説明

網点印刷物の作成方法

【課題】 高精細な網点印刷物に対して、所望する網点設計値と出力機器及び基材の種別による印刷物上における網点の形状及び大きさの差異を考慮し、所望する網点となるような網点設計を行う網点印刷物の作成方法を提供する。
【解決手段】 あらかじめ記憶してある各種印刷条件に対応した印刷物上の網点データから、適正な第1、第2の網点の形状及び大きさを設計する工程と、設計された網点の値を基に、第1及び第2の網点領域を画像分割するための基本マスクを作成する工程と、各領域において濃度階調を有する可視画像の網点を生成する工程と、機能性材料を含む色材を用いて構成された網点領域において、機能性材料を含まない色材を用いて構成された網点領域と重なり合うことなく分割配置された状態で濃度階調を有する潜像画像を生成する工程と、可視画像の網点と潜像画像の網点とを合成する工程を有する網点印刷物の作成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀行券、パスポート、有価証券、カード及び貴重印刷物等(以下「有価証券類」という。)の偽造防止及び改ざん防止の機能が必要とされる印刷物において、特に繊細な網点構成を要する印刷物の作成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
印刷を、情報源、出力の規模及び印刷物の使用者の相互関係という観点から分類すれば、グーテンベルクの時代から広く行われてきた大規模商業印刷とITの革新的な進歩により近年急速に普及してきた個人向けの印刷に分けられる。大規模商業印刷は、情報源が紙などを原稿として存在し、大量かつ高速にその複製を作ることを目的に効率化が進められてきた。
【0003】
一方、個人向け印刷は、インクジェット方式やレーザ方式などであり、パソコン上で作成した文書やインターネットから得た情報などを個人的な記録として紙に出力することが本来の目的であったが、ここ数年、高精細で可変情報を付与できる特性を生かしたオンデマンド印刷方式を採用してきている。
【0004】
加えて、スキャナ、プリンタ及びカラーコピー機等のディジタル機器の発展及びカラー製版技術のコンピュータ化に伴い、有価証券類への偽造手段が多様化してきた傾向にある。特に、印刷産業分野で使用されている画像入力機器の解像度が著しく向上し、有価証券類に使用されている細線や微小文字の抽出が比較的容易になってきた。
【0005】
例えば、インクジェットプリンタやカラーレーザプリンタを用いたノンインパクト印刷方式による偽造防止及び改ざん防止の機能が必要とされる印刷物は、高精細な網点構成のデータをパソコン上で作成し、出力する。
【0006】
また、現在の有価証券類の多くに採用されている地紋、彩紋及びレリーフ模様等の細画線で構成されたものが、スキャナ等の入出力機器によって、高精度に抽出できることとなったため、単に4原色(シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)及びブラック(K))の網点構成から成る一般商業印刷法による偽造だけではなく、特色版を多様した本格的な偽造券が増加してきた。
【0007】
そこで、近年の高性能な入出力機器においても再現が困難なように、4色の網点を繊細な網点構成としたり、複製が困難なように細画線を更に複雑な構成とした偽造防止用の印刷物が提案されている。
【0008】
特に、本出願人が先に開示した特許第3544536号公報では、一般の商業印刷で使用されているシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)及びブラック(K)の4原色のインキ又はトナーの中で、ブラック(K)インキを赤外線吸収特性を持つカーボンブラックを主体とした黒色顔料を用い、他のシアン(C)、マゼンタ(M)及びイエロー(Y)のインキが赤外線を吸収しないことを利用し、赤外線カメラ等の判別具を用いて観察した場合に、カーボンブラックを含有したブラック(K)インキにより印刷された網点により構成される模様(画像)のみを確認できることに着目した。
【0009】
そこで、前述した発明(特許第3544536号公報)は、図1に示すように、一つの第1の網点領域1と、第1の網点領域1に隣接する一つの第2の網点領域2とが複雑配置され、第1の網点領域1は、第2の網点領域2より面積を大きくとることにより肉眼で観察可能とし、シアン(C)、マゼンタ(M)及びイエロー(Y)のカラー色材で形成させた。さらに、第2の網点領域2は、赤外線吸収性色素を含む単色の黒の色材(例えば、カーボンを含むカーボンブラック)を用いて構成させた第2aの網点領域2aと、その背景部分には、赤外線吸収性色素を含まないシアン(C)、マゼンタ(M)及びイエロー(Y)のカラー色材を重ね合わせて得られる黒色(いわゆるプロセスブラック)インキを用いて構成させた第2bの網点領域2bとの比率に応じて、階調が施された潜像画像が構成されている印刷物(以下「潜像印刷物」という。)を作製し、赤外線環境下で観察した場合、カーボンブラックで形成された潜像画像のみが出現するようにし、かつ、複写時には、双方が区別されることなく黒色系で複製物が形成されることで潜像画像を視認することが不可能な網点配置としている。
