説明

絶縁電線、その製造方法及び多層電線

【課題】電線同士の固着やブロッキング、高温雰囲気下で互いに結束されて使用される場合等に生じやすい電線同士の接着が抑制されているとともに、長期保存時のブリードアウトや外観不良が生じにくい絶縁電線、その製造方法、並びに、前記絶縁電線の外周に外被を有する多層電線であって、絶縁電線の外被の除去に必要な力が、安定して容易であり、かつブリードアウトによる外観不良等の問題がない多層電線を提供する。
【解決手段】導体及びその外周を被覆する樹脂からなる絶縁層を有し、前記絶縁層の表面に、有機溶媒膨潤性層状珪酸塩の被覆層が形成されている絶縁電線、さらに前記絶縁層が、電離放射線を照射されて架橋した樹脂よりなる絶縁電線、及びこれらの製造方法、並びに、これらの絶縁電線、及び前記絶縁電線の外周を被覆する外被を有することを特徴とする多層電線。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器や自動車の内部等に使用される絶縁電線とその製造方法、及び、この絶縁電線を外被で被覆した多層電線に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器や自動車の内部等に使用される絶縁電線は、中央の導体の外周を樹脂等からなる絶縁層で被覆してなるものが一般的である。このような絶縁電線は、リールに巻き取られた形で出荷される場合が多いが、リール内で電線同士が互いに接触して保管されている間に、電線同士の固着やブロッキングが生じることがある。電線同士の固着やブロッキングは、絶縁層のマーキング剥がれや絶縁層の破れに結びつくことがあり、クレームの要因となる。
【0003】
そこで、この電線同士の固着、ブロッキングを防ぐ方法が考えられており、例えば、絶縁層を構成する樹脂中に、アンチブロッキング剤や滑剤を添加する方法が知られている。
【0004】
このような絶縁電線については、高温雰囲気下で使用される場合の接着や融着も問題となる場合がある。例えば、結束した絶縁電線を高温雰囲気下に放置すると電線同士が接着することがあり、結束を解除した時に被覆剥がれ(絶縁層の剥がれ)が生じ、重大な時には導体露出まで発生する。特に絶縁層の融点近く又は融点以上に加熱した場合は、電線同士が融着し、この問題が顕著である。
【0005】
このような電線同士の接着や融着を防ぐためには、絶縁被覆に電離放射線を照射して樹脂を架橋する方法が効果的である。この場合、空気中の酸素は架橋阻害の要因になるので、絶縁電線の被覆層の上に剥離可能な樹脂を被覆し、電離放射線照射を実施した後に、この剥離層を除去する方法が提案されている(特許文献1)。この方法によれば、大気中での電離放射線照射でも絶縁被覆の架橋効率を向上させ、高温雰囲気下での電線同士の接着等を防止することができる。そして、電離放射線照射を不活性ガス雰囲気下で行う必要もなく、大幅な設備の改造も不要となる。
【0006】
絶縁電線は、その最外周に、さらにシールド層やその他の外被を設けた多層電線(2層以上の複層の被覆層を有する絶縁電線)として使用される場合もある。このような多層電線は、使用時に外被を除去して内部の絶縁電線のみ使用される場合も多いが、外被と内部の絶縁電線間に固着や融着が生じると、外被の除去操作の障害となる。
【0007】
そこで、外被と内部の絶縁電線間の固着や融着を防止する方法として、外被の形成前に、内部の絶縁電線の表面にシリコーンオイルを塗布する方法(特許文献2)やタルク粉を添着する方法が知られている。
【特許文献1】特開2006−19147号公報
【特許文献2】特開2003−7143号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、前記の方法のいずれも以下に述べる問題があり、その解決が望まれている。
【0009】
絶縁被覆層を構成する樹脂中にアンチブロッキング剤や滑剤を添加して電線同士の固着やブロッキングを防ぐ方法については、全ての樹脂種に対応できるアンチブロッキング剤等は存在しておらず、樹脂種による使い分けが必要となる。又、アンチブロッキング剤等がブリードアウトして絶縁電線の表面に凝集物が堆積する等、絶縁電線の外観を不良にする問題があり、各種クレームの要因となる場合がある。
【0010】
又、高温雰囲気下で使用される場合の電線の接着を抑制するために、絶縁電線の被覆層の上に剥離可能な樹脂をさらに被覆し、電子線照射をした後にこの層を剥離する方法(特許文献1に記載の方法)は、剥離可能な樹脂層の押出し及びその除去が必要となるので容易に実施できるものではなく、又材料ロスも大きい。
【0011】
さらに、多層電線の外被の除去操作の障害を防止するために、絶縁電線の表面にシリコーンオイルを塗布する方法(特許文献2に記載の方法)やタルク粉を添着する方法についても、一定量の均一な塗布が困難であり、外被の除去に必要な力の低減はできるものの、安定的に低減させることは困難との問題がある。さらにシリコーンオイルを使用する場合では、ブリードアウトによる表面汚染、環状シリコーンの生成による回路短絡が問題となる。
【0012】
本発明は、保管時の電線同士の固着やブロッキングの発生が防止され、高温雰囲気下での電線同士の接着も抑制されているとともに、長期保存時のブリードアウトや外観不良が生じにくい絶縁電線を提供することを課題とする。本発明は、さらに、この絶縁電線を、容易に製造できる製造方法を提供することを課題とする。
【0013】
又、本発明は、前記の発明のさらにその好ましい態様として、高温雰囲気下での電線同士の接着がより効果的に抑制される絶縁電線を提供することも課題とする。
