説明

線材移送切断機

【課題】 切断された素材に擦り傷を生じない、またカッターにも傷を生じない、線材切断機を提供する。
【解決手段】 基部に配設され線材を把持及び解放する第一グリッパと、該第一グリッパに対して往復動するように該基部に配設され往動方向で該線材を把持し復動方向で該線材を解放して往動ストローク分ずつ該線材を移送する第二グリッパと、該基部に配設され移送された該線材に交差しながら往復動して該線材を剪断するカッターと、該第一グリッパ及び該第二グリッパにおける該線材の把持及び解放と該第二グリッパの往復動と該カッターの往復動とを駆動制御する駆動制御部と、を備える線材切断機であって、該第一グリッパは、該基部に対して該線材の移送方向及び反対方向に往復動可能に保持され、該第一グリッパは、該カッターが往動して該線材を剪断した後復動する前に、把持した該線材と共に該反対方向へ移動することを特徴とする線材切断機。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は工作機械の分野に関わり、詳細には金属線などの線材を移送しつつ所要の長さに切断する線材移送切断機に関する。
【背景技術】
【0002】
ボルト、歯車などの各種汎用部品は、圧造、鍛造、転造、切削などの機械加工を行う工作機械により量産されるのが一般的である。これら工作機械の加工原材として棒状の素材を用いる場合、金属線などの線材を移送しつつ所要の長さに切断して供給する線材移送切断機が広く用いられている。線材移送切断機は単独で用いられるだけでなく、他の工作機械の内部に収納あるいは隣接して配設され、切断した素材を自動的に供給するように構成されていることも多い。また、線材移送切断機は通常、コイル状に巻回された線材を直線状に矯正しながら間欠的に一定寸法ずつ移送し、この線材を切断して素材を製作するようにしている。
【0003】
線材移送切断機の線材移送方式には、大別してローラ方式とグリッパ方式がある。ローラ方式では、一対以上の対向する円板状のローラが外周部で線材を挟持し、ローラが回転することにより線材を押し出して移送する。グリッパ方式では、例えば特許文献1に開示されるように、可動グリッパと固定グリッパとを備えることが一般的である。可動グリッパは線材の移送方向に往復動し、往動方向で線材を把持し、復動方向で線材を解放して、往動ストローク分ずつ線材を移送する。固定グリッパは、切断時に線材を強固に把持し、また可動グリッパが線材を解放したときにずれないように保持して、切断される素材の長さを一定に保つ役割を果たしている。
【0004】
移送された線材は、カッターで所要の長さに切断され、機械加工用の素材が製作される。カッターの切断方式は、線材に交差しながら往復動して線材を剪断する剪断方式が一般的である。
【特許文献1】特開平2−84227号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述の従来の線材移送切断機では、カッターが往動して線材を剪断した後復動するとき、線材の切断面に擦り傷の発生することがあった。この擦り傷はカッターと線材の切断面との接触、摩擦により生じている。また、剪断時に生じたバリと呼ばれる切断面の突起がカッターと線材の間に入り込んで、擦り傷の原因となることもあった。さらに、カッターの刃面に傷がつき、往動による切断時に滑らかな切断面が得られなくなる場合もあった。素材に生じた擦り傷は、機械加工後の部品の寸法精度や表面外観などの品質の低下につながることもあり、回避すべき不具合である。
【0006】
本発明は上記背景に鑑みてなされたものであり、可動グリッパと固定グリッパとカッターとを備える線材移送切断機の改良、性能向上に係わる。すなわち、本発明は、切断された素材に擦り傷を生じない、またカッターにも傷を生じない、線材移送切断機を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明の線材移送切断機は、基部に配設され線材を把持及び解放する第一グリッパと、該第一グリッパに対して往復動するように該基部に配設され往動方向で該線材を把持し復動方向で該線材を解放して往動ストローク分ずつ該線材を移送する第二グリッパと、該基部に配設され移送された該線材に交差しながら往復動して該線材を剪断するカッターと、該第一グリッパ及び該第二グリッパにおける該線材の把持及び解放と該第二グリッパの往復動と該カッターの往復動とを駆動制御する駆動制御部と、を備える線材移送切断機であって、該第一グリッパは、該基部に対して該線材の移送方向及び反対方向へ往復動可能に保持され、該第一グリッパは、該カッターが往動して該線材を剪断した後復動する前に、把持した該線材と共に該反対方向へ移動することを特徴とする。
