給水ノズル及びその給水ノズルを用いた原子炉設備
【解決手段】
原子力発電システムの原子炉圧力容器1に付属していて、原子炉の給水系統に接続されている給水ノズル13は、給水ノズル13の内部にサーマルスリーブ14を有する二重管構造をなしている。そのサーマルスリーブ14の外面と給水ノズル内面13aとの間に形成された環状流路16のギャップδと給水ノズルの内径Diとの関係が、δ/Di≦0.03である。
【効果】
原子力発電システムにおいて、原子炉炉心熱出力の増加に際し、原子炉から発生する蒸気量を増加させずに給水温度を低下して除熱する運転法の場合、給水ノズル部で温度差の大きな炉水と給水が混合してもサーマルスリーブと給水ノズル間での環状流路内での温度変動を抑制することができ、これにより熱成層化による温度変動に起因した高サイクル熱疲労の発生を抑制することができ、その給水ノズルの構造健全性を確保することが出来る。
原子力発電システムの原子炉圧力容器1に付属していて、原子炉の給水系統に接続されている給水ノズル13は、給水ノズル13の内部にサーマルスリーブ14を有する二重管構造をなしている。そのサーマルスリーブ14の外面と給水ノズル内面13aとの間に形成された環状流路16のギャップδと給水ノズルの内径Diとの関係が、δ/Di≦0.03である。
【効果】
原子力発電システムにおいて、原子炉炉心熱出力の増加に際し、原子炉から発生する蒸気量を増加させずに給水温度を低下して除熱する運転法の場合、給水ノズル部で温度差の大きな炉水と給水が混合してもサーマルスリーブと給水ノズル間での環状流路内での温度変動を抑制することができ、これにより熱成層化による温度変動に起因した高サイクル熱疲労の発生を抑制することができ、その給水ノズルの構造健全性を確保することが出来る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部にサーマルスリーブを備えた給水ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
沸騰水型軽水炉(BWR)は核分裂性物質を含む炉心で水を沸騰させ、沸騰によって生じた蒸気を主蒸気管へ通して高圧タービン,低圧タービンへと送り、高圧タービン,低圧タービンの軸と連動した発電機で電気を発生させている。通常のBWRでは低圧タービン出口側に設置された復水器で蒸気は凝縮して水となり、その後、給水加熱器および給水ポンプ等を通って昇圧,加熱されて原子炉圧力容器内に給水される。
【0003】
通常のBWRの設計ではまず、炉心の熱出力を決定し、その熱出力で最高の熱効率が得られるように主蒸気管以降の蒸気の流れを最適化している。具体的には、復水器で蒸気を水にすると熱サイクルの原理から通常のBWRの圧力(約7MPa)ではエネルギーの2/3が排出されて無駄になる。
【0004】
そこで、主蒸気のうちの一部を抽気して給水加熱器における給水を加熱するために用いる。この場合、主蒸気の熱はそのほとんどが回収されるため原子炉の熱効率は向上する。一般に再循環ポンプとジェットポンプを用いて湿分分離器を備えているBWRにおいては主蒸気のうち最終的に低圧タービン出口から復水器に送られる蒸気の量は約56%で、残りの蒸気は給水の加熱に用いている。
【0005】
その給水は給水加熱器によって加熱されて原子炉圧力容器へ給水系統を通じて給水ノズルから給水される。その給水に際して、給水と原子炉圧力容器内の雰囲気の間で大きな温度差が生じると給水ノズルやその周辺に温度差依存による無理が加わる。そのため、その無理な状況を緩和するために、給水ノズル内にはサーマルスリーブという円筒状の構造物が採用され、温度差によるショックが少なくなるように給水ノズルは二重管構造となっている(例えば、特開平10−288690号公報参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平10−288690号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この出願よりも先に出願済みの特願2004−006198号において、炉心での熱出力を除去するため、主蒸気流量及び給水流量を増加させずに給水温度を低下させる方法が提案されている。この際、給水ノズル部では高温の原子炉圧力容器内温度と低温の給水配管からの給水温度には大きな温度差が生じ、当該ノズル部位での熱応力及び熱疲労が懸念される。従って、増出力運転時においても構造健全性を確保するような給水ノズル及びスリーブが必要になる。
【0008】
一般に新設の原子炉は電気出力または熱出力を一定で運転することを想定している。そのため原子炉設置後に出力を大幅に増加するためにはプラント機器の交換が必要となる。一方で、あらかじめプラント機器を出力増加を見込んで設計しておくと各機器が大型化するとともに機器の効率も低下する。
【0009】
次に既設の原子炉を増出力する場合、出力増加にほぼ比例して給水流量および主蒸気流量が増加する。そのため、給水系配管,給水加熱器,給水ポンプ,蒸気乾燥器などの炉内構造物,主蒸気管,高圧タービン,低圧タービンおよび復水器など、ほとんど全ての機器の設計余裕が減少する。通常のBWRでは主蒸気流量の増加によって最初に設計余裕がなくなる機器の1つが高圧タービンである。BWR以外の原子力発電システムにおいても、高圧タービンの設計余裕が比較的小さいプラントについては同様の課題がある。
【0010】
本発明の目的は、給水ノズル部位での熱応力及び熱疲労が懸念される際の給水ノズルの健全性を確保しやすい給水ノズルを提供することにあり、他の目的はその給水ノズルを用いて、原子炉設備の増出力運転を健全性を確保しながら安全に行える原子炉設備を提供することに有る。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この出願の発明の目的を達成するための手段は、内部にサーマルスリーブを備えた給水ノズルにおいて、前記給水ノズルの内面と前記サーマルスリーブの外面との間に形成される環状流路の間隔をδとし、前記給水ノズルの内径をDi とし、前記間隔と前記内径との関係がδ/Di≦0.03であることを特徴とする給水ノズル、或いは、内部にサーマルスリーブを備えた給水ノズルにおいて、前記給水ノズルの内面と前記サーマルスリーブの外面との間、及び/又は前記サーマルスリーブの内面に前記給水ノズルや前記サーマルスリーブの長手方向に長手方向が向けられたリブを備えていることを特徴とする給水ノズル、或いは、内部にサーマルスリーブを備えた給水ノズルにおいて、
前記給水ノズルの内面と前記サーマルスリーブの外面との間に環状又は螺旋状の部材を備えていることを特徴とする給水ノズル、或いは、内部にサーマルスリーブを備えた給水ノズルにおいて、前記給水ノズルの給水の出口に板面を前記出口とは間隔を置いて対向させた板状の部材を備えている給水ノズル、或いは、原子炉圧力容器と、前記原子炉圧力容器内の蒸気を通す主蒸気管と、前記主蒸気管を経由して導入した前記蒸気で駆動される蒸気タービンと、前記蒸気タービンから排出された蒸気を凝縮して給水を作る復水器と、前記復水器から受け入れた前記給水を前記タービンの途中段階から抽出した蒸気で加熱する給水熱交換器と、前記給水加熱器で加熱された前記給水を前記圧力容器に設けてある給水ノズルを通じて前記圧力容器内に給水する給水配管と、を備えた原子炉設備において、前記給水ノズルとして、請求項1から請求項9までのいずれか一項に記載の給水ノズルを採用してあることを特徴とする原子炉設備である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の給水ノズルによれば、給水ノズル部位での熱応力及び熱疲労が懸念される際の給水ノズルの健全性を確保しやすいという効果が得られる。
【0013】
本発明の原子炉設備によれば、給水系機器の設計余裕を適切に維持しつつ出力増加を可能にすることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施例を図1から図7を用いて説明する。まず、図1は本発明の好適な実施例である増出力時の沸騰水型軽水炉の低圧タービンへの熱バランスシフト法に関するシステム系統図を示す。原子炉圧力容器1から発生する高圧の主蒸気は主蒸気管2から高圧タービン3へ供給されて当該高圧タービン3で回転エネルギーに変換されて仕事をする。この後、膨張した主蒸気は湿分分離器4へ供給され、当該湿分分離器4で湿分を除去された後、蒸気は低圧タービン5でも同様の仕事をし、膨張した低圧蒸気は復水器6で凝縮する。その後、復水した冷却水は低圧給水加熱器7,主給水ポンプ8及び高圧給水加熱器9で昇温・昇圧されて、再び原子炉圧力容器1内へ供給される。通常の沸騰水型軽水炉では事故・過渡時に十分に炉心の健全性が確保される範囲で、高圧タービンや湿分分離器からの抽気蒸気やドレン水を給水加熱に用いることにより冷却材の給水温度を高くして熱効率が最大となるように設計されている。なお、図1中では炉心の熱出力をQ、水および蒸気の質量流量をG、水および蒸気のエンタルピをHで表しており、熱出力Qと質量流量Gはプラント建設時の主蒸気流量に対する比(%)を、エンタルピは(kJ/kg)単位の数値で表している。
