説明

線条材料の巻取方法及び心線の巻取方法

【課題】線条材料の送出方向に沿って並設される一のプーリの周速度に、他のプーリの周速度を良好に追従させられる線条材料の巻取方法を提供することにある。
【解決手段】線条材料の送出方向の上流側に配置される第1ボビンから前記線条材料を引き出し、前記送出方向の下流側に配置される第2ボビンによって前記線条材料を巻き取る、線条材料の巻取方法において、上流側に引出プーリを下流側にテンションプーリを設ける。テンションプーリに第2エンコーダ12aを設け、これにより検出されるテンションプーリの回転を、引出プーリの軸部に接続される第1サーボモータ3に送信する。このようにして、テンションプーリの周速度と、引出プーリの周速度と、を揃える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線条材料の巻取方法及び心線の巻取方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、線条体wの張力調整装置として、ボビン1と、ダンサ固定プーリ12と、ダンサ可動プーリ13と、を備え、この順に前記の線条体wが懸架される構成を開示している。そして、前記のダンサ可動プーリ13には引きひも18の一端が係止され、その他端は所望の張力に設定されたトルクモータ17に備えられる貯線リール16に巻回されており、前記引きひも18の移動に応じて前記ボビン1のボビン駆動モータの電圧を変化させることにって、前記の線条体wに対して一定の張力を付与することができる、とされる。
【0003】
【特許文献1】特開昭62−31668号公報(特許請求の範囲、第3頁第1カラム第9〜11行及び第16〜18行、第3図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記のダンサ可動プーリ13の移動量は、ボビン1から送り出される線条体wの送出量と比較して極めて少量であるから、例えば高速な巻取の際や高頻度な巻取速度の増減が生じた際には、線条体wの張力を一定に制御することが極めて困難であった。
【0005】
本願発明の主な目的は、線条材料の送出方向に沿って並設される一のプーリの周速度に、他のプーリの周速度を良好に追従させられる線条材料の巻取方法及び心線の巻取方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0007】
本発明の第1の観点によれば、線条材料の巻取は、以下のような方法で行われる。
即ち、前記線条材料の巻取は、具体的には、線条材料の送出方向の上流側に配置される第1ボビンから前記線条材料を引き出し、前記送出方向の下流側に配置される第2ボビンによって前記線条材料を巻き取る、ことである。
そして、前記の第1ボビン及び第2ボビンの間には、前記送出方向の上流側から順に、材料引出部と材料巻取部を設ける。
なお、前記の材料引出部とは、前記第1ボビンと、この第1ボビンよりも前記送出方向の下流側に配置し、前記第1ボビンから前記線条材料を引き出すために、その軸部に第1サーボモータが接続されている引出プーリと、から成るものである。
また、前記の材料巻取部とは、前記第2ボビンと、この第2ボビンよりも前記送出方向の上流側に配置し、前記第2ボビンに巻き取られる前記線条材料に適宜のテンションを付与するために、その軸部に第2サーボモータが接続されているテンションプーリと、から成るものである。
前記の第2サーボモータ又はテンションプーリに回転検出手段を設ける。
前記回転検出手段により検出される前記の第2サーボモータ又はテンションプーリの回転を前記第1サーボモータに送信することにより、前記テンションプーリの周速度と前記引出プーリの周速度とを揃える。
【0008】
前記の線条材料をこのように巻き取ることで、線条材料の送出方向に沿って並設される一のプーリ(テンションプーリ)の変動する周速度に、他のプーリ(引出プーリ)の周速度を良好に追従させることができる。
またこれにより、前記の引出プーリ及びテンションプーリに懸架される両プーリ間の線条材料の長さ(例えば、線条材料のたるみ量)を略一定とできる。
【0009】
上記の線条材料の巻取は、以下のような方法で行われることが好ましい。
即ち、前記回転検出手段を、前記の第2サーボモータ又はテンションプーリの回転に伴ってパルス信号を出力可能なエンコーダとし、下記式(1)で求める速度指令値Q[%]を前記第1サーボモータに送信し、受信した前記速度指令値Q[%]に基づいて前記第1サーボモータに前記引出プーリの周速度を制御させる。
