説明

結束工具の結束位置決め構造及び結束位置決め方法

【課題】結束工具を用いてワイヤハーネスに結束バンドを結束装備するに、ワイヤハーネスを無理に引張ったり、現場で結束バンドを付け直す等の不都合なく、車体パネルに簡単で良好に取付すべく、結束バンドを高い寸法精度で予定結束箇所に結束装備するための結束工具の結束位置決め構造を提供する。
【解決手段】支持基板10の上面10aから浮かせて配策されるワイヤハーネスWの結束予定箇所nに対応させて結束工具用治具Jを配設し、結束工具用治具Jの位置決め部62と対を為す突片8を結束工具Aの先端に設け、突片8が位置決め部62にセットされるように結束工具Aを結束工具用治具Jに対して移動した状態では、結束工具Aの結束作用部5が結束予定箇所nに対応した位置に配備されるよう構成される結束工具の結束位置決め構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線等の結束対象を結束バンドで結束するのに用いられる結束工具を、結束対象における予定結束箇所に位置決めして寸法精度良く結束バンドを結束対象に装備するための結束工具の結束位置決め構造、及び結束位置決め方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
結束対象は、電線群、パイプ群、各種長尺商品等、種々のものがあるが、代表的なものとしては、自動車、建機、作業機等の車両に多用されるワイヤハーネスが挙げられる。多数の電線群で成るワイヤハーネスを、適当間隔を隔てて結束バンドで結束するに関しては、特許文献1や特許文献2において開示されたものが知られている。これら特許文献1や2のものにおいては、略U字状のワイヤハーネス受入れ部を有する結束治具(ハーネススタンド)を用いることにより、支持基板の上方にワイヤハーネスを宙に浮いた状態で支える手段が示されている。
【0003】
そして、特許文献2のものにおいては、ワイヤハーネスに結束バンドを巻付けて結束する作業を結束工具を用いて行なう手段が開示されている。このように結束工具を用いて結束作業の機械化を推進することにより、多数箇所の結束作業が簡単で労力負担の少ない状態で効率良く行なえる利点が得られる。
【0004】
自動車等に用いられるワイヤハーネスにおいては、車体への実装時における組付けの簡単化を図るべく、車体パネルに対する取付部(クランプ部)が一体化された結束バンドを用いることが多くなってきている。具体的には、車体パネルに形成された取付孔に嵌め込んで固定するためのクランプ部が予め結束バンドに一体形成された「クランプ付結束バンド」を用いるのであり、ワイヤハーネスを製造する専門メーカーは、多数のクランプ付結束バンドで結束された状態のワイヤハーネスを自動車メーカーに納入することとなる。従って、多数のクランプ部を対応する車体パネルの取付孔に円滑に装着するには、クランプ付結束バンドを寸法精度良くワイヤハーネスに対して結束させておくことが要求される。
【0005】
近年の電子化によって益々電線数が増える傾向にあるワイヤハーネスは、それだけで剛性が増す傾向にあるとともに、適宜の間隔を隔てて結束されることでさらに剛性が高くなる。故に、その高い剛性故に、結束後にクランプ付結束バンドの位置をずらすといった融通が効き難くなっているので、結束バンドのクランプ部と取付孔との相対位置に誤差があると、クランプ部を取付孔に挿入できない不具合が生じる。この場合には、その結束バンドを切断する等によって取外し、現場において新しい結束バンドに付換えるしかなく、大変煩わしく、かつ、非能率作業を強いられることになる。従って、このような不都合を避けるためには、予め車体パネルに形成されているクランプ挿入用の取付孔と、ワイヤハーネスに装備される結束バンドとの相対寸法精度を高めること、即ち、結束バンドをワイヤハーネスに対してより高い精度で予定結束位置に結束することが要求されてきている。
【0006】
しかしながら、前述の特許文献2に示されたワイヤハーネスを結束バンドで結束するに関する構造や装置においては、ワイヤハーネスを設置する治具、つまりは結束治具に関する発明を開示するに止まるものでり、結束工具の位置決めに関する記載は特に無い。従って、結束工具は人為操作によって位置決めするしかなく、このような人為操作に頼る結束工具の位置決め手段では、高い寸法精度に関する上記要求には到底満足に答えられるものではない。
【特許文献1】特開平5−325670号公報
【特許文献2】特開平11−157505号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、結束工具を用いてワイヤハーネス等の結束対象に結束バンドを巻付けて結束するに当たり、ワイヤハーネスを部分的に過剰に引張るとか、一部の結束バンドを外して装着し直すといった不都合なく、車体パネル等の固定側部材に簡単で良好に取付できるように、結束バンドを高い寸法精度で予定結束箇所に結束させて装着するための結束工具の結束位置決め構造、並びに結束位置決め方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、結束工具の結束位置決め構造において、支持部材10の支持面10aに対して宙に浮いた状態に配策される結束対象Wにおける結束予定箇所nに対応する状態で前記支持部材10に結束工具用治具Jを配設し、前記結束対象Wに結束バンドVを巻付けて結束するための結束工具Aに前記結束工具用治具Jの位置決め部62と対を為す特定部8を設け、前記特定部8が前記位置決め部62にセットされるように前記結束工具Aを前記結束工具用治具Jに対して移動した状態では、前記結束工具Aの結束作用部5が前記結束予定箇所nに対応した位置に配備されるように構成されていることを特徴とするものである。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の結束工具の結束位置決め構造において、前記結束工具用治具Jに、これを前記支持部材10に固定するための取付部61が設けられるとともに、前記位置決め部62の前記支持面10aからの距離を可変設定すべく前記位置決め部62と前記取付部61との間隔を調節設定する位置調節機構63が装備されていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の結束工具の結束位置決め構造において、前記位置決め部62は、結束工具Aから突設される前記特定部8である突片を挿抜自在な奥止まり状の凹入部69を有するとともに、前記凹入部69を形成する側壁のうちの一つの側壁が、閉じ位置に復帰付勢される状態で開閉可能な可動壁65に構成されており、前記凹入部69に挿入されている状態の前記突片8で前記可動壁65を押して強制開き揺動させることにより、前記突片8をこれの挿抜方向とは異なる方向に抜出し移動可能に構成されていることを特徴とするものである。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3の何れか一項に記載の結束工具の結束位置決め構造において、前記結束対象Wが複数の電線r群で成るワイヤハーネスであり、前記特定部8が前記位置決め部62にセットされた状態では、少なくとも結束予定箇所nにおける前記ワイヤハーネスWの長手方向に沿う前後方向に前記特定部8の位置が定まるものに構成されていることを特徴とするものである。
【0012】
請求項5に係る発明は、請求項3に記載の結束工具の結束位置決め構造において、前記結束対象Wが複数の電線r群で成るワイヤハーネスであり、かつ、前記結束バンドVが、前記ワイヤハーネスWをこれの装着対象102に装着するためのクランプ部4が装備されたクランプ付結束バンドであり、前記可動壁65は、前記凹入部69における前記ワイヤハーネスWの長手方向に沿う方向とは異なる方向の壁として形成されていることを特徴とするものである。
【0013】
請求項6に係る発明は、結束工具の結束位置決め方法において、支持部材10の支持面10aに対して宙に浮いた状態に配策される結束対象Wが用意され、この結束対象Wにおける結束予定箇所nに結束バンドVを巻回して結束する結束作業が結束工具Aを用いて行なわれる結束工具の結束位置決め方法であって、
前記結束予定箇所nに対応させて前記支持部材10に配設される結束工具用治具Jを用意し、前記結束工具Aを作動させての結束工程に先立って、前記結束工具用治具Jに装備される位置決め部62に前記結束工具Aの特定部8がセットされるように、前記結束工具Aを前記結束工具用治具Jに対して移動させる位置決め工程を行なうことを特徴とするものである。
【0014】
請求項7に係る発明は、請求項6に記載の結束工具の結束位置決め方法において、前記結束工具用治具Jに、これを前記支持部材10に固定するための取付部61と前記位置決め部62との間隔を調節設定できる位置調節機構63を設けておき、前記結束予定箇所nの前記支持部材10からの距離変更には、前記位置調節機構63を操作することで対処することを特徴とするものである。
【0015】
