説明

絶縁電線

【課題】難燃性、絶縁性、耐油性、及び機械的強度に優れたハロゲン化合物を含まない絶縁電線を提供する。
【解決手段】本発明に係る絶縁電線1は、導体10と、導体10を被覆し、エチレンエチルアクリレート共重合体(EEA)を含む絶縁性を有する内層12と、内層12を被覆し、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)とノンハロゲン難燃剤とを含み、架橋して耐油性及び難燃性を有する外層14とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線に関する。特に、本発明は、ノンハロゲン難燃剤を用いた絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハロゲン化合物を含まない難燃性組成物として、ポリオレフィン系樹脂にノンハロゲン難燃剤としての水酸化マグネシウム等の金属水酸化物を添加した組成物が知られている。そして、そのような組成物が被覆された絶縁電線が知られている。例えば、導体と、導体を被覆する内層と、内層を被覆する外層とを備え、内層は、エチレン系共重合体40〜90重量部と、エチレンアクリルゴム5〜50重量部と、アイオノマー又はエチレン−メタクリル酸共重合体0.5〜50重量部とからなるベースポリマ100重量部に対して、水酸化マグネシウム40〜200重量部、及び難燃助剤1〜20重量部を配合してなり、外層は、アイオノマー又はエチレン−メタクリル酸共重合体100重量部と、水酸化マグネシウム300重量部以下と、難燃助剤20重量部以下とを含有する樹脂組成物からなる絶縁電線が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の絶縁電線は、難燃性及び柔軟性に優れた樹脂組成物からなる内層で導体を被覆した後、耐外傷性に優れた外層で内層を被覆するので、耐外傷性、難燃性、耐寒性、機械的特性に優れた絶縁電線を提供できる。
【0004】
【特許文献1】特開2003−132741号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の絶縁電線は、内層及び外層の双方に金属水酸化物を添加しているので、難燃性の向上を目的として金属水酸化物の添加量を増加させると、絶縁電線の伸び、及び引張強さ等の機械的特性が著しく低下する。
【0006】
したがって、本発明の目的は、難燃性、絶縁性、耐油性、及び機械的強度に優れると共に、ハロゲン化合物を含まない絶縁電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するため、導体と、導体を被覆し、エチレンエチルアクリレート共重合体(EEA)を含む絶縁性を有する内層と、内層を被覆し、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)とノンハロゲン難燃剤とを含み、架橋して耐油性及び難燃性を有する外層とを備える絶縁電線が提供される。
【0008】
また、上記絶縁電線は、内層は、エチルアクリレート含有量(EA量)が10wt%以上20wt%以下のエチレンエチルアクリレート共重合体を含み、外層は、酢酸ビニル含有量(VA量)が40wt%以上50wt%以下のエチレン酢酸ビニル共重合体を含んでもよい。
【0009】
また、上記絶縁電線は、外層は、エチレン酢酸ビニル共重合体と他のポリオレフィン系樹脂とを混合したベースポリマに対し、所定量のノンハロゲン難燃剤を含んでもよい。また、内層は、エチレンエチルアクリレート共重合体100重量部に対し、10重量部以上80重量部以下の無機充填材を含んでもよい。更に、ノンハロゲン難燃剤は、金属水酸化物であり、ベースポリマ100重量部に対し、50重量部以上250重量部以下添加されてもよく、外層は、パーオキサイド架橋により架橋して形成されてもよい。また、内層は、外層の厚さの1/4倍以上1倍以下の厚さを有していてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る絶縁電線によれば、難燃性、絶縁性、耐油性、及び機械的強度に優れると共に、ハロゲン化合物を含まない絶縁電線を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[実施の形態]