【0015】
本実施例ではプラント建設時に比較して炉心の出力を5%増加させるとともに高圧タービン出口からの抽気の割合を少なくしている。このことは圧力容器に供給される水の加熱量を減少させることであるから、供給される水の温度とエンタルピが低下する。圧力容器の入口における給水の温度が低下することにより、炉心内で冷却材である水が沸騰を開始するまでに吸収する熱量が増加し、これが出力増加分とつりあう場合、炉心の出力を増加させても主蒸気流量は増加しない。主蒸気流量および高圧タービンの蒸気流量は増加しないが、高圧タービン3出口から抽気する高圧給水加熱器9用の蒸気量を減らしているため低圧タービン5へ入る蒸気量は増加し、その結果低圧タービン5から復水器6に流入する蒸気量も増加する。抽気流量を減少させるには抽気点から給水加熱器までの間の抽気管上にオリフィスまたは流量調整弁10を設けている。またこれと別の方法として、主給水管上に給水バイパス管11を設置し、少なくとも1つの給水加熱器をバイパスした後に給水管に戻しても良い。原子力発電システムでは一般に発電量の約2/3は低圧タービンで回収しており、低圧タービンへ入る蒸気量を増やすことにより、主蒸気流量を増やさずに原子炉の電気出力を増加させることが可能である。本実施例に示した手法では主蒸気流量を変えずに電気出力を約4%増加させることが可能である。
【0016】
すなわち本発明の実施例では、増出力後の原子炉圧力容器から主蒸気管に流入する蒸気流量をGf1、低圧タービンから復水器に流入する蒸気流量をGf2とする場合、通常の設計方法とは逆にGf2/Gf1を増加させることに特徴がある。このような熱バランスを取ることにより、プラントの熱効率は減少するものの、給水温度が下がるために通常の増出力時に比較して炉心の安全性は向上し圧力損失も低減する。給水流量と主蒸気流量を低く抑えることが出来るために給水系から高圧タービンまでの間の設計余裕を小さくすること無く増出力が可能となる。さらに一般的に大幅な増出力時には交換が必要となる高圧タービンを交換することなく大幅な増出力を実施することが可能となる。プラント熱効率の低下を防止するためには、原子炉の圧力を増加させる、湿分分離器を湿分分離再熱器または湿分分離過熱器に置き換える、給水加熱系にポンプドレンアップを導入するなどすれば良い。沸騰水型軽水炉以外の直接サイクル型のプラントも同様の方法で増出力が可能である。
【0017】
このように、熱バランスシフト法による増出力運転を行う場合、給水温度が低下するため、原子炉圧力容器の側面へ設置されている給水ノズル部で炉水との温度差が従来よりも大きくなるため、環状流路内での熱成層化による温度変動に基づく高サイクル熱疲労の増加が予想される。この際、従来の給水ノズルでは温度変動発生の原因である熱成層化及び最大温度発生箇所は特定されていないため、熱応力低減のために増出力運転条件下での給水ノズル構造が不可欠となる。
【0018】
そこで、図2に本発明の好適な実施例である給水ノズルの概要を示す。また、図3から図6までに、これらの動作及び特性を説明するための温度変動と熱疲労のメカニズムの概要を示す。図3は給水ノズル周りの温度分布の概要図、図4は給水ノズル内部での熱成層化による密度差分離に関する現象説明図、図5は熱伝達率と流体温度変動に対する壁面温度変動割合の概要図、そして図6は給水ノズルの熱疲労評価フロー概要図を示す。
【0019】
図2は、原子炉圧力容器1へ給水配管12を設置した給水ノズルの部位を示している。ここで、炉水18と給水17との間で、これら二流体混合時の温度差による熱応力を低減するため、給水ノズル13内部にサーマルスリーブ14を設置して直接温度差のある二流体が接触することを回避し、サーマルスリーブの先端にある給水スパージャ15から原子炉圧力容器1中へ噴出する構造になっている。このとき、給水ノズル13とサーマルスリーブ14間における狭い環状流路16(以下、ギャップδと略すことも有る)内での流体温度変動を抑制し、当該ギャップ16内で自然対流熱伝達を小さくし、給水ノズル内壁表面(以下、給水ノズル内面とも言う。)13aでの材料の温度変動を抑制する必要がある。そのためには、従来から行われている構造強度の観点から検討するだけではなく、熱疲労の元凶である熱成層界面形成による流体温度変動発生原因を抑制する必要がある。そこで、本発明ではこのギャップ寸法の適正化を検討した。
【0020】
図3は給水ノズル周りの温度分布Tの概要を示す。高温の炉水Trと低温の給水Tfwが給水ノズル部内で熱交換し、炉水の温度が低下する。一方、炉水18により加熱された給水17は炉内中央に向かう流れ方向に沿って温度上昇して、最終的に給水スパージャ
15出口から炉水中へ流出し温度差混合が生じる。このとき、環状流路内で炉水は熱交換により温度低下し、高温水Trhは密度が小さいため給水ノズル上部13bへ、低温水
Trcは密度が大きいために給水ノズル下部13cへと密度差により分離して熱成層化を生じる。しかし、成層化が生じても熱成層界面19が静的に安定していれば、給水ノズルやサーマルスリーブは静的熱応力発生だけの問題となる。ところが、炉水18の下向き流れに含まれる外乱が熱成層界面19へ作用してここで温度変動が生じる。この際の流体温度変動がギャップ内での熱伝達を介して給水ノズル13内面及びサーマルスリーブ14外面へと伝播し、これら材料の温度変動に起因した熱疲労が発生することになり、これを回避する必要がある。
【0021】
また、給水ノズル周りでの熱流動現象を考える。図4は給水ノズル内部での熱成層化に関する現象を示す。図示のように、定格運転の給水時には、高温の炉水がギャップ内に停留しているところへ給水配管から低温の給水17が供給され、サーマルスリーブ14を介してギャップ内の高温水からサーマルスリーブ14内の低温水へ入熱21されて熱交換する。この結果、ギャップ内に停留している高温水は温度が低下する。しかし、狭いギャップ内では一様な温度低下とはならずに、自然対流を発生し高温水は密度が小さいためにギャップ内の上部へ、低温水は密度が大きいために下部へと密度差分離していく。なお、ギャップ内では小さなベナードセルと呼ばれる自然対流渦が徐々に合体して大きな対流渦
20aとなる。すなわち、給水ノズル13とサーマルスリーブ14間の環状流路内では自然対流熱伝達を伴う熱成層化現象が生じる。一方、起動停止時は、給水配管からの給水
17が停止状態になるため、サーマルスリーブ14内で低温の給水が周りから入熱21されて最終的には熱成層化が生じ、この界面19で温度揺らぎが生じる。
【0022】
ここで、熱流体の観点から、次式に示す無次元数である環状流路内でのレーリー数Raと給水ノズル内のレイノルズ数Recが考えられる。
【0023】
Ra=Gr・Pr=(δ3βgΔT/ν2)・Pr (1)
Rec=vDi/ν (2)
但し、δは環状流路の間隔(ギャップ)、βは体膨張係数、gは重力加速度、ΔTは温度差、νは動粘性係数、Prはプラントル数、vは管内流速、Diはノズル内径である。
【0024】
給水ノズルの寸法に関わらず、Ra>1700では環状流路内で小さなベナードセルが複合した大きな自然循環渦による自然対流場となり、またRec>1.0×104ではノズル内は一様に発達した強制対流場となる。ここで、式(1)に示すように、ギャップδの三乗に比例して、グラスホフ数Gr及びレーリー数Raが小さくなり、式(3)に示す関係から給水ノズルとサーマルスリーブ間での自然対流熱伝達率hが減少し、例え熱成層化が生じてもこの界面近傍での温度揺らぎが給水ノズル材及びサーマルスリーブ材の温度変動発生箇所22へ伝達しにくいことになる。
【0025】
Nu∝h∝Ram∝(δ3)m (3)
但し、Nuはヌッセルト数、mは指数である。
【0026】
次に、図5は給水ノズルの環状流路内での熱伝達率と流体温度変動に対する壁面温度変動割合を示す。ここで、縦軸のΔTwは壁面温度変動、ΔTfは流体温度変動を示している。図中のΔTw/ΔTf≦0.3 は、給水ノズルの熱疲労回避のための目標値を示す。図中右上に示すように、熱伝達率hの大きさによっては、大きな流体温度変動振幅ΔTfが小さな壁面温度変動振幅ΔTwになる可能性がある。検討条件は、BWR 110万
kWe級、給水ノズルの材質はステンレス、給水配管の内径はD=280mmとし、不確定な温度変動周波数fをパラメータとした。従来より、壁面温度変動に関する予測式として、次式が用いられている(出典は、H. Choe, C. M. Kwong, ASME 79−WA/HT−23,1980参照)。
【0027】
ΔTw/ΔTf=1/√2e2+2e+1 (4)
e=√ρmπCmλmf/h (5)
