説明

網膜毒性のスクリーニング法

本発明は、蛍光検出可能なαvβ3及びαvβ5インテグリン特異的な作用物質及び網膜色素上皮細胞を用いる、被験物質を特徴付けする方法に関する。本発明はさらに、網膜色素上皮由来の細胞、インテグリンマーカー及び包装材料を含むキットに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光検出可能なαvβ3及びαvβ5インテグリン特異的な作用物質及び網膜色素上皮細胞を用いる、被験物質を特徴付けする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
網膜は、厚さが約100〜500μmで、眼の最も内側の層を占める、非常に密な、代謝活性のある神経構造体である。Potts, A.M.(1996)。網膜は、異なる層から成り、網膜色素上皮(RPE)の直下にある血管脈絡膜から栄養物を受け取る。Mayerson and Hall(1986)。
【0003】
視覚の障害及び喪失を引き起こすことのできる多くの網膜の状態が知られている。かかる状態の種類及び原因は、糖尿病性網膜症(糖尿病)、加齢黄斑変性症(年齢)、シュタルガルト病、網膜色素変性症(遺伝)、ヒストプラスマ症(真菌感染)、及び未熟児網膜症(早産)を含む。これらの状態の多くが網膜組織内の新しい血管の増殖(血管新生)に特徴を有する。
【0004】
ある薬物が網膜へのダメージを誘発することができることが知られている。例えば、網膜症は、タモキシフェン(Griffiths, M.F.(1987); Bentley, C.R. et al. (1992)及びPavlidis, N.A., et al(1992))、クロロキン(Matsumura, M.M. et al.(1986); Fredman, P.G. et al.(1987); 及びGrant, W.M. and Shuman, J.S.(1993))、インドメタシン(Burns, C.A. 1973)、クロルプロマジン及びチオリダジン(Siddall(1966))への曝露の結果として報告されている。これらの薬物によって誘発されるダメージは、網膜組織の血管新生を含む。
【0005】
インテグリンは、細胞膜を横断し、細胞間または細胞と細胞外マトリックスタンパクの間の特別な接着点を提供する。細胞接着剤として働くのに加えて、インテグリンは受容体及び情報伝達物質としての役割も果たす。Nelson, D.L.and Cox, M.M.(2000),p.404。
【0006】
各インテグリンへテロダイマーは、1つのα及びβサブユニットを含む。少なくとも16の異なるαサブユニット及び少なくとも8個のβサブユニットが報告されている。Aplin, A.E. et al. (1998)。
【0007】
αvβ3及びαvβ5インテグリンは、非活性化内皮細胞に比べて活性化された内皮細胞上(すなわち、血管新生の間)で強力に発現されると記載されている。Friedlander, M., et al.(1995); Natali, P.G. et al.(1997)。
【0008】
αvβ3及びαvβ5インテグリンは、3つのペプチドArg-Gly-Asp(RGD)を含む細胞外マトリックスのあるタンパク質と相互作用することが発見された。DePasquale, J.A. (1998), Germer, M. et al. (1998)及びPCT国際特許出願公開第WO97/06791号及び同第WO95/25543号。αvβ3及びαvβ5は、血管新生と関連付けられた。したがって、小ペプチドを含むRGDが、血管内皮細胞及び腫瘍成長に対するアンタゴニストとして提案された。Goligorsky, M.S. et al. (1998)及びSheu, J.R. et al.(1997)。
【0009】
RGDのアスパラギン酸残基が生理活性の喪失に導く化学的分解を非常に受けやすいが、この分解は、RGD含有ペプチドがジスルフィド結合を介して環化された場合には妨げられることが報告された。Bogdanowich-Knipp, S.J. et al.(1999-A)及びBogdanowich-Knipp, S.J. et al.(1999-B)。
【0010】
例えば、RGDペプチドをアイソトープ、テクネチウム-99mで標識して、該ペプチドを腫瘍画像撮影のためのマーカーとして使用することが提案された。Zi-Fen, S. et al. (2002)。