請求項8に係る発明は、請求項6又は7に記載の結束工具の結束位置決め方法において、前記位置決め部62は、結束工具Aから突設される前記特定部8である突片を挿抜自在な奥止まり状の凹入部69を有するとともに、前記凹入部69を形成する側壁のうちの一つの側壁を、閉じ位置に復帰付勢される状態で開閉可能な可動壁65に構成しておき、前記凹入部69に挿入されている状態の前記突片8で前記可動壁65を強制開き揺動させて、前記突片8をこれの挿抜方向とは異なる方向に抜出し移動することを特徴とするものである。
【0016】
請求項9に係る発明は、請求項6〜8の何れか一項に記載の結束工具の結束位置決め方法において、前記結束対象Wが複数の電線r群で成るワイヤハーネスであり、前記特定部8が前記位置決め部62にセットされることにより、少なくとも結束予定箇所nにおける前記ワイヤハーネスWの長手方向に沿う前後方向に前記結束工具Aの位置を定めることを特徴とするものである。
【0017】
請求項10に係る発明は、請求項8に記載の結束工具の結束位置決め方法において、前記結束対象Wとして、複数の電線r群で成るワイヤハーネスを用い、かつ、前記結束バンドVとして、前記ワイヤハーネスWをこれの装着対象102に装着するためのクランプ部4が装備されたクランプ付結束バンドを用いるとともに、前記可動壁65を、前記凹入部69における前記ワイヤハーネスWの長手方向に沿う方向とは異なる方向の壁に形成しておくことにより、前記突片8を前記クランプ部4の突設方向に沿って移動させることで前記可動壁65を押し開いて前記凹入部69から抜出すことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明によれば、結束予定箇所に対応して配置される結束工具用治具を用いて結束工具を位置決めさせる手段であり、結束工具用治具の位置決め部に特定部がセットされるように結束工具を移動させるだけで、結束工具の結束作用部を結束対象における結束予定箇所に位置決めすることができ、それによって結束バンドを結束対象の結束予定箇所に高い寸法精度でもって装備することが可能になる。その結果、結束対象を部分的に過剰に引張るとか、結束バンドを外して装着し直すといった不都合が解消され、例えば自動車用のワイヤハーネスにクランプ付結束バンドを寸法精度良く装備できて、車体パネルに簡単で効率良く取付できる等、結束バンドが装備された結束対象を、その装着対象に対して優れた取付作業性でもって所期通りに配置設定できるという効果が得られる。
【0019】
請求項2の発明によれば、結束工具用治具として、位置決め部の支持部材の支持面に対する間隔が調整できるものを用いる手段であるから、例えば、水平姿勢の支持部材からの結束対象の高さが変わるとか、縦向き姿勢の支持部材からの結束対象の水平方向距離が変るといった具合に、結束対象の支持部材からの距離変更がある場合には、位置調節機構を操作して位置決め部の支持部材に対する高さを調節することで対処可能となる。その結果、結束対象の支持部材からの間隔変更に対応すべく、結束工具用治具に他の部材を追加したり、或いは部分的に部品交換するといった手間やコスト上の不利無く結束対象の位置や姿勢変化に対応できるので、経済的で使い勝手が良く汎用性に優れる結束工具の結束位置決め構造を提供することができる。
【0020】
請求項3の発明によれば、結束工具を、その突片が結束工具用治具の凹入部に挿入されるように結束工具を移動するだけの簡単な操作により、結束工具の位置決めが行なわれる便利なものになる。そして、凹入部を形成する側壁のうちの突片の挿抜方向と異なる方向の側壁を閉じ付勢状態で開閉可能な可動壁として、この可動壁を開いて突片を凹入部から抜出しできる構成としてあるから、結束後に結束工具を結束工具用治具から引離し移動させる際の突片の凹入部からの抜出し移動が、突片の挿抜方向に加えて、可動壁の存在方向にも行なうことができる。その結果、結束後における結束号具の結束工具用冶具からの引離し移動方向に融通が効き、取扱い性が向上してより結束工具の使い勝手に優れる結束工具の結束位置決め構造を提供することができる。
【0021】
請求項4の発明によれば、結束工具の位置決めとしては、電子化によって電線数が増加することで剛性が高くなって位置合せ融通が効き難いワイヤハーネスに対して、少なくともその長手方向の位置が決まる状態になるから、長尺状となるワイヤハーネスを部分的に過剰に引張るとか、結束バンドを外して装着し直すといった不都合を招くことなく、ワイヤハーネスを車体パネル等の装着対象に簡単で良好に取付できるようになる。その結果、自動車等において多用されるワイヤハーネスに結束バンドを高い寸法精度で装着可能となる結束工具の結束位置決め構造を提供することができる。
【0022】
請求項5の発明によれば、結束工具の位置決めとしては、電子化によって電線数が増加することで剛性が高くなって位置合せ融通が効き難いワイヤハーネスに対して位置が決まる状態になるから、ワイヤハーネスを部分的に過剰に引張るとか、結束バンドを外して装着し直すといった不都合を招くことなく、ワイヤハーネスを車体パネル等の装着対象に簡単で良好に取付できるようになる。そして、結束工具の突片が挿入される結束工具用治具の凹入部は、ワイヤハーネスの長手方向と異なる方向の側壁が開閉可能な可動壁とされており、この可動壁を強制的に開いて突片を凹入部から抜出せるので、結束後においてワイヤハーネスから突設状態となる結束バンドのクランプ部と結束工具の結束作用部とが干渉しないように結束工具を結束工具用治具から引離し移動することができる。その結果、改善された結束工具の結束位置決め構造により、クランプ付結束バンドを用いて、車体パネル等の装着対象にワイヤハーネスを簡単で便利に装着する手段を採りながらも、ワイヤハーネスに結束バンドを高い寸法精度で装着でき、かつ、結束後にクランプ部と干渉せずに結束工具を移動できる効果が得られる。
【0023】
請求項6の発明は請求項1の発明を方法化したものであり、請求項1による前記作用と効果と同等の作用と効果を得ることができる。
【0024】
請求項7の発明は請求項2の発明を方法化したものであり、請求項2による前記作用と効果と同等の作用と効果を得ることができる。
【0025】
請求項8の発明は請求項3の発明を方法化したものであり、請求項3による前記作用と効果と同等の作用と効果を得ることができる。
【0026】
請求項9の発明は請求項4の発明を方法化したものであり、請求項4による前記作用と効果と同等の作用と効果を得ることができる。
【0027】
請求項10の発明は請求項5の発明を方法化したものであり、請求項5による前記作用と効果と同等の作用と効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に、本発明による結束引締め具の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1,2は結束引締め具の全体図、図3,4は内部構造を示す分解図、図5,6は押出し機構の作用を示す要部の側面図、図7は操作レバーを外した状態での内部構造を示す分解図、図8〜10は引締め機構及び結束圧設定機構の作用を示す側面図、図11は切断機構の構造を示す作用図、図12〜14は結束引締め作業を示す要部の斜視図、図15〜17は結束バンドの構造を示す図、図18,19はヘッド部の保持部を示す図、図21はワンウェイクラッチの構造を示す分解斜視図、図21〜24は結束引締め具の別使用状態を示す側面図である。また、図25,26は結束工具用治具の側面図と分解斜視図、図27,28はそれぞれ実施例2、実施例3の結束工具用治具を示す分解斜視図である。
【0029】
〔実施例1〕
本発明による結束引締め具(結束工具の一例)Aは、図1〜図3に示すように、結束バンドV(図15参等照)のヘッド部2を保持する先端保持部(結束作用部の一例)5と、この先端保持部5に保持されているヘッド部2に挿通されるバンド部1を手指の操作力によって強制的に引張り自在な引締め機構aと、この引締め機構aを手指操作するための操作部bと、これら先端保持部5、引締め機構a、及び操作部bを支持する工具ボディ6とを有するとともに、工具ボディ6の基端側に外装支持されるバンドホルダ14、バンド部1を設定長さ分先端保持部5から突出させるための押出し機構c、及び、引締められたバンド部1を切断する切断機構d等を有して構成されている。また、この結束引締め具Aは、結束バンドVの引締め力を設定する結束圧設定機構eと、引締めによる結束圧が設定値に達すると切断機構dを作動させる連係機構fとが装備されている。
【0030】
最初に、結束引締め具Aを用いた結束作業の概略について簡単に説明する。まず、先端保持部5にヘッド部2が保持され、かつ、そのヘッド部2からバンド部1が設定長さ突出されている状態の結束引締め具Aを、てハーネススタンド11(図2参照)を介して支持基板10の上方位置に横臥配置されているワイヤハーネス(結束対象の一例)Wを結束すべく、結束予定箇所nに斜め上方から接近させる。そして、結束工具用治具Jの付近において、突出しているバンド部1をワイヤハーネスWの向こう側を通してバンド部先端1tをヘッド部2に差し込んで係合させ、バンド部1を結束予定箇所nにおいてループ状とする(図12参照)。
