説明

締め付け工具

【課題】作業者の手振れの影響を低減できる締め付け工具を提供する。
【解決手段】作業者がボルト100の締め付け作業を行う際に用いるインパクトレンチ10であって、エアモータ23と、エアモータ23からの回転トルクが付与されて回転する主軸24と、主軸24の回転角度を検出する角度センサ40と、作業者の手振れによるインパクトレンチ10の回転角度を検出するジャイロセンサ60と、主軸24の回転によってネジの締め付け制御を行うコントローラ50と、を具備し、コントローラ50は、回転角度ωおよび手振れ角度φに基づいてボルト100の締め付け制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネジ等を締め付ける締め付け工具の技術であって、特に締め付け工具の締め付け制御の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、作業者がネジまたはボルトの締め付け作業を行う際に用いる締め付け工具は公知である。締め付け工具は、回転駆動源と、回転駆動源からの回転トルクが付与されて回転する主軸と、を具備し、主軸の回転によりネジの締め付けを行う構成が一般的である。例えば、特許文献1は、トルクセンサと、角度センサと、を備え、トルクセンサおよび角度センサにより検出したトルクおよび回転角度に基づいて、ネジの締め付け完了を判断するインパクトレンチを開示している。
【0003】
しかし、作業者が締め付け作業を行う際に用いる締め付け工具では、手振れが発生した場合には、回転軸の回転角度と、ネジが回転した回転角度との間には、手振れの角度分だけ誤差が生じることになる。つまり、締め付け作業の際に手振れが発生した場合には、締め付けの完了を判定する締め付け制御の精度が悪くなる場合があった。また、実際の締め付け作業では、作業者が締め付け工具を握って固定するものの、手振れが発生しないように固定して締め付け作業を行うには限界があった。さらに、作業者自身も、締め付け作業中に手振れが発生しなかったという確証が得られなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−113132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
解決しようとする課題は、作業者の手振れの影響を低減できる締め付け工具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0007】
即ち、請求項1においては、作業者がネジの締め付け作業を行う際に用いる締め付け工具であって、回転駆動源と、前記回転駆動源からの回転トルクが付与されて回転する主軸と、前記主軸の回転角度を検出する角度検出手段と、作業者の手振れによる前記工具の回転角度を検出する手振れ角度検出手段と、を具備するものである。
【0008】
請求項2においては、請求項1に記載の締め付け工具であって、前記締め付け工具は、前記主軸の回転によってネジの締め付け制御を行う制御手段と、を具備し、前記制御手段は、前記回転角度および前記手振れ角度に基づいてネジの締め付け制御を行うものである。
【0009】
請求項3においては、請求項2に記載の締め付け工具であって、前記制御手段は、前記回転角度を前記手振れ角度によって補正し、前記回転角度が所定角度以上となれば締め付け完了と判断するものである。
【0010】
請求項4においては、請求項1から3のいずれか1項に記載の締め付け工具であって、前記締め付け工具は、前記回転トルクを検出するトルクセンサと、を具備するものである。
【0011】
請求項5においては、請求項1から4のいずれか1項に記載の締め付け工具であって、前記手振れ角度検出手段は、ジャイロセンサとするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の締め付け工具によれば、作業者の手振れの影響を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係るインパクトレンチの全体的な構成を示した側面図。
【図2】同じく制御構成を示すブロック図。
【図3】本実施形態の締め付け制御の流れを示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1を用いて、締め付け工具としてのインパクトレンチ10について説明する。
図1に示すように、インパクトレンチ10は、例えば母材101と母材102とを、ボルト100とナット105とで締結する際に、ネジとしてのボルト100を締め付けるために用いられる工具である。インパクトレンチ10は、ハウジング22内に、回転駆動源としてのエアモータ23と、主軸24と、打撃トルク発生装置28と、を具備している。ハウジング22には、把持部22aが形成されている。なお、エアモータ23は、電動モータであっても良い。
【0015】
エアモータ23は、高圧空気により回転トルクを発生させるロータ25を具備している。主軸24は、ツール本体20における出力軸であり、ハウジング22に回転可能に支持されている。主軸24の先端部24aは、ハウジング22から突出し、アタッチメント90を介してボルト100に対して係合する部分である。打撃トルク発生装置28は、エアモータ23からの連続的な回転トルクをパルス状の打撃トルクに変換する装置である。打撃トルク発生装置28により変換されたパルス状の打撃トルクは主軸24に伝達され、主軸24を回転駆動する。
【0016】
