説明

締付トルク測定ユニット

【課題】左右の締付方向に対して可及的に誤差を小さくすることのできる締付トルク測定ユニットを提供する。
【解決手段】締付機に装備される締付トルク測定ユニット10であって、締付トルクを検出するトルクセンサ12と、該トルクセンサ12からの出力を増幅する増幅器と、を有しており、該増幅器40,42は、締付機による締付方向が右回転である場合と左回転である場合で、トルクセンサからの出力に対して異なるゲインを適用するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルト・ナット等の締付部材の締付トルクを検出することのできる締付トルク測定ユニットに関するものであり、より具体的には、右回転及び左回転の何れの回転方向に対する締付トルクも精度良く測定することのできる締付トルク検出ユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ボルト、ナット等の締付部材を締め付ける際に、締付トルクを検出することのできる締付トルク検出ユニットが提案されており、該締付トルク検出ユニットを締付機に装備又は締付機の動力伝達機構に着脱可能に装備して使用される。
【0003】
締付トルク測定ユニットは、図5に示すように、歪みゲージ等のトルクセンサ(12)と、該トルクセンサ(12)に接続された増幅器(14)、A/Dコンバータ(16)、マイクロプロセッサ(MPU)(20)及び出力されるトルク測定値の表示手段(30)、必要に応じてトルク測定値の記憶手段(32)から構成される。
【0004】
増幅器(14)は、トルクセンサ(12)から受信したトルク出力を調整済みのゲイン(15)にて増幅、また、オフセット補正(15a)を行なって、A/Dコンバータ(16)に送信し、A/Dコンバータ(16)にてA/D変換した後、マイクロプロセッサ(20)に送信される。
【0005】
マイクロプロセッサ(20)は、A/Dコンバータ(16)から入力されたデジタル信号をトルク値に変換するトルク換算手段(28a)と、トルクのピーク値を検出するピークトルク検出手段(26)を有し、該ピークトルク検出手段(26)は、トルク換算手段(28a)の換算値からトルクのピーク値を検出して、表示手段(30)に表示したり、記憶手段(32)に記憶するようにしている。
【0006】
【特許文献1】特開2007−111797号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、トルクセンサ(12)からの出力に対し、締付機の締付方向に関わらず、一定のゲインで増幅を行なっていた。増幅は、トルクセンサ(12)からの出力(mV)が、トルク測定値(Nm)と正比例の関係となるように測定されることが理想である。しかしながら、トルクセンサ(12)の特性や、トルクセンサ(12)の取付部分、例えば軸や円筒部に取り付けた場合のこれらの真円度等により、締付機の締付方向に関わらず一定のゲインで増幅を行なうと、トルクセンサ(12)の出力(mV)が大きくなるにつれて、右回転、左回転の何れの締付方向についても出力されるトルク測定値は、実際の値から離れてしまう傾向にある。
【0008】
そこで、何れか一方の回転方向に対するトルク測定値の精度を高めるために、図6に示すように、一方の回転方向(図では右回転方向)について、トルク導入値(実際に加えられたトルク値)との誤差を小さくするように、増幅を行なっている。
この場合、他方の回転トルク(図では左回転方向)は、トルクが大きくなるほど測定値と実際の値との誤差が大きくなってしまう問題があった。
【0009】
本発明の目的は、左右の締付方向に対して可及的に誤差を小さくすることのできる締付トルク測定ユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の締付トルク測定ユニットは、
締付機に装備される締付トルク測定ユニットであって、
締付トルクを検出するトルクセンサと、該トルクセンサからの出力を増幅する増幅器と、を有しており、
該増幅器は、締付機による締付方向が右回転である場合と左回転である場合で、トルクセンサからの出力に対して異なるゲインを適用するようにした。
【0011】
増幅器は、右回転の締付トルクに対するゲインを有する右回転用増幅器と、左回転の締付トルクに対するゲインを有する左回転用増幅器と、を具える構成とすることができる。
