説明

緑色柑橘類の脱緑防止方法

【課題】
緑色香酸柑橘類等の緑色柑橘類の果皮の脱緑化を防止し、果皮色を重視する緑色柑橘類の商品価値の長期維持を可能にすること。
【解決手段】
緑色柑橘類の脱緑防止方法であって、前記緑色柑橘類が低温障害を起こさないような低温領域での冷蔵保存期間中、白色LEDの光を連続的に照射する。前記低温領域は3〜8℃、前記白色LEDの光の連続的照射の照度は100〜300Luxでよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緑色香酸柑橘類等の緑色柑橘類の果皮の脱緑化を防止し、果皮色を重視する緑色柑橘類の商品価値の長期維持を可能にする緑色柑橘類の脱緑防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1には、いわゆる葉物野菜の高鮮度保持のために、10℃〜0℃以下の食品の未凍結温度帯を含む低温領域での温度制御とLED照射とを組み合わせて行い、LED照射として赤色LED又は青色LEDを照射する方法が提示されている。そして、LED照射の光度は、概ね0.1mcd〜10,000mcdが好適であるとしている。そして、葉物野菜であることからか、9日間以下の期間での実験を行っている。
【0003】
また、非特許文献1には、緑色植物体の弱光照射CA(Control LED Atmosphere)貯蔵に関して、赤色LED弱光照射及び養液ゲルの利用を試みた点が開示されている。そして、緑色植物体としては、生食用ハーブの中では収穫後の品質劣化が著しく早いチャービル(ニンジン葉のような形態)、トマト接ぎ木セル成型苗を用いた点が記載されている。さらに、赤色・青色光混合照射についても研究中だが、青色光を混合すると光補償点(光合成速度が0になるような光強度)が低下するとしている。
【0004】
また、特許文献2には、緑色葉菜類の低温貯蔵を目的とした保冷庫において、庫内が密閉されているときに白色蛍光灯を用いて弱光照射を行う点が開示されている。そこでは、光合成有効光量子束密度(PPFD)が1μmol・m−2・s−1以上10μmol・m−2・s−1以下の弱光照射下で1℃〜10℃という低温貯蔵すると、緑色葉菜類としてのカイワレダイコンのクロロフィル濃度の低下を低減でき、緑色葉菜類の品質が保持できるとしている。なお、実験は17日間である。
【0005】
また、予措中のスダチの果実に遠赤外線を照射し、スダチの果皮を適度に加熱することで、その後の貯蔵中の低温による呼吸代謝の異常が原因で起こるとみられる呼吸量の増加を抑制することで果皮障害の発生の抑制を図ったスダチの鮮度保持方法が特許文献3に記載されている。そして、ヒーター温度が500℃、ヒーターからスダチまでの距離38cm、遠赤外線処理時間12分、果実表面が50℃の条件下での遠赤外線処理を行うのが望ましいとしている。
【特許文献1】特開2001−61459号公報
【非特許文献1】「生物環境調節」、Vol.42、No.4、pp.353〜356、2004年
【特許文献2】特開平9−28363号公報
【特許文献3】特開平6−90659号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の如く、従来は、主として緑色葉菜類について半月程度の鮮度保持が図られているだけであった。そして、緑色柑橘類の脱緑防止については、上記特許文献3にみるようにスダチの果皮を50℃にまで加熱するものであり、緑色柑橘類の品質を考慮すると充分とはいえないものであった。
一方、山口県特産品の緑色香酸柑橘類、長門ユズキチは、ミカン科に属する柑橘類であり、スダチやカボスより早く8月中旬から収穫され、その搾汁はポン酢、酢味噌、ドレッシングとして利用されている。長門ユズキチは、年末年始(正月)用のふぐ刺の薬味としての商品価値が期待されているが、長期保存すると果皮色が緑色から黄色へと変色し、長期保存時の商品価値(果皮色の緑色保持)が維持できないという課題があり、脱緑防止方法の開発が期待されていた。
【0007】
そこで、本発明の目的は、従来方法、例えば単に0〜10℃の温度下に保存する場合、脱緑防止には1〜2ヶ月保存が限界であったものを、3ヶ月以上は果皮の脱緑化を防止できる脱緑防止方法、及び脱緑防止用の保冷庫を提供し、果皮色を重視する緑色柑橘類の脱緑防止が図れ、商品価値の長期維持を可能ならしめることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するため本発明は次のように構成する。
【0009】
請求項1に係る発明は、緑色柑橘類の脱緑防止方法であって、前記緑色柑橘類が低温障害を起こさないような低温領域での冷蔵保存期間中、白色LEDの光を連続的に照射することを特徴とする緑色柑橘類の脱緑防止方法である。