図1(a)は、本発明の実施の形態に係る絶縁電線の断面の概要を示し、(b)は、図1(a)のA−A線における断面の概要を示す。
【0012】
(絶縁電線1の構成の概要)
図1(a)を参照すると、本実施の形態に係る絶縁電線1は、導体10と、導体10を被覆する内層12と、内層12を被覆する外層14とを備える。また、図1(b)を参照すると、絶縁電線1は、断面が略円形に形成され、内層12は、外層14の厚さ以下の厚さを有している。本実施の形態に係る絶縁電線1は、導体10の表面に内層12を形成する材料を押出被覆して内層12を形成すると共に、内層12の表面に外層14を形成する材料を押出被覆することにより製造される。
【0013】
(導体10)
導体10は、所定径を有する金属材料から形成される。例えば、導体10は、銅又は銅合金等の金属材料から形成される。
【0014】
(内層12)
内層12は、主として絶縁性に優れたポリマを含んで形成される。当該ポリマは、内層12の絶縁特性が有意に低下しない程度のエチルアクリレート(EA)を含有するエチレンエチルアクリレート共重合体(EEA)を含んで形成される。内層12を構成するポリマは、EEA単独から、又はEEAに他のポリオレフィン系樹脂を混合した混合物から形成することができる。更に、内層12は、ノンハロゲン難燃剤としての金属水酸化物を含まずに、所定量の無機充填剤及び架橋剤を含んで形成される。
【0015】
本実施の形態において内層12を構成するポリマとしてEEAを用いる理由は、絶縁電線が燃焼した場合に、内層12から炭化層を形成させることを目的としていることによる。また、炭化層は酸素に接触した状態では形成されにくいので、本実施の形態においては、炭化層を形成するポリマであるEEAを内層12に用いている。また、内層12に難燃性及び絶縁特性を発揮させることを目的として、EEAに含まれるエチルアクリレートの量(エチルアクリレート含有量(EA量))が、10wt%以上20wt%以下であるEEAを用いる。すなわち、内層12に難燃性を発揮させることを目的として、EA量が10wt%以上に設定されると共に、絶縁性を発揮させることを目的として、EA量が20wt%以下に設定される。
【0016】
また、内層12をEEAと他のポリマとしてのポリオレフィン等との混合物から形成する場合、燃焼時に内層12から炭化層を効果的に形成させることを目的として、当該混合物中のEEAは50重量部以上であることが好ましい。
【0017】
(ポリオレフィン系樹脂)
EEAと他のポリオレフィン系樹脂との混合物から内層12を形成する場合に用いるポリオレフィン系樹脂としては、以下の樹脂を用いることができる。すなわち、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、直鎖状超低密度ポリエチレン、エチレン−メチルメタクリレート共重合体、エチレン−メチルアクリレート共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、又はエチレン−オクテン共重合体等のポリオレフィン系樹脂を用いることができる。
【0018】
また、ポリオレフィン系樹脂として、上記した各ポリオレフィン系樹脂を、マレイン酸又はマレイン酸誘導体で変性した変性ポリオレフィン系樹脂を用いることもできる。更に、ポリオレフィン系樹脂として、上記した各ポリオレフィン系樹脂、及び各変性ポリオレフィン系樹脂からなる群から選択される2種類以上の樹脂の混合物を用いることもできる。
【0019】
(無機充填剤)
内層12を構成する無機充填剤としては、以下の化合物を用いることができる。例えば、無機充填剤として、炭酸カルシウム、クレー、タルク、シリカ、ウォラストナイト(珪灰石)、ゼオライト、けい藻土、けい砂、軽石粉、スレート粉、アルミナ、硫酸アルミニウム、硫酸バリウム、リトポン、硫酸カルシウム、二硫化モリブデン等を用いることができる。また、無機充填剤として、これらの化合物に対してシランカップリング剤等によって表面処理を施した表面処理済みの無機充填剤を用いることもできる。更に、無機充填剤として、上記した各無機充填剤、及び表面処理済みの無機充填剤からなる群から選択される2種類以上の無機充填剤の混合物を用いることもできる。
【0020】
また、本実施の形態において、無機充填剤は、内層12を構成するポリマ100重量部に対して10重量部以上80重量部以下、添加される。すなわち、無機充填剤は、十分な難燃性を内層12に付与することを目的として、添加量が10重量部以上に設定されると共に、内層12の機械的特性を維持することを目的として、添加量が80重量部以下に設定される。