ハウジング22の把持部22aには、操作レバー26と、メインバルブ27とが備えられている。操作レバー26は、メインバルブ27と連動しており、ロータ25に対する高圧空気の供給および停止の操作を行うものである。メインバルブ27は、操作レバー26の操作によりロータ25へ高圧空気の供給および停止を行うものである。
【0017】
このような構成とすることで、エアモータ23からの連続的な回転トルクが、主軸24に対するパルス状の打撃トルクに変換される。そして、打撃トルクは、アタッチメント90を介してボルト100を締め付ける。つまり、打撃トルク発生装置28から伝達された打撃トルクにより主軸24が回転駆動される。そして、主軸24の回転駆動力により、主軸24に接続されたアタッチメント90を介してボルト100が締め付けられる。
【0018】
図1および図2を用いて、インパクトレンチ10についてさらに説明する。
図2では、2点鎖線は、電気信号線を示すものとする。
インパクトレンチ10は、制御手段としてのコントローラ50と、角度検出手段としての角度センサ40と、手振れ角度検出手段としてのジャイロセンサ60と、トルクセンサ30を具備している。コントローラ50には、エアモータ23と、トルクセンサ30と、角度センサ40と、ジャイロセンサ60と、が接続されている。
【0019】
コントローラ50は、インパクトレンチ10の締め付け動作を制御するものである。より具体的には、コントローラ50は、操作レバー26がONされて締め付け動作が開始され、ボルト100がフリーラン状態で締め付けられ、その後ボルト100が母材101に着座し、打撃トルクによってボルト100を締め付け、ボルト100が完全に締め付けられる締め付け完了に至るまでの締め付け動作を制御するものである。
【0020】
トルクセンサ30は、ボルト100の締め付けトルクTを検出するセンサである。トルクセンサ30は、ハウジング22内に設けられ、主軸24の所定の部分を周回するように配設される励磁コイル31と検出コイル32とを備える磁歪式センサとして構成されている。
【0021】
角度センサ40は、主軸24ならびに主軸24に接続されたアタッチメント90の回転角度ωを検出するセンサである(図3の右中央の概念図参照)。角度センサ40は、ハウジング22内に設けられ、主軸24の所定の部分に設けられるロータ鉄心41と、ロータ鉄心41の周回するように設けられるステータ鉄心42と、ステータ鉄心42に巻着されるステータコイル43と、を備える磁気式センサとして構成されている。
【0022】
ジャイロセンサ60は、インパクトレンチ10の手振れ角度φを検出するセンサである。ジャイロセンサ60は、ハウジング22の把持部22a内に設けられている。ジャイロセンサ60は、ジャイロセンサ60が取り付けられたインパクトレンチ10自体に主軸24を中心とする回転方向に回転が生じた時に発生する手振れ角度φを検出するものである(図3の右中央の概念図参照)。
【0023】
なお、インパクトレンチ10の作業者の手振れとは、作業中にインパクトレンチ10を握っている作業者の手が主軸24を中心とする回転方向に所定の角度だけ移動(回転)することである。このとき、インパクトレンチ10自体の姿勢が、インパクトレンチ10の締め付け動作開始時の姿勢に対して、主軸24を中心とする回転方向に所定の手振れ角度φだけ回転した姿勢になる。つまり、手振れ角度φとは、インパクトレンチ10自体(ハウジング22)が、作業者の手振れにより、動作開始時(操作レバー26がONされた時)の位置から主軸24を中心とする回転方向に回転した角度である。
【0024】
図3を用いて、本実施形態の締め付け制御について説明する。
なお、図3の右側には、フリーランおよび着座の状態を示す概念図と、回転角度ωおよび手振れ角度φの概念を示す概念図と、を示している。
【0025】
締め付け制御は、作業者によって操作レバー26がONされることで開始される。
コントローラ50は、エアモータ23を回転させることで、主軸24を回転させる。ここで、操作レバー26がONされてからボルト100が母材101に着座するまでをフリーラン状態という。フリーラン状態では、ボルト100がナット105に螺合されていくだけであるため、インパクトレンチ10にトルクは未だ発生していない。そして、ボルト100が母材101に着座してから、インパクトレンチ10に締め付けトルクTが発生する。インパクトレンチ10は、締め付けトルクTが発生したときから、打撃トルクによる締め付けを行う。
【0026】
コントローラ50は、ステップS110において、トルクセンサ30によって検出される締め付けトルクTを認識し、ステップS120において、締め付けトルクTが基準締め付けトルクTsより大きい値であるかを確認する。ここで、基準締め付けトルクTsとは、予めコントローラ50に設定され、ボルト100の締め付けが完了したことを判断するための基準となる締め付けトルクTである。締め付けトルクTが基準締め付けトルクTsより大きい値であれば、ステップS130へ移行する。一方、締め付けトルクTが基準締め付けトルクTs以下の値であれば、ステップS110へ移行し、継続して締め付けを行う。
【0027】
コントローラ50は、ステップS130において、角度センサ40によって検出される回転角度ωを検出する。なお、この場合に検出される回転角度ωは、締め付け方向を正とした、操作レバー26がONされてからの累積した回転角度ωとしている。さらに、コントローラ50は、ステップS140において、ジャイロセンサ60によって検出される手振れ角度φを検出する。なお、この場合に検出される手振れ角度φは、締め付け方向を負とした、操作レバー26がONされた時からの手振れ角度φとしている。
