説明

給油装置および給油装置を備えたエレベータ

【課題】過給油を容易に制限しながら良好な給油を行うことができるようにした給油装置の提供。
【解決手段】潤滑油を供給した給油ケース1内にリターンカセット2を配置し、このリターンカセット2に形成した案内部22を通してその一部である吸い上げ部29を給油ケース1内の潤滑油中に浸すと共に、その主体部である送油側保持部28をリターンカセット2内に収納配置した吸い上げシート4を設け、この吸い上げシート4によって吸い上げた潤滑油を給油ベロー部33〜35に供給するように油透過性シート30を一対の非油透過性シート31、32間に挟み込んで構成した給油ユニット5を設け、リターンカセット3には、吸い上げシート4から回収した余剰潤滑油をリターンカセット3に回収した後に給油ケース1へ戻す落下回収部23、24を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガイドレールのガイド面に給油を行う給油装置および給油装置を備えたエレベータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の給油装置として、乗りかごに連動して上下動する部分に給油ケースを取り付け、この給油ケース内に潤滑油と、この潤滑油の供給を受けると共にガイドレールのガイド面に接触しながら同部へ給油を行う油透過性部材を配置した構成が知られている。油透過性部材への潤滑油の補給では、給油ケース内の潤滑油中に強化繊維製の油透過性部材の少なくとも一部を浸した構成(例えば、特許文献1〜5を参照)や、一端部を給油ケース内の潤滑油中に浸した含浸部材を設け、この含浸部材の他端部を給油ケースの他の位置に配置した油透過性部材に接続し、含浸部材から吸い上げた潤滑油を油透過性部材に供給するようにした構成(例えば、特許文献6〜8を参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−87229号公報
【特許文献2】特開平11−92053号公報
【特許文献3】特開平11−100187号公報
【特許文献4】特開2000−247561号公報
【特許文献5】特開2007−15782号公報
【特許文献6】特開昭54−3745号公報
【特許文献7】特開2000−136077号公報
【特許文献8】特開2006−264857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の給油装置では、適量の潤滑油をガイド面に供給するのが難しかった。つまり、特許文献1〜5に示された従来の給油装置では、給油ケース内の潤滑油中に浸した強化繊維製油透過性部材の油透過性が非常に優れているため、ガイド面に対して過給油となってしまい、また強化繊維製油透過性部材の使用量が多いことから高価な給油装置になってしまうことが分かった。また、特許文献6〜8に示された従来の給油装置では、過給油が発生することや、その回収構造について提案されているが、過給油自体を制限することについては考慮されていなかった。
【0005】
本発明は、前述した従来技術における実状からなされたもので、その目的は、過給油を容易に制限しながら良好な給油を行うことができるようにした給油装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、ガイドレールのガイド面に接触可能な給油ベロー部を有し、給油ケース内の潤滑油を吸い上げて上記給油ベロー部に供給するように構成した給油装置において、上記給油ケース内に配置したリターンカセットと、その一部である吸い上げ部を上記給油ケース内の潤滑油中に浸しその主体部である送油側保持部を上記リターンカセット内に収納配置した吸い上げシートと、この吸い上げシートによって吸い上げた潤滑油を上記給油ベロー部に供給する給油ユニットと、上記吸い上げシートから上記リターンカセットに回収した余剰潤滑油を上記リターンカセットから上記給油ケースに戻す落下回収部とを設けたことを特徴とする。
【0007】
このように構成した本発明では、吸い上げシートを使用しているため形状や幅等を簡単に調整して給油量をふさわしく制限しながら容易に調整可能に給油ユニットの給油ベロー部またはガイド面へ給油することができるので、同部での過給油を防止することができ、しかも、リターンカセット内に吸い上げシートを収納配置しているため、吸い上げシートで過給油状態になっても余剰潤滑油を滴下させてリターンカセット内に確実に回収することができ、その後、落下回収部を通して給油ケース内に確実に回収することができる。
【0008】
また本発明は、上記リターンカセットの底部に、上記吸い上げシートの下面と接触する複数の回収用突起物を設けたことを特徴とする。
【0009】
