説明

緑内障の治療

【課題】グルタミン酸塩誘導毒性促進の拮抗物質からなる薬剤を、毒性促進を低減せしめるに有効な量だけヒトの患者に投与する緑内障の治療方法を提供する。
【解決手段】グルタミン酸塩濃度の上昇は、緑内障に関連しており、網膜神経節細胞に対する傷害は、グルタミン酸塩誘発毒性が促進することを抑制することが可能である化合物を、かかる毒性促進を抑制するに有効な濃度において、当該患者に投与することによって、制御することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、緑内障治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
緑内障は、65才以上の人々のほぼ5パーセントまた80才以上の人々の14パーセントが罹患している。緑内障症状から生じる失明は、眼内圧力が増加することによって視神経の傷害が進行しかつその結果網膜の神経節細胞が喪失するためであるとされてきた(Quigley et al., Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 19: 5050,1980)。従って、治療方法は、専ら眼内圧力の管理が中心となっていた。
【0003】
緑内障を治療するために、これまでに多くの化合物が提案されてきた。一般的には、ホーリントン、アメリカ合衆国特許第4,425,346;コムロら、アメリカ合衆国特許第4,396,625;グビンら、アメリカ合衆国特許第5,017,579;ヤマモリら、アメリカ合衆国特許第4,396,625;およびボーダーら、アメリカ合衆国特許第4,158,005を参照のこと。
【0004】
現在のところ、眼内圧力を医学的に制御する方法は、縮瞳薬(例えば、ピロカルピン等)、エピネフリン誘導体(例えば、ジピバロイルエピネフリン等)または局所用ベータ遮断薬(例えば、チモロール等)を局所点眼または経口投与することからなっている。アベルソンのアメリカ合衆国特許第4,981,871によれば、上昇した眼内圧力を治療するために、クラスIの電位依存性Ca++チャンネル遮断剤を使用することが開示されている(具体的には、アベルソンのアメリカ合衆国特許第’4981871号においては、ベラパミールの使用が開示されているが、ベラパミールは血液−脳関門を通過しないしまた網膜神経節細胞に到達しない)。
【0005】
縮瞳薬は、特にレンズの不透明性が存在する場合は患者の視力を低下させる可能性がある。例えばチモロールTM(登録商標)などの局所用ベータ遮断薬は、例えば疲労、錯乱、または喘息等の全身性副作用と関連しており、また局所用ベータ遮断薬を急速に投薬中断した場合、心臓症状の増悪が報告されている。例えば、アセタゾールアミドなどの炭酸脱水酵素阻害剤の経口投与もまた用いてもよいが、これら薬剤は慢性代謝性アシドーシスを含む全身性副作用に関連してる可能性がある。
【0006】
現在の治療方法でも眼内圧力を低下させることが出来ない場合は、通常はレーザー処置またはドレナージ手術(例えば線維柱切除術など)が用いられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明の概要
我々は、緑内障はグルタミン酸塩の濃度の上昇が関連していることを発見した。我々は、更に、緑内障の管理、特に網膜神経節細胞の保護は、グルタミン酸塩誘発毒性を軽減させ得る化合物を、有効な濃度において緑内障患者に投与する。かくしてかかる毒性に起因して生じる網膜神経節細胞の喪失を低下させることによって達成できることを発見した。
【0008】
本発明の基礎となっているもう一つの背景として、グルタミン酸塩介在レセプタの活性化によってCa++が過剰に流入することが、毒性を促進させる根底をなすものと考えられる。このような毒性を促進させることに関与し得るカルシウム透過性イオンチャンネルの種類としては、電位依存性Ca++チャンネル、NMDAレセプタチャンネル複合体およびグルタミン酸塩(即ち興奮性アミノ酸)レセプタと直接結合した他のチャンネルを含めて数種類のものを以下に記載する。このようなチャンネルはにつていは、以下において概説がなされている:「Sommer,B. and Seeburg, P.H. Glutamate receptor channels: novel properties and new clones. Trends Pharmacological Sciences 13:291-296 (1992)」「Nakanishi, S. Molecular Diversity of glutamate receptors and implications for brain function. Science 248: 597-603 (1992).」
