説明

結着剤および非水電解質二次電池

【課題】電池温度の上昇を抑制することができる非水電解質二次電池およびそれに用いる結着剤を提供すること。
【解決手段】 下記式(1)に示す、フッ化炭化水素種ユニットとオキシメチレンユニットとを有する共重合体からなる非水電解質二次電池用結着剤。
【化1】


[上記式(1)においてRは2価フッ化炭化水素基であり、mは90〜20,000、nは30〜20,000の整数である]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池の温度上昇を抑制できる非水電解質二次電池およびそれに用いる結着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノートパソコン、PDA等の移動情報端末の小型・軽量化が急速に進展しており、その駆動電源としての電池にはさらなる高容量化が要求されている。リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、高いエネルギー密度を有し、高容量であるので、上記のような移動情報端末の駆動電源として広く利用されている。
【0003】
このような非水電解質二次電池は、通常、正極活物質としてリチウム含有遷移金属複合酸化物を含む正極と、負極活物質として炭素材料を含む負極とともに、非水溶媒にリチウム塩を溶解した非水電解質と、が用いられている。このような電池では、充・放電に伴い、リチウムイオンが正・負極間を移動するものの、リチウムが金属状態で存在しないため、樹枝状(デンドライト状)リチウムに起因する内部短絡が生じない。従って、安全性に優れる。
【0004】
ところで、上記正極および負極には、それぞれの電極活物質を固定するための結着剤が含まれており、たとえば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等を主成分としたフッ化炭化水素系ポリマーは高い電池特性が得られるものとして使用されている(特許文献1〜3)。
【特許文献1】特開平7−296815号公報
【特許文献2】特開平10−172573号公報
【特許文献3】特開2004−146253号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、リチウムイオン二次電池は外部からの衝撃等により損傷があると、損傷部において短絡によるジュール熱が発生し、電池温度が上昇する。また、非水系電解液二次電池において過充電を行うと、過充電状態の進行に伴って、正極ではリチウムの過剰な放出が起き、一方、負極ではリチウムの過剰な吸蔵が起きる。正極、負極は、いずれも熱的に不安定な状態におかれ、電解液の分解及び急激な発熱を引き起こし、それにより電池温度が上昇する事態も起こり得る。
【0006】
このような電池温度が上昇した状況下では、セパレータによるシャットダウン機能などの安全機構により電流は遮断されるが、上述したように電極に結着剤としてポリフッ化ビニリデンを用いると、このポリフッ化ビニリデンに含まれるフッ素と、負極に吸蔵されたリチウムとの発熱反応が生じ、電池温度がさらに上昇してしまうという問題があった。
【0007】
そこで本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、電池温度の上昇を抑制することができる結着剤および非水電解質二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、結着剤ポリマーの分子鎖中に連鎖分解性の構造を導入することで、ショート時に電極中への熱の伝達を遮断する部位を形成でき、電池の発煙や発火に至る熱暴走を抑制することが出来ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の結着剤は下記式(1)に示す、フッ化炭化水素種ユニットとオキシメチレンユニットとを有する共重合体からなることを特徴とする。
【0010】
【化4】

【0011】
[上記式(1)においてRは2価フッ化炭化水素基であり、mは90〜20,000、nは30〜20,000の整数である]
【0012】
また、本発明の非水電解質二次電池は、正極および負極と共に非水電解質を備えた非水電解質二次電池であって、
前記正極は正極集電体と該正極集電体に設けられた正極活物質層とを有し、
前記負極は負極集電体と該負極集電体に設けられた負極活物質層とを有し、
前記正極活物質層および負極活物質層のうち少なくとも一方に、下記式(1)に示す、フッ化炭化水素種ユニットとオキシメチレンユニットとを有する共重合体からなる結着剤を含むことを特徴とするものである。
【0013】
【化5】

