説明

絶縁用樹脂組成物

【課題】電線・ケーブルの大径化や可撓性の低下を招くことなく、絶縁体の静電容量を小さくすることができる、低誘電率で、かつ、柔軟性に富む絶縁用樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(a)エチレン含有量が70重量%以上のオレフィン系共重合体ゴムと、(b)非芳香族系ゴム用軟化剤、例えばパラフィン系炭化水素60重量%以上およびナフテン系炭化水素0〜40重量%を含有し、かつ、パラフィン系炭化水素とナフテン系炭化水素の合計量が98重量%以上であるゴム用軟化剤を含有する絶縁用樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線装置のX線管球と高電圧発生装置間とを連結するX線用高電圧ケーブルのような低静電容量を求められる電線・ケーブルの絶縁体材料などとして有用な絶縁用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、X線装置のX線管球と高電圧発生装置間を連結するX線用高電圧ケーブルにおいては、外径が細く軽量であること、可撓性が良好で取り扱いやすいこと、高圧絶縁体の静電容量が小さく、高電圧の繰り返し課電に追従できることなどが要求されている。
【0003】
従来、かかるX線用高電圧ケーブルとしては、低圧線心の2条と裸導体の1〜2条とを撚り合わせ、この上に内部半導電層を設け、さらにこの上に、高圧絶縁体、外部半導電層、遮蔽層およびシースを順に設けてなるものが知られている。高圧絶縁体には、一般に、柔軟性があり、かつ、電気特性が比較的良好なEPゴム(エチレンプロピレンゴム)が使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
近時、X線装置は大幅に進歩し、それに伴い一段と高性能なケーブルが要求されてきており、特に、高圧絶縁体の低静電容量化に対する要求が高まっている。
【0005】
高圧絶縁体の静電容量を小さくするためには、高圧絶縁体の厚さを厚くすればよいが、その場合、ケーブルが大径化するという問題を生じる。また、近年、エチレン含有量を多くすることにより誘電率を2.6程度にまで低減したEPゴムが開発されており、このような従来のEPゴム(誘電率約3.0)より誘電率の低い材料を高圧絶縁体材料として使用することも考えられるが、このエチレン高含有EPゴムは一般に硬さが大きく、ケーブルの可撓性が損なわれるという問題があった。
【特許文献1】特開2002−245866号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような従来技術の課題を解決するためになされたもので、電線・ケーブルの大径化や可撓性の低下を招くことなく、絶縁体の静電容量を小さくすることができる、低誘電率で、かつ、柔軟性に富む絶縁用樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の絶縁用樹脂組成物は、(a)エチレン含有量が70重量%以上のオレフィン系共重合体ゴムと、(b)非芳香族系ゴム用軟化剤とを含有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の絶縁用樹脂組成物によれば、低誘電率と柔軟性を併せ持つことができ、電線・ケーブルの大径化や可撓性の低下を招くことなく、絶縁体の静電容量を小さくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の絶縁用樹脂組成物について説明する。
本発明の絶縁用樹脂組成物は、(a)エチレン含有量が70重量%以上のオレフィン系共重合体ゴムを主剤とするものである。(a)成分のオレフィン系共重合体ゴムとしては、エチレンに他のα−オレフィンを共重合させてなるゴム、あるいは、これらにさらに非共役ジエンを共重合させてなるゴムで、エチレン含有量が70重量%以上のものが挙げられる。エチレン含有量が70重量%に満たないものは、誘電率が高く、絶縁体の低静電容量化を図ることができない。エチレンと共重合させる他のα−オレフィンとしては、例えばプロピレン、1−ブテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコサンなどが挙げられる。また、非共役ジエンとしては、ジシクロペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、ジシクロオクタジエン、メチレンノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネンなどが挙げられる。
【0010】
このようなオレフィン系共重合体ゴムの具体例としては、エチレン・プロピレン共重合体ゴム、エチレン・プロピレン・5−エチリデン−2−ノルボルネン共重合体ゴム、エチレン・1−ブテン共重合体ゴム、エチレン・1−ブテン・5−エチリデン−2−ノルボルネン共重合体ゴム、エチレン・プロピレン・1−ブテン共重合体ゴムなどが挙げられる。これらのオレフィン系共重合体ゴムは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0011】
