説明

絶縁電線およびワイヤーハーネス

【課題】十分な難燃性を有し、従来よりも耐外傷性、耐摩耗性に優れた絶縁電線を提供すること。
【解決手段】導体12の外周に、ポリスチレンを含有する内層14が被覆され、内層14の外周に、オレフィン系樹脂を含有するポリマー成分100質量部と金属水酸化物50〜200質量部とを含有する外層16が被覆されており、内層14の厚みXと外層16の厚みYとの関係が、1/10Y≦X≦Yである絶縁電線10とする。内層14には、ポリスチレンが50質量%以上含まれていると良い。また、内層14は、フィラー含有量を、内層14のポリマー成分100質量部に対して10質量部以下にすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線およびワイヤーハーネスに関し、さらに詳しくは、車両部品、電気・電子機器部品などに好適に用いられる絶縁電線およびワイヤーハーネスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車部品などの車両部品、電気・電子機器部品などの配線に用いられる絶縁電線としては、一般に、導体の外周に、ハロゲン系難燃剤を添加した塩化ビニル樹脂組成物を被覆したものが広く用いられてきた。
【0003】
しかしながら、この種の塩化ビニル樹脂組成物は、ハロゲン元素を含有しているため、車両の火災時や電気・電子機器の焼却廃棄時などの燃焼時に有害なハロゲン系ガスを大気中に放出し、環境汚染の原因になるという問題があった。
【0004】
そのため、地球環境への負荷を抑制するなどの観点から、近年では、ポリエチレンなどのオレフィン系樹脂などに、ノンハロゲン系難燃剤として水酸化マグネシウム等の金属水酸化物を添加した、いわゆるノンハロゲン系難燃性組成物への代替が進められている。
【0005】
例えば特許文献1には、エチル−アクリル酸エチル共重合体(EEA)やポリエチレン、エチレンプロピレンゴムなどの樹脂やゴムに難燃剤として水酸化マグネシウムを添加した難燃性組成物が被覆された絶縁電線が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特許第3339154号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、基本的にオレフィン系樹脂などは燃えやすく、また、ノンハロゲン系難燃剤は、ハロゲン系難燃剤に比較して難燃化効果に劣る。したがって、ノンハロゲン系難燃性組成物では、十分な難燃性を確保するため、金属水酸化物を多量に添加する必要があった。そのため、従来の絶縁電線では、耐外傷性や耐摩耗性などの機械的特性が著しく低下するという問題があった。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、十分な難燃性を有し、従来よりも耐外傷性、耐摩耗性に優れた絶縁電線を提供することにある。また、この絶縁電線を含んだワイヤーハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため本発明に係る絶縁電線は、導体の外周に、少なくとも内層と外層とを有する絶縁層が被覆され、前記内層は、ポリスチレンを含有する樹脂組成物よりなり、前記外層は、オレフィン系樹脂を含有するポリマー成分100質量部と、金属水酸化物50〜200質量部とを含有する難燃性樹脂組成物よりなり、前記内層の厚みXと前記外層の厚みYとの関係が、1/10Y≦X≦Yであることを要旨とするものである。
【0010】
このとき、前記内層のポリスチレンは、曲げ弾性率が1800MPa以上であると良い。
【0011】
また、前記内層のフィラー含有量は、前記内層のポリマー成分100質量部に対して10質量部以下であると良い。
【0012】
そして、前記内層は、オレフィン系樹脂および/またはスチレン系熱可塑性エラストマーを含有していることが望ましい。
【0013】
このとき、前記オレフィン系樹脂および/またはスチレン系熱可塑性エラストマーは、変性オレフィン系樹脂および/または変性スチレン系熱可塑性エラストマーであると良い。
【0014】
さらに、前記内層のポリマー成分は、ポリスチレン50〜95質量%と、変性オレフィン系樹脂および/または変性スチレン系熱可塑性エラストマー50〜5質量%とを含有することが好ましい。
【0015】
このとき、前記変性は、カルボン酸基、酸無水物基、シラン基、エポキシ基、ヒドロキシル基、および、アミノ基から選択される1種または2種以上の官能基による変性であると良い。
【0016】
そして、前記外層のポリマー成分は、オレフィン系樹脂80〜95質量%とスチレン系熱可塑性エラストマー15〜5質量%とを含有することが望ましい。