【0014】
本発明は、さらに又、外被の除去が安定して容易であり、かつブリードアウトや外観不良等の問題がない多層電線を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、前記の課題を達成するため鋭意検討した結果、絶縁層の表面に、有機溶媒により膨潤する有機溶媒膨潤性層状珪酸塩を均一にコーティングすることにより、絶縁電線同士の固着を防止できることを見出した。
【0016】
請求項1に記載の発明は、かかる知見に基づき完成されたものであり、導体、その外周を被覆する絶縁層、及び、前記絶縁層の表面に形成された、有機溶媒膨潤性層状珪酸塩の被覆層を有することを特徴とする絶縁電線を提供するものである。
【0017】
この絶縁電線は、絶縁層の表面、すなわち絶縁電線の外周に、有機溶媒膨潤性層状珪酸塩の被覆層が形成されていることを特徴とする。従って、互いに接触している絶縁電線間には、有機溶媒膨潤性層状珪酸塩が存在し、絶縁層同士の直接の接触が妨げられ絶縁電線間の固着が防がれている。又、有機溶媒膨潤性層状珪酸塩は、絶縁層の表面にコーティングされるが、その厚さが大きすぎない限りは、電線の外観を損ねるものではないので外観不良の問題は生ぜず、長期保存時のブリードアウトの問題もない。
【0018】
又、有機溶媒膨潤性層状珪酸塩の融点は、絶縁電線の使用時の温度より遥かに高い。高温雰囲気下では電線同士が接着しやすくなる傾向があるが、絶縁層間に高融点の有機溶媒膨潤性層状珪酸塩が介在することにより、この電線同士の接着が抑制される。
【0019】
図1は、請求項1に記載の絶縁電線の一例の断面構造を模式的に示す図である。図1より明らかなように、この絶縁電線は、導体1(導体線)が中央に配置され、この導体1の外周は、絶縁材料(樹脂)からなる絶縁層2で被覆されており、絶縁層2の外周は有機溶媒膨潤性層状珪酸塩3で被覆されている。なお、図1の例では、絶縁層2は1層であるが、絶縁層が2層以上からなる場合も本発明の絶縁電線に含まれる。
【0020】
有機溶媒膨潤性層状珪酸塩とは、有機溶媒によって容易に膨潤する層状珪酸塩であり、また場合によって層が剥離して有機溶媒に分散する特徴を有するものである。
【0021】
請求項2に記載の発明は、前記有機溶媒膨潤性層状珪酸塩が、スメクタイト系粘土、バーミキュライト系粘土、ハロイサイト、膨潤性雲母、及びこれらの混合物から選ばれる水膨潤性層状珪酸塩の層間カチオンを、第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩、第4級スルホニウム塩、及びこれらの混合物から選ばれる有機カチオンとイオン交換して得られる層状珪酸塩であることを特徴とする請求項1に記載の絶縁電線である。
【0022】
有機溶媒膨潤性層状珪酸塩は、通常、水膨潤性層状珪酸塩を有機カチオンにより処理して得られる。ここで水膨潤性層状珪酸塩とは、水によって容易に膨潤する層状珪酸塩であり、その主成分は珪素とマグネシウム、アルミニウムであり、ナトリウム、カリウム、リチウム等のアルカリ金属やアルカリ土類金属、その他の金属を少量含んだものでもよい。例えば、式(Al4−yMg)(Si)O20(OH)(式中、Xは、アルカリ金属やアルカリ土類金属等の金属である。)で表されるものを挙げることができる。
【0023】
水膨潤性層状珪酸塩としてより具体的には、スメクタイト系粘土、バーミキュライト系粘土、ハロイサイト、膨潤性雲母等を挙げることができ、これらの中の1種を単独で、又はこれらから選ばれる2種以上を混合して用いることができる。これらの水膨潤性層状珪酸塩としては、市販品を用いることができる。
【0024】
ここでスメクタイト系粘土としては、モンモリロナイト(ベントナイト)、バイデライト、へクトライト、サポナイト、スチブンサイト、ソーコナイト、ノントロナイト等の天然又は合成スメクタイトを挙げることができる。合成スメクタイトは、例えば、特公昭61−12848号公報に記載されている方法、又はその類似の方法により製造することができる。
【0025】
膨潤性雲母としては、Li型フッ素テニオライト、Na型フッ素テニオライト、Na型四ケイ素フッ素雲母、Li型四ケイ素フッ素雲母等の、天然又は化学的に合成し、層間にLiイオンやNaイオンを有する膨潤性雲母、又はこれらの混合物を挙げることができる。又、バーミキュライト、フッ素バーミキュライト等も用いることができる。
【0026】
水膨潤性層状珪酸塩を有機カチオンにより処理して有機溶媒膨潤性層状珪酸塩を製造する方法としては、水膨潤性層状珪酸塩を水中で十分に剥離、分散させ、又は溶解させ、その後、水又はアルコールに溶解した有機カチオンを、水膨潤性層状珪酸塩のカチオン交換容量に対して0.5〜2.0倍量添加し、水膨潤性層状珪酸塩の表面に吸着しているナトリウムイオンと有機カチオンイオンをイオン交換する方法を挙げることができる。イオン交換により水膨潤性層状珪酸塩表面に有機カチオンが吸着し、結晶表面が疎水性を示す有機溶媒膨潤性層状珪酸塩を生成する。
【0027】
用いられる有機カチオンとしては、第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩、第4級スルホニウム塩、及びそれらの混合物からなる有機カチオンがあげられる。
【0028】
