説明

絶縁電線

【課題】十分な難燃性を有し、従来よりも耐白化性に優れた絶縁電線を提供すること。
【解決手段】導体と、この導体の外周を押出被覆する絶縁体層とを有する絶縁電線であって、導体の電線規格のサイズは8mm以上であり、絶縁体層は、オレフィン系樹脂と、金属水酸化物と、滑剤とを含む樹脂組成物より形成されている。また、金属水酸化物は、オレフィン系樹脂100質量部に対して70〜80質量部含有されている。滑剤は、オレフィン系オリゴマーを主成分とし、オレフィン系樹脂100質量部に対して、0.2〜10質量部含有されていることが好ましい。また、金属水酸化物は、水酸化マグネシウムを主成分とすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線に関し、さらに詳しくは、車両部品、電気・電子機器部品などに好適に用いられる絶縁電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車部品などの車両部品、電気・電子機器部品などの配線に用いられる絶縁電線としては、一般に、導体の外周に、ハロゲン系難燃剤を添加した塩化ビニル樹脂組成物を絶縁体層として被覆したものが広く用いられてきた。
【0003】
しかしながら、この種の塩化ビニル樹脂組成物は、ハロゲン元素を含有しているため、車両の火災時や電気・電子機器の焼却廃棄時などの燃焼時に有害なハロゲン系ガスを大気中に放出し、環境汚染の原因になるという問題があった。
【0004】
そのため、地球環境への負荷を抑制するなどの観点から、近年では、ポリエチレンなどのオレフィン系樹脂などに、ノンハロゲン系難燃剤として水酸化マグネシウム等の金属水酸化物を添加した、いわゆるノンハロゲン系難燃性組成物への代替が進められている。
【0005】
例えば特許文献1には、エチル−アクリル酸エチル共重合体(EEA)やポリエチレン、エチレンプロピレンゴムなどの樹脂やゴムに難燃剤として水酸化マグネシウムを添加した難燃性組成物を絶縁体層として被覆した絶縁電線が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特許第3339154号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、基本的にオレフィン系樹脂などは燃えやすく、また、ノンハロゲン系難燃剤は、ハロゲン系難燃剤に比較して難燃化効果に劣る。したがって、ノンハロゲン系難燃性組成物では、十分な難燃性を確保するため、金属水酸化物などの難燃剤を多めに添加する必要があった。
【0008】
しかしながら、金属水酸化物を多めに添加すると、絶縁体層の機械的特性が著しく低下してしまう。例えば、ワイヤーハーネスの組み立て時などに絶縁電線が端子に接触したり、絶縁電線同士が擦れ合ったりすると、引っ掻き傷や削れが生じて、絶縁体層の表面がささくれ立ってしまう。そして、水酸化マグネシウムが配合されていることにより、光の屈折度合が変化して、ささくれ立った部分が白化しやすくなり、外観が損なわれるといった問題があった。特に径の太い絶縁電線では、絶縁体層の表面積が大きいため、この問題は顕著であった。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、十分な難燃性を有し、従来よりも耐白化性に優れた絶縁電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため本発明に係る絶縁電線は、導体と、上記導体の外周に押出被覆された絶縁体層とを有する絶縁電線であって、上記導体の電線規格のサイズは8mm以上であり、上記絶縁体層は、オレフィン系樹脂と、金属水酸化物と、滑剤とを含む樹脂組成物より形成されており、上記金属水酸化物は、上記オレフィン系樹脂100質量部に対して70〜80質量部含有されていることを要旨とするものである。
【0011】
この場合、上記滑剤は、オレフィン系オリゴマーを主成分とすることが好ましい。
【0012】
そして、上記滑剤は、上記オレフィン系樹脂100質量部に対して、0.2〜10質量部含有されていることが好ましい。
【0013】
また、上記金属水酸化物は、水酸化マグネシウムであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る絶縁電線は、オレフィン系樹脂と、金属水酸化物と、滑剤とを含む樹脂組成物より形成された絶縁体層を有しており、そして、金属水酸化物は、オレフィン系樹脂100質量部に対して70〜80質量部含有されている。そのため、十分な難燃性と耐白化性を両立させることができる。これは、以下の理由によるものと推察される。
【0015】
すなわち、本発明に係る絶縁電線は、絶縁体層に滑剤が添加されているので、樹脂組成物を押出す際に、ダイス−ポイント間を通過する際の摩擦力を低減することができる。そのため、得られる絶縁電線の表面の凹凸を減らして滑らかにすることができ、他の絶縁電線などと擦れ合った際に傷がつき難くなると推察される。
【0016】
さらに、本発明に係る絶縁電線では、従来よりも金属水酸化物の配合量を少なくしている。そのため、従来よりも光の屈折度合を小さくすることができ、絶縁電線の表面に傷が付いていても、白化を目立ち難くすることができると推察される。
【0017】
この場合、上記滑剤が、オレフィン系オリゴマーを主成分としていれば、特に高温・高熱下で絶縁電線を処理した際に、ブリードを抑えることができ、絶縁電線の表面の凹凸をより抑えることができる。
【0018】
そして、上記滑剤が、上記オレフィン系樹脂100質量部に対して、0.2〜10質量部含有されていれば、上記効果に優れる。