【数1】

ただし、{x(t+Δt)−x(t)}[パルス]は、前記の第2サーボモータ又はテンションプーリの回転に伴って所定時間Δtの間に前記エンコーダが出力するパルス信号のパルス量とする。
P[ppr]は、前記エンコーダの1周分の分解能とする。
Dt[mm]は、前記テンションプーリの直径とする。
Dh[mm]は、前記引出プーリの直径とする。
S[rpm]は、前記第1サーボモータの定格回転数とする。
【0010】
これによれば、上記追従のための演算を簡素とできるので、前記引出プーリの周速度の、前記テンションプーリの周速度に対する追従性を更に良好とできる。
【0011】
また、前記の材料引出部及び材料巻取部を連接するための材料接続部において前記線条材料上にダンサーを載置することが好ましい。これによれば、前記ダンサーの存在により、前記のテンションプーリに対しては当該テンションプーリと前記第2ボビンとの間の前記線条材料のテンションのみが作用することとなるから、当該第2ボビンに巻き取られる前記線条材料に所望のテンションを付与することが容易とできる。従って、高精度で且つ安定したテンションを付与できる。
【0012】
また、前記第1ボビンに例えば適宜のブレーキシューなどを備える回転制御手段を設けることが好ましい。これによれば、前記の引出プーリが前記第1ボビンから前記線条材料を弛みを伴わずに安定して引き出せる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、本発明の実施の形態を説明する。先ず、本発明の第1実施形態に係る線条材料の巻取に用いられる巻取装置の構成を説明する。本実施形態に係る巻取装置は、線条材料の送出方向の上流側に配置される第1ボビンから前記線条材料を引き出し、前記送出方向の下流側に配置される第2ボビンによって前記線条材料を巻き取るものであって、その巻取の過程において前記線条材料に対してテンションを付与できるように構成されている。図1は、本発明の第1実施形態に係る線条材料の巻取に用いられる巻取装置の概略図である。
【0014】
本実施形態において前記巻取装置100は、前記送出方向の上流側から順に設けられる、材料引出部A及び材料巻取部Bと、これら材料引出部A及び材料巻取部Bを連接するための材料接続部Mと、から構成されている。
【0015】
前記の材料引出部Aは、例えばロープなどの線条材料Yが所定の量/形状に巻回されている第1ボビン1と、この第1ボビン1よりも前記送出方向の下流側に設けられ、当該第1ボビン1から前記線条材料Yを引き出すために、その軸部2aに第1サーボモータ3が接続されている引出プーリ2と、から構成されている。
この第1ボビン1の軸部1aには、例えばブレーキシューなどを備える適宜のブレーキ装置(回転制御手段)5が設けられている。これにより、前記第1ボビン1の回転速度は過大とならないようになっている。
また、前記の第1サーボモータ3には、前記引出プーリ2の回転数/周速度を適宜に制御するための第1モータドライバ(第1速度制御手段)4が接続されている。また、この引出プーリ2は線条材料Yの走行速度を制御するものであるから、引出プーリ2は線条材料Yに対して摺動不能に構成されている。
なお、本実施形態において前記の第1モータドライバ4は、前記第1サーボモータ3の回転数を適宜に制御するために、当該第1サーボモータ3の定格回転数に対する割合を要求するように構成されている。即ち、前記第1サーボモータ3の回転数を所望の回転数とするためには、前記の第1モータドライバ4に対して、当該第1サーボモータ3の定格回転数に対する所望の回転数の割合(0〜100%)を入力すればよい。
【0016】
前記の材料巻取部Bは、前記の第1ボビン1から引き出された線条材料Yを所定の量/形状に巻き取るための空の第2ボビン10と、この第2ボビン10よりも前記送出方向の上流側に設けられ、当該第2ボビン10に巻き取られる前記線条材料Yに適宜のテンションを付与するために、その軸部11aに第2サーボモータ12が接続されているテンションプーリ11と、から構成されている。
この第2ボビン10は、図略のボビン回転手段により所望の回転速度で回転されるように構成されている。
また、前記の第2サーボモータ12には、前記のテンションプーリ11に加えられるトルクを適宜に制御するための第2モータドライバ(トルク制御手段)13が接続されている。
