロ細孔を有するため、該マクロ細孔による効果的な物質輸送が可能となり、アルミノリン酸のミクロ細孔の有効性を向上できるという特徴を有する。
【0015】
そのため、例えば、高選択性を有する酸触媒、精密な吸着分離体への応用が可能となる。
【0016】
また、本発明の製造方法によれば、バインダーを使用すること無く、結晶性リン酸アルミニウム多孔質構造体を得ることができると共に、得られる多孔質構造体は前記マクロ細孔とミクロ細孔を併せ有するものである。
【0017】
過去の報告では、アルミノリン酸系については前駆体の非晶質リン酸アルミニウムのゲルを沈殿法によらずモノリシックなゲル体として得る試みもほとんど成されておらず、これより得られた本発明の結晶性リン酸アルミニウム構造体は、全く新しいものといえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
本発明において、結晶性リン酸アルミニウムは、結晶性ゼオライト構造を有するアルミノリン酸であり、結晶の基本単位として、〔AlO5−及び〔PO3−を含むものである。
【0020】
本発明の結晶性リン酸アルミニウムは、〔Al〕/〔P〕のモル比が、0.8を超え1.2以下であり、特に0.9〜1.1の値のものが実用化の点で好ましい。この組成比を外れる場合は、結晶性リン酸アルミニウムを製造する過程において、結晶化の進行が遅れるため、製造が困難となり好ましくない。
【0021】
本発明の結晶性リン酸アルミニウム多孔質体は、それを構成する骨格の一部或いは全部が、例えばAFI構造、AEI構造に代表されるようなゼオライト構造を有している。即ち、該結晶性リン酸アルミニウムを吸着分離材或いは触媒に利用する場合、必ずしも骨格の全部がゼオライト構造を有している必要はなく、マクロ細孔の孔表面部分(孔壁)がゼオライト構造を有していれば、十分その特性を発揮することができる。
【0022】
上記結晶性ゼオライト構造については、破断面のSEM観察、X線回折、水銀圧入測定、吸着測定などの分析手段を複合的に利用することで確認できる。
【0023】
また、アルミニウムとリンの比は、蛍光X線分析により確認でき、その配位構造は固体NMRにより確認できる。
【0024】
本発明の結晶性リン酸アルミニウム多孔質構造体の最も大きな特徴は、マイクロメートル領域の孔径を有するマクロ細孔と、オングストローム領域の孔径を有するミクロ細孔との二種類の細孔を併せ有する点にある。
【0025】
上記マクロ細孔の孔径は通常0.1〜30μm低度の範囲にあり、特に、結晶の粒子成長との関係で5〜15μm程度のものが好ましい。また、ミクロ細孔の孔径は結晶系によって決まり、通常3〜20Å程度の範囲にあり、特に、4〜10Å程度のものが好ましい。
【0026】
これら細孔は、特定孔径を中心として孔径分布をもって存在しているが、本発明の結晶性リン酸アルミニウム多孔質構造体は、サイズの揃った結晶性ゼオライト粒子によりマクロ細孔が形成されるため、後述する実施例にも示すように、細孔径分布図において、dV/dlogD値(V:細孔容積、D:細孔サイズ)が1cm/gを越える、細孔径分布の狭いマクロ細孔が存在すること、及び、該マクロ細孔の容積が大きいという特徴をも有する。
【0027】
即ち、マクロ細孔の容積は、グラムあたり0.3〜2cmの範囲で制御可能であり、0.5〜1.5cmの範囲が好ましい。また、ミクロ細孔の容積は、グラムあたり0.01〜0.5cmの範囲で制御可能であり、0.1〜0.4cmの範囲が好ましい。
【0028】
尚、前記マクロ細孔は、SEMによる直接観察によってその存在が確認でき、前記細孔容積および孔径分布は、水銀圧入法により測定した値である。また、上記ミクロ細孔の孔径及びその孔径分布は、X線回折より定まる結晶構造の原子の空間配列から決定でき、細孔容積は窒素吸着法より測定した値である。
【0029】
本発明の結晶性リン酸アルミニウム多孔質構造体は、前記の二種類の細孔に加えて、ナノメートル領域の細孔径50〜1000nm程度のナノ細孔を有していても良く、後述の製造方法において、かかる細孔をも形成することが可能である。 即ち、前記マクロ孔を形成するゼオライト粒子はより小さな一次粒子の凝集した二次粒子であり、この一次粒子間隙にサイズ分布がブロードなナノ細孔の存在が確認されている。このナノ細孔の存在により、二次粒子の内部までの物質輸送がより加速され、触媒反応などの実用において活性の向上が期待される。