【0019】
また、上記金属水酸化物が、水酸化マグネシウムであれば、上記効果により優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0021】
本発明に係る絶縁電線は、導体と、この導体の外周に押出被覆された絶縁体層とを有している。また、絶縁体層は、オレフィン系樹脂と、金属水酸化物と、滑剤とを含む樹脂組成物より形成されている。
【0022】
導体は、電線規格のサイズが8mm以上の太さであり、形状としては例えば、単線の金属線、複数本の金属素線が撚り合わされた撚線、撚線が圧縮加工されたものなどが挙げられる。また、導体の材質としては、例えば、軟銅、錫メッキ軟銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金などを例示することができる。
【0023】
オレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンや、エチレン−αオレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−メタクリル酸エステル共重合体などのエチレン系共重合体、プロピレン−αオレフィン共重合体、プロピレン−酢酸ビニル共重合体、プロピレン−アクリル酸エステル共重合体、プロピレン−メタクリル酸エステル共重合体などのプロピレン系共重合体などを例示することができる。これらは、単独で用いても良いし、併用しても良い。
【0024】
オレフィン系樹脂として、好ましくは、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−メタクリル酸エステル共重合体である。
【0025】
金属水酸化物は、上記オレフィン系樹脂100質量部に対し、70〜80質量部の割合で含有されている。金属水酸化物が70質量部未満になると、十分な難燃性が得られ難い。また、金属水酸化物が80質量部を越えると、白化が目立ちやすくなり、難燃性と耐白化性を両立させることが難しい。
【0026】
金属水酸化物としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウムなどを示すことができる。これらは1種または2種以上併用しても良い。より好ましくは、水酸化マグネシウムである。金属水酸化物の平均粒子径は、0.1〜20μmの範囲内にあることが好ましい。平均粒子径が0.1μm未満では、粒子が凝集しやすいため、電線物性の難燃特性が低下しやすく、一方、平均粒子径が20μmを超えると、低温特性が低下しやすい。
【0027】
滑剤は、主として、樹脂組成物を導体の外周に押出被覆する際に、ダイス−ポイント間の摩擦を低減して絶縁体層表面を滑らかにしたり、樹脂組成物の流動性を良くしたりするためなどに用いられる。滑剤としては、例えば、オレフィン系オリゴマー、エルカ酸アミド、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミドなどの脂肪酸アミド化合物、シリコーンコンセントレートなどを例示することができる。この中でも好ましくは、オレフィン系オリゴマーを用いることが好ましい。例えば、導体の外周に押出被覆した絶縁体層を架橋するために、水蒸気などで処理する際に、ブルームし難いからである。また、オレフィン系樹脂に対して、相溶性が良いからである。オレフィン系オリゴマーとしては、特に、メタロセン触媒を用いて製造されたものを用いると良い。低分子量であるため、樹脂への分散性が良く、また機械的特性が悪化し難いからである。
【0028】
さらに、滑剤は、上記オレフィン系樹脂100質量部に対し、0.2〜10質量部含有されていることが好ましい。より好ましくは、0.5〜5質量部、さらに好ましくは、1〜2質量部である。また、上記滑剤は、1種のみを用いても良く、2種以上を併用して用いても良い。
【0029】
絶縁体層には、上記以外にも、例えば他に、着色剤、熱安定剤(酸化防止剤、老化防止剤など)、金属不活性剤(銅害防止剤など)、光安定剤、造核剤、帯電防止剤、難燃助剤(シリコン系、窒素系、ホウ酸亜鉛、リン系など)、カップリング剤(シラン系、チタネート系など)、柔軟剤(プロセスオイルなど)、亜鉛系化合物(酸化亜鉛、硫化亜鉛など)などの各種添加剤が1種または2種以上添加されていても良い。
【0030】
次に、絶縁電線の製造方法について説明する。
【0031】
まず、絶縁体層を形成する樹脂組成物を調製する。オレフィン系樹脂と、金属水酸化物と、滑剤と、必要に応じて、オレフィン系樹脂以外のポリマーや各種添加剤などを配合し、これらを通常のタンブラーなどでドライブレンドしたり、あるいは、バンバリミキサー、加圧ニーダー、混練押出機、二軸押出機、ロールなどの通常の混練機で溶融混練して均一に分散したりすることにより樹脂組成物を得ることができる。
【0032】
そして、例えば、押出成形機を用い、押出成形機のポイントから導体を引き出しながら、この導体の外周に溶融した樹脂組成物をダイスから供給して押出被覆し、絶縁体層を形成する。このとき、樹脂組成物には滑剤が含有されているので、ダイス−ポイント間での摩擦を低減することができ、絶縁体層の表面を滑らかにすることができる。さらに、導体の外周に押出被覆して形成された絶縁体層を、水蒸気あるいは水にさらすことにより架橋を行なっても良い。このようにして、絶縁電線を製造することができる。
【0033】