【0014】
[上記式(1)においてRは2価フッ化炭化水素基であり、mは90〜20,000、nは30〜20,000の整数である]
【発明の効果】
【0015】
オキシメチレン重合体はモノマーを生成しながら不可逆的に熱分解する性質を有するため、本発明の非水電解質二次電池によれば、結着剤を構成する重合体分子鎖が短く分断され、かつ、分子間の絡み合いも減少することから、結着剤はその機能を保持できなくなり、熱や電子の伝達を阻害するようになる。その結果、外部で熱が発生しても電極中への熱の伝達が遮断され、電池の温度上昇が抑制される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
≪第1の二次電池≫
図1は本発明の実施の形態に係る二次電池の断面構造を表すものである。この二次電池はいわゆる円筒型といわれるものであり、ほぼ中空円柱状の電池缶21の内部に、帯状の負極10と帯状の正極31とがセパレータ32を介して積層し巻回された巻回電極体30を有している。電池缶21は、例えばニッケルのめっきがされた鉄により構成されており、一端部が閉鎖され他端部が開放されている。電池缶21の内部には、液状の電解質である電解液が注入され、セパレータ32に含浸されている。また、巻回電極体30を挟むように巻回周面に対して垂直に一対の絶縁板22、23がそれぞれ配置されている。
【0018】
電池缶21の開放端部には、電池蓋24と、この電池蓋24の内側に設けられた安全弁機構25および熱感抵抗素子(Positive Temperature Coefficient;PTC素子)26とが、ガスケット27を介してかしめられることにより取り付けられており、電池缶21の内部は密閉されている。電池蓋24は、例えば、電池缶21と同様の材料により構成されている。安全弁機構25は、熱感抵抗素子26を介して電池蓋24と電気的に接続されており、内部短絡または外部からの加熱などにより電池の内圧が一定以上となった場合にディスク板25Aが反転して電池蓋24と巻回電極体30との電気的接続を切断するようになっている。熱感抵抗素子26は、温度が上昇すると抵抗値の増大により電流を制限し、大電流による異常な発熱を防止するものである。ガスケット27は、例えば、絶縁材料により構成されており、表面にはアスファルトが塗布されている。
【0019】
巻回電極体30は、例えば、センターピン33を中心に巻回されている。巻回電極体30の正極31にはアルミニウムなどよりなる正極リード34が接続されており、負極10にはニッケルなどよりなる負極リード35が接続されている。正極リード34は安全弁機構25に溶接されることにより電池蓋24と電気的に接続されており、負極リード35は電池缶21に溶接され電気的に接続されている。
【0020】
<負極>
図2は図1に示した巻回電極体30の一部を拡大して表すものである。図2に示すように、負極10は、例えば、一対の対向面を有する負極集電体11と、負極集電体11の両面に設けられた負極活物質層12とを有している。なお、図示しないが、負極集電体11の片面に負極活物質層12を設けるようにしてもよい。
【0021】
負極集電体11は、良好な電気化学的安定性、電気伝導性および機械的強度を有することが好ましく、銅、ニッケルまたはステンレスなどの金属材料により構成されている。特に、銅は高い電気伝導性を有するので好ましい。
【0022】
負極活物質層12は、例えば、負極活物質として、リチウムなどを吸蔵および放出することが可能な負極材料のいずれか1種または2種以上を含んでいる。さらに、後述する結着剤を含む。リチウムなどを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、炭素材料、金属酸化物および高分子材料などが挙げられる。炭素材料としては、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、黒鉛類、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物焼成体、活性炭およびカーボンブラックなどの炭素材料のいずれか1種または2種以上を用いることができる。このうち、コークス類には、ピッチコークス、ニードルコークスおよび石油コークスなどがあり、有機高分子化合物焼成体というのは、フェノール樹脂やフラン樹脂などの高分子化合物を適当な温度で焼成して炭素化したものをいう。また、金属酸化物としては、酸化スズなどが挙げられ、高分子材料としては、ポリアセチレンおよびポリピロールなどが挙げられる。
【0023】
リチウムなどを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、また、リチウムなどを吸蔵および放出することが可能であり、金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を構成元素として含む材料も挙げられる。このような材料を用いれば、高いエネルギー密度を得ることができるからである。この負極材料は金属元素または半金属元素の単体でも合金でも化合物でもよく、またこれらの1種または2種以上の相を少なくとも一部に有するようなものでもよい。なお、本発明において、合金には2種以上の金属元素からなるものに加えて、1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とを含むものも含める。また、非金属元素を含んでいてもよい。その組織には固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物およびそれらのうちの2種以上が共存するものがある。
【0024】
この負極材料を構成する金属元素または半金属元素としては、マグネシウム(Mg)、ホウ素(B)、アルミニウム、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、パラジウム(Pd)および白金(Pt)が挙げられる。これらは結晶質のものでもアモルファスのものでもよい。
【0025】
中でも、この負極材料としては、短周期型周期表における4B族の金属元素または半金属元素を構成元素として含むものが好ましく、特に好ましいのはケイ素およびスズの少なくとも一方を構成元素として含むものである。ケイ素およびスズは、リチウムを吸蔵および放出する能力が大きく、高いエネルギー密度を得ることができるからである。
【0026】
スズの合金としては、例えば、スズ以外の第2の構成元素として、ケイ素、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン(Ti)、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモン(Sb)、およびクロム(Cr)からなる群のうちの少なくとも1種を含むものが挙げられる。ケイ素の合金としては、例えば、ケイ素以外の第2の構成元素として、スズ、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモンおよびクロムからなる群のうちの少なくとも1種を含むものが挙げられる。
【0027】
スズの化合物またはケイ素の化合物としては、例えば、酸素(O)または炭素(C)を含むものが挙げられ、スズまたはケイ素に加えて、上述した第2の構成元素を含んでいてもよい。
【0028】
<正極>
図2に示すように、正極31は、例えば、対向する一対の面を有する正極集電体31Aの両面または片面に正極活物質層31Bが設けられた構造を有している。正極集電体31Aは、例えば、アルミニウム箔などの金属箔により構成されている。正極活物質層31Bは、例えば、正極活物質として、電極反応物質であるリチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料のいずれか1種または2種以上を含んでおり、さらに後述する結着剤を含む。また、必要に応じて人造黒鉛またはカーボンブラックなどの導電剤を含んでいてもよい。
【0029】
リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、TiS、MoS、NbSeおよびVなどのリチウムを含有しない金属硫化物または金属酸化物などや、化学式がLix M1O(M1は1種以上の遷移金属を表す。xは電池の充放電状態によって異なり、一般に0.05≦x≦1.10である。)で表される化合物を主体とするリチウム複合酸化物、または特定のポリマーなどが挙げられる。正極材料は、1種類を単独で用いてもよいが、2種以上を混合して用いてもよい。
【0030】
中でも、化学式Lix M1Oにおいて、遷移金属M1としてコバルト、ニッケルおよびマンガンからなる群のうちの少なくとも1種を含むリチウム複合酸化物が好ましい。具体的には、LiCoO、LiNiO、LiNiy Co1-y (yの値は0<y<1である。)、LiNis Cot Mnu (s、tおよびuの値は、0<s<1、0<t<1、0<u<1、s+t+u=1である。)およびLiMnなどのリチウムマンガン複合酸化物などが挙げられる。これらリチウム複合酸化物は、高電圧および高エネルギー密度を得ることができるからである。
【0031】
<結着剤>
本発明の非水電解質二次電池における負極活物質層12および正極活物質層31Bは結着剤を含んでおり、少なくとも一方は、下記式(1)に示す、フッ化炭化水素種ユニットとオキシメチレンユニットとを有する共重合体からなる結着剤を含む。オキシメチレン鎖はモノマーを生成しながら熱分解する、いわゆるジッパー型分解を起こす性質を有するため、分解が起こると結着剤の主機能を担保するフッ化炭化水素種ユニット同士が分断され、熱や電子の伝達を阻害することが可能となる。また、本発明のようなオキシメチレンユニットとの共重合体とすることで、フッ化炭化水素種の単独重合体よりも重合体中のフッ素含有量が少なくなり、負極活物質に吸蔵されたリチウムなどと結着剤中のフッ素との発熱反応による電池温度の上昇が抑制されるようにもなっている。なお、発熱反応は主に負極において発生するため、上記共重合体は負極活物質層中に含まれていることが好ましい。また、結着剤の含有量は電極活物質層の固形分に対し1〜10質量%であることが好ましい。
【0032】
【化6】

