説明

絶縁油入り静止誘導電器用巻線の絶縁電線

【課題】本発明は、絶縁油入り静止誘導電器用巻線として、従来実現ができなかった耐熱性及び絶縁耐力が高く、またコストバランスにも優れた構成の絶縁電線を得ることにある。
【解決手段】絶縁油入り静止誘導電器用巻線の絶縁電線において、絶縁電線に使用する絶縁被覆材料として、導体にアミン添加紙絶縁被覆を周回状に巻き回し、更に前記巻き回したアミン添加紙絶縁被覆の上に、クラフト紙絶縁被覆を周回状に巻き回して構成したことにある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁油入り静止誘導電器用巻線の絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な電力用の変圧器またはリアクトル等の絶縁油入り静止誘導電器の概略を、図6に示した。ここに示した静止誘導電器は主要素として、鉄心110、巻線120、絶縁油130で構成されている。その中の巻線120には、表面に絶縁被覆が施された電線(以下絶縁電線100)が使用されている。巻線120のA部断面概略斜視図を、図7に示した。図7から分かるように、巻線120の外観は、絶縁電線100が径方向にディスク状に巻き回され、更にそのディスク状になった絶縁電線100が垂直方向にも多重に重ねられたように見える。実際の巻き回し構造は更に複雑なので、詳細は省略する。
【0003】
図8に、図7のB部拡大を示した。この絶縁電線100は、導体2の外周に油浸絶縁物5が、導体2を芯線として周回状に巻き回されている。
【0004】
例えば、静止誘導電器の巻線120を安価に製作するためには、絶縁電線100の油浸絶縁物5として、クラフト紙絶縁被覆を使用することが考えられる。
【0005】
しかし、クラフト紙絶縁被覆は一般的に耐熱性が95℃程度であり、静止誘導電器内の温度上昇により、防災上の危険性が発生する可能性が否定できない。その対策として特許文献1のように、導体外周にクラフト絶縁紙と、耐熱性低誘電率プラスチックからなる絶縁紙(耐熱性:140℃)とを交互に巻付けてなる層を、上下が同じ材質の被覆にならないように重ねて、複数層設けることを特徴としたものが考えられている。
【0006】
また、耐熱性に優れたアミン添加紙絶縁被覆(耐熱性:105℃程度)などを、油浸絶縁物5として使用するものも考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−320546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし特許文献1のように、耐熱性低誘電率プラスチック材料とクラフト紙絶縁被覆を交互に巻いた構成では、絶縁電線100の導体に対して耐熱性が140℃の部分と95℃の部分が交互に接する事になり、クラフト紙絶縁被覆だけを使用したものよりも平均耐熱性は上がるものの、絶縁被覆全体が140℃の耐熱性になるわけではない。
【0009】
また、アミン添加紙絶縁被覆だけを使用したものは、クラフト紙絶縁被覆だけを使用したものに比べ物性上誘電率が高いため、油と絶縁被覆間の誘電率の比が大きくなる。
【0010】
一般にある部位に印加される電圧が同じであれば、その部位の中にある誘電率の大きさの逆数で、電圧割合が決定する。すなわち、誘電率が小さい程、より大きな電圧がかかることになる。つまり、アミン添加紙絶縁被覆だけを使用したものは、クラフト紙絶縁被覆だけを使用したものより、油側にかかる電圧が大きくなり、部分放電や絶縁破壊の発生する危険性が増すということである。
【0011】
また、絶縁被覆材料としてアミン添加絶縁被覆だけを使用すると、クラフト紙絶縁被覆を使用した時に比べ絶縁被覆が高価なため、絶縁電線100のコストが上がり、その結果、巻線120も割高になる。よってこの様なことから、耐熱性、絶縁耐力及びコストバランスに優れた、絶縁油入り静止誘導電器用巻線に使用する絶縁電線が求められるようになってきた。
【0012】
本発明ではこれらの事に鑑み、耐熱性及び絶縁耐力が高く、またコストバランスにも優れた、絶縁油入り静止誘導電器用の巻線に使用する、絶縁電線の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
これらの課題を解決するために、絶縁油入り静止誘導電器用巻線の絶縁電線において、絶縁電線に使用する絶縁被覆材料として、導体にアミン添加紙絶縁被覆を周回状に巻き回し、更に前記の巻き回したアミン添加紙絶縁被覆の上に、クラフト紙絶縁被覆を周回状に巻き回したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、絶縁油入り静止誘導電器用巻線の絶縁電線に使用する絶縁被覆材料として、発熱体である導体に接して耐熱性に優れたアミン添加紙絶縁被覆を配置しているため耐熱性が向上する。