【0010】
ただし、前述の発明(特許第3544536号公報)を実施するに当たり、インクジェットプリンタ等によるプリンタ出力により印刷物を得る際に、様々なプリンタ製造メーカによる各社独自の制御方法、制御プログラム及びプリンタドライバ等で、出力された印刷物に濃度又は色相などが異なる場合があり、所望する印刷画像、更には前述した潜像印刷物の潜像画像を適正に印刷することができないという問題があった。
【0011】
この問題を解決するために、本出願人は先に開示した特願2006−207282号において、あらゆるプリンタにおいても同様に出力が可能なように、特許第3544536号公報で開示した網点構成を、図2に示すように第1の網点領域1及び第2の網点領域2は、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)及びブラック(K)の4原色の各色材が重なり合うことなく、所定領域に分割配置した網点構成として提案した。この特願2006−207282号における網点構成によれば、どのプリンタによっても所望した印刷画像及び潜像画像を表現することが可能となる。
【0012】
以上のように、従来の単純なプロセス4色を用いたカラー印刷物ではなく、網点構成を繊細化し、偽造防止効果を奏する印刷物が発明されている。
【0013】
これらの繊細な網点構成をしている印刷物については、所望する印刷画像及び潜像画像等が忠実に再現されなければ、肉眼視される画像の品質低下及び判別具による潜像画像が確認困難となり偽造防止効果の低下に繋がることとなる。
したがって、網点設計については、出力物の品質を考慮した上で慎重に設計する必要がある。
【0014】
そこで、印刷用の原画像データの理論上の面積率と、この画像データにより実際に出力したフィルム又は刷版を測定した実測値の網点面積率から、網点を形成するマイクロドットの形状を推定し、それを基に網点面積率特性を作成し、最終的に原画像に近い網点面積率の網点を作製するという技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0015】
また、原画像の濃度を忠実に再現するために、原画像を高解像度網点化分解し、対象とする網点データと不一致となる箇所について、あらかじめ作成してある網点化データを用いて再現させることで、単純な拡大・縮小による線密度の変換では表現されない高品質の網点を作成するという技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0016】
また、原画像をフィルムや印画紙等に忠実に再現するため、網点のぼけを考慮した出力網点面積率と理想網点面積率とを1対1に対応させたテーブルを記憶しておき、原画像をスキャナにより読み込んだ情報に基づき、対応するテーブル内の出力網点面積率を算出し、フィルムや印画紙等に再現するという技術が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0017】
【特許文献1】特開2000−177107号公報
【特許文献2】特開平06−181519号公報
【特許文献3】特開平06−30249号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
特許文献1については、原画像データに対して実際に出力した網点を計測し、その誤差を把握してあらかじめ特性値を記憶しておくことで、理想の網点設計が可能にはなるが、あくまでもフィルム又は刷版の実測値であり、実際の印刷物の実測値ではない。特にインクジェット方式による印刷物では、インキの浸透状態やにじみにより原画像データと出力物とでは誤差が生じるという問題があった。
なお、特許文献1によれば、「実際の印刷物を測定しても良い」とだけ記載されているが、実際の印刷物をどのように測定するかは示唆されていない。
【0019】
また、特許文献2については、あらかじめ記憶してある画像データと原画像のデータを基に、原画像により忠実な網点設計を行えることとなるが、画像データ上において原画像に忠実な再現を求めるものであり、実際に出力された印刷物に対する各種要因(印刷機の場合には印圧等の条件、インクジェット方式の場合には浸透やにじみ等)を考慮した画像データとはなっていないという問題があった。
【0020】