【0011】
PCT国際特許出願公開第WO01/77145号及び同第WO03/006491号は、αvインテグリンを結合するペプチドベースの化合物、並びに心臓疾患、子宮内膜症、炎症関連疾患、リューマチ関節炎、及びカポシ肉腫などの悪性疾患の診断におけるそれらの使用を開示する。
【0012】
PCT国際特許出願公開第WO03/037172号は、ペプチド及びそれらの誘導体、そして血管新生並びに癌、関節炎、黄斑変性症及び糖尿病性網膜症などの血管新生関連疾患を阻害するためのそれらの使用を開示する。
【0013】
化学物質、化粧品及び食品添加物の製造業、並びに医薬製造業を含むいくつかの製造業は、それらの製品の安全性リスクが最小化されることを確実にすることが主な関心事である。したがって、化学作用物質候補により誘発された網膜毒性の信頼できる正確な評価を提供する新しいインビトロの方法が必要とされている。
【発明の開示】
【0014】
発明の要約
本発明の一部分は、哺乳動物の網膜色素上皮細胞を試験物質で処置すること、上記細胞をインテグリンマーカーで処置すること、該インテグリンマーカーの蛍光を生じさせる波長を有する光源に上記細胞を曝露すること、そして、上記インテグリンマーカーによって放出された蛍光を検出すること、を含む、被験物質の特徴づけのための方法に関する。
【0015】
本発明のさらなる側面は、第一の哺乳動物の網膜色素上皮細胞を被験物質で処置すること、上記第一の細胞及び第二の哺乳動物の網膜色素上皮細胞をインテグリンマーカーで処置すること、上記第一の細胞を該インテグリンマーカーの蛍光を生じさせる波長を有する光源に曝露し、そこから発する蛍光を検出すること、そして、上記第二の細胞を該インテグリンマーカーの蛍光を生じさせる波長を有する光源に曝露し、そこから発する蛍光を検出すること、を含む、被験物質を特徴付けするための方法を提供する。
【0016】
好ましい実施態様において、上記方法はさらに、上記被験物質を以下の:対照の哺乳動物網膜色素上皮細胞から放出される蛍光に比べて、被験哺乳動物網膜色素上皮細胞から放出される蛍光を増加させる作用物質;及び対照の哺乳動物網膜色素上皮細胞から放出される蛍光に比べて、被験哺乳動物網膜色素上皮細胞から放出される蛍光を増加させない作用物質;から選ばれるカテゴリーに従って特徴づけすることを含み、ここで、上記被験細胞は、上記被験物質及び上記インテグリンマーカーで処置され、上記インテグリンマーカーの蛍光を生じさせる波長を有する光源に曝露され、そしてここで、上記対照細胞は、上記インテグリンマーカーで処理され、上記インテグリンマーカーの蛍光を生じさせる波長を有する光源に曝露される。好ましくは、上記増加した蛍光は、統計学的に有意である。或いは、上記増加した蛍光は少なくとも約2倍であることが好ましい。
【0017】
本発明の他の側面は、網膜色素上皮由来の細胞、インテグリンマーカー及び包装材料を含むキットに関する。
【0018】
本発明の実施において使用するのに好ましい細胞は、RPE-J細胞及びARPE-19細胞、またはそれらに由来する細胞から選ばれる細胞である。
【0019】
本発明の実施において使用するのに好ましいインテグリンマーカーは、ジスルフィド[Cys2-6]チオエーテルシクロ[CH2CO-Lys(フルオレセイン)-Cys2-Arg-Gly-Asp-Cys6-Phe-Cys]-(PEG)-NH2である。
【0020】
本発明のより好ましい実施態様においては、上記細胞は、RPE-J細胞及びARPE-19細胞、またはそれらに由来する細胞から選ばれ、且つ、上記インテグリンマーカーは、ジスルフィド[Cys2-6]チオエーテルシクロ[CH2CO-Lys(フルオレセイン)-Cys2-Arg-Gly-Asp-Cys6-Phe-Cys]-(PEG)-NH2である。
【0021】
発明の詳細な説明
本明細書中で使用される用語は、本分野におけるそれらの通常の意味を有する。しかしながら、本発明をさらに明らかにし、そして便宜のために、実施例及び請求の範囲を含む本明細書中で使用される一定の用語及び句の意味が、以下に提供される。
【0022】
「インテグリンマーカー」は、蛍光で検出可能な、αvβ3及びαvβ5インテグリン特異的な作用物質を意味する。
【0023】
「αvβ3及びαvβ5インテグリン特異的な作用物質」は、αvβ3及びαvβ5インテグリンサブユニットのいずれかまたは両方に特異的に結合する化学物質を意味する。
【0024】
