説明

線溶亢進を伴う凝固障害の処置

本発明は、血友病障害などの線溶亢進を伴う凝固障害の処置のための医薬の製造のためのトロンボモジュリン類似体の使用に関する。このトロンボモジュリン類似体は、治療有効投薬量で抗フィブリン溶解効果を示す。新規なタンパク質改変も、その同定方法とともに開示する。この課題は、治療有効投薬量で抗フィブリン溶解効果を示すトロンボモジュリン類似体を含む、哺乳動物、特にヒトの線溶亢進を伴う凝固障害の処置のための医薬を提供することにより解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線溶亢進を伴う凝固障害の分野に関する。より詳しくは、本発明は、血友病Aまたは血友病Bなどの血友病(haemophila)疾患の処置に関する。
【背景技術】
【0002】
血友病は、血管が破れたときの出血を止めるために使用される血液の凝固(“clotting”または“coagulation”)を制御する身体の能力が障害された遺伝性の遺伝障害群である。血友病Aは、最も一般的な形態であり、第VIII因子の遺伝子における変異に起因しており;血友病Bは、クリスマス病としても知られており、第IX因子の遺伝子における変異に起因している。血友病Bは、血友病Aと同様、X連鎖型であり、血友病症例のおよそ12%を占める。その症状は、血友病Aのものと同一:損傷時の過剰な出血;および特発性出血(特に、体重負荷関節、軟部組織および粘膜への出血)である。関節への反復出血により関節血症になり、有痛性の肢体不自由な(crippling)関節症(これは、多くの場合、関節置換を必要とする)が引き起こされる。軟部組織における血腫は、壊死性の凝固血液で構成された偽腫瘍をもたらし得;これは、隣接器官を閉塞、圧迫または破裂させることがあり得、感染をひきおこし得る。血腫は、いったん形成されると、手術を伴っても処置が困難である。圧迫後の神経の回復は不充分であり、麻痺が生じる。胃腸管、中枢神経系または気道/腹膜後隙が関与する出血エピソードは、検出されなければ死に至ることがあり得る。頭蓋内出血は血友病患者の主な死亡原因である。
【0003】
米国では先天性血友病は100,000例と推定されている。このうち、およそ20,000例は血友病Bであり、かかる患者の血液は、第IX因子が完全にないか、または血漿中に第IX因子成分が重度に欠損しているかのいずれかである。したがって、該疾患は、種々の度合の重症度で存在し、毎週から年に1回または2回までの任意の場合での治療が必要とされる。完全欠損型症例では、毎週1回の補充療法が必要とされ;一部欠損型症例では、出血エピソードが起こったときだけ(これは、年に1回程度のめったにないものであり得る)治療が必要とされる。先天性の一部欠損型症例での出血エピソードは、一般的に、損傷単独によってではなく、一時的な後天的易罹患性によって引き起こされる。充分に大量の新鮮血漿または等価量の新鮮血液を静脈内注射すると、一時的に欠損型被験体の欠陥が修正される。この有益な効果は、多くの場合、2週間ないし3週間持続するが、患者の血液のインビトロ試験によって測定される凝固欠陥の改善は、2日ないし3日間しかみられない。
【0004】
新鮮血漿または新鮮血液を用いたかかる治療は有効であるが、いくつかの深刻な欠点を有する:(1)大量の新鮮血漿がすぐに利用可能なことが必要とされる;(2)該血漿の投与のために入院が必要とされる;(3)非常に多くの人数の患者が、血液または血漿の反復注入に対して感作された状態になり、最終的に致死性の輸血反応がみられる;(4)せいぜい、血漿で該欠損症が一部軽減され得るにすぎない;および(5)必要とされる大量の血液または血漿によって急性で致死性の浮腫が引き起こされるため、長期間の処置または手術が可能でない。
【0005】
改善された治療としては、第VIII因子濃縮物または第IX因子濃縮物での静脈内補充療法が挙げられる。しかしながら、この治療はまた、いくつかの不都合点があるという欠点をもつ:(1)大きな出血エピソードの処置の場合、迅速な検出および処置の後であっても組織の損傷が残る;(2)非常に多くの人数の患者が、凝固因子に対して抗療性となり、該凝固因子に対する阻害性抗体が発生する(いわゆるインヒビターを有する血友病);(3)ウイルス不活化法の改善にもかかわらず、依然として、致死性ウイルス(HIVおよびC型肝炎など)での汚染のリスクが高い(USAでは、血友病集団の50%より多く(10,000人超)が汚染血液の供給によってHIVに感染したと推定されている);(4)単離された凝固因子、特に組換え凝固因子は非常に高価であり、一般的に、発展途上諸国では入手できない。
【0006】
血友病における出血は、三重欠陥:(1)低組織因子濃度での外因性経路によるトロンビン生成の低減、(2)内因性経路によるトロンビン生成の二次バーストの低減、および(3)内因性経路によるフィブリン溶解系の欠陥性下方調節が原因であり得る複雑な病態生理学的プロセスであるため、補充療法を超える出血の処置または予防は難題である。
【0007】
トロンビン生成の低減によって凝固傾向の低減がもたらされ、したがって、出血リスクの増大がもたらされることは、一般的に、認知されている。しかしながら、過去10年間の研究により、フィブリン溶解の欠陥性下方調節が血友病において役割を果し得ることも示されている。その結果、血友病は、線溶亢進を伴う凝固障害にも分類され得る。
【0008】
この仮定は、最近の刊行物により、クロットを第VIII因子枯渇血漿(FVIII−DP)中で形成させ、組織プラスミノゲン活性化因子tPAを補給した場合、フィブリン溶解が充分に下方調節されず、その結果、クロットの溶解が早期に起こることをインビトロで示すことによって裏づけられている(非特許文献1;非特許文献2)。さらに、この「早期の溶解(premature lysis)」が、トロンビン活性化性フィブリン溶解インヒビター(TAFI)の活性化の低減または非存在のためであること(非特許文献1)ならびにFVIII−DP中では、活性化型TAFIを含有する混合物によってクロット溶解時間が増大することを示すことができた。安定化させたTAFIが血友病の処置に使用され得ると結論付けられた(特許文献1)。
【0009】
TAFIは、安定なクロットの形成に必要とされるフィブリン溶解の下方調節において重要な役割を果している。TAFIは、血漿プロカルボキシペプチダーゼB2またはプロカルボキシペプチダーゼUとしても知られており、トロンビン−トロンボモジュリン複合体に曝露されると、Arg92でのタンパク質分解により、フィブリン溶解を阻害する塩基性カルボキシペプチダーゼ(TAFIaまたは活性化型TAFI)に変換される血漿チモーゲンである。これは、プラスミノゲンの結合と活性化に重要なC末端のリシンおよびアルギニン残基をフィブリンから除去することにより、フィブリン溶解を強く弱める。
【0010】
上記のように、トロンビンとの複合体の状態のトロンボモジュリン(TM)は、TAFIの活性化を担う。トロンボモジュリンは、血管の内側を覆う内皮細胞上のトロンビン受容体として作用する膜タンパク質である。トロンビンは、フィブリノゲンをフィブリン(クロットマトリックスを構成する)に変換させる凝固カスケードにおける中心的な酵素である。初期では、局所損傷により、少量のトロンビンが、その不活性な前駆体プロトロンビンから生成される。このトロンビンが、さらに、血小板ならびに第2の特定の凝固因子(例えば、第Vおよび第VIII因子)を活性化させる。後者の作用によって、さらなるプロトロンビン分子の大量活性化(いわゆるトロンビンバースト)が起こり、これにより、最終的に安定なクロットの形成がもたらされる。
【0011】
しかしながら、トロンボモジュリンと結合した場合、トロンビンの活性の方向が変化する:トロンビン−トロンボモジュリン複合体の主要な特徴は、プロテインCを活性化させ、それにより、次いで必須の補因子である第Va因子と第VIIIa因子をタンパク質分解的に不活化することによって凝固カスケードを下方調節し(非特許文献3)、したがって、抗凝固活性をもたらす能力である。また、トロンビン−トロンボモジュリン複合体は、トロンビン活性化性フィブリン溶解インヒビター(TAFI)を活性化することもでき、その場合は、フィブリン溶解が拮抗される(上記参照)。
【0012】
成熟ヒトTMは、559残基の単一ポリペプチド鎖で構成されており、5つのドメイン:アミノ末端の「レクチン様」ドメイン、6つの上皮増殖因子(EGF)様反復配列(repeat)を含む「6 EGF様反復ドメイン」、O−グリコシル化ドメイン、膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインからなり、位置の特定は以下のとおりである(配列番号1または配列番号3に示すアミノ酸位置):
【0013】
【化1】

ウサギTMのタンパク質分解断片または組換えヒトTMの欠失変異体を用いた種々の構造−機能試験により、その活性が、最後の3つのEGF様反復配列に位置することが特定された。TAFI活性化を効率的に促進し得る最小の変異体には、上皮増殖因子3(EGF3)〜EGF6のcループを含む残基が含まれていた。この変異体は、Cを活性化させる最小の変異体よりも13残基長い;該最小の変異体は、EGF3とEGF4〜EGF6を連結するドメイン間ループ由来の残基からなるものであった。
【0014】
上記のように、血友病などの凝固障害を処置するための補充療法では、医療上の必要性が満たされていない。重要なことは、補充療法に使用されている凝固因子以外に、血友病患者を予防または処置することができる利用可能な薬物がないことである。
【0015】
したがって、線溶亢進を伴う凝固障害、特に血友病を予防または処置するための治療薬の開発に対する長年にわたる必要性にもかかわらず、進歩は遅く、安全で有効な治療薬はまだない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】国際公開第02/099098号
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】BrozeおよびHiguchi,Blood 1996,88:3815−3823
【非特許文献2】Mosnierら;Thromb.Haemost.2001,86:1035−1039
【非特許文献3】Esmonら,Ann.N.Y.Acad.Sci.(1991),614:30−43
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
したがって、本発明の課題は、線溶亢進を伴う凝固障害の処置のための新規な手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
この課題は、治療有効投薬量で抗フィブリン溶解効果を示すトロンボモジュリン類似体を含む、哺乳動物、特にヒトの線溶亢進を伴う凝固障害の処置のための医薬を提供することにより解決される。
【0020】
この新規なアプローチは、トロンボモジュリンを、高い血漿濃度、特に15nMより高い、特に20、30、40または50nMより高い(少なくとも100nMまで)の濃度であってもフィブリン溶解促進活性が広くみられる抗フィブリン溶解活性を示すような様式で改変することができるというめざましい所見に基づく。したがって、このようなTM類似体は抗フィブリン溶解効果を示し、そのため本発明による使用に適している。
【0021】
この抗フィブリン溶解効果は、血友病患者由来の血漿(これは第VIII因子が枯渇している;FVIII−DP)中で示された。それと共に、かかるトロンボモジュリン類似体が治療薬として使用され得ることを実証した。
【0022】
これまで、血友病の処置に対するトロンボモジュリンの治療的使用は現実的な選択肢とはみなされていなかった。これは、ウサギ肺トロンボモジュリン(rlTM)により、かなり低い濃度であっても、常に、抗フィブリン溶解活性とフィブリン溶解促進活性の両方を有することがわかっていたためである(MosnierおよびBouma;Arterioscler.Thromb.Vasc.Biol.2006;26:2445−2453;特に図5参照)。15nMより低いrlTM血漿濃度では、rlTMによってクロット溶解時間が増大するが、15nMより高い血漿濃度では、溶解時間の著しい減少が示され(Mosnierら,2001,MosnierおよびBouma,2006)、最終的な結果としてフィブリン溶解促進効果がみられた。より高濃度でのこのフィブリン溶解促進効果により、血友病におけるなんらかの治療的使用は禁止されている。なぜなら、過剰投与の可能性または個体の易罹患性のばらつきによって出血事象が致死的に悪化したり、長期化したり、または引き起こされることすらあり得るためである。
【0023】
