説明

給紙装置

【課題】コンパクトな構成でサバキ力の調整とサバキ逃げ位置の調整を実現する。
【解決手段】給紙装置は、搬送ローラ2と、サバキ部材7と、サバキ部材に弾性力を与えるばね10と、サバキ部材の押上げ部12と解除部13を有する伝達部材11と、ばねをサバキ部材に向けて撓ませる調整カム15と、解除部に接触して作動する圧解除カム16とを有する。圧解除カムにより伝達部材の解除部を移動させて押上げ部を圧解除方向に移動させる。ばねが調整カムに向けて撓み、サバキ部材が搬送ローラを押圧する力が解除される。サバキ部材と搬送ローラの間に隙間αができる。隙間に供給された印刷用紙がサバキ部材を押し下げてばねをさらに撓ませると、ばねの撓み量に対応する力でサバキ部材が印刷用紙を搬送ローラに押圧する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調整可能な弾性部材の弾性力でサバキ部材を搬送ローラに当接させ、搬送ローラとサバキ部材の間に送り込まれた印刷用紙を捌いて搬送する給紙装置に係り、特にコンパクトな構成でありながら、通常の用紙だけでなく厚紙やコシの強い用紙にまで対応できる広い調整範囲の中で十分なサバキ力を備えた給紙装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、センサで検出した用紙の待機位置に基づいてサバキモータを駆動し、サバキ板の角度を適切に自動調整することができる給紙装置が開示されている。この給紙装置においては、サバキ板は支持部材に支持されており、支持部材がサバキモータに連動するギア機構によって角度調整されるように構成されている。この発明によれば、用紙の紙質に応じた適切なサバキ角に自動設定できるため、用紙の捌きと搬送が確実であるという効果が期待される。
【0003】
上述した特許文献1記載の発明のように、従来の給紙装置に設けられたサバキ部材は、多様な用紙に対応するためにサバキ力を調整できる機構を備えている。一般に、サバキ力の調整はある設定範囲内で段階的又は無段階的に調整可能となっており、その多くはコイルばねのような弾性部材の使用長さを可変とすることでサバキ力の調整を行っている。
【0004】
図9は、このようなコイルばねによるサバキ力調整機構の一例を模式的に示したものである。このサバキ力調整機構では、サバキ部材100と偏芯カム101の間にばね102が設けられ、ばね102の弾性力によってサバキ部材100が搬送ローラ200に押圧されている。そして、偏芯カム101を回動してばね102の長さを調節することにより、ばね102の弾性力を変化させてサバキ部材100が搬送ローラ200を押圧する押圧力を調整し、これによって搬送ローラ200とサバキ部材100の間で印刷用紙が捌かれる際のサバキ力を調整している。
【特許文献1】特開2001−19186号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図9を参照して説明したような従来のサバキ力調整機構によれば、サバキ力の調整のためには、ばねの長さを調整するための調整範囲に相当するだけのスペースが必要であり、調整範囲を大きく設定しようとすれば、その分だけばねが使用する範囲のスペースが大きくなってしまうという問題があった。
【0006】
また、ばねの撓みをなくしてサバキ力を0に設定し、又はサバキ部材と搬送ローラの間に隙間が生じるようにサバキ部材を搬送ローラから離れた位置(サバキ逃げ位置)に設定したい場合には、ばねの自由長以上の調整範囲を設定する必要があり、さらに大きなスペースが必要となってしまう。
【0007】
さらに、サバキ逃げ位置では、サバキ部材にはばねの弾性力がほとんど加わっていないので、搬送ローラとサバキ部材の隙間に用紙が送り込まれた場合、サバキ部材は容易に移動して隙間に用紙が押し込まれ易くなってしまう。このため、厚紙を通紙する場合には、用紙のコシによってサバキ部材が待機位置よりもさらに押し込まれて重送や搬送不良が生じてしまうという問題が生じていた。