タンパク質に関する場合、「特異的結合」及び「特異的に結合」という用語は、タンパク質及び他の生物学的成分の不均一な集団中のタンパク質の存在の決定要因である結合反応をさす。したがって、例えば、バックグラウンドの中からのαvβ3及び/又はαvβ5インテグリンの検出を可能とするために、インテグリンマーカーのαvβ3及び/又はαvβ5インテグリンタンパク質への特異的結合は、バックグラウンド(すなわち、非αvβ3又はαvβ5インテグリン)中で起こる結合よりも十分に高い。好ましくは、特異的結合のための結合親和性は、バックグラウンド中で起こるものの少なくとも2倍である。
【0025】
本明細書中で使用される略語は、本分野におけるそれらの通常の意味を有する。しかしながら、本発明をさらに明確するため、便宜のために、一定の略語の意味を以下に提供する。「℃」は、セ氏温度を意味し;「DMF」は、ジメチルホルムアミドを意味し;「ATCC」は、Manassas, VAにあるAmerican Type Culture Collection(ウエブサイトは、www.atcc.org)を意味し;「CO2」は、二酸化炭素を意味し;「DMEM」は、ダルベッコ改変イーグル培地を意味し;「DNA」は、デオキシリボ核酸を意味し;「EDTA」は、エチレンジアミン四酢酸を意味し;「g」は、グラムを意味し;「kg」は、キログラムを意味し;「mg」は、ミリグラムを意味し;「mL」は、ミリリッターを意味し;「mM」は、ミリモルを意味し;「μl」は、マイクロリッターを意味し;「μM」は、マイクロモルを意味し;「ng」は、ナノグラムを意味し;「nm」は、ナノメーターを意味し;「nM」は、ナノモルを意味し;「RNA」は、リボ核酸を意味し;そして「RPM」は、1分当たりの回転数を意味する。
【0026】
本発明の1の実施態様において、作用物質は、被験物質及び蛍光で検出可能なインテグリンマーカーで哺乳動物の網膜色素上皮細胞を処置し、そして、細胞の蛍光レベルに及ぼす被験物質の効果を測定することによって、その網膜毒性の可能性について特徴づけられる。
【0027】
哺乳動物網膜組織から直接得られた上皮細胞及び哺乳動物網膜色素上皮細胞株由来の細胞を含む、任意の好適な哺乳動物網膜色素上皮細胞が本発明の方法において使用されることができる。当業者は、本発明の方法によって特別な哺乳動物種、例えばヒトにおける網膜毒性リスクを予想する場合、同じ種由来の上皮細胞を使用することが好ましいかもしれないということを理解するであろう。
【0028】
初代網膜色素上皮細胞は、Verdugo. M.E. et al.(2001)及びVerdugo,M.E. and Ray, J. (1997)などに記載されたような当業者に知られた方法によって網膜組織から採取されることができる。哺乳動物網膜色素上皮細胞株は、本開示に基づいて、当業者に知られた方法によって調製されることができる。例えば、知られた方法によって採取された初代網膜色素上皮細胞は、オンコジーンまたはウイルスタンパク質によって形質転換されることができる。Nabi, I. et al.(1993)は、温度感受性SV40ウイルスにラット初代網膜色素上皮細胞を感染させることによる、かかる方法を記載する。或いは、網膜色素上皮細胞は、初代細胞培養中で自然に発生することが観察された(例えば、Dunn K.C. et al. (1996);及びMcLaren et al. (1993)を参照のこと)。
【0029】
好ましい実施態様において、網膜色素上皮細胞は、ラット網膜色素上皮細胞株、RPE-J、またはヒト網膜色素上皮細胞株、ARPE-19に由来する。RPE-J及びARPE-19細胞株はどちらもATCCなどから容易に入手可能である(それぞれ、カタログ番号CRL-2240及びCRL-2302)。
【0030】
網膜色素上皮細胞株は、一般的にBonifacino et al. (1998)などに記載されたように、当業者に知られた方法によって維持されることができる。RPE-J及びARPE-19細胞株の例示的な培養方法は、Nabi et al. (1996)及びDunn, et al.(1996)にそれぞれ開示されている。RPE-J細胞のための好ましい方法においては、細胞は、4%ウシ胎児血清(FCS)を含む高グルコースダルベッコ改変イーグル培地中、約33℃で培養される。細胞が好適なレベルのコンフルエンス(約80%)に達したら、それらは0.25%トリプシン溶液を用いて分離され、約1:4の比率で再び蒔かれる。