【0008】
基部は、線材移送切断機の各部材を配設するフレームに相当する。
【0009】
第一グリッパは、従来の固定グリッパに相当するものであるが、本発明では基部に対して往復動可能に保持されている。例えば、線材移送方向に延びる第一案内軸を基部に設け、この第一案内軸に沿って摺動するように第一グリッパが保持される構造とする。第一グリッパの往復動は切断後の線材とカッターとの間に隙間を設けることを目的としており、移動距離はわずかでよい。第一グリッパは、線材を把持する部材として例えば一対以上の対向するフィンガー及び動作機構を備えている。フィンガーは線材を挟み込む位置に配設され、両側から線材を圧接するように駆動されて、線材を把持する。また、フィンガーは線材から離れるように駆動されて、線材を解放する。
【0010】
第二グリッパは、従来の可動グリッパに相当するものであり、線材を移送するために第一グリッパに対して往復動するように配設されている。例えば、第一案内軸の延長線上に位置するように第二案内軸を基部に設け、この第二案内軸に沿って往復動するように第二グリッパが保持される構造とする。また、往復動のストローク長は、所要とされる素材の長さに合わせて調整できることが好ましい。第二グリッパも、第一グリッパと同様に、一対以上のフィンガー及び動作機構を備えている。
【0011】
カッターは、基部に固定されている固定刃と、移送された線材に交差しながら往復動する移動刃とを、備えている。そして、固定刃と移動刃により線材を剪断して、所要の長さの素材を製作している。
【0012】
駆動制御部は、第一グリッパ及び第二グリッパにおける線材の把持及び解放と、第一グリッパ及び第二グリッパの往復動と、カッターの往復動と、を駆動制御するものである。したがって、動作駆動源及び動作タイミング制御の両方を含んでいる。これらの駆動対象では、必要とされる駆動力や動作特性に差異があるため、駆動源は複数用いてもよい。
【0013】
前記第一グリッパ及び前記第二グリッパは、前記線材の把持及び解放を行う油圧把持機構をそれぞれ備えることが好ましい。第一グリッパ及び第二グリッパが備えるフィンガーの動作機構として、例えば油圧により駆動される油圧把持機構を用いればよい。
【0014】
前記第一グリッパは、該第一グリッパを前記反対方向へ押圧して移動させる弾性部材と、該弾性部材の押圧力よりも大きな駆動力で該第一グリッパを前記移送方向へ押圧して移動させる往復動機構と、を備えることが好ましい。この構成によれば、第一グリッパは、往復動機構の駆動力が働いている間は線材移送方向に押圧されており、駆動力が解放されたときにのみ弾性部材の効力が生じて反対方向へ移動する。弾性部材には、例えばばね部材やエアシリンダを用いる。
【0015】
または、前記第一グリッパは、前記移送方向及び反対方向への往復動を行うためにカムを用いたリンク機構を備えてもよい。
【0016】
なお、第二グリッパの往復動とカッターの往復動については、一定の速度で回転あるいは往復運動する別の駆動源とリンク機構を組み合わせて駆動してやればよい。従来の線材移送切断機において、切断した素材を供給する工作機械本体の駆動源を共用することが一般的に行われている。
【0017】
前記駆動制御部は、前記第一グリッパ及び前記第二グリッパにおける前記線材の把持及び解放と、該第一グリッパ及び該第二グリッパの往復動と、前記カッターの往復動と、を規定された動作条件及び動作タイミングに基づいて制御している。本発明の線材移送切断機を確実かつ円滑に動作させるためには、各部の動作状況を把握して動作条件が満たされていることを確認し、動作タイミングを適正に、かつ十分な余裕を持って制御することが必要である。また、製作した素材を他の工作機械に供給する場合は、両者の動作協調を図ることが好ましい。
【0018】
本発明の線材移送切断機の動作工程は、例えば次のような順序とする。
【0019】
(1)第二グリッパが初期位置で線材を把持し、第一グリッパは初期位置で線材を解放する。
【0020】
(2)第二グリッパが線材を把持した状態で往動し、線材を所定の往動ストローク分だけ移送する。
【0021】
(3)第一グリッパが線材を把持し、第二グリッパは線材を解放する。
【0022】
(4)カッターの移動刃が往動して線材を剪断する。
【0023】
(5)第一グリッパが把持した線材と共に反対方向へ移動する。