【0008】
本発明は、以上の課題に鑑みてなされたものであり、サバキ力を与える弾性部材の自由長以上のスペースを要することなく、サバキ力の通常範囲の調整と、サバキ逃げ位置の調整を両方とも実現できるコンパクトな構成の給紙装置を提供することを目的とする。さらに、サバキ部材をサバキ逃げ位置に設定し、用紙がサバキ部材と搬送ローラの間に送り込まれてサバキ部材をさらに移動させた場合に、用紙に作用するサバキ力(予備サバキ力)を大きく設定することができ、用紙進入によるサバキ部材のさらなる逃げを防止して、コシの強い厚紙通紙時の重送や搬送不良を低減することを目的とする。さらに、サバキ力の調整とは独立してサバキ逃げ位置の調整を段階的又は無段階的に行うことができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載された給紙装置は、回転駆動される搬送ローラと、前記搬送ローラに対向して移動可能に設けられたサバキ部材と、前記サバキ部材が前記搬送ローラを押圧するように前記サバキ部材に弾性力を与える弾性部材とを有し、前記サバキ部材により印刷用紙を前記搬送ローラに押圧して印刷用紙を搬送する給紙装置において、
前記搬送ローラから離れた位置に前記サバキ部材を設定した時に前記弾性部材が撓んだ状態となり、前記搬送ローラと前記サバキ部材の間に供給された印刷用紙が前記サバキ部材を押し下げて前記弾性部材をさらに撓ませた場合に、前記弾性部材の撓み量に対応する力で前記サバキ部材が印刷用紙を前記搬送ローラに押圧するように構成したことを特徴としている。
【0010】
請求項2に記載された給紙装置は、
回転駆動される搬送ローラと、
前記搬送ローラに対向して移動可能に設けられたサバキ部材と、
前記サバキ部材が前記搬送ローラを押圧するように前記サバキ部材に弾性力を与える弾性部材と、
前記弾性部材を前記サバキ部材に向けて撓ませることにより、前記弾性部材が前記サバキ部材に与える弾性力を調整する調整部材と、
前記弾性部材を前記調整部材に向けて撓ませる圧解除部材とを有し、
前記圧解除部材が前記弾性部材を前記調整部材に向けて撓ませることにより前記サバキ部材が前記搬送ローラを押圧する力を解除して前記サバキ部材と前記搬送ローラの間に隙間を設定し、前記隙間に供給された印刷用紙が前記サバキ部材を押し下げて前記弾性部材をさらに撓ませた場合に前記弾性部材の撓み量に対応する力で印刷用紙が前記サバキ部材によって前記搬送ローラに押圧されるように構成したことを特徴としている。
【0011】
請求項3に記載された給紙装置は、
回転駆動される搬送ローラと、
前記搬送ローラに対向して移動可能に設けられたサバキ部材と、
前記サバキ部材が前記搬送ローラを押圧するように前記サバキ部材に弾性力を与える弾性部材と、
前記サバキ部材と前記弾性部材の間に配置されて前記弾性部材の弾性力を前記サバキ部材に伝達することにより前記サバキ部材を押し上げる押上げ部と、前記サバキ部材を押し上げる押上げ方向とは逆の圧解除方向に前記押上げ部が移動するように前記押上げ部に連動して設けられた解除部とを有する伝達部材と、
前記弾性部材を前記サバキ部材に向けて撓ませることにより前記弾性部材が前記サバキ部材に与える弾性力を調整する調整部材と、
前記伝達部材の前記解除部に接触し、前記押上げ部を前記圧解除方向に移動させるように前記解除部を移動させる圧解除部材とを有し、
前記圧解除部材により前記伝達部材の前記解除部を移動させて前記押上げ部を前記圧解除方向に移動させ、これによって前記弾性部材を前記調整部材に向けて撓ませることにより、前記サバキ部材が前記搬送ローラを押圧する力を解除して前記サバキ部材と前記搬送ローラの間に隙間を設定し、前記隙間に供給された印刷用紙が前記サバキ部材を押し下げて前記弾性部材をさらに撓ませた場合に前記弾性部材の撓み量に対応する力で前記サバキ部材が印刷用紙を前記搬送ローラに押圧するように構成したことを特徴としている。