【0017】
一方、本発明に係るワイヤーハーネスは、上記絶縁電線を含むことを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る絶縁電線は、導体の外周に、少なくとも内層と外層とを有する絶縁層が被覆されており、その内層がポリスチレンを含有している。そのため、耐外傷性および耐摩耗性に優れる。また、絶縁層の外層が、外層を形成するポリマー成分100質量部に対して金属水酸化物50〜200質量部を含有している。そのため、難燃性に優れる。そして、内層の厚みXと外層の厚みYとの関係が、1/10Y≦X≦Yを満たしている。そのため、難燃性、耐外傷性、および、耐摩耗性のバランスに優れる。
【0019】
このとき、前記内層のポリスチレンの曲げ弾性率が1800MPa以上であると、より一層、耐外傷性および耐摩耗性に優れる。
【0020】
また、前記内層のフィラー含有量が、前記内層のポリマー成分100質量部に対して10質量部以下であると、より一層、耐外傷性および耐摩耗性に優れる。
【0021】
そして、前記内層が、オレフィン系樹脂および/またはスチレン系熱可塑性エラストマーを含有していると、内層とこの内層に接触する外層との間の密着性が向上して、加工性が良くなる。
【0022】
このとき、前記オレフィン系樹脂および/またはスチレン系熱可塑性エラストマーが、変性オレフィン系樹脂および/または変性スチレン系熱可塑性エラストマーであると、内層と外層との間の密着性に優れるとともに、内層とこの内層に接触する導体との間の密着性にも優れる。これにより、絶縁層が導体からめくれにくくなり、絶縁層に傷が入ったときに導体まで露出しにくくなる。
【0023】
そして、前記内層のポリマー成分が、ポリスチレン50〜95質量%と、変性オレフィン系樹脂および/または変性スチレン系熱可塑性エラストマー50〜5質量%とを含有すると、耐外傷性および耐摩耗性に優れるとともに、柔軟性にも優れる。
【0024】
このとき、前記変性が、カルボン酸基、酸無水物基、シラン基、エポキシ基、ヒドロキシル基、および、アミノ基から選択される1種または2種以上の官能基による変性であると、内層と導体との間の密着性がより一層高まる。
【0025】
そして、前記外層のポリマー成分が、オレフィン系樹脂80〜95質量%とスチレン系熱可塑性エラストマー15〜5質量%とを含有すると、柔軟性に優れる。
【0026】
一方、本発明に係るワイヤーハーネスによれば、上記絶縁電線を含むので、絶縁被覆材の劣化が抑えられ、長期にわたって高い信頼性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
次に、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0028】
本発明の一実施形態に係る絶縁電線10は、図1に示すように、導体12の外周に、内層14と外層16の2層よりなる絶縁層が被覆されたもので構成されている。すなわち、従来のオレフィン系樹脂と金属水酸化物とを含有する1層構成の絶縁層では、難燃性と耐外傷性および耐摩耗性とを満足させるのに限界があり、そのため、絶縁層を2層以上の構成とし、機能を分離させて、外層で難燃性を発揮させるとともに、内層で耐外傷性および耐摩耗性を発揮させる構成としている。
【0029】
導体12としては、単線の金属線、複数本の金属素線が撚り合わされた撚線、撚線が圧縮加工されたものなどが挙げられる。図1(a)には、複数本の金属素線が撚り合わされた撚線よりなる導体12の例を示しており、図1(b)には、撚線を圧縮加工してなる導体12の例を示している。導体12の径や材質などは、特に限定されるものではなく、用途などに応じて適宜選択することができる。
【0030】
内層14は、ポリスチレンを含有する樹脂組成物よりなる。ポリスチレンは、絶縁電線の耐外傷性および耐摩耗性の向上に寄与する。この観点から、ポリスチレンは、ISO178に準拠して測定される曲げ弾性率が1800MPa以上であることが好ましい。より好ましくは、2000MPa以上であると良い。曲げ弾性率が高ければ高いほど、耐外傷性および耐摩耗性が向上しやすい。
【0031】
ポリスチレンは、耐外傷性および耐摩耗性の向上効果が阻害されない範囲内であれば、耐衝撃性を向上させるなどの目的で、ゴムやオレフィン系樹脂などを含有していても良い。この場合、ゴムやオレフィン系樹脂などの含有量は、50質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、30質量%以下である。他の成分を多く含むと曲げ弾性率が低下して、耐外傷性および耐摩耗性の向上効果が低下する。
【0032】