(a)成分のエチレン含有量が70重量%以上のオレフィン系共重合体ゴムとして使用される市販品としては、例えばX−3012P(エチレン含有量72重量%)、K−9720(エチレン含有量77重量%)(以上、いずれも三井化学社製 商品名)などが挙げられる。
【0012】
本発明の絶縁用樹脂組成物には、(b)非芳香族系ゴム用軟化剤が配合される。この(b)成分の非芳香族系ゴム用軟化剤としては、パラフィン系プロセスオイルや流動パラフィンのような非芳香族系の鉱物油や、ポリブテン、水素添加ポリブテン、低分子量ポリイソブチレンなどの非芳香族系の液状または低分子量の合成軟化剤が挙げられるが、なかでも、パラフィン系プロセスオイル、流動パラフィンが好ましい。
【0013】
このような(b)成分の非芳香族系ゴム用軟化剤は、パラフィン系炭化水素の含有量が60重量%以上、ナフテン系炭化水素の含有量が0〜40重量%で、これらのパラフィン系炭化水素とナフテン系炭化水素の合計量が98重量%以上であるものが好ましく、パラフィン系炭化水素の含有量が70重量%以上、ナフテン系炭化水素の含有量が0〜30重量%で、これらのパラフィン系炭化水素とナフテン系炭化水素の合計量が99重量%以上であるものがより好ましい。
【0014】
本発明においては、このような条件を満たす軟化剤を1種もしくは2種以上混合して使用してもよく、あるいは、混合物がこのような条件を満足するように2種以上の軟化剤を混合して使用してもよい。
【0015】
この(b)成分の非芳香族系ゴム用軟化剤の配合量は、(a)成分100重量部に対して5〜40重量部が好ましく、10〜20重量部がより好ましい。配合量が5重量部未満では、絶縁体の低静電容量化と可撓性の両立が困難になり、40重量部を超えると、軟化剤が表面にブリードしやすくなる。
【0016】
本発明に使用される絶縁用樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて、(a)成分のエチレン含有量が70重量%以上のオレフィン系共重合体ゴム以外のポリマー成分を配合することができる。このようなポリマー成分としては、エチレン含有量が70重量%に満たないオレフィン系共重合体ゴムの他、例えば低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)などのポリエチレン、ポリプロピレン(PP)、エチレン・アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン・アクリル酸メチル共重合体(EMA)、エチレン・メタクリル酸エチル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリイソブチレン、メタロセン触媒によりエチレンにプロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、オクテンなどのα−オレフィンや環状オレフィンなどを共重合させたオレフィン系樹脂などが挙げられる。
【0017】
また、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて、無機充填剤、架橋助剤、難燃剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、可塑剤、滑剤、その他の添加剤を配合することができる。
【0018】
本発明の絶縁用樹脂組成物は、誘電率が2.6未満であることが好ましく、2.4以下であることがより好ましい。誘電率が2.6以上では、電線・ケーブルを大径化せずに絶縁体の低静電容量化を図ることが困難になる。この誘電率は、高圧シェーリングブリッジ法により、1kV、周波数50Hzの条件で測定される。
【0019】
また、本発明の絶縁用樹脂組成物は、デュロメータ硬さが70以下であることが好ましく、60以下であることがより好ましい。デュロメータ硬さが70を超えると、電線・ケーブルの可撓性、取り扱い性が低下する。このデュロメータ硬さは、JIS K 6253のタイプAデュロメータにより測定される。
【0020】
本発明の絶縁用樹脂組成物は、耐熱性や耐磨耗性などの機械的特性を向上させる目的で、被覆後もしくは成形後にポリマー成分を架橋させてもよい。架橋方法は、特に限定されるものではなく、予め絶縁用樹脂組成物に架橋剤を添加しておき、成形後に架橋させる化学架橋法や、電子線照射による電子線架橋法など、任意の方法を用いることができる。化学架橋法を行う場合に用いる架橋剤としては、ジクミルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチルー2,5−ジ−(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチルー2,5−ジ−(tert−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、1,3−ビス(tert−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(tert−ブチルパーオキシ)バレレート、ベンゾイルオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、tert−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジアセチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、tert−ブチルクミルパーオキサイドなどの有機過酸化物が挙げられる。また、このような架橋剤とともに、トリアリルイソシアヌレートなどの架橋助剤を併用してもよい。