【0021】
(外層14)
外層14は、主として難燃性、耐油性、及び機械的特性に優れたポリマを含んで形成される。当該ポリマは、外層14の耐油性の向上を図ることができる程度の酢酸ビニル(VA)を含有するエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)を含んで形成される。外層14を構成するポリマは、EVA単独から、又はEVAに他のポリオレフィン系樹脂を混合した混合物から形成することができる。また、外層14は、難燃剤としてノンハロゲン難燃剤を含んで形成される。更に、本実施の形態に係る外層14は、外層14を形成するポリマが架橋されて形成される。したがって、外層14は、架橋剤を更に含んで形成される。また、外層14は、架橋助剤を含んで形成することもできる。
【0022】
本実施の形態において、外層14に難燃性及び機械的特性を発揮させることを目的として、EVAに含まれる酢酸ビニルの量(酢酸ビニル含有量(VA量))が、40wt%以上50wt%以下であるEVAを用いる。すなわち、外層14に難燃性を発揮させることを目的として、VA量が40wt%以上に設定されると共に、機械的特性を発揮させることを目的として、VA量が50wt%以下に設定される。なお、外層14をEVAと他のポリオレフィン系樹脂との混合物から形成する場合に用いるポリオレフィン系樹脂としては、内層12において用いるポリオレフィン系樹脂と同様のポリオレフィン系樹脂を用いることができる。
【0023】
(ノンハロゲン難燃剤)
本実施の形態に係るノンハロゲン難燃剤は、金属水酸化物を用いることができる。金属水酸化物は、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、又は水酸化カルシウム等の金属水酸化物、若しくは、これらの金属水酸化物にニッケルが固溶した固溶体を用いることができる。また、ノンハロゲン難燃剤は、シランカップリング剤、ステアリン酸塩又はステアリン酸カルシウム等の脂肪酸、若しくは脂肪酸金属塩等によって表面処理が施された金属水酸化物を用いることができる。
【0024】
また、ノンハロゲン難燃剤として、メラミン、シアヌル酸、イソシアヌル酸、メラミンシアヌレート、又は硫酸メラミン等の1,3,5−トリアジン誘導体を用いることもできる。本実施の形態においては、ノンハロゲン難燃剤としての1,3,5−トリアジン誘導体のうち、不燃ガス(N)の放出量が多いメラミンシアヌレートが好ましい。また、ノンハロゲン難燃剤としての1,3,5−トリアジン誘導体は、非イオン性界面活性剤又は各種のカップリング剤によって表面処理されてもよい。
【0025】
本実施の形態において、難燃性及び機械的特性を外層14に発揮させることを目的として、ノンハロゲン難燃剤は、外層14を形成するポリマ100重量部に対して、50重量部以上250重量部以下、添加される。すなわち、外層14に十分な難燃性を発揮させることを目的として、ノンハロゲン難燃剤の添加量が50重量部以上に設定されると共に、外層14の機械的特性の維持を目的として、ノンハロゲン難燃剤の添加量が250重量部以下に設定される。
【0026】
(架橋剤)
架橋剤としては、高い架橋度を実現できる架橋剤を用いる。具体的に、架橋剤としては、パーオキサイド架橋できる化合物を用いる。例えば、ジクミルパーオキサイド、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、ベンゾイルパーオキサイドとm−メチルベンゾイルパーオキサイドとm−トルオイルパーオキサイドとの混合物、t−ヘキシル−p−オキシベンゾエート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン)、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(4,4−ジ−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、コハク酸パーオキサイド、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(m−トルオイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカルボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカルボネート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、又は2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン等を用いることができる。