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一つの局面は、血液−脳関門および血液−網膜関門を通過する能力を有するグルタミン酸塩誘発毒性促進拮抗物質を非血管新生緑内障、即ち、一般に”血管新生”緑内障と称される病型以外の全ての病型の緑内障−に罹患したヒト患者に投与することを特徴とする。本発明の第二の局面は、L型電位依存性Ca++チャンネルによって媒介されるグルタミン酸塩毒性に対しては重大な直接的影響を与えず、その代わりに下記に詳述するその他の機構によって媒介されるグルタミン酸塩毒性に影響を及ぼす拮抗薬を使用することを特徴とする。我々は、ある化合物が「Karschian and Lipton, J. Physiol. 418: 379-396 (1989)」において記載された一般的な方法または当業者にとって公知であるL型Ca++チャンネルの拮抗薬を測定するその他の方法によってグルタミン酸塩誘導効果を測定する実験において統計的に有意の結果をもたらすならば、L型電位依存性Ca++チャンネルによって媒介されるグルタミン酸塩毒性に対して重大な直接的影響を有すると考えられる(我々は、このようにして測定した直接的影響を、他のチャンネルによって媒介され、その代わり電位依存性Ca++チャンネルを貫流する流れを引き起こす促進毒性の二次的影響と比較する。)。具体的に言えば、本発明のかかる局面は、クラスI電位依存性Ca++チャンネル拮抗物質ではない化合物、例えばフェニルアルキルアミンではない化合物などを使用することを特徴とする。好ましくは、本発明のかかる第二の局面は、N−メチル−D−アスパラギン酸塩(NMDA)レセプターチャンネル複合体の拮抗物質および下記にて詳述するその他のグルタミン酸塩レセプター拮抗物質とを特徴とする。本発明に従ったその他の有用な化合物としては、非NMDAレセプターの拮抗物質−例えばグルタミン酸塩誘発毒性促進の拮抗物質が挙げられるが、この拮抗物質はNMDAレセプターチャンネル複合体を経由して介在された毒性促進(例えば、当業者にとって公知である実験においてNMDAによって惹起される毒性促進)には実質的には影響を及ぼさず、その代わりに他のグルタミン酸塩レセプターを経由して介在される毒性促進に拮抗することによって作動する。また、かかる第二の局面の拮抗物質は、本発明の第一の局面の好ましい態様において使用される。
【0010】
これら二つの局面に従えば、本発明は、原発制緑内障、慢性閉塞隅角緑内障、(水晶体包)偽剥脱、またはその他の亜病型の緑内障または高眼圧症に罹患した患者を治療するために好ましく使用される。好ましくは、かかる薬剤は、投与期間中における患者の眼内圧力の変動に無関係に長期間に亙って(例えば、少なくとも6カ月および好ましくは少なくとも1年間)投与される。
【0011】
本発明のこれら二つの局面において使用される特に好ましい化合物としては、当該NMDAレセプターチャンネル複合体の拮抗物質がある。”NMDAレセプター拮抗物質”なる用語には、以下を含む亜種のNMDA拮抗物質が含まれる。即ち、a)チャンネル遮断物質、非競合的に動作してNMDAレセプターチャンネルを遮断する拮抗物質;b)レセプター拮抗物質−NMDAと競合しNMDA結合部位に作用する拮抗物質;c)グリシン協同作動部位または例えば亜鉛部位、マグネシウム部位、レドックス転形部位またはポリアミン部位等のいくつかの転形部位の全ての何れかにおいて作用する薬剤;d)NMDAレセプター刺激の下流効果を阻害する薬剤、例えばNMDA刺激によるプロテインキナーゼCの活性化を阻害する薬剤、抗酸化剤やホスファチジルイノシトールの代謝を低下させる薬剤等である。
【0012】
本発明において有用であるその他の化合物としては、下記においてさらに詳述する電位依存性カルシウムチャンネル拮抗物質、特に血液−脳および血液−網膜関門を通過しかつ慢性的に投与することができる当該拮抗物質が挙げられる。その他の好ましい薬剤は、非NMDAレセプター(上記にて論じたNMDAレセプター複合体以外のグルタミン酸塩レセプターの種類)の拮抗物質として作用するものであり、イオン作用性のグルタミン酸塩レセプターを遮断するかまたは代謝作用性グルタミン酸塩レセプターと相互作用する薬剤が挙げられる(Nakanishi、上記参照)。その他の好ましい薬剤は、細胞からのグルタミン酸塩の放出を制限する(低下させる)よう作用し、かくして興奮性神経毒性プロセスにおいてグルタミン酸塩レセプターの下流で作用することになる。さらに別の薬剤としては、グルタミン酸塩レセプター刺激により生ずる影響を遮断することによって、即ちグルタミン酸塩が細胞膜グルタミン酸塩レセプター、例えば膜グルタミン酸塩レセプターの刺激を受けた後で細胞内カルシウムの増加を阻害する薬剤(ダントロレン(Dantrolene)のような)などとの相互作用の結果、作用するものであってもよい。