【0030】
本発明の結晶性リン酸アルミニウム多孔質構造体は、従来の製法により得られる実質的にミクロ細孔のみ有する粉状の多孔質体と異なり、体積1mm以上、一般には、1〜20mmの粒状構造体、体積1mm以上の大きさの板状構造体や円筒状構造体等、ある程度の大きさを有する任意の形状の構造体の形態を採るものである。また、上記構造体を破砕した、不定形粒子であってもよい。
【0031】
本発明の結晶性リン酸アルミニウム多孔質構造体は、後述するように、ゲル体を結晶化して製造されるため、バインダーを使用することなく、構造体を構成することが可能であり、触媒等の用途に使用した場合においても、かかるバインダーが反応に対して悪影響を与えることがない。しかも、結晶性リン酸アルミニウムが元来有するミクロ細孔と共に、上記製造方法に由来して、特徴的なマクロ細孔の形成が実現でき、極めて特徴的な多孔質構造体である。
【0032】
本発明の結晶性リン酸アルミニウム多孔質構造体の製造方法は特に限定されないが、代表的には次の方法で製造することができる。
【0033】
即ち、非晶質多孔質リン酸アルミニウムのゲル体を構造規定剤の存在下に、水熱処理又は水蒸気処理することにより、本発明の結晶性リン酸アルミニウム多孔質構造体が得られる。
【0034】
上記製造方法の代表例を具体的に説明すれば、まず、上記非晶質多孔質アルミノリン酸のゲルの製造は、アルミニウム塩およびリン酸塩の溶液に、熱分解性化合物を添加し、該熱分解性化合物の熱分解により溶液のpHを変化せしめて、沈殿形成ではなく成形体としてゲル化させる手法が好適である。
【0035】
具体的には、尿素、アルミニウム塩、リン酸塩を有する酸性の水溶液を密閉容器中で80℃程度の温度で熱処理して尿素の分解を引き起こし、これにより生成するアンモニアによって溶液のpHを変化せしめてゲル化を進行させる。
【0036】
従って、アルミニウム塩およびリン酸塩は、上記pH変化によりゲル化させることから、水に溶解した段階で酸性を示すものを用いるのが好ましい。
【0037】
尚、不純物の混入を避けるため、アルミニウムの塩化物イオンや他の金属イオンを有するリン酸塩は避けることが好ましい。また、pH制御の容易さからは、硝酸アルミニウムとリン酸二水素アンモニウムを用いることが好ましい。
前記熱分解性化合物、即ち、熱分解により前記pH変化を引き起こす添加物は、pHを変化させゲル化を起こすことができればよく、前記尿素に限定されず、例えば、ヘキサメチレンテトラミンなども利用可能である。
【0038】
また、前記熱分解性化合物の添加量は、分解により生成するアルカリ量によって決定すればよい。例えば、熱分解性化合物として尿素を使用する場合、熱分解により一分子の尿素から2分子のアンモニアと一分子の二酸化炭素が生成する。生成するアンモニアによって、溶液のpHが上昇し、ゲル化することが可能なようにモル比でAl+Pに対して1〜3倍程度となるように加える尿素の量を調節することが好ましい。
【0039】
この溶液を密閉容器に入れて80℃程度に置くと、尿素の熱分解が起こって溶液のpHが上昇し、非晶質のリン酸アルミニウムとしてゲル化する。熱分解温度は80℃に限定されないが、熱分解で気体が発生するため、高温での熱分解では密閉性を高くしまた耐圧容器を使う必要がある。また熱分解温度を80℃より大きく下げると、分解速度が遅くなりゲル化に要する時間が長くなる。従って、かかる熱分解温度は、70〜90℃が好ましい。
【0040】
尚、尿素以外の熱分解性化合物を用いる場合には、その化合物の熱分解温度にあった温度で熱処理を行えばよい。
【0041】
尿素を用いた熱分解では、アルミニウム塩、リン酸塩、尿素の濃度を適切に設定すれば、80℃で1日程度置けば溶液がゲル化する。得られたゲルは、さらに0〜3日程度熟成した後、50℃で乾燥する。
【0042】
上述の方法により乾燥したゲルを、更に、400〜1000℃で熱処理することにより、多孔質の非晶質アルミノリン酸のゲル体を得ることができる。即ち、上記熱処理温度が1000℃を超えると、トリジマイト型の結晶に転移する虞があり、また、処理温度が400℃より低い場合にはゲルの強度が弱くなることがある。
【0043】
また、このゲル体の大きさは、乾燥・熱処理による収縮はあるものの、一般には、ゲルを作製する際に使用する容器の形状、大きさにより決定することができる。
【0044】