【0027】
本実施の形態においては、架橋剤として、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼンを用いることが好ましい。例えば、外層14を構成するポリマに外層14の耐油性の向上に十分な架橋を施すことを目的として、0.5重量部以上の有機過酸化物である架橋剤を、当該ポリマ100重量部に添加する。また、外層14を構成するポリマに機械的特性を十分に維持することのできる程度の架橋を施すことを目的として5重量部以下の架橋剤をポリマ100重量部に添加する。また、好ましくは、0.5重量部以上3重量部以下の架橋剤を樹脂100重量部に添加する。なお、内層12を構成するポリマに添加される架橋剤も、外層14を形成するポリマに添加する架橋剤と同様の架橋剤を用いることができる。
【0028】
(架橋助剤)
本実施の形態に係る外層14を形成するポリマには、架橋助剤を更に添加できる。架橋助剤は、ポリマを、均一かつ効率的に架橋反応させることを目的としてポリマに配合される。
【0029】
架橋助剤として、例えば、トリアリルシアヌレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールの繰り返し単位数が9〜14のポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、アリルメタクリレート、2−メチル−1,8−オクタンジオールジメタクリレート、1,9−ノナンジオールジメタクリレート等の多官能性メタクリレート化合物、ポリエチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート等の多官能性アクリレート化合物、ビニルブチラート、又はビニルステアレート等を用いることができる。
【0030】
本実施の形態に係る架橋助剤としては、三官能性で反応性が高く、加硫条件(190℃、3分)で適正な架橋助剤効果を発現するトリメチロールプロパントリメタクリレートを用いることが好ましい。また、架橋助剤として、上述した各種の架橋助剤から選択される2種類以上の架橋助剤を併用することもできる。また、外層14を形成するポリマ100重量部に対して、架橋助剤は、0.5重量部以上6重量部以下、添加される。0.5重量部未満では架橋反応が不十分で機械的強度が劣り、6重量部を超えると架橋度が高くなりすぎて伸びが低下する。より好ましくは、0.5重量部以上4重量部以下の架橋助剤が、外層14を形成するポリマ100重量部に対して添加される。
【0031】
すなわち、外層14を形成するポリマの架橋反応を、外層14の耐油性が十分に向上する程度となるまで進行させるべく、0.5重量部以上の架橋助剤を当該ポリマに添加する。また、外層14を形成するポリマの架橋反応を、外層14の機械的特性が低下しない程度に制限すべく、6重量部以下の架橋助剤を当該ポリマに添加する。
【0032】
なお、内層12及び外層14の双方に、酸化防止剤、滑剤、軟化剤、可塑剤、相溶化剤、安定剤、カーボンブラック、又は着色剤等の添加材を、更に添加することもできる。
【0033】
(実施の形態の効果)
本発明の実施の形態に係る絶縁電線1は、内層12を構成するポリマとしてEA量の少ないEEAを用いると共に、外層14を構成するポリマとしてVA量の多いEVAを用いた上でパーオキサイド架橋するので、絶縁特性を有する内層12により導体10を被覆できると共に、耐油性及び難燃性を有する外層14により内層12を被覆することができる。これにより、難燃性、絶縁性、耐油性、及び機械的強度に優れたノンハロゲン難燃性絶縁電線としての絶縁電線を提供できる。
【0034】
また、本実施の形態に係る絶縁電線はハロゲン化合物を含まないので、仮に燃焼した場合であっても、塩化水素又はダイオキシン等の有毒ガスを発生することがない。したがって、本実施の形態に係る絶縁電線は、仮に燃焼した場合であっても、燃焼時の毒性ガスの発生、及び二次災害等を防止でき、かつ、廃棄時に燃焼により処理することができる。そして、上述したように、本実施の形態に係る絶縁電線は、難燃性、絶縁性、及び機械的強度に優れるだけでなく、良好な耐油性を有する。したがって、本実施の形態に係る絶縁電線は、例えば、車両用の絶縁電線に適用することができる。
