説明

結晶性多孔質無機酸化物材料の製造方法

【課題】第2族元素をカチオン、または骨格元素として含有する結晶性多孔質無機酸化物材料の製造方法を提供する。
【解決手段】固体状のケイ素源と、第2族元素の酸化物および水酸化物のいずれか一方または双方とを含む原料固体を粉砕および混合し、メカノケミカル反応させることにより複合粉を調製する第1工程と、好ましくは第1族元素の化合物の存在下で、複合粉を水熱反応させる第2工程とを有することを特徴とする結晶性多孔質無機酸化物材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶性多孔質無機酸化物材料の製造方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
分子レベルの細孔サイズを持つゼオライトは、分子ふるい機能のある固体触媒として工業的にも広く利用されている。ゼオライトの触媒としての性能は、その結晶構造(細孔径、細孔容積や細孔構造の次元など)に大きく影響される。そのため、ゼオライト触媒をさらに高性能化・高機能化するには、より望ましい細孔構造を持つ新規構造ゼオライトの探索が重要となる。このような背景から、国内外の多くの研究グループにより新規構造ゼオライトの合成が試みられてきた。
【0003】
それらの研究で主に採られてきたアプローチは、かさ高く、複雑な構造を持つ有機四級アンモニウムカチオンを合成ゲルに加え、これを鋳型(テンプレート、構造規制剤)として細孔を形成させるというものである(例えば、特許文献1〜4参照)。このアプローチは、確かに多くの新規構造ゼオライトを生み出してきたが、残念ながら触媒として研究、利用されるに至ったものはほとんどない。このアプローチで用いる有機四級アンモニウムカチオンのコストが高すぎるということが大きな要因であると思われる。
【0004】
このことから、実際の利用までを視野に入れた新規構造ゼオライトの開発には、有機アンモニウムカチオンではなく、金属カチオンを用いるアプローチが有望であるように思われる。実際、初期の合成ゼオライト研究ではNaやKのような第1族元素(アルカリ金属)のカチオンを含む前駆体ゲルからのゼオライト合成が盛んに行われており、現在工業的に用いられているA型ゼオライトやY型ゼオライトも、Na存在下で合成される物質である。
【0005】
しかし興味深いことに、天然のゼオライト鉱物には、Ca2+やMg2+、Ba2+のような第2族元素のカチオンを含むものが多く知られている。しかもそれらの中には、12員環大細孔や2次元以上の細孔構造など、触媒としての利用を考えたときに有利な構造を持つものも多い。なかには巨大な50面体ケージを有し、非常に小さい骨格密度を持つTschoertnerite(非特許文献1参照)や、12員環と10員環からなる2次元細孔構造を持つBoggsite(非特許文献2参照)のように、天然ゼオライトとしてのみ得られている構造のゼオライトもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表平11−502804号公報
【特許文献2】特表2002−512581号公報
【特許文献3】特開2002−338239号公報
【特許文献4】特開2008−239450号公報(段落[0015])
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】H.Effenberger et al, Am. Mineral., 83, 607 (1998)
【非特許文献2】J. J. Pluth, J. V. Smith, Am. Mineral., 75,501 (1990).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、第2族元素(主にアルカリ土類金属)であるCaやBaの存在下でのゼオライト合成についてはほとんど報告されていない。これは、ゼオライトの前駆体であるハイドロゲルの調製時に、第2族元素は水酸化物やフッ化物として単独で沈殿してしまい、ゼオライト骨格を形成するSiやAlと共に一様に混合された前駆体ゲルを得ることが困難なためだと考えられる。したがって、結晶性多孔質無機酸化物材料の製造に従来用いられているゾル−ゲル法等の方法は、第2族元素を含む無機酸化物材料の製造には適していない。
