説明

線輪部品

【課題】軟磁性体と金型の間の隙間や、軟磁性体の磁気ギャップが狭い場合でも確実に充填することができ、確実に絶縁性を確保しつつ、高い磁気特性を精密に制御できる線輪部品を提供する。
【解決手段】閉磁路を構成する磁気コア3と、磁気コア3の磁路を周回する巻き線を備え、磁気コア3は、導電性の軟磁性体1と、軟磁性体の表面を被覆する熱可塑性樹脂と磁性粉を含む複合磁性体2を備え、複合磁性体2は、軟磁性体1よりも体積抵抗率を高く構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種交流機器における整流回路、雑音防止回路、共振回路、電力変換回路等に用いられる線輪部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では強磁性体粉末を含む磁束遮断体を線輪部品の外側にトランスファー等で成型することにより被覆漏洩磁束電流を抑制する磁性絶縁被覆線輪の構造を提供している。
【0003】
また特許文献2には、磁気ギャップ部を有するC字状のコアを作成し、さらに磁気ギャップ部を埋め、同時にC字状のコア表面を被覆するよう、樹脂を材料とするモールディングを施す構成が開示されている。
【0004】
また特許文献3には、磁気ギャップに金属磁性粉末を分散させた接着剤を配する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第3037638号公報
【特許文献2】特開2002−93627号公報
【特許文献3】特開2009−117676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術では、インダクタンス値や通電電流に直流電流を重畳した際にインダクタンスが保たれる、いわゆる直流重畳特性を高めるために、樹脂と磁性粉を混合した複合磁性体が用いられている。一方でインダクタやリアクトルに代表される線輪部品には小型化と高機能化が求められ、磁気コア表面への樹脂被覆は薄さが要求され、磁気コアに設けた磁気ギャップも狭くなって来ている。
【0007】
そこで従来技術では、複合磁性体の樹脂として熱硬化樹脂が用いられているが、複合磁性体は磁性粉が多量添加されているため、成型時の流動性が低下し、磁気コアと金型の隙間や、磁気コアの磁気ギャップを充填する途中で硬化してしまうことがあり、充填が不十分な場合は絶縁不良が発生したり、所望の磁気特性が得られないことがあるという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、閉磁路を構成する磁気コアと、前記磁気コアの磁路を周回する巻き線を備え、前記磁気コアは、導電性の軟磁性体と、前記軟磁性体の表面を被覆する熱可塑性樹脂と磁性粉を含む複合磁性体を備え、前記複合磁性体は、前記軟磁性体よりも体積抵抗率が高いことを特徴とする線輪部品により解決することができる。
【0009】
導電性の軟磁性体表面は、巻き線との絶縁性を確保し、同時に高い磁気特性を得るために、表面を軟磁性体よりも高い電気抵抗を持つ複合磁性体で被覆する必要があるが、本発明によって、従来技術のような成型途中の硬化が無くなるため、確実に表面を複合磁性体で被覆し、巻き線と磁気コア間の絶縁性を確保することができる。なお、磁性粉に透磁率が求められる場合は軟磁性粉が、磁化が求められる場合は硬質磁性粉すなわちマグネット粉が用いられる。
【0010】
また、本発明により、インダクタンス調整のため、軟磁性体に磁気ギャップを設け、その磁気ギャップに複合磁性体を確実に充填することができる。
【0011】
また、複合磁性体に必要とされる機能によっては、本発明の磁性粉としてフェライト粉を用いる場合がある。この場合は複合磁性体に対してフェライト粉が60体積%以下(但し0は含まず)含有していれば体積抵抗率が1×10Ω・cm以上と、絶縁性として充分な特性を得ることができる。他に、本発明の磁性粉の複合磁性体に対する含有率が70体積%以下(但し0は含まず)で、前記磁性粉は体積含有率が50%以下(但し0は含まず)の金属磁性粉と、体積含有率が50%より多く100%より少ないフェライト粉よりなっていても、複合磁性体の体積抵抗率が1×10Ω・cm以上となるため、絶縁性として必要な特性を得ることができる。
【0012】
