説明

絶縁体用組成物及びリサイカブルケーブル

【課題】架橋がなされていてもリサイクル性に優れる絶縁体用組成物及びリサイカブルケーブルを提供する。
【解決手段】リサイカブルケーブル1を構成する絶縁線心2は、既知の導体6と、この導体6の上に被覆される絶縁体7とを備えて構成されている。絶縁体7は、本発明の要旨となる絶縁体用組成物からなるものであり、融点120℃以上の直鎖状ポリエチレンと、高密度ポリエチレンと、低密度ポリエチレンとを含むポリマーブレンドを、2〜15%の架橋度で架橋することによりなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁体用組成物と、この絶縁体用組成物からなる絶縁体を有するリサイカブルケーブルとに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電力ケーブルは、耐熱性と誘電特性とを保持させるために、架橋ポリエチレンからなる絶縁体を用いている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−299023号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
架橋ポリエチレンからなる絶縁体を用いてなる従来の電力ケーブルは、これをリサイクルしようとする場合に、絶縁体に使用されている架橋ポリエチレンが熱可塑性を有さないことから、分離回収してもこのままマテリアルリサイクルをすることができないという問題点を有している。言い換えれば、リサイクルしようとしてもサーマルリサイクルをする他に方法がないという問題点を有している。
【0004】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、架橋がなされていてもリサイクル性に優れる絶縁体用組成物及びリサイカブルケーブルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためになされた請求項1記載の本発明の絶縁体用組成物は、融点120℃以上の直鎖状ポリエチレンと、高密度ポリエチレンと、低密度ポリエチレンとを含むポリマーブレンドを、2〜15%の架橋度で架橋してなることを特徴としている。
【0006】
また、上記課題を解決するためになされた請求項2記載の本発明のリサイカブルケーブルは、請求項1に記載の絶縁体用組成物を導体に被覆し絶縁体を形成してなることを特徴としている。
【0007】
このような特徴を有する本発明によれば、低い架橋度でも所定の耐熱性が得られるようになる。本発明のように低い架橋度で架橋すれば、高価な架橋剤や架橋助剤の使用量低減も図ることが可能になり、安価な製品が提供される。また、本発明によれば、リユース・リサイクルが可能となり、架橋度を2〜15%とすることで、リユース・リサイクル性の向上が図られ、製品の表面外観も良好となる。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に記載された本発明によれば、架橋がなされていてもリサイクル性に優れる絶縁体用組成物を提供することができるという効果を奏する。また、請求項2に記載された本発明によれば、リサイクル性に優れるリサイカブルケーブルを提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら説明する。図1は本発明のリサイカブルケーブルの一実施の形態を示すケーブル端面図である。
【0010】
図1において、リサイクル可能な電力ケーブルとしてのリサイカブルケーブル1は、低圧のケーブルであって、複数の絶縁線心2を既知の押さえ巻き3で束ね、外側に既知のシース4を被覆することによりなっている。絶縁線心2と押さえ巻き3との間には、介在物5が設けられている。
【0011】
絶縁線心2は、既知の導体6と、この導体6の上に被覆される絶縁体7とを備えて構成されている。絶縁体7は、本発明の要旨となる絶縁体用組成物からなるものであり、融点120℃以上の直鎖状ポリエチレンと、高密度ポリエチレンと、低密度ポリエチレンとを含むポリマーブレンドを、2〜15%の架橋度で架橋することによりなっている。
【0012】
絶縁体7は、これに用いる絶縁体用組成物が、架橋によりなっている点、ポリエチレンを使用している点で従来と共通しており、このような絶縁体7を備えるリサイカブルケーブル1は、法規上の定める架橋ポリエチレンケーブルに該当するようになっている。
【0013】