【0009】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、第2族元素をカチオン、または骨格元素として含有する結晶性多孔質無機酸化物材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的に沿う本発明は、固体状のケイ素源と、第2族元素の化合物とを含む原料固体を粉砕および混合し、メカノケミカル反応させることにより複合粉を調製する第1工程と、前記複合粉を水熱反応させる第2工程とを有する結晶性多孔質無機酸化物材料の製造方法を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0011】
本発明に係る結晶性多孔質無機酸化物材料の製造方法では、前記第2工程において、前記複合粉に第1族元素の化合物を添加した状態で水熱反応を行うことが好ましい。
【0012】
この場合において、前記第1族元素の化合物の前記ケイ素源に対するモル比が、0.1以上0.5以下であることが好ましい。
【0013】
また、これらの場合において、前記第2族元素の化合物の前記ケイ素源に対するモル比が、0.02以上0.25以下であることが好ましい。
【0014】
本発明に係る結晶性多孔質無機酸化物材料の製造方法において、前記原料固体が、固体状のアルミニウム源をさらに含んでいてもよい。
【0015】
この場合において、前記ケイ素源の前記アルミニウム源に対するモル比は、好ましくは、1以上1000以下である。
【0016】
本発明に係る結晶性多孔質無機酸化物材料の製造方法において、前記固体状のケイ素源は、例えば、石英、湿式シリカ、無定形シリカ、ヒュームドシリカ、シリカゲル、カオリナイト、珪藻土、ホワイトカーボンおよびケイ酸塩からなる群より選択される1または複数である。
【0017】
本発明に係る結晶性多孔質無機酸化物材料の製造方法において、前記固体状のアルミニウム源は、例えば、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、アルミン酸塩およびケイ酸アルミニウムからなる群より選択される1または複数である。
【0018】
本発明に係る結晶性多孔質無機酸化物材料の製造方法において、好ましくは、前記第2族元素が、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)およびバリウム(Ba)からなる群より選択される1または複数である。
【0019】
本発明に係る結晶性多孔質無機酸化物材料の製造方法において、好ましくは、前記第1族元素が、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)およびセシウム(Cs)からなる群より選択される1または複数である。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、従来法では困難であった、第2族元素をカチオン、または骨格元素として含有する結晶性多孔質無機酸化物材料の製造方法を提供する。本発明の多孔質無機酸化物の製造方法では、鋳型として高価な有機四級アンモニウムカチオンを使用しないため、低コストで結晶性多孔質無機酸化物を製造できる。また、ナトリウム等の第1族元素を鋳型として用いる従来の方法では得られない結晶構造および細孔構造を有する結晶性多孔質無機酸化物を得ることができると共に、第2族元素の酸化物または酸化物の添加量等により、生成物の構造を制御できる。そのため、所望の構造毎に異なる鋳型化合物を用意する必要がなく、様々な結晶性多孔質無機酸化物の合成に適用可能な製造方法を提供できる。
【0021】
さらに、本発明により提供される結晶性多孔質無機酸化物の製造方法によると、元素種、形状や、溶解性などの物性によらず、様々な原料物質を使用することが可能となり、原料の選択肢が大幅に広がる。そのため、これまでに見られない新規構造多孔性物質が得られる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】水酸化カルシウム存在下におけるゼオライトの合成条件(実施例1)および得られた生成物の粉末X線回折(XRD)スペクトルである。
【図2】水酸化カルシウム存在下におけるゼオライトの合成条件(実施例2)および得られた生成物の粉末X線回折(XRD)スペクトルである。
【図3】水酸化マグネシウム存在下におけるゼオライトの合成条件(実施例3)および得られた生成物の粉末X線回折(XRD)スペクトルである。
【図4】実施例4において得られた生成物の粉末X線回折(XRD)スペクトルである。
【図5】実施例4において得られた生成物の結晶構造モデルである。
【図6】従来法と実施例4において得られた生成物の比較結果を示す図である。