また、ポリスチレンは、ISO1133に準拠して測定(温度200℃、荷重5.0Kg下で測定)されるメルトフローレイト(MFR)が、0.1〜50g/10minの範囲内にあることが好ましい。MFRが0.1g/10min未満では、内層を形成する樹脂組成物の流動性が悪くなる傾向が見られる。一方で、MFRが50g/10minを超えると、押出成形の制御が難しくなる傾向が見られる。
【0033】
ポリスチレンは、結晶性ポリスチレンであっても良いし、非結晶性ポリスチレンであっても良い。
【0034】
内層14は、ポリスチレン以外の樹脂やエラストマーなどのポリマー成分を含有していても良い。ポリスチレン以外のポリマー成分として好適なポリマー成分は、例えば、オレフィン系樹脂や、スチレン系熱可塑性エラストマー、EPDMやSBRなどのゴム成分などを例示することができる。これらのうち、内層14に接触する外層16との間の密着性を向上させて、絶縁電線10の加工性を良くするなどの観点から、オレフィン系樹脂や、スチレン系熱可塑性エラストマーが好ましい。
【0035】
内層14がポリスチレン以外のポリマー成分を含有する場合、耐外傷性および耐摩耗性の向上効果との関係から、ポリスチレンを50質量%以上含有していることが好ましい。より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上である。このとき、ポリスチレン以外のポリマー成分の含有量は、内層に接触する外層との間の密着性を確保するなどの観点から、5〜50質量%の範囲内であることが好ましい。より好ましくは、5〜30質量%の範囲内である。さらに好ましくは、5〜20質量%の範囲内である。
【0036】
内層14に含有されるオレフィン系樹脂や、スチレン系熱可塑性エラストマー、EPDMやSBRなどのゴム成分などのポリマーは、変性されていても良い。内層14に、変性オレフィン系樹脂や変性スチレン系熱可塑性エラストマーなどの変性ポリマーを含有する場合、内層14に接触する導体12との間の密着性が向上する。内層14と導体12との間の密着性が高いと、絶縁層は、導体12からめくれにくくなる。そうすると、例えば絶縁層に傷が入ったときに、導体12まで露出しにくくする効果がある。
【0037】
特に、内層14に、変性オレフィン系樹脂や変性スチレン系熱可塑性エラストマーを含有する場合には、内層14と内層14に接触する外層16との間の密着性と、内層14と内層14に接触する導体12との間の密着性のいずれも向上させることができる。
【0038】
変性の際に導入する官能基としては、例えば、カルボン酸基、酸無水物基、シラン基、エポキシ基、ヒドロキシル基、アミノ基などを例示することができる。これらは1種または2種以上併用しても良い。より好ましくは、カルボン酸基、酸無水物基、シラン基である。
【0039】
このうち、カルボン酸基や酸無水物基を形成する酸としては、例えば、マレイン酸およびその誘導体である無水マレイン酸、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステルや、フマル酸およびその誘導体である無水フマル酸、フマル酸モノエステル、フマル酸ジエステルなどを例示することができる。これらは1種または2種以上併用しても良い。酸を導入する方法としては、グラフト法や直接(共重合)法などが挙げられる。
【0040】
変性ポリマー中に占める官能基の割合は、0.05〜10質量%の範囲内にあることが好ましい。官能基の割合が0.05質量%未満では、内層14と内層14に接触する導体12との間の密着性を向上させる効果が低下しやすい。一方、官能基の割合が10質量%を超えると、電線の端末加工時の被覆ストリップ性が低下しやすい。より好ましくは、0.1〜10質量%、さらに好ましくは、0.2〜5質量%の範囲内である。
【0041】
外層16は、オレフィン系樹脂と金属水酸化物とを含有する難燃性樹脂組成物よりなる。金属水酸化物の含有量は、難燃性を確保するなどの観点から、外層16のポリマー成分100質量部に対して、50〜200質量部の範囲内にある。より好ましくは、外層16のポリマー成分100質量部に対して、50〜150質量部の範囲内である。
【0042】
オレフィン系樹脂は、オレフィン系樹脂とともに外層16に配合される金属水酸化物と混ざりやすくするなどの観点から、変性されていても良い。変性としては、上述する内層14の変性オレフィン系樹脂と同様の変性にすることができる。このとき、変性オレフィン系樹脂中に占める官能基の割合は、0.05〜10質量%の範囲内にあることが好ましい。官能基の割合が0.05質量%未満では、金属水酸化物がオレフィン系樹脂に混ざりにくくなりやすい。一方、官能基の割合が10質量%を超えると、電線の端末加工時の被覆ストリップ性が低下しやすい。より好ましくは、0.1〜10質量%、さらに好ましくは、0.2〜5質量%の範囲内である。