【0031】
本開示に基づいて当業者が理解するように、いかなる好適なインテグリンマーカーも本発明の実施において使用されることができる。一般に、そのようなインテグリンマーカーは、αvβ3及びαvβ5インテグリン特異的なトリペプチド配列、アルギニン−グリシン−アスパラギン酸(RGD)を、それらの化学構造の一部分として有するであろう。好ましくは、かかるRGD-含有ペプチドは、アルパラギン酸残基の化学分解を防ぐために、ジスルフィド結合を介して環化される。Bogdanowich-Knipp, S.J. et al. (1999-A)及びBogdanowich-Knipp, S.J. et al. (1999-B)。
【0032】
ヨーロッパ特許出願第EP578083号は、一連の単環式RGD含有ペプチドを記載する。多架橋環状RGDペプチドは、PCT国際特許出願公開第WO98/54347号及び同第WO95/14714号中に記載されている。さらなる環状RGDペプチドは、Bogdanowich-Knipp, S.J. et al. (1999-A)及びBogdanowich-Knipp, S.J. et al. (1999-B)中に記載されている。
【0033】
当業者が本開示に基づいて理解するであろうとおり、いかなる好適な蛍光標識もインテグリンマーカーを標識するために使用されることができる。例えば、蛍光標識は、任意にフルオレセインまたはローダミンを含むことができる。
【0034】
例示的なインテグリンマーカーは、PCT国際特許出願公開第WO03/006491号及び同第WO01/77145号中に開示されたRGDペプチドを含む。好ましいマーカーは、以下の式I:
【化1】

により表される、フルオレセインに結合した二環式RGDペプチド化合物、ジスルフィド[Cys2-6]チオエーテルシクロ[CH2CO-Lys(フルオレセイン)-Cys2-Arg-Gly-Asp-Cys6-Phe-Cys]-(PEG)-NH2である。
【0035】
式Iのインテグリンマーカーは、例えば、先ず、RGDペプチド化合物、ジスルフィド[Cys2-6]チオエーテルシクロ[CH2CO-Lys-Cys2-Arg-Gly-Asp-Cys6-Phe-Cys]-(PEG)-NH2をPCT国際特許出願公開第WO03/006491号に記載の方法にしたがって製造し、そして、実施例により完全に詳細に記載された方法に従って、該RGD化合物をNHS-フルオレセインと反応させることによって製造されることができる。
【0036】
本発明の方法の実施においては、本発明の開示に基づいて当業者に知られた方法による被験物質による細胞の処置が採用されてもよい。当業者は、使用される方法が、使用される細胞の種類、蛍光で検出可能なαvβ3インテグリン特異的作用物質の特性及び使用される被験物質の特性を含む多くの変数に依存することも理解するであろう。
【0037】
1つの実施態様において、色素上皮細胞は、好ましくは1ミリリッターあたり約50,000細胞でマルチウエルプレートに蒔かれ、そして約80%コンフルエンスに達することが可能である。その後、細胞は被験物質及びインテグリンマーカーを一緒にして約1時間処置される。
【0038】
本開示に基づいて当業者に理解されるとおり、本発明の実施における被験物質の量は、使用される細胞の種類及び被験物質の特性を含む多くの因子に依存するであろう。好ましくは、使用される被験物質の量は、一般毒性の結果として細胞のバイアビリティーに対する実質的な作用を有する量よりも少ない。反対に、その作用物質が増加したαvβ3及びαvβ5インテグリン発現に基づいて網膜毒性を引き起こす可能性があるか否かの決定を可能とする十分な被験物質が使用されなければならない。したがって、使用される被験物質の量は、バイアビリティーの実質的な減少をまだ起こさない最大量でなければならない。
【0039】
細胞バイアビリティーアッセイは、当業者に周知である。例示的な細胞バイアビリティーアッセイ法は、「Apoptosis and Cell」と題されたRoche Molecular Biochemicalsマニュアル(http://biochem.boehringer-mannheim. com/PROD INF/MANUALS/cell man/cell)中に記載される、比色WST-1細胞毒性アッセイである。WST-1アッセイのための試薬は、Roche Diagnostics Corp., Indianapolis, INから入手可能である(カタログ番号1644807)。