また、特許文献3は、出力時における各種要素(網点のぼけ)を考慮したデータをあらかじめ記憶しているものの、対象としているのはフィルム又は印画紙等におけるデータであり、実際の印刷物における測定値を考慮したデータとはなっていない。
【0021】
本発明は、以上の問題にかんがみ、発明されたものであり、特に有価証券類に代表されるような偽造防止を目的とした印刷物において、繊細な網点構成を所望の状態で出力物として得るため、実際の印刷物の形状、インクの紙への浸透状態を測定し、出力前の設計値と出力物の測定値との誤差を考慮して、所望の状態で出力されるための網点設計が可能となる網点の作成方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、基材上に第1の網点領域と第2の網点領域が複数配置されて濃度階調を有する可視画像が形成され、第1の網点領域及び第2の網点領域は、画像を形成するドット領域とドット領域を囲む背景領域から成り、ドット領域及び背景領域は機能性材料を含む色材及び含まない色材を用いて構成され、機能性材料を含む網点領域と含まない網点領域は肉眼では同色に視認され、機能性材料の有無、強弱及び/又は種別により潜像画像が形成され、肉眼では濃度階調を有する可視画像が確認され、機能性材料の特性に合った判別手段を用いることで潜像画像が確認される網点印刷物の作成方法であって、あらかじめ記憶してある各種印刷条件に対応した印刷物上の網点の形状及び大きさのデータから適正な第1の網点及び第2の網点の形状及び大きさを設計する工程と、設計された第1の網点及び第2の網点の形状及び大きさを基に、第1の網点領域と第2の網点領域を画像分割するための基本マスクを作成する工程と、第1の網点領域と第2の網点領域において、濃度階調を有する可視画像の網点を生成する工程と、機能性材料を含む色材を用いて構成された網点領域において、機能性材料を含まない色材を用いて構成された網点領域と重なり合うことなく分割配置された状態で濃度階調を有する潜像画像を生成する工程と、可視画像の網点と潜像画像の網点とを遷移画像として合成する工程を有する網点印刷物の作成方法である。
【0023】
また、本発明におけるあらかじめ記憶してあるデータを基に適正な第1の網点及び第2の網点の形状及び大きさを設計する工程は、第1の網点と第2の網点の所望する形状及び大きさを入力する工程と、網点印刷物を出力するときに使用する出力機器及び基材に関する各種条件を入力する工程と、あらかじめ記憶してあるデータと、入力された所望する第1の網点及び第2の網点の形状及び大きさ並びに出力機器及び基材に関する各種条件とを比較して適正な第1の網点及び第2の網点の形状及び大きさを演算する工程を有する。
【0024】
また、本発明における第1の網点領域と第2の網点領域を画像分割するための基本マスクを作成する工程は、第1の網点領域には、反転円形ドット、第2の網点領域には円形ドットにより網点発生するデータを作成し、第1の白黒2値の画像を生成する工程と、第1の網点領域には、円形ドット、第2の網点領域には円形ドットにより網点発生するデータを作成し、第2の白黒2値の画像を生成する工程と、生成された第1及び第2の白黒2値の画像を画像演算処理する工程を有する。
【0025】
また、本発明における濃度階調を有する可視画像の網点を作成する工程は、第1の網点領域及び第2の網点領域に対して濃度階調を有する網点データを作成する工程と、濃度階調を有する網点データにより、濃度階調を有する白黒2値の画像を生成する工程とを有する。
【0026】
また、本発明における濃度階調を有する潜像画像の網点を生成する工程は、濃度階調を有する潜像画像(モノクロ階調)を、可視画像と同じ画像解像度及び画像サイズに画像変更する工程と、潜像画像を階調修正する工程と、潜像画像を基本マスクの下で、第1の網点領域及び第2の網点領域に濃度階調を有する網点発生データを作成し、白黒2値の画像を生成する工程と、潜像画像と基本マスクとの画像演算処理によって第2の網点領域のみに潜像画像を生成する工程とを有する。
【0027】
また、本発明における可視画像の網点と潜像画像の網点とを遷移画像として合成する工程は、可視画像と潜像画像に必要な着色指定する工程と、可視画像と潜像画像とが重なり合うことなく配置する属性に指定する工程を有する。
【0028】
また、本発明における可視画像の網点を生成する工程と、潜像画像の網点を生成する工程の間に、シアン(C)、マゼンタ(M)及びイエロー(Y)の各色材が重なり合うことなく、所定領域に画像分割するための分割マスクを作成する工程と、白黒2値の可視画像と分割マスクとの画像演算により第1の網点領域の色分割を行う工程と、白黒2値の可視画像と分割マスクとの画像演算により第2の網点領域の色分割を行う工程と、第1の網点領域の色分割と第2の網点領域の色分割により得られた白黒2値の可視画像を画像演算処理して第1及び第2の網点領域の画像を合成する工程と、第1領域、第2網点領域ともに、任意の縦横ピクセルのドットマトリックスにより網点発生するデータを作成し、機能性材料の特性に合った判別手段に適合した階調を平網面積率で設定してスレッショナルド配列の設定を行う工程とを有する。