架橋度を2〜15%とすることについては、2%を下回る場合、測定誤差等が含まれて架橋物とは見なし得られないからである。また、16%を超える場合には、リユース・リサイクル性や製品の表面外観に影響を来す恐れがあるからである。
【0014】
後述するが、架橋度50%と10%とでは、製品の表面外観のレベルが根本的に違うことが分かる。尚、架橋度50%は従来の製品レベルである。また、後述するが、架橋度が本発明のように2〜15%と低ければ、製品の表面外観が相対的に向上することも分かる。
【実施例】
【0015】
以下、本発明の具体的な実施例を説明するとともに、実施例と比較例とを比較する。実施例、比較例とも上記絶縁線心2の構成で製造し、これを比較するものとする。
【0016】
実施例1
本実施例1は、絶縁体組成に、融点120〜125℃の直鎖状ポリエチレンA、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンを含み、また、架橋剤に、ジクミルパーオキサイド、ビニルトリメトキシシラン、ジブチル錫ジラウレートを含み、そして、架橋度2%で架橋したものである。具体的には、直鎖状ポリエチレンA100重量部に対して、高密度ポリエチレン10重量部、低密度ポリエチレン5重量部、ジクミルパーオキサイド0.01重量部、ビニルトリメトキシシラン0.05重量部、ジブチル錫ジラウレート0.01重量部配合し、架橋度2%で架橋したものである。
【0017】
実施例2
本実施例2は、絶縁体組成に、融点120〜125℃の直鎖状ポリエチレンA、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンを含み、また、架橋剤に、ジクミルパーオキサイド、ビニルトリメトキシシラン、ジブチル錫ジラウレートを含み、そして、架橋度6%で架橋したものである。具体的には、直鎖状ポリエチレンA100重量部に対して、高密度ポリエチレン10重量部、低密度ポリエチレン5重量部、ジクミルパーオキサイド0.01重量部、ビニルトリメトキシシラン0.10重量部、ジブチル錫ジラウレート0.10重量部配合し、架橋度6%で架橋したものである。
【0018】
実施例3
本実施例3は、絶縁体組成に、融点120〜125℃の直鎖状ポリエチレンA、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンを含み、また、架橋剤に、ジクミルパーオキサイド、ビニルトリメトキシシラン、ジブチル錫ジラウレートを含み、そして、架橋度8%で架橋したものである。具体的には、直鎖状ポリエチレンA100重量部に対して、高密度ポリエチレン10重量部、低密度ポリエチレン5重量部、ジクミルパーオキサイド0.01重量部、ビニルトリメトキシシラン0.20重量部、ジブチル錫ジラウレート0.01重量部配合し、架橋度8%で架橋したものである。
【0019】
実施例4
本実施例4は、絶縁体組成に、融点120〜125℃の直鎖状ポリエチレンA、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンを含み、また、架橋剤に、ジクミルパーオキサイド、ビニルトリメトキシシラン、ジブチル錫ジラウレートを含み、そして、架橋度15%で架橋したものである。具体的には、直鎖状ポリエチレンA100重量部に対して、高密度ポリエチレン10重量部、低密度ポリエチレン5重量部、ジクミルパーオキサイド0.02重量部、ビニルトリメトキシシラン0.40重量部、ジブチル錫ジラウレート0.02重量部配合し、架橋度15%で架橋したものである。
【0020】
比較例1
比較例1は、絶縁体組成に、融点110〜118℃の直鎖状ポリエチレンB、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンを含み、また、架橋剤に、ジクミルパーオキサイド、ビニルトリメトキシシラン、ジブチル錫ジラウレートを含み、そして、架橋度82%で架橋したものである。具体的には、直鎖状ポリエチレンB100重量部に対して、高密度ポリエチレン50重量部、低密度ポリエチレン15重量部、ジクミルパーオキサイド0.15重量部、ビニルトリメトキシシラン2.00重量部、ジブチル錫ジラウレート0.15重量部配合し、架橋度82%で架橋したものである。
【0021】
比較例2