【0033】
上記式(1)において、mはフッ化炭化水素種ユニットの繰り返し数であり、範囲が90〜20,000、好ましくは200〜4,500の整数である。nはオキシメチレンユニットの繰り返し数であり、範囲が30〜20,000、好ましくは500〜1,500の整数である。mが90〜20,000であればフッ化水素種ブロックとフッ化水素種ホモポリマーの特性の差異が小さく、nが200〜4,500であればフッ化水素種ブロックの特性を損なわせず、かつ、オキシメチレンブロックの硬化も現れる分子量であるため好ましい。また、m:n=1:1〜3:1であることがさらに好ましい。
【0034】
また、上記式(1)において、Rは2価フッ化炭化水素基であり、好ましくは2価フッ化アルキル基である。Rの炭素数は2〜6、好ましくは2〜4であり、直鎖状でも分岐状でもよい。また、R基中の水素は一部がフッ素化されていても全部がフッ素化されていてもよい。Rを生成するフッ化炭化水素種としては、例えばビニル誘導体の水素基の少なくとも一つをフッ素基に置換した化合物が挙げられ、具体的にはエチレンフルオライド(CH=CFH)、フッ化ビニリデン(CH=CF)、トリフルオロエチレン(CFH=CF)、テトラフルオロエチレン(CF=CF)、ヘキサフルオロプロピレン(CF−CF=CF)、3、3、3−トリフルオロプロピレン(CF−CH=CH)などが挙げられる。なかでも、フッ化ビニリデンが好ましい。可溶性、電気特性が最適であるからである。また、フッ化ビニリデンと他のフッ化炭化水素種を2種以上組合せて用いてもよく、その場合、他のフッ化炭化水素種の含有量は前記共重合体中において5〜20mol%であることが好ましい。
【0035】
また、オキシメチレンユニットの含有量は前記共重合体中において好ましくは10〜50mol%、より好ましくは20〜40mol%の範囲である。含有量を上記範囲とすることでフッ化水素種ブロックの特性が損なわれにくく、オキシメチレンブロックの効果も明確に現れるためである。
【0036】
上記共重合体において、フッ化炭化水素種ユニットとオキシメチレンユニットの並びは、ランダム状、交互、ブロック状などが挙げられ、なかでもフッ化炭化水素種ブロックとオキシメチレンブロックを重合したブロック共重合体であることが好ましい。オキシメチレンブロック切断効果が大きいためである。ブロック体としては、直鎖状のブロック共重合体でも、グラフト状のブロック共重合体でもどちらでも良く、オキシメチレンブロックが分解して、重合体の分子鎖を短くなる効果のために、直鎖状が好ましい。また、ブロック共重合体の場合、フッ化炭化水素種ブロックとオキシメチレンブロックの1:1で構成される1ブロック重合体でもよく、多数のブロックを有する多ブロック重合体でもよい。フッ化炭化水素種ブロックの分子量は20,000〜250,000であることが好ましく、オキシメチレンブロックの分子量は15,000〜50,000であることが好ましい。
【0037】
上記共重合体の分子量は、重量平均分子量で1〜100万が好ましく、10万〜50万がより好ましい。重量平均分子量が1〜100万であれば活物質を被覆したときにLiの放出・吸蔵を妨げにくいためである。また、10万〜50万であれば、被覆の悪影響も少なく、溶液粘度も最適であるため加工に適するため好ましい。
【0038】
上記共重合体はまた、オキシメチレン鎖の熱分解を阻害しない限度において、オキシメチレンを除くアルキレンオキサイドユニット(以下、他のアルキレンオキサイドユニットとも言う。)をさらに有してもよい。これにより、粘性、分子鎖の柔軟性、可溶性などを付与することが可能である。他のアルキレンオキサイドユニットを作るモノマーとしては、重合後、下記式(2)〜(4)に示すユニットを作る化合物が挙げられる。
【0039】
【化7】