【実施例】
【0035】
(実施例に係る絶縁電線の構成)
実施例に係る絶縁電線は、以下のように作製した。まず、導体10として、直径が1.33mmの電線を準備した。次に、内層12を形成する各材料を配合した第1の組成物と、外層14を形成する各材料を配合した第2の組成物とを調製した。第1の組成物及び第2の組成物それぞれの内容は、表1に示すとおりである。
【0036】
【表1】

【0037】
続いて、第1の組成物及び第2の組成物のそれぞれについて、加圧ニーダを用いて混練した。混練条件は、開始温度が40℃であり、終了温度が120℃である。次に、混練物をペレットにして、40mm押出機を用いて温度130℃において押出成形した。押出は、コモン方式を採用した。すなわち、第1の組成物からなる第1のペレットと、第2の組成物からなる第2のペレットとを導体10上に同時に押出成形することにより、導体10の外周に内層(厚さ:0.2mm〜0.5mm)及び外層(厚さ:0.5mm〜0.8mm)を形成した。これにより、導体10は、内層により被覆され、内層は外層により被覆された。
【0038】
次に、内層12及び外層14を備える導体10に、190℃の蒸気を3分間暴露して、パーオキサイド架橋を実施した。これにより、内層12及び外層14それぞれを構成するポリマが架橋した。以上の工程を経て、実施例に係る絶縁電線を作製した。なお、実施例1〜8に係る絶縁電線はそれぞれ、内層12及び外層14の構成成分が異なる点を除き、上記の方法で作製した。また、同様の方法で比較例としての絶縁電線も作製した(比較例1〜11)。比較例1〜11に係る内層及び外層の構成成分は、表2に示すとおりである。
【0039】
【表2】

【0040】
(絶縁電線の評価)
絶縁電線は、以下に示す方法を用いて評価した。なお、実施例及び比較例に係る絶縁電線のそれぞれについて評価した。
(1)引張試験
作製した絶縁電線について、EN60811に準拠した引張試験を実施した。引張強さは10MPa以上、伸びは150%以上を合格とした。
(2)難燃性試験
作製した絶縁電線について、Publication332−1に準拠した垂直燃焼試験を実施した。すなわち、絶縁電線を垂直に保持して、絶縁電線の所定の位置にバーナーの炎を当て、炎を取り除いた後、燃焼時間が30秒以上の場合に不合格(×)と判定すると共に、30秒未満の場合に合格(○)と判定した。
(3)絶縁性試験
作製した第1の組成物(内層を形成する材料)からなる第1のペレットをロールで混練した後、120℃においてプレス成型した。次に、プレス成型したペレットに190℃で3分間、加圧を施すことにより架橋させ、1mm厚のシートを作製した。そして、作製したシートについて、常温下、DC500Vでの体積抵抗率を体積抵抗計を用いて測定した。体積抵抗率が1.0×1014Ω・cm以上であるシートを、合格とした。
(4)耐油性試験
作製した絶縁電線について、以下の方法で耐油性を判定した。まず、絶縁電線について引張試験を実施して、初期の伸び及び初期の引張強さを測定した。次に、絶縁電線を、耐油試験用油IRM902に浸漬して、100℃の恒温層で72時間加熱した後、室温で約4時間放置した。続いて、この絶縁電線について引張試験を実施して、初期の伸び及び初期の引張強さの値に対する油浸漬及び加熱後における伸び及び引張強さの値(残率)を算出した。そして、伸び残率及び引張残率が70%以上の場合を合格とした。
【0041】
表3に、実施例1〜8に係る絶縁電線の評価結果を示し、表4に比較例に係る絶縁電線の評価結果を示す。
【0042】
【表3】

【0043】
【表4】

【0044】
表3を参照すると、本発明の実施例1〜8に係る絶縁電線は、引張特性、難燃性、耐油性、及び絶縁特性の全てについて良好であり、実施例1〜8に係る絶縁電線は、これらの特性を有しているといえた。
【0045】
一方、比較例1に係る絶縁電線は、引張特性(強度、伸び)、及び絶縁特性は良好であったが、外層のVA量が33%と少なく、難燃性が低下した(不合格)。すなわち、比較例1に係る絶縁電線は、難燃性を有するとはいえなかった。また、比較例2に係る絶縁電線は、難燃性が良好であったが、外層のVA量が55%と多く、引張特性及び絶縁特性が低下した。すなわち、比較例2に係る絶縁電線は、引張特性及び絶縁特性を有するとはいえなかった。
