説明

結晶質窒化ケイ素粉末の製造方法

【課題】粒子形状及びサイズの一定した高品質の結晶質窒化ケイ素粉末を低コストで大量に生産できる新規な製造方法を提供することである。
【解決手段】非晶質窒化ケイ素粉末及び/又は含窒素シラン化合物を窒素含有不活性ガス雰囲気下又は窒素含有還元性ガス雰囲気下に焼成して、結晶質窒化ケイ素粉末を製造するに際し、非晶質窒化ケイ素粉末及び/又は含窒素シラン化合物を圧縮成形して、嵩密度0.8g/cm超〜1.0g/cm以下、短軸径1mm以上、長軸径20mm以下の顆粒状物とすること、及び昇温過程において、1000〜1200℃の温度範囲全域における昇温速度を10℃/分以下とすることを特徴とする結晶質窒化ケイ素粉末の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温構造材料として有用な窒化ケイ素質焼結体の製造用原料として好適な粒状結晶のみからなる高純度な結晶質窒化ケイ素粉末の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非晶質窒化ケイ素粉末及び/又は含窒素シラン化合物を不活性ガス雰囲気下又は還元性ガス雰囲気下に焼成して、結晶質窒化ケイ素粉末を製造する方法は既に知られている。例えば、非特許文献1にはモノシラン−アンモニア系気相反応により生成した非晶質窒化ケイ素粉末を加熱処理して結晶質窒化ケイ素粉末を合成する方法が記載されている。同文献によれば、窒化ケイ素の結晶化は非常に大きな発熱を伴う反応であって、非晶質窒化ケイ素の圧粉体を加熱すると、1450℃付近から結晶化熱によって赤熱状態となり、急激な温度上昇とともに結晶化が数秒以内に完了してしまうことが報告されている。その際、圧粉体はバラバラに砕けて粉化してしまう。
【0003】
また、特許文献1には、四塩化ケイ素−アンモニア系気相反応により合成した非晶質窒化ケイ素粉末を圧縮成形した後、1550〜1750℃で焼成するという、繊維状結晶質窒化ケイ素よりなる物品の製造方法が開示されている。同文献によれば非晶質窒化ケイ素の圧密成形物の嵩密度は0.1〜0.8g/cmである。更に、非特許文献2には、シリコンジイミドの熱分解により合成した非晶質窒化ケイ素粉末をホットプレス焼結した場合の緻密化及び結晶化挙動が記載されている。
【0004】
ところで、一般的に、非晶質窒化ケイ素粉末の焼成により得られる結晶質窒化ケイ素粉末には、結晶化時に針状結晶又は柱状結晶が多数生成する為に充填密度が低いという欠点があった。従って、これを焼結原料として用いた場合には、嵩密度の低い成形体しか得られないという問題があった。そこで、このような欠点を解消すべく、微細な粒状結晶からなる結晶質窒化ケイ素粉末を製造する方法が種々提案されている。
【0005】
例えば、特許文献2にはケイ素として0.1g/cm以上の軽装密度を有する含窒素シラン化合物を、1350〜1550℃の温度範囲全域における昇温速度を15℃/分以上に制御して1550℃以上1700℃未満にまで加熱することを特徴とする窒化ケイ素粉末の製造方法が開示されている。この発明によれば、針状結晶を含まない粒状結晶のみからなる窒化ケイ素粉末を製造することができる。
【0006】
しかしながら、その実施例からもわかるように、この発明は小規模な焼成実験に基づくものであり、量産規模での粉末焼成を考えた場合には、解決すべき問題点が残されている。即ち、窒化ケイ素の結晶化が進行すると考えられる1350℃付近に非晶質窒化ケイ素粉末を加熱すると、結晶化熱の発生により粉体層の温度は著しく上昇して、昇温速度が数十〜数千℃/分となってしまい、これを制御するには種々の工夫を凝らさなければならない。しかし、特許文献2にはこの問題点を解決するための手段についてはまったく記載されていない。
【0007】
非晶質窒化ケイ素粉末の結晶化時の伝熱を制御する方法も提案されている。例えば、特許文献3には非晶質窒化ケイ素粉末及び/又は含窒素シラン化合物を圧縮成形して、嵩密度0.3〜0.8g/cm、短軸径1mm以上、かつ長軸径20mm以下の顆粒状にすること、及び昇温過程において1200〜1400℃の温度範囲全域における昇温速度を10℃/分以下とすることと、焼成時における顆粒状物の軽装密度が0.15〜0.52g/cmであることを特徴とする結晶質窒化ケイ素粉末の製造方法が開示されている。また、特許文献4には、非晶質窒化ケイ素粉末及び/又は含窒素シラン化合物を圧縮成形して、嵩密度0.3〜0.8g/cm、短軸径1mm以上、かつ長軸径20mm以下の顆粒状物とし、該顆粒状物を連続焼成炉を用いた1400〜1700℃の温度で焼成することと、焼成時における顆粒状物の軽装密度が0.15〜0.52g/cmであることを特徴とする結晶質窒化ケイ素粉末の製造方法が開示されている。