【0013】
最も好ましい化合物は、血液−脳関門または血液−網膜関門を通過するとができる化合物である;これらの化合物は、経口、静脈内または局所的に投与すればよく、血液−脳関門を含め介在する関門を通過して網膜神経節細胞に到達する。血液−脳関門を自由に通過しない化合物はそれ程好ましくはない。しかし、これらの化合物は、硝子体内から網膜に投与すればよい。血液−脳関門を通過することが出来る能力が中程度である化合物である場合は、投与方法は、必要な投薬量やその他の要因に依存して異なる。
【0014】
かかる好ましい化合物としては、アマンタジン誘導体(例えば、メマンチン、アマンタジン、およびリマンタジン)、ニトログリセリン、デクストルファン、デクストロメトルファンおよびCGS−19755が挙げられる。一般的には、表2に挙げた化合物を参照。
【0015】
本発明は、緑内障患者において網膜神経節細胞および視神経からなるこれらの軸策の損傷を低減または防止(要望処置を含む)するために有用である。
本発明のその他の特徴および利点は、本発明の好ましい態様に関する以下の記載およびクレームから明らかとなるであろう。
【0016】
硝子体中のグルタミン酸塩濃度の上昇は、緑内障が媒介した視神経の損傷・傷害に関連していることを明示する詳細な説明を以下にする。我々は、特定の理論に自らを束縛したいと思っているのではない。しかしながら、充分に文書化された文献によって、網膜ニューロンを含めて中枢神経系のニューロンに対してグルタミン酸塩が及ぼす毒性促進効果が確立されているのに鑑みて、本発明の化合物は、グルタミン酸塩誘発毒性促進を遮断・阻害する能力があり、緑内障を治療する上で有用である可能性は高い。また、当業者に対して、網膜神経節細胞の損傷・傷害を低減するかまたは防止するに際してレセプター拮抗物質が有する潜在的効果・効能を測定・決定するために必要な指導手本となる測定法に就いても概略説明する。
【実施例】
【0017】
グルタミン酸塩の硝子体内濃度の検出方法
26人の緑内障患者および非緑内障患者(マサチューセッツ眼・耳診療所の総合眼・緑内障相談部に入院中)から硝子体試料をとり、分析した。試料は、微量遠心機(Microfuge)において4℃で60分間高速で遠心分離した。上清液を直ちに液体窒素で凍結し、アミノ酸濃度の測定を行うまで -80℃で貯蔵した。アミノ酸分析は、マサチューセッツ総合病院の神経化学研究室で行った。分析直前に各試料にサリチル酸を加えた。分析は、以前に詳細に記載したように(Lipton, et al. Neuron, 7:11, 1991)、ベックマンアミノ酸分析装置(6300型)で陽イオン交換により行った。三人の白内障比較対照および三人の緑内障患者から採取した試料について重複分析を、ボストン小児病院のアミノ酸研究室で行った。これらの重複実験の数値は、全ての症例においてマサチューセッツ総合病院の研究室で得られた結果と9%以内で一致した。
【0018】
試料は、診断された緑内障および白内障の患者15人および白内障単独罹患患者11人から採取した。緑内障(原発性隅角開放、慢性閉塞隅角または硝子体包偽剥脱の何れか)罹患患者はそれぞれ、白内障手術前少なくとも1年間は抗緑内障治療を受けていたか、または、眼内圧力制御のためフィルタリング手術を受けたことがある者であった。
【0019】
アミノ酸分析の結果、緑内障および白内障罹患患者においては、白内障罹患比較対照と比較して、グルタミン酸濃度がほぼ二倍増加していることが判明した(図1および表1)。データは、スチューデント(Student)の検定で解析し、p<0.0001で有意であった。グルタミン酸塩は別にして、アミノ酸濃度においてその他統計的に有意の変動は一切、これらの患者においては検出されなかった。これらのデータはさらに、患者年齢、眼の軸長、性、人種、白内障の病型または重症度(術前判断による)、緑内障の病因、または抗緑内障治療の種別によって層別化した。白内障の有無および重症度(術前検査および白内障病型に基づいた)は、比較対照群と緑内障群との間で類似していた。即ち、白内障単独罹患患者群は、近似比較対照群として用いることが可能であった。
【0020】
【表1】