【0046】
また、比較例3に係る絶縁電線は、外層に添加する難燃剤としての水酸化マグネシウムの添加量が45重量部と少なく、難燃性が低下した。すなわち、比較例3に係る絶縁電線は、難燃性を有するとはいえなかった。また、比較例4に係る絶縁電線は、外層に添加する難燃材としての水酸化マグネシウムの添加量が275重量部と多く、引張特性及び耐油性が低下した。すなわち、比較例4に係る絶縁電線は、引張特性及び耐油性を有するとはいえなかった。
【0047】
一方、実施例1に係る絶縁電線は、外層に添加する水酸化マグネシウムの添加量が50重量部であり、また、実施例2に係る絶縁電線は、外層に添加する水酸化マグネシウムの添加量が250重量部である。そして、実施例1に係る絶縁電線及び実施例2に係る絶縁電線の双方ともに、難燃性、引張特性、及び耐油性が良好であった。したがって、外層に添加するノンハロゲン難燃剤の添加量は、50重量部以上250重量部以下が好ましいことが示された。
【0048】
比較例5に係る絶縁電線は、外層にパーオキサイド架橋できる化合物を添加しておらず、当該外層を構成するポリマはパーオキサイド架橋されていない。これにより、比較例5に係る絶縁電線は、引張特性及び耐油性が良好ではなかった。すなわち、比較例5に係る絶縁電線は、引張特性及び耐油性を有しているとはいえなかった。一方、外層にパーオキサイド架橋できる化合物を添加した実施例1〜8に係る絶縁電線は、引張特性及び耐油性が共に良好であった。すなわち、実施例1〜8に係る絶縁電線の外層は、引張特性及び耐油性を有しているといえた。
【0049】
また、比較例6に係る絶縁電線と実施例4に係る絶縁電線とは、VA量が共に40wt%以上50wt%以下のEVAが外層に用いられている(比較例6のVA量:41%、実施例4のVA量:46%)。一方、内層については、比較例6に係る絶縁電線は、内層のEEAのEA量が9wt%と少なく、実施例4に係る絶縁電線は、内層のEEAのEA量が15wt%である。比較例6に係る絶縁電線と実施例4に係る絶縁電線とを比較すると、実施例4に係る絶縁電線の難燃性は良好であるものの、比較例6に係る絶縁電線の難燃性は不十分であった。すなわち、比較例6に係る絶縁電線は、難燃性を有しているとはいえなかった。
【0050】
また、比較例7に係る絶縁電線は、内層のEEAのEA量が21wt%である。一方、実施例3に係る絶縁電線は、内層のEEAのEA量は20wt%である。実施例3に係る絶縁電線と比較例7に係る絶縁電線とを比較すると、実施例3に係る絶縁電線の引張特性及び耐油性は共に良好であるものの、比較例7に係る絶縁電線の引張特性及び耐油性は不十分であった。すなわち、比較例7に係る絶縁電線は、引張特性及び耐油性を有しているとはいえなかった。
【0051】
次に、比較例8に係る絶縁電線は、内層に添加する無機充填剤の添加量が9重量部と少なく、比較例9に係る絶縁電線は、内層に添加する無機充填剤の添加量が90重量部と多い。比較例8に係る絶縁電線の引張特性、耐油性、及び絶縁特性は良好であったが、難燃性は不十分であった。すなわち、比較例8に係る絶縁電線は、難燃性を有しているとはいえなかった。また、比較例9に係る絶縁電線の難燃性は良好であったが、引張特性及び耐油性が不十分であった。すなわち、比較例9に係る絶縁電線は、引張特性及び耐油性を有しているとはいえなかった。一方、実施例1に係る絶縁電線は、内層に添加する無機充填剤の添加量が80重量部であり、実施例2に係る絶縁電線は、内層に添加する無機充填剤の添加量が10重量部である。そして、実施例1及び実施例2に係る絶縁電線はいずれも、難燃性、引張特性、及び耐油性が良好であった。したがって、内層に添加する無機充填剤の添加量は、10重量部以上80重量部以下が好ましいことが示された。
【0052】
また、比較例10に係る絶縁電線は、外層の厚さを0.9mmに形成すると共に、内層の厚さを0.1mmに形成した。また、比較例11に係る絶縁電線は、外層の厚さを0.3mmに形成すると共に、内層の厚さを0.7mmに形成した。比較例10に係る絶縁電線は、絶縁特性が不十分であった。すなわち、比較例10に係る絶縁電線は、絶縁特性を有しているとはいえなかった。また、比較例11に係る絶縁電線は、難燃性、及び耐油性が不十分であった。すなわち、比較例11に係る絶縁電線は、難燃性及び耐油性を有しているとはいえなかった。一方、上述したように、実施例1〜8に係る絶縁電線は、難燃性、耐油性、及び絶縁特性の全てにおいて良好特性を示した。したがって、内層の厚さと外層の厚さとの比は、難燃性、耐油性、及び絶縁特性の全てを良好にすることを目的とする場合、1:4〜1:1であることが好ましい。