【0040】
上記式(3)において、pは1〜2の整数である。上記式(4)において、R1、R2はそれぞれ独立して炭素数1〜3の炭化水素基であり、好ましくはメチル基である。
【0041】
具体的には、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドなどのエポキシ類、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類が挙げられる。また、これらの炭化水素基の少なくとも1つの水素基をフッ素基に置換したものも使用できる。上記他のアルキレンオキサイドユニットの含有量は、オキシメチレンブロックに対し0〜5mol%であることが好ましい。上記範囲内であれば、オキシメチレン鎖を安定にさせる効果を最小限にし、オキシメチレン鎖の分解性を損なわせることもない。
【0042】
上記共重合体は、公知の手法を用いて合成することが可能である。例えば、リビングアニオン重合やリビングカチオン重合、原子移動ラジカル重合法(ATRP)などのリビング重合でフッ化炭化水素オリゴマーもしくはポリマーを合成した後にホルムアルデヒドやトリオキサン(トリオキシメチレン)などの重合を行わせる方法などが挙げられる。この場合はフッ化炭化水素種ブロックとオキシメチレンブロックが1:1で重合した1ブロック共重合体が得られる。多ブロック重合体にするには、例えば、オリゴマー同士を反応させ、1つのポリマー分子鎖中にそれぞれのブロックを多数交互に組み込む方法が挙げられる。
【0043】
また、フッ化炭化水素ユニットやオキシメチレンユニット、他のアルキレンオキサイドユニット以外の構造を作るコモノマーとして、結着性を向上させるための官能基をさらに導入しても良い。例えば、アクリル酸、メタクリル酸などのアクリル酸構造を含むモノカルボン酸類およびその誘導体(アルキルエステルなど)、マレイン酸などのジカルボン酸類およびその誘導体(酸無水物、モノエステル、ジエステルなど)が挙げられる。これらのコモノマーを共重合体中へ導入する方法としては、重合時にモノマーとして加える方法と、ブロック体を合成して付加させる方法のどちらの手法を使用してもよい。
【0044】
結着剤は、上記共重合体の他に、ポリフッ化ビニリデン、SBR等の他の各種重合体をさらに含有していてもよい。また、重合体は単独重合体でも共重合体でもよい。
【0045】
<セパレータ>
セパレータ32は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンまたはポリエチレンなどの合成樹脂製の多孔質膜、またはセラミック製の多孔質膜により構成されており、これら2種以上の多孔質膜を積層した構造とされていてもよい。中でも、ポリオレフィン製の多孔質膜はショート防止効果に優れ、かつシャットダウン効果による電池の安全性向上を図ることができるので好ましい。特に、ポリエチレンは、100℃以上160℃以下の範囲内においてシャットダウン効果を得ることができ、かつ電気化学的安定性にも優れているので、セパレータ24を構成する材料として好ましい。また、ポリプロピレンも好ましく、他にも化学的安定性を備えた樹脂であればポリエチレン若しくはポリプロピレンと共重合させたり、またはブレンド化させたりすることで用いることができる。
【0046】
<電解質>
セパレータ32には、液状の電解質である電解液が含浸されている。この電解液は、例えば溶媒と、この溶媒に溶解された電解質塩とを含んでいる。
【0047】
溶媒としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、1、3−ジオキソール−2−オン、γ−ブチロラクトン、スルホラン、メチルスルホラン、炭酸ジエチル、炭酸ジメチルおよび炭酸エチルメチルなどが挙げられる。溶媒には、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0048】
電解質塩には、例えば、LiClO、LiAsF、LiPF、LiBF、LiB(C、CHSOLi、CFSOLi、LiClまたはLiBrが用いられる。これらは単独で使用してもよく、複数種を混合して用いてもよい。
【0049】
<製造方法>
この第1の二次電池は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0050】
まず、負極10は、例えば、負極材料と、結着剤とを混合して負極合剤を調製し、N−メチル−2−ピロリドンなどの溶剤に分散させて負極合剤スラリーを作製する。次いで、この負極合剤スラリーを負極集電体22Aに塗布し、乾燥させて溶剤を除去したのち、ロールプレス機などにより圧縮成型して負極活物質層12を形成する。これにより、負極10が得られる。
【0051】
次いで、例えば、正極材料、結着剤、および必要に応じて導電剤とを混合して正極合剤を調製し、この正極合剤をN−メチル−2−ピロリドンなどの溶剤に分散させて正極合剤スラリーを作製する。次いで、この正極合剤スラリーを正極集電体31Aに塗布し乾燥させ、圧縮成型することにより正極活物質層31Bを形成し、正極31を作製する。
【0052】
続いて、正極集電体31Aに正極リード34を溶接などにより取り付けると共に、負極集電体11に負極リード35を溶接などにより取り付ける。そののち、正極31と負極10とをセパレータ32を介して積層して巻回し、正極リード34の先端部を安全弁機構25に溶接すると共に、負極リード35の先端部を電池缶21に溶接して、巻回した正極31および負極10を一対の絶縁板22、23で挟み電池缶21の内部に収納する。次いで、例えば、電解質を電池缶21の内部に注入し、セパレータ32に含浸させる。そののち、電池缶21の開口端部に電池蓋24、安全弁機構25および熱感抵抗素子26をガスケット27を介してかしめることにより固定する。これにより、図1および図2に示した二次電池が形成される。
【0053】
この二次電池では、充電を行うと、正極活物質層31Bからリチウムイオンが放出され、セパレータ32に含浸された電解質を介して、負極活物質層12に吸蔵される。次いで、放電を行うと、負極活物質層12からリチウムイオンが放出され、セパレータ32に含浸された電解質を介して、正極活物質層31Bに吸蔵される。
【0054】
≪第2の二次電池≫
図3は、第2の二次電池の構成を表すものである。この二次電池は、正極リード41および負極リード42が取り付けられた巻回電極体40をフィルム状の外装部材50の内部に収容したものであり、小型化、軽量化および薄型化が可能となっている。
【0055】
正極リード41、負極リード42は、それぞれ、外装部材50の内部から外部に向かい例えば同一方向に導出されている。正極リード41および負極リード42は、例えば、アルミニウム、銅、ニッケルまたはステンレスなどの金属材料によりそれぞれ構成されており、それぞれ薄板状または網目状とされている。
【0056】
外装部材50は、例えば、ナイロンフィルム、アルミニウム箔およびポリエチレンフィルムをこの順に貼り合わせた矩形状のアルミラミネートフィルムにより構成されている。外装部材50は、例えば、ポリエチレンフィルム側と巻回電極体40とが対向するように配設されており、各外縁部が融着または接着剤により互いに密着されている。外装部材50と正極リード41および負極リード42との間には、外気の侵入を防止するための密着フィルム51が挿入されている。密着フィルム51は、正極リード41および負極リード42に対して密着性を有する材料、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレンまたは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂により構成されている。
【0057】
なお、外装部材50は、上述したアルミラミネートフィルムに代えて、他の構造を有するラミネートフィルム、ポリプロピレンなどの高分子フィルムまたは金属フィルムにより構成するようにしてもよい。
【0058】
図4は、図3に示した巻回電極体40のI−I線に沿った断面構造を表すものである。巻回電極体40は、正極31と負極10とをセパレータ44および電解質層45を介して積層し、巻回したものであり、最外周部は保護テープ46により保護されている。
【0059】
正極31は、正極集電体31Aの片面または両面に正極活物質層31Bが設けられた構造を有している。負極10は、負極集電体11の片面または両面に負極活物質層12が設けられた構造を有しており、負極活物質層12の側が正極活物質層31Bと対向するように配置されている。正極集電体31A、正極活物質層31B、およびセパレータ44の構成は、それぞれ上述した正極集電体31A、正極活物質層31B、およびセパレータ32と同様である。
【0060】
電解質層45は、電解液と、この電解液を保持する保持体となる高分子化合物とを含み、いわゆるゲル状となっている。ゲル状の電解質層45は高いイオン伝導率を得ることができると共に、電池の漏液を防止することができるので好ましい。電解液(すなわち溶媒および電解質塩など)の構成は、図1に示した円筒型の二次電池と同様である。高分子化合物は、例えばポリフッ化ビニリデンまたはフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体などのフッ素系高分子化合物、ポリエチレンオキサイドもしくはポリエチレンオキサイドを含む架橋体などのエーテル系高分子化合物、またはポリアクリロニトリルなどが挙げられる。特に、酸化還元安定性の観点からは、フッ素系高分子化合物が望ましい。なお、電解液に対する高分子化合物の添加量は両者の相溶性によっても異なるが、通常、電解液の5〜50質量%に相当する高分子化合物を添加することが好ましい。