ここで、ρm は材料の密度、Cm は材料の比熱、λm は材料の熱伝導率、hは熱伝達率である。式(5)の定数eは流体から材料へ伝播される温度変動割合を示し、これらの割合を式(4)のような経験式として表したものである。これより、熱伝達率hの増加とともに、壁面温度変動割合ΔTw/ΔTfは単調増加する。また、変動周波数fが大きくなるとΔTw/ΔTfは低下する傾向がある。従って、図示の結果から許容変動熱応力の制限としてΔTw/ΔTf≦0.3 を満足するためには、実現象から考えられる最も小さな周波数f=0.01Hzを考慮してもh≦900W/m2K となる必要がある。これは、式(3)の関係からδ≦10mmを満足する必要がある。
【0028】
従って、下記の関係を満足すれば、熱成層化による給水ノズル内表面での熱疲労は回避できることになる。
【0029】
δ/Di≦0.03 (6)
ここで、Diは給水ノズル内径である。
【0030】
以上の給水ノズル構造及び条件に基づき、給水ノズル材の熱疲労を評価する手順を説明する。図6は給水ノズルの熱疲労評価フロー概要を示す。まず、低温の給水と高温の炉水がサーマルスリーブを介して熱交換する。次に、運転状態で左右の2つの現象に分かれる。図の左側は、定格運転時の高サイクル熱疲労の評価フローを示す。環状流路内で高低温水の密度差による分離が生じ、熱成層化が生じる。この成層界面で炉水の外乱による流体温度変動が生じる。この流体温度変動が自然対流熱伝達により給水ノズル内表面及びサーマルスリーブ外表面での材料壁面での温度変動として伝播され、これに起因する高サイクル熱疲労が発生する。これは急激に変動する温度揺らぎの変動荷重を意味する。原子炉全体の運転状態から見ると、小さな温度変動荷重を受けながら、長時間運転、すなわち変動回数が多いため、累積損傷係数UFh は大きい。一方、図の右側は、起動・停止時におけるサーマルサイクルによる低サイクル熱疲労の評価フローを示す。起動・停止時には、熱成層化した環状流路の上部と下部で最も大きな温度差が発生し、これに緩やかな熱過渡サイクルを受けることにより静的熱応力が緩やかに変動し、低サイクル熱疲労が起こる。これは緩やかな過渡状態の変動荷重を意味する。原子炉全体の運転状態から見ると、大きな温度変動荷重を受けるけれども、短時間運転、すなわち変動回数が少ないため、累積損傷係数UFl は小さい。これら両者の累積損傷係数UFh と累積損傷係数UFl を加算して最終的な累積損傷係数UF(Usage Factor)を算出し、給水ノズル及びサーマルスリーブ材料に対する熱疲労の可能性があるか否かを判定する。この値が1以下であれば構造的に健全であるということになる。
【0031】
以上の評価フローに従い、従来型と本発明の実施例との累積損傷係数UFの値を比較した。図7にその結果を示す。ここで、累積損傷係数UFは高サイクル熱疲労による累積損傷係数UFh と低サイクル熱疲労による累積損傷係数UFl との和で表す。従来の給水ノズルを用いて現行の運転を行う場合はUF=0.3 程度となるが、増出力運転時、すなわち給水温度が従来よりも約20から30℃低下する場合はUF=1.6 へと増加する。ここで、材料表面での熱疲労を回避できるクライテリヤとしてUF<1が一般的な基準となる。従って、従来構造及び寸法のままでは、ギャップ内での温度変動による熱疲労が問題となる可能性がある。一方、本発明の給水ノズルではUF=0.7 程度となり、熱的な構造健全性に問題ないことが確認された。なお、図示したものは同じ検討条件で評価した一例であり、二流体温度差,材料の種類,ギャップ,変動周波数,構造材の表面粗さ,炉水の流れ方,給水流量などにより、若干異なることを付記しておく。
【0032】
本発明のこのような実施例では、本発明の目的を達成する為に、給水ノズルとサーマルスリーブの間の環状流路内ギャップを、自然対流熱伝達率が900W/m2K 以下になるように小さくする。これにより、例え低温の給水と高温炉水との間の熱成層化が生じても給水ノズル内面への熱伝達率が小さく、給水ノズル内表面での温度変動が小さくなる。それにより、温度変動による熱疲労での材料健全性を確保することができる。
【0033】
図8から図17に、本発明の他の実施例を示す。まず図8は環状流路内での熱成層化を抑制するためにサーマルスリーブ外面14aへ少なくとも1つ以上のリブ機構である管外リブ14cを取り付けた場合の給水ノズルの構造の概要を示す。これは、サーマルスリーブの軸方向にノズル端部までの長さを有する。できれば、最小でも周方向に45度ピッチで8本設置すれば望ましい。これにより、ギャップ16内での熱伝達率も抑制できる効果を有する。これは、定格運転時に環状流路内に形成される熱成層界面での流体温度変動を減衰させるためのものである。この場合の長所は、従来式のサーマルスリーブ14の仕様をそのまま用いて、上記の熱伝達率低減効果を達成しうるものであるため、改造が比較的容易な点である。さらに、原子炉内圧や静的熱変形による撓みが生じても、当該リブ機構である管外リブ14cが給水ノズル内面とサーマルスリーブ外面で接触し、単純支持状態となるため、熱的な大変形も抑制できる。なお以下の実施例で、内外面へリブ機構を設置するものは、いずれも少なくとも1つ以上設置するものである。図9はサーマルスリーブ内面14bへリブ機構である管内リブ14dを取り付けた場合の給水ノズルの構造概要図を示す。これは、給水停止時にサーマルスリーブ内に形成される熱成層界面での流体温度変動を減衰させるためのものである。図10は図8と図9の両者の長所を組み合わせたものである。図11はサーマルスリーブを二重管構造にして自然対流を抑制する機構である。サーマルスリーブ14の外周に配置したサーマルスリーブB14eを二重に追加することにより、まずこれだけで対流形成を抑制でき、その上に各リブ14a,14b,14fで対流形成を抑制できる。
【0034】
このように、給水ノズルとサーマルスリーブの間の環状流路内ギャップを確保した上で、サーマルスリーブ内外表面上へ少なくとも周方向に1つ以上の軸方向に伸びたリブ機構を設置すると、局部的に給水ノズル内面とサーマルスリーブ外面が接触するかのごとき狭いギャップ部が形成され、このギャップ部位においては自然対流熱伝達から熱伝導に変化し、例え低温の給水と高温炉水との間でも熱成層化が生じない。もし熱成層化が生じたとしても、自然対流熱伝達が小さくなり、その結果として流体の温度変動は給水ノズル内面で急激に減衰することになるため、熱疲労の懸念は少なくなる。
【0035】
図8から図11の各実施例における給水ノズルの内面とリブ機構の間の関係も、給水ノズルの内面とリブ機構の給水ノズルの内面側へ突き出された突端との間の流路の間隔をδとし、給水ノズルの内径をDiとし、その間隔と前記内径との関係がδ/Di≦0.03であるようにして自然対流熱伝達率を低くすることが好ましい。
【0036】
図12はサーマルスリーブ14の外面へ、ギャップ縮小化のために螺旋状突起機構23を巻き付けたものである。ここで、給水系での圧力は本来のサーマルスリーブ14で持ち、螺旋状突起機構23はノズルとサーマルスリーブ間でのギャップδを小さくするためのものである。もちろん、この機構はサーマルスリーブよりも柔い構造で使用が可能であり、従来のサーマルスリーブへ当該機構を追設するだけで改造がほとんど不要となり増出力運転時の給水ノズルとして容易な対応法となる。図13は上図の他の実施例で、スクリュー状突起機構24である。これは、サーマルスリーブ14と一体構造でも、別構造のものを取り付けてもどちらでも良い。これにより、通常のノズルとサーマルスリーブ間でのギャップδを小さくすることが可能となり、大幅な構造変更を伴わないで、熱成層化による温度変動を抑制する効果がある。
【0037】
このような図12と図13の各実施例におけるギャップδの小ささについても、好ましくは、給水ノズルの内面と螺旋状突起機構23或いはスクリュー状突起機構24の間の関係も、給水ノズルの内面と螺旋状突起機構23或いはスクリュー状突起機構24の給水ノズルの内面側へ突き出された突端との間の流路の間隔をδとし、給水ノズルの内径をDi とし、その間隔と前記内径との関係がδ/Di≦0.03であるようにして自然対流熱伝達率を低くすることが好ましい。
【0038】
また、ギャップ内での熱成層化発生を防止するために、当該ギャップ部内へ熱的緩衝材を詰め込めば、ギャップ内での炉水の流動はなく、温度変動抑制効果はより大きくなる。この熱的緩衝材は少なくとも1つ以上の多層構造であり、熱変形による応力境界とはならないものである。
【0039】
また、螺旋状突起機構23或いはスクリュー状突起機構24はサーマルスリーブ外周面に巻きつけるように或いは一体にした螺旋状の部材であるが、その部材はサーマルスリーブ外周面にサーマルスリーブと同心状に装着された環状の部材であっても良い。
【0040】
図14は炉水の下降流内に含まれる外乱が環状流路内へ流入するのを抑制する板状のガイド機構25を板面を給水ノズルの給水出口に流入抑制度合いに応じた隙間を開けたうえでその給水出口に対面させて設けたものである。例え熱成層化が生じても、安定した成層界面のままであれば温度変動が生じないため、高サイクル熱疲労は抑制できる。本実施例はガイド機構25を給水スパージャの外面へ設置したが、原子炉圧力容器1内壁面へ当該機構を設置しても同じ効果が得られる。ガイド機構25の板形状は円盤状でも矩形上でも良い。