【図7】実施例4、5、6において得られた生成物の比較結果を示す図である。
【図8】実施例7、8、9において得られた生成物の比較結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
【0024】
本発明の一実施の形態に係る結晶性多孔質無機酸化物材料の製造方法(以下、「本製造方法」と略称する。)は、無機複合酸化物全般の製造に適用可能であるが、ケイ酸塩、あるいはアルミノケイ酸塩(ゼオライト)等のメタロシリケートからなる結晶性多孔質無機酸化物の製造に特に好適に用いることができる。
【0025】
本製造方法は、固体状のケイ素源と、第2族元素の化合物とを含む原料固体を粉砕および混合し、メカノケミカル反応させることにより複合粉を調製する第1工程と、前記複合粉を水熱反応させる第2工程とを有する。
以下、各工程について詳細に説明する。
【0026】
(1)第1工程
原料固体は、少なくとも固体状のケイ素源と、第2族元素の化合物とを含んでおり、必要に応じて、目的物である結晶性多孔質無機酸化物の構成元素の供給源となる1または複数の金属化合物をさらに含んでいてもよい。
ケイ素源としては、固体状の任意のケイ素化合物を用いることができるが、好ましくは、酸化ケイ素またはケイ酸塩化合物である。このようなケイ素源の具体例としては、石英、湿式シリカ、無定形シリカ、ヒュームドシリカ、シリカゲル、カオリナイト、珪藻土、ホワイトカーボン、およびケイ酸塩(具体例としては、オルトケイ酸およびメタケイ酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられるが、固体状のものであれば任意のものを用いることができる。)が挙げられる。これらのうち1種類のみをケイ素源として用いてもよいが、任意の2種以上を任意の割合で混合したものをケイ素源として用いてもよい。
【0027】
第2族元素の化合物としては、第2族元素の水酸化物、酸化物、塩化物、硫酸塩、硝酸塩等の任意の化合物を用いることができるが、酸化物、水酸化物が好ましく用いられる。これらのうち1種類の化合物のみを用いてもよいが、任意の2種以上の化合物を任意の割合で混合したものを用いてもよい。
【0028】
本製造方法において好ましく用いることができる第2族元素は、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)およびバリウム(Ba)であるが、コスト等の点でマグネシウムおよびカルシウムがより好ましく、カルシウムが最も好ましい。
【0029】
原料固体に含まれる第2族元素の化合物のケイ素源に対する配合比(M/Si比:ここで、Mは第2族元素を表す。以下同じ。)は特に制限されないが、0.01以上0.25以下の範囲が好ましい。両者の配合比が0.01を下回ると十分な効果が得られず、一方両者の配合比が0.25を超えた場合、結晶性多孔質無機酸化物の製造自体は可能であるが、最終生成物に不純物が混在したり、結晶化に要する時間が長くなったりする。
【0030】
本製造方法において用いられる典型的な他の金属化合物は、ゼオライトの構成元素であるアルミニウム化合物が挙げられる。アルミニウム源としては、任意の固体状のアルミニウム化合物を用いることができるが、具体例としては、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、アルミン酸塩およびケイ酸アルミニウムが挙げられる。これらのうち1種類のみをアルミニウム源として用いてもよいが、任意の2種以上を任意の割合で混合したものをアルミニウム源として用いてもよい。
【0031】
原料固体に含まれるアルミニウム源のケイ素源に対する配合比(Al/Si比)は特に制限されず、最終生成物のAl/Si比、細孔構造等に応じて適宜決定されるが、例えば、0.001以上1以下である。
したがって、ケイ素源のアルミニウム源に対する配合比(モル比:Si/Al比)は、上記Al/Si比の逆数にあたるため、その好ましい範囲は、例えば、1以上1000以下である。
【0032】
固体原料の粒子径は10〜1,000マイクロメートル程度が好ましい。これより大きな粒子径を持つ原料も利用可能であるが、十分にメカノケミカル反応を進行させるためには、より長い時間がかかるため、上記範囲内の粒子径を有するものが好ましく用いられる。
【0033】