【0021】
これらの患者において検出されたグルタミン酸塩濃度も、診断された疾病の発症からの時間を関数としてプロットし、また白内障単独罹患患者は時間ゼロにおいてプロットした。これらのデータのグラフを図2に示す。描いた直線に対する相関係数は、y=0.702である。即ち、定量した緑内障性硝子体の全てにおいて増大していたが、グルタミン酸塩濃度と緑内障に起因した失明段階との間において直接的な相関関係がある。
【0022】
グルタミン酸塩濃度が増加すると、NMDAによって媒介された活性化によりニューロンが損傷され得る。また、非NMDAレセプターのグルタミン酸塩(またはコンジーナ)による活性化も、網膜神経節細胞喪失の原因になる可能性がある。また仮にNMDA分布が圧倒的であるとしても、非NMDAレセプターのグルタミン酸塩による活性化を制御することは重要となる。一般的には、「Sucher et al. J. Neurosci., 11:966 (1991)」を参照のこと。
【0023】
緑内障性硝子体中において見出された毒性濃度のグルタミン酸塩に関する一つの説明は、かかるグルタミン酸塩は緑内障プロセスによって誘起されたかかる破壊の過程において死滅する細胞から放出される、ということであり(Faden et al. Science, 244:798〜800(1989))、また、緑内障プロセスの眼圧上昇が、細胞に対して外傷性傷害を引き起こしうる。グルタミン酸塩がこのようにして放出された結果、逆にさらなるニューロンの傷害に直接つながる。第二の可能性は、緑内障発症プロセス(恐らくは、細胞体患部にかかる圧力が増大することによって)が、損傷された網膜細胞の透過性が増加につながり、その結果グルタミナーゼの細胞内貯蔵物を暴露されることになる。このことは、グルタミンのグルタミン酸塩への転化を促進させることになろう。しかしながら、生成機構が如何なるものであろうとも、このような神経毒は、緑内障母集団においては増大し、従って、かかる疾病における網膜神経節細胞の破壊とその後の失明に関与することになる。
【0024】
拮抗物質の選択
このような毒性促進が緑内障に関連しているという我々の発見に鑑みて、本発明は、いくつかの特異的な性質を有する拮抗物質を特徴とするのである。即ち、血液−脳関門および血液−網膜関門を通過することが出来る能力および眼内圧力がそれまでに通常の範囲内に制御されていても、慢性的に投与を行うことが出来ること、である。こうしたガイドラインの範囲にあれば、グルタミン酸塩誘発毒性促進の適当な拮抗物質であれば如何なるものでも、本発明に従って使用してもよい。上記のように、好ましい態様においては、グルタミン酸塩レセプターチャンネル複合物のN−メチル−D−アルパラギン酸塩(NMDA)亜種を、網膜神経節細胞および視神経からなるこれらの軸策に対する緑内障関連傷害、ならびにその後の失明を低減しまたはこれを防止するために、使用してもよい。かかるNMDAレセプター拮抗物質の多くは、すでに同定されている(Watkins et al., Trends in Pharmacological Sci. 11:25, 1990、参照として本明細書に含まれる)。NMDAレセプターとしてすでに承認されている以下に記載の亜種が幾つか存在している:即ち、チャンネル遮断物質−つまり非競合的に作動して、NMDAレセプターチャンネルを遮断する拮抗物質;b)レセプター拮抗物質−NMDAと競合して、NMDA結合部位において作用する拮抗物質;c)グリシン補作動部位または例えば亜鉛部位、マグネシウム部位、レドックス転形部位またはポリアミン部位等のいくつかの転形部位の全ての何れかにおいて作用する薬剤;d)NMDAレセプター刺激の下流効果を阻害する薬剤、例えばNMDA刺激によるプロテンキナーゼCの活性化を阻害する薬剤、抗酸化剤やホスファチジルイノシトールの代謝を低下させる薬剤等である。
【0025】
本発明において有用であるその他の化合物を、以下に挙げる。その他のNMDAレセプター拮抗物質、例えばイオン作用性グルタミン酸塩レセプターを遮断するかまたは代謝作用性グルタミン酸塩レセプターと相互作用する薬剤など、電位依存性カルシウムチャンネル拮抗物質(LNTおよびP型チャンネルに対する)(Bean, B.P. Annu. Rev. Physiol. 51:367-384 (1989); Hess, P. Annu. Rev. Neurosci. 13:337-356 (1990))や下記において詳述するもの、およびグルタミン酸塩の放出を低下させ、かくして興奮性神経毒性プロセスの上流において作用する薬剤。
【0026】
下記する表2には、電位依存性カルシウムイオンチャンネルを介して作動しない、種々の適当なNMDAおよび非NMDAレセプターを掲げている。表3〜表5には、電位依存性Ca++チャンネルの拮抗物質が掲げてあるが、これらは、それ自体で本発明の第一の局面に関連して使用することが可能であり、かつまた本発明の第二の局面においてその他の拮抗物質と組合せて使用することもできる。
【0027】
【表2−1】