【0041】
図14の実施例は、本発明の他の実施例と組み合わせて実施することで、他の実施例を単独で用いる場合よりも一層のこと給水ノズル部の熱疲労の懸念は少なくなる。
【0042】
以上、既存のBWRの給水ノズルを本発明の給水ノズルに代替し、熱バランスシフト法による増出力運転を行えば、例え給水温度が従来よりも低下しても十分に高信頼性の給水ノズルのため、現状のプラント運転前に比べて約10〜20%程度の電気出力増加が図れる有効な原子力システムとなる。
【0043】
なお、本実施例は沸騰水型軽水炉プラントを例に示したが、本発明は加圧水型軽水炉の二次系やその他の形式の原子力発電システムにも適用可能である。
【0044】
このように、本発明のある実施例では、本発明の目的を達成する為に、第1には、給水ノズルとサーマルスリーブの間の環状流路内ギャップを、自然対流熱伝達率が900W/m2K 以下になるように小さくする。これにより、例え低温の給水と高温炉水との間の熱成層化が生じても給水ノズル内面への熱伝達率が小さく、給水ノズル内表面での温度変動が小さくなる。それにより、温度変動による熱疲労での材料健全性を確保することができる。
【0045】
又、ある実施例では、給水ノズルとサーマルスリーブの間の環状流路内ギャップを確保した上で、サーマルスリーブ内外表面上へ少なくとも周方向に1つ以上の軸方向に伸びたリブ機構を設置する。これにより、局部的に給水ノズル内面とサーマルスリーブ外面が接触するほど狭い部分が形成され、このギャップ部位においては自然対流熱伝達から熱伝導に変化し、例え低温の給水と高温炉水との間でも熱成層化が生じない。もし熱成層化が生じたとしても、自然対流熱伝達が小さくなり、その結果として流体の温度変動は給水ノズル内面で急激に減衰することになるため、熱疲労の懸念は少なくなる。
【0046】
本発明の実施例では、新設の原子炉においてあらかじめ給水温度を低下させる機能を備えておくことで、高圧系のプラント機器に過剰な設計余裕を持たせることなく、運転中または運転サイクルごとに電気出力を変更できることを可能とする原子力発電システムを提供することができる。
【0047】
その上、既設沸騰水型原子炉あるいは改良型沸騰水型原子炉の熱バランスシフトによる原子炉運転法を採用するに際しても、上記の各実施例による給水ノズルを原子炉の給水系統の原子炉圧力容器への接続に用いる給水ノズルとして組み込んで増出力式原子力発電システムとすることで、その運転による給水ノズル部の健全性悪化を克服でき、その運転方を採用することを許容できるに至る。
【0048】
さらに本発明の実施例では、既設の原子炉の増出力に対して原子炉システムの大幅な変更をせずに従来の給水ノズル内のサーマルスリーブの径を大きくし、当該ギャップを小さくすることで、通常運転時から増出力時運転に変更した場合でも、給水ノズルへ流入する給水温度が低下しても熱疲労上問題のない構造で、しかもコンパクトな給水ノズル及びスリーブを設置することにより、高圧タービンの設計余裕を維持するとともに給水系および炉内構造物への影響を軽減しつつ、他のプラント機器への影響が無く、低圧タービンに入る蒸気流量を増加させることで、プラントの増出力を可能とする原子力発電システムを提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、原子力発電システムの給水系統の原子炉圧力容器へ接続する給水ノズルに用途がある。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施例である熱バランスシフト法を採用できる原子炉設備(原子力発電システム)のシステム系統図。
【図2】本発明の好適な実施例である給水ノズルの断面図であり、右図が給水ノズルの長手方向の断面を示す図、左図が右図のA−A断面図である。
【図3】本発明の実施例である給水ノズル部の温度分布と、その温度分布を示す給水ノズル部位の対応図である。
【図4】本発明の実施例である給水ノズル部の温度変動現象を解説する図であり、上図は給水ノズル部の断面図であり、下図は上図のA−A断面における温度変動現象を示す図にして下図の右側の図が給水停止時を同じく左側の図が原子炉の定格運転時における給水時を表している。
【図5】本発明の実施例である給水ノズル部の熱伝達率に対する温度変動減衰特性図である。
【図6】本発明の実施例である給水ノズルの評価フローの図である。
【図7】本発明の実施例である給水ノズルの累積損傷係数の比較図である。
【図8】本発明の他の実施例である給水ノズルの断面図であり、右図が給水ノズルの長手方向の断面を示す図、左図が右図のA−A断面図である。
【図9】本発明のさらに他の実施例である給水ノズルの断面図であり、右図が給水ノズルの長手方向の断面を示す図、左図が右図のA−A断面図である。
【図10】本発明のさらに一層他の実施例である給水ノズルの断面図であり、右図が給水ノズルの長手方向の断面を示す図、左図が右図のA−A断面図である。
【図11】本発明のなお一層他の実施例である給水ノズルの断面図であり、右図が給水ノズルの長手方向の断面を示す図、左図が右図のA−A断面図である。
【図12】本発明のさらになお一層他の実施例である給水ノズルの概略図である。
【図13】本発明のさらに他の実施例である給水ノズルの概略図である。
【図14】本発明のさらに一層他の実施例である給水ノズルの概略断面図である。
【符号の説明】
【0051】
1…原子炉圧力容器、2…主蒸気管、3…高圧タービン、4…湿分分離器、5…低圧タービン、6…復水器、7…低圧給水加熱器、8…主給水ポンプ、9…高圧給水加熱器、
10…抽気流量調整弁、11…給水バイパス管、12…給水配管、13…給水ノズル、
13a…給水ノズル内面、13b…給水ノズル上部、13c…給水ノズル下部、14…サーマルスリーブ、14a…サーマルスリーブ外面、14b…サーマルスリーブ内面、14c…管外リブ、14d…管内リブ、14e…サーマルスリーブB、14f…管外リブB、
15…給水スパージャ、16…環状流路(ギャップ)、17…給水、18…炉水、19…熱成層界面、20a…環状流路内の自然対流渦、20b…サーマルスリーブ内の自然対流渦、21…入熱、22…温度変動発生箇所、23…螺旋状突起機構、24…スクリュー状突起機構、25…ガイド機構。
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部にサーマルスリーブを備えた給水ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
沸騰水型軽水炉(BWR)は核分裂性物質を含む炉心で水を沸騰させ、沸騰によって生じた蒸気を主蒸気管へ通して高圧タービン,低圧タービンへと送り、高圧タービン,低圧タービンの軸と連動した発電機で電気を発生させている。通常のBWRでは低圧タービン出口側に設置された復水器で蒸気は凝縮して水となり、その後、給水加熱器および給水ポンプ等を通って昇圧,加熱されて原子炉圧力容器内に給水される。
【0003】
通常のBWRの設計ではまず、炉心の熱出力を決定し、その熱出力で最高の熱効率が得られるように主蒸気管以降の蒸気の流れを最適化している。具体的には、復水器で蒸気を水にすると熱サイクルの原理から通常のBWRの圧力(約7MPa)ではエネルギーの2/3が排出されて無駄になる。
【0004】
そこで、主蒸気のうちの一部を抽気して給水加熱器における給水を加熱するために用いる。この場合、主蒸気の熱はそのほとんどが回収されるため原子炉の熱効率は向上する。一般に再循環ポンプとジェットポンプを用いて湿分分離器を備えているBWRにおいては主蒸気のうち最終的に低圧タービン出口から復水器に送られる蒸気の量は約56%で、残りの蒸気は給水の加熱に用いている。
【0005】
その給水は給水加熱器によって加熱されて原子炉圧力容器へ給水系統を通じて給水ノズルから給水される。その給水に際して、給水と原子炉圧力容器内の雰囲気の間で大きな温度差が生じると給水ノズルやその周辺に温度差依存による無理が加わる。そのため、その無理な状況を緩和するために、給水ノズル内にはサーマルスリーブという円筒状の構造物が採用され、温度差によるショックが少なくなるように給水ノズルは二重管構造となっている(例えば、特開平10−288690号公報参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平10−288690号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この出願よりも先に出願済みの特願2004−006198号において、炉心での熱出力を除去するため、主蒸気流量及び給水流量を増加させずに給水温度を低下させる方法が提案されている。この際、給水ノズル部では高温の原子炉圧力容器内温度と低温の給水配管からの給水温度には大きな温度差が生じ、当該ノズル部位での熱応力及び熱疲労が懸念される。従って、増出力運転時においても構造健全性を確保するような給水ノズル及びスリーブが必要になる。
