説明

絶縁碍子の耐塩性能強化部材

【課題】既設の絶縁碍子の耐塩性(絶縁性)を高める必要がある時に、絶縁碍子や機器を交換したり、絶縁塗料を塗布する等の高コストな対策を採ることなく、絶縁碍子に対して後付けで装着するだけで沿面距離を増大させて耐塩性を高めることができる。
【解決手段】環状底面を有した絶縁碍子51の外面に接着される耐塩性能強化部材1であって、環状底面に接着されるベースシート2と、ベースシートの底面に突設された環状の突起10と、を備え、ベースシート及び突起部は、複数の分割片1A、1Bに分割されており、各分割片のベースシート部分2A、2Bを環状底面に接着することによって各分割片の突起部分10A、10Bが環状の突起を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は架空送電線を支持する絶縁碍子に対して後付けすることによって、その沿面距離を増大して耐塩性能を高めることができる絶縁碍子の耐塩性能強化部材に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁碍子は、架空送電線を鉄塔に支持する手段として用いられたり、或いは発変電所に設置されている遮断器や変圧器等における絶縁手段として用いられるため、電気絶縁性や野外での耐候性、機械的な強度などが求められる。このため、磁器、ガラス、軽量ポリマー等が絶縁碍子の材料として利用されている。
また、外面に塩が付着した場合にも一定以上の絶縁性能を確保できるように、予めその構造が設計されている。
特許文献1には、傘状の碍子の底面に同心円状の襞部を形成することによって、沿面距離を増大して耐塩性を高めた碍子装置が開示されている。
また、台風等の影響によって設計時に想定された量を超えた塩が付着することが予想される場合には、碍子を耐塩性の高いものと交換する、碍子表面にシリコーン系の絶縁塗料を塗布する、或いは遮断器や変圧器自体を交換する等の対策が採られる。
【0003】
しかし、碍子や機器を交換した場合には莫大な費用がかかり、絶縁塗料を塗る場合には、塗料自体のコストが安くない上に、2年程度の短期間で機器を停電させた上で塗料の除去と塗り直しを行う必要があるため、何れの対策を採った場合も経済的な負担増が避けられなくなる。
既設の絶縁碍子に対して簡易な手法によって加工等を行うことによって低廉に耐塩性能を高めることができる技術の開発が求められてきたが、これまでこのような技術は提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−31062公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の絶縁碍子にあっては、鉄塔上や機器に設置された後でその耐塩性を高める必要が生じた場合には、耐塩性の高い絶縁碍子と交換するか、絶縁塗料を塗布するか、或いは、遮断器や変圧器自体を交換する等の高コストな対策しか採ることができなかった。
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、既設の絶縁碍子の耐塩性を高める必要がある時に、絶縁碍子や機器を交換したり、絶縁塗料を塗布する等の高コストな対策を採ることなく、絶縁碍子に対して後付けで装着するだけで沿面距離を増大させて耐塩性を高めることができる絶縁碍子の耐塩性能強化部材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1の発明に係る絶縁碍子の耐塩性能強化部材は、絶縁材料から成り且つ環状底面を有した絶縁碍子の外面に接着される耐塩性能強化部材であって、前記絶縁碍子の少なくとも前記環状底面に接着されるベースシートと、該ベースシートの底面に突設された環状の突起と、を備え、前記ベースシート及び前記突起部は、複数の分割片に分割されており、各分割片のベースシート部分を前記絶縁碍子の環状底面に接着することによって各分割片の前記突起部分が環状の突起を形成することを特徴とする。
既設の絶縁碍子の耐塩性能を高める場合、従来は絶縁碍子自体を交換したり、絶縁碍子が取り付けられる機器を交換する等の高コストな対応しかできなかったが、本発明によれば絶縁材料からなる耐塩性能強化部材を絶縁碍子に後付けすることによって沿面距離を増大させて耐塩性能を高めることができる。また、ベースシートと突起から成る耐塩強化部材は、複数の分割片に分割した状態で絶縁碍子に接着できるので、鉄塔や機器に実装された状態での施工が可能である。ベースシートを介して突起を絶縁碍子に固定しているので、接着面積が増大し、長期間安定して接合状態を維持することができる。
【0007】
請求項2の発明は、前記ベースシートは、前記絶縁碍子の環状底面に接着されるベースシート底面と、該ベースシート底面の外周縁に一体化されて前記前記碍子のテーパー状外周面に接着される折り返し部と、を備えていることを特徴とする。
ベースシートを絶縁碍子の底面のみならず、絶縁碍子の側面、及びテーパー状外周面にも接着する構成としたので、接着面積を拡張して耐久性を更に高めることができる。
【0008】
請求項3の発明は、前記絶縁碍子の側面と接する前記ベースシートの前記折り返し部の一部が厚肉部となっていることを特徴とする。