より詳しくは、第4級アンモニウム塩としては、ベンジルトリメチルアンモニウム、ベンジルトリエチルアンモニウム、ベンジルトリブチルアンモニウム、ベンジルジメチルドデシルアンモニウム、ベンジルジメチルオクタデシルアンモニウム、ベンサルコニウム等のベンジルトリアルキルアンモニウムイオンやトリメチルオクチルアンモニウム、トリメチルドデシルアンモニウム、トリメチルオクタデシルアンモニウム等のアルキルトリメチルアンモニウムイオン、さらにジメチルジオクチルアンモニウム、ジメチルジドデシルアンモニウム、ジメチルジオクタデシルアンモニウム等のジメチルジアルキルアンモニウムイオン、さらにトリオクチルメチルアンモニウム、トリドデシルメチルアンモニウム等のトリアルキルメチルアンモニウムイオン、ベンゼン環を2個有するベンゼトニウムイオンを挙げることができる。
【0029】
第4級ホスホニウム塩としては、特開2006−52136号公報の段落0035等に記載された第4級ホスホニウムイオンを挙げることができる。
【0030】
この有機溶媒膨潤性層状珪酸塩は、各種有機溶媒によって容易に膨潤し、また場合によっては層が剥離分散するため、容易に有機溶媒中の分散液を製造することができ、その分散液を絶縁電線の表面に塗布し、乾燥することにより、電線上に均一にコーティングすることが可能である。
【0031】
有機溶媒膨潤性層状珪酸塩の被覆層の厚さは、0.03μm〜10μm程度でよい。この程度の厚さでも、前記の効果は十分達成される。又、後述の電離放射線の照射架橋を有機溶媒膨潤性層状珪酸塩のコーティング後に行う場合は、有機溶媒膨潤性層状珪酸塩の被覆層が厚いと、被覆層により架橋が阻害される場合も考えられるが、前記の範囲内の厚さであれば、架橋を阻害する原因にはなり得ない。
【0032】
請求項3に記載の発明は、前記絶縁層が、電離放射線の照射により架橋した樹脂よりなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の絶縁電線である。有機溶媒膨潤性層状珪酸塩の被覆層を設けることにより高温雰囲気下での使用による電線同士の接着も抑制されるが、雰囲気が、絶縁層の融点に近い温度又は融点以上の温度となる場合は、この手段のみでは、高温雰囲気下での接着を十分には防げない場合がある。さらに、融点以上の温度となる場合には、絶縁層の形状維持自体が困難となる。特に、絶縁層を構成する樹脂の融点が低い場合この問題が生じやすい。
【0033】
このような場合、絶縁層を構成する樹脂を電離放射線の照射により架橋すれば、高温雰囲気下での使用による電線同士の接着(融着)がより効果的に抑制され、絶縁層の形状も維持できるので好ましい。即ち、本発明の絶縁電線であって、絶縁層が電離放射線を照射されて架橋した樹脂よりなるものは、高温雰囲気下で生じやすい電線同士の接着がより効果的に抑制される。
【0034】
架橋に使用する電離放射線としては、ガンマ線、X線等の高エネルギーの電磁波、電子線等を挙げることができるが、硬化速度が速く(生産性大)、又、制御や管理が容易である点で電子線が好ましい。電子線の照射は、樹脂の架橋のために行われる公知の電子線照射の場合と同様な装置を用い同様な方法、条件で行うことができる。架橋に使用する照射線量が小さすぎる場合は、架橋が不十分になり架橋による効果が十分に得られない場合がある。一方、架橋に使用する照射線量が大きすぎる場合は、被覆の伸びが失われ、変色が発生する場合もある。従って、これらの点を考慮して最適な線量が選択される。
【0035】
本発明の絶縁電線は、公知の方法により、導体に絶縁層を構成する樹脂を被覆して被覆電線(導体及びその外周を被覆する樹脂からなる絶縁層を有する被覆電線)を形成した後、その絶縁層の表面に有機溶媒膨潤性層状珪酸塩をコーティングする方法により製造することができる。本発明は請求項4として、この製造方法、すなわち、導体及びその外周を被覆する絶縁層を有する被覆電線の表面に、有機溶媒膨潤性層状珪酸塩をコーティングする工程を有することを特徴とする絶縁電線の製造方法も提供するものである。
【0036】
被覆電線の表面(すなわち、絶縁層表面)に、有機溶媒膨潤性層状珪酸塩をコーティングする工程は、有機溶媒膨潤性層状珪酸塩を有機溶媒に分散してなる分散液(以下、「有機溶媒膨潤性層状珪酸塩分散液」と表す。)に、被覆電線を通し、有機溶媒膨潤性層状珪酸塩分散液を電線表面に付着させた後、当該分散液を乾燥することにより行うことができる。前記のように、有機溶媒膨潤性層状珪酸塩は容易に溶解又は有機溶媒中で分散・剥離するので、この方法により、絶縁層表面に有機溶媒膨潤性層状珪酸塩の均一な層(薄膜)を容易に形成することができる。従って、この製造方法により本発明の絶縁電線を容易に製造することができる。
【0037】
請求項5に記載の発明は、前記コーティングする工程が、濃度10重量%以下の有機溶媒膨潤性層状珪酸塩分散液を、前記被覆電線の表面に塗布し、乾燥して行われることを特徴とする請求項4に記載の絶縁電線の製造方法である。
【0038】
有機溶媒膨潤性層状珪酸塩分散液の濃度としては、10重量%以下が好ましい。有機溶媒膨潤性層状珪酸塩分散液の濃度が10重量%を超える場合は、塗布の均一性が低下する、乾燥後の電線の外観が不良になる等の問題が生じる場合がある。濃度が10重量%以下であれば、均一な塗布が可能であり、乾燥後も透明であり、電線の外観を劣化させることはない。又、10重量%以下であれば有機溶媒膨潤性層状珪酸塩分散液の作製も容易である。さらに好ましくは、濃度0.1〜10重量%の範囲である。濃度が0.1重量%未満の場合は、所定の厚さの層(薄膜)が得られにくい場合がある。
【0039】
被覆電線を有機溶媒膨潤性層状珪酸塩分散液に通し、絶縁層表面に付着した当該分散液を乾燥する方法としては、電線用パスライン中に有機溶媒膨潤性層状珪酸塩分散液で満たされた分散液槽を設置し、その分散液槽中に被覆電線を通過させ、リール巻き取りまでの間に、被覆電線表面に付着した分散液を自然乾燥又は温風乾燥等により乾燥する方法を挙げることができる。
