説明

絶縁材料

【課題】樹脂本来の特性をほとんど損ねることなく優れた絶縁性を発揮できる絶縁材料を提供すること。
【解決手段】エポキシ樹脂2と、硬化剤と、厚み2nm以下でアスペクト比40以下のナノ充填材3とを含有する絶縁材料1である。ナノ充填材3は、エポキシ樹脂2中で有機化クレイを分散させてなる。有機化クレイは、窒素原子に2〜4個の有機修飾基が結合してなる2〜4級の有機アンモニウムイオンにより層状構造の粘土鉱物を有機化処理してなる。有機アンモニウムイオンの有機修飾基は、炭素数が30以下であることが好ましい。また、有機アンモニウムイオンの有機修飾基のうち少なくとも一つは、炭素数が2以上であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂に充填材を分散してなる絶縁材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、絶縁材料としては、例えばエポキシ樹脂にシリカからなる充填材を分散させた注型材がある。該注型材は、樹脂成分としてエポキシ樹脂を含有しているため、その特性を生かして、絶縁性の他にも優れた耐熱性を発揮できる。そのため、例えば自動車の点火コイル等の用途に用いられていた(特許文献1参照)。上記注型材においては、上記充填材の添加量を増量することにより、絶縁性を向上させることができる。
【0003】
一方、近年、クレイを有機化処理してなる有機化クレイを樹脂材料に分散してなる複合材料が注目されている。具体的には、エポキシ樹脂に有機化クレイを分散してなる樹脂複合材料が開発されている(非特許文献1参照)。このような樹脂複合材料においては、有機化クレイを分散させることにより、樹脂本来の特性よりも機械的特性を向上できる。
【0004】
しかしながら、上記注型材においては、耐熱性向上のために上記充填材の添加量を増やすと、エポキシ樹脂本来の特性が失われ、耐熱性等が損なわれてしまうという問題があった。また、電圧を長時間印加すると、絶縁破壊が起こるおそれがあった。また、上記有機化クレイを分散させた樹脂材料においては、引張強度等の機械的特性を向上できるが、絶縁性については何ら明らかにされていなかった。
【0005】
【特許文献1】特開平11−111547号公報
【非特許文献1】日本接着学会誌、日本接着学会、2004年、No.11、Vol.40、p.532−535
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされてものであって、樹脂本来の特性をほとんど損ねることなく優れた絶縁性を発揮できる絶縁材料を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、エポキシ樹脂と、硬化剤と、厚み2nm以下でアスペクト比40以下のナノ充填材とを含有する絶縁材料であって、
上記ナノ充填材は、上記エポキシ樹脂中で有機化クレイを分散させてなり、
該有機化クレイは、窒素原子に2〜4個の有機修飾基が結合してなる2〜4級の有機アンモニウムイオンにより層状構造の粘土鉱物を有機化処理してなることを特徴とする絶縁材料にある(請求項1)。
【0008】
本発明の絶縁材料は、上記特定の有機アンモニウムイオンによって上記粘土鉱物を有機化処理してなる上記有機化クレイを、上記エポキシ樹脂中で分散させてなる上記ナノ充填材と、上記エポキシ樹脂と、上記硬化剤とを含有する。上記絶縁材料において、上記有機化クレイを上記エポキシ樹脂中で分散させると、上記有機化クレイの層状構造が破壊され、厚み2nm以下でアスペクト比40以下の例えば板状のナノ充填材が上記エポキシ樹脂中に分散される。
そのため、上記絶縁材料は、優れた絶縁性を発揮することができる。また、上記絶縁材料は、従来のシリカからなる充填材に比べてより少ない含有量の上記ナノ充填材で絶縁性を発揮することができる。それ故、上記絶縁材料は、上記エポキシ樹脂が本来有する耐熱性等の優れた特性を損なわずに、優れた絶縁性を発揮することができる。