【0031】
次いで、工具ボディ6先端から突出している突片8が、結束工具用治具Jの凹入部69(設定箇所9)に正しくセットされるように結束引締め具Aを微調整し、それから操作レバー18を握り込んで引締め位置H(図9参照)まで揺動させる操作を一又は複数回繰り返し、結束予定箇所nが所定の結束圧で結束されるようにバンド部1を引締める(図13参照)。所定の結束圧に達したら、引締め位置H以上の操作レバーの握り込みが可能となり、切断位置S(図10参照)まで握り込むことにより、ヘッド部2から工具ボディ6の内部において上方に(結束対象存在側と反対側の方向に)突出しているバンド部1が切断機構dによって切断されるので、その後に結束引締め具Aを退避移動させる(図14参照)。
【0032】
それから、次のヘッド部2を先端保持部5にセットするとともに押出し機構cを操作して、先端保持部に5に保持されているヘッド部2から設定長さのバンド部1が突出している元の状態(図6参照)に戻すのであり、これが一連の(ワンサイクルの)結束引締め作業である。この結束引締め具Aを用いた手動による結束作業が、ワイヤハーネスWの多数の箇所について繰り返し行なわれる。次に、各部の構造等について説明する。
【0033】
合成樹脂材等から形成される工具ボディ6は、図1〜3等に示すように、左右の半割りボディ6L,6Rを合せて成るものであり、先端保持部5におけるヘッド部2を挿入して保持するための凹入孔部56(図18,19参照)の向き(図1の矢印イ方向)が、即ち先端保持部5に保持されるヘッド部2のバンド挿通孔105(図16,17参照)の向きが、工具ボディ6のうちの引締め機構a及び操作部bを含むボディ本体6Aにおける手指で把持される握り部6aの長手方向(図1の矢印ロ方向)に対して偏向されるように、具体的には90度異なるように、工具ボディ6のうちの先端保持部5を含むボディ先端部6bをボディ本体6Aに対して屈曲させてある。つまり、押出し機構cにおけるハウジング30の前端部程度まで直線的に伸びる形状のボディ本体6Aに対して、その先のボディ先端部6bが適宜の角度(図1では約40度)が付くように下向きに曲げられており、握り部6aの長手方向の向きと同じ向き(図1ではほぼ水平)となる先端底壁部6cに先端保持部5が形成されている。
【0034】
先端保持部5は、図6,7,18,19に示すように、合成樹脂製のヘッドホルダ55を、その外面部55aが先端底壁部6cと同一面となる状態でボディ先端部6bの内部にボルト止め装着する構造を有して構成されている。より正確には、後述するヘッド部2の支柱部107及び/又は係合片108が極軽く圧入される程度の嵌め合い状態となるように、ヘッドホルダ55に形成された凹入孔部56を意味している。このヘッドホルダ55の上側には、バンド部1を挿通するとともに、後述する切断機構dのカッター刃15をスライド移動自在に支持するための構造部12が構成される。
【0035】
図1〜3に示すように、ボディ本体6Aの基端部には、長尺状のバンド部1がリール部材13に巻回装備されて成るバンドボビン7を回動自在に支持する略円筒籠状のバンドホルダ14が装備されている。バンドホルダ14は、工具ボディ6の基端部に枢支連結される基端半割部14Aと、この基端半割部14Aに対して支点P回りで揺動開閉自在に連結される先端半割部14Bとから構成されており、リール部材13から巻き解されるバンド部1を排出するための出口孔14Cを有している。また、ボディ先端部6bの先端縦壁部6dには、これから水平方向でより先端側に向けて突出する金属製の突片8が取付けられている。
【0036】
図7,11に示すように、ボディ先端部6bには、スライド移動するカッター刃15、及び中間支点Z回りに天秤揺動自在なL字アーム16を有する切断機構dが先端保持部5の直上に配置されている。また、図3,4,7に示すように、工具ボディ6としての前後中間には、主支点X回りに回転自在な複合回転体17、及び主支点Xで天秤揺動自在な操作レバー18が装備されるとともに、複合回転体17の下方基端側に設けられた下方支点Yを中心に揺動自在な揺動アーム19が枢支されている。また、工具ボディ6の内部には、操作レバー18の基端部18Aの内側部分を介してバンドホルダ14から送られてくるバンド部1を、先端保持部5に導き案内するためのガイド通路20が形成されている。
【0037】
ここで、本結束引締め具Aに用いられる結束バンドVについて説明すると、図15〜図17に示すように、一対のバンド部1,1が背中合わせ状態で挿通及び係止可能なヘッド部2と、このヘッド部2とは独立した部品であるバンド部1とから成る。ヘッド部2は、バンド部1を係止及び維持する係止部3と、自動車の車体部品である鋼板製のパネル板(装着対象の一例)102に挿入して係止支持自在なクランプ部4とから構成されている。バンド部1は必要な長さ分だけで済むので、バンド部1とヘッド部2とが一体形成されている普及型結束バンドに比べて、結束引締め後のバンド切断に伴う余剰バンド部が生ぜず、バンド部1の歩留まりが良く、コストダウンが可能となる利点を有している。
【0038】
図15、図16は、このクランプ付結束バンドVを用いてワイヤハーネスWを結束してパネル板102に係止させた状態を示している。つまり、多数本の電線rの群で成るワイヤハーネスWをバンド部1で囲繞して引締めた状態でヘッド部2に係止固定するとともに、そのワイヤハーネスWを伴った結束バンドVは、ヘッド部2のクランプ部4を用いてパネル板102に係止固定される構造となっている。
【0039】
バンド部1は、図15、図16示すように、ナイロン、ポリプロピレン等の可撓性を有する合成樹脂材製のバンド部材104の表裏の何れか一方の面に、凹入形成された谷部104aと山部104bとが交互に、かつ、連続形成されて成る係止部104Kが連続形成された構造のものである。このバンド部1は、図1に示すように、例えば、回転リール13に長尺状のバンド部1を巻き付けて成るバンドボビン7から巻き解して供給されてくるものを適宜の長さに切断して用いる。
【0040】
ヘッド部2は、図15〜図17に示すように、バンド部1を挿通するためのバンド挿通孔105を備えた状態でパネル板102に形成された長円形状の取付孔103の周囲部分に被さる支え部106と、この支え部106から突設されて取付孔103に挿入される支柱部107と、この支柱部107の下端部両脇の夫々に片持ち支持された状態で支え部106に向けて延出され、かつ、上端部の外側に取付孔103の周囲部分102aに係合可能な係合段部109が形成される一対の係合片108,108とを有して、ナイロン、ポリプロピレン等の可撓性を有する合成樹脂材から構成されている。そして、支柱部107が取付孔103に差し込まれることにより、一対の係合片108,108が取付孔103の内周面103n(又は角縁部)との摺接によって内方に弾性揺動変形して、係合段部109がパネル板102の取付孔周囲部分102aに係合されて、一対の係合片108,108と支え部106とでパネル板102が挟持される止着状態がもたらされるように構成されている。
【0041】
支え部106は、取付孔103の形状に合わせて平面視で長円形を呈するお碗を伏せたような形状に形成されており、支柱部107の上端部に連続される厚肉の中央領域106Aと、その周囲に形成されるスカート部106Bとから成る。そして、クランプ部4を構成する主要部分である左右一対の係合片108,108との間に取付孔103の周囲部分102aを付勢挟持すべく、上下方向(バンド挿通孔105の挿通方向)に弾性変位可能に形成されるとともに、平面視における支え部106の中央領域106Aは、その周りの部位よりも厚みの厚い厚肉部に設定されている。
【0042】
支柱部107は、平面視(底面視)の形状が略矩形のバンド挿通孔105が上下に貫通する筒状の部分であり、バンド部材104の両端部104t,104tが背中合わせ状態で挿通するバンド挿通孔105の内部には、各端部104t,104tの谷部104aに係合するための一対の第二係合片111,111が下内向き突出し、かつ、前後に対向配置される状態で片持ち支持されている。第二係合片111は、上部の厚肉支柱部分107Aと下部の薄肉支柱部分107Bとの境目において厚肉支柱部分107Aに連続するような状態で一体形成されており、内側に二箇所の係合山部111a、及び係合谷部111bが形成されている。
【0043】
係合片108は、図15、図17に示すように、支柱部107の下端部の左右から斜め上方に突出する片持ち支持状態で一対形成されており、下端部の付根部108aを中心して左右に揺動変形可能であるとともに、上端部の外側には第1〜第3段部109A〜109Cで成る係合段部109が形成されている。各段部109A〜109Cは、いずれも縦壁109tと横壁109yとを有する隅角状の部分で成り、各縦壁109tは、取付孔103の形状に合わせた円弧状の平面視形状を呈する曲面に形成されている。
【0044】