【0008】
結晶質窒化ケイ素粉末を低コストで大量に生産するためには、非晶質窒化ケイ素粉末及び/又は含窒素シラン化合物を窒素含有不活性ガス雰囲気下又は窒素含有還元性ガス雰囲気下に焼成して、結晶質窒化ケイ素粉末を得るのに際し、非晶質窒化ケイ素粉末及び/又は含窒素シラン化合物を嵩密度の高い顆粒状物にすることが重要であるし、例えばカーボン製ルツボに充填して電気炉で焼成する上においては、顆粒状物の軽装密度が高いことが望ましい。
【0009】
しかしながら、特許文献3及び4においては、非晶質窒化ケイ素粉末及び/又は含窒素シラン化合物を嵩密度0.8g/cm以上の顆粒状物に成形しようとすると、成形圧力が5ton/cm以上の高圧力を必要とし実用的ではなくなるとして、高嵩密度化について解決ができていない。また、焼成時における顆粒状物の軽装密度を0.52g/cm以上にすると、顆粒状物集合体の熱容量が大きくなりすぎるばかりでなく、密充填により顆粒状物の隙間が小さくなりすぎて輻射による伝熱が低下し、焼結に適した粒状の結晶質窒化ケイ素が得られなくなるとして、顆粒状物の高軽装密度化も解決できていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許4101616号公報(1978)
【特許文献2】特公昭61−11886号公報
【特許文献3】特開平4−209706号公報
【特許文献4】特開平5−148032号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】セラミック・ブレティン57巻6号(1978)、P579〜586
【非特許文献2】米国ナショナル・テクニカル・インフォメーション・サービス ファイナル・アニュアル・レポートA−C3316号報告書(1974年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、非晶質窒化ケイ素粉末及び/又は含窒素シラン化合物を、窒素含有不活性ガス雰囲気下又は窒素含有還元性ガス雰囲気下に焼成して、結晶質窒化ケイ素粉末を得るのに際し、嵩密度の高い非晶質窒化ケイ素粉末及び/又は含窒素シラン化合物の顆粒状物を成形し、制御された昇温条件により焼成することで、粒子形状及びサイズの一定した高品質の結晶質窒化ケイ素粉末を低コストで大量に生産できる新規な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討を積み重ねた結果、非晶質窒化ケイ素粉末及び/又は含窒素シラン化合物を圧縮成形して、嵩密度0.8g/cm超〜1.0g/cm以下、短軸径1mm以上、かつ長軸径20mm以下の顆粒状物とすること、及び昇温過程において、1000〜1200℃の温度範囲全域における昇温速度を10℃/分以下とすることによって、焼結に適した粒状粒子からなる結晶質窒化ケイ素粉末を低コストで大量に生産できることを見出した。
【0014】
こうして、本発明は、下記を提供する。
(1)非晶質窒化ケイ素粉末及び/又は含窒素シラン化合物を窒素含有不活性ガス雰囲気下又は窒素含有還元性ガス雰囲気下に焼成して、結晶質窒化ケイ素粉末を製造するに際し、非晶質窒化ケイ素粉末及び/又は含窒素シラン化合物を圧縮成形して、嵩密度0.8g/cm超〜1.0g/cm以下、短軸径1mm以上、長軸径20mm以下の顆粒状物とすること、及び昇温過程において、1000〜1200℃の温度範囲全域における昇温速度を10℃/分以下とすることを特徴とする結晶質窒化ケイ素粉末の製造方法。
【0015】
(2)焼成時における顆粒状物の軽装密度が0.52g/cm超〜0.80g/cm以下であることを特徴とする上記(1)の結晶質窒化ケイ素粉末の製造方法。
【0016】
(3)圧縮成形される非晶質窒化ケイ素粉末及び/又は含窒素シラン化合物の軽装密度が0.10〜0.30g/cmであることを特徴とする上記(1)又は(2)の結晶質窒化ケイ素粉末の製造方法。
【0017】