このように構成した本発明では、リターンカセットの底面に複数の回収用突起物を設けて、この回収用突起物が吸い上げシートの下面に接触するようにしているため、ガイドレールに沿って給油装置が上下動する際に振動が生じたり余剰潤滑油が生じたりしたとき、吸い上げシートの下面からその余剰潤滑油をリターンカセットに回収し、その後、給油ケース内へと確実に戻すことができる。
【0010】
さらに本発明は、上記リターンカセットに、上記吸い上げシートの上記吸い上げ部を挿入配置する案内部を形成したことを特徴とする。
【0011】
このように構成した本発明では、リターンカセットには、吸い上げシートの吸い上げ部を望まない部分と接触しないように下方に導いて給油ケース内の潤滑油中に浸すようにすることができると共に、吸い上げ部から直接リターンカセット内へ潤滑油を供給してしまうのを防止することができる。しかも、余剰潤滑油を回収するためのリターンカセットを活用して他の部分に給油しないようにしたり、吸い上げ部の位置保持を簡単に行うことができる。
【0012】
さらにまた本発明は、上記給油ユニットは、一対の非油透過性シート間に油透過性シートを挟み込んだ構成を有しており、上記吸上げシートに上記油透過性シートを接触したことを特徴とする。
【0013】
このように構成した本発明では、吸い上げシートを通して給油ケース内から吸い上げられた潤滑油は油透過性シートへと供給されることになるが、この油透過性シートは上下に配置した非油透過性シートによって挟み込まれているため、必要な供給量を保持しながら、油透過性シート単独の場合のように過給油されて潤滑油が滴下することを防止することができる。しかも、吸い上げシートおよび油透過性シートは従来のような大きなボリュームを持つものではなくシート状であるので、潤滑油の供給路における送油量を決定することになる断面積または幅を容易に増減調整することができ、両者の相乗効果によって給油ベロー部またはガイド面への過給油を防止することができる。
【0014】
また本発明は、昇降路に立設され、昇降体の昇降を案内するガイドレールのガイド面に接触可能な給油ベロー部を有し、給油ケース内の潤滑油を吸い上げて上記給油ベロー部に供給するように構成した給油装置を備えたエレベータにおいて、上記給油ケース内に配置したリターンカセットと、その一部である吸い上げ部を上記給油ケース内の潤滑油中に浸しその主体部である送油側保持部を上記リターンカセット内に収納配置した吸い上げシートと、この吸い上げシートによって吸い上げた潤滑油を上記給油ベロー部に供給する給油ユニットと、上記吸い上げシートから上記リターンカセットに回収した余剰潤滑油を上記リターンカセットから上記給油ケースに戻す落下回収部とを設けたことを特徴とする。
【0015】
このように構成した本発明では、昇降体の昇降を案内するガイドレールへの給油を行うエレベータの給油装置として、吸い上げシートを使用しているため形状や幅等を簡単に調整して給油量をふさわしく制限しながら容易に調整可能に給油ユニットの給油ベロー部またはガイド面へ給油することができるので、同部での過給油を防止することができ、しかも、リターンカセット内に吸い上げシートを収納配置しているため、吸い上げシートで過給油状態になっても余剰潤滑油を滴下させてリターンカセット内に確実に回収することができ、その後、落下回収部を通して給油ケース内に確実に回収することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、吸い上げシートを使用しているため形状や幅等を簡単に調整して給油量をふさわしく制限しながら容易に調整可能に給油ユニットの給油ベロー部またはガイド面へ給油することができる。またリターンカセット内に吸い上げシートを収納配置しているため、吸い上げシートで過給油状態になっても余剰潤滑油を滴下させてリターンカセット内に確実に回収することができ、その後、落下回収部を通して給油ケース内に確実に回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の給油装置の第1の実施例を示す分解斜視図である。
【図2】図1に示した給油装置の給油ケースを示す斜視図である。
【図3】図1に示した給油装置の吸い取りパッドを示す斜視図である。
【図4】図1に示した給油装置のリターンカセットを示す斜視図である。
【図5】図1に示した給油装置の吸い上げシートを示す斜視図である。
【図6】図1に示した給油装置の給油ユニットを示す斜視図である。
【図7】図6に示した給油ユニットの油透過性シートを示す斜視図である。
【図8】本発明の給油装置の第2の実施例による吸い上げシートを示す斜視図である。
【図9】本発明の給油装置の第3の実施例による給油ユニットを示す分解斜視図である。
【図10】本発明の給油装置を備えたエレベータの実施例を示す正面図である。
