説明

絶縁電線

【課題】従来の絶縁電線の絶縁被膜と同等以上の機械的特性および耐熱性を有し、かつ低誘電率化を図ることで部分放電開始電圧を高めた絶縁被膜を具備する絶縁電線を提供する。
【解決手段】本発明に係る絶縁電線は、非晶質の熱硬化性樹脂と非晶質の熱可塑性樹脂とを含むポリマアロイからなる絶縁被膜が形成された絶縁電線であって、前記絶縁被膜は海島構造を有し、前記非晶質の熱硬化性樹脂が前記海島構造の海成分を成し前記非晶質の熱可塑性樹脂が前記海島構造の島成分を成すことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導体上に絶縁被膜塗料を塗布、焼き付けして形成した絶縁電線に関し、特に高強度・高耐熱性・低誘電率の絶縁被膜を有し、回転電機などの電機機器用コイルに好適に使用できる絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、回転電機や変圧器などのコイルに用いられている絶縁電線は、コイルの用途・形状に合致した断面形状(例えば、丸型や平角)に成形された導体の外層に単層または複数層の絶縁被膜が形成された構成をしている。自動車用の回転電機は、近年、高出力化とともに小型化・軽量化が求められており、コイルを構成する小さなコアに対して高密度の巻き付けが可能な絶縁電線が必要とされている。また、比較的短尺の絶縁電線の端末同士を溶接などによってつなぎ合わせて作製されるコイルの場合には、溶接しても問題の生じない絶縁電線が必要とされている。
【0003】
絶縁電線の絶縁被膜に利用できる絶縁被膜塗料として、特許文献1(特開昭58-34828号公報)には、5〜95重量%のポリアミドイミドと95〜5重量%のポリエーテルイミドとをブレンドした樹脂組成物が開示されている。特許文献1によると、この樹脂組成物を硬化させたシートは、ポリエーテルイミドと同等の機械的特性を有するとともに、ポリアミドイミドと同等の耐薬品性と耐熱性とを併せ持つとされている。
【0004】
また、特許文献2(特開2000-235818号公報)では、導体上に該導体との密着力が30 g/mm以上でガラス転移温度(Tg)が250℃以上であるポリアミドイミド等の樹脂組成物の絶縁層を形成し、その上にTgが250℃以上であるポリアミドイミド等の樹脂組成物とTgが140℃以上であるポリエーテルイミドまたはポリエーテルスルホン等の樹脂組成物の混合物で、被膜の破断伸びが40%以上である絶縁層を形成した絶縁電線が開示されている。特許文献2に記載の絶縁電線は、絶縁被膜の可撓性に優れ、厳しい捲線加工や圧延加工を行っても被膜に割れが生じない優れた加工性を有し、かつポリアミドイミドと同等の耐熱性を有するとされている。
【0005】
また、特許文献3(特開2001-155551号公報)では、導体上に(1)実質的にポリアミドイミドおよび/またはポリイミドからなる第1絶縁層が形成され、その上に(2)ポリアミドイミドAにガラス転移温度が140℃以上の熱可塑性樹脂B(ポリエーテルイミドやポリエーテルスルホン等)を、重量比A/Bで表してA/B=70/30〜30/70の割合で配合してなる第2絶縁層が被覆・積層され、前記第1絶縁層の膜厚T1と前記第2絶縁層T2との比がT1/T2=5/95〜40/60の範囲内で、かつ残留溶剤量が絶縁被膜総量の0.05重量%以下である絶縁電線が開示されている。特許文献3に記載の絶縁電線は、厳しい圧延加工や巻線加工などを行っても被膜に損傷などが生じない優れた耐加工性と、ポリアミドイミドと同等の高い耐熱性とを有し、しかも絶縁電線の端末を接合する工程において、接合部付近の絶縁被膜が接合の熱などによって発泡したり、あるいはその変色長さが長くなったりしない優れた接合性を有するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭58−34828号公報
【特許文献2】特開2000−235818号公報
【特許文献3】特開2001−155551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、電気機器に対する小型化・高性能化・省エネ化などの要求から、回転電機におけるインバータ制御が急速に普及してきている。そして、その要求を満たすため、インバータ制御において高電圧・大電流化(大電力化)がどんどん進展している。その場合、インバータ制御によって発生する高いインバータサージ電圧が、回転電機中のコイルの絶縁システムに悪影響を及ぼすことが懸念される。