引締め機構aは、図3,4,7〜10に示すように、バンド部1の係止部104Kに咬合する歯車部21aが外周に形成されたテンションギヤ21と、これの両側に配される一対のラチェットギヤ22,22等から成る複合回転体17、これらラチェットギヤ22のそれぞれに噛合い自在な爪部23aを先端に有した二股状のラチェット爪23、下方支点Yを有する前述の揺動アーム19、揺動アーム19の先端部とラチェット爪23の基端部とを連結する連結リンク24、前端部が揺動アーム19に枢支連結される作動リンク25、この作動リンク25に結束圧設定機構eを介して連動される操作レバー18等を有して構成されている。揺動アーム19、連結リンク24、及び作動リンク25のそれぞれは、いずれも左右一対の第1〜第3板リンク19a,24a,25aから構成されている。作動リンク25の基端部は、連結ピン26を介して操作レバー18の長孔18aに枢支連結されている。
【0045】
引締め機構aは一方向クラッチCrを有している。一方向クラッチCrは、基本的にはラチェット爪23とラチェットギヤ22とで構成されている。詳述すると、ラチェットギヤ22の歯部22Aは、矢印ハ(図4参照)方向には緩やかに傾斜する傾斜面22aと、矢印ニ(図4参照)方向にはほぼ垂直に切り立った停止面22bとを有する非対称形状のものに形成されており、傾斜面22aと停止面22bとで挟まれる谷部22Bにラチェット爪23先端の爪部23aが嵌り込むように構成されている。
【0046】
そして、ラチェット爪23の基端側部分23Aは、主支点X回りに回動自在に枢支される支持アーム43に枢支連結されており、基端側部分23Aは主支点Xを中心とする半径上で移動可能に支持されている。また、図5に示すように、揺動アーム19と連結リンク24とを枢支連結するための段付き枢支ピン53に嵌装される捩りバネ54により、外力が作用しない限りはラチェットギヤ22に咬合するように、連結リンク24との枢支軸心p4を中心として矢印ホ(図4参照)方向に揺動付勢されている。捩りバネ54は、両端が揺動アーム19の各第3リンク板19aに係合され、かつ、中央部が基端側部分23Aから突設される受ピン23bに引掛け係合されている。
【0047】
次に、一方向クラッチCrの作用を説明すると、操作レバー18が、その基端側18Aが上昇する方向に揺動されて、作動リンク25、揺動アーム19、連結リンク24を介してラチェット爪23が先端部18B側(図4における紙面左側)に向けて動く場合は、その爪部23aがラチェットギヤ22の谷部22Bにより食い込もうとする動きになって歯部22Aを(停止面22bを)押し、ラチェットギヤ22は矢印ハ方向に回転移動する。つまりラチェット爪23とラチェットギヤ22とが一体的に動くクラッチ入り状態になる。そして、操作レバー18が下降揺動されてラチェット爪23がバンドホルダ14側(図4における紙面右側)に向けて動く場合は、爪部23aが傾斜面22aに乗り上がって滑って移動することになり、ラチェット爪23はバンドホルダ14側に移動されるが、ラチェットギヤ22は回動しない。つまり、ラチェット爪23だけが移動されるクラッチ切り状態になる。
【0048】
以上の構造により、操作レバー18を上昇揺動すれば、作動リンク25が揺動アーム19及び連結リンク24を介してラチェット爪23を押し、爪部23aがラチェットギヤ22に咬合していることからテンションギヤ21が矢印ハ方向に回動移動され、その歯車部21aに咬合しているバンド部1が手前側に引っ張られることになり、それによってワイヤハーネスWにおける結束予定箇所nが引締められる。バンド部1を引張る引締め作動に関する操作レバー18の揺動範囲は、工具ボディ6の停止端6tに操作レバー18が当接して止まる待機位置T(図1参照)から、この待機位置Tにある操作レバー18を握り部6aを握る手指で共握りすると、作動リンク25基端部を操作レバー18のに枢支連結すべくその長孔18aに貫通する連結ピン26の左右端部が、工具ボディ6の内部の左右それぞれにネジ止めされている板材製のストッパー金具27の底面に当接する位置、即ち引締め位置H(図9参照)に至る迄の間である。
【0049】
操作部bは、図1,3に示すように、主支点Xで枢支される操作レバー18を、その基端部18Aが握り部6aの下方に位置する状態に配備して構成されている。操作レバー18は、先端部18Bに引っ張り作用する戻しバネ28により、基端部18Aの底壁29が工具ボディ6の停止端6tに当接する待機位置Tに自己復帰するように構成されている。また先端部18Bは、その先端に支承されているピン・ローラ18bを用いて切断機構dを作動させる部材として機能する部分である。尚、操作レバー18の基端部18Aには、内部確認用の覗き長孔18dが左右一対形成されている。
【0050】
押出し機構cは、図1〜図6に示すように、工具ボディ6の外表面にネジ止めされるハウジング30、このハウジング30に収容されるラックギヤ31、主支点Xで回転自在な操作ギヤ32、操作ギヤ32のボス部32aに嵌装されるロック解除プレート33、操作ギヤ32にワンウェイクラッチ34(図21参照)を介して連動される複合回転体17、及び複合回転体17に内装される状態のワンウェイクラッチ34等から構成されている。ハウジング30は、長尺部材であるラックギヤ31を前後スライド移動自在に収容するとともに、操作ギヤ32とロック解除プレート33とを覆うものであり、ラックギヤ31を手指でスライド操作するための摘み39を外部突出させるための長尺切欠き30aが形成されている。尚、40は、ラックギヤ31の不測の移動を規制するストッパ機能を発揮するとともに、手指によるラックギヤ31のスライド操作時に軽く摩擦抵抗を付与して節度感を出すための板バネである。
【0051】
ワンウェイクラッチ34は、図21に示すように、複合回転体17の内部空間17Sに第1軸心p1で枢支されるクラッチ爪35と、内部空間17S内において主支点Xで回転自在となるように一対の円形カバー板36,36に枢支されるクラッチギヤ37と、クラッチ爪35を内径側に押圧付勢する捩りバネ38等から構成されている。各カバー板36は、内部空間17Sを覆う蓋となるように複合回転体17の左右にネジ止めされる。操作ギヤ33とクラッチギヤ37とは、これら両者に亘って内嵌されるキー軸41(図4参照)によって一体回転状態に連動連結されている。
【0052】
さて、この押出し機構cは、摘み39を手指で掴んで先端側にスライド操作することにより、テンションギヤ21の下方に引き込まれているバンド部1を設定量押出す機能を有している。その詳細な動作状況は次のようである。即ち、戻り位置m(図1参照)にある摘み39を掴んで前方にスライドし始めると、まず、ラックギヤ31の内側に一体形成され、かつ、先端に先下がり状のアプローチ曲面31aを有する作用段部31Aにロック解除プレート33が乗り上がって工具ボディ6に対して垂直方向に移動し、その先端部33aがラチェット爪23先端に横突設されている受ピン23bを上方に押し上げ、爪部23aとラチェットギヤ22との咬合が解除され、複合回転体17が矢印ニ方向に回転可能な状態がもたらされる(図5参照)。
【0053】
ラチェット爪23が持上げ揺動されたとほぼ同時に、ラックギヤ31の歯部31bと操作ギヤ32の歯部32bとが咬合し始めて、複合回転体17の矢印二方向への回転が開始され、それによってテンションギヤ21に咬合されているバンド部1が強制的に押出される。そして、図6に示すように、摘み39が長尺切欠き30aの最前端に位置する押出し位置kまでラックギヤ31がスライド操作されことによりバンド部1が押出され、先端保持部5に保持されているヘッド部2から設定量突出する状態が得られる。その後、押出し位置kにある摘み39を手前側にスライド操作してラックギヤ31を戻り位置mに戻すのであるが、この戻りスライド移動のときにはワンウェイクラッチ34の機能により、操作ギヤ32及びクラッチギヤ37が空回りすることになって複合回転体17は戻り回転せず、従って、押出されたバンド部1が引戻し操作されることがない。
【0054】
このように、引締め機構aのための部品であるテンションギヤ21に一方向クラッチCrを装備することにより、引締め機構aの作動時とは逆方向に回転することになる押出し機構cのための部品(押出し用回転体)に兼用できる合理的で経済的な構成が可能になるとともに、バンド部1の係止部104Kとテンションギヤ21とが常時噛合う構成にできるため、テンションギヤ21との咬合不完全等によって山部104bが潰れるといった係止部104Kの損傷おそれが生じないという利点がある。例えば、前述の特許文献1に開示されたものでは、レバー握り時にはバンド部に咬合して引張り、レバー握り解除時にはバンド部との咬合も解除される構造であるため、扇形部のギヤ部との咬合及び離脱との切換り時にバンド部が押し引き操作されてバンド部の係止部が潰れる可能性があり、その後のヘッド部との係合が不安定になるおそれがある。これに対して、バンド部1とテンションギヤ21との常時噛合い構造を採る本発明の結束引締め具では、そのようなおそれが生じず、バンド部とヘッド部との確実な係合状態を実現して、結束バンドの良好な信頼性を維持できる利点が得られる。