また、上記絶縁材料は、硬化剤を含有するため、加熱等により容易に硬化させることができる。そして、上記絶縁材料は、硬化させても優れた絶縁性を発揮することができる。
【0009】
以下、上記絶縁材料が上記のごとく優れた絶縁性を発揮できる理由について、図4及び図5を用いて考察する。
図5に、エポキシ樹脂90中にシリカからなる充填材95を添加してなる従来の絶縁材料9を示す。同図に示すごとく、この絶縁材料9は、直方体形状に成形されている。この直方体形状の絶縁材料9の一つの面に、導電性ペーストを焼き付けて導電面98を形成すると共に、導電面98と対抗する面から絶縁材料9に電極針8を挿入して絶縁材料9に一定以上の電圧を印加し続けると、絶縁破壊が生じる。図5は、従来の絶縁材料9に絶縁破壊が起こるときにおける絶縁破壊(図5中に太線矢印で示す)が進展する様子を示す。
図5に示すごとく、一般に、絶縁材料9の絶縁破壊は、エポキシ樹脂90中の充填材95を迂回しながら進展する。したがって、同図に示すごとく、充填材95を添加すると、迂回分だけ進展距離(図5中の太線矢印の長さ)が長くなり、絶縁破壊が起こり難くなる。同図より知られるごとく、従来のシリカ等からなる充填材は、体積が大きいため、少量の添加では、迂回距離を長くすることは困難である。
【0010】
これに対し、図4に示すごとく、本発明の絶縁材料1においては、上記エポキシ樹脂2中に、厚み2nm以下でアスペクト比40以下という非常に小さな上記ナノ充填材3が分散されている。そのため、上記絶縁材料1においては、比較的少量の添加量でも絶縁破壊の進展距離(図4中の太線矢印の長さ)が長くなりやすい。その結果、絶縁破壊が起こり難く、高い絶縁性を発揮できると推察される。なお、図4は、導電面10を形成した直方体形状の絶縁材料1に電極針8を挿入して絶縁材料1に電圧を印加し、絶縁破壊が起こるときにおける絶縁破壊が進展する様子を示す。
【0011】
以上のごとく、上記絶縁材料においては、上記ナノ充填材の含有量が少量であっても、絶縁破壊が起こり難く、優れた絶縁性を発揮できる。
したがって、本発明によれば、樹脂本来の特性をほとんど損ねることなく優れた絶縁性を発揮できる絶縁材料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の絶縁材料は、エポキシ樹脂と、硬化剤と、厚み2nm以下でアスペクト比40以下のナノ充填材とを含有する。
【0013】
上記ナノ充填材の厚みが2nmを越える場合、又はアスペクト比が40を越える場合には、上記絶縁材料中に分散された上記ナノ充填材の比表面積が小さくなる。そのため、この場合には、上記絶縁材料における絶縁破壊の進展距離が短くなりやすく、上記絶縁材料の絶縁性が低下するおそれがある。また、アスペクト比が40を越える場合には、エポキシ樹脂の優れた機械的特性が損なわれてしまうおそれがある。
上記ナノ充填材のアスペクト比は、上記ナノ充填材の厚み(最も短い長さ)に対する幅(最も長い長さ)の比で表すことができる。
上記ナノ充填材の厚み及び幅は、上記粘土鉱物を適宜選択することにより変更することができる。したがって、上記粘土鉱物の種類を選択すると、およその上記ナノ充填材の厚み及び幅を決定できる。
また、上記絶縁材料中の上記ナノ充填材の厚み及び幅は、硬化させた上記絶縁材料を例えばX線回折法及び透過型電子顕微鏡(TEM)等により測定することにより得ることができる。
【0014】
また、上記有機化クレイは、上記粘土鉱物を上記有機アンモニウムイオンで有機化処理してなる。
上記有機化処理は、例えば上記有機アンモニウムイオンを含む水溶液等の液体中に上記粘土鉱物を浸漬すること等により行うことができる。有機化処理により、上記粘土鉱物の層間に上記有機アンモニウムイオンが入り込み、その層間隔を広げることができる。したがって、有機化処理により、粘土鉱物の層間に有機アンモニウムイオンが挿入されて層間隔が拡大された上記有機化クレイを得ることができる。
【0015】