【0008】
インバータサージ電圧による絶縁被膜の劣化を防ぐためには、絶縁被膜中での部分放電の発生を抑制すること、すなわち絶縁被膜における部分放電開始電圧が高くなるようにすることが必要である。そのための方法としては、例えば、絶縁被膜の膜厚を厚くする方法や、フッ素系ポリイミド樹脂を用いて絶縁被膜の誘電率を低くする方法などが知られている。
【0009】
しかしながら、絶縁被膜の膜厚を厚くする方法は、コイルの小型化要求に反する方向であることから好ましい対策ではない。また、フッ素系ポリイミド樹脂を用いて絶縁被膜を形成した場合、該絶縁被膜と導体との密着性が低いことから剥離が生じやすく、その結果、絶縁破壊が発生してしまう問題がある。
【0010】
一方、特許文献1に記載の樹脂組成物をエナメル線の絶縁被膜として利用した場合、ポリエーテルイミド成分の軟化温度が低いことから、一時的な高温に曝された場合であっても(例えば、回転電機の過負荷運転状態などで)短絡が発生してしまう問題がある。また、特許文献2や特許文献3に記載の絶縁電線においても、ポリエーテルイミド成分の軟化温度が低いことに起因した不具合が生じる懸念がある。
【0011】
従って、本発明の目的は、上記の課題を解決し、従来の絶縁被膜と同等以上の機械的特性および耐熱性を有し、かつ低誘電率化を図ることで部分放電開始電圧を高めた絶縁被膜を具備する絶縁電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記目的を達成するため、非晶質の熱硬化性樹脂と非晶質の熱可塑性樹脂とを含むポリマアロイからなる絶縁被膜が形成された絶縁電線であって、
前記絶縁被膜は海島構造を有し、前記非晶質の熱硬化性樹脂が前記海島構造の海成分を成し前記非晶質の熱可塑性樹脂が前記海島構造の島成分を成すことを特徴とする絶縁電線を提供する。
【0013】
また、本発明は、上記目的を達成するため、上記の本発明に係る絶縁電線において、以下のような改良や変更を加えることができる。
(1)前記島成分は、その平均直径が1μm未満である。
(2)前記ポリマアロイは、前記非晶質の熱硬化性樹脂100重量部に対して前記非晶質の熱可塑性樹脂が10重量部以上150重量部以下で配合されている。
(3)前記非晶質の熱硬化性樹脂の分子量が10,000以上200,000以下であり、前記非晶質の熱可塑性樹脂の分子量が15,000以上200,000以下である。
(4)前記非晶質の熱硬化性樹脂がポリアミドイミドからなり、前記非晶質の熱可塑性樹脂がポリエーテルイミドからなる。
(5)前記絶縁被膜は、その膜厚が1μm以上200μm以下である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来の絶縁被膜と同等以上の機械的特性・耐熱性を有し、かつ低い誘電率を併せ持つ絶縁被膜を具備する絶縁電線を提供することができる。本発明に係る絶縁電線は、絶縁被膜中での部分放電の発生を抑制することができ、インバータ制御される電気機器のコイル用絶縁電線として好適に利用できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、前記目的を達成するため絶縁被膜の微構造(特にミクロ相分離構造)を鋭意検討した結果、絶縁被膜の微構造が特定の海島構造になった場合に良好な特性が得られることを見出したことに基づき、本発明を完成した。以下、本発明に係る実施形態を説明する。なお、本発明はここで取り上げた実施形態に限定されることはなく、要旨を変更しない範囲で組合せや改良が適宜可能である。
【0016】
本発明における絶縁被膜を構成するポリマアロイの微構造(ミクロ相分離構造)は、海島構造であることが好ましい。また、該海島構造は、海成分(連続相成分)が非晶質の熱硬化性樹脂で島成分(分散相成分)が非晶質の熱可塑性樹脂である構成が好ましい。逆の構成の場合(海成分が非晶質の熱可塑性樹脂で島成分が非晶質の熱硬化性樹脂である場合)、絶縁被膜が全体として熱可塑性的挙動(軟化温度が低く、耐熱性に劣る)を示すことから好ましくない。また、ポリマアロイのミクロ相分離構造が共連続構造(例えば、ラメラ構造やジャイロイド構造)を形成する場合も、絶縁被膜が全体として熱可塑性的挙動を示すことから好ましくない。
【0017】