本発明によれば、抗フィブリン溶解効果を示し、したがって本発明による処置に適したTM類似体がもたらされる種々の選択肢が存在する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、第VIII因子欠損血漿(FVIII−DP)、正常血漿(NP)およびNPと混合したFVIII−DPのクロット溶解プロフィールおよび溶解時間を示す。クロット溶解プロフィールは、0(―――)、1(・・・・)、6(−−−)、10(―・・―・・―)、50(― ― ―)および100%(―・―・―)NPで示す。クロット溶解プロフィールから、最大光学密度の2分の1になるまでクロットが分解された時点を採用することにより、溶解時間を決定した。差し込み図に溶解時間をまとめており、一般的な傾向は、NPの割合(したがって、FVIIIの量)が増大するにつれて、溶解時間も増大する。溶解時間に対するNPの添加の効果は、10%NPで平坦域に達する。
【図2】図2は、種々の割合のFVIIIを含有する血漿中におけるトロンビン活性化性フィブリン溶解インヒビター(TAFI)の活性化を示す。(A)FVIII欠損血漿(FVIII−DP)を正常血漿(NP)と混合すると、TAFI活性化は増強される。FVIII−DPでは、そのピーク(●)においてわずか30pMのTAFIaが測定されたのに対し、50%NP(□)および100%NP(△)では約600pMのTAFIaが測定された。この実験は三連で行なった。データは平均値±SEで示す。TAFIa産生能(B)(本明細書において、クロット開始時点から最後の時点までの活性化の時間的推移プロット(A)下面積と定義)は、NPの割合が増大するにつれて増大し、50%NPで平坦域となる。50%NPおよび100%NPのTAFIa産生能は、それぞれのTAFI活性化プロットの形状がかなり異なるにもかかわらず類似している(それぞれ、14,100pM分および16,800pM分)。溶解時間(図1,差し込み図)とTAFIa産生能の間の関係を(FVIIIレベルに関係しているため)、log溶解時間に対するlog TAFIa産生能のプロットを用いて示す(図2B,差し込み図)。予測どおり、データは、0〜100%のFVIIIを含有する血漿中において溶解時間とTAFIa産生能間の強い正の相関を示す。
【図3】図3は、種々の割合のFVIIIを含有する血漿中におけるプロトロンビンの活性化を示す。プロトロンビン活性化の時間的推移を、0(●)、1(■)、6(▲)、10(○)、50(□)および100%NP(△)と混合したFVIIIDPについて示す。一般的に、プロトロンビンの活性化速度は、NPの割合が増大するにつれて増大する。50%NPでは、プロトロンビン活性化は高速で起こり(各プロットの傾きを調べることによって判定する通り)、15以内に終わるようであるが、100%NPでは、プロトロンビン活性化の速度は遅く、長期間にわたる。
【図4】図4は、sTM(0〜100nM)およびtPA(0.25〜3nM)がともに種々の濃度で存在する正常血漿(NP)および第VIII因子欠損血漿(FVIII−DP)中における、トロンビン活性化性フィブリン溶解インヒビター(TAFI)の活性化に対するsTMの効果を示す。FVIII−DP中における溶解延長のTAFIa依存性欠陥は、0.25nM tPAを含有する血漿に100nMのsTMを添加することによって修正される。tPA濃度が増大するにつれて、溶解の欠陥のわずかな一部修正が、100nM sTM存在下のFVIII−DPにおいて観察される。この実験では、イモ塊茎カルボキシペプチダーゼ阻害剤(PTCI)を用いて、機能性TAFIaなしの状態を作出した。したがって、溶解の増大(あれば)(溶解時間/溶解時間+PTCIの比率で示される)はTAFIa依存性である。
【図5】図5は、10nMトロンボモジュリンの存在下(●)またはトロンボモジュリンなし(○)での、正常血漿(NP)(A)およびFVIII欠損血漿(FVIII−DP)(B)におけるTAFI活性化およびクロット溶解プロフィールを示す。sTMを伴うクロット溶解プロフィールを示し(―)、sTMなしでのクロット溶解プロフィールを参照として示す(−−−)。この実験は三連で行なった。データは平均値±SEで示す。
【図6】図6は、トロンボモジュリンに対するトロンビン結合を示す。トロンボモジュリンに対するトロンビンの結合は、20mM Tris・HCl,150mM NaCl,5.0mM Ca2+,0.01%Tween80溶液中のトロンビン(20nM)およびDAPA(20nM)で構成された1.5mlを、同一の溶液中の1.54μMのトロンボモジュリンで滴定することによって測定した。蛍光強度を測定した(λex=280nm,λem=545nm)。
【図7】図7は、TAFIおよびプロテインCの活性化における点変異体の相対補因子活性を示す。可溶性トロンボモジュリンにおける点変異の作製には、アラニンスキャニング変異誘発を使用した。プロテインCおよびTAFIの活性化の速度(変異体TMM388Lでの活性化の速度と比較して)を、TAFI(黒バー)およびプロテインC(斜線バー)について示す。
【図8】図8は、EGF4とEGF5の間のドメイン間ループの変異を示す。3種類の独立したプラスミドを、各変異体について大腸菌において構築した。ショッケートを調製し、APCアッセイによって補因子活性についてアッセイし、試料をウエスタンブロットにおいて解析した(図示せず)。活性の値は3つの別々のクローンの平均である。パネルA,Gln387における置換変異体;パネルB,Met386における置換;パネルC,Phe389における置換変異体;パネルD,ドメイン間ループにおける欠失およびアラニン挿入。対照プラスミドpSelect(TM挿入配列なし)でトランスフェクトした大腸菌からのショッケートについて測定した活性を示す。さらなる詳細については、Clarkeら(J.Biol.Chem.1993;268:6309−6315)を参照のこと。
【図9−1】図9は、トロンボモジュリン(MosnierおよびBouma,Arterioscler.Thomb.Vasc.Biol.2006;26:2445−2453後の改変型)のフィブリン溶解促進効果および抗フィブリン溶解効果の概略図を示す。低いTM濃度でのクロット溶解時間の増大は、TAFI活性化の刺激に起因し、TMの抗フィブリン溶解活性を示す。ウサギ肺TMがより高い濃度では、プロテインCの活性化とTAFI活性化の阻害のためクロット溶解時間が減少し、これは、ウサギ肺TMのフィブリン溶解促進活性を示す(実線)。15nMより上では、ウサギ肺TMのフィブリン溶解促進活性は抗フィブリン溶解活性を上回り、全体的にフィブリン溶解促進効果がもたらされることに注目のこと。対照的に、可溶性TM類似体は抗フィブリン溶解効果のみを示す(破線)。
【図9−2】表1は、図4を作成するのに使用したデータ(各条件下での溶解時間の測定を可能にするためのPTCIの存在下での絶対溶解時間など)のまとめを示す。すべての場合において、溶解時間は、TAFIa阻害剤PTCIの存在下で得られた溶解時間に相対的に示している。TAFIはトロンビン活性化性フィブリン溶解インヒビター;PTCIはイモ塊茎カルボキシペプチダーゼ阻害剤。
【図9−3】表2は、TM(Sf9)の部位特異的変異体類似体のクロラミンTによる酸化を示す。クロラミンT処理後の結果を、対照での処理後の活性に対する割合で示した。二連の測定値の平均および平均値からの偏差。
【発明を実施するための形態】
【0025】
一実施形態において、トロンボモジュリン類似体は、トロンビンに対する結合親和性が低減された状態で使用され得る。そのため、該類似体により正常血漿およびFVIII−DP中におけるクロット溶解が延長され得る(例えば100nMまで)(図4)。
【0026】
この所見の重要性は、このようなトロンボモジュリン類似体が高濃度であっても、有害なフィブリン溶解促進効果なしで抗フィブリン溶解効果を示すことである。この濃度は、治療有効投薬量をはるかに超えている。したがって、TM類似体により線溶亢進を伴う凝固障害の処置が可能になる。
【0027】
この理論に拘束されないが、本発明者らは、TM類似体のこの治療潜在力は、該類似体がトロンビンに対して著しく低減された親和性を示すことによって説明され得ることを示した。これは、トロンビンとウサギ肺トロンボモジュリンとの結合で観察された0.2nMのK値(Esmonら,Ann.NY.Acad.Sci.1986,485:215−220)とは対照的に23nMのK値を見い出したBajzarら(J.Biol.Chem 1996;271:16603−16608)によって示された。
【0028】
したがって、本発明の一実施形態によれば、ウサギ肺トロンボモジュリンと比べてトロンビンに対する結合親和性が低減されたトロンボモジュリン類似体が、線溶亢進を伴う凝固障害の処置のために使用され得る。
【0029】
特に、0.2nMより大きい、好ましくは、1nM、2nM、4nM、5nM、7.5nM、10nM、12.5nM、15nM、17.5nM、20nM、22.5nMまたは25nMより大きいトロンビン結合に関するK、より好ましくは、10〜30nMの範囲またはそれより大きいK値を示すトロンボモジュリン類似体が使用され得る。
【0030】
本発明のさらなる実施形態では、トロンボモジュリン類似体の低減されたフィブリン溶解促進活性は、プロテインCを活性化させる能力(いわゆる「補因子活性」)の低減によるものであり得る。プロテインCの活性化によってフィブリン溶解の上方調節がもたらされるため(Mosnierら,2001)、補因子活性の低下によりクロット溶解時間が延長される。当業者であれば、トロンボモジュリンの補因子活性を低下させるためのいくつかのストラテジーを知っている(例えば、グリコシル化の変更、タンパク質の二次もしくは三次構造の変更または好ましくは、一次構造の変更(例えば、1つ以上のアミノ酸の変異によって)など)。
【0031】
また別の実施形態では、トロンボモジュリン類似体TMM388L(ここで、TMは、6つのEGFドメインのみからなる類似体を表す)と比べて補因子活性が低下したTM類似体が使用され得る。
【0032】
また、TAFIの活性化によってフィブリン溶解の下方調節がもたらされるため(MosnierおよびBouma,2006)、本発明によれば、TAFIを活性化する能力(いわゆる「TAFI活性化活性」)が増大したトロンボモジュリン類似体も使用され得る。当業者にとって、トロンボモジュリンによるTAFI活性化活性を増大させるためのいくつかのストラテジーがある(グリコシル化の変更、タンパク質の二次もしくは三次構造の変更または好ましくは、一次構造の変更(例えば、1つ以上のアミノ酸の変異によって)など)。
【0033】
特に、本発明はまた、トロンボモジュリン類似体TMM388Lと比べて補因子活性に対するTAFI活性化活性の比率を有意に増大したトロンボモジュリン類似体を提供する。
【0034】
注目すべきことに、本発明によれば、凝固障害の処置のために使用されるTM類似体は、上記の特徴、すなわち:
(i)ウサギ肺トロンボモジュリンと比べて低減されたトロンビンに対する結合親和性、および/またはk値が0.2nMより大きいトロンビンに対する結合親和性;
(ii)TM類似体TMEM388Lの補因子活性と比べて低下した補因子活性、あるいは
(iii)TM類似体TMM388Lと比べて増大した補因子活性に対するTAFI活性化活性の比率
の1つ以上を有する。
【0035】
本発明の一実施形態では、トロンボモジュリンは、正常被験体と比べて顕著に低減されたフィブリン溶解を伴って(または低減がわずかであっても)生じる任意の凝固障害を有するヒト患者を処置するために使用され得る。特に、以下の疾患:血友病A、血友病B、血友病C、フォン・ヴィレブランド病(vWD)、後天性フォン・ヴィレブランド病、第X因子欠損症、パラ血友病、凝固第I、II、VもしくはVII因子の遺伝性障害、循環抗凝血素(例えば、第VIII因子などの凝固因子に対する自己抗体)による出血性障害または後天性凝固欠損症は、該トロンボモジュリンの類似体によって処置され得る。
【0036】
本発明の処置によって維持または達成され得る治療の好成績は、任意の具体的な患者の疾患の性質および程度に依存することは理解される。
【0037】
本発明の特定の実施形態は、出血を予防するための凝固障害の予防的処置、または出血が起こったとき(「オンデマンド」)の急性処置に関するものである。トロンボモジュリン類似体での処置対象の出血事象は、生物体のどの器官または組織で起こるものであってもよく、最も重要ものは、中枢神経系(例えば、頭蓋内出血として)、関節、筋肉、胃腸管、呼吸路、腹膜後隙または軟部組織内で起こるものであり得る。
【0038】
予防的処置では、TM類似体は患者に、一定間隔で長期間にわたって施与され得る。しかしながら、かなり限定された期間での複数回投与(「半長期的処置(subchronic treatment)」)も可能である。
【0039】
本発明の一実施形態において、トロンボモジュリン類似体は、出血リスクがより高くなる前、例えば、手術または抜歯の前に施与される。
【0040】
本発明のさらなる実施形態では、トロンボモジュリン類似体は、血液もしくは血漿の輸血または凝固因子を用いた補充療法などの標準的な治療に対して抗療性の患者に投与される。
【0041】
本発明によれば、TM類似体は、1週間未満から4週間までの合計期間にわたって、複数回用量で、好ましくは1日1回投与され得るが、2日に1回、または3日、4日、5日、6日もしくは7日おきに1回、より好ましくは長期投与として投与してもよい。したがって、本発明によれば、トロンボモジュリン類似体の複数回投与を可能にするのに適した医薬組成物が提供される。