【図11】図10に示した給油装置の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る給油装置および給油装置を備えたエレベータの実施例を図に基づき説明する。
【0019】
給油装置は、図1に示すように、潤滑油を溜めた給油ケース1と、この給油ケース1内に配置した平板状の油透過性を有する吸い取りパッド2と、この吸い取りパッド2上に配置されて過給油を回収するプラスチック製のリターンカセット3と、このリターンカセット3内に収納して配置されると共にその一部を給油ケース1内の潤滑油中に浸した吸い上げシート4と、この吸い上げシート4を通して潤滑油の供給を受けながら図示しないガイドレールのガイド面に接触して給油する給油ユニット5とを有して構成している。
【0020】
給油ケース1は、図2に示すように、給油装置をガイドレールのガイド面に給油可能に取り付けたとき、給油ケース1自体がガイドレールのガイド面に接触しないように切り欠いて形成した挿入凹部6を有する有底容器状に形成され、その内部には潤滑油が溜められている。この給油ケース1は、その外周部全体を少し高い側壁によって囲んでいるのに対して、挿入凹部6に対応する部分の外周部は少し低いが潤滑油の液面よりは高い側壁を有している。図示を省略しているが、この給油ケース1には開閉可能な蓋が取り付けられており、この蓋には閉じた状態で挿入凹部6に該当する位置に同様の切り欠きを形成している。また、他の実施例では図示の部分を内側給油ケースとし、それを蓋付きの外側給油ケース内に収納して給油ケース1を構成しても良い。
【0021】
この給油ケース1の底部には、挿入凹部6を包囲するような位置関係で樹立され、かつ、詳細を後述する吸い取りパッド2、リターンカセット3、吸い上げシート4および給油ユニット5などの位置決めを行うことになる複数本の柱状体7、8、9と、吸い取りパッド2の高さ方向を規定しながら保持する保持部10とを有している。この保持部10は様々な構成を採ることができるが、ここでは挿入凹部6に対応して形成した給油ケース1の外周側壁よりも高さが低く、かつ給油ケース1内の潤滑油の油面よりは高い位置に保持部10を形成している。より具体的には、給油ケース1の底部に複数の起立片11a、11b、11c、11dを離散的に樹立し、その各起立片11a〜11dの同じ高さ位置に受け部をそれぞれ形成することにより、各受け部全体によって吸い取りパッド2を保持する保持部10を構成している。
【0022】
吸い取りパッド2は、図3に示すように、油透過性を有する板状部材で構成され、給油ケース1の柱状体7が挿入されることになる挿入孔12と、柱状体8が係合されることになる切り欠き部13と、柱状体9が挿入されることになる挿入孔14と、詳細を後述するリターンカセット3と係合する係合部15、16、17を有して構成されている。
【0023】
上述した吸い取りパッド2上に配置したリターンカセット3は、図4に示すように、後述する吸い上げシート4を収納して潤滑油をある程度溜めることが可能な高さの低い側壁を有する容器状であり、給油ケース1の柱状体7が挿入されることになる挿入孔12を有した円筒状部18と、柱状体8が係合されることになる切り欠き部19と、柱状体9が挿入されることになる挿入孔14を有した円筒状部20と、給油ケース1の挿入凹部6に対応する部分を切り欠いた切り欠き部21と、吸い取りパッド2の係合部15内に挿入される角筒状の案内部22と、潤滑油を底板から給油ケース1内に落として回収するために使用する角筒状の落下回収部23、24と、底板上に形成されて吸い上げシート4の下面に接触することになる複数の回収用突起物25とを有して構成している。
【0024】
吸い上げシート4は、図5に示すように、リターンカセット3内に収まるように四角形状シートを切り欠き加工して略U字状の主体部として形成した送油側保持部28と、給油ケース1内の潤滑油中に浸して使用する吸い上げ部29とを有して構成している。送油側保持部28は、給油ケース1の柱状体7、9およびリターンカセット3の円筒状部18、20がそれぞれ挿入されることになる挿入孔12、14と、給油ケース1の柱状体8が係合されることになる切り欠き部26と、給油ケース1の挿入凹部6に対応する部分に形成した切り欠き部27とを有している。また吸い上げ部29は、四角形状シートの状態で挿入凹部6に対応する部分の一部を利用して形成し、かつ、下方に折り返した後にリターンカセット3の角筒状部22内に挿入し、下端部を給油ケース1の底板近くまで延ばして給油ケース1内の潤滑油中に浸している。
【0025】
この吸い上げシート4は、天然繊維または合成繊維から成る不織布繊維集束体シートなどから構成され、その厚みは3mm以下であり、潤滑油の粘土が高くなる冬場でも十分な保油能力と油移送能力を有して常に潤滑油の飽和状態を保持している。しかも、このような吸い上げシート4は1枚の四角形状シートを切り抜いて一体に作成することができるので、部品数を少なくし、折り返しによって吸い上げ部29を簡単に得ることができる。