【0012】
請求項4に記載された給紙装置は、請求項3記載の給紙装置において、
前記調整部材は、自身が回動することで前記押上げ部の位置を調整する調整カムであり、
前記圧解除部材は、自身が回動することで前記解除部の位置を調整する圧解除カムであり、
前記伝達部材は、前記解除部と前記押上げ部が一体に構成されて1つの軸を中心に回動自在に設けられた部材であり、前記圧解除カムの回動に従動して前記解除部が回動することにより前記押上げ部材が前記押上げ方向とは逆の前記圧解除方向に移動するように構成されたことを特徴としている。
【0013】
請求項5に記載された給紙装置は、請求項4記載の給紙装置において、
前記調整カムと前記圧解除カムが共通の回動軸を有する一体構造とされたことを特徴としている。
【0014】
請求項6に記載された給紙装置は、請求項5記載の給紙装置において、前記調整カムと前記圧解除カムの共通の回動軸が共通の調整ダイアルで回動操作されることを特徴としている。
【0015】
請求項7に記載された給紙装置は、請求項6記載の給紙装置において、
前記サバキ部材が前記搬送ローラを押圧する押圧力が前記調整カムによって連続的に調整されるように構成され
前記調整ダイアルの操作により、前記押圧力が小さくなる方向に前記調整カムを回動した場合において、前記サバキ部材が前記搬送ローラから離れる前に前記圧解除カムが機能して前記搬送ローラと前記サバキ部材の間に前記隙間が設定されるように構成されたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載された給紙装置によれば、搬送ローラから離れた位置にサバキ部材を設定した時に弾性部材は撓んだ状態となる。ここで搬送ローラとサバキ部材の間に供給された印刷用紙が、サバキ部材を押し下げて弾性部材をさらに撓ませると、弾性部材の合計の撓み量に対応する弾性力がサバキ部材に働き、この力でサバキ部材は印刷用紙を搬送ローラに押圧する。
【0017】
請求項2に記載された給紙装置によれば、圧解除部材が弾性部材を調整部材に向けて撓ませることにより、サバキ部材が搬送ローラを押圧する力が解除され、サバキ部材と搬送ローラの間に隙間が設定される。この隙間に供給された印刷用紙がサバキ部材を押し下げて弾性部材をさらに撓ませると、弾性部材の合計の撓み量に対応する弾性力がサバキ部材に働き、この力でサバキ部材は印刷用紙を搬送ローラに押圧する。
【0018】
請求項3に記載された給紙装置によれば、圧解除部材により伝達部材の解除部を移動させて押上げ部を圧解除方向に移動させれば、弾性部材は調整部材に向けて撓むこととなり、サバキ部材が搬送ローラを押圧する力が解除されてサバキ部材と搬送ローラの間に隙間が設定される。この隙間に供給された印刷用紙がサバキ部材を押し下げて弾性部材をさらに撓ませた場合に、弾性部材の合計の撓み量に対応する弾性力がサバキ部材に働き、この力でサバキ部材は印刷用紙を搬送ローラに押圧する。
【0019】
請求項4に記載された給紙装置によれば、請求項3記載の給紙装置による効果を次のような構成における作用で実現することができる。すなわち、伝達部材を、解除部と押上げ部を一体として1つの軸を中心に回動自在とし、圧解除部材である圧解除カムの回動に従動して解除部を回動させ、これによって押上げ部材を圧解除方向に移動させる。
【0020】
請求項5に記載された給紙装置によれば、請求項4記載の給紙装置による効果において、さらに調整カムと圧解除カムが共通の回動軸を有する一体構造なので、両カムを同時に単一の操作により適宜のタイミングで動作させることができる。
【0021】
請求項6に記載された給紙装置によれば、請求項5記載の給紙装置による効果において、さらに調整カムと圧解除カムを共通の調整ダイアルで回動操作することができる。
【0022】