【0024】
(6)カッターの移動刃が復動して元の位置に戻る。
【0025】
(7)上述のカッターの動作と並行して、第二グリッパが線材を解放した状態で復動し、初期位置に戻る。
【0026】
(8)第二グリッパが初期位置で線材を把持する。
【0027】
(9)第一グリッパが線材を解放した後、移動位置から初期位置に戻る。
【0028】
(10)上記(2)の動作に戻る。
【0029】
本発明の構成及び動作によれば、カッターの移動刃が復動するとき、第一グリッパは把持した線材と共に反対方向へ移動しているため、移動刃と線材との間には隙間を生じて接触せず、いずれにも擦り傷の生じる危険性はなくなる。
【0030】
なお、上記の動作工程は一つの例であり、一部の工程を並行動作させるなどの変更が可能である。動作工程を変更する場合には、移動刃が復動するときに第一グリッパが線材と共に反対方向へ移動していること、線材は常時第一グリッパあるいは第二グリッパのいずれか一方に把持されていること、などの条件を満たす必要がある。
【0031】
前記線材を切断して製作した素材を、パンチとダイにより圧造成形を行う圧造機に供給することができる。本発明の線材移送切断機は、単独の工作機械として用いる他、圧造成形を行う圧造機など他の工作機械に棒状の素材を供給する用途に好適である。
【発明の効果】
【0032】
本発明の線材移送切断機では、第一グリッパを基部に対して往復動可能に保持し、カッターが往動して線材を剪断した後復動する前に、第一グリッパが把持した線材と共に反対方向へ移動するようにしている。このため、カッターは復動時には線材とは接触せず、切断した素材や線材の切断面及びカッターの刃面に擦り傷の生じることがなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明を実施するための最良の形態を、図1〜図5を参考にして説明する。本発明の線材移送切断機は、基部に相当し各部材が配設されるフレーム10と、第一グリッパ20、第二グリッパ50、カッター70、駆動制御部80、とで構成されている。
【0034】
フレーム10は、図1の実施例の説明図に示すように枠構造で、形鋼及び板鋼が適宜組み合わせられ、溶接やボルト締めなどにより連結されて形成されている。フレーム10では、線材を供給する図の右側から第一グリッパ20、第二グリッパ50、カッター70の順で直線状に並んで配設されている。第一グリッパ20及び第二グリッパ50の配設箇所には、線材移送方向に延びる第一案内軸11及び第二案内軸12がそれぞれ2本ずつ上下に並んで設けられている。また、線材供給側と第一グリッパ20との間、第一グリッパ20と第二グリッパ50との間、第二グリッパ50とカッター70との間には、線材を通して移送を容易にする筒状の線材案内管13、14、15がそれぞれ設けられている。
【0035】
第一グリッパ20は、第一グリッパ本体21と、第一固定座23と、第一フィンガー24と、第一油圧把持機構30と、押圧ばね25と、油圧往復動機構40と、で構成されている。
【0036】
第一グリッパ本体21には、第一案内孔22が上下に2個並んで貫通している。図2は第一グリッパ20を線材供給側からみた側面図であり、第一案内孔22はフレーム10に固設の第一案内軸11によって保持され、第一グリッパ20全体が線材の移送方向及び反対方向へスライドして移動するようになっている。第一グリッパ20の移動距離は、切断後の線材とカッター70との間に隙間が生じるように、切断時に生じ得るバリよりも大きなストローク長としている。第一グリッパ本体21の正面には、下側に第一固定座23が、上側に第一フィンガー24がそれぞれ配設されている。
【0037】
第一固定座23は、鋼製であり、第一グリッパ本体21にねじで固定されている。第一固定座23は、概略平板形状であり、線材を安定して把持できるように、上面にはV字溝が形成されている。
【0038】
第一フィンガー24は、鋼製で概略平板形状であり、第一固定座23の上方位置に上下動可能に保持されている。第一フィンガー24は、後述するように第一油圧把持機構30のピストン33と連結しており、下方に押圧されて第一固定座23との間に線材を把持するようになっている。また、下方への押圧が解除されると線材を解放するようになっている。
【0039】
第一油圧把持機構30は、第一グリッパ本体21の上部に設けられ、電磁弁31、シリンダ32、ピストン33により構成されている。電磁弁31は、ホース34を用いて駆動制御部80の油圧駆動部81と接続され、また電気制御部89と配線接続されている。シリンダ32は電磁弁31と配管接続され、ピストン33を摺動可能に内蔵している。ピストン33は操作油の油圧により駆動されてシリンダ32内を上下動し、連結している第一フィンガー24を上下動させるようになっている。