また、上記ナノ充填材は、上記有機化クレイを上記エポキシ樹脂中で分散させてなる。
上記有機化クレイを例えば混合等により上記エポキシ樹脂中で分散させると、上記エポキシ樹脂が上記有機化クレイの層間に入り込み、層間の結合が壊れ、上記有機化クレイを構成する層が上記ナノシート充填材としてエポキシ樹脂中に分散される。
このとき、上記有機化クレイを構成する層が単一層で分散される場合もあるが、2層以上が積層した状態で分散される場合もある。好ましくは、単一層で分散されていることがよい。この場合には、上記ナノ充填材の厚みを例えば1nm程度にまで小さくすることができる。そしてこの場合には、少量(重量)の上記有機化クレイの添加で、上記絶縁材料中における上記ナノ充填材の表面積の総和を大きくすることができるため、上記絶縁材料の絶縁破壊をより一層抑制することができる。
【0016】
また、上記絶縁材料は、硬化剤を含有する。
上記硬化剤としては、例えば酸無水物又はアミン化合物等を用いることができる。
上記酸無水物としては、例えばヘキサヒドロ酸無水物、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水メチルCD酸、無水CD酸、メチルハイミック酸、ハイミック酸、無水コハク酸、テトラヒドロ酸無水物、リカシッドHL、クロレンド酸無水物、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、3メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、4メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸マレイン酸付加物、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ドデセニル無水コハク酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、及びメチルナジック酸等がある。
また、上記硬化剤の含有量は、上記エポキシ樹脂100重量部に対して30重量部〜170重量部であることが好ましい。
この場合には、エポキシ樹脂本来の特性を損なわずに、硬化させることができる。
【0017】
また、有機化クレイは、窒素原子に2〜4個の有機修飾基が結合してなる2〜4級の有機アンモニウムイオンにより層状構造の粘土鉱物を有機化処理してなる。
上記有機アンモニウムとして、窒素原子に1個の有機修飾基が結合してなる1級アンモニウムで有機化処理すると、上記絶縁材料を加熱により硬化させたときに、1級有機アンモニウムが上記エポキシ樹脂の硬化反応に悪影響を及ぼし、絶縁性が低下するおそれがある。
2〜4級の有機アンモニウムイオンの構造を下記の式(1)〜(3)に示す。式(1)〜(3)においてR1〜R3は、有機修飾基を示す。
【0018】
【化1】

【0019】
【化2】

【0020】
【化3】

【0021】
上記式(1)〜(3)に示すごとく、上記有機アンモニウムイオンにおいては、有機修飾基が結合するN原子が正電荷を有する。そのため、上記有機アンモニウムイオンと上記粘土鉱物とを接触させると、上記有機アンモニウムイオンが、例えばそのN原子の正電荷によって、上記粘土鉱物の層間に入り込み、層の表面に結合し、粘土鉱物の層間距離を大きくすることができる(有機化処理;図2参照)。
そして上記有機アンモニウムイオンが挿入された上記粘土鉱物、即ち上記有機化クレイは、その層間距離が大きくなっている。そのため、上記有機化クレイと上記エポキシ樹脂と混合し分散させることにより、上記有機化クレイの層間に上記エポキシ樹脂が容易に入り込むことができる。その結果、上記有機化クレイの層間隔がさらに広がって、有機化クレイの層間の結合が切断され、有機化クレイを構成する層を上記ナノ充填材としてエポキシ樹脂中に分散させることができる。
【0022】
上記有機アンモニウムイオンにおいて、上記有機修飾基としては、例えばアルキル基、