また、前記のテンションプーリ11及び第2ボビン10の間には、当該第2ボビン10に巻回される前記線条材料Yの巻取テンションを監視するためのテンション測定装置15が設けられている。このテンション測定装置15は具体的には、前記線条材料Yの走行経路を確保するための適宜のガイドローラ16・16と、公知のテンション測定機(例えばロードセル型のもの)17と、から構成されている。
そして、上記のテンション測定機17と前記の第2モータドライバ13とは、適宜の電気線t1により接続されている。これにより、前記の第2ボビン10によって巻き取られる線条材料Yのテンション(巻取テンション)を当該第2モータドライバ13へフィードバック可能に構成されている。
なお、上記の「トルク制御」はより具体的には、前記の第2ボビン10により巻き取られる前記線条材料Yの巻取速度に関わらず、テンションプーリ11に加えられるトルクのみを適宜に制御する所謂トルク制御である。
なおまた、本実施形態において前記の第2サーボモータ12は回転検出手段としての回転式の(インクリメンタル型)第2エンコーダ12aを内蔵して構成されている(図2も併せて参照)。この第2エンコーダ12aは、前記の第2サーボモータ12の回転に伴ってパルス信号を出力可能に構成されている。
【0017】
前記の材料接続部Mは、上述した材料引出部Aと材料巻取部Bとを連接するためのものである。具体的には、以下のように構成されている。
即ち、前記の第1ボビン1から引き出され前記の第2ボビン10へ向かって送出される前記線条材料Yが、前記の引出プーリ2及びテンションプーリ11との間において鉛直下方へ大きく迂回するように、当該線条材料Y上には、円盤状に形成されたダンサー20が載置されている。換言すれば、前記の引出プーリ2及びテンションプーリ11との間において鉛直下方へ大きく迂回する前記線条材料Y上にダンサー20が載置されている。
このダンサー20の軸部20aに一端が接続された長尺のダンサー支持アーム21は、その他端が略示のポテンショメータ22に枢設されている。これにより、図1において実線及び二点鎖線で示す如く前記のダンサー20は、前記ダンサー支持アーム21の前記他端周りに回動自在に構成されている。別の言い方をすれば、前記のダンサー支持アーム21が長尺であることにより、前記のダンサー20は略鉛直方向へ上下動可能に構成されている。そして、材料接続部Mを以上の如く構成することで、線条材料Yは、前記送出方向の上流側に配置される前記の引出プーリ2と、同じく下流側に配置される前記のテンションプーリ11と、の間において、上記ダンサー20を介して、一旦、テンションフリー状態とできる。即ち、両プーリ2・11間において線条材料Yには、線条材料Y自身の重量とダンサー20の重量(デッドウェイト:例えば数百グラム)に起因するテンション以外のテンションが作用しないように構成されている。なお、前記のデッドウェイトは、前記の線条材料Yが暴れることにより線条材料Yが各プーリ2・11及びダンサー20の外周面に刻設されている図略のガイド溝から抜脱してしまうのを防止するために設けられている。
【0018】
次に、図2を参照しつつ、本実施形態における巻取装置100が備える前記の引出プーリ2を制御するための制御システムに関して説明する。図2は、本発明の第1実施形態に係る巻取装置が有する制御システムのブロック図である。
【0019】
本実施形態において前記のテンションプーリ11の軸部11aに接続されている前記第2サーボモータ12に備えられている前記の第2エンコーダ12aは、前記の引出プーリ2の軸部2aに接続されている前記の第1サーボモータ3に対して、適宜の電気線により接続されている。これにより、前記の第2エンコーダ12aにより検出される前記の第2サーボモータ12(間接的には、テンションプーリ11)の回転に関する情報(回転数や回転角度量など)を前記の第1サーボモータ3に送信可能に構成されており、この送信対象としての回転に関する情報に基づいて、前記テンションプーリ11の周速度と前記引出プーリ2の周速度とを揃えられるように構成されている。
【0020】
より具体的には、以下の如くである。
【0021】
即ち、上記の如く適宜の電気線により接続される前記の第2エンコーダ12a及び第1サーボモータ3の間には、パルス−速度指令値演算器30及び前述の第1モータドライバ4がこの順で介在されている。