【0061】
<製造方法>
この二次電池は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0062】
まず、正極31および負極10のそれぞれに、溶媒と、電解質塩と、高分子化合物と、混合溶剤とを含む前駆溶液を塗布し、混合溶剤を揮発させて電解質層45を形成する。そののち、正極集電体31Aの端部に正極リード41を溶接により取り付けると共に、負極集電体11の端部に負極リード42を溶接により取り付ける。次いで、電解質層45が形成された正極31と負極10とをセパレータ44を介して積層し積層体としたのち、この積層体をその長手方向に巻回して、最外周部に保護テープ46を接着して巻回電極体40を形成する。最後に、例えば、外装部材50の間に巻回電極体40を挟み込み、外装部材50の外縁部同士を熱融着などにより密着させて封入する。その際、正極リード41および負極リード42と外装部材50との間には密着フィルム51を挿入する。これにより、図3および図4に示した二次電池が完成する。
【0063】
また、この二次電池は、次のようにして作製してもよい。まず、上述したようにして正極31および負極10を作製し、正極31および負極10に正極リード41および負極リード42を取り付けたのち、正極31と負極10とをセパレータ44を介して積層して巻回し、最外周部に保護テープ46を接着して、巻回電極体40の前駆体である巻回体を形成する。次いで、この巻回体を外装部材50で挟み、一辺を除く外周縁部を熱融着して袋状とし、外装部材50の内部に収納する。続いて、溶媒と、電解質塩と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを含む電解質用組成物とを用意し、外装部材50の内部に注入する。
【0064】
電解質用組成物を注入したのち、外装部材50の開口部を真空雰囲気下で熱融着して密封する。次いで、熱を加えてモノマーを重合させて高分子化合物とすることによりゲル状の電解質層45を形成し、図3に示した二次電池を組み立てる。
【0065】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は実施の形態に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、上記実施の形態では、巻回構造を有する二次電池を具体的に挙げて説明したが、本発明は、コイン型、シート型、ボタン型または角型などの外装部材を用いた他の形状を有する二次電池、または正極および負極を複数積層した積層構造を有する二次電池についても同様に適用することができる。
【0066】
また、上記実施の形態では、電極反応物質としてリチウムを用いる場合について説明したが、負極活物質と反応可能であればナトリウム(Na)またはカリウム(K)などの長周期型周期表における他の1族の元素、またはマグネシウムまたはカルシウム(Ca)などの長周期型周期表における2族の元素、またはアルミニウムなどの他の軽金属、またはリチウムまたはこれらの合金を用いる場合についても、本発明を適用することができ、同様の効果を得ることができる。その際、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な正極活物質または溶媒などは、その電極反応物質に応じて選択される。
【0067】
更に、上記実施の形態では、液状の電解質である電解液を用いる場合、または電解液を高分子化合物に保持させたゲル状の電解質を用いる場合について説明したが、これらの電解質に代えて、他の電解質を用いるようにしてもよい。他の電解質としては、例えば、イオン伝導性を有する固体電解質、固体電解質と電解液とを混合したもの、または固体電解質とゲル状の電解質とを混合したものが挙げられる。
【0068】
固体電解質には、例えば、イオン伝導性を有する高分子化合物に電解質塩を分散させた高分子固体電解質、またはイオン伝導性ガラスまたはイオン性結晶などよりなる無機固体電解質を用いることができる。このとき、高分子化合物としては、例えば、ポリエチレンオキサイドまたはポリエチレンオキサイドを含む架橋体などのエーテル系高分子化合物、ポリメタクリレートなどのエステル系高分子化合物、アクリレート系高分子化合物を単独または混合して、または分子中に共重合させて用いることができる。また、無機固体電解質としては、窒化リチウムまたはヨウ化リチウムなどを用いることができる。
【実施例1】
【0069】
更に、本発明の具体的な実施例について、詳細に説明する。
【0070】
<共重合体の合成例>
テトラヒドロフラン(THF)500 mLに開始剤ナトリウム/ナフタレンを0.1 mmol加え均一にし、その後、フッ化ビニリデン(VDF)を45 mmol添加し、室温で12時間攪拌した。その後トリオキサン(オキシメチレンの3量体)を8 mmol添加し、室温で24時間攪拌した。反応終了後、反応液をメタノールに注ぎ、固体を単離し、PVDF-POMの1ブロック重合体を得た。多ブロック重合体にするには、モノマーの添加を交互に繰り返した。
【0071】
<電池の作製>
図3および図4に示した二次電池を作製した。まず、正極31および負極10を作製した。
まず、負極活物質である粉砕した人造黒鉛の粉末と、結着剤とを混合し、溶剤であるN−メチル−2−ピロリドンに分散させて負極合剤スラリーとしたのち、銅箔よりなる負極集電体11に均一に塗布して乾燥させ、ロールプレス機で圧縮成型し、更に加熱処理して負極活物質層12を形成し、負極10を作製した。その際、黒鉛粉末と結着剤とは、黒鉛粉末:結着剤=95:5の質量比で混合した。そののち、負極集電体11の一端にニッケル製の負極リード42を取り付けた。
【0072】
また、炭酸リチウム(LiCO)と炭酸コバルト(CoCO)とを0.5:1のモル比で混合し、空気中において900℃で5時間焼成してリチウム・コバルト複合酸化物(LiCoO)を得た。このLiCoOと、導電剤である黒鉛と、結着剤とを混合し、溶剤であるN−メチル−2−ピロリドンに分散させて正極合剤スラリーとしたのち、この正極合剤スラリーを厚み20μmのアルミニウム箔よりなる正極集電体31Aに均一に塗布して乾燥させ、圧縮成型して正極活物質層31Bを形成し、正極31を作製した。その際、LiCoOと、黒鉛と、結着剤とは、LiCoO:黒鉛:結着剤=90:5:5の質量比で混合した。そののち、正極集電体31Aの一端にアルミニウム製の正極リード41を取り付けた。
【0073】
続いて、炭酸エチレン:炭酸プロピレン=5:5(体積比)の混合溶媒と、電解質塩であるLiPFと、高分子化合物であるフッ化ビニリデンおよび六フッ化プロピレンの共重合体と、混合溶剤である炭酸ジメチルとを混合し、溶解させゾル状の前駆溶液を作製した。なお、共重合体中の六フッ化プロピレン含有量は6.9mol%、LiPFの濃度は0.6mol/kgとした。
【0074】
得られた前駆溶液を正極31および負極10のそれぞれにバーコーターを用いて塗布し、混合溶剤を揮発させてゲル状の電解質層45を形成した。
【0075】
そののち、電解質層45と、それぞれ形成した正極31と負極10とを、厚み20μmのポリエチレンフィルムからなるセパレータ44を介して積層し、巻回して巻回電極体40を作製した。
【0076】
得られた巻回電極体40をアルミラミネートフィルムよりなる外装部材50に挟み込み、減圧封入することにより図3および図4に示した二次電池を作製した。
【0077】
<評価方法>
下記条件で過充電試験を行った際の初回効率(%)と、試験中のセル最高到達温度(℃)を測定した。初回効率は、1サイクル目の充電容量に対する放電容量の維持率、すなわち(1サイクル目の放電容量/1サイクル目の充電容量)×100(%)から求めた。また、セル最高到達温度測定は巻回電極体40を包む外装材50の中央部に熱電対を当てて測定し、小数点以下は切り上げた。評価方法は、セル最高到達温度が80℃以下かつ初回効率が85%以上であれば◎、セル最高到達温度が80℃以下かつ初回効率が85%未満であれば○、さらに、セル最高到達温度が80℃を超えるときは初回効率の数値によらず×とした。
・過充電試験条件
環境:23℃ 50%RH
充電:800mAh 6V 3H
【0078】
<実施例1−1〜1−3>
実施例1−1として、正極中の結着剤にフッ化ビニリデンブロック:オキシメチレンブロック=1:1のブロック共重合体を用い、負極中の結着剤にフッ化ビニリデンの単独重合体を用いた二次電池を作製した。なお、フッ化ビニリデンブロックは分子量約30,000(重量平均分子量。以下同様)、オキシメチレンブロックは分子量約7,000(重合度200〜300)のものを用いた。フッ化ビニリデンの単独重合体は分子量約35,000のものを用いた。
【0079】
また、実施例1−2として、負極中の結着剤にフッ化ビニリデンとオキシメチレンのブロック共重合体を用い、正極中の結着剤にフッ化ビニリデンの単独重合体を用いた二次電池を作製した。そして実施例1−3として、正極および負極の両極中の結着剤にフッ化ビニリデンとオキシメチレンのブロック共重合体を用いた二次電池を作製した。これら実施例1−1〜1−3の二次電池について初回効率およびセル最高到達温度の測定結果を表1に示す。
【0080】
実施例1−1〜1−3に対する比較例1−1として、正極および負極の結着剤にフッ化ビニリデンの単独重合体を用いた二次電池を作製した。この二次電池について初回効率およびセル最高到達温度の測定結果を表1に示す。
【0081】
【表1】