【0040】
前記請求項3に記載の好ましい態様、すなわち、前記絶縁層が、電離放射線を照射されて架橋した樹脂よりなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の絶縁電線は、前記絶縁層に、電離放射線を照射して絶縁層を構成する樹脂を架橋させる方法により製造することができる。電離放射線の照射の意義や方法、条件等については、請求項3の発明についてした説明と同様である。
【0041】
有機溶媒膨潤性層状珪酸塩のコーティングと電離放射線の照射は、いずれを先に行ってもよい。すなわち、導体に絶縁材料からなる絶縁層を形成し、絶縁層表面に有機溶媒膨潤性層状珪酸塩をコーティングした後に、電離放射線の照射をしてもよいし、
導体に絶縁材料からなる絶縁層を形成し、絶縁層を電離放射線で照射した後に、有機溶媒膨潤性層状珪酸塩をコーティングしてもよい。いずれの場合でも、前記の本発明の効果が達成される。
【0042】
電離放射線の照射を、コーティング後に行う場合は、絶縁層が空気と遮断されているので、酸素による架橋の阻害を防ぐことができる。従って、窒素等の不活性ガス雰囲気下で照射をするための設備を設ける必要もなく、又、特許文献1に記載の技術のような、製品化前に剥離して廃棄する被覆層をさらに形成しかつその剥離、廃棄を行う等の複雑な工程も必要もなく、本発明の絶縁電線を、容易に安価に製造できる。
【0043】
又、コーティング後に電子線等の電離放射線を照射しても、絶縁層を構成する樹脂と有機溶媒膨潤性層状珪酸塩の親和性が高いため、有機溶媒膨潤性層状珪酸塩のコーティングが剥離・脱落したりすることはない。
【0044】
請求項6に記載の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の絶縁電線、及び前記絶縁電線の外周を被覆する外被を有することを特徴とする多層電線である。
【0045】
多層電線とは、導体及びその外周を被覆する絶縁層を有する絶縁電線のさらに外周に、絶縁層を被覆する外被を設けた電線やケーブル等である。図2は、請求項6に記載の多層電線の一例の断面構造を模式的に示す図である。図2中の、1、2、3は、それぞれ、導体、絶縁層、有機溶媒膨潤性層状珪酸塩でありこの部分は図1の絶縁電線と同じである。
【0046】
多層電線を構成する絶縁電線は、2本以上でもよい。即ち、並行させた2本以上の絶縁電線や2本以上の絶縁電線を撚った撚線の外周を外被で被覆した電線やケーブル等も多層電線である。
【0047】
図2中の4は、外被である。外被の材料としては、絶縁材料として一般的に使用されるものを挙げることができる。例えば、導体を被覆する絶縁層を構成する樹脂として後述されるものと同じ樹脂を、外被の材料として例示することができる。外被は、2層以上からなる場合もある。外被が2層以上の場合、外被の内側の層は介在と呼ばれることがある。
【0048】
このような多層電線は、使用時に、外被を除去して内部の絶縁電線のみ使用に供される場合があるが、外被の除去は、外被又は絶縁電線の一方を他方から引き抜いて行われる。この場合、絶縁電線の絶縁層と外被間が固着、融着していると、外被の除去が困難になり、使用時での加工性(客先加工性)が低下する。本発明の多層電線は、図2より明らかなように、絶縁層2と外被4の間に有機溶媒膨潤性層状珪酸塩の層(図中の3)が存在しているので、絶縁層と外被間の固着、融着の発生が防がれており、外被の除去に必要な力(外被除去力)が低下し、客先加工性が改善されている。又、有機溶媒膨潤性層状珪酸塩は、前記のように、均一に安定してコーティングできるので、外被除去力は安定して低下しており、従来技術のタルクやシリコーンを用いる場合に問題となった外被除去力のばらつきは生じにくい。即ち、本発明の多層電線は、絶縁電線の外被除去が、安定して容易であるとの優れた特徴を有するものである。さらに、本発明の多層電線は、前記本発明の絶縁電線を用いているので、外被が除去された絶縁電線について、ブリードアウトによる外観不良等の問題がない。
【0049】
なお、図2の例では、絶縁層2及び外被4はそれぞれ1層であるが、絶縁層及び外被のいずれも、異なった種類の材質からなる2層以上を含んでいてもよい。この場合、有機溶媒膨潤性層状珪酸塩の層は、絶縁層の最外層と外被の最内層の間に設けられる。
【0050】
図2の例ではその断面形状は真円であるが、本発明の多層電線は、その断面形状が、楕円、平角、その他の異形であってもよい。真円でない場合でも、絶縁層と外被間に有機溶媒膨潤性層状珪酸塩の層を設けることにより、絶縁層と外被間の固着、融着が防がれ、外被の除去に必要な力(外被除去力)が安定して低下し、客先加工性が改善される。
【0051】
本発明の多層電線は、前記の方法により、導体及びその外周を被覆する絶縁層を有し、前記絶縁層の表面に有機溶媒膨潤性層状珪酸塩がコーティングされている絶縁電線を作製し、その絶縁電線の外周に公知の方法により外被を被覆する方法により容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0052】
本発明の絶縁電線は、電線同士をリール内等で接触して保管するとき等で発生することがある電線同士の固着、ブロッキングや、高温雰囲気下で互いに結束されて使用される場合等に生じやすい電線同士の接着が抑制されているとともに、長期保存時のブリードアウトや外観不良が生じにくいものである。これらの絶縁電線は、本発明の方法により容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