【0055】
切断機構dは、図3,7,11,18に示すように、基本的には、合成樹脂材等によって形成されている先端保持部5に前後スライド移動自在に支持されるカッター刃15と、カッター刃15に凹凸係合する先端部16aを有するL字アーム16とから構成されている。カッター刃15は、先端の刃部15aと、先端部16aを通すための操作孔15bとが形成されたステンレス鋼板製のものであり、先端保持部5の凹入孔部(ヘッド部2を収容する部分)56(図19参照)に臨むガイド通路20を横切り移動自在に配置されており、L字アーム16がセット位置gにあるときは、カッター刃15は待機位置にある。そして、L字アーム16が動作位置qに揺動移動するとカッター刃15が前進移動し、バンド部1をヘッド部2から直ぐ手前の箇所で切断するように構成されている。
【0056】
L字アーム16は、ガイド通路20を形成するレールガイド42を跨ぐべく、支点Zを含む中間部分が左右のアーム部16A,16Bとに枝分かれする二股状に形成された部品であり、工具ボディ6に支点Zでもって枢支されている。レールガイド42は、左右一対の半割り部材42A,42Bによって形成されてボディ先端部6bにネジ止めされる独立した部品であり、内部にはガイド通路20に続く湾曲した部分ガイド路42Rが形成されている。左右のアーム部16A,16Bは、工具ボディ6の内面とレールガイド42との間のスペースにおいて揺動移動自在に構成されている。
【0057】
カッター刃15をスライド移動自在に支持するための構造部12は、図18に示すように、バンド部1を挿通させるための挿通孔57a、及びL字アーム16の先端部16aを受入れるための長孔57bとが形成される金属材製のカッターホルダ57と、ヘッドホルダ55上に載置される滑り板58と、L字アーム16の先端部16aとの干渉を避けるべくヘッドホルダ55において下方に凹入形成される逃し溝55Nとから構成されている。ヘッドホルダ55とカッターホルダ57とはボディ先端部6bに側方からネジ止めされている。つまり、カッター刃15は、滑り板58とカッターホルダ57との上下間に形成される空位幹部において前後スライド移動自在に装備されており、L字アーム16の揺動移動に伴って前又は後にスライド移動される。
【0058】
滑り板58には、バンド部挿通用の挿通孔58aと、先端部16aを通すための操作孔58bとが形成されている。滑り板58の一対のガイド片58g,58g付きの挿通孔58aは、バンド部1を1本のみ通すことを許容する程度の大きさに形成されており、結束対象に巻回されてヘッド部2に再挿通されてくるバンド部先端1tを受け止めてそれ以上工具ボディ6の内部に進まないようにするバンド部ストッパーとしても機能するものに構成されている。従って、ヘッド部2に再挿通されたバンド部1は、カッター刃15に至る手前で止まり、カッター刃15で切断されるバンド部1は1本で済むようになっている。
【0059】
切断機構dは、引締め位置Hにある操作レバー18がさらに握り揺動されて切断位置S(図10参照)に揺動操作されることにより、図11に示すように、レバー先端のピン・ローラ18bがL字アーム16の基端部を押下げ、それによってL字アーム16が矢印ヘ方向(図11参照)に揺動移動してカッター刃15が前進スライド移動されることで作動する。カッター刃15が前進方向にスライド移動することにより、ガイド通路20の先端から出てカッターホルダ57及び滑り板58を通ってヘッドホルダ55に供給されているバンド部1を切断することができる。そして、切断機構dの作動は、後述する結束圧設定機構eによって規定される設定結束圧に到達して、バンド部1の引締めが終了することに伴って自動的に行なわれる状態に構成されている。
【0060】
結束圧設定機構eは、バンド部1の引締めによる結束圧(引締め圧)が設定値に達したら、引締め機構aがそれ以上実質的に作動しないようにしながら操作レバー18の引締め位置Hからのさらなる上昇揺動を許容させる機能(バンド部1を切断する機能)を発揮する機構であり、図3、図7〜10、図20に示すように、操作レバー18の基端部18Aの内部空間に構成されている。断面上向きコ字状の基端部18Aの底壁29の上面には、ステンレス薄板製の滑り板44を介して断面形状が下向きコ字状でアルミ合金製のスライダ45がボルト止めされており、そのスライダを跨ぐように平面視が略コ字形状で板金製の緊張アジャスタ46が前後にスライド移動可能に配されている。緊張アジャスタ46は、これの基端壁46aと基端部18Aの基端側に形成されている折返し壁18cとを前後に貫通するボルト47とダブルナット48、及びコイルバネ49により、操作レバー18に対して手前(後)側、即ちバンドホルダ14側に向けて押圧付勢されている。
【0061】
緊張アジャスタ46の前端部には、左右向きの第3軸心p3で三角板51が枢支連結されており、この三角板51は、第3軸心p3の直上に位置する左右向きの第2軸心p2において操作レバー18の基端部18Aに枢支されている。三角板51の上辺51Aには、作動リンク25の連結ピン26に外嵌されるローラ50を嵌め込んで押すための略半円状の凹入部51aが形成されており、通常はその凹入部51aにローラ50が落し込み配置された状態に維持されている。コイルバネ49の弾性により、基端壁46aが折返し壁18cに当接する状態に緊張アジャスタ46が復帰付勢されており、通常は、連結ピン26が長孔18aの前端に位置し、かつ、ローラ50が凹入部51aに嵌り込む状態になっている(図7,8参照)。
【0062】
結束圧設定機構eの作用について説明する。結束圧が設定値以下の範囲では、操作レバー18の待機位置T(図1参照)から引締め位置H(図9参照)への揺動操作においては、操作レバー18と一体的に揺動する三角板51がその凹入部51aに嵌り込んでいるローラ50を介して作動リンク25を押すことになり、それによって引締め機構aが作動してバンド部1の引締めが行なわれる。操作レバー18の引締め位置Hから待機位置Tへの戻り揺動時には、一方向クラッチCrが非作動状態となって複合回転体17は動かず、揺動アーム19や作動リンク25等で成るリンク部が戻り移動する。
【0063】
操作レバー18の1回又は複数回の上昇揺動操作により、結束圧(引締め圧)が設定値に到達すると、例として、図8に示すように上昇揺動操作の途中の位置(待機位置Tと引締め位置Hとの中間位置)において結束圧が設定値に到達すると、ローラ50を介して作動リンク25が三角板51を第2軸心p2を中心として下方に押し戻す反力が、コイルバネ49が緊張アジャスタ46を押付けることによって第2軸心p2を中心として三角板51を上方に持上げ揺動させようとする付勢力に勝る状態になる(それ迄は付勢力が反力に勝っている)。引き続き操作レバー18が上昇揺動されると、長孔18aに嵌合している連結ピン26は下方には移動できないので、結果として三角板51が第2軸心p2を中心として下方に揺動移動して、相対的に凹入部51aからローラ50が抜け出た状態となり、それによって連結ピン26は長孔18aにおける手前側端(バンドホルダ14側)に自由に移動し得る状態になる。すると、強く引締められているバンド部1の緊張力によって複合回転体17が矢印ニ方向(図4参照)に戻し回動されるようになり、それによって連結ピン26の基端部18Aの長孔18a内の最手前側に後進移動するようになる。
【0064】
上辺51Aがローラ50に接触しながらの連結ピン26の前記後進移動に伴い、連結ピン26の両端部とストッパー金具27とは当接しない位置関係になるので、それによって初めて操作レバー18を引締め位置Hよりさらに上昇揺動させることが可能となる。従って、図10に示すように、握り部6aと共握りされる操作レバー18を握り締める操作を続けることにより、操作レバー18が引締め位置Hを越えて上昇揺動させることができ、それによって操作レバー18先端のピン・ローラ18bがL字アーム16基端部を押下げて切断機構dを作動させ、バンド部1が切断されるのである。このとき、コイルバネ49は少し圧縮された状態になり、それによって基端壁46aは折返し壁18cから前方に少し離れた位置関係となる。操作レバー18が結束圧が設定値に到達する揺動操作位置(例:図8の位置)から切断位置Sに上昇揺動操作される間は、作動リンク25の押し込みが為されず引き締め機構aは空作動するような状態となって、設定結束圧が維持された状態でバンド部1が切断されることとなる。
【0065】
つまり、結束圧設定機構eは、引締め機構aの作動によって増加する結束圧とコイルバネ49とのバランス変化によって自動的に作動するように構成されているので、作業者は操作レバー18の握り部6aとの共握り状態における握り込みによる揺動操作を1回又は複数回行なうだけで、バンド部1の設定結束圧への引締め作業とバンド部1の切断作業との双方がひとりでに行なわれる便利なものとなっている。また、ダブルナット48を操作してコイルバネ49の設定長さを変更して初期応力を調節することにより、結束圧の増減調節が任意に行なえるように構成されている。ダブルナット48は、緊張アジャスタ46の左右側壁に形成されたガイド長孔46bに左右両端部48aが差し込まれてのガイド機能付きのガイドナット48A(図20参照)と、一般的な六角ナット48Bとから成るものであり、結束圧調節機構eを機能させる上での主要な構成要素になっている。