【0029】
また、本発明における第2の網点領域に機能性材料を含む色材を網点で濃度階調を制御するために必要なスレッショルド配列を設定する工程は、第1網点領域及び第2網点領域ともに、縦×横ピクセルのドットマトリックスにより網点発生するデータを作成し、平網面積率による白黒2値の画像を生成する工程と、第1の網点領域と第2の網点領域を画像分割するための基本マスクとの画像演算による工程を有する。
【0030】
また、本発明における第2の網点領域において、色材ブラック(K)が、他の色材と重なり合うことなく分割配置された状態で、濃度階調を有する潜像画像の網点を生成する工程は、第2の網点領域に機能性材料を含む色材を網点で濃度階調を制御するために必要なスレッショルド配列を設定する工程により得られた画像とオリジナル潜像画像との画像演算による工程を有する。
【0031】
また、本発明における可視画像の網点と潜像画像の網点とを合成する工程は、色材シアン(C)、マゼンタ(M)及びイエロー(Y)が重なり合うことなく分割配置された状態で、濃度階調を有する可視画像の網点を第1の網点領域と第2の網点領域内に画像合成する工程により得られた画像と第2の網点領域において、色材ブラック(K)が、他の色材と重なり合うことなく分割配置された状態で、濃度階調を有する潜像画像の網点を生成する工程により得られた画像とオリジナル潜像画像との画像演算による工程を有する。
【発明の効果】
【0032】
本発明は、前述の特許第3544536号及び特願2006−207282号のような高精細な網点印刷物に対して、網点の設計値と実際に紙等の基材上に出力された際の網点との形状及び大きさ等の差異を、プリンタ製造メーカによる各社独自の制御方法、制御プログラム及びプリンタドライバ並びに出力される基材の種別等の各種条件に応じたデータとしてあらかじめ把握し、記憶しておくことで、所望する網点の形状及び大きさ等並びに出力に関する各種条件を入力すると、適正な網点設計値を演算処理するので、出力物として所望の画像を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明の実施形態について図面を用いて説明する。しかしながら、本発明は以下に述べる実施するための最良の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな形態が実施可能である。
【0034】
図3は、本発明の網点印刷物の作成方法を示すフローチャートである。まず、基材上に施したい所望する網点の設計値に対して、あらかじめ記憶しているプリンタ等の出力機器や基材の種別等の各種印刷条件による実際の印刷物上における網点の形状及び大きさ等の差異に関するデータから、適正な網点の設計値を算出する(step1)。適正な網点の設計値を基に、第1の網点領域と第2の網点領域を画像分割するための基本マスクの作成を行う(step2)。そして、第1の網点領域及び第2の網点領域において、濃度階調を有する可視画像を構成する網点を生成し(step3)、機能性材料を含む色材を用いて構成する第2aの網点領域と機能性材料を含まない色材を用いて構成する第2bの網点領域とが重なり合うことがないように配置して潜像画像を構成する網点を生成する(step4)。最後に可視画像の網点と潜像画像の網点とを合成する(step5)。
【0035】
また、前述したように特にインクジェットプリンタに有効となるように網点を配置する技術として本出願人が開示した特願2006−207282号では、一つの網点領域をCMYKの各領域に分割配置した構成となるが、その作成工程としては、図3のstep3とstep4の間に図4に示す各工程を要することとなる。
【0036】
図4に示す一つの網点領域を分割配置する構成の作成方法を説明する。まず、CMYKの各色材が重なり合うことなく、所定の領域に画像分割するための分割マスクを作成し(stepA1)、白黒2値の可視画像と作成した分割マスクとの画像演算により第1の網点領域の色分割を行い(stepA2)、さらに、白黒2値の可視画像と作成した分割マスクとの画像演算により第2の網点領域の色分割を行う(stepA3)。それぞれ色分割により得られた白黒2値の可視画像を演算処理して第1の網点領域及び第2の網点領域の画像を合成し(stepA4)、任意の縦横ピクセルドットマトリクスにより網点発生するデータを作成して、使用する機能性材料の特性にあった判別手段に適合した階調を平網面積率で設定してスレッショルド配列の設定を行う(stepA5)。
【0037】
以下、本発明における各工程についての詳細を説明する。