厚肉部の存在により、絶縁碍子の外周部の外径を実質的に増大させて沿面距離を拡張することができる。
【0009】
請求項4の発明は、前記各分割片同士の対向部には、互いに嵌合する凹部と凸部が形成されていることを特徴とする。
凹部と凸部とを嵌合させた状態で絶縁碍子外面に接着固定することにより、分割片同士の位置決めを確実化することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、既設の絶縁碍子の耐塩性(絶縁性)を高める必要がある時に、絶縁碍子や機器を交換したり、絶縁塗料を塗布する等の高コストな対策を採ることなく、絶縁碍子に対して後付けで装着するだけで沿面距離を増大させて耐塩性を高めることができる。
また、ベースシートと突起から成る耐塩強化部材は、複数の分割片に分割した状態で絶縁碍子に接着できるので、鉄塔や機器に実装された状態での施工が可能である。ベースシートを介して突起を絶縁碍子に固定しているので、接着面積が増大し、長期間安定して接合状態を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】(a)及び(b)は本発明の第1の実施形態に係る耐塩性能強化部材を碍子装置に取り付ける手順を示す正面図であり、(c)は耐塩性能強化部材を取り付けた碍子装置の底面図である。
【図2】(a)及び(b)は耐塩性能強化部材の底面側斜視図、及び分解斜視図である。
【図3】(a)及び(b)は本発明の第2の実施形態に係る耐塩性能強化部材を絶縁碍子に固定する手順を示す正面図である。
【図4】耐塩性能強化部材の外観構成を示す斜視図である。
【図5】本発明の第3の実施形態に係る耐塩性能強化部材の要部構成説明図である。
【図6】(a)(b)及び(c)は本発明の第4の実施形態に係る耐塩性能強化部材の一部斜視図、要部断面図、及び変形例の底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を図面に示した実施の形態により詳細に説明する。
図1(a)及び(b)は本発明の第1の実施形態に係る耐塩性能強化部材を碍子装置に取り付ける手順を示す正面図であり、(c)は耐塩性能強化部材を取り付けた碍子装置の底面図である。また、図2(a)及び(b)は耐塩性能強化部材の底面側斜視図、及び分解斜視図である。
【0013】
耐塩性能強化部材1は、碍子装置50を構成する個々の絶縁碍子51に対して、後付けされることによって、沿面距離を増大させて耐塩性を強化することを可能ならしめる手段である。
碍子装置50は、磁器、ガラス、軽量ポリマー等の絶縁材料から成る絶縁碍子51を複数個直列に連結した構造を有している。
個々の絶縁碍子51は、正面形状が傘状で、平面形状は円盤状をなしており、その環状の底面52は平坦面となっている。
なお、図示した絶縁碍子の断面構造はシンプル化して示しているが、実際の絶縁碍子は上下の絶縁碍子間を接続する金具が上面及び下面中央部に夫々設けた凹陥部内に固定されている。このため、絶縁碍子の底面52は環状となっている。
【0014】
耐塩性能強化部材1は、絶縁性、耐候性を有した樹脂材料、例えばポリマーから構成されており、平坦な環状底面52を有した傘状の絶縁碍子51の外面に接着により固定される。耐塩性能強化部材1の材質は、絶縁碍子の材質と同じである必要はなく、絶縁碍子の絶縁性と同等、或いは高い絶縁性を有した材質であればよい。
耐塩性能強化部材1は、絶縁碍子51の少なくとも環状底面52に接着される環状のベースシート2と、ベースシート2の底面に突設された環状の突起(襞)10と、を備えている。突起の数は、一本でもよいし、図示したように二個以上であってもよい。
本例では、ベースシート2は絶縁碍子の環状底面52にのみ接着されている例を示したが、ベースシートの外周縁を上方に屈曲させて絶縁碍子の側面53にまで延在させることにより、接着面積を増大させるようにしてもよい。
耐塩性能強化部材1は、最下部に位置する絶縁碍子51のみならず、他の全ての絶縁碍子の外面に対しても接着固定するため、2つの分割片1A、1Bから構成されており、各分割片のベースシート部分2A、2Bを絶縁碍子の環状底面52に絶縁性を有した接着剤によって接着することによって各分割片の突起部分(半環状突起)10A、10Bが連続した環状の突起10を形成するように構成されている。
このように広面積のベースシート2の上面を絶縁碍子の環状底面52に接着することにより、強い接着強度を確保しつつ絶縁碍子の環状底面52に環状の突起10を一体的に形成して沿面距離を拡大し、耐塩性能を向上することができる。
【0015】
次に、図3(a)及び(b)は本発明の第2の実施形態に係る耐塩性能強化部材を絶縁碍子に固定する手順を示す正面図であり、図4はこの耐塩性能強化部材の外観構成を示す斜視図である。
この実施形態に係る耐塩性能強化部材1は、絶縁碍子51の環状底面52と、側面53と、テーパー状外周面54にかけて接着される略袋状のベースシート2と、ベースシート2の底面に突設された環状の突起(突条部=襞部)10と、を備えている。
ベースシート2は、絶縁碍子の環状底面52に接着される環状のベースシート底面3と、ベースシート底面3の外周縁に一体化されて絶縁碍子の側面53、及び/又は、テーパー状外周面54に接着される折り返し部4と、を備えている。
突起10は、ベースシート底面2に一体化された環状突起である。
