説明

緑青で銅を覆う方法

銅または銅合金を含む物品に緑青を生じさせる方法が記載されている。緑青化する物品は、好ましくは銅イオンおよび亜鉛イオンを含む、好ましくは緑青水溶液で処理され、その後熟成工程に供される。これは、特に温度および湿度調整室で実施される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅または銅合金を含む物品上に緑青を製造する方法およびこの方法に使用する緑青溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
銅部品が、長期間、風化作用に曝されるときにその表面上に、就中、保護機能を有する緑色を帯びた層が形成されることが一般に知られている。この層は、銅緑青と言われている。我々の許容範囲では、銅表面が、全て緑色層で覆われるのに通常10〜15年を要する。銅表面に自然の緑青を模倣しまたは容易に製造する目的で、この長期間を短くする種々の方法が過去に開発されてきた。
【0003】
かくして、例えば米国特許第3,497,401号公報は、緑青を製造する方法および反応溶液を開示している。ここでは、銅部品が、室温で塩素酸カリウムおよび硫酸銅を含む酸性の水溶液中に浸漬される。米国特許第5,160,381号公報も、銅物品上に緑青を製造する方法を記載している。そこに記載されている多段の方法では、緑青を生じさせる銅部品は、清浄後、銅、ナトリウム、酢酸エステル、塩化物、硫酸塩、H+およびOH-イオンを含む水溶液で処理される。注意深い清浄および乾燥の後、銅の部品は、第2の工程段階で、炭酸銅、塩化アンモニウム、酢酸銅、三酸化砒素、硝酸銅、および塩酸の水溶液で処理される。欧州特許公開公報第0943701号も、再び銅塩水溶液を用いた銅物品の処理による緑青の製造に関する。この方法は、特に予め酸化された銅表面に適切である。
【0004】
しかしながら、公知の方法は、多数の不都合を有する。この様に、有毒、かつ健康に有害である成分、例えば上述の三酸化砒素が、いくつかの公知の緑青溶液の調製に使用される。環境保護の理由によりおよび健康のために、かかる構成物質の使用を避けることが望ましい。他の方法は、応用を限定している。かくして、いくつかの方法は、それらが緑青化する銅部品の予めの酸化を必要とするために、未処理の銅表面の緑青化には、一般に十分にふさわしくない。
【0005】
質的特性に関しても、光学的側面に関しておよび機械的側面に関して、多くの合成上製造された緑青層は、欠陥を示す。それらは、度々不満足な接着性を有し、換言すれば、人工の保護層は、軽い機械的応力下でさえはげ落ちるのである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、先行技術の不都合を回避し、示された問題のできるだけ多くを解決する方法を提供することが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、請求項1の特徴を有する方法によって達成される。この方法の好ましい態様は、従属請求項2〜20に記載されている。さらに、本発明は、請求項21の特徴を有する新規な緑青溶液およびこれに従属する請求項22〜24を包含する。ここで全ての請求項の表現は、本記述中に参照することにより組み込まれている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の方法に於いて、銅または銅合金を含む物品は、好ましくは銅イオンを含む緑青水溶液で処理され、次いで熟成工程に供される。
【0009】
熟成工程は、大気湿度および温度の選択を含む、個々の熟成段階からなる。温度および大気湿度の二つのパラメーターの設定および制御は、特に、この目的のために提供される温度および湿度調整室で容易に実施され得る。
【0010】
熟成段階の好ましい順序は、次の通りに要約され得る。即ち、緑青溶液での物品の処理、特に緑青化する物品に対する緑青溶液の塗布に続いて、物品を、第1休止時間の間、第1休止温度および第1休止大気湿度で休止させる。次に、物品が、洗浄時間の間、少なくとも1度、洗浄温度および洗浄大気湿度で洗浄され、続いて再び物品を、第2休止時間の間、第2休止温度および第2休止大気湿度で休止させる。
【0011】
第1休止段階の間、特に温度および湿度調整室に於ける温度は、好ましくは20℃〜70℃、特に25℃〜55℃、の範囲にある(第1休止温度)。大気湿度は、好ましくは30%〜90%、特に40%〜50%、の範囲にある(第1休止湿度)。第1休止期に示されたこれらの温度および大気湿度の好ましい範囲は、本質的に第2休止温度および第2休止大気湿度の好ましい範囲と一致する。