【0038】
(あらかじめのデータ作成経緯)
本発明における網点印刷物を作成する場合、本発明の課題となっている当初網点設計値に対する実際の印刷物上の網点形状及び大きさ等の差異に起因する各種条件について、あらかじめのデータとして把握し、記憶しておくことが必要となる。そのあらかじめのデータの作成方法について以下のとおり説明する。
【0039】
あらかじめのデータを把握するために、印刷物上の網点形状及び大きさ等を解析することが必要であるが、インクジェットプリンタ等によるプリンタ出力により繊細な網点構成を要する印刷物では、印刷方式及びプリンタ製造メーカによる各社独自の制御方法、制御プログラム及びプリンタドライバ、出力メディア等で、出力された印刷物に濃度又は色相などが異なる場合がある。
【0040】
例えば、カラーレーザプリンタにおいては、色材トナーのほとんどが、用紙の紙層内部に浸透することなく紙層表面に固着するため、紙面上トナー層の形状は紙の影響を受けにくく、比較的安定したプリント出力物を得やすい。しかし、インクジェットプリンタ方式に関しては、インクが紙層中に浸透して広がり、染着又は固着するため、画像データ設計値と実際の出力値に差異が生じる。加えて、高精細な網点を形成するインク分布を3次元的に解析する方法は、これまでになかった。
【0041】
従来までのインク浸透解析の一般的な方法は、印刷されたシートの断面を作成し、光学顕微鏡で観察する方法である。
【0042】
その他の方法には、走査型電子顕微鏡(以下「SEM」という。)で得られたステレオ反射電子像によってオフセットインキの微視的な存在位置を明らかにする方法、SEMと組み合わせたエネルギー分散型X線解析(EDX)によりインクに含まれる元素の2次元的な分布を知る方法、また、集束イオンビーム(FIB)によって、繊維ネットワーク構造を破壊することなく平滑な切片を作製する技術を用い、紙面上の薄いインキ層を観察する方法がある。しかし、断面作製は技術が必要で、高精細な網点の特定の部位を狙って切断することは不可能に近い。
【0043】
しかし、2004年に開催された紙パルプ研究発表会で東京大学大学院農学生命科学研究科の江前敏晴らが共焦点レーザ蛍光顕微鏡を用いたインクジェット印字の3次元ドット形態観察を発表した方法を応用し、新たに網点形状を3次元的に観察することが可能となった。
【0044】
この方法は、通常の有色染料に加えてインクジェット用インクに配合されている蛍光染料に着目し、これらの蛍光染料の分布を測定すれば、試料を別の蛍光試薬で染色すること無しに共焦点レーザスキャン顕微鏡(以下「CLSM」という。)下でインクドット形状を観察するものである。
なお、ここでは染色方法による形状の確認を説明したが、形状を確認できればこの方法に限るものではない。
【0045】
(あらかじめのデータ作成)
本発明は、以下の示す手順であらかじめのデータを作成する。なお、あらかじめのデータについては、印刷物上の網点形状及び大きさ等に影響を与える要因となる各種条件を用いた際の設計値と実際の印刷物の差異を算出し、少しでも多くのデータを調査しておくことが好ましい。
例えば、印刷方式、プリンタ製造メーカによる各社独自の制御方法、制御プログラム及びプリンタドライバ並びに出力メディア等の影響である。
【0046】
まず、使用するインクの反射吸収特性及び励起蛍光特性を調査する。一般的に、反射吸収特性は分光光度計及び分光白色度計、励起蛍光特性は分光蛍光光度計を用いて測定される。
【0047】
ここでCLSMについて図5を用いて簡単に説明する。CLSMは、レーザ光3を光源とする顕微鏡である。特徴は、試料の焦点面4をレーザで走査してその面から発光する蛍光の平面分布を記録し、コンピュータを通して各焦点面での切片画像を再構築することにより、通常の高額顕微鏡よりZ軸上の分解能がはるかに高い、3次元画像が得られる点である。
【0048】
CLSMの原理は、レーザ光3がスキャナを介して対物レンズ5によりフォーカスされ、スポット状のビームで試料上を走査する。レーザで励起された蛍光は、再び対物レンズに戻り、スキャナからピンホール6を経て受光器7(フォトマル:PMT)に届く。受光器7がとらえた蛍光は画像情報に変換され、最終的にモニタ上に表示される。焦点と共役平面にあるピンホール(共焦点)は、焦点面以外からの光を排除し、焦点面4のみのシグナルを検出器に集める。焦点面4をずらして光学切片像を集めることで3次元像が作られる。
【0049】
ピンホールとは、フォトマルの直前に設置された固定又は可変式の絞りである。3次元分解能は、この絞りの開閉に大きく影響される。また、ピンホールを通した蛍光は、Z軸上の分解能の大幅な向上のみならず、X−Y平面上の分解能向上にも好影響を与える。
【0050】