【0042】
TM類似体は、好ましくは、非経口適用として、例えば、静脈内または皮下適用によって非経口で施与される。静脈内または皮下でのボーラス適用が可能である。したがって、本発明によれば、トロンボモジュリンの非経口投与に適した医薬組成物が提供される。
【0043】
本発明の一実施形態において、トロンボモジュリン類似体は、可溶性TM類似体、特に、細胞質ドメインが欠失しており、膜貫通ドメインが完全または部分的に欠失しているTM類似体である。
【0044】
本発明の好ましい実施形態では、トロンボモジュリン類似体は、EGF3、EGF4、EGF5、またはEGF6を含む群、好ましくは、EGFドメインEGF1〜EGF6を含む群、より好ましくは、EGFドメインEGF3〜EGF6を含む群、最も好ましくは、EGFドメインEGF4〜EGF6を含む群、から選択される少なくとも1つの構造ドメインを含み、特に、上皮増殖因子3(EGF3)〜EGF6のcループを含む断片を含むものである。
【0045】
可溶性トロンボモジュリンの種々の形態、例えば、いわゆるART−123(Asahi Corporation(東京,日本)によって開発されたもの)または組換え可溶性ヒトトロンボモジュリンであるSolulin(現在、PAION Deutschland GmbH,アーヘン(Germany)によって開発中)が当業者に知られている。組換え可溶性トロンボモジュリン、すなわち、アミノ酸配列の改変なしの可溶性トロンボモジュリンは、Asahi社の特許EP0312598の主題である。
【0046】
Solulinは、可溶性であるとともにプロテアーゼと酸化に抵抗性であるヒトトロンボモジュリン類似体であり、したがってインビボで長寿命を示す。Solulinは、トロンビンを排他的に阻害するものでないため、その主な特徴は広い作用機序にある。また、これは、TAFIおよび天然プロテインC/プロテインS経路も活性化する。トロンビン結合が低減される結果、Solulinは、さらに高濃度までフィブリン溶解を阻害する。
【0047】
Solulinは、とりわけ、欧州特許0641215 B1、EP0544826 B1 ならびにEP0527821 B1の主題である。Solulinは、天然ヒトトロンボモジュリンの配列(配列番号1)と比較すると、以下の位置での改変を含む:G−3V、アミノ酸1〜3の除去、M388L、R456G、H457Q、S474AおよびP490での終結。この番号付けシステムは、配列番号1と配列番号3の天然トロンボモジュリンに従っている。本発明の好ましい一実施形態としてのSolulinの配列を配列番号2に示す。
【0048】
しかしながら、注意すべきことに、本発明によれば、上記の特性または上記の欧州特許文献EP0544826 B1、EP0641215 B1およびEP0527821 B1に概要が示された特性の1つだけ、または1超を含むトロンボモジュリン類似体もまた使用され得る。
【0049】
本発明により適用可能な特に好ましいトロンボモジュリン類似体は、
以下の特性:
(i) 酸化抵抗性を示す
(ii) プロテアーゼ抵抗性を示す
(iii) 均一なN−末端またはC−末端を有する
(iv) 例えば、天然トロンボモジュリン(配列番号1)のグリコシル化部位の少なくとも一部のグリコシル化によって翻訳後修飾されている
(v) 線形の二重逆数トロンビン結合特性を有する
(vi) デタージェントの量が比較的少ない水溶液中で可溶性であり、典型的には膜貫通配列がない
(vii) グリコサミノグリカン鎖がない
の1つ以上を有するものである。
【0050】
本発明に使用されるこのような類似体の製造は、上記の欧州特許文献に開示されている。
【0051】
本発明の一実施形態では、Solulinの6つのEGFドメインのみ、特に、EGF4〜EGF6ドメインからなるSolulin断片が使用され得る。
【0052】
一実施形態では、WO93/25675で知られているような補因子活性が低減されたトロンボモジュリン類似体が使用され得る。対照ヒト可溶性トロンボモジュリン(TMM388L)の約50%以下の補因子活性を有する一連のトロンボモジュリン類似体を本明細書において記載する。
【0053】
より詳しくは、前記トロンボモジュリン類似体は、トロンビンに結合すると、TMM388Lとの結合と比べて50%以下の改変補因子活性を示す。前記類似体は、配列番号1または配列番号3に示すアミノ酸位置に対応する1つ以上の位置にアミノ酸置換:
aa) 349Asp;
bb) 355Asn;
ac) 357Glu;
ad) 358Tyr;
ae) 359Gln;
af) 363Leu;
ai) 368Tyr;
aj) 371Val;
ak) 374Glu;
al) 376Phe;
am) 384His;
an) 385Arg;
ba) 387Gln;
bb) 389Phe;
bc) 398Asp;
bd) 400Asp;
be) 402Asn;
bf) 403Thr;
bg) 408Glu;
bh) 411Glu;
bi) 413Tyr;
bj) 414Ile;
bk) 415Leu;
bl) 416Asp;
bm) 417Asp;
bn) 420Ile;
ca) 423Asp;
cb) 424Ile;
cc) 425Asp;
cd) 426Glu;
ce) 428Glu;
cf) 429Asp;
cg) 432Phe;
ch) 434Ser;
ci) 436Val;
cj) 438His;
ck) 439Asp;
cl) 440Leu;
cm) 443Thr;
cn) 444Phe;
co) 445Glu;
cp) 456Arg;
cq) 458Ile;または
cr) 461Asp
を有する。
【0054】
最も好ましいのは、上に列挙した置換のうちの1つだけを有するTM類似体である。便宜上、左側の表記、例えば、aa)は、各改変部位に対して同一である。最初の文字はEGFドメインを表し、ここで、aはEGF4であり;bはEGF5であり、cはEGF6である。2番目の文字は、配列表(the listing)内の他の残基に対する改変の相対位置を表す。また、本明細書において、上記のTM類似体をコードする核酸も示す。
【0055】
以下の類似体は、上記に示した類似体の好ましいサブセットを構成し、これらの類似体は、対照TMM388Lの25%以下の補因子活性を有する。このような類似体は、1つ以上のアミノ酸置換(好ましくは1つだけ)(配列番号1または配列番号3に示すアミノ酸位置):
aa) 349Asp;
ac) 357Glu;
ad) 358Tyr;
ae) 359Gln;
aj) 371Val;
ak) 374Glu;
al) 376Phe;
bc) 398Asp;
bd) 400Asp;
be) 402Asn;
bg) 408Glu;
bi) 413Tyr;
bj) 414Ile;
bk) 415Leu;
bl) 416Asp;
bm) 417Asp;
bo) 423Asp;
bp) 424Ile;
bq) 425Asp;
cd) 426Glu;
ce) 429Asp;
ck) 439Asp;
cn) 444Phe;または
cr) 461Asp
を有する。
【0056】
プロテアーゼ活性、脂肪族置換、酸化抵抗性および均一な末端に関する上記に示した改変は、対照の50%未満の補因子活性を有する上記の類似体にも適用可能である。
【0057】
好ましいのは、対照の30%未満の活性を有する上に列挙したものである。このような類似体は、ドメイン4における変異によって表される。このような類似体は、1つ以上のアミノ酸置換(好ましくは1つだけ)(配列番号1または配列番号3に示すアミノ酸位置):
aa) 349Asp;
ac) 357Glu;
ad) 358Tyr;
ae) 359Gln;
aj) 371Val;または
al) 376Phe
を有する。
【0058】
また、本明細書では、TMEM388Lと比べて本質的に改変されていないK値を有する類似体を記載する。EGF5およびEGF6はトロンビンに対する高親和性結合に重要な役割を果すことがわかっているが、結合におけるEGF4の役割の重要性が低いことが、TM/トロンビン複合体に対する補因子活性の付与に重要である。この理由のため、EGF反復配列5および6に改変を有する類似体は、ほぼ同じ補因子活性を有し得るが、TMM388L、例えば(S406A)と比べてKは小さい。EGF反復配列5および6に改変を有する類似体(補因子活性の低下がもたらされたもの)を以下に示す。このような類似体は、1つ以上のアミノ酸置換(好ましくは1つだけ)(配列番号1または配列番号3に示すアミノ酸位置):
bc) 398Asp;
bd) 400Asp;
be) 402Asn;
bf) 403Thr;
bg) 408Glu;
bi) 413Tyr;
bj) 414Ile;
bk) 415Leu;
bl) 416Asp;
bm) 417Asp;
ca) 423Asp;
cb) 424Ile;
cc) 425Asp;
cd) 426Glu;
cf) 429Asp;
ck) 439Asp;
cn) 444Phe;または
cr) 461Asp
を有する。
【0059】
上記の類似体は、それぞれのドメイン(すなわち、EGF4、EGF5またはEFG6)ならびにそれぞれの相対活性によっても分類され得る。例えば、対照のおよそ50%の補因子活性を有するEGF4の類似体は(配列番号1または配列番号3に示すアミノ酸位置):
aa) 349Asp;
bb) 355Asn;
ac) 357Glu;
ad) 358Tyr;
ae) 359Gln;
af) 363Leu;
ai) 368Tyr;
aj) 371Val;
ak) 374Glu;
al) 376Phe;
am) 384His;または
an) 385Arg
である。
【0060】
最も好ましいのは、上に列挙した置換のうちの1つだけを有するTM類似体である。
【0061】
EGF4に対照の25%未満の補因子活性を有するものは(配列番号1または配列番号3に示すアミノ酸位置):
aa) 349Asp;
ac) 357Glu;
ad) 358Tyr;
ae) 359Gln;
aj) 371Val;または
al) 376Phe
である。
【0062】
最も好ましいのは、上に列挙した置換のうちの1つだけを有するTM類似体である。
【0063】
EGF5において、以下の改変(配列番号1または配列番号3に示すアミノ酸位置):
bc) 398Asp;
bd) 400Asp;
be) 402Asn;
bf) 403Thr;
bg) 408Glu;
bh) 411Glu;
bi) 413Tyr;
bj) 414Ile;
bk) 415Leu;
bl) 416Asp;
bm) 417Asp;または
bn) 420Ile
により、補因子活性が少なくとも50%の低下した類似体がもたらされた。
【0064】
最も好ましいのは、上に列挙した置換のうちの1つだけを有するTM類似体である。とりわけ、このような類似体は、TMM388Lと比べて本質的に改変されていないkCat/Kmを有する類似体である。
【0065】
EGF5において、該類似体は、補因子活性が少なくとも75%低下した類似体をもたらした改変(配列番号1または配列番号3に示すアミノ酸位置):
bc) 398Asp;
bd) 400Asp;
be) 402Asn;
bg) 408Glu;
bi) 413Tyr;
bj) 414Ile;
bk) 415Leu;
bl) 416Asp;または
bm) 417Asp
に従ってさらに小群に分けられ得る。
【0066】
最も好ましいのは、上に列挙した置換のうちの1つだけを有するTM類似体である。とりわけ、このような類似体は、TMEM388Lと比べて本質的に改変されていないkCat/Kmを有する類似体である。また、上記の類似体をコードする核酸も示す。
【0067】
EGF6に関して、その群を以下に示す。対照の50%未満の補因子活性を有するものは(配列番号1または配列番号3に示すアミノ酸位置):
ca) 423Asp;
cb) 424Ile;
cc) 425Asp;
cd) 426Glu;
ce) 428Glu;
cf) 429Asp;
cg) 432Phe;
ch) 434Ser;
ci) 436Val;
cj) 438His;
ck) 439Asp;
cl) 440Leu;
cm) 443Thr;
cn) 444Phe;
co) 445Glu;
cp) 456Arg;
cq) 458Ile;または
cr) 461Asp
である。
【0068】
最も好ましいのは、上に列挙した置換のうちの1つだけを有するTM類似体である。
【0069】
対照の25%未満の補因子活性を有するものは(配列番号1または配列番号3に示すアミノ酸位置):
ca) 423Asp;
cb) 424Ile;
cc) 425Asp;
cd) 426Glu;
cf) 429Asp;
ck) 439Asp;
cn) 444Phe;または
cr) 461Asp
である。
【0070】
