説明

線路方向軌道の拘束力を考慮した免震実験装置

【課題】 地震動の応答変位方向を変換する免震装置を軌道に設置するにあたり、異なる振動モードを有する橋脚と橋台の間の軌道の線路方向の拘束力の影響を調査するための線路方向軌道の拘束力を考慮した免震実験装置を提供する。
【解決手段】 線路方向軌道の拘束力を考慮した免震実験装置において、線路方向の拘束力(抵抗力)が異なる線路方向軌道における線路方向の拘束力(抵抗力)を目安に等価な第1のばねと第2のばねとに置き換え、前記線路方向軌道の拘束力(抵抗力)の影響を実験する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線路方向軌道の拘束力を考慮した免震実験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本願発明者らは、変位方向を制御できる滑り方式杭頭免震装置(下記特許文献1参照)を既に提案している。この免震装置では、地震時の列車走行安全性を確保するために、線路直角方向の加振による構造物の応答変位を線路方向へ変換することができる。
【0003】
図4はかかる従来の滑り方式杭頭免震装置の設置状態を示す図であり、図4(a)はその滑り方式杭頭免震装置が設けられる列車軌道の断面模式図、図4(b)は図4(a)のa部の拡大図である。図5は従来の滑り方式杭頭免震装置の滑り球の移動方向を示す図である。
【0004】
これらの図において、101は地盤、102は地盤101に設けられる杭、103は杭頭天端部の下方受台、103Aはその下方受台103の湾曲支持面、104は列車軌道側のフーチングの上方受台、104Aはその上方受台104の中央の下方に延びる突起部、105はフーチング、106は上記した下方受台103の湾曲支持面103Aと上方受台104の突起部104Aの間に配置される鋼鉄製滑り球、107は杭102に固定される、鋼鉄製滑り球106の移動を規制する部材であり、鋼鉄製滑り球106を復元中心位置の左右斜めに移動可能にするための溝107Aが形成されている。また、108はフーチング105上に設けられる橋脚、109は橋脚108上に敷設される桁と列車軌道、Aは線路方向、Bは線路直角方向の地震動、Cはこの滑り方式杭頭免震装置により転換された鋼鉄製滑り球106の変位方向を示している。
【0005】
免震デバイスは、杭頭天端部の下方受台103と、その湾曲支持面103A、列車軌道側のフーチングの上方受台104とその突起部104A、鋼鉄製滑り球106及び鋼鉄製滑り球106の移動を規制する部材107とで構成されている。
【0006】
鋼鉄製滑り球106は、通常は下方受台103の湾曲支持面103Aの中央部に配置されている。鋼鉄製滑り球106の移動を規制する部材107には、鋼鉄製滑り球106の移動を線路方向Aと線路方向Aから角度αの範囲内に規制するように、テーパ面107Bを有する溝107Aが形成されている。したがって、線路直角方向の地震動Bが発生すると、鋼鉄製滑り球106は溝107Aのテーパ面107Bにガイドされて転がり、線路直角方向の地震動Bは免震デバイスにより変位Cとなり、線路方向Aの変位へと転換される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−51438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記した免震装置における応答変位方向を変換する機能は、同じ位相で振動する橋脚同士の間においては有効に機能する。
【0009】
しかしながら、異なる拘束力(抵抗力)を有する橋脚と橋台の間では、軌道線路方向の拘束力により、線路方向の変位が阻害されるといった問題があった。
【0010】
図6はその従来技術の問題点の説明図である。
【0011】
この図において、201は支持地盤、202は支持地盤201に設けられる杭、203は橋脚204と杭202との間に配置される変位方向変換型杭頭免震装置、205は橋梁桁206の支承、207は橋台、208は橋台207の背面盛土、209はバラスト軌道である。
【0012】
このような橋脚204及び橋台207にかけて敷設される軌道においては、橋台207及び背面盛土208上のバラスト軌道と橋梁桁206上のバラスト軌道との間に、繰り返し変位210により線路方向の軌道拘束の拘束力211が生成される。
【0013】
このように、異なる振動モードを有する橋脚と橋台の間においては、軌道の線路方向の拘束力の影響により線路方向の変位が阻害される。
【0014】
したがって、かかる異なる振動モードを有する橋脚と橋台の間における軌道線路方向の拘束力が作用する領域においては、免震デバイスにより応答変位方向を変換する方向を如何ように設定するかが問題となる。つまり、異なる線路方向の振動モードを有する橋脚と橋台の間における軌道に発生する線路方向の拘束力が免震装置に与える影響について検討する必要が生じる。
【0015】
本発明は、上記状況に鑑みて、地震動の応答変位方向を変換する免震装置を軌道に設置するにあたり、異なる振動モードを有する橋脚と橋台の間の軌道の線路方向の拘束力の影響を調査するための線路方向軌道の拘束力を考慮した免震実験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕線路方向軌道の拘束力を考慮した免震実験装置において、線路方向の拘束力(抵抗力)が異なる線路方向軌道における線路方向の拘束力(抵抗力)を目安に等価な第1のばねと第2のばねとに置き換え、前記線路方向軌道の拘束力(抵抗力)の影響を実験することを特徴とする。
【0017】
〔2〕上記〔1〕記載の線路方向軌道の拘束力を考慮した免震実験装置において、前記線路方向の拘束力(抵抗力)が異なる線路方向軌道が、橋脚を有する領域と、橋台の背面盛土領域であることを特徴とする。
【0018】