(4)圧縮成形される非晶質窒化ケイ素粉末及び/又は含窒素シラン化合物の製造を、ハロゲン化シラン化合物を液体アンモニアと混合して反応させ、ハロゲン化シラン化合物を無溶媒かあるいはハロゲン化シラン化合物濃度が50vol%以上の不活性有機溶媒の溶液として液体アンモニア中に設置した供給口から吐出させて供給する方法で行うことを特徴とする上記(1)〜(3)に記載の結晶質窒化ケイ素粉末の製造方法。
【0018】
(5)前記の非晶質窒化ケイ素粉末及び/又は含窒素シラン化合物の製造において、ハロゲン化シラン化合物を無溶媒かあるいはハロゲン化シラン化合物濃度が50vol%以上の不活性有機溶媒の溶液として供給する際の吐出線速度を5cm/sec以上とすることを特徴とする、上記(4)に記載の結晶質窒化ケイ素粉末の製造方法。
【0019】
(6)前記の非晶質窒化ケイ素粉末及び/又は含窒素シラン化合物の製造において、反応温度が−10〜40℃の範囲内、反応圧力が0.3〜1.6MPa(絶対圧)の範囲内であることを特徴とする、上記(4)または(5)に記載の結晶質窒化ケイ素粉末の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、粒径の揃った等軸粒状粒子からなり、充填特性、焼結特性等に優れた結晶質窒化ケイ素粉末を、低コストで生産性良く大量に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例2で得られた粉末の走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】本発明の実施例7で得られた粉末の走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】本発明の比較例4で得られた粉末の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明を詳しく説明する。
【0023】
本発明においては、軽装密度が0.10〜0.30g/cmの含窒素シラン化合物を用いる。含窒素シラン化合物としては、シリコンジイミド、シリコンテトラアミド、シリコンニトロゲンイミド、シリコンクロルイミド等が挙げられ、これらは、公知方法、例えば、四塩化ケイ素、四臭化ケイ素、四沃化ケイ素等のハロゲン化ケイ素とアンモニアとを気相で反応させる方法、液状の前記ハロゲン化ケイ素と液体アンモニアとを反応させる方法等によって製造される。
【0024】
非晶質窒化ケイ素粉末は、公知方法、例えば、前記含窒素シラン化合物を酸素含有量5%以下の窒素又はアンモニアガス雰囲気下に600〜1200℃の範囲の温度で加熱分解する方法、四塩化ケイ素、四臭化ケイ素、四沃化ケイ素等のハロゲン化ケイ素とアンモニアとを高温で反応させる方法等によって製造される。好ましくは後述の製法で製造できる。
【0025】
本発明における粉末の軽装密度は、JIS R9301−2−3に準拠した手法で求めた。具体的には、振動を防ぎ、静置した容量既知の容器中に粉末を自由に落下させて集めた粉末の質量を求め、この質量を等量の水の体積で割った値から算出した。
【0026】
前記の公知の手法で普通に製造した含窒素シラン化合物及び非晶質窒化ケイ素は非常に微細な粒子からなり、平均粒径は、通常、0.005〜0.05μmであることから、粉末状態では非常に嵩高く、一般には、軽装密度が0.045〜0.090g/cm程度である。さらに、このような含窒素シラン化合物及び非晶質窒化ケイ素から圧縮成形される顆粒状物の嵩密度は0.3〜0.8g/cm程度にしかならない。しかしながら、原料粉末に、軽装密度0.10〜0.30g/cmの含窒素シラン化合物及び/又は非晶質窒化ケイ素を用いれば、嵩密度の高い顆粒状物を製造することができる。
【0027】
軽装密度0.10〜0.30g/cmの含窒素シラン化合物は、例えば、以下の方法で製造することができる。さらに、軽装密度が0.10〜0.30g/cmの非晶質窒化ケイ素粉末は、軽装密度0.10〜0.30g/cmの含窒素シラン化合物を酸素含有量5%以下の窒素又はアンモニアガス雰囲気下に600〜1200℃の範囲の温度で加熱分解することで製造することができる。
【0028】