【0043】
外層16は、外層16の柔軟性を高めるなどの観点から、オレフィン系樹脂以外のポリマー成分を含有していても良い。オレフィン系樹脂以外の好適なポリマー成分としては、例えば、スチレン系熱可塑性エラストマー、EPDMやSBRなどのゴム成分などを例示することができる。この場合、外層16のポリマー成分は、オレフィン系樹脂を80質量%以上含有していることが好ましい。より好ましくは、90質量%以上である。一方、オレフィン系樹脂以外のポリマー成分を5〜15質量%の範囲内で含有することが好ましい。より好ましくは、5〜10質量%の範囲内である。
【0044】
内層14の厚みと外層16の厚みとは、特定の関係にある。すなわち、内層14の厚みをXとし、外層16の厚みをYとしたときに、1/10Y≦X≦Yとなることが必要である。内層14の厚みXと外層16の厚みYとの関係が1/10Y>Xであると、内層14の厚みが薄くなり、十分な耐外傷性が得られない。一方で、内層14の厚みXと外層16の厚みYとの関係がX>Yであると、外層16の厚みが薄くなり、十分な難燃性が得られない。
【0045】
絶縁層全体の厚みとしては、特に限定されないが、好ましくは、0.1〜0.3mmの範囲内にすると良い。また、絶縁電線の外径は、特に限定されないが、3mm以下、より好ましくは、2mm以下にすると良い。
【0046】
内層14や外層16に含有されるオレフィン系樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ビニルエステル共重合体などを示すことができる。これらは、1種または2種以上併用しても良い。
【0047】
内層14や外層16に含有されるスチレン系熱可塑性エラストマーにおいて、スチレンと共重合させる成分としては、エチレンやプロピレン、ブタジエン、イソプレンなどを例示することができる。これらは単独で共重合させても良いし、複数組み合わせて共重合させても良い。
【0048】
スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、スチレン−ブタジエンブロック共重合体およびその水添または部分水添誘導体であるスチレン−エチレン−スチレン共重合体(SES)やスチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)、無水マレイン酸変性のスチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体およびその水添または部分水添誘導体であるスチレン−エチレン−プロピレン共重合体(SEP)やスチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体(SEEPS)、無水マレイン酸変性のスチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体などを例示することができる。これらは、1種または2種以上併用しても良い。
【0049】
スチレンをハードセグメント、スチレンに挟まれたポリマーをソフトセグメントとして、ハードセグメントとソフトセグメントの割合は、ハードセグメント/ソフトセグメントが、重量比で10/90〜40/60の範囲内にあることが好ましい。
【0050】
内層14のポリマー成分および外層16のポリマー成分には、さらに、ブタジエンゴムやイソプレンゴムなどのゴムを含有していても良い。これらのゴムは、酸変性したものであっても良い。例えば、コアシェル構造を有する変性ブタジエンゴムや、コアシェル構造を有する変性イソプレンゴムなどを例示することができる。また、1,2−ポリブタジエンなどの熱可塑性エラストマーを含有していても良い。
【0051】
外層16に含有される金属水酸化物としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウムなどを示すことができる。これらは1種または2種以上併用しても良い。より好ましくは、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムである。金属水酸化物の平均粒子径は、0.1〜20μmの範囲内にあることが好ましい。平均粒子径が0.1μm未満では、粒子が凝集しやすいため、電線物性の難燃特性が低下しやすく、一方、平均粒子径が20μmを超えると、低温特性が低下しやすい。
【0052】
金属水酸化物は、表面処理されていても良い。表面処理剤としては、例えば、シランカップリング剤、脂肪酸、脂肪酸誘導体、高級アルコール、ワックスなどを例示することができる。また、この他の表面処理剤を用いることもできる。