また、前記磁気コアにおける前記複合磁性体の軟磁性体に面する部分を除く表面の少なくとも一部を、前記複合磁性体の内部及び軟磁性体に面する表面よりも磁性粉の含有密度が低くすることで、特に導電性の磁性粉を用いる場合には、複合磁性体と巻き線の間の絶縁を確実に確保することができるため、望ましい。
【0013】
なお、熱可塑性樹脂としてはABS系樹脂、PBT樹脂、PET系樹脂、PPS系樹脂、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12及び液晶ポリマー等を用いることが出来る。また、D90(累積重量分率が90%に対応する粒子径)は球状または不定形粉の場合は、60μm以下(但し0は含まず)であれば100kHzの交流磁界でも渦電流損失の発生に起因する表皮効果の影響を回避できるため望ましい。また、磁性粉が金属軟磁性粉でかつ扁平粉である場合は、そのアスペクト比が1/5以上であれば反磁界係数を小さくできるためインダクタンスに起因する透磁率を確保する観点から望ましく、扁平粉の平均厚さが9μm以下(但し0は含まず)であれば射出成型時に長辺方向に扁平粉が配列し易いため望ましい。また、前記複合磁性体の成型密度が2g/cm以上であれば2以上の透磁率を確保でき、また8g/cm以下であれば射出成形のための流動性が確保し易いため望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によって、軟磁性体と金型の間の隙間や、軟磁性体の磁気ギャップが狭い場合でも確実に充填することができる複合磁性体を含む線輪部品が提供できる。
【0015】
さらに、導電性の軟磁性体表面を確実に複合磁性体で被覆することで、確実に絶縁性を確保しつつ、高い磁気特性を持つ線輪部品を提供できる。
【0016】
また、導電性の軟磁性体に設けた磁気ギャップにも確実に複合磁性体を充填できるため、磁気コアの磁気特性を精密に調整できる、すなわち特性を精密に制御できる線輪部品を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の線輪部品における閉磁路磁気コアの斜視図。図1(a)は軟磁性体一つより構成した一例を示す斜視図、図1(b)は軟磁性体2つを高さ方向に重ねて構成した一例を示す斜視図。
【図2】本発明の線輪部品における閉磁路磁気コアの構成を説明する斜視図。
【図3】図2の閉磁路磁気コアにおけるa面の断面図。
【図4】本発明の線輪部品における軟磁性体と金型の構成の一例を示す断面図。
【図5】本発明の線輪部品における軟磁性体と金型の構成の他の例を示す断面図。
【図6】本発明の線輪部品における別の閉磁路磁気コアの斜視図。
【図7】本発明の線輪部品における複合磁性体片と金型の構成を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明について、図面を基に説明する。
【0019】
図1は本発明の線輪部品における閉磁路磁気コアの斜視図であり、図1(a)は軟磁性体一つより構成した一例を示す斜視図、図1(b)は軟磁性体2つを高さ方向に重ねて構成した一例を示す斜視図である。
【0020】
図1(a)において閉磁路磁気コア3は、導電性の軟磁性体1の表面が複合磁性体2により被覆され、軟磁性体1の磁気ギャップ11も複合磁性体2により充填されている。閉磁路磁気コア3の磁路を周回する巻き線は、図示を省略する。
【0021】
図1(a)では、軟磁性体1が磁気ギャップ11を備えたトロイダルコアであり、閉磁路磁気コア3もトロイダルコアとなっているが、本発明はこれに限定されず、閉磁路を構成している限りはロの字型コアでもEI、EEコア等であっても本発明が適用できる。また、磁気ギャップ11を複数備えていても良く、また備えていなくても本発明が適用できる。
【0022】
複合磁性体2に用いられる磁性粉は、軟磁性粉であればNiZnフェライト粉、MgZnフェライト粉、MnZnフェライト粉、FeSi金属軟磁性粉、FeSiAl金属軟磁性粉などが、硬質磁性体粉であればBaフェライト粉、Srフェライト粉、NdFeB金属磁性粉、SmCo金属磁性粉などが用いられる。
【0023】