原料固体を粉砕および混合し、複合粉を得るためには、例えば、上記のような原料固体を粉砕用ボールとともに粉砕容器に入れ、遊星型ボールミル装置を用いて、200〜700rpmで回転させ、大きな機械的エネルギーを与えることにより、原料をメカノケミカル反応させる。メカノケミカル法を用いることにより、溶媒に溶解しない原料や、他の原料と混ざりにくい原料を用いることが可能となる。本製造方法においては、メカノケミカル反応を利用することにより、ゾル−ゲル法等の従来法では困難であった、第2族元素をカチオンまたは骨格元素として含有する結晶性多孔質無機酸化物の製造が可能になる。
【0034】
なお、本実施の形態では、メカノケミカル反応に遊星型ボールミルを用いる場合について説明したが、自動乳鉢等の他の任意の公知の粉砕・混合手段を用いてメカノケミカル反応を起こしてもよい。
【0035】
(2)第2工程
つづく第2工程では、第1工程で調製した複合粉を水熱反応させて結晶性多孔質無機酸化物を得る。水熱反応は、任意の公知の方法および装置を用いて行うことができるが、例えば、複合粉に所定量の水を添加し、必要に応じて造粒またはペレット化したものを、所定量の水を加え、加熱手段を備えたオートクレーブ等の圧力容器に入れる。次いで、圧力容器内部に収容された水を加熱し、圧力容器内部を所定の水熱反応条件(温度、圧力および反応時間)に設定し、複合粉と水蒸気を接触させることにより水熱反応させる。反応温度および反応時間は原料固体または複合粉の組成、最終生成物の結晶構造等に応じて適宜決定されるが、例えば、120℃〜200℃で3日〜14日間である。
【0036】
複合粉に添加する水の量は特に制限されないが、ケイ素源に対するモル比(HO/Si比)が2以上50以下であることが好ましい。
【0037】
第2工程において、複合粉に第1族元素の化合物を添加した状態で水熱反応を行うことが好ましい。第1族元素の化合物の添加は、第2族元素の化合物を含む複合粉における水熱反応を円滑に進行させる効果を有すると共に、第1族元素と第2族元素の配合比を調節することによって最終生成物の構造を制御することができるという効果を有する。そのため、第1族元素の化合物を添加することにより、複数の鋳型化合物を使い分けることなく所望の構造(結晶構造および細孔構造)を有する結晶性多孔質無機酸化物を製造することが可能になる。
【0038】
第1族元素の化合物としては、第1族元素の水酸化物、酸化物、塩化物、硫酸塩、硝酸塩等の任意の化合物を用いることができるが、酸化物、水酸化物が好ましく用いられる。これらのうち1種類の化合物のみを用いてもよいが、任意の2種以上の化合物を任意の割合で混合したものを用いてもよい。
【0039】
本製造方法において好ましく用いることができる第1族元素は、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)およびセシウム(Cs)であるが、コスト等の点でナトリウムおよびカリウムがより好ましく、ナトリウムが最も好ましい。
【0040】
複合粉に添加する第1族元素の化合物のケイ素源に対する配合比(モル比)(M/Si比:ここで、Mは第1族元素を表す。)は特に制限されないが、例えば、0.1以上0.5以下である。また、第2族元素の化合物の第1族元素に対する配合比(M2/M1比)は特に制限されないが、例えば、0.1以上0.5以下、好ましくは0.2以上0.5以下である。
【0041】
第1族元素の化合物は、水溶液(例えば0.5〜1M水溶液)として複合粉に添加してもよく、固体状の化合物を必要に応じて粉砕した上で添加してもよい。あるいは、第1工程において、所定量の第1族元素の化合物を予め添加しておき、メカノケミカル反応に供してもよい。
【0042】
このようにして得られる結晶性多孔質無機酸化物は、ゼオライト等の結晶性多孔質無機酸化物と同様、分子ふるい等の分離材料、脱水剤、固体酸、触媒または触媒担体等の用途に用いることができる。また、結晶性多孔質無機酸化物の結晶構造、細孔構造等の物理的および化学的特性については、粉末X線回折(XRD)、固体高分解能NMR、水銀ポロシメータ等の任意の公知の方法および装置を用いて解析することができる。
【0043】
なお、本実施の形態では、代表例としてケイ酸塩およびアルミノケイ酸塩骨格を有する結晶性多孔質無機酸化物の製造について説明したが、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ジルコニウム(Zr)等の他の元素を骨格元素として含むメタロシリケートやメタロゼオライトの結晶性多孔質無機酸化物の製造に本製造方法を適用することもできる。
【実施例】
【0044】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