【0008】
一般に新設の原子炉は電気出力または熱出力を一定で運転することを想定している。そのため原子炉設置後に出力を大幅に増加するためにはプラント機器の交換が必要となる。一方で、あらかじめプラント機器を出力増加を見込んで設計しておくと各機器が大型化するとともに機器の効率も低下する。
【0009】
次に既設の原子炉を増出力する場合、出力増加にほぼ比例して給水流量および主蒸気流量が増加する。そのため、給水系配管,給水加熱器,給水ポンプ,蒸気乾燥器などの炉内構造物,主蒸気管,高圧タービン,低圧タービンおよび復水器など、ほとんど全ての機器の設計余裕が減少する。通常のBWRでは主蒸気流量の増加によって最初に設計余裕がなくなる機器の1つが高圧タービンである。BWR以外の原子力発電システムにおいても、高圧タービンの設計余裕が比較的小さいプラントについては同様の課題がある。
【0010】
本発明の目的は、給水ノズル部位での熱応力及び熱疲労が懸念される際の給水ノズルの健全性を確保しやすい給水ノズルを提供することにあり、他の目的はその給水ノズルを用いて、原子炉設備の増出力運転を健全性を確保しながら安全に行える原子炉設備を提供することに有る。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この出願の発明の目的を達成するための手段は、内部にサーマルスリーブを備えた給水ノズルにおいて、前記給水ノズルの内面と前記サーマルスリーブの外面との間に形成される環状流路の間隔をδとし、前記給水ノズルの内径をDi とし、前記間隔と前記内径との関係がδ/Di≦0.03であることを特徴とする給水ノズル、或いは、内部にサーマルスリーブを備えた給水ノズルにおいて、前記給水ノズルの内面と前記サーマルスリーブの外面との間、及び/又は前記サーマルスリーブの内面に前記給水ノズルや前記サーマルスリーブの長手方向に長手方向が向けられたリブを備えていることを特徴とする給水ノズル、或いは、内部にサーマルスリーブを備えた給水ノズルにおいて、
前記給水ノズルの内面と前記サーマルスリーブの外面との間に環状又は螺旋状の部材を備えていることを特徴とする給水ノズル、或いは、内部にサーマルスリーブを備えた給水ノズルにおいて、前記給水ノズルの給水の出口に板面を前記出口とは間隔を置いて対向させた板状の部材を備えている給水ノズル、或いは、原子炉圧力容器と、前記原子炉圧力容器内の蒸気を通す主蒸気管と、前記主蒸気管を経由して導入した前記蒸気で駆動される蒸気タービンと、前記蒸気タービンから排出された蒸気を凝縮して給水を作る復水器と、前記復水器から受け入れた前記給水を前記タービンの途中段階から抽出した蒸気で加熱する給水熱交換器と、前記給水加熱器で加熱された前記給水を前記圧力容器に設けてある給水ノズルを通じて前記圧力容器内に給水する給水配管と、を備えた原子炉設備において、前記給水ノズルとして、請求項1から請求項9までのいずれか一項に記載の給水ノズルを採用してあることを特徴とする原子炉設備である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の給水ノズルによれば、給水ノズル部位での熱応力及び熱疲労が懸念される際の給水ノズルの健全性を確保しやすいという効果が得られる。
【0013】
本発明の原子炉設備によれば、給水系機器の設計余裕を適切に維持しつつ出力増加を可能にすることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施例を図1から図7を用いて説明する。まず、図1は本発明の好適な実施例である増出力時の沸騰水型軽水炉の低圧タービンへの熱バランスシフト法に関するシステム系統図を示す。原子炉圧力容器1から発生する高圧の主蒸気は主蒸気管2から高圧タービン3へ供給されて当該高圧タービン3で回転エネルギーに変換されて仕事をする。この後、膨張した主蒸気は湿分分離器4へ供給され、当該湿分分離器4で湿分を除去された後、蒸気は低圧タービン5でも同様の仕事をし、膨張した低圧蒸気は復水器6で凝縮する。その後、復水した冷却水は低圧給水加熱器7,主給水ポンプ8及び高圧給水加熱器9で昇温・昇圧されて、再び原子炉圧力容器1内へ供給される。通常の沸騰水型軽水炉では事故・過渡時に十分に炉心の健全性が確保される範囲で、高圧タービンや湿分分離器からの抽気蒸気やドレン水を給水加熱に用いることにより冷却材の給水温度を高くして熱効率が最大となるように設計されている。なお、図1中では炉心の熱出力をQ、水および蒸気の質量流量をG、水および蒸気のエンタルピをHで表しており、熱出力Qと質量流量Gはプラント建設時の主蒸気流量に対する比(%)を、エンタルピは(kJ/kg)単位の数値で表している。
【0015】
本実施例ではプラント建設時に比較して炉心の出力を5%増加させるとともに高圧タービン出口からの抽気の割合を少なくしている。このことは圧力容器に供給される水の加熱量を減少させることであるから、供給される水の温度とエンタルピが低下する。圧力容器の入口における給水の温度が低下することにより、炉心内で冷却材である水が沸騰を開始するまでに吸収する熱量が増加し、これが出力増加分とつりあう場合、炉心の出力を増加させても主蒸気流量は増加しない。主蒸気流量および高圧タービンの蒸気流量は増加しないが、高圧タービン3出口から抽気する高圧給水加熱器9用の蒸気量を減らしているため低圧タービン5へ入る蒸気量は増加し、その結果低圧タービン5から復水器6に流入する蒸気量も増加する。抽気流量を減少させるには抽気点から給水加熱器までの間の抽気管上にオリフィスまたは流量調整弁10を設けている。またこれと別の方法として、主給水管上に給水バイパス管11を設置し、少なくとも1つの給水加熱器をバイパスした後に給水管に戻しても良い。原子力発電システムでは一般に発電量の約2/3は低圧タービンで回収しており、低圧タービンへ入る蒸気量を増やすことにより、主蒸気流量を増やさずに原子炉の電気出力を増加させることが可能である。本実施例に示した手法では主蒸気流量を変えずに電気出力を約4%増加させることが可能である。
【0016】
すなわち本発明の実施例では、増出力後の原子炉圧力容器から主蒸気管に流入する蒸気流量をGf1、低圧タービンから復水器に流入する蒸気流量をGf2とする場合、通常の設計方法とは逆にGf2/Gf1を増加させることに特徴がある。このような熱バランスを取ることにより、プラントの熱効率は減少するものの、給水温度が下がるために通常の増出力時に比較して炉心の安全性は向上し圧力損失も低減する。給水流量と主蒸気流量を低く抑えることが出来るために給水系から高圧タービンまでの間の設計余裕を小さくすること無く増出力が可能となる。さらに一般的に大幅な増出力時には交換が必要となる高圧タービンを交換することなく大幅な増出力を実施することが可能となる。プラント熱効率の低下を防止するためには、原子炉の圧力を増加させる、湿分分離器を湿分分離再熱器または湿分分離過熱器に置き換える、給水加熱系にポンプドレンアップを導入するなどすれば良い。沸騰水型軽水炉以外の直接サイクル型のプラントも同様の方法で増出力が可能である。
【0017】
このように、熱バランスシフト法による増出力運転を行う場合、給水温度が低下するため、原子炉圧力容器の側面へ設置されている給水ノズル部で炉水との温度差が従来よりも大きくなるため、環状流路内での熱成層化による温度変動に基づく高サイクル熱疲労の増加が予想される。この際、従来の給水ノズルでは温度変動発生の原因である熱成層化及び最大温度発生箇所は特定されていないため、熱応力低減のために増出力運転条件下での給水ノズル構造が不可欠となる。
【0018】
そこで、図2に本発明の好適な実施例である給水ノズルの概要を示す。また、図3から図6までに、これらの動作及び特性を説明するための温度変動と熱疲労のメカニズムの概要を示す。図3は給水ノズル周りの温度分布の概要図、図4は給水ノズル内部での熱成層化による密度差分離に関する現象説明図、図5は熱伝達率と流体温度変動に対する壁面温度変動割合の概要図、そして図6は給水ノズルの熱疲労評価フロー概要図を示す。
【0019】
図2は、原子炉圧力容器1へ給水配管12を設置した給水ノズルの部位を示している。ここで、炉水18と給水17との間で、これら二流体混合時の温度差による熱応力を低減するため、給水ノズル13内部にサーマルスリーブ14を設置して直接温度差のある二流体が接触することを回避し、サーマルスリーブの先端にある給水スパージャ15から原子炉圧力容器1中へ噴出する構造になっている。このとき、給水ノズル13とサーマルスリーブ14間における狭い環状流路16(以下、ギャップδと略すことも有る)内での流体温度変動を抑制し、当該ギャップ16内で自然対流熱伝達を小さくし、給水ノズル内壁表面(以下、給水ノズル内面とも言う。)13aでの材料の温度変動を抑制する必要がある。そのためには、従来から行われている構造強度の観点から検討するだけではなく、熱疲労の元凶である熱成層界面形成による流体温度変動発生原因を抑制する必要がある。そこで、本発明ではこのギャップ寸法の適正化を検討した。
