説明

絹の改良方法

【課題】カイコが紡ぐ繭糸、繭、絹糸、絹織布などの絹素材(絹)の改良方法を得ることを目的とする。
【解決手段】金属元素をイオンとして含む金属イオン含有液を所定濃度で溶解した処理水を飼料に混合・噴霧してカイコに給餌するか、あるいは金属元素をイオンとして含む金属イオン含有液を所定の濃度で溶解した処理水に絹素材を浸漬したのち乾燥処理する。この方法によれば、所望の金属元素をカイコを介して繭糸に容易に取り込むことができ、また個体差に関係なく後処理を施すこともでき、さらには天然の風合、肌ざわりを一切損なわずに新たな機能を絹に付与することができるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、カイコが紡ぐ繭糸、繭、絹糸、絹織布などの絹素材を含む絹の改良方法に関するものであり、一層詳細には、機能性を備える所望の金属元素を結合させた絹を得るための方法に関するものでる。
【背景技術】
【0002】
カイコが紡ぐ繭糸、繭、絹糸、絹織布などの絹素材を含む絹(絹繊維)は、2条のフィブロイン(繊維分子)をセリシンが外覆した2重構造となっており、このフィブロイン自体もグリシン、アラニン、セリシン、チロシンなど約18種類のαアミノ酸の縮合体からなる蛋白質で形成されている。
そして、通常は三角形から円形に近い不規則な横断面をもつ極めて細くて長い親水性の繊維で、繊維表面には繊維の軸方向に条線が延在する溝状構造とフィブリル(微細繊維)の網目構造とが存在し、また繊維内部にも多数のフィブリルで形成された束状構造が存在することから吸放湿性、弾性、可撓性に富み、優雅な光沢と独特の感触を備える天然繊維として衣料用素材などに古くから賞用されている。
【0003】
また、絹繊維は生体への適合性なども備えていることから、近来においては縫合糸などを含む医療用の素材としても注目され使用されるに至っている。
【0004】
ところで、このように優れた天然繊維としての絹を製造するシルク産業の基盤はカイコを飼育する養蚕業であるが、カイコの餌となる桑園の面積激減という事情とともに養蚕業自体が労賃の安いアジア近隣諸国にほぼ移行しつつあり、これら近隣諸国が産出する絹に対抗するためにも付加価値の高い絹素材(絹繊維)を生産する方途が急務となっている。
【0005】
一方、近来においては、アルミニウム、シリカ、チタン、ゲルマニウムなどの金属元素を主成分とするセラミックが人体に対して効果的に働くことが明らかになりつつあり、これを受けて被服素材である糸や織布にセラミックス加工を施した新機能の衣料が開発され需要者の便宜に供されている。
【0006】
このような事情から、絹にも新たな機能を付与するために、例えば、機能性マイクロカプセルを付着させた繭毛羽(特許文献1)、生桑あるいは人工飼料などの餌自体を処理することにより、セラミックスをカイコを介して繭糸に取り込む技術(特許文献2)などが公知となっている。
【0007】
【特許文献1】 特開2004−315985号公報
【特許文献2】 特許第3560825号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかるに、特許文献1に記載のものは、前処理を施した繭毛羽を、機能性素材を封入したウレタン系、メラニン系のマイクロカプセルを含む水溶液に浸漬したのち絞ってこれらのマイクロカプセルを繭毛羽に付着させるものであるが、得られた繭毛羽をもとに紡績した絹糸は絹が有している最も重要な天然の肌触りが低下するなどの問題が指摘されている。
【0009】
一方、本発明者の一人である宮沢等の開発に係る特許文献2に記載のものは、粒径が50メッシュ程度のアルミニウム、バリウム、チタンのいずれか一つの元素またはこれらの混合物からなるセラミックス粉末を添加した生桑あるいは人工の飼料をカイコに給餌することによりカイコを通してセラミックスを自然のかたちで繭糸に取り込むようにしたものであるが、50メッシュ程度(約300ミクロン)の粉末では餌料に添加してカイコに食させるサイズとしては大きすぎ、また、本来は無機物などを食さないとされているカイコには最適とは言えず、このセラミックス粉末がカイコの餌を通して繭糸に取り込まれたとしても食餌量や個体差などによって取り込まれる量にばらつきが生じることが多くさらに改良すべき点がみつかった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ところで、本発明者の一人である八藤眞は、醗酵技術を駆使して植物の種子などに含まれる金属元素(=ミネラル)を電解質として解離(イオン化)させる画期的な方法を開発し、特許第2865412号として登録を得ている。