【0022】
このパルス−速度指令値演算器30は、前記の第2エンコーダ12aに対して直接的に接続されるものであって、その第2エンコーダ12aから出力されたパルス信号を、前記の第1モータドライバ4が受信して処理できる形式に加工する機能を有している。具体的には、このパルス−速度指令値演算器30は、前記の第2エンコーダ12aから出力されたパルス信号に基づいて、下記式(1)で示すように演算することにより速度指令値Q[%]を求め、この速度指令値Qを(前記の第1モータドライバを中継して)前記の第1サーボモータ3に送信する。
【0023】
【数1】

ただし、{x(t+Δt)−x(t)}[パルス]は前記の第2サーボモータ12(又はテンションプーリ11)の回転に伴って所定時間Δtの間に前記第2エンコーダ12aが出力するパルス信号のパルス量とする。P[ppr]は前記第2エンコーダ12aの1周分の分解能とする。Dt[mm]は前記テンションプーリ11の直径とする。Dh[mm]は前記引出プーリ2の直径とする。S[rpm]は前記第1サーボモータ3の定格回転数とする。
【0024】
そして、前記の第1モータドライバ4は受信した前記速度指令値Qに基づいて前記第1サーボモータ3の回転速度を適宜に制御するように構成され、この第1サーボモータ3は前記第1モータドライバ4の指令に従って前記引出プーリ2の周速度を適宜の制御するように構成されている。端的に言えば、前記のパルス−速度指令値演算器30から受信した前記の速度指令値Qに基づいて前記第1サーボモータ3に前記引出プーリ2の周速度を制御させるように構成されているのである。
【0025】
また、本実施形態において前記のパルス−速度指令値演算器30から前記の第1モータドライバ4に送信される前記の速度指令値Qは、前記のダンサー20の動作に基づいて若干の補正が加えられるようになっている。より具体的には以下の如くである。
【0026】
即ち、前記のダンサー20を支持するためのダンサー支持アーム21の前記他端が枢設されている前記のポテンショメータ22から出力される前記ダンサー支持アーム21の回動角度量(ダンサー20の位置)は、適宜に設けられる入力フィルタ31によって平均化処理が施され、符号32で示すPI演算器によってPI演算され、このPI演算による演算結果に基づいて前記の速度指令値Qが補正されるように構成されている。
【0027】
以上の説明によれば、前記の第1モータドライバ4(第1サーボモータ3)に送信される情報は、前記のパルス−速度指令値演算器30から出力される前記の速度指令値Qと、前記のPI演算器32から出力されるPI演算結果と、で2種類の情報として解釈することもできる。しかし、上で「補正」と述べたようにこれら2種類の情報に主従関係があるのは、以下の理由によるものである。即ち、前記の第1モータドライバ4が前記第1サーボモータ3を制御する際に基準とする(最も依存する)情報は、(前記のテンションプーリ11に接続されている第2サーボモータ12の第2エンコーダ12aから出力されるパルス信号(フィードバックパルス信号)に基づいて前記のパルス−速度指令値演算器30で演算されて求められた)前記の速度指令値Qの方だからである。
【0028】
なお、前記の速度指令値Qを前記のダンサー20の動作に基づいて補正するのは以下の理由による。即ち、前記線条材料Yの巻取を長時間連続して行う場合は特に、上記の制御システムが、この線条材料Yの前記材料接続部Mにおける弛み量を見失ってしまうからである。なお、この線条材料Yの弛み量を前記制御システムが見失うと、例えば前記のダンサー支持アーム21が前記ポテンショメータ22の可動角度範囲を超えて回動しようとすることも考えられ、結果として、このポテンショメータ22の損傷などが危惧される。
【0029】
次に、本実施形態に係る巻取装置100の作動を、前記線条材料Yの送出方向に沿って順に説明する。
【0030】
第1に、前記第2ボビン10による前記線条材料Yの巻取を開始する前に予め、前記第1ボビン1に設けられているブレーキ装置5の当該第1ボビン1に対する制御(ブレーキ制御)を解除しておく。そして、線条材料Yを以下のように懸架する。即ち、前記の第1ボビン1から引き出した線条材料Yを、前記引出プーリ2と、ダンサー20と、テンションプーリ11と、テンション測定装置15と、に順に懸架し、そして前記の第2ボビン10の外周面に線条材料Yの端部を係止する。