次に、本発明を実施するための形態、特に最良の形態につき説明するが、本発明の範囲はこの形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を損ねない範囲で種々の変更を加えることは可能である。
【0054】
本発明の絶縁電線を構成する導体の材質や形態は、特に限定されない。単線でもよいし、撚り線でもよい。断面形状も真円でもよいし、他の形状でもよい。その太さも限定されない。材質も、通常の電線に使用されるものであれば、いかなるものでもよい。
【0055】
導体を被覆する絶縁層を構成する樹脂の種類も、絶縁性を有し、導体上に被覆するための押出が可能なものであれば、特に限定されない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンや、エチレンの2元系、3元系の共重合体、また、それらポリマーのグラフト系樹脂、熱可塑性エラストマー、植物由来樹脂、生分解性樹脂、エンジニアリングプラスチックも、絶縁層を構成する樹脂として用いることができる。二種類以上の樹脂をブレンドしたものも用いることができる。被覆層を形成するための押出が可能である限りは、必要に合わせて樹脂に難燃剤、着色剤、架橋助剤、酸化防止剤、金属不活性剤等を添加してもよい。
【0056】
次に、本発明の絶縁電線10を好適に製造するための製造装置11について、図3に基づいて説明する。図3に示すように、製造装置11は、被覆装置12と、冷却水槽13、固着防止剤分散液槽14(有機溶媒膨潤性層状珪酸塩、すなわち、固着防止剤分散液を満たした槽)、ドライヤーゾーン15、及び電子線照射装置16を備えている。
【0057】
被覆装置12には、押出し機ゾーン23が設けられている。導体1は、巻出し部21に巻き取られて保管されているが、巻出し部21より、図中の矢印の方向に繰り出され押出し機ゾーン23を通る。押出し機ゾーン23内に設けられている押出し機により、導体1の表面上に、絶縁層2を構成する樹脂が押出され、導体1が樹脂により被覆され被覆電線5が形成される。押出し機ゾーン23内に設けられている押出し機としては、単軸押出し機等、公知の押出し機を用いることができる。
【0058】
被覆装置12を出た被覆電線5は、冷却水槽13を通ることにより冷却され、絶縁層の樹脂が固化される。その後、被覆電線5は、固着防止剤分散液槽14を通ることによりその外周に固着・融着防止剤分散液が付着する。固着防止剤分散液槽14を通る時間は、数秒程度の短時間でもよい。固着防止剤分散液槽14を通る時間を長時間にする必要はないので、固着防止剤分散液槽14の容量を小さくすることができる。固着防止剤分散液槽14の容量は、押出線速や巻き取り線速を考慮して適宜選択される。また、固着防止剤分散液をスプレー噴射にて被覆電線5に塗布することも可能であり、上記固着防止剤分散液槽14の部分をスプレー塗布槽とすることも可能である。
【0059】
固着防止剤分散液槽14は、有機溶媒膨潤性層状珪酸塩分散液で満たされているが、この分散液は、有機溶媒膨潤性層状珪酸塩を通常の有機溶媒中に加え攪拌して分散するだけでも調整することができる。有機溶媒膨潤性層状珪酸塩の有機溶媒中への分散を、さらに容易にするために、超音波等を用いてもよいし、有機溶媒に溶ける樹脂例えばPMMAやポリエステル、ポリアミドのような非晶性樹脂を分散液中に添加しても良い。これらを添加すると、絶縁電線上に作製する有機溶媒膨潤性層状珪酸塩の被覆層の柔軟性が向上し、絶縁層との密着性が向上するので、剥離防止の観点からは好ましい。
【0060】
有機溶媒膨潤性層状珪酸塩分散液を作製するために使用される好ましい有機溶媒としては、キシレン、ベンゼン、ヘキサン、ヘプタン、スチレン、酢酸エチル、MEK、アセトン、トルエン、メタノール、エタノール、2−プロパノール、エチレングリコール、DMF等を挙げることができる。さらに、ハロゲンの使用が問題とならない場合では、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレンも使用することができる。
【0061】
その外周に固着・融着防止剤分散液が付着した被覆電線5は、ドライヤーゾーン15に送られ乾燥され、本発明の絶縁電線10となる。乾燥の方法としては、例えば、ドライヤーゾーン15に設けられた乾燥炉を、50〜80℃程度に設定し電線を1〜3分位で通す方法が挙げられる。ドライヤーゾーン15を通る電線に、ドライヤー温風を数十秒間当てる方法でも良い。又は、自然乾燥すなわち空冷区間を数十秒通す方法でも、有機溶媒膨潤性層状珪酸塩の被覆層が、絶縁層から剥離、脱落しない程度の密着性を得ることができる。
【0062】
ドライヤーゾーン15を出た絶縁電線10は、電子線照射装置16に送られ、ここで、電子線照射され、絶縁層を構成する樹脂が架橋される。図3の例では、電子線照射装置16は、ドライヤーゾーン15の後に設けられており、架橋は有機溶媒膨潤性層状珪酸塩のコーティング後に行われている。しかし、電子線照射装置16を固着防止剤分散液槽14の前に設け、架橋後に有機溶媒膨潤性層状珪酸塩のコーティングを行う方法も採用できる。電子線照射装置16としては、電線の被覆層の架橋に用いられている公知の電子線照射装置と同様なものを使用することができる。
【0063】
なお、図3に示す製造装置によれば、絶縁層の被覆、有機溶媒膨潤性層状珪酸塩のコーティング、乾燥、電子線照射の各工程が、連続して行われているが、前記各工程を切り分けて行うことも可能である。例えば、絶縁層の被覆、有機溶媒膨潤性層状珪酸塩のコーティング及び乾燥の工程を行った後、電線を一旦巻き取り、その巻き取られた電線について後に電子線照射を行ってもよい。