複合磁性体2に高絶縁性が求められる場合は磁性粉自体に絶縁性のあるフェライト粉を用いるのが望ましい。また、昇圧回路等に用いられる高い直流重畳特性が求められるチョークコイルやリアクトル等の用途向けには、複合磁性体2の軟磁性粉として、高い飽和磁化を持つFeSi等の金属磁性体を球状もしくは球状に近い形状の粒子形状を持つ金属軟磁性粉に加工したものを用いるのが望ましい。また、ノイズフィルタ等に用いられるチョークコイルには、磁気コアに高い透磁率が求められることから、複合磁性体2の軟磁性粉として、高い透磁率を持つFeSiAl等の金属磁性体を扁平状の粒子形状を持つ金属軟磁性粉に加工したものを用いるのが望ましい。
【0024】
なお、複合磁性体2に、さらにD50(累積重量分率が50%に対応する粒子径)が2μm以下の窒化ホウ素やグラファイト等の電気絶縁性の高い熱伝導材粉を複合磁性体2射出時の流動性を損ねない範囲内で添加することにより、磁気コア3内部からの放熱性を高め、かつ複合磁性体2の剛性が高まることで、磁気コア3の内部磁場の時間変化に起因した軟磁性体における磁気ギャップ部より発生する騒音を抑制することもできるため、望ましい。なお、磁気ギャップ部より発生する騒音とは、巻き線への通電により、磁気ギャップ部に面する磁性体に、互いに磁気的な引力が働くことでコア加振力が発生することで起こる。そこで図1(b)のように軟磁性体を高さ方向に複数重ね、軟磁性体1の磁気ギャップと、別の軟磁性12が高さ方向で隣接するように配置することで、巻き線への通電による磁気的な引力は磁気ギャップ部11と高さ方向に隣接する軟磁性体12の間にも生じるため、磁気的な引力が分散され、 磁気ギャップ部11より生じる騒音を抑制することができるため、望ましい。また、磁気ギャップ部11に高さ方向で隣接する軟磁性体12は複合磁性体2よりも剛性があり、磁気ギャップ部11を強固に固定していることからも、磁気ギャップ部11より生じる騒音を抑制している。
【0025】
複合磁性体2に用いられる熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド、PPS(ポリフェニレンサルファイド樹脂)等の結晶性樹脂が望ましく、特に高い磁気特性が求められる用途ではナイロン、より望ましくはナイロン12(ラウリルラクタムを開環重縮合したポリアミド)が磁性粉とのなじみが良く好適である。また、線輪部品を回路基板等にリフローで実装する場合は、PPSが好適である。
【0026】
図2は、本発明の線輪部品における閉磁路磁気コアの構成を説明する図である。図2に示すように、軟磁性体1の磁気ギャップ部分へ最初に磁性粉として金属軟磁性粉を用いた複合磁性体21を充填し、次に軟磁性体1及び複合磁性体21の表面を軟磁性粉としてフェライト粉を用いた複合磁性体22で被覆することで、磁気ギャップ部分における高い磁気特性と磁気コア3表面の高い絶縁性を兼ね備える構成としても良い。この場合、磁気ギャップ部分に充填される複合磁性体21の熱変形温度を軟磁性体1の表面を被覆する複合磁性体22よりも高くすることで、複合磁性体21が複合磁性体22の射出成形時に混ざり込むことを防ぐことができるため、望ましい。また、軟磁性体1の磁気ギャップ部分へ磁気ギャップ幅よりも薄い、厚み方向に磁力を発生させる磁石板を予め貼り付けておき、磁性粉が硬質磁性粉である複合磁性体21を充填すると、磁石板による磁場で複合磁性体21の硬質磁性粉の磁化の向きが整列し、高い磁力を磁気コア3に作用させることができる。
【0027】
図3は、図2の閉磁路磁気コアにおけるa面の断面図であり、閉磁路磁気コア3の磁路に垂直なa面の断面構成を説明する図である。軟磁性体1の表面を軟磁性粉の含有率が高い複合磁性体221が覆い、さらにその表面を軟磁性粉の含有率が低い複合磁性体222が覆っている構成となっている。
【0028】
図4は本発明の線輪部品における軟磁性体と金型の構成の一例を示す断面図、図5は本発明の線輪部品における軟磁性体と金型の構成の他の例を示す断面図である。図3の複合磁性体を形成するには、まず、図4及び図5に示す金型41と、金型41の蓋となる金型42を準備する。なお、金型41には軟磁性体1を支持するピン431、432を設けている。
【0029】
次に、金型41と金型42によって形成される密閉空間の壁面を熱伝導率の低い0.1mm〜0.5mmのエポキシ樹脂やポリイミド等で覆う(図示せず)。
【0030】