第2に、前記の第2モータドライバ13に、前記第2ボビン10に巻回される線条材料Yの好適なテンション(巻取テンション)を設定する。即ち、前記の第2モータドライバ13が前記のテンションプーリ11に加えられるトルクを適宜に制御して、当該テンションプーリ11の下流側へ送出される線条材料Yのテンションが所望のテンションとなるように、その第2モータドライバ13を設定する。
第3に、前記の引出プーリ2と第2ボビン10とを回転始動させると同時に、前記のブレーキ装置5を前記の第1ボビン1に対して作動させておく。これにより、前記の第1ボビン1が慣性により不必要に回転し過ぎて線条材料Yが弛んでしまう、という問題を防止できるようになっている。
なお、前記の第1モータドライバ4が上述の如く必要に応じて適宜の補正が加えられた速度指令値Qに基づいて前記の第1サーボモータ3の回転数を制御することで、前記テンションプーリ11の周速度と前記引出プーリ2の周速度とが極めて高精度に揃うようになっている。
以上により、前記の第1ボビン1から引き出された線条材料Yは、所望のテンションが付与されたかたちで、前記の第2ボビン10に巻き取られる。
【0031】
以上に、本実施形態に係る巻取装置100の構成と作動を説明したが、本巻取装置100は以下のように、固有の問題点を解決した優れたものとなっている。
【0032】
<問題点>
上記巻取装置100においては、前記線条材料Yに対して所望のテンションを問題なく高精度に付与するために、前記の第2ボビン10によって巻き取られる線条材料Yの巻取速度に対して、前記の引出プーリ2によって前記第1ボビン1から引き出される線条材料Yの引出速度を、常に揃えようとする制御(以下、追従制御と称する。)が必要である。これによれば、前記材料接続部Mにおける前記線条材料Yのテンションフリー状態を安定的に維持できるからである。
しかし、上記の巻取速度は、前記の第2ボビン10による巻取の状態の如何によって時々刻々と変化するものであるし、巻取を開始する前から予め、その状態の変化の様子を精確に把握するのは事実上、不可能である。
そこで、前記の巻取速度に引出速度を追従させる方法の一として、前記のダンサー20の運動を、前述のポテンショメータ22などを介して監視することが挙げられる。しかしながら、このポテンショメータ22の出力値の変動幅は前記の巻取速度の変動幅と比較して極めて小さいので、制御ループのゲインを有効には上げられないという問題があり、このため、高速な巻取を実施する場合や巻取速度の変動が極めて頻繁に発生する場合には、前記のポテンショメータ22の出力値のみに基づく追従制御は極めて粗雑なものとなっていた。
【0033】
<解決策>
これに対して、上記の巻取装置100には、頻繁に変動する上記巻取速度に対して上記引出速度を極めて良好に追従可能な制御システムが構築されている。本制御システムの詳細は上述した通りである。即ち、要約すると、前記のテンションプーリ11の軸部11aに接続される前記の第2サーボモータ12が内蔵する第2エンコーダ12aから出力されるフィードバックパルス信号を演算し、その演算結果が、前記の引出プーリ2を制御する前記第1モータドライバ4に指令信号(速度指令値Q)として入力されるように構築されている。
【0034】
以上説明したように、本実施形態において線条材料Yの巻取は、以下のような方法で行われている。
即ち、前記線条材料Yの巻取は、具体的には、線条材料Yの送出方向の上流側に配置される第1ボビン1から前記線条材料Yを引き出し、前記送出方向の下流側に配置される第2ボビン10によって前記線条材料Yを巻き取る、ことである。
そして、前記の第1ボビン1及び第2ボビン10の間には、前記送出方向の上流側から順に、材料引出部Aと材料巻取部Bを設ける。
なお、前記の材料引出部Aとは、前記第1ボビン1と、この第1ボビン1よりも前記送出方向の下流側に配置し、前記第1ボビン1から前記線条材料Yを引き出すために、その軸部2aに第1サーボモータ3が接続されている引出プーリ2と、から成るものである。
また、前記の材料巻取部Bとは、前記第2ボビン10と、この第2ボビン10よりも前記送出方向の上流側に配置し、前記第2ボビン10に巻き取られる前記線条材料Yに適宜のテンションを付与するために、その軸部11aに第2サーボモータ12が接続されているテンションプーリ11と、から成るものである。
前記の第2サーボモータ12(又はテンションプーリ11でも良い。)に回転検出手段としての第2エンコーダ12aを設ける(図2も併せて参照)。