また、本発明に係る絶縁電線をワイヤーハーネスに用いることができる。例えば、本発明に係る絶縁電線のみで構成される電線束であっても良いし、他の樹脂組成物が被覆された絶縁電線、例えば、塩化ビニル系の絶縁電線やハロゲン元素を含有しない他の絶縁電線などを含んで構成される電線束であっても良い。電線束は、例えばワイヤーハーネス保護材により被覆されていると良い。電線の本数は、任意に定めることができ、特に限定されるものではない。
【0034】
ワイヤーハーネス保護材は、複数本の絶縁電線が束ねられた電線束の外周を覆い、内部の電線束を外部環境などから保護する役割を有するものである。ワイヤーハーネス保護材を構成する基材としては、特に限定されるものではないが、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂組成物が好ましい。樹脂組成物には、難燃剤を適宜添加すると良い。
【0035】
ワイヤーハーネス保護材としては、テープ状に形成された基材の少なくとも一方の面に粘着剤が塗布されたものや、チューブ状、シート状などに形成された基材を有するものなどを、用途に応じて適宜選択して用いることができる。
【実施例】
【0036】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0037】
(供試材料)
本実施例において使用した供試材料の製造元、商品名を示す。
【0038】
(A)オレフィン系樹脂
・ポリエチレン[ダウ・ケミカル日本(株)製]
・ポリプロピレン[日本ポリプロ(株)製]
・変性ポリプロピレン[三菱化学(株)製]
【0039】
(B)金属水酸化物
・水酸化マグネシウム[協和化学工業(株)製、商品名「キスマ5」]
【0040】
(C)滑剤
・オレフィン系オリゴマー[三井化学(株)製、商品名「エクセレックス」]
【0041】
(絶縁電線の作製)
初めに、二軸混練機を用いて、後述の表に示す各成分を混合温度200度にて混合した後、ペレタイザーにてペレット状に成形して樹脂組成物を得た。次いで、得られた各樹脂組成物を、押出成形機により、軟銅線を7本撚り合わせた軟銅撚線の導体(断面積8mm)の外周に0.8mm厚で押出被覆して絶縁体層を形成し、本実施例に係る絶縁電線および比較例に係る絶縁電線を作製した。
【0042】
(試験方法)
以上のように作製した各絶縁電線について、難燃性試験および耐白化性試験を行った。以下に各試験方法および評価方法について説明する。
【0043】
(難燃性試験)
ISO6722に準拠して行なった。すなわち、まず、実施例および比較例に係る絶縁電線を600mmの長さに切り出して試験片とした。次いで、各試験片を45°に傾け、試験片の上端から500±5mmの部分に30秒間炎を当て、試験片の絶縁体層上の炎がすべて70秒以内に消え、試験片上部の絶縁層が50mm以上焼けずに残ることを合格「○」とし、そうでないときを不合格「×」とした。
【0044】
(耐白化性試験)
絶縁電線にエッジのついた金属治具を擦りつけ、白化度合を評価した。白化が見られないものを合格「○」、白化が若干見られるものを不合格「△」、白化がはっきり見られるものを不合格「×」とした。
【0045】
表1に、絶縁体層を形成する樹脂組成物の配合割合および評価結果を示す。なお、表1に示す値は、質量部で表したものである。
【0046】
【表1】

【0047】
上記表1によれば、比較例に係る絶縁電線は、難燃性、耐白化性のどちらかまたは両方に難点があることがわかる。
【0048】
すなわち、比較例1は、難燃剤が70質量部未満であるため、難燃性に劣る。また、比較例2、3は、滑剤が配合されていないため、耐白化性にやや劣る。比較例4は、金属水酸化物が80質量部を越えており、また、滑剤が配合されていないため、耐白化性に劣る。
【0049】
そして、比較例5は、滑剤は配合されているが、金属水酸化物が80質量部を越えているため、耐白化性に劣る。
【0050】
これらに対して、実施例に係る絶縁電線は、オレフィン系樹脂100質量部に対し、金属水酸化物を80質量部と、滑剤としてオレフィン系オリゴマーを0.2〜10質量部含有した絶縁体層を有しているため、難燃性および耐白化性のいずれにも優れていることが確認できた。
【0051】
以上、本発明の実施形態、実施例について説明したが、本発明は上記実施形態、実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、前記導体の外周に押出被覆された絶縁体層とを有する絶縁電線であって、
前記導体の電線規格のサイズは8mm以上であり、
前記絶縁体層は、オレフィン系樹脂と、金属水酸化物と、滑剤とを含む樹脂組成物より形成されており、
前記金属水酸化物は、前記オレフィン系樹脂100質量部に対して、70〜80質量部含有されていることを特徴とする絶縁電線。
【請求項2】
前記滑剤は、オレフィン系オリゴマーを主成分とすることを特徴とする請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項3】
前記滑剤は、前記オレフィン系樹脂100質量部に対して、0.2〜10質量部含有されていることを特徴とする請求項1または2に記載の絶縁電線。
【請求項4】
前記金属水酸化物は、水酸化マグネシウムであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の絶縁電線。

【公開番号】特開2010−108683(P2010−108683A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−277990(P2008−277990)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】