【0020】
図3は給水ノズル周りの温度分布Tの概要を示す。高温の炉水Trと低温の給水Tfwが給水ノズル部内で熱交換し、炉水の温度が低下する。一方、炉水18により加熱された給水17は炉内中央に向かう流れ方向に沿って温度上昇して、最終的に給水スパージャ
15出口から炉水中へ流出し温度差混合が生じる。このとき、環状流路内で炉水は熱交換により温度低下し、高温水Trhは密度が小さいため給水ノズル上部13bへ、低温水
Trcは密度が大きいために給水ノズル下部13cへと密度差により分離して熱成層化を生じる。しかし、成層化が生じても熱成層界面19が静的に安定していれば、給水ノズルやサーマルスリーブは静的熱応力発生だけの問題となる。ところが、炉水18の下向き流れに含まれる外乱が熱成層界面19へ作用してここで温度変動が生じる。この際の流体温度変動がギャップ内での熱伝達を介して給水ノズル13内面及びサーマルスリーブ14外面へと伝播し、これら材料の温度変動に起因した熱疲労が発生することになり、これを回避する必要がある。
【0021】
また、給水ノズル周りでの熱流動現象を考える。図4は給水ノズル内部での熱成層化に関する現象を示す。図示のように、定格運転の給水時には、高温の炉水がギャップ内に停留しているところへ給水配管から低温の給水17が供給され、サーマルスリーブ14を介してギャップ内の高温水からサーマルスリーブ14内の低温水へ入熱21されて熱交換する。この結果、ギャップ内に停留している高温水は温度が低下する。しかし、狭いギャップ内では一様な温度低下とはならずに、自然対流を発生し高温水は密度が小さいためにギャップ内の上部へ、低温水は密度が大きいために下部へと密度差分離していく。なお、ギャップ内では小さなベナードセルと呼ばれる自然対流渦が徐々に合体して大きな対流渦
20aとなる。すなわち、給水ノズル13とサーマルスリーブ14間の環状流路内では自然対流熱伝達を伴う熱成層化現象が生じる。一方、起動停止時は、給水配管からの給水
17が停止状態になるため、サーマルスリーブ14内で低温の給水が周りから入熱21されて最終的には熱成層化が生じ、この界面19で温度揺らぎが生じる。
【0022】
ここで、熱流体の観点から、次式に示す無次元数である環状流路内でのレーリー数Raと給水ノズル内のレイノルズ数Recが考えられる。
【0023】
Ra=Gr・Pr=(δ3βgΔT/ν2)・Pr (1)
Rec=vDi/ν (2)
但し、δは環状流路の間隔(ギャップ)、βは体膨張係数、gは重力加速度、ΔTは温度差、νは動粘性係数、Prはプラントル数、vは管内流速、Diはノズル内径である。
【0024】
給水ノズルの寸法に関わらず、Ra>1700では環状流路内で小さなベナードセルが複合した大きな自然循環渦による自然対流場となり、またRec>1.0×104ではノズル内は一様に発達した強制対流場となる。ここで、式(1)に示すように、ギャップδの三乗に比例して、グラスホフ数Gr及びレーリー数Raが小さくなり、式(3)に示す関係から給水ノズルとサーマルスリーブ間での自然対流熱伝達率hが減少し、例え熱成層化が生じてもこの界面近傍での温度揺らぎが給水ノズル材及びサーマルスリーブ材の温度変動発生箇所22へ伝達しにくいことになる。
【0025】
Nu∝h∝Ram∝(δ3)m (3)
但し、Nuはヌッセルト数、mは指数である。
【0026】
次に、図5は給水ノズルの環状流路内での熱伝達率と流体温度変動に対する壁面温度変動割合を示す。ここで、縦軸のΔTwは壁面温度変動、ΔTfは流体温度変動を示している。図中のΔTw/ΔTf≦0.3 は、給水ノズルの熱疲労回避のための目標値を示す。図中右上に示すように、熱伝達率hの大きさによっては、大きな流体温度変動振幅ΔTfが小さな壁面温度変動振幅ΔTwになる可能性がある。検討条件は、BWR 110万
kWe級、給水ノズルの材質はステンレス、給水配管の内径はD=280mmとし、不確定な温度変動周波数fをパラメータとした。従来より、壁面温度変動に関する予測式として、次式が用いられている(出典は、H. Choe, C. M. Kwong, ASME 79−WA/HT−23,1980参照)。
【0027】
ΔTw/ΔTf=1/√2e2+2e+1 (4)
e=√ρmπCmλmf/h (5)
ここで、ρm は材料の密度、Cm は材料の比熱、λm は材料の熱伝導率、hは熱伝達率である。式(5)の定数eは流体から材料へ伝播される温度変動割合を示し、これらの割合を式(4)のような経験式として表したものである。これより、熱伝達率hの増加とともに、壁面温度変動割合ΔTw/ΔTfは単調増加する。また、変動周波数fが大きくなるとΔTw/ΔTfは低下する傾向がある。従って、図示の結果から許容変動熱応力の制限としてΔTw/ΔTf≦0.3 を満足するためには、実現象から考えられる最も小さな周波数f=0.01Hzを考慮してもh≦900W/m2K となる必要がある。これは、式(3)の関係からδ≦10mmを満足する必要がある。
【0028】
従って、下記の関係を満足すれば、熱成層化による給水ノズル内表面での熱疲労は回避できることになる。
【0029】
δ/Di≦0.03 (6)
ここで、Diは給水ノズル内径である。
【0030】
以上の給水ノズル構造及び条件に基づき、給水ノズル材の熱疲労を評価する手順を説明する。図6は給水ノズルの熱疲労評価フロー概要を示す。まず、低温の給水と高温の炉水がサーマルスリーブを介して熱交換する。次に、運転状態で左右の2つの現象に分かれる。図の左側は、定格運転時の高サイクル熱疲労の評価フローを示す。環状流路内で高低温水の密度差による分離が生じ、熱成層化が生じる。この成層界面で炉水の外乱による流体温度変動が生じる。この流体温度変動が自然対流熱伝達により給水ノズル内表面及びサーマルスリーブ外表面での材料壁面での温度変動として伝播され、これに起因する高サイクル熱疲労が発生する。これは急激に変動する温度揺らぎの変動荷重を意味する。原子炉全体の運転状態から見ると、小さな温度変動荷重を受けながら、長時間運転、すなわち変動回数が多いため、累積損傷係数UFh は大きい。一方、図の右側は、起動・停止時におけるサーマルサイクルによる低サイクル熱疲労の評価フローを示す。起動・停止時には、熱成層化した環状流路の上部と下部で最も大きな温度差が発生し、これに緩やかな熱過渡サイクルを受けることにより静的熱応力が緩やかに変動し、低サイクル熱疲労が起こる。これは緩やかな過渡状態の変動荷重を意味する。原子炉全体の運転状態から見ると、大きな温度変動荷重を受けるけれども、短時間運転、すなわち変動回数が少ないため、累積損傷係数UFl は小さい。これら両者の累積損傷係数UFh と累積損傷係数UFl を加算して最終的な累積損傷係数UF(Usage Factor)を算出し、給水ノズル及びサーマルスリーブ材料に対する熱疲労の可能性があるか否かを判定する。この値が1以下であれば構造的に健全であるということになる。
【0031】
以上の評価フローに従い、従来型と本発明の実施例との累積損傷係数UFの値を比較した。図7にその結果を示す。ここで、累積損傷係数UFは高サイクル熱疲労による累積損傷係数UFh と低サイクル熱疲労による累積損傷係数UFl との和で表す。従来の給水ノズルを用いて現行の運転を行う場合はUF=0.3 程度となるが、増出力運転時、すなわち給水温度が従来よりも約20から30℃低下する場合はUF=1.6 へと増加する。ここで、材料表面での熱疲労を回避できるクライテリヤとしてUF<1が一般的な基準となる。従って、従来構造及び寸法のままでは、ギャップ内での温度変動による熱疲労が問題となる可能性がある。一方、本発明の給水ノズルではUF=0.7 程度となり、熱的な構造健全性に問題ないことが確認された。なお、図示したものは同じ検討条件で評価した一例であり、二流体温度差,材料の種類,ギャップ,変動周波数,構造材の表面粗さ,炉水の流れ方,給水流量などにより、若干異なることを付記しておく。
【0032】
本発明のこのような実施例では、本発明の目的を達成する為に、給水ノズルとサーマルスリーブの間の環状流路内ギャップを、自然対流熱伝達率が900W/m2K 以下になるように小さくする。これにより、例え低温の給水と高温炉水との間の熱成層化が生じても給水ノズル内面への熱伝達率が小さく、給水ノズル内表面での温度変動が小さくなる。それにより、温度変動による熱疲労での材料健全性を確保することができる。
【0033】