前記第2エンコーダ12aにより検出される前記の第2サーボモータ12(又はテンションプーリ11)の回転を前記第1サーボモータ3に送信することにより、前記テンションプーリ11の周速度と前記引出プーリ2の周速度とを揃える。
【0035】
前記の線条材料Yをこのように巻き取ることで、線条材料Yの送出方向に沿って並設される一のプーリ(テンションプーリ11)の変動する周速度に、他のプーリ(引出プーリ2)の周速度を良好に追従させることができる。
またこれにより、前記の引出プーリ2及びテンションプーリ11に懸架される両プーリ2・11間の線条材料Yの長さ(例えば、線条材料Yのたるみ量)を略一定とできる。
【0036】
上記の線条材料Yの巻取は、以下のような方法で行われることが好ましい。
即ち、前記回転検出手段を、前記の第2サーボモータ12(又はテンションプーリ11)の回転に伴ってパルス信号を出力可能なエンコーダ(第2エンコーダ12a)とし、下記式(1)で求める速度指令値Q[%]を前記第1サーボモータ3に送信し、受信した前記速度指令値Q[%]に基づいて前記第1サーボモータ3に前記引出プーリ2の周速度を制御させる。
【0037】
【数1】

ただし、{x(t+Δt)−x(t)}[パルス]は、前記の第2サーボモータ12(又はテンションプーリ11)の回転に伴って所定時間Δtの間に前記第2エンコーダ12aが出力するパルス信号のパルス量とする。
P[ppr]は、前記第2エンコーダ12aの1周分の分解能とする。
Dt[mm]は、前記テンションプーリ11の直径とする。
Dh[mm]は、前記引出プーリ2の直径とする。
S[rpm]は、前記第1サーボモータ3の定格回転数とする。
【0038】
これによれば、上記追従のための演算を簡素とできるので、前記引出プーリの周速度の、前記テンションプーリの周速度に対する追従性を良好とできる。
【0039】
また、前記の材料引出部A及び材料巻取部Bを連接するための材料接続部Mにおいて前記線条材料Y上にダンサー20を載置することが好ましい。これによれば、前記ダンサー20の存在により、前記のテンションプーリ11に対しては当該テンションプーリ11と前記第2ボビン10との間の前記線条材料Yのテンションのみが作用することとなるから、当該第2ボビン10に巻き取られる前記線条材料Yに所望のテンションを付与することが容易とできる。従って、高精度で且つ安定したテンションを付与できる。
また、前記ダンサー20の存在により、前記のテンションプーリ11−引出プーリ2間の線条材料の張力と、前記の引出プーリ2−第1ボビン1間の線条材料の張力と、の差としての張力差を適宜に調節できる。
【0040】
また、前記第1ボビンに例えば適宜のブレーキシューなどを備える回転制御手段(ブレーキ装置5)を設けることが好ましい。これによれば、前記の引出プーリ2が前記第1ボビン1から前記線条材料Yを弛みを伴わずに安定して引き出せる。
【0041】
以上に、本発明の好適な実施形態としての第1実施形態を説明した。本実施形態は、例えば以下のように変更することができる。
【0042】
上記第1実施形態において前記の回転検出手段としては、前記の第2サーボモータ12に内臓されている前記第2エンコーダ12aとしたが、これに限らず、例えばテンションプーリ11に対して適宜のエンコーダを設けてもよい。この場合、テンションプーリ11に設けられる当該エンコーダを、前記のパルス−速度指令値演算器30に対して適宜の電気線により接続することとなる(図2も併せて参照)。
【0043】
次に、本発明の第2実施形態に係る心線の巻取に用いられる巻取装置の構成に関して説明する。なお、ここでは、本実施形態が上述した第1実施形態と相違する点を中心に説明する。端的に言えば、本実施形態において前記の巻取装置はベルト成形用として用いられている。
【0044】
上記第1実施形態においてテンションが付与される対象は、例えばロープなどの線条材料とした。
これに対して本実施形態においてテンションが付与される対象は、例えば歯付ベルト、Vベルト、Vリブドベルト、平ベルトなどのベルトに対してその長手方向に埋設される心線である。この心線は、例えばスチール、ポリエステル、ポリアミド、芳香族アラミド繊維を材料として構成されている。即ち、前記の第1ボビン1には心線が巻回されている。