前述の測定したインクの持つ色の反射吸収特性又は励起蛍光特性によりCLSMの光学条件を設定し、インクの3次元的な分布の観察を行う。この観察画像から、画像の設計値と実際の出力物の差異を算出し、各種条件による差異を把握してあらかじめのデータを作成する。
【0051】
なお、あらかじめのデータ作成に用いる分析機器等は、インクの特性及びインクの3次元的な測定ができれば良く、例えば、比較的変動要因が少なく、安定して出力することが可能なダイレクト・デジタル・カラー・プルーフシステム機器(以下、「DDCP」という。)を用いることができる。このDDCPで標準印刷物を作製し、ターゲットプリンタとの網点面積率、調子再現性又は分光特性等の各種変動誤差を算出し、あらかじめのデータとして記憶しておく。
【0052】
(基本マスクの作成)
基本マスクを作成する工程は、第1の網点領域には反転円形ドット、第2の網点領域には円形ドットにより網点発生するデータを作成し、白黒2値の画像を生成する。また、同様な方法で、第1の網点領域には、円形ドット、第2の網点領域には円形ドットにより網点発生するデータを作成し、白黒2値の画像を生成する。こうして生成された二つの白黒2値の画像を画像演算処理することにより、基本的なマスクが生成できる。
【0053】
(可視画像網点生成)
可視画像網点は、第1の網点領域及び第2の網点領域ともに、濃度階調を有する可視画像用の網点ドットデータを作成し、白黒2値の画像を生成することによって得られる。
【0054】
(潜像画像網点生成)
潜像画像網点は、第1の網点領域及び第2の網点領域ともに、濃度階調を有する潜像画像用の網点ドットデータを作成し、基本マスクを用いて、白黒2値の画像を生成することによって得られる。
【0055】
(可視画像網点と潜像画像網点の合成)
可視画像と潜像画像の白黒2値の画像を画像演算処理により、合成画像を得る。
【0056】
(分割マスクの作成)
シアン(C)、マゼンタ(M)及びイエロー(Y)の各色材が重なり合うことなく、所定領域に画像分割するための分割マスクは、第1の網点領域、第2の網点領域ともに、縦万線ドットにより網点発生するデータを作成し、シアン(C)及びマゼンタ(M)2色分の分割マスクを網点面積率で指定して白黒2値の画像を生成する。また、同様な方法で、第1の網点領域、第2の網点領域ともに、縦万線ドットにより網点発生するデータを作成し、イエロー(Y)1色分の分割マスクを網点面積率で指定して白黒2値の画像を生成する。さらに、生成された両者の白黒2値の画像を画像演算処理することにより、各色成分の分割マスクが得られる。
【0057】
(第1の網点領域の色分割)
第1の網点領域においては、白黒2値の可視画像と分割マスクとの画像演算により得られる。
【0058】
(第2の網点領域の色分割)
第2の網点領域においては、白黒2値の可視画像と分割マスクとの画像演算により得られる。
【0059】
(第1及び第2の網点領域の画像合成)
第1の網点領域の色分割と第2の網点領域の色分割の処理で得られた白黒2値の画像を合成する。
【0060】
(スレッショルド配列の設定)
機能性材料を含む色材を網点で濃度階調を制御するために必要なスレッショルド配列を設定するために、第1の網点領域及び第2の網点領域ともに、任意の縦横ピクセルのドットマトリックスにより網点発生するデータを作成し、機能性材料の特性に合った判別手段に適合した階調を平網面積率で設定し、白黒2値の画像を生成する。さらに、第1の網点領域と第2の網点領域を画像分割するための基本マスクと画像演算処理する。
【0061】
本発明を実施するための装置について図6を用いて説明する。本発明を実施するための装置としては、所望する網点設計値及び印刷する時の各種条件(出力機器及び基材の種別)を入力する入力部と、網点設計値と各種条件に対する実際の印刷物上における網点の形状及び大きさの測定値との差異に関するデータを記憶しておく記憶部と、入力した所望する網点設計値とあらかじめのデータから適正な網点の形状及び大きさを演算し、網点データを作成するための各工程を行う演算部と、作成された網点データを基に基材に出力する印刷部と、入力データ、適正な網点設計値及び各工程における画像を表示する表示部とを有している。
【実施例】
【0062】
図7に示す可視画像(a)及び潜像画像(b)を用いて網点印刷物を作成した。
本実施例では、使用するプリンタをエプソン社製インクジェットプリンタPX−V600、使用基材を上質紙とした場合の網点形状及び大きさ等に影響を与える各種条件を、あらかじめ網点面積率計により算出した分析データから網点設計に必要な諸条件を引き出し、具体的な画像の作成を行った。なお、網点構成については、特願2006−207282号で開示した、第1の網点領域及び第2の網点領域を分割配置した構成とし、以下のとおりの網点印刷物を作成した。
【0063】