シクロアルキル基、アルケニル基等の炭化水素基等がある。また、上記有機修飾基としては、ヒドロキシル基、カルボキシル基等の比較的極性が大きく反応性の高い官能基を含有するものを用いることもできる。
好ましくは、有機アンモニウムイオンの上記有機修飾基は、炭素数が30以下であることがよい(請求項2)。
炭素数が30を越える場合には、上記有機アンモニウムイオンが上記粘土鉱物の層間に入り込み難くなるおそれがある。そのため、上記有機化クレイの層間距離を充分に拡大させることが困難になり、上記ナノ充填材を上記エポキシ樹脂中に充分に分散させることが困難になるおそれがある。
【0023】
また、上記有機アンモニウムイオンの上記有機修飾基のうち少なくとも一つは、炭素数が2以上であることが好ましい(請求項3)。
上記有機アンモニウムイオンにおける上記有機修飾基のいずれもが炭素数2未満である場合には、上記有機化クレイの層間距離を充分に拡大させることができず、その結果、上記ナノ充填材を上記エポキシ樹脂中に充分に分散させることが困難になるおそれがある。より好ましくは、上記有機アンモニウムイオンの上記有機修飾基のうち少なくとも一つは、炭素数10以上がよく、さらに好ましくは炭素数15以上がよい。
【0024】
上記有機アンモニウムイオンの上記有機修飾基のうちの1つは炭素数2以上であり、その他は炭素数30以下であることが好ましい(請求項4)。
この場合には、上記有機アンモニウムイオンは、上記粘土鉱物の層間に容易に入り込むことができると共に、上記粘土鉱物の層間距離を充分に拡大させることができる。
【0025】
また、上記粘土鉱物としては、モンモリロナイト、サボナイト、バイデライト、ノントロナイト、ヘクトライト、及びスティブンサイトから選ばれる1種以上をもちいることができる(請求項5)。
【0026】
また、上記絶縁材料は、上記エポキシ樹脂100重量部に対して上記ナノ充填材を1〜35重量部含有することが好ましい(請求項6)。
上記ナノ充填材の配合割合が上記の範囲内にある場合には、少量のナノ充填材で優れた絶縁性を発揮できるという本発明の作用効果をより顕著に得ることができる。より好ましくは、上記絶縁材料における上記ナノ充填材の含有量は、1〜20重量部がよく、さらに好ましくは1〜10重量部がよい。
【0027】
また、上記エポキシ樹脂としては、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ヘキサヒドロビスフェノールA型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールA型エポキシ樹脂、ピロカテコール型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂、トリヒドロキシビフェニル型エポキシ樹脂、ビスレゾルシノール型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂、及びピキシレノール型エポキシ樹脂等から選ばれる1種以上を用いることができる。
【実施例】
【0028】
(実施例1)
次に、本発明の実施例につき、図1〜図3を用いて説明する。本例においては、本発明の実施例にかかる絶縁材料と比較用の絶縁材料とを作製し、絶縁性を比較する。
図1に示すごとく、本例の絶縁材料1は、エポキシ樹脂2と、硬化剤と、厚み2nm以下でアスペクト比40以下の板状のナノ充填材3とを含有する。ナノ充填材3は、エポキシ樹脂2中で有機化クレイを分散させてなる。図2(a)、(b)に示すごとく、有機化クレイ4は、窒素原子に2〜4個の有機修飾基が結合してなる2〜4級の有機アンモニウムイオン5により層状構造の粘土鉱物6を有機化処理してなる。
【0029】
本例において、粘土鉱物6としては、モンモリロナイトを用いた。また、有機アンモニウムイオン5としては、有機修飾基として炭素数18のアルキル基と、炭素数1のメチル基とを有する下記の式(4)で表される化合物(N−メチルnオクタデシルアンモニウムイオン)を用いた。