【0064】
電子線照射装置16の後方にはリール17が設置され、製造された絶縁電線は、リール17に巻き取られる。
【実施例】
【0065】
次に本発明をより具体的に説明するための実施例を示すが、実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0066】
製造例1 絶縁層形成用樹脂組成物の製造
エチレン−酢酸ビニル共重合体100重量部、水酸化マグネシウム100重量部、酸化防止剤(ペンタエリスリトール−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕1重量部、架橋助剤(トリエチレングリコールジメタクリレート)3重量部を、二軸混合機(30mmφ、L/D=30、バレル温度140℃、スクリュー回転数100rpm)を使用して溶融混合し、絶縁層形成用樹脂組成物を得た。その後、ストランドカットペレタイザーを用いて、絶縁層形成用樹脂組成物のペレットを作製した。
【0067】
製造例2〜4 固着・融着防止剤分散液の製造
表1に示す濃度となるように、下記の固着・融着防止剤をキシレンに分散させ、固着・融着防止剤分散液を得た。これらの固着・融着防止剤の分散性を目視で観測し、その結果を以下の基準に基づいて表1に示した。
【0068】
[有機溶媒膨潤性層状珪酸塩分散液の分散性の基準]
良好:有機溶媒に分散されずに液面・内部に漂っている粉体が見られない状態。
不良(NG):凝集した粉体が有機溶媒に分散されずに液面や内部に漂っている状態。
【0069】
[固着・融着防止剤]
・有機溶媒膨潤性層状珪酸塩A:
微粉末タイプのベントナイト精製品(主成分モンモリロナイト、層間距離約1nm。7wt%水分散液の粘度は約2500cps、層間の陽イオンはジメチルジステアリルアンモニウムにより交換されている。800℃での強熱減量は39%)。
・層状珪酸塩B:
珪酸マグネシウムを主成分とするタルク(レーザー回折法の粒子径(D50)=8.0μm)。
【0070】
【表1】

【0071】
表1に示すように、層状珪酸塩Bは1重量%の濃度でも、分散性が不良(NG)であった。一方、有機溶媒膨潤性層状珪酸塩Aは5重量%の濃度でも、分散性が良好であった。
【0072】
実施例1
0.127mmφのメッキ無しの銅線を50本撚った撚線(撚線の径3.8mmφ)の外周に、単軸溶融押出機(45mmφ、L/D=24)を用いて、製造例1で得られた絶縁層形成用樹脂組成物を押出し、被覆電線を作製した。単軸溶融押出機より押出された被覆電線を、前記単軸溶融押出機の押出部の直後に設置された冷却水槽に通して冷却した後、その後方に設置された固着防止剤分散液槽、すなわち製造例2で作製された固着・融着防止剤分散液(有機溶媒膨潤性層状珪酸塩Aの1重量%キシレン分散液)を満たした槽(長さ50cm)に2秒間で通し、有機溶媒膨潤性層状珪酸塩のキシレン分散液が外表面に付着した被覆電線を得た。
【0073】
その後、この被覆電線を、5秒間でドライヤー設置ゾーンを通過させて、付着したキシレン分散液を乾燥することにより、有機溶媒膨潤性層状珪酸塩がコーティングされた絶縁電線(絶縁電線1とする)が得られ、これをリールに巻き取った。絶縁被覆の肉厚は0.75mm、絶縁電線1の外径は、5.3mmであった(以下の実施例2〜4も同様)。
【0074】
実施例2
実施例1と同条件により、有機溶媒膨潤性層状珪酸塩でコーティングされた絶縁電線を作製した。その後、作製した絶縁電線に、空気雰囲気下、加速電圧2000kvの加速電子線を照射して架橋処理を施した後、この絶縁電線(絶縁電線2とする)をリールに巻き取った。
【0075】
実施例3
実施例1と同条件で、撚線の外周に絶縁層形成用樹脂組成物を被覆した。作製された被覆電線に、空気雰囲気下、加速電圧2000kvの加速電子線を照射して、架橋処理を施した。その後被覆電線を、2秒間で、製造例2で作製された固着・融着防止剤分散液(有機溶媒膨潤性層状珪酸塩Aの1重量%キシレン分散液)を満たした分散液槽に通し、さらに実施例1と同条件で乾燥を施して、有機溶媒膨潤性層状珪酸塩でコーティングされた絶縁電線(絶縁電線3とする)を作製し、これをリールに巻き取った。
【0076】
実施例4
実施例1と同条件で、撚線の外周に絶縁層形成用樹脂組成物を被覆した。作製された被覆電線に、空気雰囲気下、加速電圧2000kvの加速電子線を照射して、架橋処理を施した。その後被覆電線を、2秒間で、製造例2で作製された固着・融着防止剤分散液(有機溶媒膨潤性層状珪酸塩Aの1重量%キシレン分散液)を噴射する吸上式スプレーガンSSG−13(トラスコ中山社製)2基を設置したスプレー噴射槽に通した。さらに実施例1と同条件で乾燥を施して、有機溶媒膨潤性層状珪酸塩でコーティングされた絶縁電線(絶縁電線4とする)を作製し、これをリールに巻き取った。
【0077】
実施例5
製造例2で作製した固着・融着防止剤分散液の代わりに、製造例3で作製した固着・融着防止剤分散液(有機溶媒膨潤性層状珪酸塩Aの5重量%キシレン分散液)を使用した以外は実施例3と同条件にして絶縁電線(絶縁電線5とする)を作製し、これをリールに巻き取った。
【0078】
比較例1
固着・融着防止剤分散液を満たした分散液槽を通す工程を行わなかった以外は実施例2と同条件にして絶縁電線(絶縁電線6とする)を作製し、これをリールに巻き取った。
【0079】
比較例2