給油ユニット5は、図6に示すように、中間部に設けた油透過性シート30と、この油透過性シート30の上下に配置した一対の非油透過性シート31、32とから成る積層体として構成され、適当な位置に設けたタックなどの固定手段によって一体に束ねられている。この一対の非油透過性シート31、32には、給油ケース1の柱状体7が挿入されるように積層方向に貫通した挿入孔12と、給油ケース1の柱状体9が挿入されるように積層方向に貫通した挿入孔14と、給油ケース1の柱状体8が係合する係合部13と、給油ケース1の挿入凹部6にガイドレールのガイド面が位置するように給油装置を取り付けた状態で、挿入凹部6に対応する給油ケース1の外周側壁よりも多少内側に突出してガイドレールの三方のガイド面にそれぞれ接触して給油可能な給油シートから成る給油ベロー部33、34、35とを有している。
【0026】
油透過性シート30は、毛管作用を利用した繊維の織物または不織布から成るシートなどから構成され、その厚みは2mm以下である。一方、非油透過性シート31、32は、含油性を有さないが耐油性を有する軟質プラスチックシートや発泡プラスチックシート、または独立気泡のウレタンシート、ポリエチレンシート、ポリプロピレンシートから構成しており、その厚みは1〜7mmである。給油ベロー部33〜35は、油透過性シート30と非油透過性シート31、32との積層体全体の端面を覆って配置され、上述した油透過性シート30と非油透過性シート31、32との積層体を束ねる上述の固定手段のうちの一部を兼用して積層体を貫通する方向にタックを設けたり縫い合わせたりして固定している。この給油ベロー部33〜35は、ナイロン系、またはウレタン系もしくはポリエステル系の繊維の単体か複合体の不織布繊維等で構成すると良い。
【0027】
この給油ユニット5の油透過性シート30は、図7に示すように、四角形状シートを切り欠き加工して形成しているが、潤滑油を十分に含んだ飽和状態でガイドレールのガイド面に過給油とはならずに適量の給油を供給するような厚さと幅を有している。この油透過性シート30は、予め定められた位置に保持できるように、給油ケース1の柱状体7、9がそれぞれ挿入される挿入孔12、14を有する挿入保持部36、37と、挿入凹部6に対応する位置に三方向に延びて形成した接触部38、39、40と、各挿入保持部36、37間を接続するように形成した比較的幅の狭い油導部41と、後述するように下方に折り曲げられて使用されて積層体の外部に位置して潤滑油を導くことになる接続用油導部42a、42bと、この接続用油導部42a、42bの端部に形成されて図1に示した吸い上げシート4の送油側保持部28に接触することになる接続部43a、43bとを有して形成されている。油透過性シート30を非油透過性シート31、32で挟み込んだ状態で、接続用油導部42a、42bを除く主体部は非油透過性シート31、32の投影面内に位置しているが、この接続用油導部42a、42bは同投影面からはみ出している。
【0028】
上述した接触部38〜40は、折り返して図6に示した固定手段によって給油ベロー部33〜35と接触した状態に保持されている。さらに油透過性シート11を形成する各部は、潤滑油を十分に含んだ飽和状態でガイドレールのガイド面へ過給油とならないように適量の給油を行うようにその断面積や幅が選定されている。つまり、油導部41や接続用油導部42a、42bはその断面積により、接触部38〜40に供給する給油量が決定されるため、シートの厚さが決まればその幅を調整することで供給する給油量の調整を行うことが可能となっている。
【0029】
組み立て状態で、給油ユニット5の油透過性シート30は、図7に示した接続部43a、43bが下面側に位置するように接続用油導部42a、42bの途中を折り曲げている。このため、この折り返した接続部43a、43bが吸い上げシート4の送油側保持部28に接触し、折り曲げた接続用油導部42a、42bは、給油ユニット5の外周部に位置して吸い上げシート4から吸い上げられた潤滑油を油透過性シート30の接触部38〜40を通して給油ベロー部33〜35へと導く油道部となっている。このように油透過性シート30も、1枚の四角形状シートを切り抜いて一体に作成することができるので、部品数を少なくすることができる。
【0030】