本発明で用いる、軽装密度0.10〜0.30g/cmの含窒素シラン化合物は、ハロゲン化シランと液体アンモニアとの反応に際し、ハロゲン化シランを無溶媒か、或いは少量の有機溶媒で希釈した溶液として供給することによって合成することができる。ハロゲン化シランとしては、SiF、HSiF、HSiF、HSiF、HSiF、HSiF等の弗化シラン、SiCl、HSiCl、HSiCl、HSiCl等の塩化シラン、SiBr、HSiBr、HSiBr、HSiBr等の臭化シラン、SiI、HSiI、HSiI、HSiI等のヨウ化シランを使用することができる。また、RSiX、RSiX、RSiX(Rはアルキル又はアルコキシ基、Xはハロゲン)等のハロゲン化シランも使用することができる。
【0029】
ハロゲン化シランの希釈に使用する有機溶媒は、ハロゲン化シランを溶解し、ハロゲン化シランや液体アンモニアと反応しないものの中から適宜選択して使用することができる。例えば、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタンなどのような炭素数5〜12の鎖状の脂肪族炭化水素、シクロヘキサンやシクロオクタンのような環状の脂肪族炭化水素、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素などを挙げることが出来る。有機溶媒とハロゲン化シランとの混合溶液における好ましいハロゲン化シラン濃度は、50vol%以上、より好ましくは66vol%以上である。50vol%未満の濃度では、生成する含窒素シラン化合物粉末について軽装密度の充分な増加が得られない。
【0030】
上記の方法の実施において、ハロゲン化シランを無溶媒あるいは少量の有機溶媒で希釈した溶液として供給する際の吐出口は反応器内の液体アンモニア中に設置される。このときの供給口からの吐出線速度は5cm/sec以上、さらには8cm/sec以上に保つことが好ましい。上限は特に制約はないが、一般的には200cm/sec以下でよい。
【0031】
反応器内に不活性ガスを導入せずに本発明を実施する場合の適切な反応温度範囲は−10〜40℃、より好ましくは0〜30℃である。圧力の好適な範囲は0.3〜1.6MPa、より好ましくは0.4〜1.6MPaである(絶対圧)。
【0032】
ハロゲン化シランを無溶媒あるいは少量の有機溶媒で希釈した溶液として供給する際の供給ポンプの吐出圧力は、限定されるものではないが、反応器の圧力に対し5.9MPa以上、さらに好ましくは、7.8MPa以上、さらに好ましくは9.8MPa以上の圧力差を出せる装置の能力を有することが望まれる。
【0033】
反応器におけるハロゲン化シランと液体アンモニアの混合比率は、ハロゲン化シラン体積/液体アンモニア体積=0.01〜0.1である。
【0034】
上記の方法で生成する含窒素シラン化合物は、製造後の軽装密度が0.10〜0.30g/cmであることができるが、そのほか、限定するわけではないが、一般的に、真密度は1.4〜1.9g/cm、より好ましくは1.5〜1.7g/cm、比表面積は700〜1100m/g、より好ましくは800〜1000m/gにすることができる。
上記の方法で生成する含窒素シラン化合物は、室温付近でも容易にNHを吸収又は放出し、Si1315,Si1212,Si11などの種々の組成式で存在し得るSi−N−H系化合物である。この含窒素シラン化合物は、Si(NH)という式で表されることも多いが、ケイ素に結合したイミノ基又はアミノ基を有する化合物であると考えて化学式Si(NH(式中、xは1又は2であり、yは2〜4である)で表されることもある。あるいは、組成式として表わすとSi(NH(xは0.7〜1.3、yは1.8〜2.2)が一般的であるが、この組成式の範囲に限定されるものではない。
【0035】
前記含窒素シラン化合物及び非晶質窒化ケイ素を原料粉末として顆粒状物を成形すると、嵩密度が0.8g/cm超〜1.0g/cm以下、短軸径1mm以上、かつ長軸径20mm以下の顆粒状物を成形することができる。
【0036】
本発明においては、非晶質窒化ケイ素粉末及び/又は含窒素シラン化合物を窒素含有不活性ガス雰囲気下、又は窒素含有還元性ガス雰囲気下に焼成して結晶質窒化ケイ素粉末を製造するに際し、非晶質窒化ケイ素粉末及び/又は含窒素シラン化合物を圧縮成形して、嵩密度0.8g/cm超〜1.0g/cm以下、短軸径1mm以上、かつ長軸径20mm以下の顆粒状物とし、昇温過程において1000〜1200℃の温度範囲全域における昇温速度を10℃/分以下に制御して該顆粒状物を焼成する。