【0082】
表1の結果より、フッ化ビニリデンとオキシメチレンのブロック共重合体を結着剤として用いた実施例1−1〜1−3はいずれも、フッ化ビニリデンのみの単独重合体を用いた比較例1−1に比べ、電池の到達温度が低減された。また、実施例1−1と実施例1−2の対比から、正極での効果より、負極での効果の方が高いことが確認された。これは、発熱反応は主に負極で生じるためと考えられる。負極での発熱反応は主にグラファイトの燃焼反応や吸蔵リチウムとの反応によるものと考えられる。また、初回効率も十分高い値を示した。
【0083】
<実施例2−1〜2−6>
実施例2−1〜2−6として、負極中の結着剤に表2に示す各フッ化炭化水素種(分子量:約30,000)とオキシメチレン(分子量:約20,000)の1ブロック共重合体を用い、正極中の結着剤にフッ化ビニリデンの単独重合体を用いた二次電池を作製した。なお、オキシメチレンユニットの共重合体中の含有量は40mol%、ブロック共重合体全体の分子量は約50,000とした。これら実施例2−1〜2−6の二次電池について初回効率およびセル最高到達温度の測定結果を表2に示す。
【0084】
実施例2−1〜2−6に対する比較例2−1として、正極および負極の結着剤にフッ化ビニリデンの単独重合体(分子量約50,000)を用いた二次電池を作製した。この二次電池について初回効率およびセル最高到達温度の測定結果を表2に示す。
【0085】
【表2】