【0012】
本発明の締付トルク測定ユニットは、締付機の駆動部や動力伝達機構、例えば回転軸に着脱可能に装備することもできるし、締付機の駆動部分に内蔵等することにより一体に装備することもできる。
【0013】
本発明の締付トルク測定ユニットを装備することのできる締付機として、例えば、電動式のもの、圧縮エア作動型のもの、油圧作動型のもの、また、手動のレンチを例示することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の締付トルク測定ユニットによれば、トルクセンサから出力されるトルクについて、締付方向に応じて、増幅器において、異なるゲインを与えるようにしている。これにより、トルクセンサから出力される値を、実際のトルク値に近づけることができ、精度の高いトルク測定を行なうことができる。
【0015】
増幅器は、異なるゲインをトルクセンサからの出力に与えるように設定することもできるし、夫々ゲインの異なる右回転用の増幅器と、左回転用の増幅器を並列に配備して、右回転の場合には右回転用増幅器、左回転の場合には左回転用増幅器によりゲインにて増幅を行なうようにしてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の締付トルク測定ユニット(10)は、締付機(図示せず)を用いて、ボルトやナット等を締め付ける際に、締付方向の正逆、即ち、右回転であるか左回転であるかに応じて、トルクセンサ(12)の出力に与えるゲインを変えるようにしたものである。
【0017】
以下、本発明について、図面を参照しながら説明を行なう。
図1は、本発明の締付トルク測定ユニット(10)のブロック図を示している。また、図2は、締付トルク測定ユニット(10)のフローチャート図を示している。
図1に示すように、締付トルク測定ユニット(10)は、トルクセンサ(12)と、該トルクセンサ(12)からの出力をゲイン(15)にて増幅、オフセット補正(15a)する増幅器(14)、増幅器(14)からの出力をA/D変換するA/Dコンバータ(16)、後述するマイクロプロセッサ(MPU)(20)、マイクロプロセッサ(20)から出力されたトルク値を表示、記憶する表示手段(30)及び記憶手段(32)から構成することができる。
トルク測定ユニット(10)は、図示しないバッテリ等から電源の供給を受けて作動する。
【0018】
トルクセンサ(12)として、歪みゲージを例示することができ、トルクセンサ(12)は、締付機が電動式や圧縮エア作動型、油圧作動型のものの場合、駆動部や動力伝達機構、例えば回転軸に装着することができ、締付機が手動レンチやドライバーの場合、アーム部や軸部に取り付けたり、ソケット等に取り付けることができる。
【0019】
マイクロプロセッサ(20)は、A/Dコンバータ(16)にてデジタルに変換された信号を増幅する増幅器を有する。増幅器は、締付機の締付方向に応じて、与えるゲインが異なる右回転用増幅器(40)と左回転用増幅器(42)から構成することができ、これらは、A/Dコンバータ(16)からの出力に対して並列に接続される。右回転用増幅器(40)は、図1に示すように、右ゲイン(41)により入力デジタル信号を調整し、左回転用増幅器(42)は右ゲイン(41)とは異なるゲイン値である左ゲイン(43)により入力デジタル信号を調整する。
【0020】
右回転用増幅器(40)と左回転用増幅器(42)の入力側には、図1に示すように、ゼロ点調整(29a)を行なうためのゼロ点調整操作ボタン(29)を配備することが望ましい。ゼロ点調整操作ボタン(29)を操作して(図2のステップ1)、ゼロ点調整(29a)を行なうことにより、温度、湿度等によるトルクセンサ(12)や増幅器(14)のドリフトによるゼロ点のずれをリセットして(ステップ2)、測定前の無負荷の状態をゼロと認識させ、表示手段(30)の表示トルク値をゼロに設定することができる(ステップ3)。
【0021】
右回転用増幅器(40)の右ゲイン(41)と、左回転用増幅器(42)の左ゲイン(43)は、ティーチング操作により、出荷前又はメンテナンス時に調整を容易に行なえるようにすることが望ましい。これにより、例えば、図1に示すように、A/Dコンバータ(16)から出力され、右回転用増幅器(40)又は左回転用増幅器(42)に入力されるデジタル信号に対し、ティーチング操作ボタン(28)を操作すると、特定のトルク負荷が、測定値の表示として換算されるように、右ゲイン(41)及び左ゲイン(43)を記憶させることができる。