海島構造の島成分である非晶質の熱可塑性樹脂は、その平均直径が1μm未満であることが好ましい。島成分の平均直径が1μm未満であることによって、絶縁被膜の機械的特性と耐熱性が大幅に向上し、さらにエナメル焼き付け後における外観が良好となる。一方、島成分の平均直径が1μm以上である場合、微小クラック発生による機械的特性の低下や島成分が大きいことによる熱可塑的挙動の表面化といった現象が生じ、さらにエナメル焼き付け後に外観不良となることから好ましくない。
【0018】
本発明におけるポリマアロイは、非晶質の熱硬化性樹脂100重量部に対して、非晶質の熱可塑性樹脂が10重量部以上150重量部以下で配合されていることが好ましい。非晶質の熱可塑性樹脂の配合量が少な過ぎると高い部分放電開始電圧を有する絶縁電線を得ることが困難となる。
【0019】
一方、非晶質の熱硬化性樹脂100重量部に対して、非晶質の熱可塑性樹脂が151重量部以上300重量部程度で配合されているポリマアロイの場合、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とが共連続相分離構造を形成することから、全体として熱可塑性的挙動を示すようになる。例えば、250℃以上での弾性率の低下が大きく耐熱性が大幅に低下するため好ましくない。
【0020】
さらに、非晶質の熱硬化性樹脂100重量部に対して、非晶質の熱可塑性樹脂が300重量部以上で配合されているポリマアロイの場合、熱硬化性樹脂が島成分となり熱可塑性樹脂が海成分となる海島構造が形成される。この場合も、全体として熱可塑性的挙動を示すため好ましくない。
【0021】
非晶質の熱硬化性樹脂100重量部に対して、非晶質の熱可塑性樹脂の配合量が30重量部以上130重量部以下であることがより好ましく、非晶質の熱可塑性樹脂の配合量が50重量部以上120重量部以下であることが更に好ましい。非晶質の熱可塑性樹脂の配合量が50重量部以上120重量部以下である場合、絶縁被膜の誘電率と耐熱性とのバランスがもっとも良くなる。
【0022】
ポリマアロイの製造方法は、本発明で規定した要件を満たす絶縁被膜が結果として得られれば、特段の制限はなく通常の方法を利用できる。例えば、それぞれの樹脂を溶剤に溶解した別個の溶液を混合する方法や、それぞれの樹脂を同じ溶剤に同時に溶解して混合する方法や、一方の樹脂を溶剤に溶解した後に他方の樹脂を添加して溶解・混合する方法や、一方の樹脂を溶剤に溶解した後にその溶液中で他方の樹脂を合成・混合する方法などが挙げられる。なお、本発明では、絶縁被膜が海島構造を形成し易くするために、ポリマアロイの製造段階で樹脂と溶剤との相溶性を向上させるべく非晶質の熱硬化性樹脂と非晶質の熱可塑性樹脂を用い、溶剤として極性溶剤を用いることが特に好ましい。
【0023】
絶縁電線の製造方法も、本発明で規定した要件を満たす絶縁電線が結果として得られれば、特段の制限はなくエナメル線を製造する通常の方法を利用できる。例えば、上記のように製造したポリマアロイの溶液(絶縁被膜塗料)を導体上に塗布し焼き付けて絶縁被膜を形成することによって製造できる。なお、本発明に係る絶縁電線は、必要に応じて該絶縁被膜の最外層に自己潤滑性被膜を更に設けてもよいし、導体と該絶縁被膜との間に密着性を向上させるための被膜を更に設けてもよい。自己潤滑性被膜や密着性向上被膜は、例えば、ベース樹脂としてポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、H種ポリエステル等の樹脂から1種または複数種を選択して形成することができる。
【0024】
ポリマアロイの海成分である非晶質の熱硬化性樹脂の分子量は、10,000〜200,000であることが好ましく、15,000〜100,000であることがより好ましい。熱硬化性樹脂の分子量が10,000より小さいと、被膜の機械的強度が低下するとともに、分子の末端が多い樹脂となることから誘電率が高くなる問題がある。一方、熱硬化性樹脂の分子量が200,000より大きいと、溶剤への溶解性の低下や、熱可塑性樹脂との相溶性の低下や、海島構造の海部分となりにくいといった問題を引き起こす。
【0025】
本発明における非晶質の熱硬化性樹脂としては、ポリアミドイミドやポリイミドが好ましく用いられる。なお、ポリアミドイミドの製造方法に特段の制限はなく、既知の方法を利用できる。例えば、ジイソシアネート成分と酸成分とを重合させる方法や、ジアミン成分と酸成分とを反応させた反応生成物を略等モル量のジイソシアネート成分とさらに重合させる方法や、酸クロライドを含む酸成分とジアミン成分とを重合させる方法などが挙げられる。具体的な1例としては、ジフェニルメタンジイソシアネートとトリメリット酸無水物との反応によって得られるポリアミドイミドを好適に用いることができる。