請求項2に係る発明は、前記低温領域は3〜8℃であり、前記白色LEDの光の連続的照射の照度は100〜300Luxであることを特徴とする請求項1記載の緑色柑橘類の脱緑防止方法である。
また、請求項3に係る発明は、前記白色LEDの光の前記連続的照射は、冷蔵保存中の緑色柑橘類の全面に対して照射されることを特徴とする請求項1または2記載の緑色柑橘類の脱緑防止方法である。
請求項4に係る発明は、前記白色LEDは青色励起白色LEDであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の緑色柑橘類の脱緑防止方法である。
さらに、請求項5に係る発明は、請求項1ないし請求項4のいずれか1項記載の脱緑防止方法を実施する保冷庫であって、温度制御が可能な前記保冷庫と、前記保冷庫の適宜の位置に設置された白色LEDの光を連続的に照射可能な白色LED照射装置とを具備することを特徴とする保冷庫である。
【発明の効果】
【0010】
果皮色を重視する緑色柑橘類の脱緑防止が図れ、従来技術では商品価値を保つために脱緑防止に関して2ヶ月保存が限界であったものを、3ヶ月以上は果皮の脱緑化を防止でき商品価値の長期貯蔵が可能となった。また、本発明では白色LEDを使用しているので、白色蛍光灯の使用に比して、緑色柑橘類の全面に光を照射する際にも取り扱いが容易であると共に温度上昇が少なく省エネにも資する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態としての実施例を添付の図面に基づいて説明する。
【0012】
長門ユズキチを、乾燥予措後(果実を輸送・貯蔵する前に、果皮の呼吸を抑えるため、あらかじめ果皮を少し乾燥させる措置をすること)、3〜8℃で貯蔵中に、青色励起白色LEDの光を照度100〜300Lux(弱光に相当)で照射しながら保存するものである。
なお、LEDとは発光ダイオードを意味する。
また、本発明の実施例で用いられる白色LEDは、JIS Z8701 XYZ表色系の色座標においてX,Y軸共に0.3付近を中心とする光であって、所謂太陽光に近似した光を出す発光器の総称である。
【0013】
収穫された長門ユズキチを乾燥予措後、低密度ポリエチレン袋に約200g(4果程度)ずつ詰め、入り口を折りたたみ(非密封状態)、図1に示すように、多数の棚で仕切られた保冷庫内に貯蔵した。長門ユズキチを低密度ポリエチレン袋に詰め非密封状態にしたのは、果実の呼吸抑制のために袋内を適度な環境ガス(酸素および炭酸ガス)濃度に調整し、さらに果実からの水分蒸散を
抑制するためである。
【0014】
保冷庫の周面及び全ての棚には、青色励起白色LEDが布設されており、貯蔵中の全ての長門ユズキチの全面に青色励起白色LEDが照射されるようになっている。
【0015】
なお、棚に青色励起白色LEDを設ける際には、アクリル板等の透明な棚板に設置したものが用いられる。棚板は光が透過する事が可能な反射板としてもよい。また、青色励起白色LEDが布設された網状体を、袋詰めされた長門ユズキチの間に挿入する形態とすることもできる。さらには、ひも状に白色LEDを連結し、これを貯蔵中の長門ユズキチの間に配設しても良い。
【0016】
また、水平面内を循環するコンベア上に長門ユズキチを貯蔵し、上・下面から青色励起白色LEDの光を照射することで、貯蔵中の全ての長門ユズキチの全面に青色励起白色LEDの光が照射されるようにしても良い。
【0017】
図2には、8月収穫及び9月収穫の長門ユズキチのそれぞれについて、4℃での温度制御のみ、及び4℃の温度制御中青色励起白色LED(照度217Lux)の光を照射し続けたものの果皮色の変化を対比して示した。各月のものにおいて、左2列が単に4℃での温度制御のみの果実、右2列が4℃の温度制御中青色励起白色LEDの光を照射し続けた果実である。8月収穫の長門ユズキチについては、貯蔵から36日、63日、91日経過後の対比である。また、9月収穫の長門ユズキチについては、貯蔵から28日、63日、84日経過後の対比である。
【0018】
図2から明らかなように、8月収穫及び9月収穫の長門ユズキチは、共に貯蔵63日、即ち2ヶ月程度の経過後には、単に冷蔵保存したものでは、果皮色が緑色から黄色へと変色し始めている。しかし、冷蔵保存と同時に青色励起白色LEDの光を照射し続けたものでは、果皮の緑色が保たれている。更に約1ヶ月経過した時点では、単に冷蔵保存したものでは、果皮色が緑色から黄色へと完全に変色している。しかし、冷蔵保存と同時に青色励起白色LEDの光を照射し続けたものでは、依然として果皮の緑色が保たれている。
【0019】