所望する網点設計値は、第1網点領域の縦横ピクセル数が40×40ピクセル、第2網点領域の縦横ピクセル数が15×15ピクセル、ラスターイメージ処理時の解像度を5080dpiである。そこで、あらかじめ記憶してあるデータにより算出された適正な網点設計値は、解像度5080dpiで、第1の網点領域を42×42ピクセル、第2の網点領域の縦横ピクセル数を15×15ピクセルであった。
【0064】
算出方法については、所望する網点設計値に関する0から100パーセントまでの5パーセント間隔の網点スケールをラスター処理して白黒2値のビットマップ画像(解像度5080dpi)の網点スケールを出力した際の実際の網点面積率計を測定した再現カーブと、画像処理上における標準の再現カーブとの差により、その補正値を割り出して、適正な網点設計値を算出するものである。
【0065】
算出された適正な網点設計値である解像度5080dpiで、第1の網点領域を42×42ピクセルの横万線、第2の網点領域の縦横ピクセル数を15×15ピクセルの横万線形状の網点データを作成し、可視画像網点を生成した。
【0066】
次に、算出された適正な網点設計値を基に、シアン(C)、マゼンタ(M)及びイエロー(Y)の各色版別に解像度5080dpiで、第1の網点領域を42×42ピクセルの横万線、第2の網点領域の縦横ピクセル数を15×15ピクセルの横万線形状の網点データを作成し、0から100パーセントまでの5パーセント間隔の網点スケールをラスター処理して白黒2値のビットマップ画像から各色版別の分割マスクを生成した。
【0067】
次に、所望する印刷物と同等の可視画像網点及び各色版別の分割マスクとの画像演算処理により、第1の網点領域の色分割を生成した。
【0068】
次に、所望する印刷物のマスクの網点面積率に最も近い値の解像度5080dpiで、第1の網点領域を42×42ピクセル、第2の網点領域の縦横ピクセル数を15×15ピクセルの基本マスクと各色版別の分割マスクとの画像演算処理により、第2の網点領域の色分割を生成した。
【0069】
次に、第1の網点領域の色分割と第2の網点領域の色分割により得られた画像を画像演算処理により、第1の網点領域と第2の網点領域を合成した。
【0070】
そして、第2の網点領域に機能性材料を含む色材の網点で、濃度階調を制御する上で必要なスレッショルド配列を設定するために、本実施例では、所望する印刷物のマスクの網点面積率に最も近い値の解像度5080dpiで、第1の網点領域を42×42ピクセル、第2の網点領域の縦横ピクセル数を15×15ピクセルに対し、さらに、各縦横ピクセルを3分割した0から9までの10階調のドットマトリックスを設定し、ドットを塗りつぶす最小ドットが第2網点領域の縦横ピクセル数15×15ピクセルの3分割、すなわち、5×5ピクセルが一塊となったドットが10階調のドットマトリックスに分散して塗りつぶされるようスレッショルド配列を設定し、これを網点データとした。
【0071】
次に、スレッショルド配列の設定についてであるが、本実施例の各種条件下では、あらかじめのデータから平網パーセントが66%として設定した。
【0072】
以上の各工程を経て得られた可視画像の網点と潜像画像の網点とを合成することによって所望する階調画像をもった網点印刷物が完成した。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の対象となる網点の構成を示す図である。
【図2】本発明の対象となる別の網点の構成を示す図である。
【図3】本発明における網点印刷物の作成方法を示すフローチャートである。
【図4】図2に示す網点構成を作成するために、図3のAで行われる工程を示すフローチャートである。
【図5】あらかじめのデータを作成するために用いられる解析装置の1例であるCLSMを説明する図である。
【図6】本発明を実施するための装置の1例を示すブロック図である。
【図7】実施例1における可視画像及び潜像画像を示す図である。
【符号の説明】
【0074】
1 第1の網点領域
2 第2の網点領域
2a 機能性材料を含む第2の網点領域
2b 機能性材料を含まない第2の網点領域
3 レーザ光
4 焦点面
5 対物レンズ
6 ピンホール
7 受光器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に第1の網点領域と第2の網点領域が複数配置されて濃度階調を有する可視画像が形成され、前記第1の網点領域及び前記第2の網点領域は、画像を形成するドット領域と前記ドット領域を囲む背景領域から成り、前記ドット領域及び前記背景領域は機能性材料を含む色材及び含まない色材を用いて構成され、前記機能性材料を含む網点領域と含まない網点領域は肉眼では同色に視認され、前記機能性材料の有無、強弱及び/又は種別により潜像画像が形成され、肉眼では前記濃度階調を有する可視画像が確認され、前記機能性材料の特性に合った判別手段を用いることで前記潜像画像が確認される網点印刷物の作成方法であって、