【0040】
同様に、使用されるインテグリンマーカーの量は、バイアビリティーの減少を起こすであろう量よりも少なくなければならない。上記のWST-1アッセイのような細胞バイアビリティーアッセイもまた、被験物質の上限を決定するのに使用されるのと同じやり方でインテグリンマーカーの上限を決定するのに使用されることができる。さらに、インテグリンマーカーの量は、バックグランド蛍光の作用を最小化するのに十分低いが、αvβ3及びαvβ5インテグリンの増加した発現による陽性の応答を誘発する細胞の検出を可能とするのに十分高くなければならない。下限は、αvβ3及びαvβ5インテグリンの増加した発現を誘発することが知られている陽性対照物質を使用することによって決定されることができる。
【0041】
被験物質及びインテグリンマーカーによる細胞の処置に続いて、細胞は、パラホルムアルデヒド又はグルタルアルデヒドなどの固定物質で固定されることが好ましい。細胞を固定する方法は、本開示に基づいて当業者に知られている。例えば、Bacallo et al. (1990)及びBacallo and Garfinkel (1994)は、細胞固定についての側面を詳細に検討している。
【0042】
固定の時点で、細胞はDNA対比染色などの対比染色で処理されることができる。対比染色は、インテグリンマーカーの波長と異なる波長で蛍光を発し、そして個々の細胞の同定を可能とするものである。例示的なDNA対比染色は、(すべてがMolecular Probes, Eugene, ORから入手可能な)TOTO(登録商標)-3ヨウ化物、SYBR Green I又はヨウ化プロピジウムである。DNA対比染色を用いる場合、染色をDNAに限定するため、細胞はRNaseでも処理されなければならない。
【0043】
処理され、そして染色された細胞は、本開示に基づいて、当業者に周知の方法によって可視化される。好ましい実施態様においては、細胞はCheng et al. (1994)、Gogswell and Carlsson(1994)、Matsumoto(1993)、Pawley(1990)及びStevens et al.(1994)中に記載されたものを含む、当業者に知られた方法によって共焦点顕微鏡を用いて可視化される。
【0044】
本開示に基づいて当業者が理解するであろうとおり、使用される特別なインテグリンマーカーは、特徴的な励起及び蛍光発光のための波長を有するであろう。例えば、フルオレッセイン結合二環式RGDペプチド化合物、ジスルフィド[Cys2-6]チオエーテルシクロ[CH2CO-Lys(フルオレセイン)-Cys2-Arg-Gly-Asp-Cys6-Phe-Cys]-(PEG)-NH2は約488nmの光によって励起され、約520〜560nmで発光し、発光ピークを約530nmに有する。他のインテグリンマーカーについては、最適の励起及び発光波長は例えば、TD-700 Laboratory Fluorometer(Turner BioSystems, Inc., Sunnyvale, CA)などの蛍光光度計を用いて当業者によって周知の方法で容易に決定可能である。
【0045】
一般に、インテグリンマーカー特異的な作用物質の蛍光を示す細胞は、対照細胞に比べて明らかに可視的であるだろう(図2〜5を参照のこと)。かかる細胞は網膜毒性物質候補である被験物質を示すであろう。
【0046】
本開示に基づいて当業者によって理解されるであろうとおり、本発明の方法は、網膜毒性の可能性についての作用物質の自動化試験に適合されることができる。かかる方法は例えば、レーザースキャニングサイトメトリー(LSC)法及びCompuCyte Corporation, Cambridge, Massachusetts, USAから入手可能な機器を使用することによってインテグリンマーカーの検出の自動化を含むことができる。かかる方法については、未処置の細胞に比較した処置細胞におけるインテグリンマーカーの蛍光レベルのいかなる統計学的に有意な増加も潜在的な網膜毒性を有する被験物質の指標となるであろう。統計学的有意性の判定は、当業者に周知であるか、又は本開示に基づいて明らかとなるであろう。好ましくは、結果は0.05以下、より好ましくは0.01以下のp値を得るであろう(Brownlee(1960))。或いは、処置細胞中のインテグリンマーカーの蛍光の増加は、対照の少なくとも約2倍を超える。