比較例2は、絶縁体組成に、融点105〜110℃の直鎖状ポリエチレンC、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンを含み、また、架橋剤に、ジクミルパーオキサイド、ビニルトリメトキシシラン、ジブチル錫ジラウレートを含み、そして、架橋度55%で架橋したものである。具体的には、直鎖状ポリエチレンC100重量部に対して、高密度ポリエチレン30重量部、低密度ポリエチレン20重量部、ジクミルパーオキサイド0.10重量部、ビニルトリメトキシシラン1.50重量部、ジブチル錫ジラウレート0.10重量部配合し、架橋度55%で架橋したものである。
【0022】
比較例3
比較例3は、絶縁体組成に、融点105〜110℃の直鎖状ポリエチレンC、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンを含み、また、架橋剤に、ジクミルパーオキサイド、ビニルトリメトキシシラン、ジブチル錫ジラウレートを含み、そして、架橋度39%で架橋したものである。具体的には、直鎖状ポリエチレンC100重量部に対して、高密度ポリエチレン50重量部、低密度ポリエチレン20重量部、ジクミルパーオキサイド0.05重量部、ビニルトリメトキシシラン1.00重量部、ジブチル錫ジラウレート0.05重量部配合し、架橋度39%で架橋したものである。
【0023】
比較例4
比較例4は、絶縁体組成に、融点110〜118℃の直鎖状ポリエチレンB、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンを含み、架橋せずになるものである。すなわち、架橋度0%である。具体的には、直鎖状ポリエチレンB100重量部に対して、高密度ポリエチレン10重量部、低密度ポリエチレン5重量部配合し、架橋せずになるものである。
【0024】
比較例5
比較例5は、絶縁体組成に、融点110〜118℃の直鎖状ポリエチレンB、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンを含み、また、架橋剤に、ジクミルパーオキサイド、ビニルトリメトキシシラン、ジブチル錫ジラウレートを含み、そして、架橋度6%で架橋したものである。具体的には、直鎖状ポリエチレンB100重量部に対して、高密度ポリエチレン10重量部、低密度ポリエチレン5重量部、ジクミルパーオキサイド0.01重量部、ビニルトリメトキシシラン0.10重量部、ジブチル錫ジラウレート0.01重量部配合し、架橋度6%で架橋したものである。
【0025】
比較例6
比較例6は、絶縁体組成に、融点110〜118℃の直鎖状ポリエチレンB、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンを含み、また、架橋剤に、ジクミルパーオキサイド、ビニルトリメトキシシラン、ジブチル錫ジラウレートを含み、そして、架橋度8%で架橋したものである。具体的には、直鎖状ポリエチレンB100重量部に対して、高密度ポリエチレン10重量部、低密度ポリエチレン5重量部、ジクミルパーオキサイド0.01重量部、ビニルトリメトキシシラン0.20重量部、ジブチル錫ジラウレート0.01重量部配合し、架橋度8%で架橋したものである。
【0026】
比較例7
比較例7は、非架橋耐熱ポリエチレンにより絶縁体を形成したものである。具体的には、非架橋耐熱ポリエチレン100重量部であって、架橋せずになるものである。
【0027】
上記直鎖状ポリエチレンとしては、三井化学(株)製のエボリューが用いられている。また、高密度ポリエチレンとしては、三井化学(株)製のハイゼックスが用いられている。また、低密度ポリエチレンとしては、三井化学(株)製のウルトゼックスが用いられている。また、ジクミルパーオキサイドとしては、三井石油化学(株)製の三井DCPが用いられている。また、ビニルトリメトキシシランとしては、信越化学(株)製のKBM1003が用いられている。また、ジブチル錫ジラウレートとしては、旭電化工業(株)製のBT−11が用いられている。
【0028】
実施例と比較例との比較評価として、加熱変形性、リサイクル性、皮むき性の評価をする。加熱変形性の評価は、日本工業規格JIS K 6723の加熱変形試験を行ったものであり、加熱変形率40%以下の場合に合格で『○』、40%を超える場合に不合格で『×』の判定をするものとする。リサイクル性の評価は、押出機による再押出の可否の試験を行ったものであり、4回以上のリサイクル回数の場合に『○』、3回以下のリサイクル回数に『△』、不可能の場合に『×』の判定をするものとする。皮むき性の評価は、容易に皮むきができる場合に『○』、これ以外の場合に『×』の判定をするものとする。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