この実施例では、油透過性シート30と、この油透過性シート30の上下に配置した非油透過性シート31、32とから成る積層体を適当な位置に設けた固定手段によって束ねたとして説明したが、上述した給油ユニット5の下部に吸い上げシート4を配置した状態で、一つの積層体と見なし、これらを共通の固定手段によって束ねて一体に構成しても良い。この場合、図7に示した油透過性シート30の接続部43a、43bと、図5に示した吸い上げシート4の送油側保持部28とを予め合致させて接触させた状態とし、その後に両者を固定手段によって一体にすることができるので、同接触部を常に良好な接触状態に保持することができる。しかも、給油ユニット5および吸い上げシート4の積層方向に形成した挿入孔12、14および切り欠き部26、13を予め積層方向に揃えることができるので、給油ユニット5および吸い上げシート4を給油ケース1内に収納するとき、柱状体7〜9へと挿入する作業が容易になる。
【0031】
上述した積層体の構成としていずれを採用した場合でも、給油装置として組み立てるときは、給油ケース1内に形成した起立部11a〜11dの受け部によって構成した保持部10の高さ以下の油面となるように所定量の潤滑油を給油ケース1内に注入する。その後、図1に示した給油ケース1の底部に設けた柱状体7、9に吸い取りパッド2の挿入孔12、14を挿入し、また柱状体8に切り欠き部13を係合しながら、保持部10に吸い取りパッド2を収納する。このとき、保持部10の高さによって吸い取りパッド2が潤滑油の液面よりも上方の所定の高さに保持される。
【0032】
この吸い取りパッド2を配置するとき、リターンカセット3、吸い上げシート4および給油ユニット5の各挿入孔12、14と、各切り欠き部13、19、26がそれぞれ合致するように予め仮組み立てした状態にし、給油ケース1の底部に設けた柱状体7、9に挿入孔12、14を挿入しながら、柱状体8に切り欠き部13、19、26を係合させても良いし、吸い取りパッド2を配置した後、リターンカセット3、吸い上げシート4および給油ユニット5を順次配置しても良い。
【0033】
いずれの場合も、組み立てが完了したとき、吸い取りパッド2とその上に配置したリターンカセット3は、吸い取りパッド2の係合部15にリターンカセット3の案内部22が挿入され、吸い取りパッド2の係合部16、17にリターンカセット3の落下回収部23、24が合致している。また、リターンカセット3内に収納配置した吸い上げシート4は、その吸い上げ部29の下端部をリターンカセット3の案内部22内に通した後、給油ケース1内の潤滑油中に浸させる。さらに吸い上げシート4と給油ユニット5間では、油透過性シート30の接続部43a、43bと、吸い上げシート4の送油側保持部28とが接触状態となっている。
【0034】
給油ケース1内の給油ユニット5は、ほぼ水平に保持しても、少し傾けて保持しても良いが、リターンカセット3およびリターンカセット3内に収納した吸い上げシート4はほぼ水平に配置するのが望ましい。このような構成とすれば、特に、吸い上げシート4から余剰潤滑油が滴下しても、滴下した潤滑油はリターンカセット3内に確実に回収され、その後、落下案内部23、24を通して給油ケース1内に確実に回収することができる。また、リターンカセット3の底面には複数の回収用突起物25が設けられ、この回収用突起物25が吸い上げシート4の下面に接触しているため、ガイドレールに沿ってエレベータ乗りかごおよび給油装置が上下動する際に振動が生じたり、余剰潤滑油が生じると、吸い上げシート4の下面からその余剰潤滑油をリターンカセット3内に戻すことができる。
【0035】
また同様の潤滑油の回収は、吸い取りパッド2でも行われる。つまり、給油ケース1内には、上述した起立片11a〜11dとは異なる少なくとも一つの起立片11eを設けており、この起立片11eは、保持部10によって所定の位置に吸い取りパッド2を保持させたとき、この吸い取りパッド2の下面と接触するようにしている。上述した起立片11a〜11dが吸い取りパッド2の高さ位置を決定するのに対して、この起立片11eは、吸い取りパッド2の下面と接触する板状に成されている。吸い取りパッド2は、積極的に潤滑油を吸い上げたり吸収したりするものではないが、プラスチック製のリターンカセット3の裏面に何等かの理由で潤滑油が付着したとしても、吸い取りパッド2へと吸収することができる。その後、吸い取りパッド2に過剰な潤滑油が供給されたとしても、その過剰な潤滑油が伝わって滴下または落下するように案内するものであり、過剰な潤滑油を確実に給油ケース1内に回収することができる。
【0036】
この説明から分かるように、給油ケース1内に設けた柱状体7〜9、複数の起立片11a〜11dおよび起立片11eは、それぞれ類似の働きをするので、複数の機能を同時に備えるよう構成することもできる。例えば、柱状体7〜9はその軸方向の途中に径大部を有し、この径大部によって吸い取りパッド2等の挿入深さを規制すれば、保持部10の機能を兼用させることもできるし、また起立片11a〜11dと起立片11eを一体的に形成して両者の機能を兼用させることもできる。