また、前記のテンションプーリ11によって適宜のテンションが付与された心線は、長手方向に当該心線を埋設したベルトを成形するための金型に対して心線を所定の間隔で螺旋状に巻きつける図略のスピニング装置へ供給されるように構成されている。要するに、上記第1実施形態における前記の第2ボビン10と、本実施形態におけるスピニング装置と、が対応関係にある。
【0045】
以上説明したように、本実施形態において心線の巻取は、以下のような方法で行われている。
即ち、前記心線の巻取は、具体的には、心線の送出方向の上流側に配置される第1ボビン1から前記心線を引き出し、長手方向に前記心線を埋設したベルトを成形するための金型に対して前記心線を所定の間隔で螺旋状に巻きつけるために前記送出方向の下流側に配置されるスピニング装置へ前記心線を供給する、ことである。
そして、前記の第1ボビン及びスピニング装置の間には、前記送出方向の上流側から順に、心線引出部と心線巻取部を設ける。
なお、前記の心線引出部とは、前記第1ボビン1と、この第1ボビン1よりも前記送出方向の下流側に配置し、前記第1ボビン1から前記心線を引き出すために、その軸部2aに第1サーボモータ3が接続されている引出プーリ2と、から成るものである。
また、前記の心線巻取部とは、前記スピニング装置と、このスピニング装置よりも前記送出方向の上流側に配置し、前記スピニング装置に供給される前記心線に適宜のテンションを付与するために、その軸部11aに第2サーボモータ12が接続されているテンションプーリ11と、から成るものである。
前記の第2サーボモータ12(又はテンションプーリ11でも勿論良い。)に回転検出手段としての第2エンコーダ12aを設ける。
前記第2エンコーダ12aにより検出される前記の第2サーボモータ12(又はテンションプーリ11)の回転を前記第1サーボモータ3に送信することにより、前記テンションプーリ11の周速度と前記引出プーリ2の周速度とを揃える。
【0046】
以上の構成によれば、上述した第1実施形態と同様に、線条材料Yの送出方向に沿って並設される一のプーリ(テンションプーリ11)の変動する周速度に、他のプーリ(引出プーリ2)の周速度を良好に追従させることができる。
またこれにより、前記の引出プーリ2及びテンションプーリ11に懸架される両プーリ2・11間の線条材料Yの長さ(例えば、線条材料Yのたるみ量)を略一定とできる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の第1実施形態に係る線条材料の巻取に用いられる巻取装置の概略図。
【図2】本発明の第1実施形態に係る巻取装置が有する制御システムのブロック図。
【符号の説明】
【0048】
1 第1ボビン
2 引出プーリ
3 第1サーボモータ
4 第1モータドライバ
10 第2ボビン
11 テンションプーリ
12 第2サーボモータ
12a 第2エンコーダ(図2参照)
20 ダンサー
21 ダンサー支持アーム
22 ポテンショメータ
30 パルス−速度指令値演算器
A 材料引出部
B 材料巻取部
M 材料接続部
Q 速度指令値
100 巻取装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線条材料の送出方向の上流側に配置される第1ボビンから前記線条材料を引き出し、前記送出方向の下流側に配置される第2ボビンによって前記線条材料を巻き取る、線条材料の巻取方法において、
前記の第1ボビン及び第2ボビンの間には、前記送出方向の上流側から順に、
前記第1ボビンと、この第1ボビンよりも前記送出方向の下流側に配置し、前記第1ボビンから前記線条材料を引き出すために、その軸部に第1サーボモータが接続されている引出プーリと、から成る材料引出部と、
前記第2ボビンと、この第2ボビンよりも前記送出方向の上流側に配置し、前記第2ボビンに巻き取られる前記線条材料に適宜のテンションを付与するために、その軸部に第2サーボモータが接続されているテンションプーリと、から成る材料巻取部と、
を設け、
前記の第2サーボモータ又はテンションプーリに回転検出手段を設け、
前記回転検出手段により検出される前記の第2サーボモータ又はテンションプーリの回転を前記第1サーボモータに送信することにより、
前記テンションプーリの周速度と前記引出プーリの周速度とを揃える、ことを特徴とする線条材料の巻取方法。
【請求項2】
請求項1に記載の線条材料の巻取方法において、