【表2−2】

【表2−3】

【表2−4】

【表2−5】

【表2−6】

【表2−7】

【表2−8】

【表2−9】

【表2−10】

【表2−11】

【表2−12】

【表3】

【表4】

【表5】

【0028】
インビトロ(in vitro)におけるニューロン細胞死滅測定
拮抗物質は、グルタミン酸塩と一緒にインビトロで培養した網膜神経節細胞におけるニューロン細胞の死滅を測定・モニターすることによって本発明の方法における有用性を試験してもよい。かかる拮抗物質がニューロン細胞死滅を低減させる能力を、グルタミン酸塩と当該薬剤とともに一夜培養した生存細胞を算定することによって測定する。
【0029】
出生後ラットから採取した網膜神経節細胞を同定し、これらの生存力を以下のようにして確認する。全身麻酔下で、蛍光染料の顆粒状青色色素(マクロモレクラーレヘミー、ウムシュタット、FRG)を生理食塩水のほぼ2%(W/V)溶液として、生後4日ないし7日のロングエヴァンスラット(マサチューセッツ州、ウィルミントン、チャールスリーバーラボラトリ)の小丘部に注入する。2日ないし7日後に、これらの動物は頭部を切断により殺して、眼球を摘出し、網膜を素早く切除する。網膜を解離させ、「Lipton et al., J. Physiol., 385:361, (1987)」(但し、硝子体中の濃度である3mM以上の[Ca++]を用いた場合は、NMDAレセプター媒介神経毒性を高めるMg++を除外したことを除く−「Levy et al. Neurology, 40:852-855 (1990); Hahn et al. Proc. Nat'l. Acad. Sci. USA, 85:6556-6560 (1988)」を参照のこと)において記載されているようにイーグル最小必須培地(MEM、カタログ番号1090、ニューヨーク州 グランドアイランド ギブコ社)に0.7%(w/v)のメチルセルロース、2mMのグルタミン、1μg/mlゲンタマイシン、16mMデキストロースおよび5%(v/v)ラット血清となるように添加したもので培養する。これらの細胞を35mm組織培養皿中、ポリ−L−リジンでコートした75mmのガラス製カバーにて平板培養する。次いで、グルタミン酸塩を添加する。同胞培養細胞には、グルタミン存在下(例えば25μM)または非存在下、種々の量のNMDAレセプターチャンネル複合体拮抗物質または非NMDA拮抗物質を、加える。
【0030】
生存細胞は、5%CO/95%空気の下、37℃で1日培養してから測定される。神経節細胞は、蛍光ブルー色素が長時間存在することによって確実に同定することが出来る。網膜神経節細胞が蛍光ジアセテートを取り込み、かつこれを分解し、蛍光を解離する能力は、上記したハーンら(Hahn et al.)の引用文献において詳細に記述されたように、これら細胞の生存性の指標となる。色素の取り込みおよびその開裂は、パッチ電極で測定した正常な電気生理学的性質と相関関係を有する。
【0031】
このような生存性試験を行うために、15ないし45秒間、細胞培養培地を、0.0005%フルオレシンジアセテートを含む生理食塩水に取り替えて、次いで細胞を生理食塩水中で洗浄する。フルオレシン染料を含有しない(従って、生存していない)網膜神経節細胞は、位相差光学系および紫外線蛍光光学系の双方において目視可能である。なお、後者はマーカー染料である顆粒青色色素が継続して存在するため、目視可能である。その他の死滅した神経節細胞は、崩壊・分解し、残屑のみが残存する。これとは逆に、生存能力のある網膜神経節細胞は、紫外線照射下で青色を示すだけでなく、フルオレシンに適合したフィルターを用いた場合、黄−緑色の蛍光を示す。即ち、二つの交換可能な蛍光フィルターセットを使用すると、培養液中の生存神経節細胞の数を迅速に測定することが出来るが、生存神経節細胞は、単独ニューロンとしてか、または小さな集落中でその他の細胞とともにその中に含まれて(通常は、単独対集落がほぼ1:10の割合で)存在している。次いで、一元配置分散分析と次いでシェッフェの平均値多重比較を行うことからなる統計解析を行って、グルタミン酸塩毒性促進を防止する上でNMDA拮抗物質および/または非NMDA拮抗物質等の薬剤の有効性を決定する。