【0037】
給油ケース1内に吸い取りパッド2、リターンカセット3、吸い上げシート4および給油ユニット5の収納が完了すると、給油ケース1内の潤滑油は吸い上げシート4の吸い上げ部29から吸い上げられ、主体部である送油側保持部28にまで供給される。その後、接続用油導部42a、42bを通して給油ユニット5の油透過性シート30へと導かれる。給油装置が未使用で吸い上げシート4が飽和状態となっても、上述したように吸い上げシート4の下部に位置するリターンカセット3の回収用突起物25によって過剰な潤滑油が滴下され、やがて給油ケース1内へと確実に回収される。また油透過性シート30が飽和状態となっても、その上下に配置した非油透過性シート31、32に挟み込まれているため、不所望な滴下は生じない。
【0038】
また給油装置が稼働してガイドレールのガイド面に給油ベロー部33〜35から潤滑油を供給するときは、吸い上げシート4の吸い上げ部29や、油透過性シート30の接続用油導部42a、42bまた油導部41などの簡単に調整できる構成部分で適量に調整された潤滑油が供給されるため、ガイド面への過剰給油を防止しながら必要量の給油を安定して保持することができる。
【0039】
上述した給油装置によれば、吸い上げシート4を通して給油ケース1内から吸い上げられた潤滑油は油透過性シート30へと供給されることになるが、この油透過性シート30は上下に配置した非油透過性シート31、32によって挟み込まれているため、必要な供給量を保持しながら、油透過性シート30単独の場合のように過給油されて潤滑油が滴下することを防止することができる。しかも、油透過性シート30は従来のような大きなボリュームを持つものではなくシート状であるので、潤滑油の供給路における送油量を決定することになる断面積または幅を容易に増減調整することができる。各シートは、次の例に限定するわけではないが、油透過性シート30の厚みは2mm以下、非油透過性シート31、32の厚みは1〜7mm、吸い上げシート4の厚みは3mm以下で十分であり、積層方向に小型にすることができる。これによって、必要な供給量を保持していながら、従来のような過給油を容易に防止することができる。
【0040】
より具体的にこの実施例と従来構成を比較してみると、従来構成では、ガイドレールのガイド面に給油ベロー部33〜35を接触させながら昇降させたとき、その摺動距離が1Kmの時点まで油膜の厚さが急速に50μmを超えており、簡易測定器による測定が不可能な厚さになっていた。これに対して本実施例では、同様にガイドレールのガイド面に給油ベロー部33〜35を接触させながら昇降させたとき、その摺動距離が1Kmの時点までは油膜の厚さが増加して行くが、その勾配は従来の場合に比べて穏やかなものであり、また摺動距離が1Kmを超えてからは油膜の厚さはほぼ20μmで安定していた。このようにして本実施例では、従来のような過給油を容易に防止しながら、必要な供給量を安定して保持することができる。
【0041】
また給油ケース1内の潤滑油の油面よりも上方部に吸い上げシート4を配置し、給油ケース1内の潤滑油中にその吸い上げ部29を浸して吸い上げるようにし、この吸い上げシート29を通して油透過性シート30に潤滑油を補充するようにしたため、従来のように保油部材を給油ケース1内の潤滑油に直接浸した場合に比べて、この吸い上げ部29の幅等を調整して送油量を容易に増減することができるようになり、過給油を防止しながら適度の補給を行うことができる。しかも、この吸い上げシート4もシート状であるので、潤滑油の供給路における送油量を決定することになる断面積または幅を容易に増減調整することができし、高さ方向を抑えて給油装置を小型にすることもできる。
【0042】
以上説明したように第1の実施例の給油装置は、リターンカセット3内に吸い上げシート4を収納配置し、この吸い上げシート4を通して給油ユニット5の給油ベロー部33〜35へ給油するように構成しているため、吸い上げシート4から余剰潤滑油が滴下しても、滴下した潤滑油はリターンカセット3内に確実に回収され、その後、落下回収部23,24を通して給油ケース1内に確実に回収することができる。また吸い上げシート4はシート状であり、これを収納配置するリターンカセット3の深さも限られており大型化することはない。
【0043】
また、本実施例では、リターンカセット3の底面に複数の回収用突起物25を設け、この回収用突起物25が吸い上げシート4の下面に接触するようにしているため、ガイドレールに沿って給油装置が上下動する際に振動が生じたり余剰潤滑油が生じると、吸い上げシート4の下面からその余剰潤滑油をリターンカセット3内に戻すことができる。またリターンカセット3には、吸い上げシート4の吸い上げ部29を挿入案内する案内部22を設けているため、吸い取りパッド2など望まない部分と接触しないように吸い上げ部29を下方に導いて給油ケース1内の潤滑油中に浸すことができ、吸い上げ部29から直接リターンカセット3内に給油してしまうことを防止しながら、余剰潤滑油を回収するためのリターンカセット3を利用して他の部分に給油しないようにしたり、吸い上げ部29の位置保持を簡単に行うことができる。