請求項7に記載された給紙装置によれば、請求項6記載の給紙装置による効果において、さらに調整ダイアルを操作してサバキ部材が搬送ローラを押圧する押圧力が小さくなる方向に調整カムを回動した場合、調整カムの作用により、サバキ部材が搬送ローラから離れる前に圧解除カムが機能を開始してサバキ部材が搬送ローラから離れ始め、搬送ローラとサバキ部材の間に隙間が設定されることとなるので、サバキ力の調整とは独立して、サバキ逃げ位置の調整を段階的又は無段階的に行うことができる。また、コンパクトな構成でありながら、サバキ逃げ位置に設定したサバキ部材と搬送ローラの間に送り込まれてくる用紙に作用するサバキ力(予備サバキ力)を大きく設定することができ、用紙進入によるサバキ部材のさらなる逃げを防止して、コシの強い厚紙通紙時の重送や搬送不良を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の実施形態を図1〜図8を参照して説明する。
図1は本例の給紙装置の給紙機構部を示す斜視図であり、印刷用紙を積載して昇降する図示しない給紙台の上方にあたる位置に、第1搬送ローラ1及び第2搬送ローラ2が配置されている。これら搬送ローラのうち、奥側の第2搬送ローラ2に接してサバキユニット3が設けられている。
【0024】
図2及び図3はサバキユニット3の斜視図であり、図4はサバキユニット3の機構を示す正面図である。サバキユニット3の本体5は、図1に示した給紙機構部のフレーム4に取り付けられる。この本体5には、詳細は図示しない可動機構を介して支持部材としてのサバキガイド6が取り付けられ、該サバキガイド6には上下移動可能にサバキ部材7が支持されている。このサバキ部材7は、押圧力を調整できる後述するサバキ力調整機構によって下方から押し上げられ、これによって上方の第2搬送ローラ2(以下、単に搬送ローラ2と呼ぶ)に下方から当接している。
【0025】
なお、詳細は説明しないが、サバキユニット3には、用紙が突き当たるサバキ部材7の角度を調整する角度調整機構とその角度調整ダイアル8が設けられている(図2参照)。また、印刷用紙の搬送方向に関し、サバキ部材7の後方には、サバキ部材7と同様に、捌き機能を発揮するサバキローラ9が配置されている(図2乃至図4参照)。
【0026】
図5は、本例の給紙装置におけるサバキ力調整機構において、サバキ力が働いておりサバキ力が調整可能な状態を示す図であり、同図(a)は正面図、同図(b)は背面図、同図(c)は部分拡大図である。図6は、本例の給紙装置におけるサバキ力調整機構において、サバキ力が解除されて働いておらず、下がったサバキ部材7と搬送ローラ2の間に隙間が生じている状態を示すものであり、同図(a)は正面図、同図(b)は背面図、同図(c)は部分拡大図である。
【0027】
図5及び図6に示すように、サバキユニット3の上方の所定位置には、回転駆動される搬送ローラ2が設けられている。この搬送ローラ2の下方に設けられて搬送ローラ2と対向するサバキ部材7は、サバキガイド6に上下方向に移動可能となるように案内されており、通常は後述するばね10の弾性力によって搬送ローラ2に下方から当接している。このサバキ部材7の搬送ローラ2に対する押圧力は、搬送ローラ2との間に用紙を挟み込む力であるニップ力と略同一の技術的意味を有するとともに、搬送ローラ2とサバキ部材7の間に挟みこんだ複数枚の用紙間に働いて用紙を一枚に捌いて搬送するための摩擦力であるサバキ力を発生させる元となっている。
【0028】
図5に示すように、前記サバキ部材7の下方には、後述するコイルばね10の弾性力をサバキ部材7に伝えるための伝達部材11が設けられている。この伝達部材11は、略水平方向に延設されて上方に突出した先端がサバキ部材7の下面に当接するアーム状の押上げ部12と、押上げ部12と略直交して一体に設けられ、下方に延設されたアーム状の解除部13とを有する全体として略L字状の部材である。押上げ部12と解除部13が交わる角部はサバキ部材7の下方よりも外側にあり、当該位置において該角部は1つの軸14によって回動自在に軸支されている。