【0040】
押圧ばね25は弾性部材の具体例であり、一般的なコイルばねが用いられている。図3の実施例における第一グリッパ20付近の水平断面図に示すように、押圧ばね25は第一グリッパ本体21とフレーム10との間に常時圧縮された状態で配設され、第一グリッパ20を線材移送の反対方向へ押圧している。押圧ばね25には、第一グリッパ20を線材移送の反対方向へ移動できる十分な押圧力を有するものが用いられる。
【0041】
油圧往復動機構40は、図3に示すようにフレーム10に固設され、電磁弁41、ピストン42、シリンダ43により構成されている。電磁弁41は、ホース44を用いて駆動制御部80の油圧駆動部81と接続され、また電気制御部89と配線接続されている。シリンダ42は電磁弁41と配管接続され、ピストン43を摺動可能に内蔵している。ピストン43は操作油45の油圧により駆動されてシリンダ32内を線材移送方向及び反対方向へ動き、第一グリッパ20の第一グリッパ本体を線材移送方向に押圧するようになっている。この油圧の駆動力は押圧ばね25の押圧力よりも大きなものとされているので、常時は第一グリッパ20を線材移送方向に押圧している。そして、反対方向へ移動させる電気指令が入力されると、電磁弁41が動作して油圧の駆動力が除かれ、前述の押圧ばね25の作用により、第一グリッパ20が反対方向へ移動するようになっている。
【0042】
第二グリッパ50は、第二グリッパ本体51と、第二固定座53と、第二フィンガー54と、第二油圧把持機構60と、で構成されている。
【0043】
第二グリッパ本体51には、第二案内孔52が上下に2個並んで貫通している。第二案内孔52は、フレーム10に固設の第二案内軸12によって保持され、第二グリッパ50全体が線材の移送方向にスライドし、往復動するようになっている。第二グリッパ本体51の正面には、下側に第二固定座53が、上側に第二フィンガー54がそれぞれ配設されている。
【0044】
第二固定座53は、鋼製であり、第二グリッパ本体51にねじで固定されている。第二固定座53は、概略平板形状であり、線材を安定して把持できるように、上面にはV字溝が形成されている。
【0045】
第二フィンガー54は、鋼製で概略平板形状であり、第二固定座53の上方位置に上下動可能に保持されている。第二フィンガー24は、第二油圧把持機構60のピストン63と連結しており、下方に押圧されて第二固定座53との間に線材を把持するようになっている。また、下方への押圧が解除されると線材を解放するようになっている。
【0046】
第二油圧把持機構60は、第二グリッパ本体51の上部に設けられ、電磁弁61、シリンダ62、ピストン63により構成されている。電磁弁61は、ホース64を用いて駆動制御部80の油圧駆動部81と接続され、また電気制御部89と配線接続されている。シリンダ62は電磁弁61と配管接続され、ピストン63を摺動可能に内蔵している。ピストン63は操作油の油圧により駆動されてシリンダ62内を上下動し、連結している第二フィンガー54を上下動させるようになっている。
【0047】
なお、第二グリッパ50の往復動には、油圧駆動部81とは別の駆動源が用いられる。また、往復動のストローク長は、製作する素材の寸法にあわせて設定できるようになっている。
【0048】
カッター70は、二つの円筒状の刃すなわち固定刃71と移動刃72とを備えている。固定刃71と移動刃72とは、初期状態では軸心を揃えて並んでいる。そして、線材の先端が固定刃71の内側を通過して移動刃72の内側に入り込むまで移送された時点で、移動刃72が径方向に往動して線材と交差し、剪断するようになっている。この移動刃72の往復動作についても、油圧駆動部81とは別の駆動源を、第二グリッパ50と共用している。
【0049】
次に、駆動制御部80を構成する油圧駆動部81及び電気制御部89について説明する。第一グリッパ20及び第二グリッパ50における線材の把持及び解放と、第一グリッパ20の移動とは、油圧駆動部81により駆動され、電気制御部89により制御されている。
【0050】