【0030】
【化4】

【0031】
以下、本例の絶縁材料の製造方法につき、説明する。
まず、層状構造の粘土鉱物を有機化処理して有機化クレイを作製した。
具体的には、まず、粘土鉱物6として、層状構造のモンモリロナイト(Na−モンモリロナイト)を準備した(図2(a)参照)。この粘土鉱物を水に分散させて分散液を作製した。
次に、有機アンモニウム塩を準備し、この有機アンモニウム塩を水に溶解して有機アンモニウム水溶液を作製した。この有機アンモニウム水溶液中には、上記式(4)で表される有機アンモニウムイオンが存在する。
【0032】
次いで、有機アンモニウム水溶液を上記にて作製した粘土鉱物の分散液中に加えた。これにより、図2(b)に示すごとく、有機アンモニウムイオン5における例えばN原子の正電荷と、粘土鉱物を構成する層3の負電荷とが引きつけ合い、層状構造の粘土鉱物(モンモリロナイト)6の各層3の間に、有機アンモニウムイオン5が入り込み、有機化クレイ4が生じる。
次に、有機化クレイ4の沈殿物をろ過により回収し、水で洗浄し、凍結乾燥することにより有機化クレイ(有機化モンモリロナイト)4を得た。これを試料e1とする。
次いで、X線回折法及び透過型電子顕微鏡(TEM)により試料e1の層状構造における層間距離を測定した。その結果を後述の表1に示す。
【0033】
次に、有機化クレイ(試料e1)7重量部と、硬化剤としてのヘキサヒドロ酸無水物85重量部とを、ビーズミルを用いて混合した。次いで、得られた混合物にエポキシ樹脂としてのビスフェノールA型エポキシ樹脂100重量部を混合し、温度60℃で真空脱泡(圧力3〜5torr)しながら約30分間攪拌混合した。これにより、有機化クレイの層間にエポキシ樹脂が入り込み、有機化クレイの各層がバラバラになる。その結果、有機化クレイの各層(ナノ充填材3)がエポキシ樹脂2中に分散され、上記絶縁材料1を得た(図1参照)。これを試料E1とする。
【0034】
また、試料E1を加熱して硬化させ、硬化させた試料E1について、ナノ充填材の厚み及び幅をX線回折法及び透過型電子顕微鏡(TEM)によって測定した。その結果、試料E1においては、粘土鉱物を構成する層がほとんど単一な層にまで分離され、厚み約1nm、幅100nm×100nmの板状のナノ充填材がエポキシ樹脂中に分散されていた。また、試料E1におけるナノ充填剤の含有割合は、上記有機化クレイの配合割合と同様であり、上記エポキシ樹脂100重量部に対して7重量部である。
【0035】
また、本例においては、試料e1とは異なる有機アンモニウムイオンを用いてさらに3種類の有機化クレイ(試料e2、試料e3、試料c1)を作製し、該有機化クレイを用いて上記試料E1と同様にして3種類の絶縁材料(試料E2、試料E3、試料C1)を作製した。
具体的には、試料e2の作製にあたっては、まず、有機アンモニウム塩を水に溶解して有機アンモニウム水溶液を作製した。この有機アンモニウム水溶液中には、下記式(5)で表される有機アンモニウムイオンが存在する。
【0036】
【化5】

【0037】
次いで、上記試料e1と同様に、有機アンモニウム水溶液を粘土鉱物(モンモリロナイト)の分散液中に加え、沈殿物をろ過により回収して洗浄し、凍結乾燥することにより有機化クレイ(試料e2)を得た。
【0038】
また、試料e3の作製にあたっては有機アンモニウム塩を水に溶解して有機アンモニウム水溶液を作製した。この有機アンモニウム水溶液中には、下記式(6)で表される有機アンモニウムイオンが存在する。
【0039】
【化6】

【0040】
次いで、上記試料e1と同様に、有機アンモニウム水溶液を粘土鉱物(モンモリロナイト)の分散液中に加え、沈殿物をろ過により回収して洗浄し、凍結乾燥することにより有機化クレイ(試料e3)を得た。
【0041】
また、試料c1の作製にあたっては、有機アンモニウム塩を水に溶解して有機アンモニウム水溶液を作製した。この有機アンモニウム水溶液中には、下記式(7)で表される有機アンモニウムイオンが存在する。