【0026】
ポリマアロイの島成分である非晶質の熱可塑性樹脂は、誘電率が低い熱可塑性樹脂であることが好ましく、具体的には、誘電率3.3未満の熱可塑性樹脂が好ましい。誘電率が3.3以上の熱可塑性樹脂を島成分として用いると、絶縁被膜全体の低誘電率化を図ることが困難になる。
【0027】
該非晶質の熱可塑性樹脂の分子量は、15,000〜200,000であることが好ましく、20,000〜100,000であることがより好ましい。熱可塑性樹脂の分子量が15,000より小さいと、被膜の機械的強度が低下するとともに、海島構造の島部分となりにくいといった問題を引き起こす。一方、熱可塑性樹脂の分子量が200,000より大きいと、溶剤への溶解性の低下や、熱硬化性樹脂との相溶性の低下を引き起こす。
【0028】
本発明における非晶質の熱可塑性樹脂としては、溶剤への溶解性・耐熱性・誘電率の観点からポリエーテルイミドが好ましく用いられる。使用されるポリエーテルイミドは、イミド基を2個以上有するポリエーテルであれば特に制限されない。ポリエーテルイミドの製造方法に特段の制限はなく、既知の方法を利用できる。具体的な1例としては、4.4’[イソプロピリデンビス(P-フェニレンオキシ)]ジフタル酸二水和物とメタフェニレンジアミンとの縮合によって得られるポリエーテルイミドを好適に用いることができる。
【0029】
本発明における非晶質の熱可塑性樹脂として、市販のポリエーテルイミド(例えば、SABICイノベーティブプラスチックス社製、ウルテム(登録商標))を使用することができる。また、ポリエーテルイミドは、単独の組成物であっても2種以上を混合した組成物であってもよい。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0031】
(実施例1)
ポリアミドイミド(日立化成株式会社製、HI-406F29、樹脂分含量29質量%)とポリエーテルイミド(SABICイノベーティブプラスチックス社製、ウルテム1040A)をN-メチル-2-ピロリドンによって溶解した25質量%ポリエーテルイミド溶液とをそれぞれの樹脂分の質量比率が100/100となるように配合し、フラスコ内で混合・攪拌した。次に、この混合溶液にN-メチル-2-ピロリドンを加え、不揮発分の質量濃度が略一定(27±2%)で均一な褐色透明の溶液になるまで更に希釈して絶縁被膜塗料を作製した。該絶縁被膜塗料の粘度は820 mPa・sであった。その後、導体外径0.8 mmの銅線の外周にエナメル被覆の一般的な方法で該絶縁被膜塗料を塗布・焼き付けして、厚さ0.045 mmの絶縁被膜を有する絶縁電線(実施例1)を製造した。
【0032】
なお、絶縁被膜塗料の性状について、絶縁被膜塗料の外観は目視により観察し、絶縁被膜塗料の粘度は円錐平板型回転粘度計(東機産業株式会社製、TV-20)を用いて室温で測定した。また、絶縁被膜の厚さは走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、S-3500N)を用いて製造した絶縁電線の断面観察から計測した。
【0033】
(実施例2)
ポリアミドイミド樹脂分とポリエーテルイミド樹脂分との質量比率が100/10となるように配合した以外は上記実施例1と同様の方法によって、絶縁被膜塗料を作製した。該絶縁被膜塗料の粘度は2730 mPa・sであった。その後、導体外径0.8 mmの銅線の外周にエナメル被覆の一般的な方法で該絶縁被膜塗料を塗布・焼き付けして、厚さ0.044 mmの絶縁被膜を有する絶縁電線(実施例2)を製造した。
【0034】
(実施例3)
ポリアミドイミド樹脂分とポリエーテルイミド樹脂分との質量比率が100/150となるように配合した以外は上記実施例1と同様の方法によって、絶縁被膜塗料を作製した。該絶縁被膜塗料の粘度は700 mPa・sであった。その後、導体外径0.8 mmの銅線の外周にエナメル被覆の一般的な方法で該絶縁被膜塗料を塗布・焼き付けして、厚さ0.046 mmの絶縁被膜を有する絶縁電線(実施例3)を製造した。
【0035】
(実施例4)