最も好ましいのは、上に列挙した置換のうちの1つだけを有するTM類似体である。好ましい類似体は、可溶性、プロテアーゼ抵抗性、酸化抵抗性ならびに均一な末端に関するさらなる改変を有する上記に示したものである。このような類似体をコードする核酸もまた、特許請求の範囲に記載の発明の一部である。その他の群と同様、このような類似体は、TMM388Lと比べて本質的に改変されていないkCat/Kmを有するものを包含する。
【0071】
該類似体は、特定の位置に改変アミノ酸を有するものに従ってさらに小群に分けられ得、前記類似体は、前記の位置に天然残基を有する類似体と比べて本質的に同等のトロンビンに対するKを有し、前記の位置は(配列番号1または配列番号3に示すアミノ酸位置):
aa) 349Asp;
bb) 355Asn;
ac) 357Glu;
ad) 358Tyr;または
ae) 359Gln
に対応する。
【0072】
最も好ましいのは、上に列挙した置換のうちの1つだけを有するTM類似体である。このような類似体は、対照の30%未満の改変されたkCat/Kmを有するものであり得る。
【0073】
以下の部位は、前記の位置に天然残基を有する類似体と比べて改変されたKまたはkCat/Kmを有する記載の類似体を包含し、前記の位置は(配列番号1または配列番号3に示すアミノ酸位置):
af) 363Leu;
aj) 371Val;
ak) 374Glu;
al) 376Phe;
am) 384His;
an) 385Arg;
bc) 398Asp;
bd) 400Asp;または
be) 402Asn
に対応する。
【0074】
最も好ましいのは、上に列挙した置換のうちの1つだけを有するTM類似体である。これらは、さらに、ともに改変されたKとkCat/Kmを有する類似体、特に、少なくとも20%改変されたものを包含する。
【0075】
以下の部位は、低い補因子活性を有し、前記の位置に天然残基を有する類似体と比較した場合、本質的に同等のKまたはkCat/Kmを有する類似体を示し、前記の位置は(配列番号1または配列番号3に示すアミノ酸位置):
bg) 408Glu;
bh) 411Glu;
bi) 413Tyr;
bj) 414Ile;
bk) 415Leu;
bl) 416Asp;
bm) 417Asp;
bn) 420Ile;
ca) 423Asp;
cb) 424Ile;
cc) 425Asp;
cd) 426Glu;
ce) 428Glu;
cf) 429Asp;
cg) 432Phe;
ch) 434Ser;
ci) 436Val;
cj) 438His;
ck) 439Asp;
cl) 440Leu;
cm) 443Thr;
cn) 444Phe;
co) 445Glu;
cp) 456Arg;
cq) 458Ile;または
cr) 461Asp
に対応する。
【0076】
最も好ましいのは、上に列挙した置換のうちの1つだけを有するTM類似体である。
【0077】
以下の位置は、補因子活性の少なくとも75%の低下がもたらされたが、kcat/Kmは本質的にほとんど変化しなかった改変について小群分けしたものを示す(配列番号1または配列番号3に示すアミノ酸位置):
bg) 408Glu;
bi) 413Tyr;
bj) 414Ile;
bk) 415Leu;
bl) 416Asp;
bm) 417Asp;
ca) 423Asp;
cb) 424Ile;
cc) 425Asp;
cd) 426Glu;
cf) 429Asp;
ck) 439Asp;
cn) 444Phe;または
cr) 461Asp。
【0078】
最も好ましいのは、上に列挙した置換のうちの1つだけを有するTM類似体である。トロンビンに対するKが少なくとも30%改変された上記の改変のさらなる小群分けを行なってもよい。
【0079】
さらに、本発明は方法を提供する。より詳しくは、本明細書において、改変されたトロンビン結合のKdを示すトロンボモジュリン類似体のスクリーニングに有用な方法であって、
a) 位置(配列番号1または配列番号3に示すアミノ酸位置):
bg) 408Glu;
bi) 413Tyr;
bj) 414Ile;
bk) 415Leu;
bl) 416Asp;
bm) 417Asp;
bn) 420Ile;
ca) 423Asp;
cb) 424Ile;
cc) 425Asp;
cd) 426Glu;
ce) 428Glu;
cf) 429Asp;
cg) 432Phe;
ch) 434Ser;
ci) 436Val;
cj) 438His;
ck) 439Asp;
cl) 440Leu;
cm) 443Thr;
cn) 444Phe;
co) 445Glu;
cp) 456Arg;
cq) 458Ile;
cr) 461Asp;
にアミノ酸置換を作製する工程、および
b) トロンビンに対するKを対照分子と比較する工程
を含む方法を記載する。
【0080】
この方法において用いる場合、アミノ酸置換を1つだけ有するTM類似体が好ましい。本発明の種々の実施形態は、前記Kが少なくとも33%改変されたもの、または前記改変がアミノ酸置換であるもの、または前記対照分子がTMM388Lであるものを包含する。該方法における使用のための改変の好ましい群分けは(配列番号1または配列番号3に示すアミノ酸位置):
bg) 408Glu;
bi) 413Tyr;
bj) 414Ile;
bk) 415Leu;
bl) 416Asp;
bm) 417Asp;
ca) 423Asp;
cb) 424Ile;
cc) 425Asp;
cd) 426Glu;
cf) 429Asp;
ck) 439Asp;
cn) 444Phe;または
cr) 461Asp
である。
【0081】
この方法において用いる場合、アミノ酸置換を1つだけ有するTM類似体が好ましい。
【0082】
本明細書において、トロンビンへの結合に関して改変された補因子活性を有するトロンボモジュリン類似体のスクリーニングに有用な別の方法であって、
a) 位置(配列番号1または配列番号3に示すアミノ酸位置):
aa) 349Asp;
bb) 355Asn;
ac) 357Glu;
ad) 358Tyr;
ae) 359Gln;
にアミノ酸置換を作製する工程、および
b) トロンビンへの結合に関する補因子活性の割合を対照分子の割合と比較する工程
を含む方法を記載する。
【0083】
この方法において用いる場合、アミノ酸置換を1つだけ有するTM類似体が好ましい。
【0084】
本発明の好ましい実施形態では、トロンボモジュリン類似体が、376位(配列番号1または配列番号3)のフェニルアラニン残基の改変を有する。この残基は、当業者によく知られた方法によって化学的または生化学的に改変され得るか、または欠失され得る。該フェニルアラニン残基は、好ましくは脂肪族アミノ酸で、より好ましくはグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、またはイソロイシンで置換され、最も好ましくはアラニンで置換される。アラニンでのPhe376の置換(「F376A」)により、TAFI活性化活性を保持したまま、トロンボモジュリン類似体の補因子活性がかなり減少することが実証された(図7参照)。その結果、F376A−TM類似体では、補因子活性に対するTAFI活性化活性の比率が増大している。
【0085】
本発明のさらなる実施形態では、トロンボモジュリン類似体が、387位(配列番号1または配列番号3)のグルタミン残基の改変を有する。該グルタミン残基は、好ましくは、以下のアミノ酸(得られる変異体Gln387X−TM類似体(図8A参照)の補因子活性の降順に):Met、Thr、Ala、Glu、His、Arg、Ser、Val、Lys、Gly、Ile、Tr、Tyr、Leu、Asn、Phe、Asp、Cysで置換される。
【0086】
本発明の別の実施形態では、トロンボモジュリン類似体が、388位(配列番号1または配列番号3)のメチオニン残基の改変を有する。該メチオニン残基は、好ましくは、以下のアミノ酸(得られる変異体Met388X−TM類似体(図8B参照)の補因子活性の降順に):Gln、Tyr、Ile、Phe、His、Arg、Pro、Val、Thr、Ser、Ala、Trp、Asn、Lys、Gly、Glu、Asp、Cysで置換される。
【0087】
本発明のさらなる実施形態では、トロンボモジュリン類似体が、389位(配列番号1または配列番号3)のフェニルアラニン残基の改変を有する。該フェニルアラニン残基は、好ましくは、以下のアミノ酸(得られる変異体Phe389X−TM類似体(図8C参照)の補因子活性の降順に):Val、Glu、Thr、Ala、His、Trp、Asp、Gln、Leu、Ile、Asn、Ser、Arg、Lys、Met、Tyr、Gly、Cys、Proで置換される。
【0088】
本発明の別の実施形態では、3つのアミノ酸Gln387、Met388およびPhe389からなるTMのドメイン間ループが部分的もしくは完全に欠失しているか、または該ループに1つ以上のアミノ酸、好ましくはアラニン残基(図8D参照)が挿入されている。
【0089】
位置Phe376、Gln387、Met388またはPhe389に改変を有するこのような好ましいTM類似体について、該TM類似体は完全長または可溶性のTM類似体であり得、EGFドメインEGF1〜EGF6を含む、好ましくはEGFドメインEGF3〜EGF6を含むものであり得る。好ましい実施形態では、このような類似体は、TM類似体Solulinに示される置換を含むものである。より好ましい実施形態では、このようなSolulin由来TM類似体は、EGF1〜EGF6のみ、特にEGFドメインEGF3〜EGF6のみからなるものである。
【0090】
本発明の実施形態では、トロンボモジュリン類似体は酸化型形態で使用される。タンパク質の制御酸化のためのいくつかの手法が当業者に知られている。TM類似体は、好ましくは、クロラミンT、過酸化水素または過ヨウ素酸ナトリウムを用いて酸化される。
【0091】
さらに、本発明は、線溶亢進を伴う凝固障害の処置のために使用されるTM類似体のスクリーニングに有用な方法に関する。この方法は、好ましくは、EGFドメインEGF1〜EGF6内、より好ましくはEGFドメインEGF3〜EGF6内、最も好ましくはアミノ酸位置Asp349とAsp461の間における1つ以上のアミノ酸の挿入、欠失または置換によって、トロンボモジュリンのアミノ酸配列を改変する第1の工程を含む。当業者には、タンパク質の配列を、例えば、部位特異的変異誘発またはランダム変異誘発によって改変した後、選択するためのいくつかの手法が知られている。
【0092】
第2の工程では、該改変TM類似体は、以下の特性:トロンビンに対する結合親和性(K値)、補因子活性、TAFI活性化活性もしくはTAFIa産生能(TAFIa potential)、TAFI活性化活性と補因子活性の比率、タンパク質酸化の効果、インビトロアッセイでのクロット溶解時間に対する効果、または凝固関連動物モデルにおける効果からなる群より選択される1つ以上について対照タンパク質と比較される。
【0093】
対照タンパク質としては、トロンボモジュリンタンパク質または類似体、好ましくは、ウサギ肺トロンボモジュリンまたは6つのEGFドメインを含むヒトTM類似体が使用される。TM類似体は、天然アミノ酸配列を有するものであってもよく、あるいはまた、1つ以上の改変(M388L置換など)を有するものであってもよい。
【0094】
さらに、本発明は、抗フィブリン溶解効果を示すトロンボモジュリン類似体の治療有効量を投与する工程を含む、線溶亢進を伴う凝固障害の処置方法に関する。
【0095】
特に、この処置方法は、対照タンパク質と比べて以下の特徴:低減されたトロンビンに対する結合親和性、k値が0.2nMより大きいトロンビンに対する結合親和性、有意に低下した補因子活性、または補因子活性に対する増大したTAFI活性化活性の比率の1つ以上を示すTM類似体を含む。対照タンパク質としては、トロンボモジュリンタンパク質または類似体、好ましくは、ウサギ肺トロンボモジュリンまたは6つのEGFドメインを含むヒトTM類似体が使用される。TM類似体は、天然アミノ酸配列を有するものであってもよく、あるいはまた、1つ以上の改変(M388L置換など)を有するものであってもよい。
【0096】
定義
本発明との関連において用いる場合、用語「抗フィブリン溶解効果」は、トロンボモジュリン類似体が、該トロンボモジュリン類似体の添加なしでの同一アッセイ条件と比べてクロット溶解時間(実施例Iに記載)を延長する能力をいうものとする。この抗フィブリン溶解効果は、TM類似体の抗フィブリン溶解活性が、そのフィブリン溶解促進活性と比べて優勢なためである。
【0097】
本明細書で用いる場合、用語「フィブリン溶解促進効果」は、トロンボモジュリン類似体が、該トロンボモジュリン類似体の添加なしでの同一アッセイ条件と比べて、インビトロアッセイ(実施例Iに記載する通り)においてクロット溶解時間を有意に低減する能力をいうものとする。
【0098】
用語「有意に低減する」および「有意に延長する」は、本明細書で用いる場合、p=0.1レベルで基底値と有意に異なるクロット溶解時間の延長もしくは低減をいう、および/または10%を上回る、好ましくは20%、より好ましくは30%、最も好ましくは40%、50%、60%、70%、80% 100%、150%または200%を上回る延長もしくは低減をいう。
