説明

締付工具

【課題】打撃音が極めて小さく1回の打撃でボルトやねじを締結でき、且つ反動の小さい締付工具の提供。
【解決手段】モータ30はブラシレスモータにより構成されており、モータ30に流れる電流を検出可能な図示せぬ電流検出装置が設けられている。図示せぬ電流検出装置は制御回路15に電気的に接続されており、制御回路15において電流値を検出可能である。重り40の係合凹部40aに重り係合部34が係合することにより、重り40と出力軸31とは一体回転可能である。重り40の回転により締付トルク1Nmあたりの先端工具に伝わる回転エネルギは0.2J〜0.4Jであり、モータの回転速度、重り40の慣性モーメントは、それぞれ350rad/s〜500rad/s、80kg・m〜150kg・mである。これらの値とすることで、図示せぬ先端工具の回転エネルギを8J〜16Jとすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は締付工具に関し、特に、先端工具によりネジやボルト等を締め付けるための締付工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来よりネジやボルト等を締め付けるためのいわゆるインパクト工具たる締付工具が知られている。インパクト工具としては、ハンマの回転衝撃力により出力軸に回転方向へ打撃力を伝達する構成のものが知られている。この構成のインパクト工具は、モータと、ハンマと、アンビルと、を備えている。
【0003】
インパクト工具においては、充電可能な電池から供給される電力か、又は交流または直流の電源コード(図示せず)により外部から供給される電力を利用して、ハウジング内に設置されたモータを駆動し、モータによって減速機構部を介してスピンドルを回転させる。そして、スピンドルに形成したカム溝に挿入されたスチールボールを介して、スピンドル上で回動可能かつ軸方向に移動可能なハンマによってアンビルを打撃することで締付を行う。
【0004】
ハンマは減速機構部とスピンドル部間に配置されているスプリングによって前方に押されており、ねじの着座以降に回転抵抗が大きくなるとアンビルの回転が抑制され、ハンマがアンビルのハンマ衝突部を乗り越えて、加速されて再びアンビルを打撃する。このようにして六角ソケット等の図示せぬ先端工具に数回から十数回の回転打撃力を連続的又は間欠的に伝達して、ナット締めやボルト締め等の作業を行う。このような締付工具は、例えば特開2005−022082号公報(特許文献1)に記載されている。
【0005】
しかし、この構成の締付工具では、一般にハンマとアンビルは金属材により構成されているため、打撃効果は大きいが、衝突時の騒音は非常に大きく、低騒音が要求される環境内では使用が困難になる。
【0006】
そこで、低騒音化された締付工具としてモータの回転を伝達する機構としてオイルパルス機構を有するオイルパルス工具が知られている。オイルパルス工具のオイルパルスユニットはモータと同期して回転する駆動部分と、先端工具が取り付けられる出力軸と同期して回転する出力部の2つの部分により構成されている。駆動部分が一回転する毎に、当該一回転に対して1箇所設けられたオイルを密閉する位置においてオイルの圧力が急激に上昇し衝撃パルスを発生し出力軸締付トルクが伝達される。このことにより、六角ソケット等の図示しない先端工具に数回から十数回の回転打撃力を連続的又は間欠的に伝達してナット締めやボルト締め等の作業を行う。このような締付工具は、例えば特開2003−039341号公報(特許文献2)に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−022082号公報
【特許文献2】特開2003−039341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上述の特許文献2記載のオイルパルス工具は、特許文献1記載のインパクト工具よりは騒音は小さいものの、一般にボルト等を締め付けると数回〜十数回の打撃によって締結が行われるため、静かな場所では騒音が目立つ。また、工場等において部品を取り付ける際に音で取り付けを確認する作業を行うことがあるが、このような工場でオイルパルス工具を使用すると、オイルパルス工具の騒音が当該作業の妨げとなることがある。そこで、オイルパルス工具よりも更に低騒音の工具が求められている。
【0009】
ここで低騒音化とは、1回の打撃時に発生する音を低減することと、打撃の回数を極力減らして音が発生する回数を低減させることである。
【0010】
打撃数を低減させる場合、例えばモータと先端工具とが減速機構を介して連結された構成のものを用いれば1回の打撃でねじ締めすることが可能である。しかし、同程度のモータを用いたインパクト工具に対して締付トルクが十分の一以下になり、さらに手に伝わる反動が非常に大きくなり危険である。一般的なコードレスのオイルパルス工具の場合には、危険性はインパクト工具よりは小さいが、それでもボルト締め時に手に伝わる反動は大きく連続作業の際に負担となっている。
【0011】