ポリアミドイミド樹脂分とポリエーテルイミド樹脂分との質量比率が100/5となるように配合した以外は上記実施例1と同様の方法によって、絶縁被膜塗料を作製した。該絶縁被膜塗料の粘度は2850 mPa・sであった。その後、導体外径0.8 mmの銅線の外周にエナメル被覆の一般的な方法で該絶縁被膜塗料を塗布・焼き付けして、厚さ0.045 mmの絶縁被膜を有する絶縁電線(実施例4)を製造した。
【0036】
(比較例1)
ポリアミドイミド樹脂分とポリエーテルイミド樹脂分との質量比率が100/160となるように配合した以外は上記実施例1と同様の方法によって、絶縁被膜塗料を作製した。該絶縁被膜塗料の粘度は680 mPa・sであった。その後、導体外径0.8 mmの銅線の外周にエナメル被覆の一般的な方法で該絶縁被膜塗料を塗布・焼き付けして、厚さ0.045 mmの絶縁被膜を有する絶縁電線(比較例1)を製造した。
【0037】
(比較例2)
ポリアミドイミド樹脂分とポリエーテルイミド樹脂分との質量比率が100/0となるように配合した(すなわち、ポリアミドイミド樹脂分のみを用いた)以外は上記実施例1と同様の方法によって、絶縁被膜塗料を作製した。該絶縁被膜塗料の粘度は2960 mPa・sであった。その後、導体外径0.8 mmの銅線の外周にエナメル被覆の一般的な方法で該絶縁被膜塗料を塗布・焼き付けして、厚さ0.045 mmの絶縁被膜を有する絶縁電線(比較例2)を製造した。
【0038】
(比較例3)
ポリアミドイミド樹脂分とポリエーテルイミド樹脂分との質量比率が0/100となるように配合した(すなわち、ポリエーテルイミド樹脂分のみを用いた)以外は上記実施例1と同様の方法によって、絶縁被膜塗料を作製した。該絶縁被膜塗料の粘度は680 mPa・sであった。その後、導体外径0.8 mmの銅線の外周にエナメル被覆の一般的な方法で該絶縁被膜塗料を塗布・焼き付けして、厚さ0.044 mmの絶縁被膜を有する絶縁電線(比較例3)を製造した。
【0039】
(比較例4)
ポリアミドイミド樹脂分とポリエーテルイミド樹脂分との質量比率が301/100となるように配合した以外は上記実施例1と同様の方法によって、絶縁被膜塗料を作製した。該絶縁被膜塗料の粘度は520 mPa・sであった。その後、導体外径0.8 mmの銅線の外周にエナメル被覆の一般的な方法で該絶縁被膜塗料を塗布・焼き付けして、厚さ0.044 mmの絶縁被膜を有する絶縁電線(比較例4)を製造した。
【0040】
上記のように作製した絶縁電線(実施例1〜4および比較例1〜4)に対して、次のような試験を行った。走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、S-3500N)を用いて各絶縁被膜の表面を観察し、絶縁被膜のミクロ相分離構造を判定した。また、海島構造における島成分の平均直径は、撮影した画像から島成分を任意に50点抽出し、それらの直径を計測して平均値を算出した。
【0041】
絶縁電線の可撓性試験は自己径巻き付け法によって評価した。なお、自己径巻き付け法とは、導体径と同じ径を有する丸棒(巻き付け棒)に絶縁電線を巻き付け、光学顕微鏡を用いて絶縁被膜での亀裂の有無を調査する方法である。本明細書では、絶縁電線を5巻き/コイルとして5コイル分巻き付け、50倍の光学顕微鏡を用いて観察した。亀裂が観察されない場合を「合格」とした。
【0042】
絶縁被膜の耐摩耗性試験は、一方向磨耗試験として次のような手順で行った。絶縁電線を120 mmの長さで切り出し、片側末端の絶縁被覆をアビソフィックス装置で剥離して評価試料とした。耐摩耗性評価には、テーバー型の磨耗試験機(東洋精機株式会社製)を用いた。評価試料の剥離した末端部に電極を取り付け、絶縁被膜の表面に垂直方向から荷重を掛けながら斜面を滑らせた際に、電気が導通したときの荷重を測定し評価した。
【0043】
捻回試験は次のような手順で行った。250 mm離れた2つのクランプに絶縁電線を直線状で固定し、一方のクランプを回転させて絶縁被膜が浮いた時点の回転回数を測定した。
【0044】
絶縁被膜の貯蔵弾性率とTg(ガラス転移温度)の評価は次のように行った。各絶縁被膜塗料を用いて25μm(厚さ)×5 mm×200 mmの短冊状の評価用フィルムを作製した。動的粘弾性測定装置(アイティー計測制御株式会社、DVA-200)を用いて室温から400℃までを10℃/minで昇温しながら評価用フィルムの100 Hz振動時の貯蔵弾性率を測定した。このとき、100 Hz振動時の貯蔵弾性率が低下する変曲点の温度をTgとした。
【0045】