【0028】
コントローラ50は、ステップS150において、ステップS130にて角度センサ40によって検出した回転角度ωと、ステップS140にてジャイロセンサ60によって検出した手振れ角度φと、を足して、実回転角度θを算出する。すなわち、実回転角度θとは、回転角度ωを手振れ角度φによって補正した、真の回転角度ωである。
【0029】
コントローラ50は、ステップS160において、実回転角度θが基準実回転角度θsより大きい値であるかを確認する。ここで、基準実回転角度θsとは、予めコントローラ50に設定され、ボルト100の締め付けが完了したことを判断するための基準となる実回転角度θである。実回転角度θが基準実回転角度θsより大きい値であれば、締め付け制御を終了する。一方、実回転角度θが基準実回転角度θs以下の値であれば、ステップS150へ移行し、継続して締め付け制御を行う。
【0030】
本実施形態の締め付け制御の効果について説明する。
従来、インパクトレンチ10では、手振れが発生した場合には、主軸24の回転角度ωと、ボルト100が実際に回転した回転角度(本実施形態でいう実回転角度θ)との間には、手振れの角度分φだけ誤差が生じていた。そのため、締め付け作業の際に手振れが発生した場合には、締め付けの完了を判定する締め付け制御の精度が悪くなる場合があった。また、実際の締め付け作業では、作業者がインパクトレンチ10を握って固定するものの、手振れが発生しないように固定して締め付け作業を行うには限界があった。さらに、作業者自身も、締め付け作業中に手振れが発生しなかったという確証が得られなかった。
【0031】
しかし、本実施形態のインパクトレンチ10では、角度センサ40によって検出した回転角度ωを、ジャイロセンサ60によって検出した手振れ角度φによって補正して、実回転角度θ、すなわちボルト100が実際に回転した回転角度を算出する構成としている。そのため、本実施形態のインパクトレンチ10によれば、作業者の手振れの影響を低減できる。
【0032】
本実施形態では、締め付け工具をインパクトレンチ10、すなわち打撃式締め付け工具とする構成としたが、これに限定されない。例えば、非打撃式締め付け工具としてのナットランナであっても本発明を適用できる。つまり、角度センサを具備し、手締め式の締め付け工具であれば本発明を適用できる。なお、手締め式の締め付け工具とは、作業者が手に持ってネジ等を締め付ける工具のことをいう。
【0033】
また、一般に、電動モータの駆動電流は、電動モータの回転負荷に比例する。そこで、本実施形態とは別の実施形態として、エアモータ23を電動モータとした構成とする。この場合には、本実施形態のステップS120における締め付けトルクTが基準締め付けトルクTsより大きい値であるかを確認する代わりに、電動モータの駆動電流が所定電流値より大きい値であるかを確認することで、締め付け完了の基準を判断することもできる。このような構成とすることで、インパクトレンチ10のトルクセンサ30を省略することができる。
【0034】
本実施形態では、ジャイロセンサ60をインパクトレンチ10のハウジング22の把持部22a内に設ける構成としたが、これに限定されない。一般にジャイロセンサ60とは、回転が生じた時に発生する角速度を測る慣性力センサのことであり、コリオリの力を検出することで角速度を電気信号に変換するセンサであって、相対的な基準点等は必要としていない。そのため、例えば、ジャイロセンサ60をインパクトレンチ10のハウジング22内に設ける構成としても良い。
【符号の説明】
【0035】
10 インパクトレンチ
23 エアモータ
24 主軸
30 トルクセンサ
40 角度センサ
50 コントローラ
60 ジャイロセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業者がネジの締め付け作業を行う際に用いる締め付け工具であって、
回転駆動源と、
前記回転駆動源からの回転トルクが付与されて回転する主軸と、
前記主軸の回転角度を検出する角度検出手段と、
作業者の手振れによる前記工具の回転角度を検出する手振れ角度検出手段と、
を具備する、
締め付け工具。
【請求項2】
請求項1に記載の締め付け工具であって、
前記締め付け工具は、
前記主軸の回転によってネジの締め付け制御を行う制御手段と、
を具備し、
前記制御手段は、
前記回転角度および前記手振れ角度に基づいてネジの締め付け制御を行う、
締め付け工具。
【請求項3】
請求項2に記載の締め付け工具であって、
前記制御手段は、
前記回転角度を前記手振れ角度によって補正し、
前記回転角度が所定角度以上となれば締め付け完了と判断する、
締め付け工具。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の締め付け工具であって、
前記締め付け工具は、
前記回転トルクを検出するトルクセンサと、
を具備する、
締め付け工具。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の締め付け工具であって、
前記手振れ角度検出手段は、ジャイロセンサとする、
締め付け工具。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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