そこで、本発明は、打撃音が極めて小さく1回の打撃でボルトやねじを締結でき、且つ反動の小さい締付工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は、出力軸を有するモータと、 前記モータを収容するハウジングと、 前記モータに接続され、前記モータにより回転駆動される先端工具保持部と、回転減速機構を介さずに前記出力軸と接続可能であり、前記モータの出力軸と一体的に回転可能な重りと、を備え、前記重りと、前記先端工具保持部とを一体回転可能に構成した締付工具を提供している。
【0013】
モータの出力軸と同軸的に一体回転可能な重りには、モータの出力軸を中心として回動するような重りも含まれる。
【0014】
出力軸と接続可能であり、モータの出力軸と一体的に回転可能な重りを備えるため、先端工具保持部に保持される先端工具の回転により締め付ける締付具が最終的に締め付け完了する着座時に、回転方向に1打撃のみ打撃を行うようにすることができる。このため締付工具内部に衝撃が生じないため打撃音は小さく、更に手に伝わる反動も抑制することができる。また、電気的な制御によって回転数を調整してトルクをコントロールできる。また、モータの出力軸との間に回転減速機構が設けられていないため、手に伝わる反動を極力抑制することができる。
【0015】
ここで、該モータの駆動開始後に該モータを一定回転させる制御と、該モータが一定回転中に該モータに流れる電流値が所定の値以上になったときに該モータへの電流の供給を中断又は低下させる制御と、を行う制御手段を有することが好ましい。
【0016】
モータの駆動開始後にモータを一定回転させる制御と、モータが一定回転中にモータに流れる電流値が所定の値以上になったときにモータへの電流の供給を中断又は低下させる制御と、を行う制御手段を有するため、先端工具保持部に保持された先端工具により締め付けられる締付具を締付け完了した着座後に、モータの回転を停止させ又はモータの回転数を下げて、電力を無駄に浪費することを防止することができる。
【0017】
また、該先端工具保持部に保持される先端工具によって締め付けられる締付具の締付トルク1Nmあたりの該先端工具保持部の回転エネルギが0.2J以上0.4J以下であることが好ましい。先端工具保持部に保持される先端工具によって締め付けられる締付具の締付トルク1Nmあたりの先端工具保持部の回転エネルギが0.2J以上0.4J以下であるため、この値に基づいて、目標とする締付トルク値に応じて先端工具の回転数を容易に設定することができる。
【0018】
また、該重りの慣性モーメントが80kg・m以上150kg・m以下であり、該モータは該先端工具保持部を350rad/s以上500rad/s以下の回転速度で回転可能であり、該先端工具保持部の回転エネルギは8J以上16J以下であることが好ましい。
【0019】
重りの慣性モーメントが80kg・m以上150kg・m以下であり、モータは先端工具保持部を350rad/s以上500rad/s以下の回転速度で回転可能であり、先端工具保持部の回転エネルギは8J以上16J以下であるため、低騒音且つ低反動の締付工具であっても高トルク締付を効率よく実現することができる。
【0020】
また、該重りは該モータの出力軸に直接接続され固定されていることが好ましい。重りはモータの出力軸に直接接続され固定されているため、モータの出力軸と一体回転する重りの構成を簡単にすることができる。
【0021】
また、該重りは複数設けられていることが好ましい。重りは複数設けられているため、重りを支持する部材、例えばモータの出力軸等の負担を分散させ軽減させることができる。このため、モータの出力軸が破損してしまうことを抑えることができる。また、出力軸と重りとの間に生ずるすべりを抑えることができ、エネルギロスを抑えることができる。
【0022】
また、該重りが回転し始めてから所定角度回転した後に該先端工具保持部と該重りとを連結して該先端工具保持部と該重りとを一体回転させる回転開始遅延手段を有していることが好ましい。
【0023】
重りが回転し始めてから所定角度回転した後に先端工具保持部と重りとを連結して先端工具保持部と重りとを一体回転させる回転開始遅延手段を有しているため、重りが回転し始めてから、重りと先端工具とが一体回転し始めるまでの間に、重りに回転の勢いをつけることができる。このため、何らかの原因により、先端工具保持部に保持された先端工具で締め付けている締付具が、締め付け完了していない途中で、回転させるのに負荷がほとんどかからないいわゆるフリーランの状態とならずに回転が止まってしまった場合に、そのような状態から脱出し、再びフリーランの状態とすることができる。また、一旦締結された締付具を追い締めすることもできる。
【発明の効果】
【0024】
以上より本発明は、打撃音が極めて小さく1回の打撃でボルトやねじを締結でき、且つ反動の小さい締付工具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態による締付工具を示す断面図。
【図2】本発明の実施の形態による締付工具のモータの出力軸の前端部を示す正面図。
【図3】本発明の実施の形態による締付工具におけるモータの電流値とトルクと回転速度との関係を示すグラフ。