また、静電磁場を形成した容器内において麹菌を加えて発酵させた金属元素(ミネラル)含有物とアルキル基を有する有機酸溶液とを混合攪拌し、この容器内の雰囲気を所定条件でかつ所定期間保持することにより、金属元素(ミネラル)含有物質からミネラル成分を効率よく解離(イオン化)抽出する方法も開発している。
【0011】
そして上記方法を利用することにより従来では考えられなかった、例えば、金、銀、銅、マグネシウム、亜鉛、マンガン、アルミニウム、ステンレス、プラチナなど多種多様の金属元素を電解質として解離(イオン化)抽出する技術も確立し、しかも、この方法によって得た抽出液中の各金属元素はオングストロームサイズ(10のマイナス10乗〜9乗メートル)であるため、食材や金属をはじめとする種々の素材の品質ないしは機能を飛躍的に向上させることができることも確認されている。
【0012】
そこで、この発明では金属元素をイオンとして含む金属イオン含有液(抽出液)を所定の濃度で溶解した処理水を飼料に混合または噴霧してカイコに給餌したり、あるいはカイコが吐出した繭糸、繭、絹糸、織布などの絹素材をこの処理水に浸漬したのち乾燥処理することにより、絹を形成する蛋白質(アミノ酸)の末端に金属元素をイオン結合させて新たな機能を絹に付加できるようにしたものである。
【0013】
すなわち、本発明方法は、金属元素をイオンとして含む金属イオン含有液を所定濃度で溶解した処理水を飼料に混合または噴霧し、この飼料をカイコに給餌することを特徴とするものであり、また、前記処理水に繭糸、繭、絹糸、絹織布などの絹素材を所定時間浸漬したのち乾燥処理することを特徴とするものである。
【0014】
この場合、処理水に対する金属イオン含有液の濃度は0.1%〜5.0%の範囲に設定するのが好ましく、金属イオン含有液の濃度が0.1%未満では金属元素によって付加される新たな機能を充分得ることが難しく、また5.0%以上の濃度に設定すると費用対効果の点で問題が生じることになる。
【0015】
また、金属イオン含有液としては、金属元素を含む鉱物質を機械的手段などにより微細化したのち、この微細化鉱物質に麹菌を加えて発酵させ、さらに酒石酸、クエン酸、乳酸あるいは酢酸などアルキル基を有する有機酸溶液を加えて混合攪拌することにより、前記微細化鉱物質に含まれる金属元素を有機酸溶液中にイオンとして解離させた水溶液を使用するのが好ましい。
【0016】
さらに、金属イオン含有液に含まれる金属元素としては、金、銀、銅、チタン、ゲルマニウム、珪素、アルミニウム、鉄、カルシウム、カリウム、マグネシウムなどが挙げられ、これらの金属元素を単独もしくは2以上含む金属イオン含有液を使用するのが好適である。
【0017】
さらにまた、本発明は前記に記載の方法により得られた絹素材で形成した絹製品も包含するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る絹の改良方法によれば、イオン化した金属元素を含有する処理水を混合または噴霧した飼料を給餌するだけで良いので無機元素などは食さないとされているカイコであっても所望の金属元素を容易に取り込ませることができ、食餌量にもなんら問題を生じることもない。
また、イオン化した金属元素を含有する処理水に繭糸、繭、絹糸、絹織布などの絹素材(絹繊維)を所定時間浸漬したのち乾燥処理することにより絹繊維を形成する蛋白質に金属元素をイオン結合させるので、個体差に左右されることもなく、所謂、後加工で容易に処理を施すことができる。
さらには絹が持っている天然の風合、肌ざわりを一切損なわずに新たな機能を付与することができるなどの優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、本発明に係る絹の改良方法の最良の実施の形態を例示し、以下詳細に説明する。
すなわち、本発明に係る絹の改良方法では、図1に示すように、まず、容器10に収容される浄化水12に金(Au)イオン含有液14を3.0%の濃度で溶解した処理水16を準備する。
この場合、浄化水12は、例えば、水道水(Tapwater)を逆浸透膜(RO)で濾過することにより不純物を可及的に除去したものを使用する。
【0020】
また、金(Au)イオン含有液14は以下の方法により得られた抽出液を使用する。すなわち、金箔および/もしくは金(Au)を含む鉱物質を予め細かく粉砕し、この微細化金箔および/もしくは微細化鉱物質と浄化水とを重量比で略等量用意して混合したのち、10%〜20%の麹菌を加えて摂氏35度〜40度に保持して醗酵させ、一定期間ねかせておく。