【0032】
用法
有効なレセプター拮抗物質は、緑内障に関連した網膜神経節細胞の損傷・傷害または死滅を低減させる。上記したように、血液−脳関門および血液網膜関門を通過する好適な化合物は、好ましくは、錠剤、液体賦形剤や懸濁液を含む公知の生理学的に受容可能な賦形剤中において局所的にまたは経口で投与される。当該技術分野に通暁した当業者は、許容可能な治療薬を処方する方法を理解するであろう。
【0033】
拮抗物質は、当該技術分野で公知である医薬化合物を用いて配合調剤して製剤とすればよい;このような拮抗物質化合物の正確な処方や用量は、投与方法に依存して異なる。一般的に、かかる拮抗物質の一日当たりの有効投与量は、0.01から1000mg/kgまでである。
【0034】
その他の態様
その他の態様は、以下に記載するクレームの範囲に含まれる。例えば、本発明の方法は、その他の治療方法、例えば本明細書において記載したような眼内圧力を低下させるよう意図される方法等と組合せて、緑内障に関連した網膜神経節細胞傷害を治療する目的として用いることができる。本発明の方法において、有用な化合物は、軸索が視神経からなる網膜神経節細胞に、かかる化合物を侵入させるような手段であれば如何なる手段によっても投与することができる。本発明において有用な化合物としては、緑内障が介在した細胞外グルタミン酸塩濃度の上昇による網膜神経節細胞のニューロン傷害を低減させるように作用するか、またはグルタミン酸塩のNMDAレセプターへの結合を低下させる興奮性アミノ酸レセプター(NMDAおよび非NMDA亜型の双方)の拮抗物質が挙げられる。このような拮抗物質は、転形部位または協同作動部位において作用することによって、またはレセプターの活性化によって開始される一連の事象を遮断することによって、細胞の死滅を阻止するよう作用することが可能である。
その他の態様は、以下に記載するクレームの範囲に含まれる。
【0035】
好ましい態様の記載
図面について先ず簡単に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は、比較対照の硝子体と比較した緑内障患者硝子体中の正規化したアミノ酸濃度の棒グラフである。
【図2】図2は、緑内障患者硝子体中のグルタミン酸塩のアミノ酸濃度を緑内障罹患年数に対してプロットしたグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非血管新生型の緑内障に関連した網膜神経節細胞の傷害・損傷からヒト患者を保護する方法であって、前記方法が、グルタミン酸塩誘導毒性促進の拮抗物質からなる薬剤を前記毒性促進を低減せしめるに有効な量だけヒトの患者に投与することからなり、前記拮抗物質が血液脳関門および血液網膜関門を通過することが可能であることを特徴とする方法。
【請求項2】
ヒト患者において緑内障に関連した傷害・損傷から網膜神経節細胞を保護する方法であって、前記方法が、グルタミン酸塩誘導毒性促進の拮抗物質からなる薬剤を前記毒性促進を低減せしめるに有効な量だけヒトの患者に投与するに際して、前記拮抗物質が、L型電位依存性Ca++チャンネルに対する直接的な影響が実質的に存在しないことを特徴とする方法。
【請求項3】