製造例2で作製された固着・融着防止剤分散液の代わりに、製造例4で作製された固着・融着防止剤分散液(層状珪酸塩Bの1重量%キシレン分散液)を使用した以外は実施例3と同条件にして絶縁電線(絶縁電線7とする)を作製し、これをリールに巻き取った。
【0080】
比較例3
樹脂組成物を溶融混練する段階で、オレイン酸アマイド(アンチブロッキング剤)を1重量部添加して得られた絶縁層形成用樹脂組成物を用いた以外は、製造例1と同条件にして絶縁層形成用樹脂組成物を得た。製造例1で得られた絶縁層形成用樹脂組成物の代わりに、この絶縁層形成用樹脂組成物を用いたこと、及び、固着・融着防止剤分散液を使用しなかったこと、以外は実施例1と同条件にして絶縁電線(絶縁電線8とする)を作製し、これをリールに巻き取った。
【0081】
[絶縁電線の評価]
実施例1〜5、比較例1〜3で得られた絶縁電線のそれぞれについて、以下に示す評価を行った。その結果を、表2に示す。
【0082】
(外観)
絶縁電線1〜8の外観を確認した。固着・融着防止剤を塗布しなかった絶縁電線(比較例1)と比較して凝集物が目視で確認できるものをNGとし、目視での違いが判別できないものを良好とした。
【0083】
(固着)
リールに巻き取った絶縁電線1〜8を、温度40℃、湿度50%の部屋にて1日保管後、電線同士の固着の有無を確認した。絶縁電線の自重により下層の絶縁電線との間で引っ付きが発生しているものをNGとし、引っ付きがないものを良好とした。
【0084】
(融着)
絶縁電線1〜8のそれぞれから、20cmの長さで3本の電線を切り出し、その3本を端1cmの位置で、結束バンド(66ポリアミド製)を用いて結束した。結束後、150℃恒温槽中に1時間放置した。放置後、恒温槽中より取り出して冷却した後、結束バンドを解除して、電線間を引き剥がし、融着の有無を確認した。電線を引き剥がす際に絶縁が白化したり、破れ、裂けが発生したものを融着していたとみなし、NGとした。電線を引き剥がす際に容易に引き剥がしが可能で、絶縁に白化や破れ、裂けが入らないものを良好とした。
【0085】
(長期保存:ブリードの有無)
絶縁電線1〜8を1ヶ月間保存した後に、電線表面の白色粉末(ブリード)の有無を観察した。
【0086】
【表2】

【0087】
実施例1〜4は固着・融着防止剤として有機溶媒により容易に膨潤する層状珪酸塩のキシレン(有機溶媒)分散液を塗布し、乾燥した絶縁電線であり、乾燥後の凝集物がみられず、外観が良好であり、巻き取り後の固着はみられず、長期保存後のブリードアウトも見られなかった。この結果及び後述する比較例の結果との比較により、絶縁電線外周への有機溶媒膨潤性層状珪酸塩のコーティングにより、巻き取り保存中の固着を防ぐことができ、かつ外観も良好で、ブリードアウトも生じないことが明らかである。
【0088】
実施例2は、有機溶媒膨潤性層状珪酸塩のコーティング後に、電子線照射を実施したものであり、実施例3は、電子線照射を実施した後、有機溶媒膨潤性層状珪酸塩のコーティングを行ったものである。又、実施例4は、有機溶媒膨潤性層状珪酸塩のコーティングを、固着防止剤分散液槽への浸漬ではなく、スプレー塗布にて行ったものであるが、実施例2〜4のいずれも、高温(150℃)雰囲気下、結束状態で保管しても絶縁電線同士の融着は見られなかった。この結果は、電子線照射により、高温雰囲気下、結束状態での絶縁電線同士の融着を効果的に抑制できること、この効果は、電子線照射を、有機溶媒膨潤性層状珪酸塩の塗布・乾燥の前後のいずれで実施した場合でも得られることを示している。又、前記のように、電子線照射により、外観や固着、ブリードアウトが影響されることはない。
【0089】
実施例5は、有機溶媒膨潤性層状珪酸塩のキシレン分散液として、濃度の高いもの(5重量%)を用いた場合であるが、濃度の低いもの(1重量%)を用いた場合(実施例3等)と同様な効果(外観、固着、ブリードアウト、融着)が得られている。この結果より、有機溶媒膨潤性層状珪酸塩の有機溶媒分散液の濃度を高くしても、10重量%程度以下なら、本発明の効果(良好な外観等)が損なわれないことが示されている。
【0090】
比較例1は、固着・融着防止剤を使用しなかった場合であるが、リール巻き取り時に固着が発生し、電子線照射処理を実施していても、高温(150℃)雰囲気下での結束により融着が生じた。
【0091】
比較例2は、固着・融着防止剤として有機溶媒による分散が困難な層状珪酸塩を使用した場合であるが、固着・融着防止剤が有機溶媒に分散されていないため、表面に白色の凝集物が付着し、外観不良であった。又、高温(150℃)雰囲気下での結束により融着が生じた。
【0092】
比較例3は、絶縁層形成用樹脂組成物を溶融混練で作製する際に、アンチブロッキング剤であるオレイン酸アマイドを添加して絶縁電線を作製した例である。リール巻き取り時の固着は改善されているものの、高温(150℃)雰囲気下での結束による融着が発生した。また、長期保存によりブリードアウトが発生し、絶縁電線表面に白色の凝集物が見られた。
【0093】
(多層電線(二層電線)の場合)
実施例6
実施例3と同条件で、拠線の外周に、製造例1で得られた絶縁層形成用樹脂組成物を被覆して作製した被覆電線に、空気雰囲気下、加速電圧2000kvの加速電子線を照射して架橋処理を施した。その後被覆電線を、製造例2で作製された固着・融着防止剤分散液(有機溶媒膨潤性層状珪酸塩Aの1重量%キシレン分散液)を満たした槽に2秒間で通し、さらに実施例3と同条件で、乾燥を施して、有機溶媒膨潤性層状珪酸塩Aでコーティングされた絶縁電線(外径5.3mmφ)を得た。
【0094】