次に、このように前処理して得られた微細化金箔および/もしくは微細化鉱物質の醗酵原料と、アルキル基を有する有機酸溶液とを重量比で10:1の割合で混合する。この場合、アルキル基を有する有機酸としては、例えば、酒石酸、クエン酸、乳酸あるいは酢酸などを適宜使用することができる。
【0021】
ついで、この微細化金箔および/もしくは微細化鉱物質の醗酵原料とアルキル基を有する有機酸溶液との混合液を容器中において適宜の手段で攪拌混合する。なお、この際、容器に配設した加熱ヒータおよび容器の素材自体が放射する遠赤効果を利用して微細化金箔および/もしくは微細化鉱物質の醗酵原料とアルキル基を有する有機酸との混合液を摂氏45度〜55度に保持するとともにポンプ装置などの循環系によって静電磁場、紫外線殺菌装置さらには太陽光照射機構などの制御下にゆっくりと所定時間循環させることにより金属元素としての金(Au)を3.0%〜5.0%程度解離(イオン化)させた抽出液とする。
【0022】
なお、金(Au)イオン含有液14を処理水16に溶解する場合、金イオン含有液14の濃度が処理水16に対して0.1%以下になると金属元素である金による新たな機能の発揮を充分期待することが難しく、また、5.0%以上の濃度に設定すると費用対効果の点で好ましくない。
【0023】
次に、カイコの人工飼料として、桑葉乾燥粉末、脱脂大豆粉末、セルロースなどの主材に澱粉やビタミンなどを添加した粉末飼料、例えば、「くわのはな」(商品名)を用意し、この粉末飼料に前記金イオンを含有する処理水16と所定量の溶き水18を加えて混練することにより、飼料の成分である蛋白質やセルロースなどの末端に金イオンを結合させ、さらに蒸して湿体飼料20を調製する。なお、この場合、処理水16の添加量としては粉末飼料の0.2重量%程度が好ましく、またこの処理水16は粉末飼料に加えて混合したが、粉末飼料に溶き水を加えて混練する際に噴霧してもよいことは言うまでもない。
そしてこのようにして調製した湿体飼料20をカイコに給餌することにより、カイコが食して消化した飼料をもとに吐出する繭糸にはこの繭糸を形成する蛋白質(各種アミノ酸)の末端に金属元素である金Auがイオン結合した状態で生成されるのである。
【0024】
図2は、本発明に係る絹の改良方法の別の実施の形態を示すものであり、この実施の形態においては、前述した金(Au)イオン含有液と同様に、静電磁場等の雰囲気を形成した容器内において麹菌を加えて発酵させた銀(Ag)含有鉱物質とアルキル基を有する有機酸溶液とを流動攪拌し、この容器内の雰囲気を所定期間保持することにより、銀(Ag)含有物質から銀をイオンとして含有する銀(Ag)イオン含有液22を抽出したのち、この銀(Ag)イオン含有液22を容器24の浄化水12に対して5.0%の濃度で溶解した処理水26を準備する。
そしてこの処理水26中に絹素材としての絹糸28を所定時間浸漬したのち乾燥することにより、この絹糸を形成する蛋白質(各種アミノ酸)の末端に金属元素である銀Agをイオン結合させる。
【0025】
そしてこのようにして得られた、金Auがイオン結合している繭糸や銀Agがイオン結合している絹糸などをもとにして作られた織布ないしは絹製品は、絹が有している最も重要な天然の肌触りが全く阻害されることがないだけでなく、金属元素としての金Auや銀Agが有する抗菌性などの機能も充分期待することができるものである。
【0026】
実験例1
粉末人工飼料「くわのはな」(商品名)を用意し、処方量の溶き水と金Auイオン含有液を0.2%濃度に設定した処理水(粉末飼料の0.2重量%)を加えて混練したのち蒸して調製した湿体飼料A、同様に粉末飼料に処方量の溶き水とゲルマニウムGeイオン含有液を0.2%濃度に設定した処理水(粉末飼料の0.2重量%)を加えて混練したのち蒸して調製した湿体飼料B、同様に粉末飼料に処方量の溶き水とゲルマニウ厶Geイオン含有液を0.5%濃度に設定した処理水(粉末飼料の0.2重量%)を加えて混練したのち蒸して調製した湿体飼料Cを用意した。
つぎに湿体飼料A、B、Cを夫々10頭のカイコに給餌して飼育試験を行った。給餌は、カイコの絹糸腺が発達した5齢後半の5日目から熟蚕までとし、カイコ1頭当たり0.2mgを3回に分けて行ったが、食餌量が落ちることもなくて飼育成績も良好であった。そしてこれらのカイコが吐出した繭糸に含まれる各金属元素の含有量を測定(財団法人日本食品分析センター;原子吸光光度法及びICP発光分析法)し、各含有量の平均値として次のような結果を得た。
【0027】

【0028】
この測定結果によると、本来、金属元素は食べないとされているカイコに対し、イオン化した金属元素を添加した人工飼料を給餌するとこの人工飼料を食したカイコの繭糸には金属元素(金Au、ゲルマニウムGe)が所定量取り込まれていることが確認された。