あらかじめ記憶してある各種印刷条件に対応した印刷物上の網点の形状及び大きさのデータから適正な前記第1の網点及び前記第2の網点の形状及び大きさを設計する工程と、前記設計された前記第1の網点及び前記第2の網点の形状及び大きさを基に、前記第1の網点領域と前記第2の網点領域を画像分割するための基本マスクを作成する工程と、前記第1の網点領域と前記第2の網点領域において、濃度階調を有する可視画像の網点を生成する工程と、前記機能性材料を含む色材を用いて構成された網点領域において、前記機能性材料を含まない色材を用いて構成された網点領域と重なり合うことなく分割配置された状態で濃度階調を有する潜像画像を生成する工程と、前記可視画像の網点と前記潜像画像の網点とを遷移画像として合成する工程を有する網点印刷物の作成方法。
【請求項2】
前記あらかじめ記憶してあるデータを基に適正な前記第1の網点及び前記第2の網点の形状及び大きさを設計する工程は、前記第1の網点と前記第2の網点の所望する形状及び大きさを入力する工程と、前記網点印刷物を出力するときに使用する出力機器及び基材に関する各種条件を入力する工程と、前記あらかじめ記憶してあるデータと、前記入力された所望する第1の網点及び第2の網点の形状及び大きさ並びに前記出力機器及び基材に関する各種条件とを比較して適正な第1の網点及び第2の網点の形状及び大きさを演算する工程を有する請求項1記載の網点印刷物の作成方法。
【請求項3】
前記第1の網点領域と前記第2の網点領域を画像分割するための基本マスクを作成する工程は、前記第1の網点領域には、反転円形ドット、前記第2の網点領域には円形ドットにより網点発生するデータを作成し、第1の白黒2値の画像を生成する工程と、前記第1の網点領域には、円形ドット、前記第2の網点領域には円形ドットにより網点発生するデータを作成し、第2の白黒2値の画像を生成する工程と、前記生成された第1及び第2の白黒2値の画像を画像演算処理する工程を有する請求項1記載の網点印刷物の作成方法。
【請求項4】
前記濃度階調を有する可視画像の網点を作成する工程は、前記第1の網点領域及び前記第2の網点領域に対して濃度階調を有する網点データを作成する工程と、前記濃度階調を有する網点データにより、濃度階調を有する白黒2値の画像を生成する工程とを有する請求項1、2又は3記載の網点印刷物の作成方法。
【請求項5】
前記濃度階調を有する潜像画像の網点を生成する工程は、
前記濃度階調を有する潜像画像を、前記可視画像と同じ画像解像度及び画像サイズに画像変更する工程と、前記潜像画像を階調修正する工程と、前記潜像画像を前記基本マスクの下で、前記第1の網点領域及び前記第2の網点領域に濃度階調を有する網点発生データを作成し、白黒2値の画像を生成する工程と、前記潜像画像と前記基本マスクとの画像演算処理によって前記第2の網点領域のみに潜像画像を生成する工程とを有する請求項1、2、3又は4記載の網点印刷物の作成方法。
【請求項6】
前記可視画像の網点と前記潜像画像の網点とを遷移画像として合成する工程は、前記可視画像と前記潜像画像に必要な着色指定する工程と、前記可視画像と前記潜像画像とが重なり合うことなく配置する属性に指定する工程を有する請求項1、2、3、4又は5記載の網点印刷物の作成方法。
【請求項7】
前記可視画像の網点を生成する工程と、前記潜像画像の網点を生成する工程の間に、シアン(C)、マゼンタ(M)及びイエロー(Y)の各色材が重なり合うことなく、所定領域に画像分割するための分割マスクを作成する工程と、前記白黒2値の可視画像と前記分割マスクとの画像演算により前記第1の網点領域の色分割を行う工程と、前記白黒2値の可視画像と前記分割マスクとの画像演算により前記第2の網点領域の色分割を行う工程と、前記第1の網点領域の色分割と前記第2の網点領域の色分割により得られた白黒2値の可視画像を画像演算処理して前記第1の網点領域及び前記第2の網点領域の画像を合成する工程と、前記第1の網点領域及び前記第2の網点領域ともに、任意の縦横ピクセルのドットマトリックスにより網点発生するデータを作成し、前記機能性材料の特性に合った判別手段に適合した階調を平網面積率で設定してスレッショナルド配列の設定を行う工程とを有する請求項1、2、3、4、5又は6記載の網点印刷物の作成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−119885(P2008−119885A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−303901(P2006−303901)
【出願日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】