【0047】
上記の方法は、例示の目的のみのためである。本開示に基づいて、当業者は、多様なフォーマットが本発明の実施において利用されることができることを理解するであろう。使用する細胞の種類、インテグリンマーカー及び被験物質、細胞の処置及び培養方法並びに蛍光の検出方法に基づいて変更が行われることができる。
【0048】
本明細書中に引用されたすべての特許、出願、文献並びにパンフレット及び技術的刊行物は、参考文献としてその全体が明らかに本明細書中に援用される。実施例、図面及び添付された請求項を含む本明細書の記載に基づいて、当業者は本発明をその完全な範囲まで利用することができると考えられる。
【0049】
以下の実施例は、単に本発明の実施を例示することを意図され、そして、いかなる方法においても残りの開示を限定することを意図されない。
【実施例】
【0050】
実施例1
ジスルフィド[Cys2-6]チオエーテルシクロ[CH2CO-Lys(フルオレセイン)-Cys2-Arg-Gly-Asp-Cys6-Phe-Cys]-(PEG)-NH2の製造
PCT国際特許出願公開第WO03/006491号の実施例2に記載の方法によって製造した、30ミリグラムのジスルフィド[Cys2-6]チオエーテルシクロ[CH2CO-Lys-Cys2-Arg-Gly-Asp-Cys6-Phe-Cys]-(PEG)-NH2をNHS-フルオレセイン(16.2mg)及びN-メチルモルホリン(4μl)とともにDMF(3mL)に溶解する。混合物を光から保護し、一夜攪拌する。その後、混合物を20〜30%のBを用いてHPLC(Vydac 218TP1022 C18カラム)で、10mL/分の流速で40分間にわたって精製し、ここで、AはH2O/0.1%TFAであり、BはCH3CN/0.1 TFAである。得られた分画を凍結乾燥して、21.6mgの標題化合物を得る。
【0051】
分析的GPLC:グラジエント、10分間にわたって、10〜40%のB、ここで、AはH2O/0.1%TFAであり、BはCH3CN/0.1 TFAであり;カラム、Phenomenex Luna 3μC18(2) 50×4.6mm;流速、2mL/分;検出、UV214nm;生成物滞留時間、7.0分。マススペクトロメトリー:予想値、M+H1616.5、実測値、1616.3。
【0052】
実施例1は、本発明の方法において使用するためのインテグリンマーカー、ジスルフィド[Cys2-6]チオエーテルシクロ[CH2CO-Lys-Cys2-Arg-Gly-Asp-Cys6-Phe-Cys]-(PEG)-NH2の製造方法を例示する。
【0053】
実施例2
網膜毒性物質を同定するためのアッセイ
RPE-J細胞を、4%ウシ胎児血清(カタログ番号12319018号、Invitrogen, Carlsbad, CA)を含む高グルコースDMEM培地(カタログ番号10313021号、Invitrogen)中、33℃、5〜10%CO2雰囲気下で、平板培養した。約80%のコンフルエンスに達したら(約7日後)、培養皿から培地を除去し、底面上の細胞を0.25%トリプシン−EDTA(カタログ番号25200056号、Invitrogen)で3.5〜5分間洗浄した。トリプシン処理に続き、細胞を500〜600RPMで5分間遠心分離し、そして4%ウシ胎児血清を含む高グルコースDMEM培地に再懸濁した。細胞を4つのチャンバーを有するスライドガラス(チャンバーあたり1.7cm2)に、ひとつのチャンバーあたり50,000細胞で蒔いた。約80%のコンフルエンスに達したら、細胞を温かいリン酸緩衝生理食塩水中でそっと洗浄した。0.01%ウシ血清アルブミン、50nMの実施例1に従って製造したインテグリンマーカーペプチド、ジスルフィド[Cys2-6]チオエーテルシクロ[CH2CO-Lys(フルオレセイン)-Cys2-Arg-Gly-Asp-Cys6-Phe-Cys]-(PEG)-NH2、及び0、1、12.5、若しくは25μMのタモキシフェンを含む高グルコースDMEM培地を、各チャンバーに添加した。37℃で1時間インキュベーション後、培地を除去し、そして細胞を、4%パラホルムアルデヒド(カタログ番号15713号、Electron Microscopy Sciences, Fort Washington, PA)を含むリン酸緩衝生理食塩水の溶液(チャンバーあたり、500μl)で30分間固定し、そしてTOTO(登録商標)−3ヨウ化物(Molecular Probes, Eugene, OR)及び1mg/mlの濃度のRNase(Sigma Aldrich Co., St. Louis, MO)とともに1時間インキュベートした。