【0015】
また、前記絶縁電線のアミン添加紙絶縁被覆からクラフト紙絶縁被覆そして絶縁油までの比誘電率は、アミン添加紙絶縁被覆だけを使用した絶縁電線の場合に比べ、アミン添加紙絶縁被覆と絶縁油間にクラフト紙絶縁被覆が入ることで、比誘電率の変化がなだらかになり、絶縁油側への電界集中が緩和され絶縁耐力が向上する。
【0016】
また更に、絶縁被覆材料としてアミン添加紙絶縁被覆だけを使用した絶縁電線に比べ、アミン添加紙絶縁被覆の使用量が少ないので、低コストの絶縁電線が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】絶縁被覆巻き回し第1段階図である。
【図2】本発明の絶縁電線である。
【図3】絶縁被覆の多層構造図である。
【図4】絶縁被覆の巻き回し説明図である。
【図5】静止誘導電器用巻線への本発明実施例である。
【図6】一般的な絶縁油入り静止誘導電器の構成概略図である。
【図7】図6のA部断面概略斜視図である。
【図8】図7のB部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0018】
本発明の実施例を説明する。なお、従来技術と同一部分については、同一符号を付して説明を省略する。まず絶縁電線1の構造を説明するために、図4を使って導体2への耐熱性に優れたアミン添加紙絶縁被覆3の巻き回し方を説明する。始めは、アミン添加紙絶縁被覆3を、導体2を芯線として複数回巻き回す。アミン添加紙絶縁被覆3を導体2へ巻く際は、皺や撚れまた空隙ができない様に、できるだけ密着させて巻く。そして、導体2の長手方向(図4の右方向)にも巻き進んで行く。
【0019】
巻き進み方は、図4に示したように絶縁被覆幅D>ラップ代Rとなるように、アミン添加紙絶縁被覆3をラップさせながら、右方向へ巻き進む。この様にして、導体2にアミン添加紙絶縁被覆3を必要な長さ分だけ巻き終わると、図1の様な第1段階の絶縁電線ができる。絶縁被覆の巻き回し回数及び絶縁電線の長さは、その時の製品仕様に合わせて適宜調整する。
【0020】
次にクラフト紙絶縁被覆4の巻き回し方であるが、上記で巻きまわしたアミン添加紙絶縁被覆3上に、上記と同様の方法で巻き回す。巻き回しが終わると図2のようになり、またその断面は図3のようになる。つまり複数層のアミン添加紙絶縁被覆3とクラフト紙絶縁被覆4が導体2に巻き回された構造となる。よって、導体2側に耐熱性に優れたアミン添加紙絶縁被覆3、その外側にはクラフト紙絶縁被覆4が配置された構成となるため、クラフト紙絶縁被覆だけを使用した時に比べて、導体2に接している部分の耐熱性が95℃から105℃へ向上する。つまり、このアミン添加紙絶縁被覆3は、それ自身の熱抵抗にてクラフト紙絶縁被覆4へ伝わる熱を下げ、耐熱性を向上させるのである。
【0021】
なお、上記のアミン添加紙絶縁被覆3及びクラフト紙絶縁被覆4双方とも、巻き回し時のラップ代Rは、絶縁被覆幅Dの概ね1/2幅で調整する。このラップ代Rは、絶縁電線1が巻線として使用された場合、屈曲により下層部分の絶縁被覆がむき出しにならなければ、適宜調整してもかまわない。また、絶縁被覆の巻き回しを右方向としているが、これは状況に応じて左右どちらでもかまわない。
【0022】
また絶縁被覆の価格を同じ量で比較した場合、アミン添加紙絶縁被覆の価格をa、クラフト紙絶縁被覆の価格をbとすると、a>>bの関係が成り立つ。これを本発明に当てはめてみると、例えば必要とする絶縁紙の厚さに対して、それぞれの材料の積層厚さを半分にした場合は、(a/2+b/2)の価格となる。つまり、a>(a/2+b/2)>bとなり、アミン添加紙絶縁被覆だけを使用した時に比べ、コストを削減することができる。
【0023】
そして、図5に示した巻線121を本発明の絶縁電線1で構成すると、アミン添加紙絶縁被覆3及びクラフト紙絶縁被覆4のそれぞれに絶縁油130が浸透し、アミン添加紙絶縁被覆3からクラフト紙絶縁被覆4そして絶縁油130までの比誘電率がなだらかに変化する構成となる。
【0024】
例えば、防災性をより高めたい場合は、上記絶縁油130としてシリコーン油(動粘度:20〜50mm/s(於25℃)、比誘電率80℃の時2.5)を使用するのが好ましい。周囲温度が80℃の時であれば、シリコーン油がアミン添加紙絶縁被覆3及びクラフト紙絶縁被覆4に浸透することで、アミン添加紙絶縁被覆3の比誘電率は、3.9、クラフト紙絶縁被覆4の比誘電率は、3.7となる。
【0025】
下記の表に、シリコーン油を使用した場合の物理量の例を示す。
【0026】
【表1】