【0012】
洗浄段階の間、温度および湿度調整室に於ける温度は、好ましくは20℃〜70℃、特に25℃〜55℃、の範囲にある。洗浄段階の間の大気湿度は、好ましくは30%〜95%の範囲、特に65%〜80%、の範囲に維持される。洗浄は、通常、処理された物品に水を吹き付けることによって行われる。この段階は、好ましくは90分〜2時間の間隔で、4〜5回繰り返される。
【0013】
第1休止時間は、1週間以下であり得、好ましくは2〜3日の期間であり得る。同じことが、第2休止時間にも該当する。洗浄時間は、通常1日以下であるが、5〜10時間の様に短時間であり得る。
【0014】
上述の様に、使用される緑青溶液は、銅イオンを含む溶液であるが、その好ましい組成は、より詳細には以下に記されよう。さらに、緑青溶液の塗布の前に、緑青化する物品が清浄化され、および/または粗面化された表面を有することが特に好ましいことが強調されよう。表面に存在するいかなるグリースまたは油の残渣、および他の汚染物は、形成される緑青の接着に逆効果を有し得る。これは、特に、化学的脱脂および/または緑青化する表面の壊れたガラス球を用いた吹き付けによって抑えられる。代わりに、例えば偏心研摩機またはベルト研摩機を使用することも可能である。
【0015】
緑青化する物品は、示されたタイプの随意の前処理の後に適切であれば、好ましくは先述の温度および湿度調整室に移動させることによって、熟成工程に供される。絶対に必要ではないが、緑青溶液の塗布がその室で行なわれることが好ましい。
【0016】
緑青溶液は、好ましくは細かく分割された形態で塗布され、特に好ましくは吹き付けられる。温度(好ましくは温度および湿度調整室に於ける)は、この塗布の間、30℃〜70℃、特に40℃〜55℃、の範囲にある。緑青溶液は、通常少なくとも2、好ましくは4または5、の処理段階で、特に約1時間の間隔で塗布される。
【0017】
銅塩水溶液での本質的に単一のまたは多数の処理およびその後の空気乾燥段階からなる、銅部品を緑青化する古典的な方法に比べて、特に温度および湿度調整室に於ける熟成工程の使用は、特に生成される緑青の美感および品質に関して、大きな利点を与えることが意外にも見出された。形成された緑青は、均一かつ強い色の印象を与える。
【0018】
新たに生成された緑青の表面の後処理は、随意に実施され得る。表面を明化(lightening)または暗化(darkening)ことが可能である。密封化されない緑青は自然の天候の影響下で時々さらに反応し得るため、適切であれば、表面が密封化もされ得る。
【0019】
示された方法は、好ましくは銅の板状材料、細長い材料、または屋根板の緑青化に提供される。しかし、それは原理的に、銅または銅合金を含む全ての形状部品または物品にも適用され得る。軒樋などの形状部品の部分的な緑青化も可能である。かくて、例えば軒樋の場合には、溶着金属の帯の領域は、強く緑青化され得るのに対し、水路の外側は単に酸化されるのみである。これは、銅部品が大気の影響下に、数年または数十年曝されたという視覚上の印象を与える結果となる。その様な効果は、新建築物の視覚上の構築に度々使用されるが、特に、比較的に古い指定建造物の修復または修繕に於いて、総合的な歴史的印象を得るために使用される。
【0020】
本発明の方法により生成された緑青が有するさらなる特徴は、機械的応力に対する耐性および優れた接着性である。
【0021】
これらの好ましい性質は、好んで使用され、同様に本発明の主題である緑青溶液の故とも考えられる。それは、銅塩、好ましくは硝酸銅が、20重量%以下の割合、特に3重量%〜5重量%の割合で存在する水溶液からなる。亜鉛塩、特に塩化亜鉛が、好ましくは0.1重量%〜5重量%の割合、特に0.2重量%〜1重量%の割合で、さらに溶液中に存在することが好ましい。さらに、溶液は、種々の塩化物および炭酸塩の添加物、特に塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、および炭酸アンモニウムを含み得る。緑青溶液のpHは、好ましくは、塩基性の範囲、特にpH7〜10の僅かに塩基性の範囲である。
【0022】
本発明の緑青溶液中に存在する成分の中で、亜鉛塩は、特に強調することが望まれる。亜鉛塩の添加は、形成される緑青の接着性に明確な効果を有する。その上、かかる添加は、明緑色の外観を生じる。
【0023】
最後に、本発明は、銅または銅合金自身を含む緑青物品を包含する(請求項25、および26およびその従属請求項27および28)。熟成工程の終結後、物品は、銅イオン、および好ましくは亜鉛イオンをも、含む緑色−トルコ石色の緑青溶液で塗布される。緑青は、通常0.02〜0.06mm、特に0.03〜0.05mm、の厚さを有する。