【0037】
窒素含有不活性ガスとしては、窒素又は窒素とアルゴン、ヘリウム等の混合ガスが挙げられる。また、窒素含有還元性ガスとしては、アンモニア、ヒドラジン等の高温での熱分解により窒素ガスを放出するもの又は窒素と水素、一酸化炭素等の混合ガスが挙げられる。
【0038】
非晶質窒化ケイ素粉末及び/又は含窒素シラン化合物を圧縮成形して顆粒状物にするためには、粉末をゴム型内に充填して等方的圧力を印加するラバープレス成型、金属型に粉末を充填してピストンで加圧するプレス成型、又は打錠成型、穴付きロールで粉末を圧縮して押し固めるブリケット成型等、種々の成型方法を採用することができる。
【0039】
本発明での顆粒状物の嵩密度は0.8g/cm超〜1.0g/cm以下である。顆粒状物の嵩密度が0.8g/cmよりも低くなると、軽装密度が低くなり、例えばカーボン製ルツボで焼成する際の充填量が少なくなり、生産性が低下し製造コストの上昇を招く。一方、嵩密度が1.0g/cmを超える顆粒を成形するためには、5ton/cm以上の高圧が必要となるので、実用上好ましくない。0.85g/cm〜0.95g/cm以下が好ましい。
【0040】
本発明では顆粒状物の寸法を、短軸径1mm以上、長軸径20mm以下に規定している。顆粒状物の寸法(例えば短軸径)が1mmよりも小さくなると、顆粒間の隙間が小さくなりすぎ、輻射による伝熱の効果が小さくなる。この為、顆粒状物集合体の伝熱が悪くなり、焼成時の顆粒間の温度分布が拡大して、急激な発熱により針状結晶が生成しやすくなるので好ましくない。短軸径1mm以上、長軸径20mm以下、好ましくは短軸径2.5mm以上、長軸径18mm以下、さらに好ましくは短軸径5mm以上、長軸径15mm以下という適度な寸法の顆粒を使用すれば、伝熱状態が良好で、結晶化熱の系外への放出もスムーズになり、発熱による顆粒状物の急速昇温を最小限にとめることができる。その結果、後述の実施例に示されるような微細な粒状結晶のみからなる結晶質窒化ケイ素粉末が得られる。
【0041】
更に、顆粒状物の寸法(例えば長軸径)が20mmよりも大きくなると、個々の顆粒状物内部の温度分布が問題となってくる。すなわち、結晶化熱による顆粒状物内部の蓄熱が大きくなりすぎるため温度が上がりすぎて、柱状結晶又は棒状結晶を多量に含む結晶質窒化ケイ素粉末が生成し、好ましくない。また、高温安定相であり焼結に対して好ましくないβ型窒化ケイ素の生成割合も増加してしまう。
【0042】
本発明において、顆粒状物の軽装密度とは、ゆるみ見掛け密度ともいい、顆粒状物を、シュートを通じてゆっくりと測定用容器に落下させて、その重さと体積から算出した値である。測定用容器は、通常50φ×50hのメスシリンダーが用いられるが、顆粒状物が大きい場合には、それに応じて測定用容器も大きいものを用いればよい。本発明における顆粒状物の軽装密度は0.52g/cm超〜0.80g/cm以下である。軽装密度0.52g/cm以下では生産性が低下して好ましくない。一方、軽装密度が0.80g/cmよりも大きくなると充填量が多くなるので、顆粒状物集合体の熱容量が大きくなりすぎるばかりでなく、密充填により顆粒状物間の隙間が小さくなって、輻射による熱伝導度が低下する。従って、熱容量と熱伝導度のバランスが崩れ、結晶化時の発熱が大きくなって、柱状結晶又は棒状結晶を多く含む結晶質窒化ケイ素を生成するので好ましくない。0.55g/cm超〜0.70g/cm以下が好ましい。
【0043】
本発明においては、前記の顆粒状物の焼成に当たり、昇温過程において1000〜1200℃の温度範囲全域における昇温速度を10℃/分以下に制御してゆっくりと昇温する。このような緩速昇温は非晶質窒化ケイ素の粒成長による表面エネルギーの減少、結晶核の発生密度の確保、及び結晶化初期における粒成長の抑制に対して有効な手段である。保持温度が1000℃よりも低温では、このような効果は認められず、逆に1200℃よりも高温になると、急激な結晶化が進行して、生成する結晶質窒化ケイ素粉末の粉体特性(粒子形状、粒子径、結晶相等)を制御することが困難になる。
【0044】