【0099】
本発明との関連において用いる場合、文言「処置する」、「処置すること」または「処置」は、出血事象を予防的に抑制するか、または出血事象を緩和、改善もしくは停止させるかのいずれかのために、本発明のTM類似体または該類似体を含む任意の組成物を使用することをいう。該文言は、特に明示していない限り、治癒(curing)もしくは治癒(healing)ならびに緩和、軽快または予防のいずれかを包含する。また、本明細書で用いる場合、文言「患者」は、ヒトを含む哺乳動物をいう。
【0100】
本明細書で用いる場合、用語「線溶亢進を伴う凝固障害」は、血液の凝固性が障害され、それにより、フィブリン溶解の顕著な増大によって出血事象が引き起こされるか、悪化するか、または長期化する疾患としての凝固障害をいうものとする。
【0101】
本発明との関連において用いる場合、用語「トロンボモジュリン類似体」は、膜結合型または可溶性のトロンボモジュリンと同じ特徴的な生物学的活性を有するタンパク質およびペプチドの両方をいう。生物学的活性は、トロンビンの受容体として作用し、TAFIの活性化を増大させる、または天然トロンボモジュリンと関連している他の生物学的活性を増大させる能力である。
【0102】
用語「結合親和性」は、本明細書で用いる場合、トロンボモジュリン類似体とトロンビンとの親和性の強度をいい、解離定数Kで示される。トロンビンとトロンボモジュリンとの結合親和性のK値は、例えば、平衡法(例えば、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)もしくはラジオイムノアッセイ(RIA))または速度論(kinetics)(例えば、BIACORETM解析)によって決定し得る。結合親和性は、好ましくは、本発明の実施例IIに記載の速度論アッセイを用いて解析される。
【0103】
「K」は、TM類似体とトロンビンとの相対結合親和性をいう。高いK値は低い結合親和性を表す。Kを決定するための厳密なアッセイおよび手段を実施例IIに示す。
【0104】
用語「補因子活性」は、本明細書で用いる場合、トロンボモジュリン類似体が、トロンビンと複合体を形成してトロンビンのプロテインCの活性化能力を増強する能力をいう。補因子活性を測定するために使用されるアッセイ手順を本発明の実施例IIIに示す。
【0105】
用語「TAFI活性化活性」は、本明細書で用いる場合、トロンボモジュリン類似体が、トロンビンと複合体を形成してトロンビンのTAFIの活性化能力を増強する能力をいう。TAFI活性を測定するために使用されるアッセイ手順を本発明の実施例IVに示す。
【0106】
「Km」は、ミカエリス定数をいい、種々の基質濃度で測定される触媒反応速度を測定することにより標準的な様式で誘導される。これは、反応速度がその最大値の半分になる基質濃度に等しい。本発明のTM類似体の「Km」は、トロンビン濃度を一定レベル(例えば、1nM)に維持し、Kに応じたTMの飽和レベル(例えば、100nM以上)を使用することにより決定する。反応は、漸増濃度のプロテインC(例えば、1〜60μM)を用いて行なう。次いで、ラインウィーバー−バークプロットまたは非線形回帰解析を用いてKmおよびkcatを決定する。
【0107】
「TM」は、6つのEFG反復配列(配列番号1または配列番号3によるアミノ酸227〜462)からなるTMの類似体をいう。
【0108】
「TMM388L」は、天然メチオニンの388位(配列番号3に基づく)にロイシン残基による置換を有する6つのEFG反復配列(aa227〜462)からなるTMの類似体をいう。
【0109】
用語「治療有効量」は、線溶亢進を伴う凝固障害と関連している症状(出血事象など)を低減する活性成分の量と定義する。また、「治療上有効」とは、無処置と比べて、障害の重症度、発生の頻度または持続期間における任意の改善をいう。
【実施例】
【0110】
I.実施例
ヒト血漿でのクロット溶解アッセイ
インビトロクロット溶解モデルを使用し、可溶性トロンボモジュリン(Solulin)が正常血漿と第VIII因子欠損血漿の混合物において、クロット溶解時間を減少または増大させる能力を試験した。
【0111】
1.試験系
この血漿組成物中で、トロンビン(第IIa因子)、塩化カルシウムおよびホスファチジルコリン/ホスファチジルセリン(PCPS)小胞を混合することにより、インビトロで凝固を起こした。凝固およびフィブリン溶解の時間的推移を濁度アッセイにより調べ、「TAFIa産生能」を、機能アッセイを用いて調べた。
【0112】
2.実験手順
材料.トロンビンおよびフィブリノゲンは、1点を除き(フィブリノゲンの調製では、β−アラニン沈殿処理後、水中40%(w/v)PEG−8000を添加することによって、溶液を2%PEG−8000ではなく1.2%PEG−8000にしたこと)、Walkerら(J.Biol.Chem.1999;274:5201−5212)に記載のようにして調製した。このプロトコルの変更によって、より多くのフィブリノゲンを得ることが可能になった。TAFIaアッセイで使用したQSY−FDP(クエンチャーであるQSY9 C5−マレイミドに共有結合させたフィブリン分解生成物)およびTAFIa標準品は、既報のとおりに調製し(Kimら,2008;Anal.Biochem 372:32−40;Neillら,2004;Anal.Biochem.330:332−341)、組換えヒトPg(S741C)およびフルオレセイン誘導体(5IAF−Pg)は、Horrevoetsら(J.Biol.Chem 1997;272:2176−2182)に記載のとおりに調製した。S525C−プロトロンビンを、Brufattoら(J.Biol.Chem.2001;276:17663−17671)に既報のようにして精製し、5−ヨードアミドフルオレセイン(5IAF)で蛍光標識した。QSY9 C5−マレイミドおよび5−ヨードアミドフルオレセインは、Invitrogen Canada Inc.(バーリントン,ON,カナダ)から購入した。プラスミンはHaematologic Technologies Inc.(Essex Junction,VT,USA)から購入し、組換えヒト可溶性トロンボモジュリン(Solulin;sTM)は、Paion Deutschland GmbH(アーヘン,ドイツ)から提供された。正常ヒトプール血漿(NP)は、カナダのオンタリオ州キングストンのキングストン総合病院(KGH)の血液バンクの健常ドナーから取得し、FVIII欠損血漿(FVIII−DP)は、Affinity Biologicals,Inc.(ハミルトン,ON,カナダ)から購入した。TAFI欠損血漿(TDP)は、固定化した抗ヒトTAFIモノクローナル抗体のカラムでの正常血漿のアフィニティクロマトグラフィーによって、Schneiderら,(J.Biol.Chem.2002;277:1021−1030)に記載のとおりに調製した。プラスミン阻害剤D−Val−Phe−Lysクロロメチルケトン(VFKck)、トロンビン阻害剤D−Phe−Pro−Argクロロメチルケトン(PPAck)およびイモ塊茎カルボキシペプチダーゼ阻害剤(PTCI)は、Calbiochem(サンディエゴ,CA,USA)から購入した。組織型プラスミノゲン活性化因子(Activase;tPA)は、KGH(キングストン,ON,カナダ)の薬局から購入し、他の試薬はすべて分析用品質のものであった。
【0113】
3.方法
TAFI活性化の程度を調べるためのクロット溶解アッセイおよび試料の調製
FVIII−DPをNPと、NPの最終割合が0、1、6、10、50または100%(0〜100%NP)となるように混合した。混合前に、各血漿を光学密度が32になるまで希釈し、1.5nM tPA、40μM PCPSおよび20mM CaClを含有する等容量の溶液に、20nMのトロンビンの存在下または非存在下で添加し(終濃度:0.75nM tPA,20μM PCPS,10mM CaCl、±10nMトロンビン)、試料を複数のエッペンドルフチューブに分け、37℃の水浴中に入れた。これらのチューブにおいて、種々の時点で、トロンビンとプラスミンをそれぞれ選択的に阻害するための、10μM PPAckおよび10μM VFKckを添加することによって凝固および溶解を停止させた。試料を激しく混合し、次いで、16000gで30秒間遠心分離し(室温)、TAFIaの熱不活化を防ぐために直ちに氷上に置いた。各試料の上清をTAFI欠損血漿で5倍ずつ連続希釈し、Kimら(Anal.Biochem 2008;372:32−40)により記載された機能アッセイを用いてTAFIaを測定した。同一の実験を、覆いをした96ウェルプレートで行ない、SpectraMax Plus分光測光器(Molecular Devices,サニーベール,CA,USA)を用いて経時的に400nmで濁度をモニタリングし、凝固およびフィブリン溶解のタイミングを調べた。4つのtPA濃度(0.25、0.75、1.5および3nM)において可溶性トロンボモジュリン(0〜100nM)の存在下または非存在下で同様の実験を行ない、TAFI活性化と溶解時間に対するsTMの効果を調べた。また、これらの実験を、5μMのPTCIの存在下でも行なうと、正常血漿およびFVIII欠損血漿においてTAFIa依存性溶解延長が示された。
【0114】
正常血漿およびFVIII欠損血漿中でのプロトロンビン活性化の時間的推移の測定
正常血漿およびFVIII欠損血漿(0〜100%NP)に、プロトロンビン誘導体(5IAF−II;300nM最終)ならびに20μM PCPSおよび10mM CaClを、10nMトロンビンの存在下で補給して凝固を開始させた。この実験は、不透明なプラスチックカバー付きの96ウェルプレート内で行なった。SpectraMax GeminiXS(Molecular Devices,サニーベール,CA,USA)を使用し、経時的に37℃にて、それぞれ495nmおよび535nmの励起波長および発光波長で、530nm発光カットオフフィルターを用いて蛍光強度をモニタリングした。蛍光のベースラインと完全なプロトロンビン活性化と相関する最大蛍光を反映させるために蛍光を標準化した(0〜1)。
【0115】
TAFIa産生能の測定
TAFIaプロット下面積を、実験過程にわたるTAFIaの効果を定量するためのパラメータとして選択した。このパラメータを、Hemkerら(Thromb.Haemost.1993;85:5−11)によって定義された「トロンビン産生能」と同様に「TAFIa産生能」と命名した。TAFIa産生能は、トロンビン産生能と同様、切断された基質の量に比例し、数学的には以下のとおりに説明される:
【0116】
【数1】

(式中、dS/dtは基質の消費速度であり、Sは基質である)。
【0117】
Sが一定(すなわち、Sの消費が限定的)の場合
【0118】
【数2】

ある区間0〜tでは、
【0119】
【数3】

等式(4)の右側の積分がTAFIaプロット下面積であることを認識すると、
【0120】
【数4】

4.結果
クロット溶解時間は、正常血漿をFVIII欠損血漿に添加することによって増大する
10nMの第IIa因子、10mM CaClおよび20μM PCPSの小胞を用いて凝固を開始し、クロット構造物がFVIII濃度に対して非感受性であるモデルを作出した。FVIII濃度に関係なくクロット構造物が類似しているため、tPA依存性(0.75nM)のクロット溶解に対するFVIIIの効果を調べることができる。この溶解モデルを使用すると、正常血漿の割合が増加するにつれて溶解時間が増大した。図1は、正常血漿を0〜100%で添加したFVIII−DPのクロット溶解プロフィールを示し、溶解時間を図1にまとめている(差し込み図)。FVIII−DPでは、溶解時間は37分であり、正常血漿の添加によっておよそ50%増大され得る。
【0121】
10%正常血漿は、FVIII−DP中でのクロット溶解を回復させるのに充分である
10%正常血漿で、FVIII−DPと関連している溶解時間の短縮は、正常血漿で観察される時間まで修正された(図1,差し込み図参照)。
【0122】
50%TAFIa産生能はFVIII−DP中でのクロット溶解を回復させるのに充分である
TAFI活性化を正常血漿、FVIII欠損血漿および混合血漿において測定し、活性化の時間的推移に対するFVIIIの効果を定量した。機能アッセイを使用し、凝固および溶解の時間的推移にわたるTAFIaを測定し、その結果を図2に示している。トロンビン、カルシウムイオンおよびPCPSを用いてFVIII−DP中で凝固を開始した場合、5分後、およそ30pMのTAFIaが測定された。正常血漿の割合が増加するにつれて、TAFIaのピーク濃度も増大した。FVIII−DPに10%正常血漿を補給することによって溶解時間は修正されたが、これは、TAFI活性化を完全に修正するには充分ではなかった。TAFIa時間推移プロット下面積(図2A)を計算することにより、最初の50分間では、正常血漿中と50%正常血漿中で、ほぼ同じTAFIa産生能(図2B)が得られる(それぞれ、16800pM分および14100pM分)が、10%正常血漿と混合したFVIII−DP血漿が有したTAFIa産生能は、正常血漿におけるTAFIa産生能のわずか50%であることが測定された。