図8から図17に、本発明の他の実施例を示す。まず図8は環状流路内での熱成層化を抑制するためにサーマルスリーブ外面14aへ少なくとも1つ以上のリブ機構である管外リブ14cを取り付けた場合の給水ノズルの構造の概要を示す。これは、サーマルスリーブの軸方向にノズル端部までの長さを有する。できれば、最小でも周方向に45度ピッチで8本設置すれば望ましい。これにより、ギャップ16内での熱伝達率も抑制できる効果を有する。これは、定格運転時に環状流路内に形成される熱成層界面での流体温度変動を減衰させるためのものである。この場合の長所は、従来式のサーマルスリーブ14の仕様をそのまま用いて、上記の熱伝達率低減効果を達成しうるものであるため、改造が比較的容易な点である。さらに、原子炉内圧や静的熱変形による撓みが生じても、当該リブ機構である管外リブ14cが給水ノズル内面とサーマルスリーブ外面で接触し、単純支持状態となるため、熱的な大変形も抑制できる。なお以下の実施例で、内外面へリブ機構を設置するものは、いずれも少なくとも1つ以上設置するものである。図9はサーマルスリーブ内面14bへリブ機構である管内リブ14dを取り付けた場合の給水ノズルの構造概要図を示す。これは、給水停止時にサーマルスリーブ内に形成される熱成層界面での流体温度変動を減衰させるためのものである。図10は図8と図9の両者の長所を組み合わせたものである。図11はサーマルスリーブを二重管構造にして自然対流を抑制する機構である。サーマルスリーブ14の外周に配置したサーマルスリーブB14eを二重に追加することにより、まずこれだけで対流形成を抑制でき、その上に各リブ14a,14b,14fで対流形成を抑制できる。
【0034】
このように、給水ノズルとサーマルスリーブの間の環状流路内ギャップを確保した上で、サーマルスリーブ内外表面上へ少なくとも周方向に1つ以上の軸方向に伸びたリブ機構を設置すると、局部的に給水ノズル内面とサーマルスリーブ外面が接触するかのごとき狭いギャップ部が形成され、このギャップ部位においては自然対流熱伝達から熱伝導に変化し、例え低温の給水と高温炉水との間でも熱成層化が生じない。もし熱成層化が生じたとしても、自然対流熱伝達が小さくなり、その結果として流体の温度変動は給水ノズル内面で急激に減衰することになるため、熱疲労の懸念は少なくなる。
【0035】
図8から図11の各実施例における給水ノズルの内面とリブ機構の間の関係も、給水ノズルの内面とリブ機構の給水ノズルの内面側へ突き出された突端との間の流路の間隔をδとし、給水ノズルの内径をDiとし、その間隔と前記内径との関係がδ/Di≦0.03であるようにして自然対流熱伝達率を低くすることが好ましい。
【0036】
図12はサーマルスリーブ14の外面へ、ギャップ縮小化のために螺旋状突起機構23を巻き付けたものである。ここで、給水系での圧力は本来のサーマルスリーブ14で持ち、螺旋状突起機構23はノズルとサーマルスリーブ間でのギャップδを小さくするためのものである。もちろん、この機構はサーマルスリーブよりも柔い構造で使用が可能であり、従来のサーマルスリーブへ当該機構を追設するだけで改造がほとんど不要となり増出力運転時の給水ノズルとして容易な対応法となる。図13は上図の他の実施例で、スクリュー状突起機構24である。これは、サーマルスリーブ14と一体構造でも、別構造のものを取り付けてもどちらでも良い。これにより、通常のノズルとサーマルスリーブ間でのギャップδを小さくすることが可能となり、大幅な構造変更を伴わないで、熱成層化による温度変動を抑制する効果がある。
【0037】
このような図12と図13の各実施例におけるギャップδの小ささについても、好ましくは、給水ノズルの内面と螺旋状突起機構23或いはスクリュー状突起機構24の間の関係も、給水ノズルの内面と螺旋状突起機構23或いはスクリュー状突起機構24の給水ノズルの内面側へ突き出された突端との間の流路の間隔をδとし、給水ノズルの内径をDi とし、その間隔と前記内径との関係がδ/Di≦0.03であるようにして自然対流熱伝達率を低くすることが好ましい。
【0038】
また、ギャップ内での熱成層化発生を防止するために、当該ギャップ部内へ熱的緩衝材を詰め込めば、ギャップ内での炉水の流動はなく、温度変動抑制効果はより大きくなる。この熱的緩衝材は少なくとも1つ以上の多層構造であり、熱変形による応力境界とはならないものである。
【0039】
また、螺旋状突起機構23或いはスクリュー状突起機構24はサーマルスリーブ外周面に巻きつけるように或いは一体にした螺旋状の部材であるが、その部材はサーマルスリーブ外周面にサーマルスリーブと同心状に装着された環状の部材であっても良い。
【0040】
図14は炉水の下降流内に含まれる外乱が環状流路内へ流入するのを抑制する板状のガイド機構25を板面を給水ノズルの給水出口に流入抑制度合いに応じた隙間を開けたうえでその給水出口に対面させて設けたものである。例え熱成層化が生じても、安定した成層界面のままであれば温度変動が生じないため、高サイクル熱疲労は抑制できる。本実施例はガイド機構25を給水スパージャの外面へ設置したが、原子炉圧力容器1内壁面へ当該機構を設置しても同じ効果が得られる。ガイド機構25の板形状は円盤状でも矩形上でも良い。
【0041】
図14の実施例は、本発明の他の実施例と組み合わせて実施することで、他の実施例を単独で用いる場合よりも一層のこと給水ノズル部の熱疲労の懸念は少なくなる。
【0042】
以上、既存のBWRの給水ノズルを本発明の給水ノズルに代替し、熱バランスシフト法による増出力運転を行えば、例え給水温度が従来よりも低下しても十分に高信頼性の給水ノズルのため、現状のプラント運転前に比べて約10〜20%程度の電気出力増加が図れる有効な原子力システムとなる。
【0043】
なお、本実施例は沸騰水型軽水炉プラントを例に示したが、本発明は加圧水型軽水炉の二次系やその他の形式の原子力発電システムにも適用可能である。
【0044】
このように、本発明のある実施例では、本発明の目的を達成する為に、第1には、給水ノズルとサーマルスリーブの間の環状流路内ギャップを、自然対流熱伝達率が900W/m2K 以下になるように小さくする。これにより、例え低温の給水と高温炉水との間の熱成層化が生じても給水ノズル内面への熱伝達率が小さく、給水ノズル内表面での温度変動が小さくなる。それにより、温度変動による熱疲労での材料健全性を確保することができる。
【0045】
又、ある実施例では、給水ノズルとサーマルスリーブの間の環状流路内ギャップを確保した上で、サーマルスリーブ内外表面上へ少なくとも周方向に1つ以上の軸方向に伸びたリブ機構を設置する。これにより、局部的に給水ノズル内面とサーマルスリーブ外面が接触するほど狭い部分が形成され、このギャップ部位においては自然対流熱伝達から熱伝導に変化し、例え低温の給水と高温炉水との間でも熱成層化が生じない。もし熱成層化が生じたとしても、自然対流熱伝達が小さくなり、その結果として流体の温度変動は給水ノズル内面で急激に減衰することになるため、熱疲労の懸念は少なくなる。
【0046】
本発明の実施例では、新設の原子炉においてあらかじめ給水温度を低下させる機能を備えておくことで、高圧系のプラント機器に過剰な設計余裕を持たせることなく、運転中または運転サイクルごとに電気出力を変更できることを可能とする原子力発電システムを提供することができる。
【0047】
その上、既設沸騰水型原子炉あるいは改良型沸騰水型原子炉の熱バランスシフトによる原子炉運転法を採用するに際しても、上記の各実施例による給水ノズルを原子炉の給水系統の原子炉圧力容器への接続に用いる給水ノズルとして組み込んで増出力式原子力発電システムとすることで、その運転による給水ノズル部の健全性悪化を克服でき、その運転方を採用することを許容できるに至る。
【0048】
さらに本発明の実施例では、既設の原子炉の増出力に対して原子炉システムの大幅な変更をせずに従来の給水ノズル内のサーマルスリーブの径を大きくし、当該ギャップを小さくすることで、通常運転時から増出力時運転に変更した場合でも、給水ノズルへ流入する給水温度が低下しても熱疲労上問題のない構造で、しかもコンパクトな給水ノズル及びスリーブを設置することにより、高圧タービンの設計余裕を維持するとともに給水系および炉内構造物への影響を軽減しつつ、他のプラント機器への影響が無く、低圧タービンに入る蒸気流量を増加させることで、プラントの増出力を可能とする原子力発電システムを提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、原子力発電システムの給水系統の原子炉圧力容器へ接続する給水ノズルに用途がある。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施例である熱バランスシフト法を採用できる原子炉設備(原子力発電システム)のシステム系統図。
【図2】本発明の好適な実施例である給水ノズルの断面図であり、右図が給水ノズルの長手方向の断面を示す図、左図が右図のA−A断面図である。
【図3】本発明の実施例である給水ノズル部の温度分布と、その温度分布を示す給水ノズル部位の対応図である。
【図4】本発明の実施例である給水ノズル部の温度変動現象を解説する図であり、上図は給水ノズル部の断面図であり、下図は上図のA−A断面における温度変動現象を示す図にして下図の右側の図が給水停止時を同じく左側の図が原子炉の定格運転時における給水時を表している。
【図5】本発明の実施例である給水ノズル部の熱伝達率に対する温度変動減衰特性図である。