本発明において、1000〜1200℃の温度範囲全域における昇温速度は10℃/分以下である。昇温速度が10℃/分を超えると1200℃以上に昇温した際に急激な結晶化が起こり、結晶化熱による温度上昇が最高数百℃近くまでに達して、所望の微粒結晶よりなるα型窒化ケイ素粉末が得られなくなる。1000〜1200℃の温度範囲全域における昇温速度は8℃/分以下が好ましく、5℃/分以下がより好ましく、3〜0.5℃/分が特に好ましい。また、特に1000〜1100℃における保持時間が過度に長すぎると、核発生の若干抑制された状況下で結晶成長が進行するので、生成する粒状結晶の形状は多面体状のきれいなものになるが、粒子径はかえって大きくなり、焼結には好ましくない比表面積の小さな粉末となってしまう。
【0045】
被焼成物を前記の加熱条件で昇温し、その結晶化度を40%以上にした後は、より高温まで、例えば1700℃まで昇温しても良く、その昇温速度にも制約はない。最終的な焼成温度が1500℃の場合には、同温度に15〜60分間保持して結晶化を完了させることが好ましい。また、最終的な焼成温度が1700℃を超えると、粗大結晶が成長するばかりでなく、生成した結晶質窒化ケイ素粉末の分解が始まるので好ましくない。限定するわけではないが、結晶質窒化ケイ素粉末を得るための焼成温度は、一般的には、1400〜1700℃であり、1450〜1650℃が好ましい。
【0046】
非晶質窒化ケイ素粉末及び/又は含窒素シラン化合物の加熱に使用される加熱炉については、特に制限はなく、例えば高周波誘導加熱方式又は抵抗加熱方式によるバッチ炉、ロータリーキルン炉、流動化焼成炉、プッシャー炉等を使用することができる。
【実施例】
【0047】
以下本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0048】
実施例及び比較例において、結晶質窒化ケイ素粉末の結晶化度は、窯業協会誌93巻4号(1985年)の394〜397頁に記載の加水分解試験により、α型結晶含有率は、セラミックス・ブレティン56巻9号(1977年)の777〜780頁に記載のX線回折法に従って算出し、比表面積は窒素ガス吸着法によるBET法で測定した。また、プレス密度は、直径13mmの金型に粉末0.65gを充填し、2ton/cmで加圧成形した後の体積により求めた。
【0049】
顆粒状物の嵩密度はケロシンを溶媒としたアルキメデス法で測定した。顆粒状物の軽装密度とは、ゆるみ見掛け密度ともいい、顆粒状物を容器に自然落下させたときの密度である。従って、顆粒状物を焼成ルツボ等の容器に充填したときの充填密度と同じである。顆粒状物の軽装密度は、顆粒状物を、シュートを通してゆっくりと測定用容器に落下させて、顆粒状物の重さと測定用容器の体積から算出した。測定用容器は、通常、内径50mm、高さ50mmのメスシリンダーが用いられるが、サンプルが大きい場合には、それに応じて測定容器を大きいものに変えればよい。
【0050】
窒化ケイ素粉末90重量部に焼結助剤としてY6重量部とAl2重量部を添加し、エタノールを加えて、ボールミルにて48時間湿式混合した後、乾燥した。280μmの篩で粒度調整した顆粒を、ゴム型仕込み、2ton/cmの圧力でラバープレス成形して、直径5mmのグリーン成形体を作製した。この成形体を窒化ケイ素製ルツボに充填し、電気炉にて、1気圧の窒素ガス雰囲気中、300℃/時間の昇温速度で加熱し、1750℃で3時間保持して、窒化ケイ素質焼結体を作製した。得られた焼結体の嵩密度はアルキメデス法で測定した。
【0051】
実施例1〜5及び比較例1
反応には攪拌装置およびコンデンサーを備えた内容積約2Lのジャケット付きSUS製耐圧反応器を使用した。反応器内を窒素ガスで置換した後、液体アンモニアを1L仕込んだ。次に、攪拌翼を400rpmで回転させながら、50mLのSiClを有機溶媒で希釈することなくポンプにより供給し、バッチ式での反応を行った。SiClの供給には液体アンモニア中に設置された内径0.8mmのSUS製ノズルを用いた。ポンプの吐出圧力上限を6.9MPa(ゲージ圧)、流速を2.5mL/分として50mL全量のSiClを供給した。SiCl供給中の反応混合物の温度は18〜20℃、反応器内の圧力は0.7〜0.8MPa(ゲージ圧)であり、供給配管の圧力は最大で5.7MPa(ゲージ圧)に達した。
【0052】
反応終了後、生成したスラリーを攪拌装置と焼結金属フィルターを備えた内容積約2Lのジャケット付きSUS製耐圧容器(ヌッチェ式)に移し、ろ過を行った。得られた湿潤のケーキを更に約1Lの液体アンモニアにてバッチ洗浄した後ろ過した。この洗浄/ろ過操作を合計7回繰り返した。
【0053】