【0044】
ここで、図8に基づき、本発明の給油装置の第2の実施例を説明する。
【0045】
先の実施例で吸い上げシート4は、給油ケース1内の潤滑油中に浸した1本の吸い上げ部29を通して給油ユニット5へ潤滑油を供給するようにしたが、図8に示すように、吸い上げシート4を切り欠き加工する際に、挿入凹部6に対応する部分を用いて複数本の吸い上げ部29a、29bを形成することもできる。この場合、給油ケース1内の潤滑油中に浸す吸い上げ部29a、29bの本数を調整することによって給油ケース1内から給油ユニット5へと供給する補給量を増減することができる。特に、このような構成とした場合、給油装置としては同じ構造のものを使用しながらも、吸い上げシート4の吸い上げ部29a、29bの使用数を増減するだけで補給量の調整を容易に行うことができる。
【0046】
次に、図9に基づき本発明の給油装置の第3の実施例を説明する。
【0047】
第3の実施例では、図9に示すように、先の実施例で説明した給油ユニット5と同様に、2枚の非油透過性シート31、32間に1枚の油透過性シート30を挟み込んで構成した給油ユニット5A、5Bを二組使用し、両給油ユニット5A、5B間には非油透過性シートでなるスペーサ44を配置して潤滑油の移動を制限し、下部に位置した給油ユニット5Bの下方に先の実施例で説明した吸い上げシート4を配置し、全体を固定手段によって束ねて合計8枚の積層体とするものである。両給油ユニット5A、5Bの構成は、図6に示した給油ユニット5の構成とほぼ同様であるが、図2に示した給油ケース1内に樹立した棒状体7に対応する部分も挿入孔13aとし、各挿入孔12、13a、14に各棒状体7〜9をそれぞれ挿入して位置決めするようにし、また吸い上げシート4と接触することになる接続用油導部42は挿入孔13a付近に形成した一つのみとしている。給油ユニット5Aと給油ユニット5B間に配置したスペーサ44は、非油透過性シートによって形成され、図示のように上下に配置した給油ユニット5A、5Bとほぼ同形状で、給油ケース1の柱状体7〜9がそれぞれ挿入される挿入孔12、13a、14を有する略U字状に成されている。このスペーサ44は省略することも可能である。
【0048】
このように、ほぼ同様に構成した給油ユニット5A、5Bを使用すると、両者の接続用油導部42はほぼ同じ場所に位置することになる。両者の油透過性シート30の接続用油導部42も同一構成であれば、下方に位置した給油ユニット5Bの接続用油導部42は、上方に位置した給油ユニット5Aの挿入保持部42に比べて撓みを形成することになるが、同部がシートから構成されて可撓性を有しているため容易に撓んで吸収することができる。しかも、両給油ユニット5A、5Bは同一構成体を使用できるので、全体としては安価な給油装置とすることができる。
【0049】
またガイドレールのガイド面への給油量に応じて給油ユニット5A、5Bの数を容易に増減して対応することができる。しかも、複数の給油ユニット5A、5Bを使用する場合は、給油ユニット5A、5B間に非油透過性シートによって形成したスペーサ44を挟み込んでいるため、このスペーサ44によって両給油ユニット5A、2B間で潤滑油の移動を無くしたり制限したりすることができる。例えば、給油ベロー部33〜35を通して上下に配置した両給油ユニット5A、5B間での潤滑油の移動を抑制して、それぞれの接続用油導部42を通しての給油のみにほぼ制限することもできる。これによって、給油ユニット5Aからガイドレールのガイド面への給油と、給油ユニット5Bからガイドレールのガイド面への給油とをバランス良く調整したり、またそれぞれの送油量を調整するのが容易になる。
【0050】
第3の実施例では、ほぼ同一構成の二組の給油ユニット5A、5Bを重ねて使用したが、5枚の非油透過性シートと2枚の油透過性シートを使用し、2枚の非油透過性シート間に1枚の油透過性シートを挟み込んだ構成が2カ所形成されるようにしても良い。この説明から分かるように、2枚の非油透過性シート31、32間に1枚の油透過性シート30を挟み込んだ構成を有すれば良く、非油透過性シートと油透過性シートの使用枚数を任意に設定することができるし、ユニットとしての取扱単位数も任意に決定することができる。
【0051】