具体的には、締付トルク測定ユニット(10)を装着した状態の締付機に右回転の定格トルク(例えば、定格トルクが800Nmであれば、+800Nmのトルク)を加え、この状態でティーチング操作ボタン(28)を操作し、該ティーチング操作ボタン(28)に接続されたトルク換算手段(28a)により、締付トルク測定ユニット(10)の右側のトルク測定値が当該定格トルク(例の場合+800Nm)として換算されるよう、右ゲイン(41)を調整する。逆回転についても同様に、左回転の定格トルクを加え、この状態でティーチング操作ボタン(28)を操作することにより、締付トルク測定ユニット(10)の左回転のトルク測定値が当該定格トルク(例の場合−800Nm)として換算されるように、左ゲイン(43)を調整する。これにより、締付トルク測定ユニット(10)に与えられた定格トルクとトルク表示とを精密に調整する必要がなくなり、出荷前やメンテナンス時の調整を容易に行なうことができる。
【0022】
右回転用増幅器(40)と左回転用増幅器(42)は、出力側にてスイッチ機構(22)に接続される。スイッチ機構(22)は、後述する左右選択手段(24)にて、締付機の締付方向が右方向であるか左方向であるかを判別し、右回転である場合には、スイッチ機構(22)は、右回転用増幅器(40)と接続し、左回転である場合には、左回転用増幅器(42)と接続する。
【0023】
左右選択手段(24)は、例えば、予めスイッチ機構(22)が右回転用増幅器(40)と接続されるようにしておき(ステップ4)、右回転用増幅器(40)からの出力が一定値以上となったとき、例えば、予め設定された表示手段(30)への表示開始トルク値以上となったときに(ステップ5)、該出力(デジタル値)のトルク換算値(Nm)が、プラスである場合には、締付機の締付方向が右回転、マイナスである場合には左回転であると判定する(ステップ6)。判定の結果が右回転であれば、そのまま、スイッチ機構(22)を右回転用増幅器(40)と接続させ(ステップ7)、逆に、判定が左回転であれば、左回転用増幅器(42)に接続を切り替える(ステップ8)。
【0024】
右回転用増幅器(40)又は左回転用増幅器(42)からの出力は、スイッチ機構(22)を介して、トルク検出手段(26)に送信される。トルク検出手段(26)は、増幅器(40)又は(42)にてゲインが適用されたトルク値を、表示手段(30)及び/又は記憶手段(32)に表示、記憶等させるための手段である。
図示の実施例では、トルク検出手段(26)として、ピークトルク値を検出し、表示手段(30)及び/又は記憶手段(32)に送信する手段を例示している。
ピークトルク検出手段(26)は、入力されたトルク値がピークを更新する度に(ステップ9)、ピークトルク値を、表示手段(30)に表示したり(ステップ10)、記憶手段(32)に記憶させる(ステップ11)。例えば、ピークトルク値の記憶は、ワーク毎に行なうことができる。これにより、使用者は、現在の締付状況や、締付後の工程確認等を容易に行なうことができる。
なお、トルク検出手段(26)からの出力は、ピークトルク値に限定せず、増幅器(40)(42)からの出力をダイレクトに表示手段(30)や記憶手段(32)に送信し、表示手段(30)や記憶手段(32)は、トルク波形やトルク値を表示、記憶する構成としてもよい。なお、トルク波形を記憶するトルク波形記憶手段(34)を図1に示すように別途配備することもできる。また、表示手段(30)や記憶手段(32)は、トルク値がピークに達したことを表示、記憶する構成としてもよい。さらに、ピークトルク値に達したことや、トルク値を音声等により出力することもできる。
また、表示手段(30)及び記憶手段(32)は、何れか一方だけを設ける構成としたり、これらに代えて又は追加して、マイクロプロセッサ(20)から出力されたトルク値を外部に設けられた表示手段や記憶手段に出力する構成とすることもできる。
【0025】
所定時間、ピークトルク検出手段(26)等へトルク値の入力がなかったり、ピークトルク値が更新されなければ、一つの締付作業は完了したものとみなして、例えば、ピーク値を記憶している場合には、次のトルク値の入力があったときに、記憶手段(32)に対して、別のワークとしてピークトルク値を記憶させるようにすればよい(ステップ12)。