このようにして作製した非晶質アルミノリン酸のゲル体は、一般には、およそ100nm程度の均一な細孔を有する多孔体であり、その細孔容積は1cc/g程度である。
【0045】
次に、該非晶質多孔質アルミノリン酸のゲル体を結晶形成に必要なアルキルアミンなどのSDAの存在下、水熱処理又は蒸気処理を施し、ゼオライト結晶に変換する。
【0046】
かかる水熱処理条件下では、細孔内の液相へのリン酸アルミニウムの溶解再析出が起こる過程で、構造規定剤を核としてゼオライトの格子が生成し、それが粒子表面上で固相反応・および液相を介した反応によって成長を続け、最終的にマクロ孔を含むゼオライト微結晶の集合体となるものと推定される。また、水蒸気処理においても、気相を解してSDAと水が細孔内に輸送され、そこで細孔内凝集して細孔内液相が生じ、水熱処理と同様の機構でゼオライト化が進行するものと推定される。
【0047】
また、この際に、前駆体ゲル中のミクロ孔を形成する一次粒子の表面の溶解と粒子間の相互作用が起こりミクロンサイズの二次粒子が成長すると共に、結晶化が進むことで二次粒子の成長が抑制され、結果的に形成される均質なサイズの二次粒子が均一なマクロ孔を形成するものと推定される。
【0048】
本発明において、前記SDAとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミンなどのモノアルキルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、メチルエチルアミンなどのジアルキルアミン、エチレンジアミンなどのアルキルジアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミンなどのトリアルキルアミンなどを例示することができる。また、アルキルアンモニウム塩も利用可能であり、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラn−プロピルアンモニウム、テトラn−ブチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウムを含有するハロゲン化物、水酸化物を例示することができる。そのうち、アルキルアミンが好適に使用される。
【0049】
また、SDAとして前記アルキルアンモニウム塩を用いる場合は、あらかじめSDAをゲル体の内部に含浸法などにより導入してから、水熱処理又は水蒸気処理を行うのが好ましい。
【0050】
また、揮発性のアルキルアミンを用いる場合は、こうした導入法のほかに、気相輸送による水蒸気処理を行うことも可能である。即ち、水とアルキルアミンの混合溶液と非晶質多孔質アルミノリン酸のゲル体を耐圧容器に入れて、加熱することによりSDAであるアルキルアミンを、気相を経由して、即ち、蒸気でアルミノリン酸のゲル体中に導入する。このように、SDAの中でもトリエチルアミンを気相で用いる方法が結晶化速度・結晶化温度、および成形性の保持の観点から最も好ましい。
【0051】
本発明において、SDAの使用量は、結晶性リン酸アルミニウムの結晶性を勘案して適宜決定される。例えば、あらかじめ含浸法でゲル体に溶液として導入する場合、前駆体ゲルのメゾ細孔容積が1mlであることから、この細孔に導入される溶液中に充分のSDAが含まれる必要がある。具体的には、通常、0.1〜50重量%の濃度の水溶液、好ましくは1〜20重量%の水溶液を使用することが好ましい。また、SDAを気相輸送で導入する場合は容器中のSDAの量は使用するゲルの重量に対して、0.1〜10倍、好ましくは、0.5〜5倍程度とすることが好ましい。
【0052】
水熱処理又は水蒸気処理の方法は特に限定されないが、代表的には以下の方法が挙げられる。
【0053】
水熱処理の場合、例えば、ステンレス製の密閉耐圧容器中、テフロン(登録商標)製内容器を入れ、その内容器中に、前記SDAを含む水溶液と非晶質多孔質アルミノリン酸のゲル体を入れる。この容器を100〜200℃、好ましくは150〜200℃に設定したオーブン中にいれ、数時間〜1週間、好ましくは1〜3日程度静置する。
【0054】
水蒸気処理の場合も同様の装置を用意し、非晶質多孔質アルミノリン酸のゲル体を入れ、容器内部を飽和水蒸気で満たすのに必要な量の水と揮発性のあるSDAを入れる。揮発性の低いSDAを用いる場合には、あらかじめ非晶質多孔質アルミノリン酸内部に含浸してSDAを導入しておく。この容器を水熱処理と同様の条件で静置する。