上述した各実施例では、いずれの場合も2枚の非油透過性シート31、32間に1枚の油透過性シート30を挟み込んで構成した給油ユニットを用いるものとして説明したが、その他構成の給油ユニットを使用することもできる。いずれの場合も、給油ユニットの下部に配置されて給油ケース1内の潤滑油を吸い上げる吸い上げシート4を使用し、この吸い上げシート4をリターンカセット3内に収納配置し、この吸い上げシート4で吸い上げた潤滑油を給油ユニットに供給する構成を有していれば良い。
【0052】
ここで、図10〜図11に基づき本発明の給油装置を備えエレベータの実施例を説明する。
【0053】
本実施例のエレベータは、図10に示すように、建屋に形成される昇降路を昇降する昇降体、例えば、乗かご50および図示しない吊り合いおもりと、昇降路に立設され、乗かご50の昇降を案内するガイドレール51と、乗かご50の四隅に配設されると共にガイドレール51に摺接するガイドシュー52と、ガイドレール51の防錆のためガイドシュー52の上部に設けられる給油装置53とを備えている。
【0054】
給油装置53は、上述した第1〜第3の実施例の給油装置と同等の構造を有するものであり、図10および図11に示すように、給油ケース1がエレベータのガイドレール51に対向するように配置されるとともに、給油ベロー部33〜35がガイドレール51に摺接し、給油を行うようになっている。
【0055】
なお、この例では、乗かご50に給油装置を設けた例を説明したが吊り合いおもりに設けても良い。
【符号の説明】
【0056】
1 給油ケース
2 吸い取りパッド
3 リターンカセット
4 吸い上げシート
5 給油ユニット
6 挿入凹部
7〜9 柱状体
10 保持部
11a〜11e 起立片
12、13a、14 挿入孔
13 切り欠き部
15〜17 係合部
18 円筒状部
19 切り欠き部
20 円筒状部
21 切り欠き部
22 案内部
23、24 落下回収部
25 回収用突起物
26、27 切り欠き部
28 送油側保持部
29 吸い上げ部
30 油透過性シート
31、32 非油透過性シート
33〜35 給油ベロー部
36、37 挿入保持部
38〜40 接触部
41 油導部
42a、42b 接続用油導部
43a、43b 接続部
44 スペーサ
50 乗かご
51 ガイドレール
52 ガイドシュー
53 給油装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガイドレールのガイド面に接触可能な給油ベロー部を有し、給油ケース内の潤滑油を吸い上げて上記給油ベロー部に供給するように構成した給油装置において、
上記給油ケース内に配置したリターンカセットと、その一部である吸い上げ部を上記給油ケース内の潤滑油中に浸しその主体部である送油側保持部を上記リターンカセット内に収納配置した吸い上げシートと、この吸い上げシートによって吸い上げた潤滑油を上記給油ベロー部に供給する給油ユニットと、上記吸い上げシートから上記リターンカセットに回収した余剰潤滑油を上記リターンカセットから上記給油ケースに戻す落下回収部とを設けたことを特徴とする給油装置。
【請求項2】
上記リターンカセットの底部に、上記吸い上げシートの下面と接触する複数の回収用突起物を設けたことを特徴とする請求項1記載の給油装置。
【請求項3】
上記リターンカセットに、上記吸い上げシートの上記吸い上げ部を挿入配置する案内部を形成したことを特徴とする請求項1記載の給油装置。
【請求項4】
上記給油ユニットは、一対の非油透過性シート間に油透過性シートを挟み込んだ構成を有しており、上記吸上げシートに上記油透過性シートを接触したことを特徴とする請求項1記載の給油装置。
【請求項5】
昇降路に立設され、乗かご或いは吊り合いおもりの昇降を案内するガイドレールのガイド面に接触可能な給油ベロー部を有し、給油ケース内の潤滑油を吸い上げて上記給油ベロー部に供給するように構成した給油装置を備えたエレベータにおいて、
上記給油ケース内に配置したリターンカセットと、その一部である吸い上げ部を上記給油ケース内の潤滑油中に浸しその主体部である送油側保持部を上記リターンカセット内に収納配置した吸い上げシートと、この吸い上げシートによって吸い上げた潤滑油を上記給油ベロー部に供給する給油ユニットと、上記吸い上げシートから上記リターンカセットに回収した余剰潤滑油を上記リターンカセットから上記給油ケースに戻す落下回収部とを設けたことを特徴とする給油装置を備えたエレベータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−71957(P2012−71957A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−219284(P2010−219284)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000232955)株式会社日立ビルシステム (895)
【Fターム(参考)】