前記回転検出手段を、前記の第2サーボモータ又はテンションプーリの回転に伴ってパルス信号を出力可能なエンコーダとし、
下記式(1)で求める速度指令値Q[%]を前記第1サーボモータに送信し、
受信した前記速度指令値Q[%]に基づいて前記第1サーボモータに前記引出プーリの周速度を制御させる、ことを特徴とする線条材料の巻取方法。
【数1】

ただし、{x(t+Δt)−x(t)}[パルス]は、前記の第2サーボモータ又はテンションプーリの回転に伴って所定時間Δtの間に前記エンコーダが出力するパルス信号のパルス量とし、
P[ppr]は、前記エンコーダの1周分の分解能とし、
Dt[mm]は、前記テンションプーリの直径とし、
Dh[mm]は、前記引出プーリの直径とし、
S[rpm]は、前記第1サーボモータの定格回転数とする。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の線条材料の巻取方法において、
前記の材料引出部及び材料巻取部を連接するための材料接続部において前記線条材料上にダンサーを載置する、ことを特徴とする線条材料の巻取方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の線条材料の巻取方法において、
前記第1ボビンに回転制御手段を設ける、ことを特徴とする線条材料の巻取方法。
【請求項5】
心線の送出方向の上流側に配置される第1ボビンから前記心線を引き出し、長手方向に前記心線を埋設したベルトを成形するための金型に対して前記心線を所定の間隔で螺旋状に巻きつけるために前記送出方向の下流側に配置されるスピニング装置へ前記心線を供給する、心線の巻取方法において、
前記の第1ボビン及びスピニング装置の間には、前記送出方向の上流側から順に、
前記第1ボビンと、この第1ボビンよりも前記送出方向の下流側に配置し、前記第1ボビンから前記心線を引き出すために、その軸部に第1サーボモータが接続されている引出プーリと、から成る心線引出部と、
前記スピニング装置と、このスピニング装置よりも前記送出方向の上流側に配置し、前記スピニング装置に供給される前記心線に適宜のテンションを付与するために、その軸部に第2サーボモータが接続されているテンションプーリと、から成る心線巻取部と、
を設け、
前記の第2サーボモータ又はテンションプーリに回転検出手段を設け、
前記回転検出手段により検出される前記の第2サーボモータ又はテンションプーリの回転を前記第1サーボモータに送信することにより、
前記テンションプーリの周速度と前記引出プーリの周速度とを揃える、ことを特徴とする心線の巻取方法。
【請求項6】
請求項5に記載の心線の巻取方法において、
前記回転検出手段を、前記の第2サーボモータ又はテンションプーリの回転に伴ってパルス信号を出力可能なエンコーダとし、
下記式(1)で求める速度指令値Q[%]を前記第1サーボモータに送信し、
受信した前記速度指令値Q[%]に基づいて前記第1サーボモータに前記引出プーリの周速度を制御させる、ことを特徴とする心線の巻取方法。
【数1】

ただし、{x(t+Δt)−x(t)}[パルス]は、前記の第2サーボモータ又はテンションプーリの回転に伴って所定時間Δtの間に前記エンコーダが出力するパルス信号のパルス量とし、
P[ppr]は、前記エンコーダの1周分の分解能とし、
Dt[mm]は、前記テンションプーリの直径とし、
Dh[mm]は、前記引出プーリの直径とし、
S[rpm]は、前記第1サーボモータの定格回転数とする。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の心線の巻取方法において、
前記の材料引出部及び材料巻取部を連接するための材料接続部において前記心線上にダンサーを載置する、ことを特徴とする心線の巻取方法。
【請求項8】
請求項5〜7の何れかに記載の心線の巻取方法において、
前記第1ボビンに回転制御手段を設ける、ことを特徴とする心線の巻取方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−1484(P2008−1484A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−173632(P2006−173632)
【出願日】平成18年6月23日(2006.6.23)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】