図2にみる果皮色の変化の程度をグラフとして図3に示した。図3において、その左側には8月収穫の長門ユズキチについて、及びその右側には9月収穫の長門ユズキチについて、それぞれ、貯蔵日数と表面色の関係を示した。縦軸の表面色は、色相角度(Hue angle)で示され、横軸の貯蔵日数に対応する表面色の変化が見てとれる。なお,色相角度180°が青緑,90°が黄色を示し,収穫当日の緑色果の色相角度は125〜130°である。
【0020】
なお、図3のグラフにおいて、◆印(Control)は単に4℃の温度制御のみで保存したもの、■印(LED)は4℃の温度制御と同時に青色励起白色LEDの光を照度平均217Luxで連続的に照射しながら保存したものである。また、このときの光合成有効光量子束密度(PPFD)は3.24μmol・m−2・s−1である。
【0021】
図3のグラフから解るように、8月収穫の長門ユズキチについてみると、表面の色相角度が130°程度のものが貯蔵日数の経過とともに色相角度が低下し始める。30日(1ヶ月)経過後までは、単に4℃の温度制御のみで保存したものと、4℃の温度制御と同時に青色励起白色LEDの光を照射したものとの間に、表面色についてさほど差は認められない。しかしその後、両者の間に表面色の差が明確になってくる。そして、商品価値のある表面色は色相角度115°程度以上であり、単に4℃の温度制御のみで保存した場合、約60日経過時点が限度である。60日を過ぎると、果皮は急速に黄色に変化する。一方、4℃の温度制御と同時に青色励起白色LEDの光を連続的に照射したものは約90日(3ヶ月)経過時点まで、商品価値のある緑色が保たれている。
【0022】
さらに、9月収穫の長門ユズキチについてみると、8月収穫のものに比して収穫当日の熟度が進行し、単に4℃の温度制御のみで保存した場合、60日経過時点で果皮の黄化が8月収穫のものよりも若干進んでいる。そして、その後、果皮は急速に黄色に変化する。一方、4℃の温度制御と同時に青色励起白色LEDの光を連続的に照射したものは、8月収穫のものと同様に略90日(3ヶ月)経過時点まで、商品価値のある緑色が保たれている。
【0023】
上記では、貯蔵温度4℃、白色LEDの照射照度217Luxでの実験例を示したが、貯蔵温度は3℃〜8℃でよい。貯蔵温度が3℃以下の低温になると、長門ユズキチは低温障害である陥没・褐変を起こし、商品価値が著しく低下する。さらに、白色LEDの照射照度は100〜300Lux(弱光に相当)でよい。
【0024】
因みに、低温障害は、バナナをはじめとして熱帯・亜熱帯原産の青果物に発生する。
また、緑色柑橘類としては、ミカン科に属する長門ユズキチ、スダチ、カボス、ライム、果皮に緑色が残った極早生温州ミカン等が含まれる。
【0025】
また、白色LEDとして近紫外励起白色LEDを用いても良い。
また、白色LEDの連続的照射とは、実質的に連続的に照射されればよいのであって、全照射時間中、断続的に照射されない時間があってもよい。
さらに、白色LEDの光の連続的照射に代えて、白色LEDの光をPWM制御によって間歇照射することも考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の保冷庫に長門ユズキチを保存している状態を示す図である。
【図2】貯蔵日数の差異による長門ユズキチの果皮の色の変化を示す図である。
【図3】貯蔵された長門ユズキチ果実のLED処理による脱緑抑制を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
緑色柑橘類の脱緑防止方法であって、前記緑色柑橘類が低温障害を起こさないような低温領域での冷蔵保存期間中、白色LEDの光を連続的に照射することを特徴とする緑色柑橘類の脱緑防止方法。
【請求項2】
前記低温領域は3〜8℃であり、前記白色LEDの光の連続的照射の照度は100〜300Luxであることを特徴とする請求項1記載の緑色柑橘類の脱緑防止方法。
【請求項3】
前記白色LEDの光の前記連続的照射は、冷蔵保存中の緑色柑橘類の全面に対して照射されることを特徴とする請求項1または2記載の緑色柑橘類の脱緑防止方法。
【請求項4】
前記白色LEDは青色励起白色LEDであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の緑色柑橘類の脱緑防止方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項記載の脱緑防止方法を実施する保冷庫であって、温度制御が可能な前記保冷庫と、前記保冷庫の適宜の位置に設置された白色LEDの光を連続的に照射可能な白色LED照射装置とを具備することを特徴とする保冷庫。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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