【0086】
表2の結果より、実施例で用いたいずれのフッ化炭化水素種を用いても、オキシメチレンの分解に影響はなく、電池の到達温度が低減された。また、初回効率も十分高い値を示した。
【0087】
<実施例3−1〜3−7>
実施例3−1〜3−7として、負極中の結着剤に、表3に示すようにオキシメチレンユニットの繰り返し数を変化させたオキシメチレンブロックと、フッ化ビニリデンブロック(分子量約15,000×2)とのブロック共重合体を用い、正極中の結着剤にフッ化ビニリデンの単独重合体を用いた二次電池を作製した。なお、ブロック共重合体は、オキシメチレンブロック1ブロックの両末端をフッ化ビニリデンブロック2ブロックで挟む構造とした。これら実施例3−1〜3−7の二次電池について初回効率およびセル最高到達温度の測定結果を表3に示す。
【0088】
実施例3−1〜3−7に対する比較例3−1として、正極および負極の結着剤にフッ化ビニリデンの単独重合体(分子量約35,000)を用いた二次電池を作製した。この二次電池について初回効率およびセル最高到達温度の測定結果を表3に示す。
【0089】
【表3】

【0090】
表3の結果より、いずれの実施例においても電池の到達温度が低減された。また、オキシメチレンユニットの繰り返し数が多いほど、ポリオキシメチレン部位が切れた場合にPVdFブロック同士が隔絶されるため、PVdFの特性が失われ、より高い効果が得られた。また、初回効率も十分高い値を示した。なかでも、繰り返し数が75〜300において、初回効率を維持しつつ電池の温度も低減でき、良好な結果が得られた。
【0091】
<実施例4−1〜4−7>
実施例4−1〜4−7として、負極中の結着剤に、フッ化ビニリデンブロック(分子量約2,500)とオキシメチレンブロック(分子量約3,000)とを用い、表4に示す各分子量となるように合成した、多ブロック共重合体を用い、正極中の結着剤にフッ化ビニリデンの単独重合体を用いた二次電池を作製した。なお、共重合体中のフッ化ビニリデンブロックとオキシメチレンブロックの合計分子量比は1:1とした。これら実施例4−1〜4−7の二次電池について初回効率およびセル最高到達温度の測定結果を表4に示す。
【0092】
実施例4−1〜4−7に対する比較例4−1として、正極および負極の結着剤にフッ化ビニリデンの単独重合体(分子量約35,000)を用いた二次電池を作製した。この二次電池について初回効率およびセル最高到達温度の測定結果を表4に示す。
【0093】
【表4】

【0094】
表4の結果より、いずれの実施例においても電池の到達温度が低減された。また、結着剤の分子量が低いと結着効果が低いため、初回効率が低下する傾向にあったが、実用的な範囲を示した。なかでも、分子量が50,000〜100,000において、初回効率を維持しつつ電池の温度も低減でき、良好な結果が得られた。
【0095】
<実施例5−1〜5−7>
実施例5−1〜5−7として、負極中の結着剤に、オキシメチレンブロック鎖の重合体中における含有量を表5に示すように変化させたオキシメチレンブロックと、フッ化ビニリデンブロックとの多ブロック共重合体を用い、正極中の結着剤にフッ化ビニリデンの単独重合体を用いた二次電池を作製した。なお、分子量約3,000のオキシメチレンブロックと、分子量約2,500のフッ化ビニリデンブロックとを適宜交互に重合させ、共重合体全体の分子量がいずれも約100,000なるようにした。これら実施例5−1〜5−7の二次電池について初回効率およびセル最高到達温度の測定結果を表5に示す。
【0096】
実施例5−1〜5−7に対する比較例5−1として、正極および負極の結着剤にフッ化ビニリデンの単独重合体(分子量約100,000)を用いた二次電池を作製した。この二次電池についての初回効率およびセル最高到達温度の測定結果を表5に示す。
【0097】
【表5】

【0098】
表5の結果より、いずれの実施例においても電池の到達温度が低減された。特に、オキシメチレン含有量が大きいほど、セル到達温度が低くなった。本試験ではオキシメチレンブロックの分子量を一定下で合成しているため、オキシメチレン含有量が大きいほどオキシメチレンブロック数が多くなる。また、オキシメチレン鎖は共重合体中で最も不安定な箇所であるため、フッ化炭化水素ブロックと結合するオキシメチレンブロックの末端部位が共重合体の切断部位となる。すなわち、オキシメチレンブロック数が増加するほど共重合体中の切断部位が増加し、結着剤としての機能が低下したものと考えられる。なお、オキシメチレンブロックの片末端または両末端から分解する場合が考えられるので、切断部位数は当該ブロック数の2倍以内であると概算される。また、結着剤としての機能はフッ化ビニリデンの方が高いため、オキシメチレン含有量が大きいほど初回効率は逆に低くなる傾向にあったが実用的な範囲に収まった。
【0099】
<実施例6−1〜6−5>
実施例6−1〜6−5として、負極中の結着剤に、表6に示す複数のフッ化炭化水素種とオキシメチレンとの多ブロック共重合体を用い、正極中の結着剤にフッ化ビニリデンの単独重合体を用いた二次電池を作製した。なお、フッ化ビニリデン以外のフッ化炭化水素種の含有量は共重合体中において5mol%とし、共重合体の分子量はいずれも約50,000とした。これら実施例6−1〜6−5の二次電池について初回効率およびセル最高到達温度の測定結果を表6に示す。
【0100】
【表6】