さらに複合磁性体の厚さが1mm以上である場合は、金型41と金型42を複合磁性体中の熱可塑性樹脂の熱変形温度より30℃低く、かつ室温以上の温度に保つ。なお、この際軟磁性体1は熱可塑性樹脂の熱変形温度より高い温度にしておくことで射出時における複合磁性体の流動性が高まるため望ましいが、軟磁性体1と複合磁性体の間にも絶縁性を確保したい場合は熱可塑性樹脂の熱変形温度より30℃低く、かつ室温以上の温度にしても良い。
【0031】
熱可塑性樹脂の熱変形温度より30℃低く、かつ室温以上の温度に保たれ、熱伝導率の低い物質で覆われた金型41と金型42の表面を可塑の状態にある複合磁性体が流動する際、熱伝導率の低い物質に複合磁性体2中の熱可塑性樹脂が接し、冷却されることで固化してゆくが、軟磁性粉は複合磁性体内部の流れに引きずられ、流動してゆくため、結果的に金型壁面側に面する複合磁性体は電気絶縁性の高い熱可塑性樹脂の割合が多くなる。従って、金型壁面側に面する複合磁性体の絶縁性を高めることができる。さらに、金型壁面側に面する複合磁性体の表面に軟磁性粉が露出せず、なめらかな面になるため、巻き線工程の際に巻き線の絶縁皮膜に与えるストレスを最小限に留めることができる。
【0032】
なお、複合磁性体の体積抵抗率が1×10Ω・cm以上ある等の理由で巻き線との絶縁性が充分確保でき、かつ複合磁性体を1mm以下の厚さで被覆したい場合は、金型41と金型42の温度を、複合磁性体中の熱可塑性樹脂の熱変形温度を上限として30℃以内の範囲に保ってもよい。
【0033】
次に金型41に軟磁性体1をセットし、金型42で蓋をした上で、金型41と金型42によって形成される密閉空間を0.1気圧以下にまで真空引きした上で、図4に示すように金型42に設けた軟磁性体1より外周側に軟磁性体1の高さ方向に向くよう配置した射出口51または、図5に示すように軟磁性体1より内周側に軟磁性体1の高さ方向に向くよう配置した射出口52より複合磁性体を射出する。なお、複合磁性体の軟磁性粉として扁平状の金属軟磁性粉を用いた場合でも、軟磁性体1の表面に沿って複合磁性体が流動するため、扁平状の金属軟磁性粉の長辺方向は流動の向きに沿い、金属軟磁性粉の長辺方向は軟磁性体1の表面に沿うこととなるため、透磁率の高い金属軟磁性粉の長辺方向と軟磁性体1表面の磁束が平行となる部分が大多数を占めることになる。なお、射出口51、52の向きを軟磁性体1の高さ方向より軟磁性体1の外周部もしくは内周部表面に沿って傾けても良い。
【0034】
複合磁性体の射出口が軟磁性体1に向くよう配置すると、軟磁性体1に複合磁性体の射出によるストレスが加わる可能性があるため、前述のように、複合磁性体の射出口は軟磁性体1に直接向かないように配置するのが望ましい。なお、複合磁性体が金型41、金型42、軟磁性体1による密閉空間内に均等に充填されるよう、射出口は軟磁性体1の周回距離に対して均等に3点配置するのが望ましい。例えば、軟磁性体1がトロイダルコアであった場合は、円周方向に対して120度おきに射出口が配置されているのが望ましい。また、複合磁性体全体が完全に固化した際に、射出口の部分に突起が生じた場合は、巻き線へのストレスを避けるため、折り取るか、削り取るのが望ましい。従って、複合磁性体表面の射出口であった部分には若干の凹みが生じる。
【0035】
以上のようにして作成した磁気コア3の表面を熱硬化樹脂等で覆っても良い、例えば熱硬化樹脂としてシリコーンを用いた場合は、磁気コア3の表面が柔軟性を持つため、巻き線に熱応力等の負荷がかかった場合でも、絶縁皮膜に与えるストレスを最小限に留めることができる。また、熱硬化樹脂としてエポキシ樹脂を用いた場合は、耐腐食性、高温耐湿性などの樹脂の架橋化学結合による安定性の効果がある。大気圧に近い低い圧力で塗布または成形可能なため磁芯全体への衝撃が小さい。
【0036】
図6は、本発明の線輪部品における別の閉磁路磁気コアの斜視図である。図6のように、磁路の約半周分の軟磁性体表面を複合磁性体で被覆した磁気コア片31、32を対向させ、磁気コア片31と磁気コア片32の間の磁気ギャップに該当する箇所を、望ましくは局部的に複合磁性体片23の熱変形温度より高い温度に加熱しておき、磁気コア片31、32間の磁気ギャップに該当する箇所に複合磁性体片23を挟み込み、磁気コア片31、32より加圧することで接合して磁気コア3を作成しても良い。なお、磁気コア片31、32における磁気ギャップに該当する箇所の複合磁性体は、予め削り取るなどして、内部の軟磁性体を露出させておくと、複合磁性体片23の透磁率や磁力が磁気コア3に有効に作用するため望ましい。