【0066】
ところで、結束圧が設定値に到達して操作レバー18が引締め位置Hよりさらに上昇揺動できる状態、即ち連結ピン26がレバー基端部18Aの長孔18aの前端から後端に移動する状態においては、強く引締められているバンド部1の弾性反力によってテンションギヤ21が(複合回転体17が)矢印ニ方向(図4参照)に連れ回り回動することがあるが、それによって得られる効果がある。たとえば、バンド部を引締め続けながら切断される構造となっている結束引締め具においては、設定結束圧の状態では、バンド部1が強く引張られて若干伸びた状態になっていて、その係止部104K(山部104b)とヘッド部2の第二係合片111との係合が不確実になっていることがある。そうなると、その状態でヘッド部2間近の位置でバンド部1が切断されると、本来なら第二係合片111と係合するはずの係止部104Kは係合せず、その次の係止部104Kが係合して余剰バンド部1が極端に少なくなるとか、場合によっては係合不能となるおそれがある。
【0067】
それに対して、本発明による結束引締め具Aでは、連結ピン26がレバー基端部18Aの長孔18aの前端から後端に移動する間は、即ちバンド部1が切断される直前の一瞬の間は複合回転体17が自由に回動でき得るる状態になるので、前述のように複合回転体17が引締め方向と反対方向に少し回動してバンド部1の過剰な緊張を緩和して、設定結束圧は維持しながらバンド部1の係止部104Kとヘッド部2の第二係合片111とが正規に係合している状態でバンド部を切断することができる。その結果、バンド部1とヘッド部2とがしっかりと正規に係合された設定結束圧で安定した結束状態を実現しながら、バンド部1をヘッド部2の間近の位置で不都合無く切断することができるのである。
【0068】
ところで、リール支持部13から操作レバー18の基端部18Aを通って工具ボディ6内部に導かれるバンド部1は、滑り板44で蓋をされた状態のスライダ45の溝部45aを潜り抜け、かつ、テンションギヤ21の下部を跨ぐ状態で揺動アーム19の支点Y部分の内側に配備されるガイド部材52に導かれる。そして、テンションギヤ21の下部に咬合されてからガイド通路20に通されるように経路が形成されている。スライダ45には、溝部45aから出るバンド部1をガイド部材52の溝部52aに誘導するための湾曲舌片45zが突出形成されている。また、ガイド部材52の上向き二股状の上部に形成される溝部52aは、テンションギヤ21の歯車部21aに係止部104Kが咬合する状態で巻付けられるようにバンド部1を導入する役割を有している。
【0069】
連係機構fは、図8〜10に示すように、ピン・ローラ18bがL字アーム16の基端部16bに当接し始める位置関係、即ち、操作レバー18とL字アーム16との配置関係によって構成されている。具体的には、操作レバー18が引締め位置Hを越えて上昇揺動されることでカッター刃15が動き出すように、操作レバー18及びL字アーム16の形状、寸法を設定することによって構成されている。
【0070】
結束工具用治具Jは、図12〜図14、及び図25,26に示すように、支持基板(支持部材の一例)10の上面(支持面の一例)10aに対して宙に浮いた状態に配策されるワイヤハーネスWに結束バンドVを巻付けて結束するための結束引締め具Aを、ワイヤハーネスWにおける結束予定箇所nに対して位置決めするためのものであって、支持基板10に固定するための取付部61と、結束引締め具Aに装備される突片(特定部の一例)8と対を為して突片8の取付部61に対する位置を定めるための位置決め部62と、位置決め部62の支持面10aからの高さ(距離)が可変できるように、位置決め部62と取付部61との間隔を調節設定する位置調節機構63と、を有して構成されている。
【0071】
取付部61は、支持基板10に圧入される棒状部61aと、パイプ材で成る筒状部61bと、これら両者を連結するとともに上面10aに沿う円座61cとから構成されている。筒状部61bの上端部には、位置調節機構63と相対固定するための軸ボルト70を螺着するための一箇所のネジ孔61dが形成されるとともに、下端部には二面幅部分61eが形成されている。二面幅部分61eにスパナ、レンチ等の工具を嵌着して回動操作することにより、支持基板10に対して取付部61の向きを調節することが可能である。
【0072】
位置決め部62は、上向き二股状の位置決め本体64と、左右側壁64L,64R間において支点p7で揺動可能に枢支される上壁(可動壁の一例)65と、上壁65を閉じ付勢するコイルバネ66等を有して構成されている。位置決め本体64には、左及び右側壁64L,64R、これらを一体化する下壁64A、下壁64Aに形成されたバネ収容用の横穴64a、上壁65を支点p7で枢支する軸ピン67を嵌装すべく各側壁64L,64Rに形成された装着孔64b、及び上壁65に装備されるストッパピン65aの両端部を受止めるように各側壁64L,64Rに形成された凹入部64cが形成されている。上壁65は、その下端部に形成されたバネ受け片65bがコイルバネ66で押圧されており、通常はストッパピン65aが左右の凹入部64cに嵌り込んで止まる閉じ位置(図25の実線の位置)に復帰付勢されている。
【0073】
位置調節機構63は、位置決め部62を、詳しくは位置決め本体64をボルト固定するための先端部である鋼板製の取付座63Aと、取付部61、詳しくは筒状部61bに対する高さ方向の取付け位置が調節自在なパイプ材製の脚部63Bとを有して構成されている。脚部63Bは、軸ボルト70を通すための挿入孔63bが上下に多数形成されており、軸ボルト70を通す挿入孔63bを選択設定することによって、位置決め部62の高さ調節及び設定が行なえるように構成されている。矩形形状の取付座63Aには、これに載置される状態となる位置決め本体64を固定する2本のボルト68を通すためのボルト用孔63aが形成されている。尚、筒状部61bと脚部63Bとの相対固定手段としては、これら両者に跨って挿抜されるピン部材(ロールピン、頭付ピン等)を、軸ボルト70に代えて用いる構成でも良い。
【0074】
この結束工具用治具Jは、位置決め本体64と上壁65とで形成される奥止まり状の凹入部69に結束引締め具Aの突片8を挿入することにより、結束引締め具Aを予定結束箇所nに位置決めできるものに構成されている。上壁65の底壁は、これの閉じ姿勢において水平となる天井面65cと、開口面積を広げて突片8の挿入をし易くするための傾斜面65dとで形成されている。つまり、凹入部69における左右の側壁64L,64R、下壁64A、及び天井面65cとで囲まれる部分に突片8の先端部を挿入して合致させる位置決め操作が行なわれるのであり、傾斜面65dは突片8の挿入移動を案内するガイド壁として機能する。
【0075】
結束操作の終了後に結束引締め具Aを結束工具用治具Jから離すには、挿入方向とは逆方向に結束引締め具Aを引き抜けば良いが、図25に示すように、結束引締め具Aを真上に移動させて治具Jから抜き出すことも可能である。即ち、突片8が凹入部69に挿入されている状態で結束引締め具Aを垂直上昇移動すれば、突片8が支点p7を支点として上壁65をコイルバネ66による付勢力に抗して揺動上昇させることができ、それによってて上壁65を退避移動させることができるからである。このように、突片8を引抜き移動や上昇移動によって結束工具用治具Jから外し移動できるので、引抜き移動しかできない場合に比べて、結束引締め具Aの結束工具用治具Jへのセット操作のみならずセット解除操作も行ない易い利点を有している。
【0076】
つまり、位置決め部62は、結束引締め具Aから突設される突片8を受入れ自在な凹入部69を有するとともに、凹入部69を形成する左右側壁(前後方向の側壁の一例)64L,64R及び上下壁(突片8の凹入部69への挿抜方向とは異なる左右方向の側壁の一例)65,64Aのうちの上壁(左又は右側壁の一例)65が、凹入部69を形成するための閉じ位置に弾性復帰される状態で開閉自在であり、かつ、上壁65は、これに加えられる開き方向の力が所定以上になるとコイルバネ66に因る弾性復帰力に抗して開き揺動する状態に構成されている。
【0077】
ワイヤハーネスWと結束工具用治具J(位置決め部62)との三次元方向関係については、図12、図26に示すように、位置決め部62における左右方向である「あ−い」方向は、ワイヤハーネスWを基準とした場合における電線rの長手方向に沿う前後方向に相当し、位置決め部62における上下方向である「う−え」方向は、ワイヤハーネスWを基準とした場合における左右方向に相当する。そして、位置決め部62における上下方向である「お−か」方向は、ワイヤハーネスWを基準とした場合における挿抜方向(上下方向)に相当している。
【0078】