【0024】
本発明のさらなる特徴は、従属請求項と関連して、次の実施例から導かれる。ここで、提供される特徴および性質は、各場合に於いて、単独またはそれらの複数を組み合わせて実現され得る。
【実施例】
【0025】
緑青溶液を製造するために、次の成分、即ち、40gの硝酸銅(II)、3gの塩化亜鉛、8gの塩化カルシウム、2gの塩化ナトリウム、および20gの塩化アンモニウム、を1Lの水に溶かす。
【0026】
温度および湿度調整室は、約3×2.5mの底面を有する。その表面が偏心研摩機の手段によって徹底的に研摩されて、グリースおよび他の汚染物のない、銅のシートを、温度および湿度調整室に配置する。温度および湿度調整室の温度を50℃に調節する。この温度で、緑青溶液を銅の断片の表面上に、各場合に1時間の間隔で4回吹き付ける。その後の第1休止時間の間、温度を約45℃に維持する。大気湿度を約45%に調節する。銅のシートを3日間休止させた後、処理された銅部品を数回洗浄する。それを、各場合に90分間の間隔で計5回、水で吹き付ける。この間の温度および湿度調整室の大気湿度は約75%であり、緑青溶液での処理の場合に於ける、温度は約50℃である。運転条件の大気湿度および温度を、その後再び夫々45%および45℃に下げ、銅のシートをさらに3日間休止させる。その後、緑青化を終結させる。銅のシートは、人工の保護層によって完全に均一に被覆される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅イオンを含む、特に、緑青水溶液の手段によって、銅または銅合金を含む物品に緑青を生じさせる方法であって、前記物品を緑青溶液で処理し、好ましくは前記物品に前記緑青溶液を塗布し、この様にして処理された前記物品を熟成工程に供することを特徴とする方法。
【請求項2】
熟成工程の間、温度および大気湿度は選択され、好ましくは温度および湿度調整室で調節されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
熟成工程が次の熟成段階、即ち、
1)前記処理物品を、第1の休止時間の間、第1の休止温度および第1の休止大気湿度で休止させ、
2)前記処理物品を、洗浄時間の間、少なくとも1度、洗浄温度および洗浄大気湿度で洗浄し、かつ
3)前記処理物品を、第2の休止時間の間、第2の休止温度および第2の休止大気湿度で休止させること、を包含することを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
休止温度が、20℃〜70℃、特に25℃〜55℃、の範囲にあり、休止大気湿度が、30%〜90%、特に40%〜50%、の範囲にあることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
第2休止温度が、本質的に第1休止温度に一致し、第2休止大気湿度が、本質的に第1休止大気湿度に一致することを特徴とする請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
洗浄温度が、20℃〜70℃、特に25℃〜55℃、の範囲にあり、洗浄大気湿度が、30%〜95%、特に65%〜80%、の範囲にあることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
第1休止時間および第2休止時間が各々1週間以下、好ましくは2〜3日であることを特徴とする請求項3〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
洗浄時間が1日以下、好ましくは5〜10時間であることを特徴とする請求項3〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
緑青溶液が、少なくとも1種の銅塩、好ましくは硝酸銅を、1.5重量%〜20重量%の割合、特に3重量%〜5重量%の割合で含むことを特徴とする前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
緑青溶液が、少なくとも1種の亜鉛塩、好ましくは塩化亜鉛、を含むことを特徴とする前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
緑青溶液が、亜鉛塩を、0.1重量%〜5重量%の割合、特に0.2重量%〜1重量%の割合で含むことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