得られた細胞を、オイルを用いる40倍の対物レンズ(ズーム1.15)でLeica SP Laser Scanning Microscope(Leica Microsystems Inc., Bannockburn, IL)を用いて共焦点画像処理によって可視化した。励起のために使用した波長は、インテグリンマーカーペプチドについては488nm(アルゴンレーザー)及びTOTO(登録商標)−3ヨウ化物については633nm(HeNeレーザー)であった。インテグリンマーカーペプチドについては520nm、TOTO(登録商標)−3ヨウ化物については660nmで蛍光を検出した。
【0054】
実施例2は、インテグリンマーカーによる処置に続いて蛍光レベルを測定して網膜毒性の可能性について被験物質を特徴づけする、本発明の1つの実施態様を例解する。
【0055】
【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】図1は、異なる濃度のタモキシフェンによる処置後のRPE-J細胞のバイアビリティーを、WST-1比色アッセイを用いて、対照の未処置細胞に対するパーセンテージとして示す。各データ点は、測定の標準誤差(SEM)限界も示す。
【図2】図2−5は、インテグリンペプチドマーカー、ジスルフィド[Cys2-6]チオエーテルシクロ[CH2CO-Lys(フルオレセイン)-Cys2-Arg-Gly-Asp-Cys6-Phe-Cys]-(PEG)-NH2、DNA染色剤TOTO(登録商標)−3ヨウ化物及び異なる濃度の網膜毒性物質タモキシフェンで処置した、ラット網膜色素上皮細胞(RPE-J)の共焦点顕微鏡写真である。各図について、左側の顕微鏡写真は、2つの波長、インテグリンマーカーペプチドについての488nm(アルゴンレーザー)及びTOTO(登録商標)−3ヨウ化物についての633nm(HeNeレーザー)を用いて作製した。インテグリンペプチドマーカーは、520nmで蛍光発光し、TOTO(登録商標)−3ヨウ化物は、660nmで蛍光発光する。同じ細胞の右側の顕微鏡写真は、488nmのみでの励起以外は、左側の顕微鏡像と同じである。図2は、タモキシフェンを含まずに処置したRPE-J細胞である。右側の顕微鏡写真に示すとおり、かかる細胞においてはインテグリンペプチドマーカーは検出不可能である。
【図3】図2−5は、インテグリンペプチドマーカー、ジスルフィド[Cys2-6]チオエーテルシクロ[CH2CO-Lys(フルオレセイン)-Cys2-Arg-Gly-Asp-Cys6-Phe-Cys]-(PEG)-NH2、DNA染色剤TOTO(登録商標)−3ヨウ化物及び異なる濃度の網膜毒性物質タモキシフェンで処置した、ラット網膜色素上皮細胞(RPE-J)の共焦点顕微鏡写真である。各図について、左側の顕微鏡写真は、2つの波長、インテグリンマーカーペプチドについての488nm(アルゴンレーザー)及びTOTO(登録商標)−3ヨウ化物についての633nm(HeNeレーザー)を用いて作製した。インテグリンペプチドマーカーは、520nmで蛍光発光し、TOTO(登録商標)−3ヨウ化物は、660nmで蛍光発光する。同じ細胞の右側の顕微鏡写真は、488nmのみでの励起以外は、左側の顕微鏡像と同じである。図3は、1μMのタモキシフェンで処置したRPE-J細胞である。右側の顕微鏡写真に示すとおり、インテグリンペプチドマーカーは、明瞭に可視的である。
【図4】図2−5は、インテグリンペプチドマーカー、ジスルフィド[Cys2-6]チオエーテルシクロ[CH2CO-Lys(フルオレセイン)-Cys2-Arg-Gly-Asp-Cys6-Phe-Cys]-(PEG)-NH2、DNA染色剤TOTO(登録商標)−3ヨウ化物及び異なる濃度の網膜毒性物質タモキシフェンで処置した、ラット網膜色素上皮細胞(RPE-J)の共焦点顕微鏡写真である。各図について、左側の顕微鏡写真は、2つの波長、インテグリンマーカーペプチドについての488nm(アルゴンレーザー)及びTOTO(登録商標)−3ヨウ化物についての633nm(HeNeレーザー)を用いて作製した。インテグリンペプチドマーカーは、520nmで蛍光発光し、TOTO(登録商標)−3ヨウ化物は、660nmで蛍光発光する。同じ細胞の右側の顕微鏡写真は、488nmのみでの励起以外は、左側の顕微鏡像と同じである。図4は、25μMのタモキシフェンで処置したRPE-J細胞である。右側の顕微鏡写真に示すとおり、インテグリンペプチドマーカーは、非常に明瞭に可視的である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験物質を特徴づけする方法であって、以下のステップ:
哺乳動物網膜色素上皮細胞を被験物質で処置し;
前記細胞をインテグリンマーカーで処置し;
前記細胞を、前記インテグリンマーカーの蛍光を生じさせる波長を有する光源に曝露し;そして、
前記インテグリンマーカーによって発光された蛍光を検出する;
を含む、前記方法。
【請求項2】
被験物質を特徴づけする方法であって、以下のステップ:
第一の哺乳動物網膜色素上皮細胞を被験物質で処置し;
前記第一の細胞、及び前記被験物質で処置されていない第二の哺乳動物網膜色素上皮細胞をインテグリンマーカーで処置し;
前記第一の細胞を、前記インテグリンマーカーの蛍光を生じさせる波長を有する光源に曝露し;及び、
その放出された蛍光を検出し;そして、
前記第二の細胞を、前記インテグリンマーカーの蛍光を生じさせる波長を有する光源に曝露し;及び、
その放出された蛍光を検出する;
を含む、前記方法。
【請求項3】
さらに、以下のカテゴリー:
対照細胞に比べて増加した蛍光を被験細胞から放出させる、作用物質;及び
対照細胞に比べて増加した蛍光を被験細胞から放出させない、作用物質;
によって前記被験物質を特徴付けすることを含み、ここで、前記被験細胞が、前記被験物質及び前記インテグリンマーカーで処置されており、そして前記インテグリンマーカーの蛍光を生じさせる波長を有する光源に曝露された哺乳動物網膜色素上皮細胞として定義され、そして、ここで、前記対照細胞が、前記インテグリンマーカーで処置されているが、前記被験物質で処置されておらず、そして、前記インテグリンマーカーの蛍光を生じさせる波長を有する光源に曝露された哺乳動物網膜色素上皮細胞として定義される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記増加した蛍光が統計学的に有意である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記増加した蛍光が少なくとも2倍である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞が、RPE-J細胞及びARPE-19細胞、またはそれらに由来する細胞から選ばれる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記インテグリンマーカーが、ジスルフィド[Cys2-6]チオエーテルシクロ[CH2CO-Lys(フルオレセイン)-Cys2-Arg-Gly-Asp-Cys6-Phe-Cys]-(PEG)-NH2である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記細胞がRPE-J細胞及びARPE-19細胞、またはそれらに由来する細胞から選ばれ、且つ、前記インテグリンマーカーが、ジスルフィド[Cys2-6]チオエーテルシクロ[CH2CO-Lys(フルオレセイン)-Cys2-Arg-Gly-Asp-Cys6-Phe-Cys]-(PEG)-NH2である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
網膜色素上皮細胞由来の細胞、インテグリンマーカー、及び包装材料を含む、キット。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【公表番号】特表2007−517210(P2007−517210A)
【公表日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−546361(P2006−546361)
【出願日】平成16年12月13日(2004.12.13)
【国際出願番号】PCT/IB2004/004136
【国際公開番号】WO2005/066629
【国際公開日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【出願人】(397067152)ファイザー・プロダクツ・インク (504)
【Fターム(参考)】