【0123】
溶解時間とTAFIa産生能間には強い相関がある
0〜100%のFVIIIの範囲にわたる溶解時間とTAFI活性化間の関係を定量するため、log溶解時間に対してlog TAFIa産生能をプロットした(図2B,差し込み図)。予測どおり、データは、0〜100%のFVIIIを含有する血漿中において溶解時間とTAFIa産生能間の強い正の相関を示す。トロンビンはTAFIの活性化因子であるため、図2AのTAFI活性化プロフィールは、血漿中でのプロトロンビン活性化を解析することにより合理的に説明され得る(図3)。一般的な傾向は、正常血漿の割合が増加するにつれて、プロトロンビンの活性化速度も増大する(これは、図3の曲線の傾きを調べることによって決定され得る)というものである。正常血漿では例外が生じる。正常血漿では、プロトロンビンの活性化速度は、50%正常血漿と混合したFVIII−DPよりも低い。この速度は正常血漿中では遅いが、プロトロンビン活性化は、50%正常血漿と混合したFVIII−DP中よりも約2倍長く持続する。どの実験でも、プロトロンビン活性化のタイミングは、TAFI活性化に充分対応している。また、正常血漿を、トロンビンを添加せずにカルシウムイオンとPCPSを用いて凝固させた。カルシウム誘導性の凝固はすぐには起こらない;正常血漿中でクロットが形成されるのにおよそ15分かかる。この時点で、プロトロンビン活性化は伝播期に入り、その結果、TAFIが活性化される。クロットの形成に関するTAFI活性化の程度とタイミングは、凝固が添加トロンビンの存在下で開始しようと非存在下で開始しようと同じであり、これは、TAFI活性化が、インサイチュで生成されたトロンビンの結果であって、凝固を誘導するために添加されたトロンビンの結果ではないことを示唆する。トロンビンの存在下では、TAFIa産生能が16,800pM分であったのに対して、トロンビンの非存在下では14,150pM分であった。
【0124】
可溶性トロンボモジュリンは正常血漿とFVIII欠損血漿においてクロット溶解を延長する
正常血漿では、ピークTAFIaレベルおよびTAFIa産生能は、それぞれ、sTMの非存在下での600pMおよび16800pM分から、それぞれ、10nMのsTMの存在下で、およそ6000pMおよび150,000pM分に増大した。このTAFI活性化の増大により、溶解時間の70%の増大がもたらされた。FVIII−DP中での溶解の相対的延長に対する10nMのsTMの効果は、FVIII−DPをsTMの存在下で凝固および溶解させると溶解が65%延長したという点で、正常血漿と類似していた。10nMのsTMの存在下では、ピークTAFIa濃度で750pMのTAFIaが存在したのに対して、sTMの非存在下では30pMであった。クロットの開始からクロット溶解時間までの時間中、TAFIa産生能は、10nMのsTMの存在下で12800pM分であると測定されたのに対して、sTMの非存在下では600pM分であった。
【0125】
正常血漿およびFVIII欠損血漿におけるクロット溶解時間の増大はtPAとsTMの濃度に依存する
溶解時間に対するTAFI活性化の効果をtPA濃度およびsTM濃度の範囲にわたって解析し、FVIII−DPにおける溶解の欠陥がTAFI活性化の刺激によって修正され得るかどうかを調べた。図4にまとめた溶解時間は、TAFIaの阻害剤であるPTCIを含めた同様の実験での溶解時間との対比である。PTCIの存在下では、機能性TAFIaは存在せず、そのため図4に示した相対溶解時間は、TAFIa依存性溶解延長に典型的なものである。最も低いtPA濃度(0.25nM)では、1nMのsTMを正常血漿に添加した場合、最大のTAFIa依存性溶解延長(2倍)が観察された。FVIII−DPにsTMを補給すると、溶解時間の用量依存性の延長が引き起こされた(図4)。100nMのsTMをFVIII−DPに添加した場合、溶解時間は、正常血漿でみられる時間まで完全に修正された。tPA濃度を増大させるにつれて、最大のTAFIa依存性溶解延長を得るために、より高濃度のsTMが必要とされた。例えば、1.5nMのtPA(図4)を存在させた場合、TAFIa依存性溶解延長を最大にするために、正常血漿中では25nMのsTMが必要とされ、FVIII−DP中では100nMのsTMが必要とされる。また、このクロット溶解実験でtPAが増加するにつれて、TAFIaは、溶解時間に対してずっと大きな効果を有するようである(1.5nM tPAでは5.2倍までに対して0.25nM tPAでは2.3倍)。tPA濃度が増加するにつれて、任意のTAFIa依存性溶解延長を得るために必要とされるsTMの濃度も増大するようである。0.25nM tPAでは、正常血漿において溶解延長を得るためにsTMは必要とされなかったが、3nMのtPA(図4)を正常血漿に添加すると、溶解延長を得るために25nMのsTMが必要とされた。実際の溶解時間がtPAおよびsTMによってどのように影響されるのかを示すため、TAFIa阻害正常血漿およびFVIII欠損血漿での溶解時間を表1に示す。
【0126】
トロンボモジュリンは、正常血漿とFVIII欠損血漿の両方において、十分に実質的にTAFI活性化を促進し、溶解を延長する
正常血漿では、sTMの非存在下(○;600pMのTAFIa;図5A参照)と比べて、10nMのsTMの存在下で(●;ピークレベルで6000pMのTAFIa)、TAFI活性化が有意に増大していることが示されている。sTMを伴うクロット溶解プロフィールは、10nMのsTMの添加により、溶解時間の70%の増大がもたらされたことを示す。10nMのsTMを補給したFVIII−DPでは、TAFIaは、sTMの非存在下で30pMであるのに比べて、ピークでは750pMであると測定された(図5B参照)。TAFI活性化の増大により、sTMなしのFVIII−DPと比べて溶解の60%延長がもたらされた。
【0127】
II.実施例
トロンビンとトロンボモジュリンの結合親和性の解析
蛍光速度論アッセイを使用し、K値で表示される親和性を、トロンビンとトロンボモジュリン類似体との結合について測定した。
【0128】
1.試験系
トロンビンとトロンボモジュリン類似体との結合の親和性は、蛍光速度論アッセイを用いて測定し、K値で表示した。
【0129】
2.実験手順
材料
ヒトトロンビンは血漿から、Bajzarら(J.Biol.Chem.1995;270:14477−14484)に記載のようにして単離した。組換え可溶性トロンボモジュリン(Solulin)は、PAION Deutschland GmbH(アーヘン,ドイツ)から取得した。他の試薬はすべて、Sigma社から分析用品質で取得した。
【0130】
方法
トロンボモジュリンおよびTAFIに対するトロンビンの結合の測定
トロンボモジュリンに対するトロンビンの結合は、平衡結合アッセイとして測定した。トロンビン(20nM)、トロンボモジュリン(1.54μM)およびDAPA(20nM,ダンシルアルギニンN−3−(エチル−1,5−ペンタンジイル)アミド,蛍光性の可逆性トロンビン阻害剤)を0.02M Tris−HCl、0.15M NaCl、5.0mM CaCl、0.01%Tween80(pH7.4)中に含む溶液を、少量のアリコートに分けて連続的に、トロンボモジュリンを含まないこと以外は同一の溶液に添加した。添加は、Perkin−ElmerモデルLS50B分光蛍光光度計の試料区画内で、磁気撹拌器を取り付けたキュベット内で行なった。強度の値を、それぞれ280nmおよび545nmの励起波長および発光波長で継続的に記録した。発光ビームにおいて430nmカットオフフィルターを使用した。データを以下のようにして解析した。蛍光強度Iを、トロンビン−DAPA(T・D)とトロンビン−トロンボモジュリン−DAPA(T・TM・D)の強度の和と仮定した。すなわち、I=i・[T・D]+i・[T・TM・D]であり、式中、iおよびiは、T・DおよびT・TM・Dの蛍光係数(coefficient of fluorescence)である(励起は280nmであったため、遊離DAPAからの発光は無視できた)。TMによってプロテインC活性化またはTAFI活性化いずれかのKは感知できるほどには変わらないため(Bajzarら,1996;J.Biol.Chem.271:16603−16608参照)、トロンビン−DAPA相互作用の親和性は変わらないと仮定することが可能である。
【0131】
したがって [T・D]=([T]+[T・D])/(1+KDAPA/[DAPA])
および [T・TM・D]=([T・TM]+[T・TM・D])/(1+KDAPA/[DAPA])
(式中、KDAPAはトロンビン−DAPA相互作用の解離定数である)。
したがって、
I=i・([T]+[T・D])/(1+KDAPA/[DAPA])+i([T・TM]+[T・TM・D])/(1+KDAPA/[DAPA])。
【0132】
fとbを、それぞれ、遊離およびトロンボモジュリンに結合したトロンビンの分率と規定し、[T]をトロンビンの総濃度とすると、f=([T]+[T・D])/[T]、b=([T・TM]+[T・TM・D])/[T]およびf+b=1である。次いで、蛍光強度が、I=i・f[T]/(1+KDAPA/[DAPA])+i・b[T]/(1+KDAPA/[DAPA])によって得られる。Iを初期強度と規定すると、トロンボモジュリンを添加しなかった場合、f=1およびI=i[T]/(1+KDAPA/[DAPA])である。同様に、Imaxを、トロンボモジュリンでトロンビンを飽和したときの強度と規定すると、b=1およびImax=i[T]/(1+KDAPA/[DAPA])である。したがって、I=I・f+Imax・bである。fを1−bで置き換えると、I=I+(Imax−I)・bまたはΔI=ΔImax・bが得られる。初期強度に対して標準化すると、(ΔI/I)=(ΔImax/I)・bが得られる。DAPAがTとT・TMに等しい親和性で結合する場合、TMはTとT・Dに等しい親和性で結合する。
【0133】
したがって、KTMをトロンビン−トロンボモジュリン相互作用の解離定数と規定すると、[T][TM]=KTM[T・TM];[T・D][TM]=KTM[T・TM・D];および([T]+[T・D])・[TM]=KTM([T・TM]+[T・TM・D])である。最後の表現はf・[TM]=KTM・bと同一である。f=1−bおよび[TM]=[TM]−b・[T](式中、[TM]は総トロンボモジュリン濃度)であるため、以下の等式:(1−b)([TM]−b・[T])=KTM・bが得られる。これはbの二次方程式であり、これは、解く場合に上記の表現を(ΔI/I)で置き換えると、等式:(ΔI/I)=(ΔImax/I)・0.5・(KTM+[T]+[TM]−((KTM+[T]+[TM]−4・[T]・[TM]1/2)が得られる。この後者の等式は、蛍光強度値、トロンボモジュリンとトロンビンの公称濃度、トロンビン−トロンボモジュリン相互作用の解離定数、およびトロンボモジュリンとトロンビン−DAPAとの相互作用のシグナルを発する蛍光強度増分間の関係を示す。[TM]を独立変数としてならびにKTMおよびΔImaxをベストフィットパラメータとして用い、強度のデータを非線形回帰解析によって上記の等式にフィットさせた。
【0134】
3.結果
トロンビンは可溶性トロンボモジュリンにK=23±14nMの親和性で結合する
可溶性トロンボモジュリンに対するトロンビンの結合を、DAPAの蛍光の摂動によって測定した。図6に示したように、滴定曲線では、0〜75nMの可溶性トロンボモジュリン濃度範囲で相対蛍光の増大が示された。データ解析により、可溶性トロンボモジュリンに対するトロンビン結合はK=23±14nMで特性評価されることが示された。
【0135】
III.実施例
変異トロンボモジュリン類似体の補因子活性の解析
蛍光速度論アッセイを使用し、K値で表示される親和性を、トロンビンとトロンボモジュリン類似体との間の結合について測定した。
【0136】
1.実験手順
材料および方法
TM変異体がプロテインCのトロンビン媒介性活性化の補因子として作用する能力を、ショッケート(shockate)において直接アッセイした。組換えヒトプロテインCは、John McPherson博士(Genzyme Corp.,Framingham,MA.)からのものであり、既報(BioTechnology 1990;8:655−661)のとおりに精製した。25μlの各ショッケートを等容量の組換えヒトプロテインC(終濃度0.3μM)およびヒトαトロンビン(Sigma Chemicals,セントルイス,MO)と、マイクロタイタープレート内で1nMの終濃度で混合した。使用した試薬はすべて、5mg/mlのウシ血清アルブミンを含有する20mM Tris,pH7.4/100mM NaCl/3.75mM CaCl/0.1%NaN(w/V)中で希釈した。混合物を37℃で1時間インキュベートし、800単位/mlの25μlのヒルジン(Sigma Chemicals,セントルイス,MO)の添加によって反応を終了させた。活性化プロテインCの量を、100μlの色素形成性基質D−バリル−L−ロイシル−L−アルギニン−p−ニトロアニリド(S−2266)(1mM)の添加によって決定した。プレートリーダーを使用し、405nmにおける吸光度によって変化を経時的に測定する。データはミリOD単位/分で記録され、Molecular Devicesプレートリーダーを用いて吸光度を10秒ごとに15分間測定することにより、各試料について決定する。すべてのアッセイに三連のショッケート試料(各DH5α細胞は、内部対照として、pSELECT−1ベクター(TMなし)、pTHR211(野生型)またはpMJM57(388位のメチオニンがロイシンに変えたpTHR211)のいずれかでトランスフェクトした)を含めた。TM変異体の補因子活性は、pMJM57で得られたものの平均値として示した。