耐塩性能強化部材1は、2つの分割片1A、1Bから構成されており、各分割片のベースシート部分2A、2Bを絶縁碍子の環状底面52、側面53、及びテーパー状外周面54に絶縁性を有した接着剤によって接着することによって、各分割片の突起部分10A、10Bが連続した環状の突起10を形成するように構成されている。
【0016】
このように絶縁碍子の環状底面52のみならず、側面53、及びテーパー状外周面54にかけてカバーするベースシート2を絶縁碍子の外面に接着固定することにより、強い接着強度を確保しつつ絶縁碍子の環状底面52に環状の突起10を一体的に形成して沿面距離を拡大することができる。
なお、ベースシートを環状底面52と、側面53をカバーするように構成してもよい。
【0017】
次に、図5は本発明の第3の実施形態に係る耐塩性能強化部材の要部構成説明図である。
この耐塩性能強化部材1は、絶縁碍子の側面53と接するベースシート2の外周部分(折り返し部4の一部)が厚肉部5となっている。このため、絶縁碍子の外径を実質的に拡大して沿面距離を増大させることができる。
直列に連結された絶縁碍子51間の間隔が狭すぎるために、突起10の突出量を大きくできない場合(突起10を設けることができない場合)には、厚肉部5を有したベースシート2を用いて絶縁碍子の外径を増大させることによって沿面距離を増大させることができる。
つまり、突起10を併設してもよいし、突起に代えて厚肉部5を設けることによって沿面距離を確保するようにしてもよい。
【0018】
次に、図6(a)(b)及び(c)は本発明の第4の実施形態に係る耐塩性能強化部材の一部斜視図、要部断面図、及び変形例の底面図である。
この耐塩性能強化部材1は、分割片1A、1B同士の対向部(接合部)に、互いに嵌合する凹部と凸部が形成されている点が特徴的である。
図6(a)(b)は、各分割片1A、1Bを構成する突起部分10A、10Bの端面に凹部11、凸部12を夫々形成し、一方の分割片に設けた凹部11内に他方の分割片に設けた凸部12が嵌合することによって互いの位置決め精度を高めるようにしている。このため、位置ずれを生じることなく、2つの分割片を合体させて一つの耐塩性能強化部材を構成することができる。
【0019】
また、図6(c)の変形例では、突起部分ではなく、ベースシート部分2A、2Bの対向縁に夫々互いに嵌合する凹部13、凸部14を形成し、一方の分割片に設けた凹部13内に他方の分割片に設けた凸部14を嵌合させることによって互いの位置決め精度を高めるようにしている。このため、位置ずれを生じることなく、2つの分割片を合体させて一つの耐塩性能強化部材を構成することができる。
なお、凹部と凸部とから成る位置決め用の構成は、図3の実施形態に係る耐塩性能強化部材にも適用することができる。
なお、上記各実施形態では絶縁碍子の環状底面を絶縁碍子の軸方向と直交する平坦面としった例を示したが、内径側から外径側へ向けて傾斜する平坦なテーパー面、或いは湾曲面であってもよい。この場合には、ベースシート2の形状を環状底面52と整合、密着するように構成することは勿論である。
本発明の耐塩性能強化部材は、接着力、耐候性を十分に有した接着剤を使用して絶縁碍子に接着固定することにより、6〜12年間程度の耐久性を確保できるので、高い実用性を有している。また、絶縁碍子に対する加工が一切不要であるため、施工性にも優れている。
【符号の説明】
【0020】
1…耐塩性能強化部材、1A、1B…分割片、2…ベースシート、3…ベースシート底面、2A、2B…ベースシート部分、5…厚肉部、10…突起、10A、10B…突起部分、11…凹部、12…凸部、13…凹部、14…凸部、50…碍子装置、51…絶縁碍子、52…環状底面、53…側面、54…テーパー状外周面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁材料から成り且つ環状底面を有した絶縁碍子の外面に接着される耐塩性能強化部材であって、
前記絶縁碍子の少なくとも前記環状底面に接着されるベースシートと、該ベースシートの底面に突設された環状の突起と、を備え、
前記ベースシート及び前記突起部は、複数の分割片に分割されており、各分割片のベースシート部分を前記絶縁碍子の環状底面に接着することによって各分割片の前記突起部分が環状の突起を形成することを特徴とする絶縁碍子の耐塩性能強化部材。
【請求項2】
前記ベースシートは、前記絶縁碍子の環状底面に接着されるベースシート底面と、該ベースシート底面の外周縁に一体化されて前記前記碍子のテーパー状外周面に接着される折り返し部と、を備えていることを特徴とする請求項1に記載の絶縁碍子の耐塩性能強化部材。
【請求項3】
前記絶縁碍子の側面と接する前記ベースシートの前記折り返し部の一部が厚肉部となっていることを特徴とする請求項1又は2に記載の絶縁碍子の耐塩性能強化部材。
【請求項4】
前記各分割片同士の対向部には、互いに嵌合する凹部と凸部が形成されていることを特徴とする請求項1、2、又は3に記載の絶縁碍子の耐塩性能強化部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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