【0027】
つまり、絶縁油としてシリコーン油を使用した場合は、アミン添加紙絶縁被覆3とクラフト紙絶縁被覆4の誘電率の比は、1.05、クラフト紙絶縁被覆4とシリコーン油の誘電率の比は、1.48となる。一方、従来のアミン添加紙絶縁被覆だけを使用した絶縁電線の場合は、シリコーン油との誘電率の比が1.56である。つまり、シリコーン油との誘電率の比が、1.56から1.48となり、誘電整合により電界集中が緩和されて絶縁耐力が向上する。
【0028】
また例えば、より安価に構成したい場合は、上記絶縁油130として鉱油(比誘電率80℃の時2.2)を使用するのが好ましい。周囲温度が80℃の時であれば、鉱油がアミン添加紙絶縁被覆3及びクラフト紙絶縁被覆4に浸透することで、アミン添加紙絶縁被覆3の比誘電率は、3.7、クラフト紙絶縁被覆4の比誘電率は、3.5となる。
【0029】
下記の表に、鉱油を使用した場合の物理量の例を示す。
【0030】
【表2】

【0031】
絶縁油として鉱油を使用した場合は、アミン添加紙絶縁被覆3とクラフト紙絶縁被覆4の誘電率の比は、1.06、クラフト紙絶縁被覆4と鉱油の誘電率比は、1.59となる。一方、従来のアミン添加紙絶縁被覆だけを使用した絶縁電線の場合は、1.68である。つまり、鉱油との誘電率の比が、1.68から1.59となり、誘電整合により電界集中が緩和されて絶縁耐力が向上する。
【0032】
本発明で使用したクラフト紙絶縁被覆は、JIS C2304コイル絶縁紙P50もしくはP75であって、またアミン添加紙絶縁被覆、新巴川製紙製 商品名サーモZA50もしくはサーモZA75である。これらの絶縁被覆以外でも、同等の仕様であれば同等の効果が期待できる。
【0033】
また、本実施例では平角絶縁電線を例にとって説明したが、導体に絶縁被覆を巻き回すものであれば、電線の形状にこだわらなくても同等の効果が期待できる。
【0034】
また更に、本発明では絶縁油としてシリコーン油と鉱油を例にとったが、絶縁電線の絶縁被覆から絶縁油までの誘電率の変化が本発明と同等もしくはよりなだらかであれば、油の種類にこだわらなくても同等の効果が期待できる。
【符号の説明】
【0035】
1 絶縁電線
2 導体
3 アミン添加紙絶縁被覆
4 クラフト紙絶縁被覆

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁油入り静止誘導電器用巻線の絶縁電線において、絶縁電線に使用する絶縁被覆材料として、導体にアミン添加紙絶縁被覆を周回状に巻き回し、更に前記の巻き回したアミン添加紙絶縁被覆の上に、クラフト紙絶縁被覆を周回状に巻き回した絶縁電線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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