【0137】
統計解析
各変異体を活性について少なくとも2回アッセイし(陽性クローンが2つしか単離されなかった変異体では3回)、すべてのデータを、スチューデントのt−検定を用いた有意差の判定に含めた。プレート間の変動係数は16.7%であった(n=18)。
【0138】
ウエスタンブロット解析
大腸菌ショッケートを、製造業者の使用説明書(Novex Inc.,サンディエゴ,CA)に従い、還元条件下で10%Tris−トリシンSDS PAGEにおいて実行した。10mMのジチオトレイトールを含有する試料バッファー(62.5mM Tris,pH6.8,2%SDS,10%グリセロール,0.0025%ブロモフェノールブルー)中でショッケートを10分間煮沸することにより、還元アルキル化試料を調製した後、50mMのヨードアセトアミドとともにインキュベートした。
【0139】
タンパク質を、転写バッファー(192mMグリシン,25mM Tris,pH8.3,20%メタノール)中、4℃でニトロセルロースフィルターに転写した。ニトロセルロースフィルターをブロッキングバッファー(1%ウシ血清アルブミン含有10mM Tris,pH7.5,0.9%NaCl,0.05%NaN)でブロックし、次いで、ブロッキングバッファー中で、マウスポリクローナル抗血清(ヒトトロンボモジュリンの還元アルキル化EGFドメインに対して生成させたもの)とともにインキュベートした。洗浄バッファー(10mM Tris,pH7.5,0.9%NaCl,0.05%NaN,0.05%Tween20)で洗浄後、フィルターをビオチン化ヤギ抗マウスIgG抗体とともに、0.05%のTween20を含有するブロッキングバッファー中でインキュベートした。タンパク質は、Vectastain ABC溶液(Vector Laboratories,Burlingame,CA)およびECL検出システム(Amersham Corporation,アーリントンハイツ,IL)を、製造業者の使用説明書に従って用いて検出した。
【0140】
IV.実施例
TAFIおよびプロテインCの活性化に関するトロンボモジュリン類似体の解析
蛍光速度論アッセイを使用し、K値で表示される親和性を、トロンビンとトロンボモジュリン類似体との間の結合について決定した。
【0141】
1.実験手順
タンパク質および試薬
Solulin(残基4〜490)、TM(残基227〜462)、TMcループ3〜6(残基333〜462)、およびTMi4〜6(残基345〜362)を含むトロンボモジュリンの切断型形態を、Parkinsonら(Biochem.Biophys.Res.Commun.1992;185:567−576)に記載のとおりに調製した。Sf9細胞をTM構築物でトランスフェクトし、タンパク質を培地から、クロマトグラフィー手順(アニオン交換、ゲル濾過およびトロンビン親和性の組合せを使用)によって単離した。純度(SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動および銀染色によって評価)は95%以上であった。ヒト血漿TAFIを、Bajzarら(J.Biol.Chem.1995;270:14477−14484)に記載のようにして単離した。ヒトプロテインCおよびトロンビンは、BajzarおよびNesheim(J.Biol.Chem.1993;268:8608−8616)に記載のとおりに調製した。トロンビン阻害剤であるダンシルアルギニンN−(3−エチル−1,5−ペンタンジイル)アミド(DAPA)は、Nesheimら(Biochemistry 1979;18:996−1003)に記載のとおり合成した。アラニンスキャニングによって得られる点変異体を、TMM388L構築物から作製した。タンパク質は大腸菌において発現させた。ペリプラズム抽出物の手順および調製は、Nagashimaら,(J.Biol.Chem.1993;268:8608−8616)に記載されている。HEPES、塩基性カルボキシペプチダーゼ基質であるヒップリル−アルギニン、塩化シアヌル、および1,4−ジオキサンはSigma社から入手した。他の試薬はすべて分析用品質のものであった。
【0142】
トロンボモジュリン類似体の点変異体でのプロテインCおよびTAFIの活性化速度の測定
TAFIの活性化のため、各ペリプラズム抽出物の20μlアリコートをトロンビン(13nM最終)とともに、20mM HEPES,pH7.5,150mM NaCl,5mM CaCl中、室温で5分間プレインキュベートした。次いで、混合物を、精製組換えTAFI(18nM最終)および基質ヒップリル−アルギニン(1.0mM最終)とともに、総容量60μlで60分間インキュベートした。ヒップリル−アルギニンから馬尿酸への加水分解、続いて、馬尿酸の色原体への変換(80μlのリン酸バッファー(0.2M,pH8.3)および60μlの3%シアヌル酸含有ジオキサン(w/v)を使用)を測定することにより、活性化TAFIの量を定量した。充分に混合した後、透明な上清の吸光度を382nmにおいて測定した。各変異体について、TAFIのトロンビン依存性活性化の量を、トロンビンの非存在下で生じたバックグラウンド吸光度を差し引くことにより計算した。TMM388L−アラニン変異体によるプロテインCの活性化を以下のようにしてアッセイした。
【0143】
試料および試薬はすべて、APCアッセイ希釈剤(20mM Tris−HCl,pH7.4,100mM NaCl,2.5mM CaCl,0.5%BSA)中で希釈した。試料およびTM標準品(0〜1nM)を、60μlの総容量で37℃にて、96ウェルプレート内で0.5μMのプロテインCおよび1nMのトロンビンとともに60分間インキュベートしてAPCを生成させた後、20μlのヒルジン(0.16U/μl,570nM)でクエンチした。S−2266(1mMを100μl)の加水分解をプレートリーダー(Molecular Devices Corp.,Menlo Park,CA)を用いて405nmにて1分間隔でモニタリングすることにより、形成されたAPCの量を決定した。1Uの活性により、1pmolの活性化プロテインC/分が生成される(37℃)。
【0144】
すべてのアッセイに、内部対照として、pSelect−1ベクター(TMなし)、野生型TM(M388)またはTM(M388L)のいずれかでトランスフェクトしたDH5α細胞の抽出物を含めた。TM(M388L)アラニン変異体の補因子活性は、TM(M388L)の活性に対する割合で示した。各TM変異体を、プロテインCとTAFIの両方の活性化について、3回の独立した抽出物の調製物を用いて二連でアッセイした。
【0145】
2.結果
TM変異体で得られた結果(図7)は、8つ(eigth)の変異体のうち5つで、補因子活性化が実質的に低減していたことを示す。また、これらの5つの変異体のうち4つの変異体は、同時にTAFIの活性化活性の低下も示す。F376Aにおける変異のみで、プロテインC活性化の顕著な減損がもたらされたが、TAFI活性化の低減は中程度にすぎなかった。興味深いことに、TAFIおよびプロテインCの活性化に対するPhe376の重要性に違いのあることから、プロテインCがトロンビン−トロンボモジュリン複合体の基質である場合の方が、トロンボモジュリン構造についての要件に制限のあることが示唆される。
【0146】
V.実施例
酸化に関するプロテインC活性化についてのMet特異的TM変異体の解析
トロンボモジュリン類似体の特定のメチオニン変異体を使用し、補因子活性化に対する、また、タンパク質の酸化に関するこの残基の役割を、プロテインC活性化アッセイを用いて解析した。
【0147】
1.実験手順
タンパク質および試薬
ヒト組換えプロテインCはGenzyme Corp.(ボストン,MA)製のものであった。ウシトロンビンはMiles Laboratories Inc.(ダラス,TX)製のものであった。D−Val−Leu−L−Arg−p−ニトロアニリドは、Glaserら(Prep.Biochem.11975;5:333−348)に記載のとおりに調製した。ヒトα−トロンビン(4,000 NIH U/mg)、ウシ血清アルブミン(フラクションV)およびクロラミンTはSigma Chemical Co.(セントルイス,MO)製のものであった。
【0148】
TM(Sf9)の発現
全手順は4℃で行なった。TMの6 EGF様反復配列(アミノ酸227〜462)をコードするDNA配列を、昆虫プロテアーゼであるヒポデルミン(hypodermin)Aのシグナル配列に連結し、このハイブリッド遺伝子を、ポリヘドリン(polyhedron)遺伝子プロモーターの制御下でバキュロウイルスシャトルベクターpTMHY101内に配置した。組換えウイルスは標準的な手法を用いて作製した。記載の変異体類似体は、ミューテーター部位特異的変異誘発キット(Stratagene,Inc.,ラ・ホーヤ,CA)の使用によって調製し、同じ方法によってバキュロウイルス系での発現のためのウイルスを調製した。
【0149】
精製およびクロラミンTでの酸化
分泌されたTME変異体(Sf9)を含有する増殖培地を遠心分離によって清澄にし、凍結乾燥させ、1:10容量の0.2%NEM−Ac(pH7)/0.008%Tween80に再溶解させた。アリコートを5μlのH0または5μlの100mMクロラミンTのいずれかで処理し;室温で20分間インキュベートし;希釈によって酸化剤を除去し;NAP−5カラム(20mM Tris−HCl,0.1M NaCl,2.5mM CaCl,5mg/ml BSA,pH7.4;Pharmacia Inc.)で脱塩し;プロテインCの活性化について以下のようにしてアッセイした。
【0150】
TMの補因子活性の測定(APCアッセイ)
試料および試薬はすべて、APCアッセイ希釈剤(20mM Tris−HCl,pH7.4,100mM NaCl,2.5mM CaCl,0.5%BSA)中で希釈した。試料およびTM標準品(0〜1nM)を、60μlの総容量で37℃にて、96ウェルプレート内で0.5μMのプロテインCおよび1nMのトロンビンとともに60分間インキュベートしてAPCを生成させた後、20μlのヒルジン(0.16U/μl,570nM)でクエンチした。S−2266(1mMを100μl)の加水分解をプレートリーダー(Molecular Devices Corp.,Menlo Park,CA)を用いて405nmにて1分間隔でモニタリングすることにより、形成されたAPCの量を決定した。1Uの活性により、1pmolの活性化プロテインC/分が生成される(37℃)。
【0151】
2.結果
Met388の酸化によるTMの補因子活性の低下
変異体および野生型のTME(Sf9)を昆虫細胞において発現させ、クロラミンTで処理し、補因子活性についてアッセイし、結果を比較した(表2)。TMは、クロラミンTなどの酸化剤で処理すると、その補因子活性をおよそ85%失う(表2参照)。Met291およびMet388の部位特異的変異により、TME(Sf9)の不活化が単一のメチオニンの酸化によるものであることが実証される。Met388を保持した誘導体はクロラミンTによって同程度(>80%)まで不活化されたが、Met388Leu変異体は抵抗性であった。Met291を置き換えた変異体は、活性であったが、酸化的不活化に対して抵抗性でなかった。
【0152】
VI.実施例
EGF4とEGF5の間にドメイン間ループの変異を有するTM類似体の解析(Gln387,Met388,Phe389)
トロンボモジュリン類似体の特定の変異体を使用し(sing)、これらの残基およびその酸化の役割を、プロテインC活性化アッセイを用いて解析した。
【0153】
1.実験手順
プラスミドの構築.EGF様ドメインのみからなるトロンボモジュリン断片(TM)を大腸菌において以下のようにして発現させ、完全長TMのTM(残基227〜462)をコードするDNA断片を、ポリメラーゼ連鎖反応によってヒトゲノムDNAから、プライマー5’−CCGGGATCCTCAACAGTCGGTGCCAATGTGGCG−3’と5’−CCGGGATCCTGCAGCGTGGAGAACGGCGGCTGC−3’を用いて得た。この断片を、β−ラクタマーゼプロモーターおよびシグナル配列の制御下でpKT279内に配置した。次いで、得られたプラスミドのEcoRV−BgIII断片およびf1複製起点を含むpGEM3zfのScaI−SacI断片を、それぞれ、pSelect−1ベクター内のEcoRV−BamHIおよびScaI−SacI部位に挿入し、大腸菌発現プラスミドpTHR211を構築した。387位、388位または389位のTM変異体をコードするプラスミドを、改変部位インビトロ(in vitor)変異誘発キットに記載の部位特異的変異誘発手順を使用し、単鎖pTHR211 DNA鋳型を用いて構築した。部位特異的変異の各プライマーは制限解析によって確認した。