ワイヤハーネスWの結束においては、電線rの長手方向、即ち「あ−い」方向での予定結束位置nの寸法精度が厳しく要求されるので、図26等に示される結束工具用治具Jにおいては、左右側壁64L,64Rは固定壁として、上壁65と下壁64Aのうちの上壁65を開閉可能な壁としてある。例えば、下壁64Aを開閉可能な移動壁にするとか、図22に示すように、突片8を上下方向に挿抜する構成においては、前壁と後壁[図26における「お−か」方向(挿抜方向)の壁である]のいずれかを開閉可能な移動壁とすることも可能である。
【0079】
結束工具用治具Jは、第1別構造のもの(図27参照)や、第2別構造のもの(図28参照)がある。第1別構造の結束工具用治具Jは、図27に示すように、位置決め本体64の取付座63Aに対する取付方向を図25等に示す基本の結束工具用治具Jのものと反対向きとし、かつ、筒状部61b及び脚部63Bの長さを短くした以外は図25等に示す基本の結束工具用治具Jと同じである。この第1別構造の結束工具用治具Jは、図24に示す結束引締め具Aの第3別使用法において用いられる。
【0080】
第2別構造の結束工具用治具Jは、図28に示すように、位置決め本体64を横倒し姿勢にすべく取付座63AがL字状に屈曲した形状のものとし、かつ、筒状部61b及び脚部63Bの長さを短くした以外は図25等に示す基本の結束工具用治具Jと同じである。この第2別構造の結束工具用治具Jは、図22に示す結束引締め具Aの第1別使用法や、図23に示す結束引締め具Aの第2別使用法において用いられる。
【0081】
このように、結束工具用治具Jにおいては、長さは異なるが、図26に示す基本のもの、図27に示す第1別構造のもの、及び図28に示す第2別構造のもののいずれにおいても、各筒状部61bどうし及び各脚部63Bどうしは互いに等しい太さであり、付換えが自在である。これにより、取付部61は、位置決め部62を(即ち凹入部69を)取付部61に対する横方向(特定方向)に向く姿勢とするための第1先端部t1を有する第1位置調節機構631と、位置決め部62を取付部61に対する上方向(特定方向とは異なる所定方向)を向く姿勢とするための第2先端部t2を有する第2位置調節機構632との付換えが自在なものに構成されている。換言すれば、図25に示す筒状部61bに図28に示す脚部63Bを挿入したり、図28に示す筒状部61bに図25に示す脚部63Bを挿入したりが自在に行なえるように構成されている。
【0082】
以上のように構成されている結束引締め具A、及び結束工具用治具Jによる結束作業手順について説明する。まず、図1,9に示すように、先端保持部5の凹入孔部56にヘッド2の支柱部107側部分を挿入して保持させた状態で、摘み39を掴んで前方にスライド操作し、設定長さのバンド部1をヘッド部2から押出す(図6参照)。このとき摘み39は押出し位置kからすぐに戻り位置mに戻しておく。そして、図12に示すように、その状態で先端保持部5を結束予定対象となるハーネス部分nに近付けるとともに、突出しているバンド部1をその結束予定ハーネス部分nに巻付けてから、バンド先端部1tをヘッド部2のバンド挿通孔105に再挿入する。
【0083】
それから、図13に示すように、工具ボディ6先端の突片8を結束工具用治具Jの凹入部69に挿入して位置決めしてから、待機位置Tにある操作レバー18を共握りによって引締め位置Hに上昇揺動して、工具ボディ6内部に存在するバンド部1を引張って引締める操作を1回又は複数回繰り返し、結束予定箇所nを所定の結束圧となるように引締める。尚、突片8の凹入部69への挿入時には、その内奥端である設定箇所9に当て付けても当て付けなくてもどちらでも良い。つまり、結束予定箇所nに対応させて支持基板10に配設される結束工具用治具Jを用意し、結束引締め具Aを作動させての結束工程に先立って、結束工具用治具Jに装備される位置決め部62に結束引締め具Aの突片8がセットされるように、結束引締め具Aを結束工具用治具Jに対して移動させる位置決め工程を行なうのである。
【0084】
操作レバー18の上昇揺動操作によって結束圧が設定値になると、前述のように操作レバー18の引締め位置Hより更なる上昇揺動が可能となり、それによってバンド部1が切断される。バンド部1が切断されたら、図14に示すように、結束引締具A全体を持上げることにより、結束工具用治具Jの揺動式ストッパ60である上壁65が押されて退避揺動し、迂回させることなく結束引締め具Aを結束工具用治具Jから抜き出し移動させることができる。このようにして、1サイクルの結束引締め具を用いた作業が完了する。
【0085】
このクランプ付ヘッド部2を、即ちクランプ付結束バンドVを用いる場合には、図14に示すように、結束された状態ではワイヤハーネスWからクランプ部4が突設された状態になるため、結束作業後に結束引締め具Aを引離し移動する際は、まずはクランプ部4の突設方向(図14においては上方)に結束引締め具Aを移動させる必要がある。そこで、結束工具用治具Jを、結束引締め具Aに関する前後方向の移動によって突片8の挿抜が為される凹入部69と、結束後におけるクランプ部4の突設方向に合致する開閉自在な上壁65とを有する構成としてあるので、ワイヤハーネスWの長手方向に対する位置決め精度に優れる状態にクランプ付結束バンドVを装備できながら、クランプ部4と干渉せず、従ってクランプ部4の位置ずれを招くことがないように結束引締め具Aを引離し移動できる、という優れた効果が得られる。
【0086】
そして、工具ボディ6を、その先端部6bをボディ本体6Aに対して下方に屈曲させてある形状に起因して次のような利点がある。図1,2は、作業台91に搭載される支持基板10にハーネススタンド11を介して横臥配設されているワイヤハーネスWを多数箇所で結束する場合を示している。詳しくは、前後中間に配されているハーネス部分w2を結束バンドVで結束する場合である。結束引締め具Aは、その握り部6aを手指で握って支持されており、先端部6bが下方に曲げられて先端保持部5が握り部6aに対して下方に離れ、かつ、ヘッド部2を挿入して保持するための凹入孔部56の向きが握り部6aに対して90度異なる下向きに設定されているので、ボディ本体6Aは手前のハーネス部分を跨いで干渉することなく上方に離れて位置するようになり、工具ボディ6が全体としてほぼ水平となる姿勢で、換言すれば手首や腕に無理の掛からない楽な姿勢で結束引き締め作業が行なえるようになっている。
【0087】
また、本結束引締め具Aにおけるバンド部1の引締め及び切断の結束操作は、工具ボディ6を支持すべく握り部6aを握る手指によって共握りされる操作レバー18によって行なわれるから、要するに、片腕のみの操作で、しかも操作レバー18を1回又は複数回握り込み操作するという握り部6aを握ったままの状態で行なえるから、両手を使うとか手指の握り位置の変更を伴うといった面倒な或いは煩わしい操作が不要になり、簡単で便利に操作できる利点がある。
【0088】
加えて、結束引締め具Aの使い方には、次のような使い方が可能である。図22に示すように、ボディ先端部6bが下となる状態でボディ本体6Aが上下向きで、かつ、先端保持部5が手前側(作業者側)に向く縦向き姿勢で工具ボディ6を握って結束作業する使い方である(第1別使用法)。この第1別使用法は、図22に示すように、結束予定箇所nの向こう側において横にクランプ部4を向けた状態で結束するような場合や、或いは結束予定箇所nの手前近傍と上方との2箇所に別のハーネス部分が存在していて、向こう側からしか結束作業できないような状況において有効である。この場合は図28に示す第2別構造の結束工具用治具Jを用いれば、結束後におけるクランプ部4の突設方向に結束引締め具Aを引離し移動できて好都合である。
【0089】
図23に示すように、ボディ先端部6bが下となる状態でボディ本体6Aが上下向きで、かつ、先端保持部5が向う側(反作業者側)に向く縦向き姿勢で工具ボディ6を握って結束作業する使い方である(第2別使用法)。この第2別使用法は、図23に示すように、結束予定箇所nの手前側において横にクランプ部4を向けた状態で結束するような場合や、或いは結束予定箇所nの向う側近傍と上方との2箇所に別のハーネス部分が存在していて、手前側からしか結束作業できないような状況において有効である。この場合も図28に示す第2別構造の結束工具用治具Jを用いれば、結束後におけるクランプ部4の突設方向に結束引締め具Aを引離し移動できて好都合である。
【0090】
図24に示すように、ボディ本体6Aが横向きで、かつ、先端保持部5が上向きとなる横向き姿勢で工具ボディ6を握って結束作業する使い方である(第3別使用法)。この第3別使用法は、図24に示すように、結束予定箇所nの下側において下にクランプ部4を向けた状態で結束するような場合や、或いは結束予定箇所nの向う側及び手前側の双方の近傍と上方との3箇所に別のハーネス部分が存在していて、下方側からしか結束作業できないような状況において有効である。図24においては、図27に示す第1別構造の結束工具用治具Jを用いており、結束後にはワイヤハーネスWを一旦持上げるように結束引締め具Aを上昇移動させて結束工具用治具Jから引離し移動させる。尚、図示は省略するが、略J字形状に屈曲された取付部を用いて位置決め部が吊設される構造の結束工具用治具を用いれば、突片8の下方移動による位置決め部からの外部移動が可能となり、ワイヤハーネスWを一旦持上げることなく結束引締め具Aを引離し移動することができる。