【0037】
図7は、本発明の線輪部品における複合磁性体片と金型の構成を示す断面図である。四角形平板状の複合磁性体片23の磁性粉として扁平状の金属軟磁性粉を用いる場合は、図7のように、配向磁石441及び配向磁石442を複合磁性体片23の厚み方向で対向するように配置した金型44に、熱可塑の状態にある複合磁性体を射出し形成することで、複合磁性体の流動の向きに垂直方向にランダムに向いていた扁平上の軟磁性金属粉が、配向磁石441及び配向磁石442による磁場によって整列し、複合磁性体片23の厚み方向に透磁率を最大限引き出すことができるため、望ましい。なお、複合磁性体片23の磁性粉として硬質磁性粉を用いた場合も同様にして、複合磁性体片23の厚み方向に硬質磁性粉の磁化を配向させることで、複合磁性体片23の厚み方向に磁力を発生させることができる。
【実施例】
【0038】
本発明を実施した一例を以下に述べる。
【0039】
表1に示す熱可塑性樹脂と磁性粉よりなる複合磁性体を、同じく表1の通りの複合磁性体に対する磁性粉の体積含有率で配合し、熱可塑性樹脂がPPSであればシリンダ温度を295℃以上395℃以下、金型温度をPPSの熱変形温度260℃よりも30℃以上低い130℃に保持しつつ金型に射出し、熱可塑性樹脂がナイロン12であればシリンダ温度を200℃以上240℃以下、金型温度をナイロン12の熱変形温度170℃よりも30℃以上低い110℃に保持しつつ金型に射出し、複合磁性体の成形品を得て複合磁性体の軟磁気特性の評価を行った。表1中の磁性粉の粒子形状で、粒状とあるのは、粒度分布D50が10μm以上20μm以下、D90が50μm以上60μm以下の磁性粉を示し、扁平とあるのは、アスペクト比(粉末の長径/短径)の平均値が1/10以上1/5以下、厚さが1μm以上9μm以下の磁性粉を示している。なお、複合磁性体は軟磁気特性の評価を行うために外径12.8mm、内径7.5mm、厚さ5mmに成形し、25から35ターン巻き線し、周波数1MHzの電流を巻き線に通電して測定したインダクタンス値より透磁率を求めた。複合磁性体の飽和磁化については、直流カーブトレーサーで数十秒かけて1周の磁束密度と印加磁界との履歴で測定することにより求めた。そのときのリング磁芯の形状は、外径59.85mm、内径34.85mm、高さ15mmである。
【0040】
【表1】

【0041】
表1の結果より、磁性粉の粒子形状が粒状であれば、粒子形状が扁平である場合よりも複合磁性体に対して磁性粉を充填できるため、飽和磁化Bsを高めることができ、同時に透磁率μ’は粒子形状が扁平である場合よりも低い値となることから、昇圧電源回路などに用いられるチョークコイルの磁気ギャップ充填などに好適に用いることができる。
【0042】
一方、磁性粉の粒子形状が扁平である場合は、透磁率が高いため、磁気コアに高い透磁率が求められるノイズフィルタ用途の線輪部品などに好適に用いることができる。
【0043】
また、磁性粉がフェライト粉である場合と、粒状の金属軟磁性粉である場合とを比較すると、透磁率に大きな差は認められないが、飽和磁化は粒状の金属軟磁性粉のほうが大きい。従って、磁気コアの表面を被覆する複合磁性体の磁性粉として、電気絶縁性の高いフェライト粉を用いるのが好適であることが分かる。
【0044】
さらに表1における実施例13,14,15,16について、体積抵抗率、曲げ強度、衝撃強度(IZOD)、成形密度を測定した結果が表2である。なお、体積抵抗率は、アジレント社製4339B、16008Bを使用し、チャージ時間は60秒、押え圧は5kg、複合磁性体は100mm×100mm×3mmの形状に成形し、厚さ方向に100V印加してIEC60093に準拠して測定を行った。
【0045】
【表2】

【0046】
表2の結果からは、複合磁性体の熱可塑性樹脂としてナイロン12を用いたほうが、複合磁性体の強度が高いことが分かる。なお、実施例10では複合磁性体の磁性粉に金属軟磁性粉を用いているが、充分な体積抵抗率を確保している。
【0047】
なお、上記実施例に加えて、実施例16の複合磁性体は磁性粉として硬質磁性粉である粒状のNdFeB粉とSrフェライト粉を体積が1:1となるように配合し、樹脂としてナイロン12を用い、複合磁性体に対する磁性粉の体積含有率を70%とすることで、400mT程度の磁力と1×10Ω・cm以上の抵抗率を確保することができた。