実施例1:水酸化カルシウム存在下におけるゼオライトの合成(1)
水酸化カルシウム(Ca(OH))、シリカ粉(SiO)、アルミナ粉(Al)を所定の割合(SiO/Al比=20、Si/Al比=10)で含む原料固体をメカノケミカル反応させて調製した複合粉に水酸化ナトリウム水溶液(Na/Si比=0.25)を添加し、水熱処理して、ゼオライトを合成した。
反応条件および得られた生成物のXRDパターンを図1に示す。Caを用いない場合(図1中、Ca/Na=0)には、MOR型ゼオライトが得られ、メカノケミカル法により得られた複合粉から水熱反応によりゼオライトが得られることが確認された。また、水酸化カルシウムの添加量に応じて生成物の構造が変化すること、水酸化カルシウムの添加量の増大に伴い生成物がMOR型からGIS型へと変化することが確認された。
【0045】
実施例2:水酸化カルシウム存在下におけるゼオライトの合成(2)
Na/Si比=0.45以外とした以外は実施例1と同様の条件下でゼオライトの合成を行った。
反応条件および得られた生成物のXRDパターンを図2に示す。水酸化マグネシウムの添加量に応じて、実施例1と同様、生成物の構造が変化することが確認されたが、水酸化カルシウムの添加量の増大に伴い生成物はMOR型ゼオライトからANA型ゼオライトへと変化し、同時に未同定物質のピークも見られた。
実施例1および2の結果から、第1族元素の添加量によっても生成するゼオライトの構造を制御することができることが確認された。
【0046】
実施例3:水酸化マグネシウム存在下におけるゼオライトの合成
水酸化カルシウムの代わりに水酸化マグネシウム(Mg(OH))を用いた以外は実施例2と同様の条件下でゼオライトの合成を行った。
反応条件および得られた生成物のXRDパターンを図2に示す。水酸化マグネシウムの添加量に応じて、実施例1と同様、生成物の構造が変化することが確認されたが、水酸化マグネシウムの添加量の増大に伴い生成物はMOR型ゼオライトからANA型ゼオライトへと変化することが確認された。
実施例2および3の結果から、第2族元素の種類および添加量により生成するゼオライトの構造を制御することができることが確認された。
【0047】
実施例4:カルシウムを骨格元素として有する結晶性多孔質無機酸化物の合成
シリカ粉と水酸化カルシウムをメカノケミカル反応させた複合粉に水酸化カリウム水溶液を加えて得られる、SiO:Ca(OH):KOH:HO=1:0.2:0.35:20の組成を持つ混合物を、150℃で7日間水熱処理した。
【0048】
実施例4において得られた生成物のXRDパターンを図4に、結晶構造モデルを図5にそれぞれ示す。結晶構造モデルからわかるように、この物質中ではCa原子はカチオン種としてではなく、6配位の骨格原子として存在している。そのためこの物質はゼオライトには分類されないが、ゼオライト類と同様に、2次元8員環細孔構造を有している結晶性多孔質無機酸化物材料である。このように、メカノケミカル法を用いた本発明の方法は、ゼオライトに限らず、多様な結晶性多孔質材料の合成に有効であることがわかる。
【0049】
実施例4において水熱反応の出発物質として用いたものと同様の組成を有する混合物から、水性ゲルを経てゼオライトを合成する従来法により得られた生成物と、実施例4において得られた生成物のXRDスペクトルを比較した結果を図6に示す。XRDスペクトルの解析結果より、従来法により得られた生成物は、水酸化カルシウム、α−石英、ケイ酸水素カリウムの混合物であることが確認された。これは、水酸化カルシウムが水に不溶であるため、ケイ素源と均一に混合した水性ゲルを形成できなかったためである。
以上の結果より、実施例4により得られた生成物は、従来法では得られないことが確認された。
【0050】
実施例5:未知の構造を有する結晶性多孔質無機酸化物の合成(1)
水酸化カリウムの代わりに水酸化ナトリウムを用いた以外は実施例4と同様の方法により、結晶性多孔質無機酸化物を合成した。
【0051】
実施例6:未知の構造を有する結晶性多孔質無機酸化物の合成(2)
原料固体にシリカ粉に対し1モル%のアルミナ粉を添加した以外は実施例4と同様の方法により、結晶性多孔質無機酸化物を合成した。
【0052】
実施例4〜6において得られた生成物のXRDスペクトルを図7に示す。実施例5、6において得られた生成物は、実施例4において得られるそれとは全く異なるものであり、未知の構造を有するものであることが確認された。このように、添加する第1族元素の種類や骨格元素の組成を変化させることにより、多様な構造を有する結晶性多孔質無機酸化物を製造できることが確認された。