【0055】
本発明において、得られる結晶性リン酸アルミニウム多孔質構造体のミクロ細孔の孔径、マクロ細孔、ナノ細孔は、原料のAl/P比、結晶化におけるSDAの使用量、加熱温度、加熱時間、などにより適宜調整することができる。
【0056】
即ち、得られる結晶性リン酸アルミニウムのミクロ細孔の孔径は、結晶系によって決まり、かかる結晶系は、Al/P比やSDA量を制御することによって調整される。例えば、SDAとしてトリエチルアミンを用いて水蒸気処理を行った場合、Al/P比が1以下ではAFI構造に、1.2以上であればAEI構造が生成する。
【0057】
また、ミクロ細孔の細孔容積は結晶性が向上するほど大きくなり、かかる結晶性は、SDAの使用量を増やすか、処理時間を長くする、処理温度を高くすることなどによって上げることができる。
【0058】
また、得られる結晶性リン酸アルミニウムのマクロ細孔の孔径は、主として、一次粒子の凝集状態によって調整され、処理温度を高くすると増大する傾向がある。また、上記マクロ細孔の細孔容積は、主として、前駆体ゲルの細孔容積によって調整され、前駆体ゲルの細孔容積の増加と共に増大する傾向がある。
【0059】
また、本発明においては、トリエチルアミンをSDAとして用いることによって、前記ナノ細孔を形成することも可能である。
【0060】
従って、これら諸条件を適宜変化させることにより、所望の結晶系、所望のミクロ細孔の孔径や細孔容積の結晶性リン酸アルミニウム多孔質体が得られる。
【0061】
上述の方法により得られる本発明の結晶性リン酸アルミニウム多孔質体は、結晶成長の度合いにより強度は多少低下する場合があるが、もとの非晶質アルミノリン酸成形体の形を保ったまま作製できる。即ち、バインダーを使用しないマクロ細孔とミクロ細孔を併せ有する二元細孔多孔質体として、結晶性リン酸アルミニウム多孔質構造体を作製できる。
【0062】
また、得られた結晶性リン酸アルミニウム多孔質構造体を破砕して、不定形の粒状体とすることも可能である。
【0063】
かかる結晶性リン酸アルミニウム多孔質構造体の内部構造については、前記各種分析により、組成の確認、マクロ細孔およびミクロ細孔の存在、ゼオライト構造の確認とAlとPの配位構造の特定が出来る。
【0064】
また、このようにして作製された結晶性リン酸アルミニウム多孔質構造体は、ミクロ孔中にSDAを含んでいるため、使用の際にはSDAを除去することが好ましい。除去法としては、500〜800℃程度で焼成を行えばよいが、単純に焼成するだけでは、温度を上げすぎると結晶構造が壊れ、低温ではカーボンが残留する場合がある。0.1mol/l程度の濃度の硝酸アンモニウムに浸してSDAを除去した後、洗浄、乾燥、焼成を行うと、600℃程度の低温でカーボン残留のない多孔体が得られる。
【実施例】
【0065】
以下実施例を示して本発明をさらに具体的に説明する。
【0066】
尚、実施例において、マクロ細孔の細孔径、細孔容積、ミクロ細孔の細孔径、細孔容積、結晶性、マイクロメートルサイズの構造の直接観察、酸性度の測定は、下記の方法によって行った。
【0067】
(1)マクロ細孔の細孔径、細孔容積
水銀圧入法(Quantacurome社製 PoreMaster 33)
50nm〜50μmの圧入量から細孔容積を、細孔径分布のピーク値を細孔径とした。
【0068】
(2)ミクロ細孔の細孔径、細孔容積
X線回折による格子定数より細孔径を、窒素吸着法における吸着窒素ガス容積より細孔容積を求めた。
【0069】
X線回折(島津製作所製XRD−7000S)
窒素吸着(Quantacurome社製 AUTOSORB−1MP)
(3)マクロ孔・ゼオライト粒子の外観
電子顕微鏡(TOPCON SM200)による直接観察
(4)酸性度:吸着アンモニアの昇温脱離
500℃で1時間真空加熱して前処理した試料に、100℃で13.3kPaのアンモニア蒸気に接触させた後、100℃で1時間排気した。その後、窒素を50cm3/minの流速で流通させながら昇温速度を1分あたり10℃として800℃まで加熱して、脱離するアンモニア量を定量した。脱離量は、出口の窒素ガスを希硫酸水溶液にバブリングさせて、アンモニアによる硫酸の中和による導電率の変化から求めた(詳細は、Bull.Chem.Soc.Jpn.1992年、65巻、1486頁参照)。
【0070】
実施例1