【0053】
また、実施例1〜8に係る絶縁電線は、例えば、日本国内における車両用の電線の規格に対応した電線としてだけではなく、欧州規格(EN規格)に対応した車両用の電線として用いることができることが示された。例えば、国内の車両用電線の耐油性試験は、耐油試験用油に絶縁電線を浸漬後、70℃で4時間加熱するのに対し、EN規格においては、耐油試験用油に絶縁電線を浸漬後、100℃で72時間加熱する(すなわち、上記「(4)耐油性試験」は、EN規格に準拠する)。表3において示したように、実施例1〜8に係る絶縁電線は、耐油性試験において良好な結果を示しており、EN規格に十分対応できる絶縁電線であることが示された。
【0054】
以上をまとめると、本実施例1〜8に係る絶縁電線1は、導体10と、EA含有量が10wt%以上20wt%以下のEEA100重量部に対し、10重量部以上80重量部以下の無機充填剤と、所定量の架橋剤と、所定量の酸化防止剤と、所定量の滑剤とを添加して形成され、導体10を被覆する内層12と、VA含有量が41wt%以上50wt%以下のEVA100重量部に対し、所定量のノンハロゲン難燃剤と、所定量の架橋助剤と、所定量の架橋剤と、所定量の酸化防止剤と、所定量の滑剤とを添加して形成され、内層12を被覆する外層14とを備えたノンハロゲン難燃性絶縁電線である。そして、実施例1〜8に係る絶縁電線は、内層12による耐油性の低下を抑制して内層12に絶縁性を発揮させると同時に、耐油性及び難燃性を外層14に発揮させることができる。
【0055】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】(a)は、本発明の実施の形態に係る絶縁電線の断面図であり、(b)は、(a)のA−A線における断面図である。
【符号の説明】
【0057】
1 絶縁電線
10 導体
12 内層
14 外層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、
前記導体を被覆し、エチレンエチルアクリレート共重合体(EEA)を含む絶縁性を有する内層と、
前記内層を被覆し、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)とノンハロゲン難燃剤とを含み、架橋して耐油性及び難燃性を有する外層と
を備える絶縁電線。
【請求項2】
前記内層は、エチルアクリレート含有量(EA量)が10wt%以上20wt%以下の前記エチレンエチルアクリレート共重合体を含み、
前記外層は、酢酸ビニル含有量(VA量)が40wt%以上50wt%以下の前記エチレン酢酸ビニル共重合体を含む
請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項3】
前記外層は、前記エチレン酢酸ビニル共重合体と他のポリオレフィン系樹脂とを混合したベースポリマに対し、所定量の前記ノンハロゲン難燃剤を含む
請求項2に記載の絶縁電線。
【請求項4】
前記内層は、前記エチレンエチルアクリレート共重合体100重量部に対し、10重量部以上80重量部以下の無機充填材を含む
請求項3に記載の絶縁電線。
【請求項5】
前記ノンハロゲン難燃剤は、金属水酸化物であり、前記ベースポリマ100重量部に対し、50重量部以上250重量部以下添加される
請求項4に記載の絶縁電線。
【請求項6】
前記外層は、パーオキサイド架橋により架橋して形成される
請求項5に記載の絶縁電線。
【請求項7】
前記内層は、前記外層の厚さの1/4倍以上1倍以下の厚さを有する
請求項6に記載の絶縁電線。

【図1】
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【公開番号】特開2010−97881(P2010−97881A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−269194(P2008−269194)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】