【図4】本発明の実施の形態による締付工具の重りの慣性モーメントと回転速度との関係を示すグラフ。
【図5】本発明の実施の形態による締付工具の動作、及び制御回路の制御を示すフローチャート。
【図6】本発明の実施の形態による締付工具の変形例を示す断面図。
【図7】図6のVII−VIIに沿った要部断面図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明による締付工具の実施の形態について図1乃至図5を参照しながら説明する。図1に示すように締付工具1は、具体的には、ねじを締め付けるための締付工具であり、ハウジング10と、モータ30と、重り40と、を有している。締付工具で締付ける「ねじ」とは、具体的にはナットに対して螺合するボルトであり、締め付け開始時には回転させるための負荷がほとんどかからず、締付け完了時に急激に負荷が大きくなるものを意味する。
【0027】
ハウジング10は胴体ハウジング部11とハンドルハウジング部12とにより構成されており、胴体ハウジング部11とハンドルハウジング部12とは、樹脂により一体に形成されて互いに一体接続されている。胴体ハウジング部11は略筒状をなしており、モータ30と重り40とは胴体ハウジング部11内に並んで配置されている。以下の説明においては、モータ30に対して重り40が配置されている側を前側、重り40に対してモータ30が配置されている側を後側と定義して説明する。また、図1の上側を上側、下側を下側と定義して説明する。
【0028】
ハンドルハウジング部12には、制御回路15や図示せぬ記憶装置が内蔵されており、また、ハンドルハウジング部12の上端部には、トリガ13が設けられている。図示せぬ記憶装置には、後述のようにねじが着座したときにモータ30に流れる電流の上限値が予め記憶されている。また、ハンドルハウジング部12の下端部には、充電可能な電池14が、ハンドルハウジング部12に対して着脱可能に設けられている。電池14は、モータ30及び制御回路15に電力を供給可能である。制御回路15は、トリガ13が作業者によって操作されることによりモータ30に電力を供給するように構成されている。
【0029】
また、胴体ハウジング部11の外部には、モータ30の回転数やモータ30に流れる電流値等を設定可能な図示せぬ操作部が設けられている。図示せぬ操作部は制御回路15に電気的に接続されている。
【0030】
また、胴体ハウジング部11の内部であって後述する重り40を収容する部分には、インナカバー36が設けられている。インナカバー36の後部にはメタルベアリング37が設けられている。メタルベアリング37は後述の重り40の後端部を回転可能に支承している。また、インナカバー36にはハンマケース38が接続されており、インナカバー36とハンマケース38とで重り40を収容する空間を画成している。
【0031】
上下方向においてインナカバー36とハンマケース38とが重なっている部分には、インナカバー36とハンマケース38とに挟持されるようにして図示せぬシール部材が設けられている。図示せぬシール部材は、内部の潤滑油が漏れ出さないようにシールする。ハンマケース38の前部の内周面には、メタルベアリング39が設けられており、メタルベアリング39は、重り40の前部を回転可能に支承している。
【0032】
モータ30は、ブラシレスモータにより構成されており、モータ30に流れる電流を検出可能な図示せぬ電流検出装置が設けられている。図示せぬ電流検出装置は制御回路15に電気的に接続されており、制御回路15において電流値を検出可能である。また、モータ30は前後方向に延出する出力軸31を備えている。出力軸31は軸受32を介して胴体ハウジング部11に対して回転可能に胴体ハウジング部11に支承されている。モータ30の出力軸31は、最大で500rad/sで回転可能である。モータ30よりも前側に位置している出力軸31の部分には、ファン33が設けられている。ファン33は出力軸31と同軸的に一体回転可能に出力軸31に固定されている。ファン33の質量は120gである。
【0033】
また、出力軸31の前端部には、重り係合部34が設けられている。重り係合部34は、正面視が図2に示すように平行な一対の辺34Aと、これら一対の辺34Aの端部をそれぞれ結ぶ一対の円弧34Bとを有する形状をなしており、その軸心位置に出力軸31が固定されている。
【0034】
重り40は、図1に示すように胴体ハウジング部11の内部前側空間内に配置されており、その後端部に係合凹部40aが形成されている。係合凹部40aは重り係合部34と略同一形状をなしており、係合凹部40aには重り係合部34が係合している。重り40の前端部40Aは工具駆動部をなし、後側が閉塞された略筒形状をなしている。重り40の前端部40Aは胴体ハウジング部11の前端から胴体ハウジング部11の外方へ露出し、胴体ハウジング部11よりも前方へ突出している。
【0035】