【図6】本発明の実施例である給水ノズルの評価フローの図である。
【図7】本発明の実施例である給水ノズルの累積損傷係数の比較図である。
【図8】本発明の他の実施例である給水ノズルの断面図であり、右図が給水ノズルの長手方向の断面を示す図、左図が右図のA−A断面図である。
【図9】本発明のさらに他の実施例である給水ノズルの断面図であり、右図が給水ノズルの長手方向の断面を示す図、左図が右図のA−A断面図である。
【図10】本発明のさらに一層他の実施例である給水ノズルの断面図であり、右図が給水ノズルの長手方向の断面を示す図、左図が右図のA−A断面図である。
【図11】本発明のなお一層他の実施例である給水ノズルの断面図であり、右図が給水ノズルの長手方向の断面を示す図、左図が右図のA−A断面図である。
【図12】本発明のさらになお一層他の実施例である給水ノズルの概略図である。
【図13】本発明のさらに他の実施例である給水ノズルの概略図である。
【図14】本発明のさらに一層他の実施例である給水ノズルの概略断面図である。
【符号の説明】
【0051】
1…原子炉圧力容器、2…主蒸気管、3…高圧タービン、4…湿分分離器、5…低圧タービン、6…復水器、7…低圧給水加熱器、8…主給水ポンプ、9…高圧給水加熱器、
10…抽気流量調整弁、11…給水バイパス管、12…給水配管、13…給水ノズル、
13a…給水ノズル内面、13b…給水ノズル上部、13c…給水ノズル下部、14…サーマルスリーブ、14a…サーマルスリーブ外面、14b…サーマルスリーブ内面、14c…管外リブ、14d…管内リブ、14e…サーマルスリーブB、14f…管外リブB、
15…給水スパージャ、16…環状流路(ギャップ)、17…給水、18…炉水、19…熱成層界面、20a…環状流路内の自然対流渦、20b…サーマルスリーブ内の自然対流渦、21…入熱、22…温度変動発生箇所、23…螺旋状突起機構、24…スクリュー状突起機構、25…ガイド機構。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にサーマルスリーブを備えた給水ノズルにおいて、
前記給水ノズルの内面と前記サーマルスリーブの外面との間に形成される環状流路の間隔をδとし、前記給水ノズルの内径をDi とし、前記間隔と前記内径との関係がδ/Di≦0.03であることを特徴とする給水ノズル。
【請求項2】
内部にサーマルスリーブを備えた給水ノズルにおいて、
前記給水ノズルの内面と前記サーマルスリーブの外面との間、及び/又は前記サーマルスリーブの内面に前記給水ノズルや前記サーマルスリーブの長手方向に長手方向が向けられたリブを備えていることを特徴とする給水ノズル。
【請求項3】
請求項2において、前記サーマルスリーブが内側のサーマルスリーブと、その内側のサーマルスリーブの外周囲を囲うように配備された外側のサーマルスリーブとによる二重構造を備えていることを特徴とする給水ノズル。
【請求項4】
請求項2又は請求項3において、前記給水ノズルの内面と前記リブの前記給水ノズルの内面側へ突き出された突端との間の流路の間隔をδとし、前記給水ノズルの内径をDi とし、前記間隔と前記内径との関係がδ/Di≦0.03であることを特徴とする給水ノズル。
【請求項5】
内部にサーマルスリーブを備えた給水ノズルにおいて、
前記給水ノズルの内面と前記サーマルスリーブの外面との間に環状又は螺旋状の部材を備えていることを特徴とする給水ノズル。
【請求項6】
請求項5において、前記給水ノズルの内面と前記環状又は螺旋状の部材の間の流路の間隔をδとし、前記給水ノズルの内径をDi とし、前記間隔と前記内径との関係がδ/Di≦0.03であることを特徴とする給水ノズル。
【請求項7】
内部にサーマルスリーブを備えた給水ノズルにおいて、
前記給水ノズルの内面と前記サーマルスリーブの外面との間に形成される環状流路に板面を対向させ、且つ前記給水ノズルの出口とは間隔を置いて配置した板状の部材を備えている給水ノズル。
【請求項8】
請求項1から請求項6までのいずれか一項において、前記給水ノズルの内面と前記サーマルスリーブの外面との間に形成される環状流路に板面を対向させ、且つ前記給水ノズルの出口とは間隔を置いて配置した板状の部材を備えている給水ノズル。
【請求項9】
請求項1から請求項8までのいずれか一項において、
前記給水ノズルは原子炉圧力容器に設けられ、且つ前記原子炉圧力容器と接続されている蒸気タービンから排出した蒸気を凝縮して得られた給水を前記蒸気タービンから抽気した蒸気によって加熱する給水加熱器を備えている給水系統に接続されることを特徴とする給水ノズル。
【請求項10】
原子炉圧力容器と、前記原子炉圧力容器内の蒸気を通す主蒸気管と、前記主蒸気管を経由して導入した前記蒸気で駆動される蒸気タービンと、前記蒸気タービンから排出された蒸気を凝縮して給水を作る復水器と、前記復水器から受け入れた前記給水を前記タービンの途中段階から抽出した蒸気で加熱する給水熱交換器と、前記給水加熱器で加熱された前記給水を前記圧力容器に設けてある給水ノズルを通じて前記圧力容器内に給水する給水配管と、を備えた原子炉設備において、
前記給水ノズルとして、請求項1から請求項9までのいずれか一項に記載の給水ノズルを採用してあることを特徴とする原子炉設備。
【請求項1】
内部にサーマルスリーブを備えた給水ノズルにおいて、
前記給水ノズルの内面と前記サーマルスリーブの外面との間に形成される環状流路の間隔をδとし、前記給水ノズルの内径をDi とし、前記間隔と前記内径との関係がδ/Di≦0.03であることを特徴とする給水ノズル。
【請求項2】
内部にサーマルスリーブを備えた給水ノズルにおいて、
前記給水ノズルの内面と前記サーマルスリーブの外面との間、及び/又は前記サーマルスリーブの内面に前記給水ノズルや前記サーマルスリーブの長手方向に長手方向が向けられたリブを備えていることを特徴とする給水ノズル。
【請求項3】
請求項2において、前記サーマルスリーブが内側のサーマルスリーブと、その内側のサーマルスリーブの外周囲を囲うように配備された外側のサーマルスリーブとによる二重構造を備えていることを特徴とする給水ノズル。
【請求項4】
請求項2又は請求項3において、前記給水ノズルの内面と前記リブの前記給水ノズルの内面側へ突き出された突端との間の流路の間隔をδとし、前記給水ノズルの内径をDi とし、前記間隔と前記内径との関係がδ/Di≦0.03であることを特徴とする給水ノズル。
【請求項5】
内部にサーマルスリーブを備えた給水ノズルにおいて、
前記給水ノズルの内面と前記サーマルスリーブの外面との間に環状又は螺旋状の部材を備えていることを特徴とする給水ノズル。
【請求項6】
請求項5において、前記給水ノズルの内面と前記環状又は螺旋状の部材の間の流路の間隔をδとし、前記給水ノズルの内径をDi とし、前記間隔と前記内径との関係がδ/Di≦0.03であることを特徴とする給水ノズル。
【請求項7】
内部にサーマルスリーブを備えた給水ノズルにおいて、
前記給水ノズルの内面と前記サーマルスリーブの外面との間に形成される環状流路に板面を対向させ、且つ前記給水ノズルの出口とは間隔を置いて配置した板状の部材を備えている給水ノズル。
【請求項8】
請求項1から請求項6までのいずれか一項において、前記給水ノズルの内面と前記サーマルスリーブの外面との間に形成される環状流路に板面を対向させ、且つ前記給水ノズルの出口とは間隔を置いて配置した板状の部材を備えている給水ノズル。
【請求項9】
請求項1から請求項8までのいずれか一項において、
前記給水ノズルは原子炉圧力容器に設けられ、且つ前記原子炉圧力容器と接続されている蒸気タービンから排出した蒸気を凝縮して得られた給水を前記蒸気タービンから抽気した蒸気によって加熱する給水加熱器を備えている給水系統に接続されることを特徴とする給水ノズル。
【請求項10】
原子炉圧力容器と、前記原子炉圧力容器内の蒸気を通す主蒸気管と、前記主蒸気管を経由して導入した前記蒸気で駆動される蒸気タービンと、前記蒸気タービンから排出された蒸気を凝縮して給水を作る復水器と、前記復水器から受け入れた前記給水を前記タービンの途中段階から抽出した蒸気で加熱する給水熱交換器と、前記給水加熱器で加熱された前記給水を前記圧力容器に設けてある給水ノズルを通じて前記圧力容器内に給水する給水配管と、を備えた原子炉設備において、
前記給水ノズルとして、請求項1から請求項9までのいずれか一項に記載の給水ノズルを採用してあることを特徴とする原子炉設備。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2006−125950(P2006−125950A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−313221(P2004−313221)
【出願日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
[ Back to top ]