表1の結果によれば、本発明に関する実施例1〜4は、加熱変形性、リサイクル性、皮むき性の評価全てをクリアするという良好な結果が得られている。これに対して表2の結果によれば、比較例1〜3は加熱変形性及び皮むき性の評価をクリアするがリサイクル性の評価が不可となり、比較例4〜6はリサイクル性及び皮むき性の評価をクリアするが加熱変形性の評価が不合格となり、比較例7は加熱変形性の評価をクリアするが皮むき性の評価がNGとなるという結果が得られている。また、比較例7はリサイクル回数が3回以下であることからリサイクル性を有するという結果が得られている。
【0032】
表2の結果に基づいて考察すると、比較例1〜3はリサイクル性の評価が不可となるが、これは架橋度の高さが原因であると考えられる。また、比較例4〜6は加熱変形性の評価が不合格となるが、これはベース樹脂の融点が若干低くなっていることが原因であると考えられる。また、比較例7は皮むき性の評価がNGとなるが、これはポリプロピレン等の高分子量の材料を使用して硬くなってしまうことが原因であると考えられる(比較例7は非架橋タイプで架橋ポリエチレンと同等の性能を有するが、ポリプロピレン等の高分子量の材料を使用すると、コスト高や押出加工性低下という問題点も生じてしまう。尚、比較例7は非架橋タイプであることから、法規上の定める架橋ポリエチレンケーブルに該当しないことになる)。
【0033】
ここで、実施例と比較例との比較に関し、補足説明をする。
【0034】
【表3】

【0035】
表3中の『☆』は外観が優れる意味の優に相当し、『◎』は良に相当し、『○』は使用可能に相当し、『△』は使用限界に相当し、『×』は使用不可に相当する判定であるものとする。外観の評価は、ラボプラストミル押出機による押出後の外観評価を行ったものである。
【0036】
表3の結果によれば、架橋度が下がることによって、外観が相対的に向上することが分かる。また、架橋度50%と10%とでは、外観レベルが根本的に違うことが分かる。
【0037】
【表4】

【0038】
表4中の『○』は外観が良い意味の判定であり、『△』は劣っている意味の判定であるものとする。表4の結果によれば、架橋度が15%を超えると外観が劣ることが分かる。尚、架橋度が2%を下回る場合、測定誤差等が含まれて架橋物とは見なし得られないと考える。
【0039】
本発明に係る実施例1〜4は、融点が高い(120℃以上)ポリエチレンを絶縁体材料として使用している。また、架橋剤や架橋助剤を減らすような構成にもなっている。融点が高いポリエチレンを使用することで、架橋度が低くても加熱変形試験に合格できることが分かる。見方を変えれば、ベース樹脂成分の加熱変形性を底上げ(融点の高い材料を使用)することで、架橋度を低下させることが可能になる。実施例1〜4は、架橋度を2〜15%とすることで、リユース・リサイクル性が向上することになる。また、製品の表面外観も極めて向上することになる。
【0040】
以上、本発明によれば、架橋がなされていてもリサイクル性に優れる絶縁体用組成物を提供することができるという効果を奏する。また、リサイクル性に優れるリサイカブルケーブルを提供することができるという効果を奏する。
【0041】
その他、本発明は本発明の主旨を変えない範囲で種々変更実施可能なことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明のリサイカブルケーブルの一実施の形態を示すケーブル端面図である。
【符号の説明】
【0043】
1 リサイカブルケーブル
2 絶縁線心
3 押さえ巻き
4 シース
5 介在物
6 導体
7 絶縁体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点120℃以上の直鎖状ポリエチレンと、高密度ポリエチレンと、低密度ポリエチレンとを含むポリマーブレンドを、2〜15%の架橋度で架橋してなる
ことを特徴とする絶縁体用組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の絶縁体用組成物を導体に被覆し絶縁体を形成してなる
ことを特徴とするリサイカブルケーブル。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−217442(P2007−217442A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−35929(P2006−35929)
【出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】