【0154】
変異体の補因子活性を測定するため、変異体タンパク質を発現している個々の大腸菌培養物を遠心分離し、洗浄し、細胞ペレットを、20%スクロース,300mM Tris−HCl,pH8.0,1mM EDTA,0.5mM MgCl中でインキュベートした(10分間,4℃)。ショッケートを細胞ペレットの遠心分離によって調製し、0.5mM MgClで処理し(10分間,4℃)、APCアッセイにおいてアッセイした。データは、3つの独立した各クローンの結果の平均である。
【0155】
TMの補因子活性の測定(APCアッセイ)
試料および試薬はすべて、APCアッセイ希釈剤(20mM Tris−HCl,pH7.4,100mM NaCl,2.5mM CaCl,0.5%BSA)中で希釈した。試料およびTM標準品(0〜1nM)を、60μlの総容量で37℃にて、96ウェルプレート内で0.5μMのプロテインCおよび1nMのトロンビンとともに60分間インキュベートしてAPCを生成させた後、20μlのヒルジン(0.16U/μl,570nM)でクエンチした。S−2266(1mMを100μl)の加水分解をプレートリーダー(Molecular Devices Corp.,Menlo Park,CA)を用いて405nmにて1分間隔でモニタリングすることにより、形成されたAPCの量を決定した。1Uの活性により、1pmolの活性化プロテインC/分が生成される(37℃)。
【0156】
2.結果
ループ間ドメインの変異によるTMの補因子活性の低下
部位特異的変異誘発を使用し、387位、388位または389位に改変アミノ酸、欠失または挿入のいずれかを有するTM変異体を発現させた(図8)。TM変異体の補因子活性は、3つの独立したクローンから得た平均であり、TME(Sf9)WTで見られた活性に対する割合で示す。ウエスタンブロットのゲルスキャンは、新しいすべての388位の変異体および選択した387位の変異体について、TMに対するポリクローナル抗体を用いて行なった。このスキャンによりほぼ同等量のTMが得られ、これは、発現の差が、観察された活性の差をもたらし得ないことを示す。また、387位(図8A)、388位(図8B)、389位(図8C)の独立した置換またはドメイン間ループ内の任意の箇所における挿入および欠失(図8D)により、APCアッセイでおおむね野生型TMよりも(then)不充分な補因子である類似体がもたらされる。Gln387がThr、MetまたはAlaで置き換えられた類似体は、70%超の補因子活性を保持しているが、Gluでの置換により、これは対照の58%まで低下し、他のすべてのアミノ酸では50%超の低下がもたらされる。LeuでのMet388の置換のみ、野生型より実質的に高い補因子活性(1.8倍)がもたらされる。GlnとTyrを除くMet388の他のすべての置換では、補因子活性の50%超の低下がもたらされた。TM補因子活性はPhe389のアミノ酸置換に対して感受性が低く、この位置の点変異体のうち9つが、対照でみられる活性の70%を超保持している。任意の位置でのProまたはCys置換により活性が10%超まで低下したが、Met388Proは例外であり、これは30%の活性を保持していた。個々のアミノ酸の欠失または4つの可能な各位置へのAlaの挿入いずれかによってEGF4とEGF5の間のドメイン間ループの長さを変えると、野生型TMの活性の10%未満の変異体がもたらされた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線溶亢進を伴う凝固障害の処置のための医薬の製造のためのトロンボモジュリン類似体の使用であって、該TM類似体が治療有効投薬量で抗フィブリン溶解効果を示すことを特徴とする、使用。
【請求項2】
前記トロンボモジュリン類似体が以下の特徴:
(i)ウサギ肺トロンボモジュリンと比べて低下した、トロンビンに対する結合親和性、および/またはk値が0.2nMより大きい、トロンビンに対する結合親和性;
および/または
(ii)TM類似体TMEM388Lの補因子活性と比べて低下した補因子活性、
(iii)TM類似体TMM388Lと比べて増大した補因子活性に対するTAFI活性化活性の比率
の1つ以上を示す、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記線溶亢進を伴う凝固障害が、以下:血友病A、血友病B、血友病C、フォン・ヴィレブランド病(vWD)、後天性フォン・ヴィレブランド病、第X因子欠損症、パラ血友病、凝固第I、II、VもしくはVII因子の遺伝性障害、循環抗凝血素による出血性障害または後天性凝固欠損症の疾患の群から選択される、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
前記トロンボモジュリン類似体が、頭蓋内または他のCNSの出血、関節、微小毛細血管、筋肉、胃腸管、呼吸路、腹膜後隙または軟部組織での出血からなる群より選択される出血事象の1つ以上を処置するために使用される、請求項1〜3のいずれかに記載の使用。
【請求項5】
前記トロンボモジュリン類似体が出血エピソードのときに投与される、請求項1〜4のいずれかに記載の使用。
【請求項6】
前記トロンボモジュリン類似体が、出血リスクが増大する前、例えば、手術または抜歯の前に投与される、請求項1〜3のいずれかに記載の使用。
【請求項7】
前記トロンボモジュリン類似体が、血液/血漿の輸血または凝固因子補充療法に対して抗療性の患者に投与される、請求項1〜6のいずれかに記載の使用。
【請求項8】
前記トロンボモジュリン類似体が、1週間未満から4週間までの合計期間にわたって、複数回用量で、好ましくは1日1回、2日に1回、または3日、4日、5日、6日もしくは7日おきに1回、より好ましくは長期投与として投与される、請求項1〜7のいずれかに記載の使用。
【請求項9】
前記トロンボモジュリン類似体が非経口適用として、好ましくは静脈内または皮下適用として与えられる、請求項1〜8のいずれかに記載の使用。
【請求項10】
前記 トロンボモジュリン類似体が可溶性TM類似体である、請求項1〜9のいずれかに記載の使用。
【請求項11】
前記トロンボモジュリン類似体がヒト可溶性TM類似体である、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
前記トロンボモジュリン類似体が、EGF3、EGF4、EGF5、EGF6を含み、好ましくは断片EGF3〜EGF6を含み、より好ましくはEGFドメイン1〜6を含む群から選択される、少なくとも1つの構造ドメインを含む、請求項1〜11のいずれかに記載の使用。
【請求項13】
前記トロンボモジュリン類似体が、EGFドメインEGF1〜EGF6からなる、より好ましくは、EGFドメインEGF3〜EGF6からなる、請求項1〜12のいずれかに記載の使用。
【請求項14】
前記トロンボモジュリン類似体が、成熟トロンボモジュリンのアミノ酸配列(配列番号1または配列番号3に示す)に対応するアミノ酸配列を有し、以下の改変:
a) アミノ酸1〜3の除去
b) M388L
c) R456G
d) H457Q
e) S474A、およびP490での終結
の1つ以上を含む、請求項1〜13のいずれかに記載の使用。
【請求項15】
前記トロンボモジュリン類似体が、配列番号2と少なくとも85%、または少なくとも90%もしくは95%配列が同一の配列を含むアミノ酸配列を有する、請求項1〜14のいずれかに記載の使用。
【請求項16】
前記トロンボモジュリン類似体が、以下:
aa) 349Asp;
bb) 355Asn;
ac) 357Glu;
ad) 358Tyr;
ae) 359Gln;
af) 361Gln;
ag) 363Leu;
ah) 364Asn;
ai) 368Tyr;
aj) 371Val;
ak) 374Glu;
al) 376Phe;
am) 384His;
an) 385Arg;
ba) 387Gln;
bb) 389Phe;
bc) 398Asp;
bd) 400Asp;
be) 402Asn;
bf) 403Thr;
bg) 408Glu;
bh) 411Glu;
bi) 413Tyr;
bj) 414Ile;
bk) 415Leu;
bl) 416Asp;
bm) 417Asp;
bn) 420Ile;
bo) 423Asp;
bp) 424Ile;
bq) 425Asp;
br) 426Glu;
ca) 428Glu;
cb) 429Asp;
cc) 432Phe;
cd) 434Ser;
ce) 436Val;
cf) 438His;
cg) 439Asp;
ch) 440Leu;
ci) 443Thr;
cj) 444Phe;
ck) 445Glu;
cl) 456Arg;
cm) 458Ile;または
cn) 461Asp
(配列番号1または配列番号3による)で、天然配列に対応する1つ以上の位置にアミノ酸改変を有する、請求項1〜15のいずれかに記載の使用。
【請求項17】
前記トロンボモジュリン類似体が、配列番号1または配列番号3による376位のフェニルアラニンの改変を有し、好ましくは脂肪族アミノ酸で置換され、より好ましくは、グリシン、アラニン、バリン、ロイシンまたはイソロイシンで置換され、最も好ましくはアラニンでの置換でされる、請求項1〜16のいずれかに記載の使用。
【請求項18】
前記トロンボモジュリン類似体が、配列番号1または配列番号3による以下のアミノ酸:
a)387Gln;
b)388Met;
b)389Phe
の1つ以上の改変を有し、
それにより、該アミノ酸は欠失しているか、1つ以上のさらなるアミノ酸が挿入されているか、または好ましくは置換されている、請求項1〜17のいずれかに記載の使用。
【請求項19】
前記トロンボモジュリン類似体が、その酸化型形態で使用され、好ましくは、クロラミンT、過酸化水素または過ヨウ素酸ナトリウムで酸化された形態で使用される、請求項1〜18のいずれかに記載の使用。
【請求項20】
前記TM類似体内の1つ以上のメチオニン残基、好ましくは、388位(配列番号1または配列番号3による)のメチオニン残基が酸化される、請求項19に記載の使用。
【請求項21】
線溶亢進を伴う凝固障害の処置に適したトロンボモジュリンの類似体をスクリーニングするための方法であって、該トロンボモジュリンが以下の特徴:
(i)トロンビンに対する結合親和性の低下、
(ii)補因子活性の低下、
(iii)TAFI活性化活性の増大、
の1つ以上を示し、
a)該トロンボモジュリンの配列(配列番号1または配列番号3)に、好ましくは請求項15に列挙したアミノ酸位置に、1つ以上のアミノ酸置換を作製する工程;
b)該改変した類似体を対照分子と、好ましくは、ウサギ肺TMまたは可溶性ヒトTM類似体と、以下の特性:
ba)トロンビンに対する結合親和性(KD値);
bb)補因子活性;
bc)TAFI活性化活性もしくはTAFIa産生能;
bd)TAFI活性化活性と補因子活性の比率;
be)タンパク質酸化の効果;
bf)インビトロアッセイでのクロット溶解時間に対する効果;または
bg)凝固関連動物モデルにおける効果
の1つ以上に関して比較する工程
を含む、方法。
【請求項22】
治療有効量の請求項1〜20のいずれかに記載のトロンボモジュリン類似体を投与する工程を含む、線溶亢進を伴う凝固障害の処置方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9−1】
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【図9−2】
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【図9−3】
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【公表番号】特表2012−529445(P2012−529445A)
【公表日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−514354(P2012−514354)
【出願日】平成21年6月12日(2009.6.12)
【国際出願番号】PCT/EP2009/004218
【国際公開番号】WO2010/142309
【国際公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(505081191)パイオン ドイチュラント ゲーエムベーハー (11)
【氏名又は名称原語表記】PAION Deutschland GmbH
【住所又は居所原語表記】Martinstrasse 10−12, 52062 Aachen, Deutschland
【Fターム(参考)】