【符号の説明】
【0048】
1 軟磁性体
11 磁気ギャップ
12 別の軟磁性体
2 複合磁性体
21 複合磁性体
22 複合磁性体
221 複合磁性体
222 複合磁性体
23 複合磁性体片
231 複合磁性体片
232 複合磁性体片
3 磁気コア
31 磁気コア片
32 磁気コア片
41 金型
42 金型
431 ピン
432 ピン
44 金型
441 配向磁石
442 配向磁石
51 射出口
52 射出口
6 磁気配向型
7 電線
I 電線への通電電流の向き

【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉磁路を構成する磁気コアと、前記磁気コアの磁路を周回する巻き線を備え、前記磁気コアは、導電性の軟磁性体と、前記軟磁性体の表面を被覆する熱可塑性樹脂と磁性粉を含む複合磁性体を備え、前記複合磁性体は、前記軟磁性体よりも体積抵抗率が高いことを特徴とする線輪部品。
【請求項2】
前記磁気コアにおける前記軟磁性体は磁気ギャップを有し、前記磁気ギャップに前記複合磁性体が充填されていることを特徴とする請求項1記載の線輪部品。
【請求項3】
前記磁性粉はフェライト粉を含み、前記フェライト粉は前記複合磁性体中に60体積%以下(但し0は含まず)含有し、前記複合磁性体の体積抵抗率が1×10Ω・cm以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の線輪部品。
【請求項4】
前記複合磁性体に前記磁性粉は70体積%以下(但し0は含まず)含有し、前記磁性粉は体積含有率が50%以下(但し0は含まず)の金属磁性粉と、体積含有率が50%より大きく100%より小さいフェライト粉よりなり、前記複合磁性体の体積抵抗率が1×10Ω・cm以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の線輪部品。
【請求項5】
前記磁気コアにおける前記複合磁性体の軟磁性体に面する部分を除く表面は、前記複合磁性体の内部及び軟磁性体に面する表面よりも磁性粉の含有率が低いことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の線輪部品。
【請求項6】
前記磁気コアにおける前記複合磁性体の表面における前記磁気コアにおける磁路を三等分した箇所の前記磁気コアの内側端部または外側端部に凹みがあることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の線輪部品。
【請求項7】
前記複合磁性体表面が熱硬化樹脂で覆われていることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の線輪部品。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂はABS系樹脂、PBT樹脂、PET系樹脂、PPS系樹脂、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12及び液晶ポリマーのいずれかを含む樹脂であり、前記磁性粉のD90(累積重量分率が90%に対応する粒子径)は球状または不定形粉で60μm以下(但し0は含まず)であり、前記複合磁性体の成型密度が2g/cm以上8g/cm以下であることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の線輪部品
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂はABS系樹脂、PBT樹脂、PET系樹脂、PPS系樹脂、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12及び液晶ポリマーのいずれかを含む樹脂であり、前記金属磁性粉は扁平粉で平均厚さは9μm以下(但し0は含まず)、短辺/長辺で定義されるアスペクト比は1/5以下であり、前記複合磁性体の成型密度が2g/cm以上8g/cm以下であることを特徴とする請求項4から7のいずれかに記載の線輪部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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