【0053】
表面処理剤は、金属水酸化物100質量部に対して、0.1〜10質量部の範囲内にあることが好ましい。より好ましくは、0.5〜3質量部の範囲内である。0.1質量部未満では、電線特性の向上効果が低下しやすく、10質量部を超えると、過剰に添加されたものが不純物として残存しやすくなり、電線の物性を低下させやすい。
【0054】
内層14および外層16には、必要に応じて、他の添加剤が配合されていても良い。例えば、電線被覆材などに用いられる一般的な充填剤や、顔料、酸化防止剤、老化防止剤などが配合されていても良い。ただし、内層14のフィラー含有量は、内層14のポリマー成分100質量部に対して10質量部以下であることが好ましい。内層14のフィラー含有量が10質量部を超えると、耐外傷性や耐摩耗性を高める効果が低下しやすい。なお、外層16に必要な量の添加剤が配合されていれば、内層14に添加剤を配合しなくても良い。
【0055】
本実施形態に係る絶縁電線10は、絶縁層を内層14と外層16の2層構造にしている。すなわち、絶縁層の表面側に位置する外層16を難燃性樹脂組成物で形成して、絶縁層全体の難燃性を向上させている。一方で、内層14には難燃剤を含有させないでポリスチレンを含有させることにより、絶縁層全体の耐外傷性および耐摩耗性を向上させている。したがって、絶縁層は、少なくとも、上述する内層14と外層16とを有することが必要である。
【0056】
そして、本発明に係る絶縁電線は、上述する内層14と外層16とを有していれば良いため、絶縁層が2層のものに限定されるものではなく、絶縁層が3層以上のものであっても良い。このとき、内層14と外層16との間には1層以上の中間層を有する。中間層を構成する材料や中間層の厚みなどは、特に限定されるものではなく、用途などに応じて適宜選択することができる。例えば、中間層の材料は、外層や内層を構成する材料と同種の材料を用いると、製造しやすいなどの利点がある。
【0057】
次に、絶縁電線の製造方法について説明する。
【0058】
まず、内層を形成する樹脂組成物と、外層を形成する難燃性樹脂組成物をそれぞれ調製する。内層を形成する樹脂組成物は、ポリスチレンと、必要に応じて、ポリスチレン以外のポリマーや各種添加剤などを配合し、これらを通常のタンブラーなどでドライブレンドしたり、あるいは、バンバリミキサー、加圧ニーダー、混練押出機、二軸押出機、ロールなどの通常の混練機で溶融混練して均一に分散したりすることにより当該組成物を得ることができる。
【0059】
同様に、外層を形成する難燃性樹脂組成物は、オレフィン系樹脂と、金属水酸化物と、必要に応じて、オレフィン系樹脂以外のポリマーや各種添加剤などを配合し、これらを通常のタンブラーなどでドライブレンドしたり、あるいは、バンバリミキサー、加圧ニーダー、混練押出機、二軸押出機、ロールなどの通常の混練機で溶融混練して均一に分散したりすることにより当該組成物を得ることができる。
【0060】
さらに、中間層を有する絶縁電線の場合には、上述する方法に準じて、中間層を形成する樹脂組成物を調製する。
【0061】
次いで、通常の押出成形機などを用いて、導体の外周に、内層を形成する樹脂組成物を押出成形(押出被覆)し、内層の外周に、外層を形成する難燃性樹脂組成物を押出成形して製造することができる。このとき、同時押出成形により、内層と外層とを押出成形しても良いし、内層を押出成形した後、外層を押出成形しても良い。また、中間層を有する絶縁電線の場合には、内層の外周に、中間層を形成する樹脂組成物を押出成形し、中間層の外周に、外層を形成する難燃性樹脂組成物を押出成形すれば良い。
【0062】
次に、本発明に係るワイヤーハーネスについて説明する。
【0063】
本発明に係るワイヤーハーネスは、上記絶縁電線を含んでなるものである。上記絶縁電線のみで構成される電線束であっても良いし、他の樹脂組成物が被覆された絶縁電線、例えば、塩化ビニル系の絶縁電線やハロゲン元素を含有しない他の絶縁電線などを含んで構成される電線束であっても良い。電線束は、例えばワイヤーハーネス保護材により被覆されていると良い。電線の本数は、任意に定めることができ、特に限定されるものではない。
【0064】
ワイヤーハーネス保護材は、複数本の絶縁電線が束ねられた電線束の外周を覆い、内部の電線束を外部環境などから保護する役割を有するものである。ワイヤーハーネス保護材を構成する基材としては、特に限定されるものではないが、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂組成物が好ましい。樹脂組成物には、難燃剤を適宜添加すると良い。