非血管新生型の緑内障に関連した網膜神経節細胞の傷害・損傷からヒト患者を保護するための薬剤を製造する方法において、前記薬剤が、グルタミン酸塩誘導毒性促進の拮抗物質を前記毒性促進を低減せしめるに有効な量だけ含有し、なお前記拮抗物質が血液脳関門および血液網膜関門を通過することが可能であることを特徴とする方法。
【請求項4】
ヒト患者において緑内障に関連した傷害・損傷から網膜神経節細胞を保護ための薬剤を製造する方法において、前記薬剤が、グルタミン酸塩誘導毒性促進の拮抗物質からなる薬剤を前記毒性促進を低減せしめるに有効な量だけ含有し、前記拮抗物質が、L型電位依存性Ca++チャンネルに対する直接的な影響が実質的に存在しないことを特徴とする方法。
【請求項5】
前記拮抗物質が血液−脳関門および血液−網膜関門を通過することが可能である、請求項2または請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記緑内障が慢性閉塞隅角緑内障である、請求項1から4のいずれか記載の方法。
【請求項7】
前記緑内障が原発性開放隅角緑内障である、請求項1から4のいずれか記載の方法。
【請求項8】
前記緑内障が偽剥脱性緑内障である、請求項1から4に記載の方法。
【請求項9】
請求項2または請求項4に記載の方法において、前記拮抗物質が血液−脳関門および血液−網膜関門を通過することが可能である方法。
【請求項10】
請求項1から4のいずれかに記載の方法において、前記薬剤が前記患者に対して局所的に投与される方法。
【請求項11】
請求項1から4のいずれかに記載の方法において、前記薬剤が前記患者に対して経口によって投与される方法。
【請求項12】
請求項1から4のいずれかに記載の方法において、前記薬剤が前記患者の硝子体内に投与される方法。
【請求項13】
前記拮抗物質がNMDAレセプターチャンネル複合体の拮抗物質である、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記拮抗物質が、NMDAレセプターチャンネル複合体を介して作動しないグルタミン酸塩誘発毒性促進の拮抗物質である、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記拮抗物質が表2に掲げられた拮抗物質である、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記薬剤が慢性的に投与される、請求項1から4のいずれか記載の方法。
【請求項17】
表2に掲げられたグルタミン酸塩誘発毒性促進の拮抗物質が、表3、表4または表5に掲げられたグルタミン酸塩毒性促進の拮抗物質と組合せて用いられる、請求項1から2のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記薬剤がさらに、表2に掲げられたグルタミン酸塩毒性促進の拮抗物質に、表3、表4または表5に掲げられたグルタミン酸塩毒性促進の拮抗物質を組合せてなるものである、請求項3から4のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
グルタミン酸塩毒性促進の前記拮抗物質が表2に掲げられた化合物である、請求項7に記載の方法。
【請求項20】
グルタミン酸塩毒性促進の前記拮抗物質が表2に掲げられた化合物である、請求項8に記載の方法。
【請求項21】
グルタミン酸塩毒性促進の前記拮抗物質が表2に掲げられた化合物である、請求項9に記載の方法。
【請求項22】
グルタミン酸塩毒性促進の前記拮抗物質が、細胞からのグルタミン酸塩の放出を制限する化合物である、請求項1から4項のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