【0029】
図5に示すように、押上げ部12は、後述するコイルばね10の弾性力を受けて押上げ方向に移動し、力をサバキ部材7に伝達してサバキ部材7を押上げる。また、解除部13は、サバキ部材7を押し上げる押上げ方向とは逆の圧解除方向に押上げ部12を移動させ、サバキ部材7の押圧力を解除する。
【0030】
図5に示すように、前記伝達部材11の押上げ部12の下方であって、解除部13よりもサバキ部材7寄りの位置には、前記サバキ力を調整するための調整部材である調整カム15が設けられている。調整カム15は円形の偏芯カムであり、この調整カム15と前記伝達部材11の押上げ部12との間に弾性部材としてのコイルばね10(以下、ばね10と呼ぶ)が設けられている。このばね10が、伝達部材11の押上げ部12を介してサバキ部材7に弾性力を与え、これによってサバキ部材7が搬送ローラ2を押圧するようになっている。
【0031】
調整カム15を回動してばね10を押上げ部12及びサバキ部材7に向けて撓ませる量を調整すれば、押上げ部12の位置が調整され、これによってばね10が押上げ部12を介してサバキ部材7に与える弾性力を調整することができ、サバキ部材7が搬送ローラ2を押圧する押圧力を調整することができる。
【0032】
図6に示すように、前記調整カム15と同軸かつ前記調整カム15と一体に、圧解除部材としての圧解除カム16が設けられている。圧解除カム16は、伝達部材11の解除部13の先端に設けられた突起部17に接触する位置にあり、回動させることにより回動方向の所定の位相に設けられた膨出部18で解除部13を移動させ、解除部13に連動して押上げ部12を押上げ方向とは逆の圧解除方向に移動させることができる。
【0033】
図6に示すように、圧解除カム16を回動して膨出部18で解除部13を回動させれば、伝達部材11は全体として解除方向に移動する。これによって、押上げ部12は、ばね10を調整カム15の方向である下方に向けて撓ませる。サバキ部材7は上下移動可能なので、押上げ部12の下降に伴って一緒に下降し、常に押上げ部12に乗った状態にあるが、搬送ローラ2は所定位置に取り付けられているので、サバキ部材7の下降によって搬送ローラ2とサバキ部材7の間には隙間が生じる(サバキ部材7をサバキ逃げ位置に設定した状態)。
【0034】
調整カム15と圧解除カム16の共通の操作軸19には調整ダイアル20が設けられており(図2参照)、調整カム15と圧解除カム16は共通の調整ダイアル20で回動操作されるが、調整カム15と圧解除カム16の回転方向の位相の取り付け関係は次のようになっている。
すなわち、サバキ部材7が搬送ローラ2を押圧する押圧力は調整ダイアル20による調整カム15の回動によって連続的に調整できるが、この調整ダイアル20の操作により、押圧力が小さくなる方向に調整カム15を回動した場合において、調整カム15の作用により、サバキ部材7が搬送ローラ2から離れる前に圧解除カム16が機能を始めて搬送ローラ2とサバキ部材7の間に隙間が設定されるようになっている。
【0035】
図5に示すように、調整カム15が機能してばね10の弾性力が押上げ部12を介してサバキ部材7に加わっているサバキ力調整範囲の大部分では、圧解除カム16の膨出部18は回動方向について解除部13の突起部17から離れた位置にあり、図5(c)に示すように圧解除カム16の周面と解除部13の突起部17との間には隙間Dがあるため、解除部13が回動されてばね10が押上げ部12によって解除方向に圧縮されることはない。従って、ばね10は調整カム15によって押上げ方向に向けて撓みを与えられるだけであり、調整ダイアル20により調整カム15を回動することによってサバキ力が調整される。
【0036】