硝酸アルミニウム9水和物を4g、リン酸二水素アンモニウム1.077g尿素3g(Al:P:尿素のモル比=1:1:5)を蒸留水25mlに溶かし密閉した。これを80℃で二日間保持してゲル化し、50℃で乾燥、500℃で2時間保持して非晶質リン酸アルミニウムのゲル体を得た。このゲル体の細孔構造を水銀圧入法によって評価したところ、細孔容積は1.1ml/gであり、細孔径分布は50〜70nm付近に鋭いピークを見せた(図1)。またX線回折測定より非晶質であることが確認された(図2)。
【0071】
このゲル体0.5gを、一辺2〜5mm程度の大きさに揃えて、トリエチルアミン1ml、水2.92gを加えた耐圧容器に水と接触しない様にいれて、180℃で三日間水蒸気処理をおこなった。これによりトリエチルアミンと水が気相を経由して、蒸気としてゲル中に取り込まれ、リン酸アルミニウムの結晶化を促し、前駆体の基の大きさを維持したままAFI構造のゼオライトが生成した。
【0072】
図2に前駆体の非晶質リン酸アルミニウムと結晶化後の試料のX線回折パターンを示す。AFI単相が析出していることがわかる。
【0073】
また、ゼオライト化後の試料破断面のSEM写真より、5〜10μm程度の粒子が緩く凝集した構造であることがわかる(図3)。さらに高倍率で観察すると、個々の粒子はより小さな微粒子の集合体であることが観察される(図4)。
【0074】
図1に結晶化後の水銀圧入法による細孔径分布をしめす。これより、6μmに鋭いピークが見られた。水銀圧入法で求めた、マクロ孔容積は0.95ml/gであった。また窒素吸着によりミクロ孔の存在が確認され、ミクロ孔による表面積は250m/gであった。図5に吸着したアンモニアの熱脱離挙動を示す。 その結果、400℃以下で多くのアンモニアは脱離し、AFIリン酸アルミニウム中に弱い酸点が存在することが確認された。
【0075】
実施例2
実施例1において、トリエチルアミンの量を変化させて試料を作製した。
【0076】
図2にX線回折パターンを示すが、トリエチルアミンの量が2ml以上(5ml)ではAFIではなく、AEI構造の生成が確認された。
【0077】
実施例3
実施例1において、非晶質多孔質リン酸アルミニウムのゲルを製造する際のP/Al比を変化させてゲル体を作製した。P/Al比が1.2以上では、前駆体ゲルを500℃で焼成した段階でトリジマイトが結晶化した。さらに水蒸気処理を行ったところ、P/Alが1.0以上1.2未満の組成ではTEA構造の結晶生成が確認された。P/Alが1.0以下ではAEI構造の結晶生成が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】実施例1で得られた非晶質リン酸アルミニウムのゲル体、及び、本発明の結晶性リン酸アルミニウム多孔質体の水銀圧入法による細孔系分布である。
【図2】実施例1及び実施例2で得られた本発明の結晶性リン酸アルミニウム多孔質体のX線回折図である。
【図3】実施例1で得られた本発明の結晶性リン酸アルミニウム多孔質体の細孔状態を示すSEM写真である。
【図4】実施例1で得られた本発明の結晶性リン酸アルミニウム多孔質体の細孔状態を示すSEM写真(高倍率)である。
【図5】実施例1で得られた本発明の結晶性リン酸アルミニウム多孔質体を使用した吸着アンモニアの昇温脱離曲線である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細孔径0.1〜30μmの孔径を有するマクロ細孔と、細孔径3〜20Åの孔径を有するミクロ細孔とを併せ有することを特徴とする結晶性リン酸アルミニウム多孔質構造体。
【請求項2】
1mmより大きい体積を有する請求項1記載の結晶性リン酸アルミニウム多孔質構造体。
【請求項3】
非晶質多孔質リン酸アルミニウムのゲル体を構造規定剤の存在下に、水熱処理又は水蒸気処理することを特徴とする結晶性リン酸アルミニウム多孔質構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−184368(P2008−184368A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−20120(P2007−20120)
【出願日】平成19年1月30日(2007.1.30)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)