こうして得られた湿潤ケーキを乾燥して、含窒素シラン化合物粉末を得た。乾燥操作においては、ろ過槽のジャケットに90℃の熱水を流通させて加熱し、適宜内圧を開放しながら槽内の圧力を0.6MPa(ゲージ圧)に保ち、槽内温度が60℃に到達したところを終点とした。
【0054】
次に、ろ過槽を大型のグローブボックスに搬入し、一晩かけて窒素ガスを流通させることにより内部の酸素や水分を充分に追い出した。その後グローブボックス内でろ過槽を開放し、生成した含窒素シラン化合物粉末を取り出した。26.0gのシリコンジイミドが得られ、その軽装密度は0.21g/cmであった。
【0055】
軽装密度0.21g/cmのシリコンジイミドを1000℃で加熱分解して得られた比表面積650m/g、酸素含有量0.8wt%の非晶質窒化ケイ素粉末を、直径160mm、高さ240mmの円筒状ゴム型に充填し、1500kg/cmの圧力でラバープレスして、円筒状のブロックを作製した。得られた非晶質窒化ケイ素のブロックを破砕し、篩分けをして、表1に記載の種々の粒度の顆粒状物を得た。顆粒状物の嵩密度は0.86g/cm、軽装密度は0.60〜0.62g/cmであった。この顆粒状物1.5kgを内径280mm、高さ150mmのカーボン製ルツボに充填し、バッチ式電気炉にセットした。
【0056】
次に、電気炉内を13Pa以下に真空脱気後、窒素ガスを導入し、窒素ガス流通下で加熱を開始した。室温から1000℃までは2時間で昇温し、同温度に1時間保持した後、1.3℃/分の昇温速度で1200℃まで加熱した。更に4.2℃/分の速度で1500℃まで昇温して、同温度に1時間保持した後、炉内放冷した。得られた結晶質窒化ケイ素粉末の化学組成、結晶化度、α相含有率、比表面積、プレス密度、粒子形状等の特性、及び前記粉末を原料とした焼結体の焼結密度を表1に示す。また、実施例2で得られた粉末の走査型電子顕微鏡写真を図1に示す。
【0057】
比較例2
実施例1で使用した非晶質窒化ケイ素粉末800gをそのまま実施例1と同一寸法のカーボン製ルツボに充填し、実施例1と同一条件化で焼成した。得られた結晶質窒化ケイ素粉末の諸特性及び焼結体特性を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
実施例6〜8及び比較例3〜4
実施例1〜5及び比較例1で示した方法で得られた軽装密度0.21g/cmのシリコンジイミドを1000℃で加熱分解して得られた比表面積660m/g、酸素含有量0.9wt%の非晶質窒化ケイ素粉末を種々の寸法のボール成形用ゴム型に充填し、1500kg/cmの圧力でラバープレスして、表2に記載の直径の球状顆粒を得た。この球状顆粒の嵩密度は0.85g/cmであった。球状顆粒1.5kgを実施例1と同一寸法のカーボン製ルツボに充填し、バッチ式電気炉にセットした。次に、1000〜1200℃までの昇温速度を2℃/分とした以外は、実施例1と同一条件下で焼成を行った。得られた結晶質窒化ケイ素粉末の諸特性及び焼結体特性を表2に示す。また、実施例7で得られた粉末の走査型電子顕微鏡写真を図2に示す。
【0060】
比較例5
実施例6で使用した非晶質窒化ケイ素粉末800gをそのまま実施例6と同一寸法のカーボン製ルツボに充填し、実施例6と同一条件下で焼成した。得られた結晶質窒化ケイ素粉末の諸特性及び焼結体特性を表2に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
実施例9〜11及び比較例6
実施例1で使用した非晶質窒化ケイ素粉末を、直径15mmの金型に充填し、表3に記載の成形圧力で一軸プレスして、種々の嵩密度を有する円柱状の成形体を大量に作製した。得られた成形体は直径15mm、高さ12〜15mmの円柱形状であり、短軸径、長軸径で表すと短軸径12〜14mm、長軸径15mmの顆粒状物である。得られた円柱状顆粒1.5kgを実施例1と同一寸法のカーボン製ルツボに充填し、バッチ式電気炉にセットした。次に、実施例1と同様の操作で、室温から1000℃まで2時間で昇温し、同温度に1時間保持した後、1000℃から1100℃を1.3℃/分で、1100℃から1200℃を2℃/分の速度で昇温した。さらに4.2℃/分の昇温速度で1530℃まで加熱して、同温度に40分間保持した後、炉内放冷した。得られた結晶質窒化ケイ素粉末の諸特性及び焼結体特性を表3に示す。
【0063】