【0042】
【化7】

【0043】
次いで、有機アンモニウム水溶液を上記試料e1と同様に、粘土鉱物(モンモリロナイト)の分散液中に加え、沈殿物をろ過により回収して洗浄し、凍結乾燥することにより有機化クレイ(試料c1)を得た。
【0044】
次に、各試料(試料e2、試料e3、試料c1)について、その層状構造における層間距離を上記試料e1と同様にして測定した。その結果を後述の表1に示す。
また、上記試料e1の場合と同様にして、各試料(試料e2、試料e3、試料c1)の有機化クレイと、エポキシ樹脂と硬化剤とを混合し、有機化クレイの各層(ナノ充填材)がエポキシ樹脂中に分散された絶縁材料を得た。
試料e2の有機化クレイを用いて作製した絶縁材料を試料E2とし、試料e3の有機化クレイを用いて作製した絶縁材料を試料E3とし、試料c1の有機化クレイを用いて作製した絶縁材料を試料C1とする。各試料においては、厚み2nm以下でアスペクト比40以下のナノ充填材がエポキシ樹脂中に分散されていた。また、試料E2、試料E3、及び試料C1におけるナノ充填材の含有割合は、試料E1と同様に、いずれもエポキシ樹脂100重量部に対して7重量部であった。
【0045】
また、本例においては、比較用として、有機化クレイを用いずに絶縁材料(試料C2)を作製した。
即ち、エポキシ樹脂としてのビスフェノールA型エポキシ樹脂100重量部と、硬化剤としてのヘキサヒドロ酸無水物85重量部とを、試料E1と同様に、真空脱泡しながら攪拌混合し、比較用の絶縁材料を得た。これを試料C2とする。
【0046】
次に、上記のようにして作製した5種類の絶縁材料(試料E1〜試料E3、試料C1、及び試料C2)について、ガラス転移温度(Tg)、耐電圧を測定した。その結果を表2に示す。
Tgの測定は、TMA(Thermomechanical
Analysys)法により、各試料を温度90℃で17時間加熱後、さらに170℃で15時間加熱して得られた硬化物を熱物理試験機TM−1500型(真空理工株式会社製)を用いて昇温速度2.0℃/minで昇温させることにより測定した。
【0047】
耐電圧は、絶縁破壊試験機(ヤマヨ試験器有限会社製)を用いて測定した。
具体的には、図3に示すごとく、まず上記のように加熱により硬化させた各試料の絶縁材料を立方体形状の試験片1に成形した。次いで、立方体形状の試験片1の一つの面に、導電性ペーストを焼き付けて電極面10を形成した。次に、電極面10と対抗する面から試験片1に針電極8(φ30μm)を挿入し、針電極8と電極面間に電圧を印加し、絶縁破壊が起こるまでの時間(破壊時間)を測定した。なお、針電極8と電極面10との距離dは2mmとした。
次いで、破壊時間と印加電圧との関係から破壊時間が1000時間となる電圧(耐電圧)を算出した。その結果を表2に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
表1より知られるごとく、1〜4級の有機アンモニウムイオンを用いて作製した有機化クレイ(試料e1〜試料e3、及び試料c1)は、いずれにおいても、有機化処理前の粘土鉱物(モンモリロナイト)に比べて層間距離が大きくなっていた。なお、有機化処理前の粘土鉱物(モンモリロナイト)の層間距離は約1nmであった。
【0051】
また、表2より知られるごとく、試料e1〜試料e3の有機化クレイを用いて作製した絶縁材料(試料E1〜試料E3)は、150kV/mm以上という高い耐電圧を示した。これらの耐電圧は、クレイを含有していない試料C2の耐電圧の3倍以上であった。
これに対し、試料c1の有機化クレイを用いて作製した絶縁材料(試料C1)においては、試料C2に比べても著しく耐電性が低下していた。
【0052】
このように、2〜4級の有機アンモニウムイオンを用いて作製した有機化クレイ(試料e1〜試料e3)をエポキシ樹脂中に分散させて得られる絶縁材料(試料E1〜試料E3)は優れた絶縁性を発揮できるが、1級の有機アンモニウムイオンで有機化処理してなる有機化クレイ(試料c1)をエポキシ樹脂中分散させて得られる絶縁材料(試料C1)は絶縁性を発揮できない。