【0065】
ワイヤーハーネス保護材としては、テープ状に形成された基材の少なくとも一方の面に粘着剤が塗布されたものや、チューブ状、シート状などに形成された基材を有するものなどを、用途に応じて適宜選択して用いることができる。
【実施例】
【0066】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0067】
(供試材料および製造元など)
本実施例において使用した供試材料を製造元、商品名、物性値などとともに示す。なお、一部のものについては実験室で試作したものを使用した。
【0068】
・ポリプロピレン(PP)[(株)プライムポリマー製、「E−150GK」]
・ポリエチレン(PE)[日本ユニカー(株)製、「NUC8008」]
・スチレン系熱可塑性エラストマー(SEBS)[(株)旭化成製、「タフテックH1043」]
・ポリスチレン1(PS1)[PSジャパン(株)製、「GPPS HH105」、MFR=1.3g/10min、曲げ弾性率=3300MPa]
・ポリスチレン2(PS2)[PSジャパン(株)製、「HIPS 433」、MFR=21g/10min、曲げ弾性率=1750MPa]
・無水マレイン酸導入PP[三井化学(株)製、「アドマーQE060」]
・無水マレイン酸導入PE[三井化学(株)製、「アドマーXE070」]
・水酸化マグネシウム[マーティンスベルグ(株)製、「マグニフィンH10IV」、平均粒子径1.0μm]
・水酸化アルミニウム[昭和電工(株)製、「ハイジライト H−10」]
・酸化防止剤[チバスペシャルティケミカルズ(株)製、商品名「イルガノックス1010」]
・金属不活性剤[チバスペシャルティケミカルズ(株)製、商品名「イルガノックスMD1024」]
・エポキシ基導入SEBS
(株)旭化成製SEBS(「タフテックH1043」)とビスフェノールA(試薬)とエピクロルヒドリン(試薬)とから、SEBSにエポキシ基を導入したものである。
【0069】
(絶縁電線の作製)
実施例および比較例に示す成分を示された量で混合し、二軸押出機により200〜230℃で混練した。得られた組成物を断面積0.35mmの撚線導体の周囲に0.2mm厚で押出成形した。押出成形には、直径1.1mmのダイスと直径0.75mmのニップルを使用し、押出温度はダイス230〜250℃、シリンダ230〜250℃とし、線速度50m/minで押出成形した。
【0070】
(耐外傷性評価)
図2(a)(平面図)、図2(b)(側面図)に示すように、30cmの長さに切り取った電線1を、プラスチック板2a,2b上に設置する。プラスチック板2aとプラスチック板2bの間隔は、5mmとする。電線1の左端を、プラスチック板2bに固定し、電線1の右端に30Nの張力をかけて、電線1をまっすぐにする。次いで、電線1において、プラスチック板2aとプラスチック板2bの間に配置された部分の下部から1cm、電線1の径方向中央から外周側に0.8mm程度離した位置に、厚みが0.5mmの金属片3を配置する。
【0071】
次いで、図3(a)〜図3(c)に示すように、金属片3を50mm/minの速度で絶縁層4に接触させながら上方に移動させて、電線1の金属片3にかかる荷重を測定する。このとき、電線1の導体5が露出していない場合には、0.01mm単位で金属片3を電線1の中央方向に近づけ、導体5が露出するまで測定を続ける。導体が露出しない上限荷重をその電線の耐外傷性能力とし、15N以上の荷重でも導体が露出しない場合に、耐外傷性を合格「○」とし、さらに、20N以上の荷重でも導体が露出しない場合に、耐外傷性により優れる「◎」とした。一方、15N以下の荷重で導体が露出した場合に、耐外傷性を不合格「×」とした。
【0072】
(耐摩耗性評価)
ISO6722に準拠して、ブレード往復法で行なった。ブレードにかかる荷重を7Nとし、試験回数4回の最小値が300回以上を合格「○」とした。一方、試験回数4回の最小値が300回未満を不合格「×」とした。
【0073】
(難燃性評価)
ISO6722に準拠して行なった。すなわち、まず、実施例および比較例に係る絶縁電線を600mmの長さに切り出して試験片とした。次いで、各試験片を45°に傾け、試験片の上端から500±5mmの部分に15秒間炎を当て、試験片の絶縁層上の炎がすべて70秒以内に消え、試験片上部の絶縁層が50mm以上焼けずに残ることを合格「○」とし、そうでないときを不合格「×」とした。
【0074】
(加工性評価)
各絶縁電線の端末部の絶縁層を皮剥した際に、ヒゲが形成されるか否かを確認し、ヒゲが形成されないものを合格「○」とし、ヒゲが形成されるものを不合格「×」とした。
【0075】