〔3〕上記〔1〕記載の線路方向軌道の拘束力を考慮した免震実験装置において、前記第1のばねと第2のばねとの振動モードを調整可能にしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、線路方向への変位変換型免震デバイスが施される軌道において、異なる振動モードを有する橋脚と橋台の間の軌道の線路方向の拘束力の影響により線路方向への変位の変換の阻害状況を調査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施例を示す模型実験における軌道拘束ばねの平面図である。
【図2】本発明の実施例を示す模型実験における軌道拘束ばねの部分平面図である。
【図3】本発明の実施例を示す模型実験における軌道拘束ばね取付け部の図面代用写真である。
【図4】従来の滑り方式杭頭免震装置の設置状態を示す図である。
【図5】従来の滑り方式杭頭免震装置の滑り球の移動方向を示す図である。
【図6】従来技術の問題点の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の線路方向軌道の拘束力を考慮した免震実験装置は、異なる振動モードを有する軌道領域における異なった振動モードに等価な第1のばねと第2のばねとに置き換え、線路方向軌道の拘束力の影響を実験する。
【実施例】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0023】
免震装置を軌道に設置する際、異なる振動モードを有する橋脚と橋台の間における軌道線路方向の拘束力の免震装置に対する影響を検討するため、地震時変位の小さい橋台側の背面盛土上のバラスト軌道10mを拘束範囲として、その線路方向の抵抗(拘束)力180kNを目安に、軌道を模した実験装置に等価なばねを設置する。
【0024】
図1は本発明の実施例を示す模型実験における軌道拘束ばねの平面図、図2はその軌道拘束ばねの平面図、図3はその軌道拘束ばね取付け部の図面代用写真である。
【0025】
これらの図において、1は橋台、2はその橋台1に固定される第1の固定金具、3はその第1の固定金具2の中心に固定される支持部材、4はその支持部材3に装着されるフック部材、5は両端にフック5A,5Bを有する第1のばね、6は免震デバイスの上盤(滑り側)、7はその上盤6と橋脚を固定するボルト、8,9はそのボルト7に固定される橋脚(H鋼部材)、10,11は橋脚(H鋼部材)8,9の中央に配置されるフック部材、12は反対側橋台、13はその反対側橋台12に固定される第2の固定金具、14はその第2の固定金具13の中心に固定される支持部材、15はその支持部材14に装着されるフック部材、16は両端にフック16A,16Bを有する第2のばね、17〜20は滑り球をデバイスの上盤6の底面側に固定するネジ、21,22は変位を計測する変位計測用板、23〜26は変位計測用板21,22の変位を計測する4つの変位計である。
【0026】
ここで、第1のばね5はフック部材4の長さを変えることにより、地震時変位の大きさを変えることができる。つまり、フック部材4の長さが短いとばねの長さは長くなり、地震時の変位を大きくすることができる。一方、フック部材4の長さが長くなるとばねの長さは短くなり、地震時の変位を小さくすることができる。
【0027】
そこで、図3に示すように、線路直角方向の地震動Aが加えられると、第1のばね5と第2のばね16とのばね定数によって、変位計測用板21,22の変位は変化する。
【0028】
本発明によれば、線路方向軌道の拘束力を考慮した免震実験装置により、軌道拘束ばねの状況を計測して、地震時変位の大きい橋脚側と地震時変位の小さい橋台側との相対変位による軌道の拘束効果を調べ、線路直角方向の変位を線路方向へ変換する際の影響度を把握することができる。
【0029】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の線路方向軌道の拘束力を考慮した免震実験装置は、異なる振動モードを有する軌道領域における線路方向軌道の拘束力の影響を考慮し、免震装置の機能の向上に寄与することができる免震実験装置として利用することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 橋台
2 第1の固定金具
3,14 支持部材
4,10,11,15 フック部材
5 第1のばね(橋台と橋脚間軌道による拘束を表すもの)
5A,5B,16A,16B フック
6 免震デバイスの上盤(滑り側)
7 上盤と橋脚を固定するボルト
8,9 橋脚(H鋼部材)
12 反対側橋台
13 第2の固定金具
16 第2のばね(反対側橋台と橋脚間の軌道拘束を表すもの)
17,18,19,20 滑り球をデバイスの上盤の底面側に固定するネジ
21,22 変位計測用板
23〜26 変位計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線路方向の拘束力(抵抗力)が異なる線路方向軌道における線路方向の拘束力(抵抗力)を目安に等価な第1のばねと第2のばねとに置き換え、前記線路方向軌道の拘束力(抵抗力)の影響を実験することを特徴とする線路方向軌道の拘束力を考慮した免震実験装置。
【請求項2】
請求項1記載の線路方向軌道の拘束力を考慮した免震実験装置において、前記線路方向の拘束力(抵抗力)が異なる線路方向軌道が、橋脚を有する領域と、橋台の背面盛土領域であることを特徴とする線路方向軌道の拘束力を考慮した免震実験装置。
【請求項3】
請求項1記載の線路方向軌道の拘束力を考慮した免震実験装置において、前記第1のばねと第2のばねとの振動モードを調整可能にしたことを特徴とする線路方向軌道の拘束力を考慮した免震実験装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−168728(P2010−168728A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−9585(P2009−9585)
【出願日】平成21年1月20日(2009.1.20)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】