この理由は、1級の有機アンモニウムイオンを含有する絶縁材料(試料C1)においては、該絶縁材料を加熱により硬化させるとき、1級の有機アンモニウムイオンがエポキシ樹脂の硬化反応に悪影響を及ぼすためであると考えられる。
【0053】
また、試料E1〜試料E3は、エポキシ樹脂100重量部に対して約7重量部という少量のナノ充填材で上述のごとく優れた絶縁性を発揮できる。そのため、試料E1〜試料E3は、エポキシ樹脂本来の特性をほとんど損ねることなく絶縁性を発揮できる。
具体的には、表2より知られるごとく、上記試料E1〜試料E3は、エポキシ樹脂からなる試料C2と同程度のガラス転移点を示した。一方、試料C1は、ガラス転移点が試料C2よりも低下していた。
このように、試料E1〜試料E3は、ナノ充填材を含有していない試料C2と同等の優れたガラス転移点を発揮できる。
【0054】
以上のごとく、本例の試料E1〜試料E3の絶縁材料は、樹脂本来の特性をほとんど損ねることなく優れた絶縁性を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】実施例1にかかる、絶縁材料の構成を示す説明図。
【図2】実施例1にかかる、粘土鉱物の層状構造を示す説明図(a)、粘土鉱物の層間に有機アンモニウムイオンが挿入された有機化クレイの構成を示す説明図(b)。
【図3】実施例1にかかる、耐電圧の測定方法を示す説明図。
【図4】本発明の絶縁材料中を進展する絶縁破壊の様子を示す説明図。
【図5】従来の絶縁材料中を進展する絶縁破壊の様子を示す説明図。
【符号の説明】
【0056】
1 絶縁材料
2 エポキシ樹脂
3 ナノ充填材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂と、硬化剤と、厚み2nm以下でアスペクト比40以下のナノ充填材とを含有する絶縁材料であって、
上記ナノ充填材は、上記エポキシ樹脂中で有機化クレイを分散させてなり、
該有機化クレイは、窒素原子に2〜4個の有機修飾基が結合してなる2〜4級の有機アンモニウムイオンにより層状構造の粘土鉱物を有機化処理してなることを特徴とする絶縁材料。
【請求項2】
請求項1において、上記有機アンモニウムイオンの上記有機修飾基は、炭素数が30以下であることを特徴とする絶縁材料。
【請求項3】
請求項1又は2において、上記有機アンモニウムイオンの上記有機修飾基のうち少なくとも一つは、炭素数が2以上であることを特徴とする絶縁材料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項においては、上記有機アンモニウムイオンの上記有機修飾基のうちの1つは炭素数2以上であり、その他は炭素数30以下であることを特徴とする絶縁材料。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項において、上記粘土鉱物は、モンモリロナイト、サボナイト、バイデライト、ノントロナイト、ヘクトライト、及びスティブンサイトから選ばれる1種以上であることを特徴とする絶縁材料。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項において、上記絶縁材料は、上記エポキシ樹脂100重量部に対して上記ナノ充填材を1〜35重量部含有することを特徴とする絶縁材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−146077(P2007−146077A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−345554(P2005−345554)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】