表1および表2に、絶縁層を形成する樹脂組成物の配合割合および評価結果を示す。なお、表1および表2に示す値は、質量部で表したものである。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【0078】
比較例1は、1層構造の絶縁層であり、この絶縁層にはポリスチレンが含まれていないため、耐外傷性に劣っている。また、1層よりなる絶縁層は、金属水酸化物を含有するため、耐摩耗性にも劣っている。比較例2では、2層構造の絶縁層の内層にポリスチレンが含まれていないため、耐外傷性に劣っている。比較例3では、2層構造の絶縁層の内層にポリスチレンは含まれているものの、内層の厚さが外層の厚さの1/10未満であるため、耐外傷性に劣っている。
【0079】
比較例4〜7では、2層構造の絶縁層の内層の厚さが外層の厚さを超えているため、難燃性、耐摩耗性に劣っている。比較例8では、2層構造の絶縁層の外層に含まれる金属水酸化物の量が少ないため、難燃性に劣っている。
【0080】
これらに対して、実施例に係る絶縁電線は、耐外傷性、耐摩耗性、難燃性、加工性に優れていることが確認できた。
【0081】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明に係る難燃性樹脂組成物は、例えば、車両部品、電気・電子機器部品などに用いられる絶縁電線に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の一実施形態に係る絶縁電線を表す断面図である。
【図2】絶縁電線の耐外傷性を試験評価する方法を表す図である。
【図3】絶縁電線の耐外傷性を試験評価する方法を表す図である。
【符号の説明】
【0084】
10 絶縁電線
12 導体
14 内層
16 外層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体の外周に、少なくとも内層と外層とを有する絶縁層が被覆され、
前記内層は、ポリスチレンを含有する樹脂組成物よりなり、
前記外層は、オレフィン系樹脂を含有するポリマー成分100質量部と、金属水酸化物50〜200質量部とを含有する難燃性樹脂組成物よりなり、
前記内層の厚みXと前記外層の厚みYとの関係が、
1/10Y≦X≦Y
であることを特徴とする絶縁電線。
【請求項2】
前記内層のポリスチレンは、曲げ弾性率が1800MPa以上であることを特徴とする請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項3】
前記内層のフィラー含有量は、前記内層のポリマー成分100質量部に対して10質量部以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の絶縁電線。
【請求項4】
前記内層は、オレフィン系樹脂および/またはスチレン系熱可塑性エラストマーを含有していることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の絶縁電線。
【請求項5】
前記オレフィン系樹脂および/またはスチレン系熱可塑性エラストマーは、変性オレフィン系樹脂および/または変性スチレン系熱可塑性エラストマーであることを特徴とする請求項4に記載の絶縁電線。
【請求項6】
前記内層のポリマー成分は、ポリスチレン50〜95質量%と、変性オレフィン系樹脂および/または変性スチレン系熱可塑性エラストマー50〜5質量%とを含有することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の絶縁電線。
【請求項7】
前記変性は、カルボン酸基、酸無水物基、シラン基、エポキシ基、ヒドロキシル基、および、アミノ基から選択される1種または2種以上の官能基による変性であることを特徴とする請求項5または6に記載の絶縁電線。
【請求項8】
前記外層のポリマー成分は、オレフィン系樹脂80〜95質量%とスチレン系熱可塑性エラストマー15〜5質量%とを含有することを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の絶縁電線。
【請求項9】
請求項1〜8に記載の絶縁電線を含むことを特徴とするワイヤーハーネス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−117185(P2009−117185A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−289231(P2007−289231)
【出願日】平成19年11月7日(2007.11.7)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】