このようにして得られた絶縁電線の外周に、60mmφ単軸押出機(シリンダー温度平均:約150℃)を用いて、外被材料としてのエチレン−酢酸ビニル共重合体を、肉厚0.5mm(外径6.3mmφ)となるように押出しを実施し、評価用の二層電線を得た。
【0095】
比較例4
被覆電線を、固着・融着防止剤分散液を満たした分散液槽に通す工程を行わなかった以外は、実施例6と同様にして評価用の二層電線を得た。
【0096】
比較例5
被覆電線を固着・融着防止剤分散液を満たした分散液槽に通す工程を行う代わりに、タルクを広げた皿であって、電線にタルクが付着しやすくなるように振動させた皿の上を、タルクに触れるように被覆電線を通して電線にタルクを付着させる工程を行った以外は、実施例6と同様にして評価用の二層電線を得た。
【0097】
[二層電線の評価]
実施例6、比較例4〜5で得られた二層電線のそれぞれについて、以下に示す方法で、外被除去力を測定した。その結果を表3に示す。なお、表3には、外被形成前の絶縁電線の外観の評価結果(前記[絶縁電線の評価]と同じ方法、基準にて評価した結果)も併せて示す。
【0098】
(外被除去力)
評価用の二層電線を、15cm長に切り、それぞれの片端から4cmの外被を除去して測定用サンプルを作製した。絶縁電線の外被が除去された部分を、絶縁電線と同等の大きさの穴に通して二層電線を治具に固定した。引張試験機(島津製作所社製:オートグラフAGI)を用いて、内部の絶縁電線を引いて外被より引き抜き、引抜力の測定を実施し、この引抜力を外被除去力とした。3回測定を実施し、その値を表3に記載した。
【0099】
【表3】

【0100】
実施例6は、絶縁電線に、有機溶媒により容易に膨潤する有機溶媒膨潤性層状珪酸塩A(固着・融着防止剤)をコーティングし、その外周に外被を押出して作製した二層電線である。外被除去力は低く、又安定している。固着・融着防止剤が、絶縁電線の表面に均一に塗布され、固着・融着が発生していないためと考えられる。
【0101】
比較例4は、固着・融着防止剤を使用しなかった場合であり、この場合、外被除去力が高すぎ外被の除去が困難であった。外被と絶縁電線の絶縁層との固着が強すぎるためと考えられる。
【0102】
比較例5は、絶縁電線に、有機溶媒膨潤性層状珪酸塩をコーティングする代わりに、タルク粉をまぶして作製した二層電線である。表3の結果より、タルク粉をまぶすことにより、外被除去力は低下するが、外被除去力は安定せず、高くなりすぎる、低くなりすぎる等、ばらつきが生じることが示されている。タルク粉を、絶縁電線表面に均一に付着させることが困難であるためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明の絶縁電線の構造を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の多層電線の構造を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の絶縁電線の製造装置の一例を模式的に示す模式図である。
【符号の説明】
【0104】
1、 導体
2、 絶縁層
3、 有機溶媒膨潤性層状珪酸塩
4、 外被
5、 被覆電線
10、絶縁電線
11、絶縁電線を製造するための製造装置
12、被覆装置
13、冷却水槽
14、固着防止剤分散液槽
15、ドライヤーゾーン
16、電子線照射装置
17、リール
21、巻出し部
23、押出し機ゾーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体、その外周を被覆する絶縁層、及び、前記絶縁層の表面に形成された、有機溶媒膨潤性層状珪酸塩の被覆層を有することを特徴とする絶縁電線。
【請求項2】
前記有機溶媒膨潤性層状珪酸塩が、スメクタイト系粘土、バーミキュライト系粘土、ハロイサイト、膨潤性雲母、及びこれらの混合物から選ばれる水膨潤性層状珪酸塩の層間カチオンを、第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩、第4級スルホニウム塩、及びこれらの混合物から選ばれる有機カチオンとイオン交換して得られる層状珪酸塩であることを特徴とする請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項3】
前記絶縁層が、電離放射線の照射により架橋した樹脂よりなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の絶縁電線。
【請求項4】
導体及びその外周を被覆する絶縁層を有する被覆電線の表面に、有機溶媒膨潤性層状珪酸塩をコーティングする工程を有することを特徴とする絶縁電線の製造方法。
【請求項5】
前記コーティングする工程が、濃度10重量%以下の、有機溶媒膨潤性層状珪酸塩を有機溶媒に分散してなる分散液を、前記被覆電線の表面に塗布し、その後乾燥する工程であることを特徴とする請求項4に記載の絶縁電線の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の絶縁電線、及び前記有機溶媒膨潤性層状珪酸塩の被覆層をさらに被覆する外被からなることを特徴とする多層電線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−123461(P2010−123461A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−297205(P2008−297205)
【出願日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】