これは本発明方法によって、カイコが生成するシルクエキスにイオン化した金属元素(金Au、ゲルマニウムGe)が取り込まれ、さらに繭糸を形成する蛋白質(各種アミノ酸)の末端にイオン結合した状態で生成されたからである。
【0029】
実験例2
銀Agイオン含有液、銅Cuイオン含有液、チタンTiイオン含有液、ゲルマニウムGeイオン含有液さらにはトルマリン(金属元素として珪素Si、アルミニウムAl、鉄Fe、カルシウムCa、カリウムK、マグネシウムMgなどを含む)イオン含有液含を5%濃度に設定した処理水(200cc、20℃)を夫々用意し、これらの処理水に、あらかじめ乾熱および湯水蒸煮などの前処理を行った絹素材としての繭(20g)を2時間浸漬したのち乾燥し、得られた各繭に含まれる各金属元素の含有量を財団法人日本食品分析センターにおいて原子吸光光度法及びICP発光分析法により測定したところ次のような結果を得た。
【0030】

【0031】
この測定結果によると、蛋白質(各種アミノ酸)により形成されている繭(絹素材)からは本来検出されなることのない各種の金属元素である銀Ag、銅Cu、チタンTi、ゲルマニウムGe、トルマリン(金属元素として珪素Si、アルミニウムAl、鉄Fe、カルシウムCa、カリウムK、マグネシウムMgなどを含む)が所定量含まれていた。
これは本発明方法によって繭を形成する蛋白質(各種アミノ酸)の末端に前記各金属元素がイオン結合したからであり、各金属元素が有する人体に対する特有の機能ないしは効果も充分期待することができるものである。
【0032】
なお、本実施の形態および実験例においては、飼料として人工飼料、絹素材として絹糸および繭糸などを例示して説明したが、生桑葉(飼料)や絹織布についても同様な結果を得られることは勿論であり、従って、所望の金属元素を適宜選択することにより、これらの飼料を食したカイコから得られた繭糸、絹糸、あるいは後加工した絹素材を使用した絹製品においても絹が持つ天然の肌触りを変わりなく保持できるだけでなく、選択した金属元素が有する人体に対する特有の機能ないしは効果も十分期待することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明方法に係る絹の改良方法を実施する最適の実施の形態を示す手順説明図である。
【図2】本発明方法に係る絹の改良方法を実施する別の実施の形態を示す手順説明図である。
【符号の説明】
【0034】
10 容器、
12 浄化水、
14 金イオン含有液、
16 処理水、
18 溶き水、
20 湿体飼料(人工飼料)
22 銀イオン含有液、
24 容器、
26 処理水、
28 絹糸、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属元素をイオンとして含む金属イオン含有液を所定濃度で溶解した処理水を飼料に混合または噴霧し、この飼料をカイコに給餌することを特徴とする絹の改良方法。
【請求項2】
金属元素をイオンとして含む金属イオン含有液を所定の濃度で溶解した処理水を用意し、この処理水に絹素材を所定時間浸漬したのち乾燥処理することを特徴とする絹の改良方法。
【請求項3】
処理水に対する金属イオン含有液の濃度を0.1%〜5.0%の範囲に設定することからなる請求項1または2に記載の絹の改良方法。
【請求項4】
金属イオン含有液は、金属元素を含む鉱物質を機械的手段により微細化したのち、この微細化鉱物質に麹菌を加えて発酵させ、さらに酒石酸、クエン酸、乳酸、酢酸などなどアルキル基を有する有機酸を加えて混合攪拌することにより金属元素を有機酸溶液中にイオンとして解離させてなる請求項1〜3のいずれかに記載の絹の改良方法。
【請求項5】
金属イオン含有液として、金属元素としての金、銀、銅、チタン、ゲルマニウム、珪素、アルミニウム、鉄、カルシウム、カリウム、マグネシウムを単独もしくは2以上含む金属イオン含有液を使用することからなる請求項1〜4のいづれかに記載の絹の改良方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の方法により得られた絹素材で形成した絹製品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−167046(P2007−167046A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−381117(P2005−381117)
【出願日】平成17年12月21日(2005.12.21)
【出願人】(591135200)
【出願人】(506026210)
【Fターム(参考)】