ところが、図6に示すように、調整カム15がばね10の弾性力を押上げ部12を介してサバキ部材7に加えているサバキ力調整範囲において、押圧力が小さくなる方向に調整ダイアル20を操作していくと、押圧力が相対的に小さくなるサバキ力調整範囲の限界に近い位置では、図6(c)に示すように圧解除カム16の膨出部18はすでに解除部13の突起部17を押して伝達部材11を解除方向に回動させているため、ばね10は調整カム15によって押上げ方向に向けて押されるとともに、解除部13によって解除方向にも押されて撓みを与えられている。
【0037】
図7は、このような搬送ローラ2とサバキ部材7の間に隙間が生じるサバキ逃げ位置にサバキ部材7が設定された状態を示している。この状態では、ばね10は調整カム15によって押し上げられるとともに、押上げ部12によって反対に押し下げられて圧縮されており、その両方の撓み量に応じた弾性力が蓄えられた状態にある(潜在的なサバキ力、すなわち予備サバキ力を有している状態)。
【0038】
図7に示すようにこの隙間(間隔α)に印刷用紙として厚紙25が供給され、サバキ部材7を押し下げてばね10をさらに撓ませれば、ばね10の合計の撓み量に対応する弾性力がサバキ部材7に働き、この十分な力(顕在化したサバキ力)でサバキ部材7は厚紙25を搬送ローラ2に押圧することとなる。
【0039】
図8(a)は、本例における調整カム15及び圧解除カム16の調整ストロークと、サバキ部材7の位置との関係を概念的に示すグラフであり、図8(b)は、本例における調整カム15及び圧解除カムの調整ストロークと、ばね10の撓み量との関係を概念的に示すグラフである。いずれの図においても、実線のグラフが本例を示し、破線は従来例を示す。さらに、これらの図において使用される符号の意味は以下の通りである。
L…調整カム15及び解除カムの調整ストローク
X…ばね10の撓み量(弾性力に比例)
α…厚紙給紙時に必要な搬送ローラ2とサバキ部材7の隙間の間隔(約2mm)
1 …ニップが離れるカムの位置(従来)
2 …ニップが離れるカムの位置(本例)
3 …解除カムが作用し始める位置(本例)
1 α…厚紙給紙時の間隔αがあいた時のカムの位置(従来)
2 α…厚紙給紙時の間隔αがあいた時のカムの位置(本例)
1 …サバキ部材7が給紙ローラと接触する位置(間隔α=0)
1 …解除カムが作用する直前のばね10の撓み量
1 α…間隔αがあいた時のばね10の撓み量(従来)
2 α…間隔αがあいた時のばね10の撓み量(本例)
【0040】
図8(a),(b)によれば、従来の装置では、サバキ力の調整範囲内においては、ばねの撓み量はストローク量Lが小さくなるにつれて減少していき、サバキ部材が搬送ローラから離れると(ストローク量LがL1 よりも小さくなると)ばねの撓み量は最小値で一定になる。すなわち、サバキ部材がサバキ逃げ位置に設定された後は、ばねの撓み量はそのままであり、前述した予備サバキ力は小さく、サバキ部材と搬送ローラの隙間に厚紙が進入してくると、サバキ部材は容易に下降させられるので、十分なサバキ力が得られない。
【0041】
ところが、本例の装置によれば、サバキ力の調整範囲内において、ばね10の撓み量はストローク量Lが小さくなるにつれて減少していく点は同じであるが、サバキ部材7が搬送ローラ2から離れる位置(ストローク量L2 )よりも前の位置(ストローク量L3 )から圧解除カム16が作用し始めるため、その後同方向に調整ダイアル20を操作し続けると、ばね10は押上げ部12によって調整カム15方向に押し下げられてさらに撓みを増加させていく。そして、サバキ部材7がサバキ逃げ位置に設定されて搬送ローラ2との間に隙間αが生じた点(ストローク量L2 α)では、ばね10の撓み量X2 αは、圧解除カム16が作用する直前のばね10の撓み量X1 よりも大きくなっている。すなわち、サバキ部材7がサバキ逃げ位置に設定されてサバキ部材7と搬送ローラ2の間には隙間αが生じているが、ばね10は圧解除カム16が作用する直前よりも大きい撓み量X2 αで撓んでおり、前述した予備サバキ力は従来よりも大きくなっている。従って、サバキ部材7と搬送ローラ2の隙間に厚紙が進入してくると、サバキ部材7は従来よりも大きな弾性力で用紙を押し返し、容易には下降しないので、十分なサバキ力が得られる。