【0101】
表6の結果より、実施例で用いたいずれのフッ化炭化水素種を用いても、オキシメチレンの分解に影響はなく、電池の到達温度が低減された。また、初回効率も十分高い値を示した。
【0102】
<実施例7−1〜7−5>
実施例7−1として、負極中の結着剤に、フッ化ビニリデンブロック(分子量約3,000〜5,000)と、オキシメチレンブロック(分子量約3,000)との多ブロック共重合体を用い、正極中の結着剤にフッ化ビニリデンの単独重合体を用いた二次電池を作製した。実施例7−2〜7−5として、負極中の結着剤に、フッ化ビニリデン、オキシメチレン、およびさらに表7に示す、オキシメチレンを除く他のアルキレンオキサイド種との多ブロック共重合体を用い、正極中の結着剤にフッ化ビニリデンの単独重合体を用いた二次電池を作製した。共重合体中のオキシメチレンユニットの含有量は40mol%とした。さらに、他のアルキレンオキサイド種ユニットの含有量はオキシメチレンユニットの含有量に対し5mol%、すなわち共重合体中において2mol%とした。なお、共重合体の分子量はいずれも約50,000とした。これら実施例7−1〜7−5の二次電池について初回効率およびセル最高到達温度の測定結果を表7に示す。
【0103】
実施例7−1〜7−5に対する比較例7−1として、正極および負極の結着剤にフッ化ビニリデンの単独重合体(分子量約50,000)を用いた二次電池を作製した。この二次電池についての初回効率およびセル最高到達温度の測定結果を表7に示す。
【0104】
【表7】

【0105】
表7の結果より、いずれの実施例においても電池の到達温度が低減され、初回効率も実用的な範囲を示した。また、他のアルキレンオキサイド種によっては、若干温度が上昇する傾向にあったが、これはオキシメチレンのジッパー型分解が停止し易いためと考えられる。
【0106】
<実施例8−1〜8−2>
実施例8−1として、負極中の結着剤に、オキシメチレンブロック(分子量約3,000)と、フッ化ビニリデンブロック(分子量約5,000)との多ブロック共重合体(分子量約100,000)を用い、正極中の結着剤にフッ化ビニリデンの単独重合体を用いた二次電池を作製した。実施例8−2として、電解質中にフッ化ビニリデンおよび六フッ化プロピレンの共重合体を加えずに液状の電解液としたことを除き、他は実施例8−1と同様にして二次電池を作製した。これら実施例8−1〜8−2の二次電池について初回効率およびセル最高到達温度の測定結果を表8に示す。
【0107】
実施例8−1〜8−2に対する比較例8−1として、正極および負極の結着剤にフッ化ビニリデンの単独重合体(分子量約100,000)を用いた二次電池を作製した。この二次電池についての初回効率およびセル最高到達温度の測定結果を表8に示す。
【0108】
【表8】

【0109】
表8の結果より、電解質の状態に関らず、いずれの実施例においても電池の到達温度が低減され、初回効率も実用的な範囲を示した。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】本発明の一実施の形態に係る二次電池の構成を表す断面図である。
【図2】図1に示した二次電池における巻回電極体の一部を拡大して表す断面図である。
【図3】本発明の他の実施の形態に係る二次電池の構成を表す分解斜視図である。
【図4】図3に示した巻回電極体のI−I線に沿った構成を表す断面図である。
【符号の説明】
【0111】
10…負極、11…負極集電体、12…負極活物質層、21…電池缶、22、23…絶縁板、24…電池蓋、25…安全弁機構、25A…ディスク板、26…熱感抵抗素子、27…ガスケット、30、40…巻回電極体、31…正極、31A…正極集電体、31B…正極活物質層、32、44…セパレータ、33…センターピン、34、41…正極リード、35、42…負極リード、45…電解質層、46…保護テープ、50…外装部材、51…密着フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)に示す、フッ化炭化水素種ユニットとオキシメチレンユニットとを有する共重合体からなる非水電解質二次電池用結着剤。
【化1】

[上記式(1)においてRは2価フッ化炭化水素基であり、mは90〜20,000、nは30〜20,000の整数である]
【請求項2】
正極および負極と共に非水電解質を備えた非水電解質二次電池であって、
前記正極は正極集電体と該正極集電体に設けられた正極活物質層とを有し、
前記負極は負極集電体と該負極集電体に設けられた負極活物質層とを有し、
前記正極活物質層および負極活物質層のうち少なくとも一方に、下記式(1)に示す、フッ化炭化水素種ユニットとオキシメチレンユニットとを有する共重合体からなる結着剤を含むことを特徴とする非水電解質二次電池。
【化2】

[上記式(1)においてRは2価フッ化炭化水素基であり、mは90〜20,000、nは30〜20,000の整数である]
【請求項3】
前記共重合体が、フッ化炭化水素種ブロックとオキシメチレンブロックとのブロック共重合体であることを特徴とする請求項2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記フッ化炭化水素種がフッ化ビニリデンであることを特徴とする請求項2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記オキシメチレンユニットの前記共重合体における含有量が10〜50mol%であることを特徴とする請求項2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記式(1)におけるnが30〜20,000であることを特徴とする請求項2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項7】
前記共重合体の重量平均分子量が1〜100万であることを特徴とする請求項2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項8】
前記共重合体は下記式(2)〜(4)に示すユニットをさらに有することを特徴とする請求項2に記載の非水電解質二次電池。
【化3】

[上記式(3)において、pは1〜2の整数である。上記式(4)において、R1、R2はそれぞれ独立して炭素数1〜3の炭化水素基である。]

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−186785(P2008−186785A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−21475(P2007−21475)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】