【0053】
実施例7〜9:シリカ含有量の多いアルミノケイ酸塩におけるカルシウム添加量が生成物の構造に及ぼす影響
図8に示す条件にしたがい、原料固体に含まれる水酸化カルシウムの添加量を変化(シリカに対し11〜21モル%)させた原料固体から結晶性多孔質無機酸化物を合成紙、カルシウム化合物の添加量を変化させた場合における生成物(生成物1〜3)の構造の変化を検討した。
【0054】
いずれの生成物のXRDスペクトルも、これらの生成物が未知の構造を有するものであることを示している。図示しない27Al固体高分解能NMRスペクトルの測定結果から、アルミニウムはいずれも4配位種として存在していることが確認された。
生成物1については、ゼオライトと同様、結晶構造を変化させることなく自重の30%以上の水を吸着および脱離させることができることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体状のケイ素源と、第2族元素の化合物とを含む原料固体を粉砕および混合し、メカノケミカル反応させることにより複合粉を調製する第1工程と、
前記複合粉を水熱反応させる第2工程とを有することを特徴とする結晶性多孔質無機酸化物材料の製造方法。
【請求項2】
前記第2工程において、前記複合粉に第1族元素の化合物を添加した状態で水熱反応を行うことを特徴とする請求項1記載の結晶性多孔質無機酸化物材料の製造方法。
【請求項3】
前記第1族元素の化合物の前記ケイ素源に対するモル比が、0.1以上0.5以下であることを特徴とする請求項2記載の結晶性多孔質無機酸化物の製造方法。
【請求項4】
前記第2族元素の化合物の前記ケイ素源に対するモル比が、0.01以上0.25以下であることを特徴とする請求項2および3のいずれか1項記載の結晶性多孔質無機酸化物の製造方法。
【請求項5】
前記原料固体が、固体状のアルミニウム源をさらに含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の結晶性多孔質無機酸化物の製造方法。
【請求項6】
前記ケイ素源の前記アルミニウム源に対するモル比が、1以上1000以下であることを特徴とする請求項5記載の結晶性多孔質無機酸化物の製造方法。
【請求項7】
前記固体状のケイ素源が、石英、湿式シリカ、無定形シリカ、ヒュームドシリカ、シリカゲル、カオリナイト、珪藻土、ホワイトカーボン、およびケイ酸塩からなる群より選択される1または複数であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項記載の結晶性多孔質無機酸化物の製造方法。
【請求項8】
前記固体状のアルミニウム源が、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、アルミン酸塩およびケイ酸アルミニウムからなる群より選択される1または複数であることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項記載の結晶性多孔質無機酸化物の製造方法。
【請求項9】
前記第2族元素が、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよびバリウムからなる群より選択される1または複数であることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項記載の結晶性多孔質無機酸化物材料の製造方法。
【請求項10】
前記第1族元素が、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムからなる群より選択される1または複数であることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項記載の結晶性多孔質無機酸化物材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−111337(P2011−111337A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266879(P2009−266879)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【出願人】(802000031)財団法人北九州産業学術推進機構 (187)
【Fターム(参考)】