【0021】
本発明の絶縁用樹脂組成物は、前述した各成分をバンバリーミキサー、タンブラー、加圧ニーダ、混練押出機、ミキシングローラなどの通常の混練機を用いて均一に混練することにより容易に製造することができる。
【0022】
本発明の絶縁用樹脂組成物は、例えば電力ケーブル、高圧電子機器用ケーブル、制御用ケーブル、通信ケーブル、計装用ケーブル、信号用ケーブル、移動用ケーブルなどの各種電線・ケーブルの絶縁材、シース材をはじめ、プラグなどの電線・ケーブルの付属品など、電気絶縁性が要求される用途に広く用いることができる。特に、本発明の絶縁用樹脂組成物は、誘電率が小さく、かつ、柔軟性に優れているので、X線用高電圧ケーブルなどの高電圧電子機器用ケーブルの絶縁体材料として有用である。
【実施例】
【0023】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0024】
実施例1〜6、比較例
オレフィン系共重合体ゴム(三井化学社製 商品名 X−3012P;エチレン含有量72重量%)、並びに、軟化剤として、パラフィン系炭化水素含有量71重量%およびナフテン系炭化水素含有量が29重量%のパラフィン系プロセスオイル(出光興産社製 商品名 ダイアナプロセスオイルPW−90;プロセスオイルAと表記)およびパラフィン系炭化水素含有量66.5重量%およびナフテン系炭化水素含有量が28.5重量%のパラフィン系プロセスオイル(冨士興産社製 商品名 フッコールP−200;プロセスオイルBと表記)を用い、表1に示す配合で各成分を均一に混練して絶縁用樹脂組成物を得た。
【0025】
上記各実施例および比較例で得られた絶縁用樹脂組成物について、下記に示す方法で各種特性を評価した。これらの測定結果を表1下欄に示す。
[硬さ]
2mm厚さの試験用シートを作製し、JIS K 6253のタイプAデュロメータにより測定した。
[引張り強さおよび伸び]
2mm厚さの試験用シートを作製し、JIS C 6251に準拠して室温で測定した(引張速度500mm/分)。
[誘電率]
0.5mm厚さの試験用シートを作製し、高圧シェーリングブリッジ法により、1kV、周波数50Hzの条件で測定した。
[ブリード]
2mm厚さの試験用シートを作製し、23℃の環境下、24時間放置して、シート表面のブリードの有無を目視により観察した。
【0026】
【表1】

【0027】
表1から明らかなように、本発明に係る絶縁用樹脂組成物は、低誘電率で、かつ、柔軟性に優れており、特に、パラフィン系炭化水素含有量60重量%以上、ナフテン系炭化水素含有量0〜40重量%で、パラフィン系炭化水素とナフテン系炭化水素の合計含有量が98重量%以上である軟化剤を配合した実施例では、誘電率が2.6未満と低いうえに、デュロメータ硬さも70以下であり、電線・ケーブルの可撓性の向上および低静電容量化に大きく寄与するものであることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)エチレン含有量が70重量%以上のオレフィン系共重合体ゴムと、(b)非芳香族系ゴム用軟化剤とを含有することを特徴とする絶縁用樹脂組成物。
【請求項2】
前記(a)成分100重量部に対し、前記(b)成分5〜40重量部を含むことを特徴とする請求項1記載の絶縁用樹脂組成物。
【請求項3】
前記(b)成分は、パラフィン系プロセスオイルおよび/または流動パラフィンであることを特徴とする請求項1または2記載の絶縁用樹脂組成物。
【請求項4】
前記(b)成分は、パラフィン系炭化水素60重量%以上およびナフテン系炭化水素0〜40重量%を含有し、かつ、パラフィン系炭化水素とナフテン系炭化水素の合計量が98重量%以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の絶縁用樹脂組成物。
【請求項5】
誘電率が2.6未満、デュロメータ硬さが70以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の絶縁用樹脂組成物。
【請求項6】
電線・ケーブル絶縁用樹脂組成物であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の絶縁用樹脂組成物。
【請求項7】
電線・ケーブルが、高電圧電子機器用ケーブルであることを特徴とする請求項6記載の絶縁用樹脂組成物。

【公開番号】特開2008−231297(P2008−231297A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−74507(P2007−74507)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(306013120)昭和電線ケーブルシステム株式会社 (218)
【Fターム(参考)】