【0042】
以上説明したように、本例の給紙装置によれば、ばね10の自由長以上のスペースを必要とすることなく、サバキ力の調整機構として調整カム15と圧解除カム16の2段カム採用することにより、通常範囲内におけるサバキ力の調整と、サバキ部材7の逃げ位置への設定(これによる予備サバキ力の設定)の両方を実現することができた。
【0043】
また、サバキ逃げ位置において、予備サバキ力を十分に大きく設定することができたので、用紙進入によるサバキ部材7の逃げ(下降)を防止して、コシの強い厚紙通紙時の重送や搬送不良を低減することが可能となった。
【0044】
さらに、サバキ力を調整する調整カム15と、サバキ部材7をサバキ逃げ位置に設定する圧解除カム16とは別体であり、圧解除カム16のカム形状によって上記設定を行う機構であるため、サバキ逃げ位置の設定を、サバキ力調整とは独立して段階的又は無段階的に行うことが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は、本例の給紙装置の給紙機構部を示す斜視図である。
【図2】図2は、本例の給紙装置のサバキユニットを給紙側から見た斜視図である。
【図3】図3は、本例の給紙装置のサバキユニットを給紙側とは反対側から見た斜視図である。
【図4】図4は、本例の給紙装置においてサバキユニットの機構を示す正面図である。
【図5】図5は、本例の給紙装置におけるサバキ力調整機構において、サバキ力が働いておりサバキ力が調整可能な状態を示す図である。
【図6】図6は、本例の給紙装置におけるサバキ力調整機構において、サバキ力が解除されて働いておらず、下がったサバキ部材と搬送ローラの間に隙間が生じている状態を示す図である。
【図7】図7は、本例において、サバキ部材がサバキ逃げ位置に設定された時に予備サバキ力が作用する態様を概念的に示す図である。
【図8】図8(a)は、本例における調整カム及び圧解除カムの調整ストロークと、サバキ部材の位置との関係を概念的に示すグラフであり、図8(b)は、本例における調整カム及び圧解除カムの調整ストロークと、ばねの撓み量との関係を概念的に示すグラフである。
【図9】図9は、従来のサバキ力調整機構におけるサバキ力調整の概念を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0046】
2…搬送ローラ
3…サバキユニット
6…サバキガイド
7…サバキ部材
10…弾性部材としてのばね
11…伝達部材
12…押上げ部
13…解除部
15…調整部材としての調整カム
16…圧解除部材としての圧解除カム
20…調整ダイアル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動される搬送ローラと、前記搬送ローラに対向して移動可能に設けられたサバキ部材と、前記サバキ部材が前記搬送ローラを押圧するように前記サバキ部材に弾性力を与える弾性部材とを有し、前記サバキ部材により印刷用紙を前記搬送ローラに押圧して印刷用紙を搬送する給紙装置において、
前記搬送ローラから離れた位置に前記サバキ部材を設定した時に前記弾性部材が撓んだ状態となり、前記搬送ローラと前記サバキ部材の間に供給された印刷用紙が前記サバキ部材を押し下げて前記弾性部材をさらに撓ませた場合に、前記弾性部材の撓み量に対応する力で前記サバキ部材が印刷用紙を前記搬送ローラに押圧するように構成したことを特徴とする給紙装置。
【請求項2】
回転駆動される搬送ローラと、
前記搬送ローラに対向して移動可能に設けられたサバキ部材と、