比較例7
実施例9で使用した非晶質窒化ケイ素粉末800gを、そのまま実施例9と同一寸法のカーボン製ルツボに充填し、実施例9と同一条件下で焼成した。得られた結晶質窒化ケイ素粉末の諸特性及び焼結体特性を表3に示す。
【0064】
【表3】

【0065】
実施例12〜14及び比較例8
実施例1〜5及び比較例1で示した方法で得られた軽装密度0.21g/cmのシリコンジイミドを1000℃で加熱分解して得られた比表面積670m/g、酸素含有量0.9wt%の非晶質窒化ケイ素粉末を、実施例1と同一寸法の円筒状ゴム型に充填し、1500kg/cmの圧力でラバープレスして、円柱状のブロックを作製した。実施例1と同様に、このブロックを破砕し、篩分けして、短軸径4.0〜10.0mm、長軸径5.0〜12.0mmの顆粒状物を得た。顆粒状物の嵩密度は0.87g/cmであった。この顆粒状物1.5kgを実施例1と同一寸法のカーボン製ルツボに充填し、バッチ式電気炉にセットした。次に、実施例1と同様の操作で、室温から1000℃まで2時間で昇温し、同温度に1時間保持した後、表4に記載の昇温速度で1200℃まで加熱した。さらに4.2℃/分の速度で同表に記載の最終的な焼成温度まで昇温し、同温度に1時間保持した後、炉内放冷した。得られた結晶質窒化ケイ素粉末の諸特性及び焼結体特性を表4に示す。
【0066】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、高温構造材料として有用な窒化ケイ素質焼結体の製造用原料として好適な粒状結晶のみからなる高純度な結晶質窒化ケイ素粉末の製造方法に関するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質窒化ケイ素粉末及び/又は含窒素シラン化合物を窒素含有不活性ガス雰囲気下又は窒素含有還元性ガス雰囲気下に焼成して、結晶質窒化ケイ素粉末を製造するに際し、非晶質窒化ケイ素粉末及び/又は含窒素シラン化合物を圧縮成形して、嵩密度0.8g/cm超〜1.0g/cm以下、短軸径1mm以上、長軸径20mm以下の顆粒状物とすること、及び昇温過程において、1000〜1200℃の温度範囲全域における昇温速度を10℃/分以下とすることを特徴とする結晶質窒化ケイ素粉末の製造方法。
【請求項2】
焼成時における顆粒状物の軽装密度が0.52g/cm超〜0.80g/cm以下であることを特徴とする請求項1に記載の結晶質窒化ケイ素粉末の製造方法。
【請求項3】
圧縮成形される非晶質窒化ケイ素粉末及び/又は含窒素シラン化合物の軽装密度が0.10〜0.30g/cmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の結晶質窒化ケイ素粉末の製造方法。
【請求項4】
圧縮成形される非晶質窒化ケイ素粉末及び/又は含窒素シラン化合物の製造を、ハロゲン化シラン化合物を液体アンモニアと混合して反応させ、ハロゲン化シラン化合物を無溶媒かあるいはハロゲン化シラン化合物濃度が50vol%以上の不活性有機溶媒の溶液として液体アンモニア中に設置した供給口から吐出させて供給する方法で行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の結晶質窒化ケイ素粉末の製造方法。
【請求項5】
前記の非晶質窒化ケイ素粉末及び/又は含窒素シラン化合物の製造において、ハロゲン化シラン化合物を無溶媒かあるいはハロゲン化シラン化合物濃度が50vol%以上の不活性有機溶媒の溶液として供給する際の吐出線速度を5cm/sec以上とすることを特徴とする、請求項4に記載の結晶質窒化ケイ素粉末の製造方法。
【請求項6】
前記の非晶質窒化ケイ素粉末及び/又は含窒素シラン化合物の製造において、反応温度が−10〜40℃の範囲内、反応圧力が0.3〜1.6MPa(絶対圧)の範囲内であることを特徴とする、請求項4または5に記載の結晶質窒化ケイ素粉末の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−213546(P2011−213546A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83605(P2010−83605)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】