油圧駆動部81の構成は、図4の駆動制御系統図に示すとおりであり、駆動力となる油圧を生成する油ポンプ82と、圧力計83、圧力スイッチ84、蓄積タンク85、帰路フィルター86などにより構成されている。油ポンプ82の吐出側及び吸入側は、ホース34、64、44を介して第一油圧把持機構30、第二油圧把持機構60、油圧往復動機構40にそれぞれ接続されている。三つの油圧機構の各電磁弁31、61、41の入力側はそれぞれ、油ポンプ82の吐出側の正圧と吸入側の負圧とを選択できるようになっており、出力側はシリンダ32、62、42に連通している。
【0051】
電気制御部89は、図略の位置センサにより、第二グリッパ50の往復動とカッター70の往復動の動作状況をそれぞれ検出している。そして、電気制御部89は、検出した動作状況を基にして、前記三つの油圧機構の電磁弁31、61、41の入力側の選択を制御するようになっている。すなわち、第一油圧把持機構30及び第二油圧把持機構60の電磁弁31、61が励磁されると、シリンダ32、62は油ポンプ82の吐出側に接続されて操作油が流入し、ピストン33、63は下降して第一フィンガー24及び第二フィンガー54を押し下げ、線材を把持する。電磁弁31、61の励磁が解けると、シリンダ32、62は油圧ポンプ82の吸入側に接続されて操作油が流出し、ピストン33、63は上昇して第一フィンガー24及び第二フィンガー54を上昇させ、線材を解放する。
【0052】
また、油圧往復動機構40では常時、電磁弁41が励磁されて、シリンダ42に正圧がかかり、ピストン43は第一グリッパ20を線材移送方向に押圧している。電磁弁41の励磁が解けるとシリンダ42内は負圧となり、押圧ばね25は押圧力により操作油45を流出させ、第一グリッパ20を反対方向へ移動させる。
【0053】
一方、第二グリッパ50の往復動とカッター70の往復動とは、油圧駆動部81とは別の駆動源により駆動される。この駆動源には電動機などが用いられ、連結軸やカムなどを組み合わせたリンク機構により、定速回転運動を一定時間間隔の往復動に変換している。
【0054】
次に、上述のように構成した実施例の線材移送切断機の動作について、動作工程順に番号を付け、図5の動作タイミングチャートを参考にしながら説明する。図5の(a)は第二フィンガー54の把持及び解放を、(b)は第二グリッパ50の往復動を、(c)は第一フィンガー24の把持及び解放を、(d)は第一グリッパ20の移動を、(e)はカッター70の移動刃72の往復動を、それぞれ示している。なお、横軸は共通の時間Tの推移を示している。
【0055】
(1)最初は、人手により線材を初期位置の第二グリッパ50にセットする。このとき、電気制御部89は第二油圧把持機構60の電磁弁61を励磁し、第二フィンガー54は押し下げられて線材を把持している。また、電気制御部89は第一油圧把持機構30の電磁弁31は励磁せず、第一フィンガー24は線材を解放している。さらに、電気制御部89は油圧往復動機構40の電磁弁41を励磁し、第一グリッパ20を線材移送方向に押圧して初期位置に保持している。カッター70の移動刃72は、固定刃71と軸心の揃った初期位置にある(時刻T0)。
【0056】
(2)別に設けられた駆動源により第二グリッパ50が線材を把持した状態で往動し、線材を所定の往動ストローク分だけ移送する(時刻T1〜T2)。
【0057】
(3)電気制御部89が第一油圧把持機構30の電磁弁31を励磁し、第一フィンガー24は押し下げられて線材を把持する(時刻T3〜T4)。次いで、第二油圧把持機構60の電磁弁61の励磁が解かれて、第二フィンガー54は線材を解放する(時刻T5〜T6)。
【0058】
(4)別に設けられた駆動源により、カッター70の移動刃72が往動して線材を剪断する(時刻T7〜T8)。
【0059】
(5)電気制御部89が油圧往復動機構40の電磁弁41の励磁を解き、押圧ばね25は第一グリッパ20を反対方向へ押圧し、把持した線材と共に移動させる(時刻T9〜T10)。
【0060】
(6)カッター70の移動刃72が復動して初期位置に戻る(時刻T11〜T12)。
【0061】
(7)時刻T6で線材を解放した第二グリッパ50は、時刻T7〜T10の線材切断工程と時間的に並行して復動し、初期位置に戻る(時刻T13〜T14)。
【0062】
(8)電気制御部89が第二油圧把持機構60の電磁弁61を励磁し、第二フィンガー54は押し下げられて線材を把持する(T15〜T16)。
【0063】
(9)電気制御部89は第一油圧把持機構30の電磁弁31の励磁を解き、第一フィンガー24は線材を解放する(T17〜T18)。次いで、電気制御部89が油圧往復動機構40の電磁弁41を励磁し、第一グリッパ20を移動位置から初期位置に戻す。
【0064】
(10)上記(2)の動作に戻る。