【0026】
本発明の締付トルク測定ユニット(10)によれば、締付機の締付方向に応じて、異なるゲインを与えることができるから、左右の何れの締付方向に対しても、精度の高い締付トルクを表示等させることができる。
【0027】
図3は、左右の締付方向に対して夫々異なるゲインを与えるようにした場合のゲイン適用例である。図3と従来の図6を比較して判るように、左右の締付方向に対して夫々異なるゲインにて増幅することで、締付方向に関わらず、トルク導入値に対して、誤差の小さいトルク測定値を得られている。
【0028】
図4は、本発明の締付トルク測定ユニット(10)により、左右の締付方向に応じて、異なるゲインにて増幅を行なった場合のトルク測定値と、左右の締付方向に関わらず一定のゲインで増幅を行なった比較例であって、右側の締付方向に対して誤差が小さくなるようにゲインの設定を行なったトルク測定値について、トルク導入値との誤差と比較したグラフである。
締付けは、加えたトルク値が、−800Nm(左回転側)〜+800Nm(右回転側)となるようにして実施した。
図4を参照すると、本発明の締付トルク測定ユニット(10)は、左右の締付方向に対して、トルク測定値の誤差を総じて0.3%以下に抑えることができたことがわかる。一方、左右のゲインを同一とした比較例については、右回転トルクにおける測定誤差は、本発明と変わらないものの、左回転トルクにおけるトルク測定値の誤差は、1.0%を超えており、精度の高いトルク測定が実現されていないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、締付機の締付方向に関わらず、精度の高いトルク測定を行なうことのできる締付トルク測定ユニットとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の締付トルク測定ユニットのブロック図である。
【図2】本発明の締付トルク測定ユニットのフローチャート図である。
【図3】本発明の締付トルク測定ユニットの左右個別の増幅器の適用によるトルク測定値と、トルク導入値との関係を示す模式図である。
【図4】締付方向に応じて左右個別のゲインを適用してトルク測定を行なった発明例と、締付方向に関わらず左右同一のゲインを適用してトルク測定を行なった比較例について、夫々トルク導入値に対する誤差を比較したグラフである。
【図5】従来の締付トルク測定ユニットのブロック図である。
【図6】締付方向に関わらずゲインを左右同一とした場合のトルク測定値と、トルク導入値との関係を示す模式図である。
【符号の説明】
【0031】
(10) 締付トルク測定ユニット
(12) トルクセンサ
(20) マイクロプロセッサ
(22) スイッチ機構
(40) 右回転用増幅器
(42) 左回転用増幅器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
締付機に装備される締付トルク測定ユニットであって、
締付トルクを検出するトルクセンサと、該トルクセンサからの出力を増幅する増幅器と、を有しており、
該増幅器は、締付機による締付方向が右回転である場合と左回転である場合で、トルクセンサからの出力に対して異なるゲインを適用するようにしたことを特徴とする締付トルク測定ユニット。
【請求項2】
増幅器は、右回転の締付トルクに対するゲインを有する右回転用増幅器と、左回転の締付トルクに対するゲインを有する左回転用増幅器と、を具える請求項1に記載の締付トルク測定ユニット。
【請求項3】
右回転用増幅器及び左回転用増幅器には、スイッチ機構が接続されており、該スイッチ機構により、締付機の締付方向に応じて右回転用増幅器と左回転用増幅器を切り替えて増幅を行なう請求項2に記載の締付トルク測定ユニット。
【請求項4】
スイッチ機構は、締付機の締付方向を、右回転用増幅器又は左回転用増幅器の何れか一方に入力されたトルクセンサからの出力に基づいて判断する請求項3に記載の締付トルク測定ユニット。
【請求項5】
締付機に着脱可能に装備される請求項1乃至請求項4の何れかに記載の締付トルク測定ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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