塩化物および炭酸塩の添加物、特に塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、および/または炭酸アンモニウムが、緑青溶液中に存在することを特徴とする前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
表面の清浄化および粗面化からなる群から選ばれる少なくとも一つの表面処理が、物品の処理の前に行なわれることを特徴とする前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
清浄化の処置が脱脂、特に化学的脱脂、であることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
粗面化の処置が、研摩または吹き付け処理、特にガラスによるサンドブラストであることを特徴とする請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
緑青溶液が、細かく分割された形態で塗布され、特に吹き付けられることを特徴とする前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
30℃〜70℃、特に40℃〜55℃、の範囲にある処理温度が、緑青溶液を用いる物品の処理に於いて選択されることを特徴とする前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
緑青溶液が、少なくとも2つ、好ましくは4〜5、の処理段階で塗布されることを特徴とする前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
表面の密封化、明化、および暗化からなる群から選ばれる少なくとも一つの表面の後処理が、熟成工程後に実施されることを特徴とする前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
緑青を生じさせる物品が、板状材料、ストリップ材料、成形部品および装飾品からなる群から選ばれることを特徴とする前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
好ましくは銅塩水溶液の形態の、銅または銅合金を含む物品に緑青を生じさせる緑青溶液であって、前記溶液が亜鉛イオンを含むことを特徴とする緑青溶液。
【請求項22】
亜鉛塩を、特に塩化亜鉛を、好ましくは0.1重量%〜5重量%の割合、特に0.2重量%〜1重量%の割合で含むことを特徴とする請求項21に記載の緑青溶液。
【請求項23】
少なくとも1種の銅塩、好ましくは硝酸銅が、1.5重量%〜20重量%の割合、特に3重量%〜5重量%の割合で存在することを特徴とする請求項21または22に記載の緑青溶液。
【請求項24】
塩化物および炭酸塩の添加物、特に塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、および/または炭酸アンモニウムが、溶液中に存在することを特徴とする請求項21〜23のいずれかに記載の緑青溶液。
【請求項25】
請求項1〜20のいずれかに記載の方法によって製造され得る銅または銅合金を含む緑青物品。
【請求項26】
請求項1〜20のいずれかに記載の方法によって製造された銅または銅合金を含む緑青物品。
【請求項27】
請求項25または26に記載の銅または銅合金を含む緑青物品であって、それが次の構造:
1)板状材料、帯状材料、成形部品および装飾品からなる群から選ばれる銅または銅合金を含む基体、および
2)基体上に位置し、銅イオンおよび亜鉛イオンを含む少なくとも一つの緑青層、
を有することを特徴とする緑青物品。
【請求項28】
緑青の厚さが、0.02〜0.06mm、特に0.03〜0.05mm、であることを特徴とする請求項25〜27のいずれかに記載の緑青物品。

【公表番号】特表2007−511668(P2007−511668A)
【公表日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−538826(P2006−538826)
【出願日】平成16年11月17日(2004.11.17)
【国際出願番号】PCT/EP2004/013009
【国際公開番号】WO2005/049889
【国際公開日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【出願人】(391011951)カーエム・オイローパ・メタル・アクチエンゲゼルシヤフト (9)
【Fターム(参考)】