【0091】
つまり、先端保持部5を有するボディ先端部6bの曲げ形成に伴うボディ本体6Aに対する変位量(図24における符号D)は比較的少ない目の寸法に設定されており、工具ボディ6全体としての上下方向寸法は小さいものであるから、支持基板10上において横臥配設されているワイヤハーネスWの結束において、上述のように、前後上下のどの方向(四方向)からも結束引締め具Aを位置させての引締め及び結束作業が可能であり、使い勝ってが向上する使い易く、汎用性にも富むものとなっている。また、本結束引締め具は、前述の四方向の使用形態に限られるものではなく、斜め上から、或いは斜め下からの姿勢で使用することも自在であり、360度のあらゆる角度の姿勢で無理なく用いることができる利点を有している。
【0092】
〔別実施例〕
結束工具用治具Jは、例えば、工具ボディ6の先端部6bそのものを受け止める上向きコ字状形状を呈する位置決め部を有したものでも良く、この場合には、先端部6bが「特定部8」に相当する。また、可動壁65を持つ凹入部69を有する位置決め部62が結束工具Aに、かつ、突片8が結束工具用治具Jにそれぞれ装備される構成とすることも可能である。この場合は、突片8に比べて構造の複雑な位置決め部62は結束工具にのみ設ければ良く、多数の結束工具用冶具Jに設ける手段に比べて、経済的に有利になる利点がある。このように、結束工具用治具J、並びに特定部8は前述の構成に限られるものではなく、種々の変更構造が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】結束引締め具の側面図
【図2】結束引締め具による結束作業状態の一例を示す斜視図
【図3】結束引締め具の概略の内部構造を示す一部分解の斜視図
【図4】引締め機構と押出し機構等の要部の構造を示す拡大斜視図
【図5】押出し機構の操作開始直後の状態を示す要部の側面図
【図6】押出し機構の操作終了状態を示す要部の側面図
【図7】工具ボディ内部の構造を示す一部分解の斜視図
【図8】引締め作動の途中状態を示す引締め機構等の要部の作用図
【図9】引締め作動の終了状態を示す引締め機構等の要部の作用図
【図10】引締め終了に伴う切断機構の作動状態を示す作用図
【図11】切断機構の構造を示す要部の拡大斜視図
【図12】バンド部をワイヤハーネスに巻いてヘッド部に通した状態を示す斜視図
【図13】治具による位置決め状態でバンド部が引締められた状態を示す斜視図
【図14】バンド部を切断して結束引締め具を治具から抜出した状態を示す斜視図
【図15】結束バンドを用いたワイヤハーネスの実装例を示す要部の斜視図
【図16】図15に示す実装状態における結束バンドの断面図
【図17】ヘッド部単品の形状を示す(a)正面図、(b)側面図
【図18】先端保持部の構造を示す分解斜視図
【図19】先端保持部の凹入孔部とヘッド部を示す斜視図
【図20】操作レバー基端部の断面図
【図21】ワンウェイクラッチの構造を示す複合回転体の分解斜視図
【図22】結束引締め具の第1別使用法を示す要部の側面図
【図23】結束引締め具の第2別使用法を示す要部の側面図
【図24】結束引締め具の第3別使用法を示す要部の側面図
【図25】結束工具用治具の側面図
【図26】図25の結束工具用治具の構造を示す分解斜視図
【図27】第1別構造の結束工具用治具の構造を示す分解斜視図
【図28】第2別構造の結束工具用治具の構造を示す分解斜視図
【符号の説明】
【0094】
4 クランプ部
5 結束作用部
8 特定部、突片
10 支持部材
10a 支持面
61 取付部
62 位置決め部
63 位置調節機構
65 可動壁
69 凹入部
102 装着対象
n 結束予定箇所
r 電線
A 結束工具
J 結束工具用治具
V 結束バンド
W 結束対象

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持部材の支持面に対して宙に浮いた状態に配策される結束対象における結束予定箇所に対応する状態で前記支持部材に結束工具用治具を配設し、前記結束対象に結束バンドを巻付けて結束するための結束工具に前記結束工具用治具の位置決め部と対を為す特定部を設け、前記特定部が前記位置決め部にセットされるように前記結束工具を前記結束工具用治具に対して移動した状態では、前記結束工具の結束作用部が前記結束予定箇所に対応した位置に配備されるように構成されている結束工具の結束位置決め構造。
【請求項2】
前記結束工具用治具に、これを前記支持部材に固定するための取付部が設けられるとともに、前記位置決め部の前記支持面からの距離を可変設定すべく前記位置決め部と前記取付部との間隔を調節設定する位置調節機構が装備されている請求項1に記載の結束工具の結束位置決め構造。
【請求項3】
前記位置決め部は、結束工具から突設される前記特定部である突片を挿抜自在な奥止まり状の凹入部を有するとともに、前記凹入部を形成する側壁のうちの一つの側壁が、閉じ位置に復帰付勢される状態で開閉可能な可動壁に構成されており、前記凹入部に挿入されている状態の前記突片で前記可動壁を強制開き揺動させることにより、前記突片をこれの挿抜方向とは異なる方向に抜出し移動可能に構成されている請求項1又は2に記載の結束工具の結束位置決め構造。
【請求項4】
前記結束対象が複数の電線群で成るワイヤハーネスであり、前記特定部が前記位置決め部にセットされた状態では、少なくとも結束予定箇所における前記ワイヤハーネスの長手方向に沿う前後方向に前記特定部の位置が定まるものに構成されている請求項1〜3の何れか一項に記載の結束工具の結束位置決め構造。
【請求項5】
前記結束対象が複数の電線群で成るワイヤハーネスであり、かつ、前記結束バンドが、前記ワイヤハーネスをこれの装着対象に装着するためのクランプ部が装備されたクランプ付結束バンドであり、前記可動壁は、前記凹入部における前記ワイヤハーネスの長手方向に沿う方向とは異なる方向の壁として形成されている請求項3に記載の結束工具の結束位置決め構造。
【請求項6】
支持部材の支持面に対して宙に浮いた状態に配策される結束対象が用意され、この結束対象における結束予定箇所に結束バンドを巻回して結束する結束作業が結束工具を用いて行なわれる結束工具の結束位置決め方法であって、
前記結束予定箇所に対応させて前記支持部材に配設される結束工具用治具を用意し、前記結束工具を作動させての結束工程に先立って、前記結束工具用治具に装備される位置決め部に前記結束工具の特定部がセットされるように、前記結束工具を前記結束工具用治具に対して移動させる位置決め工程を行なう結束工具の結束位置決め方法。
【請求項7】
前記結束工具用治具に、これを前記支持部材に固定するための取付部ろ前記位置決め部との間隔を調節設定できる位置調節機構を設けておき、前記結束予定箇所の前記支持部材からの距離変更には、前記位置調節機構を操作することで対処する請求項6に記載の結束工具の結束位置決め方法。
【請求項8】
前記位置決め部は、結束工具から突設される前記特定部である突片を挿抜自在な奥止まり状の凹入部を有するとともに、前記凹入部を形成する側壁のうちの一つの側壁を、閉じ位置に復帰付勢される状態で開閉可能な可動壁に構成しておき、前記凹入部に挿入されている状態の前記突片で前記可動壁を強制開き揺動させて、前記突片をこれの挿抜方向とは異なる方向に抜出し移動する請求項6又は7に記載の結束工具の結束位置決め方法。
【請求項9】
前記結束対象が複数の電線群で成るワイヤハーネスであり、前記特定部が前記位置決め部にセットされることにより、少なくとも結束予定箇所における前記ワイヤハーネスの長手方向に沿う前後方向に前記結束工具の位置を定める請求項6〜8の何れか一項に記載の結束工具の結束位置決め方法。
【請求項10】
前記結束対象として、複数の電線群で成るワイヤハーネスを用い、かつ、前記結束バンドとして、前記ワイヤハーネスをこれの装着対象に装着するためのクランプ部が装備されたクランプ付結束バンドを用いるとともに、前記可動壁を、前記凹入部における前記ワイヤハーネスの長手方向に沿う方向とは異なる方向の壁に形成しておくことにより、前記突片を前記クランプ部の突設方向に沿って移動させることで前記可動壁を押し開いて前記凹入部から抜出す請求項8に記載の結束工具の結束位置決め方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate


【公開番号】特開2006−248570(P2006−248570A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−67227(P2005−67227)
【出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(000108524)ヘラマンタイトン株式会社 (57)
【Fターム(参考)】