前記サバキ部材が前記搬送ローラを押圧するように前記サバキ部材に弾性力を与える弾性部材と、
前記弾性部材を前記サバキ部材に向けて撓ませることにより、前記弾性部材が前記サバキ部材に与える弾性力を調整する調整部材と、
前記弾性部材を前記調整部材に向けて撓ませる圧解除部材とを有し、
前記圧解除部材が前記弾性部材を前記調整部材に向けて撓ませることにより前記サバキ部材が前記搬送ローラを押圧する力を解除して前記サバキ部材と前記搬送ローラの間に隙間を設定し、前記隙間に供給された印刷用紙が前記サバキ部材を押し下げて前記弾性部材をさらに撓ませた場合に前記弾性部材の撓み量に対応する力で印刷用紙が前記サバキ部材によって前記搬送ローラに押圧されるように構成したことを特徴とする給紙装置。
【請求項3】
回転駆動される搬送ローラと、
前記搬送ローラに対向して移動可能に設けられたサバキ部材と、
前記サバキ部材が前記搬送ローラを押圧するように前記サバキ部材に弾性力を与える弾性部材と、
前記サバキ部材と前記弾性部材の間に配置されて前記弾性部材の弾性力を前記サバキ部材に伝達することにより前記サバキ部材を押し上げる押上げ部と、前記サバキ部材を押し上げる押上げ方向とは逆の圧解除方向に前記押上げ部が移動するように前記押上げ部に連動して設けられた解除部とを有する伝達部材と、
前記弾性部材を前記サバキ部材に向けて撓ませることにより前記弾性部材が前記サバキ部材に与える弾性力を調整する調整部材と、
前記伝達部材の前記解除部に接触し、前記押上げ部を前記圧解除方向に移動させるように前記解除部を移動させる圧解除部材とを有し、
前記圧解除部材により前記伝達部材の前記解除部を移動させて前記押上げ部を前記圧解除方向に移動させ、これによって前記弾性部材を前記調整部材に向けて撓ませることにより、前記サバキ部材が前記搬送ローラを押圧する力を解除して前記サバキ部材と前記搬送ローラの間に隙間を設定し、前記隙間に供給された印刷用紙が前記サバキ部材を押し下げて前記弾性部材をさらに撓ませた場合に前記弾性部材の撓み量に対応する力で前記サバキ部材が印刷用紙を前記搬送ローラに押圧するように構成したことを特徴とする給紙装置。
【請求項4】
前記調整部材は、自身が回動することで前記押上げ部の位置を調整する調整カムであり、
前記圧解除部材は、自身が回動することで前記解除部の位置を調整する圧解除カムであり、
前記伝達部材は、前記解除部と前記押上げ部が一体に構成されて1つの軸を中心に回動自在に設けられた部材であり、前記圧解除カムの回動に従動して前記解除部が回動することにより前記押上げ部材が前記押上げ方向とは逆の前記圧解除方向に移動するように構成されたことを特徴とする請求項3記載の給紙装置。
【請求項5】
前記調整カムと前記圧解除カムが共通の回動軸を有する一体構造とされたことを特徴とする請求項4記載の給紙装置。
【請求項6】
前記調整カムと前記圧解除カムの共通の回動軸が共通の調整ダイアルで回動操作されることを特徴とする請求項5記載の給紙装置。
【請求項7】
前記サバキ部材が前記搬送ローラを押圧する押圧力が前記調整カムによって連続的に調整されるように構成され
前記調整ダイアルの操作により、前記押圧力が小さくなる方向に前記調整カムを回動した場合において、前記サバキ部材が前記搬送ローラから離れる前に前記圧解除カムが機能して前記搬送ローラと前記サバキ部材の間に前記隙間が設定されるように構成されたことを特徴とする請求項6記載の給紙装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−51628(P2009−51628A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−220722(P2007−220722)
【出願日】平成19年8月28日(2007.8.28)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】