【0065】
上記(6)の動作工程において、カッター70の移動刃72が復動するときには、線材は既に第一グリッパ20と共に反対方向へ移動している。したがって、移動刃72と線材との間には隙間ができており、接触や摩擦による擦り傷が生じることはない。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の線材移送切断機は、単独の工作機械として用いる他、圧造成形を行う圧造機など他の工作機械の内部に収納あるいは隣接して配設し、棒状の素材を自動で供給する用途にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の線材移送切断機の実施例を示す説明図である。
【図2】図1の実施例において、第一グリッパを線材供給側からみた側面図である。
【図3】図1の実施例における第一グリッパ付近の水平断面図である。
【図4】図1の実施例における駆動制御系統図である。
【図5】図1の実施例における動作タイミングチャートである。
【符号の説明】
【0068】
10:フレーム
11:第一案内軸 12:第二案内軸 13、14、15:線材案内管
20:第一グリッパ
21:第一グリッパ本体 22:第一案内孔 23:第一固定座
24:第一フィンガー 25:押圧ばね
30:第一油圧把持機構
31:電磁弁 32:シリンダ 33:ピストン 34:ホース
40:油圧往復動機構
41:電磁弁 42:シリンダ 43:ピストン 44:ホース
45:操作油
50:第二グリッパ
51:第二グリッパ本体 52:第二案内孔 53:第二固定座
54:第二フィンガー
60:第二油圧把持機構
61:電磁弁 62:シリンダ 63:ピストン 64:ホース
70:カッター
71:固定刃 72:移動刃
80:駆動制御部
81:油圧駆動部 82:油ポンプ 83:圧力計
84:圧力スイッチ 85:蓄積タンク 86:帰路フィルター
89:電気制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部に配設され線材を把持及び解放する第一グリッパと、該第一グリッパに対して往復動するように該基部に配設され往動方向で該線材を把持し復動方向で該線材を解放して往動ストローク分ずつ該線材を移送する第二グリッパと、該基部に配設され移送された該線材に交差しながら往復動して該線材を剪断するカッターと、該第一グリッパ及び該第二グリッパにおける該線材の把持及び解放と該第二グリッパの往復動と該カッターの往復動とを駆動制御する駆動制御部と、を備える線材移送切断機であって、
該第一グリッパは、該基部に対して該線材の移送方向及び反対方向に往復動可能に保持され、
該第一グリッパは、該カッターが往動して該線材を剪断した後復動する前に、把持した該線材と共に該反対方向へ移動することを特徴とする線材移送切断機。
【請求項2】
前記第一グリッパ及び前記第二グリッパは、前記線材の把持及び解放を行う油圧把持機構をそれぞれ備える請求項1記載の線材移送切断機。
【請求項3】
前記第一グリッパは、該第一グリッパを前記反対方向へ押圧して移動させる弾性部材と、該弾性部材の押圧力よりも大きな駆動力で該第一グリッパを前記移送方向へ押圧して移動させる往復動機構と、を備える請求項1または2のいずれかに記載の線材移送切断機。
【請求項4】
前記第一グリッパは、前記移送方向及び反対方向への往復動を行うためにカムを用いたリンク機構を備える請求項1または2のいずれかに記載の線材移送切断機。
【請求項5】
前記駆動制御部は、前記第一グリッパ及び前記第二グリッパにおける前記線材の把持及び解放と、該第一グリッパ及び該第二グリッパの往復動と、前記カッターの往復動と、を規定された動作条件及び動作タイミングに基づいて制御する請求項1〜4のいずれかに記載の線材移送切断機。
【請求項6】
前記線材を切断して製作した素材を、パンチとダイにより圧造成形を行う圧造機に供給する請求項1〜5のいずれかに記載の線材移送切断機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−130532(P2006−130532A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−322027(P2004−322027)
【出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【出願人】(000117009)旭サナック株式会社 (194)
【Fターム(参考)】