グルタミン酸塩毒性促進の前記拮抗物質が、グルタミン酸塩と細胞膜のグルタミン酸塩レセプターとの相互作用の結果生ずる細胞内神経毒性を阻害する化合物である、請求項1から4項のいずれかに記載の方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液脳関門および血液網膜関門を通過することが可能なグルタミン酸塩誘導毒性促進の拮抗物質からなる、非血管新生型の緑内障に関連した網膜神経節細胞の傷害・損傷の治療、予防または保護用薬剤
【請求項2】
L型電位依存性Ca++チャンネルに対する直接的な影響が実質的に存在しないことを特徴とするグルタミン酸塩誘導毒性促進の拮抗物質である、緑内障に関連した傷害・損傷における網膜神経節細胞の治療、予防または保護用薬剤
【請求項3】
前記拮抗物質が血液−脳関門および血液−網膜関門を通過することが可能である、請求項2の薬剤。
【請求項4】
前記緑内障が慢性閉塞隅角緑内障である、請求項1または2に記載の薬剤
【請求項5】
前記緑内障が原発性開放隅角緑内障である、請求項1または2に記載の薬剤
【請求項6】
前記緑内障が偽剥脱性緑内障である、請求項1または2に記載の薬剤
【請求項7】
前記薬剤が前記患者に対して局所的に投与される、請求項1または2に記載の薬剤
【請求項8】
前記薬剤が前記患者に対して経口によって投与される、請求項1または2に記載の薬剤
【請求項9】
前記薬剤が前記患者の硝子体内に投与される請求項1または2に記載の薬剤
【請求項10】
前記拮抗物質がNMDAレセプターチャンネル複合体の拮抗物質である、請求項1または2に記載の薬剤
【請求項11】
前記拮抗物質が、NMDAレセプターチャンネル複合体を介して作動しないグルタミン酸塩誘発毒性促進の拮抗物質である、請求項1または2に記載の薬剤
【請求項12】
前記拮抗物質が表2に掲げられた拮抗物質である、請求項1または2に記載の薬剤
【請求項13】
前記薬剤が慢性的に投与される、請求項1または2に記載の薬剤
【請求項14】
前記薬剤がさらに、表2に掲げられたグルタミン酸塩毒性促進の拮抗物質に、表3、表4または表5に掲げられたグルタミン酸塩毒性促進の拮抗物質を組合せてなるものである、請求項1または2のいずれかに記載の薬剤。
【請求項15】
グルタミン酸塩毒性促進の前記拮抗物質が表2に掲げられた化合物である、請求項に記載の薬剤
【請求項16】
グルタミン酸塩毒性促進の前記拮抗物質が表2に掲げられた化合物である、請求項に記載の薬剤
【請求項17】
グルタミン酸塩毒性促進の前記拮抗物質が表2に掲げられた化合物である、請求項に記載の薬剤
【請求項18】
グルタミン酸塩毒性促進の前記拮抗物質が、細胞からのグルタミン酸塩の放出を制限する化合物である、請求項1または2のいずれかに記載の薬剤
【請求項19】
グルタミン酸塩毒性促進の前記拮抗物質が、グルタミン酸塩と細胞膜のグルタミン酸塩レセプターとの相互作用の結果生ずる細胞内神経毒性を阻害する化合物である、請求項1または2のいずれかに記載の薬剤
【請求項20】
請求項1から19のいずれかに記載の薬剤を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−70039(P2006−70039A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−291838(P2005−291838)
【出願日】平成17年10月5日(2005.10.5)
【分割の表示】特願平6−514315の分割
【原出願日】平成5年12月6日(1993.12.6)
【出願人】(596114853)マサチューセッツ・アイ・アンド・イア・インファーマリー (11)
【出願人】(505242884)ザ チルドレンズメディカルセンター コーポレーション (3)
【Fターム(参考)】