また、絶縁被膜の誘電率測定は次のように行った。上述と同様に、25μm(厚さ)×2 mm×100 mmの短冊状の評価用フィルムを作製した。空洞共振器摂動法(空洞共振器摂動法誘電率測定装置:株式会社関東電子応用開発製、Sパラメータ・ベクトル・ネットワーク・アナライザ: アジレント・テクノロジー株式会社製8720ES)により評価用フィルムの誘電率を測定した。
【0046】
部分放電開始電圧の測定は次のような手順で行った。絶縁電線を500 mmの長さで2本切り出し、14.7 N(1.5 kgf)の張力を掛けながら撚り合わせて中央部の120 mmの範囲に9回の撚り部を有するツイストペアの試料を作製した。試料端部10 mmの絶縁被覆をアビソフィックス装置で剥離した。その後、絶縁被覆の乾燥のため、120℃の恒温槽中に30分間保持し、デシケータ中で室温になるまで18時間放置した。部分放電開始電圧は、部分放電自動試験システム(総研電気株式会社製、DAC-6024)を用いて測定した。測定条件は、25℃で相対湿度50%の雰囲気とし、50 Hzの電圧を10〜30 V/sで昇圧しながらツイストペア試料に荷電した。ツイストペア試料に50 pCの放電が50回発生した電圧を部分放電開始電圧とした。
【0047】
各種測定評価結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
表1に示したように、本発明に係る絶縁電線(実施例1〜4)は、機械的特性(耐摩耗性試験結果)と耐熱性(300℃での貯蔵弾性率)と部分放電開始電圧特性とが全て高いレベルでバランスしていることが判る。これに対し、本発明の規定から外れる絶縁電線(比較例1〜4)はいずれかの特性で劣っており、全てを満足した絶縁電線が得られなかった。
【0050】
以上説明したように、本発明に係る絶縁電線は、非晶質の熱硬化性樹脂と非晶質の熱可塑性樹脂とを含むポリマアロイからなり海島構造を有する絶縁被膜が形成され、該熱硬化性樹脂が海島構造の海成分を成し、該熱可塑性樹脂が海島構造の島成分を成したものである。この特徴により、従来の絶縁被膜と同等以上の機械的特性および耐熱性を有し、かつ部分放電開始電圧を高めた絶縁電線を得られることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質の熱硬化性樹脂と非晶質の熱可塑性樹脂とを含むポリマアロイからなる絶縁被膜が形成された絶縁電線であって、
前記絶縁被膜は海島構造を有し、前記非晶質の熱硬化性樹脂が前記海島構造の海成分を成し前記非晶質の熱可塑性樹脂が前記海島構造の島成分を成すことを特徴とする絶縁電線。
【請求項2】
請求項1に記載の絶縁電線において、
前記島成分はその平均直径が1μm未満であることを特徴とする絶縁電線。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の絶縁電線において、
前記ポリマアロイは前記非晶質の熱硬化性樹脂100重量部に対して前記非晶質の熱可塑性樹脂が10重量部以上150重量部以下で配合されていることを特徴とする絶縁電線。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の絶縁電線において、
前記非晶質の熱硬化性樹脂の分子量が10,000以上200,000以下であり、前記非晶質の熱可塑性樹脂の分子量が15,000以上200,000以下であることを特徴とする絶縁電線。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の絶縁電線において、
前記非晶質の熱硬化性樹脂がポリアミドイミドからなり、前記非晶質の熱可塑性樹脂がポリエーテルイミドからなることを特徴とする絶縁電線。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の絶縁電線において、
前記絶縁被膜はその膜厚が1μm以上200μm以下であることを特徴とする絶縁電線。

【公開番号】特開2011−3375(P2011−3375A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−144957(P2009−144957)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【出願人】(591039997)日立マグネットワイヤ株式会社 (63)
【Fターム(参考)】