重り40の前端部40Aには、重り40の前端部40Aを環装するように略円筒状をしたスリーブ41が設けられている。スリーブ41の内周面には、スリーブ41の半径方向内方へ突出する凸部41Aが設けられており、スリーブ41は前後方向に所定の範囲内を移動可能である。また、略筒形状をした重り40の前端部40Aの内部空間は、六角ソケット等の図示せぬ先端工具の後端部を係合可能な先端工具係合凹部40bをなす。
【0036】
また、重り40の前端部40Aには、当該前端部40Aの外部空間と内部空間とを連通するボール保持孔40cが複数形成されている。複数のボール保持孔40c内には、それぞれ1つずつボール42が配置されている。ボール42は、スリーブ41の前後方向への移動によりスリーブ41の凸部41Aに当接していない状態となっているときに、重り40の前端部40Aの半径方向外方へ移動可能となる。このときに、先端工具係合凹部40b内に図示せぬ先端工具の後端部を挿入してゆき、当該後端部に形成された図示せぬ凹部にボール42を係合させる。その後スリーブ41を移動させてスリーブ41の凸部41Aにボール42が当接している状態とすることにより、ボール42は重り40の前端部40Aの半径方向外方への移動が規制され、図示せぬ先端工具は、重り40の前端部40Aから外れないように当該前端部40Aに接続される。図示せぬ先端工具は、その先端部にねじの頭部と略同一形状の六角形の凹部が形成されており、当該凹部内にねじの頭部が係合した状態でモータ30を駆動させ先端工具を回転させることによりねじを締め付けることができるように構成されている。前端部40Aは先端工具保持部に相当する。
【0037】
重り40の質量は330g程度である。図示せぬ先端工具によってねじ等を締め付ける締付トルクは先端工具の回転エネルギによって変化する。大きな締付トルクを得るためには大きな回転エネルギが必要となる。トルクと回転エネルギとの関係は、締め付けようとするねじの大きさやねじ着座時の剛性、ねじ回転中の抵抗等によって変化するが、締付工具1では、締付トルク1Nmあたりの先端工具に伝わる回転エネルギを0.2J〜0.4Jに設定している。従来の1Nmあたり回転エネルギは、オイルパルス工具において0.1以下であり、従来のインパクト工具では0.02程度である。従って本実施の形態の締付工具1における回転エネルギ、換言すれば回転速度と慣性モーメントは、従来のインパクト工具やオイルパルス工具よりはるかに大きい。
【0038】
図4のグラフにおいては、本実施の形態の締付工具1をAとしてモータ30及び重り40の回転数と重り40の慣性モーメントとの関係を示している。また、従来のインパクト工具をBとしてハンマの回転数とハンマの慣性モーメントとの関係を示している。また、従来のオイルパルス工具をCとしてモータ30と同期して回転する駆動部分の回転数と当該部分の慣性モーメントとの関係を示している。図4に示すグラフより締付工具1は、大きな慣性モーメントを高い回転数で回転させてねじ締付を行っていることが分かる。
【0039】
回転エネルギの値によって締付トルクの値はある程度決定されるが、回転エネルギの値だけではなくモータ30の大きさに適した回転速度の値と慣性モーメントの値とが決定されなければならない。例えば締付トルク30Nm程度を狙った場合の回転速度、重り40の慣性モーメントは、本実施例ではそれぞれ350rad/s〜500rad/s、80kg・m〜150kg・mである。より好ましくは400rad/s、100kg・mである。
【0040】
重り40は重くなりすぎると起動時に狙いの回転数に到達するまでに時間を要する。従って重りの慣性モーメントの上限値を150kg・mとし、回転数の下限値を500rad/sとしている。また、軽すぎるとモータ30の回転数を増加させなければならず、また、ファン33等の機械的な損失の増加により効率が低下し、モータ30のトルクも低下するので性能が十分に発揮できなくなる。従って重りの慣性モーメントの下限値を80kg・mとし、回転数の下限値を350rad/sとしている。これらの値とすることで、図示せぬ先端工具の回転エネルギを8J〜16Jとすることができ、本実施の形態の締付工具1の構成において効率良く締め付けの性能を発揮することができる。
【0041】
締付工具1によりねじを締め付けるときの制御回路15による制御及び締付工具1の動作については図5に示すとおりである。先ず、図示せぬ操作部から、モータ30の回転数及びモータ30に流れる電流の上限値を入力し設定する(S1)。次に、トリガ13を作業者が操作することによりモータ30の駆動を開始させる(S2)。モータ30の駆動を開始させると、ねじが回転しているときにねじの締め付けの抵抗がほとんどない状態、即ちフリーラン状態でねじは回転し回転数が上昇する(S3)。その後、S1において設定したモータ30の回転数に到達すると、それ以降後述のようにねじが着座するまで一定回転数でモータ30は回転を続ける(S4、図3のAの区間)。
【0042】
次に、ねじが着座してねじの回転が停止すると(S5、図3のB点)、図示せぬ電流検出装置により検出される電流値が急激に上昇し、トルクが急激に上昇し、回転速度は急激に低下する(S6、図3のCの区間)。そして、当該電流値が図示せぬ記憶装置に記憶されている電流の上限値よりも大きくなったときに(S6、図3のD点)、モータ30への電流の供給を停止するか又は電子クラッチを行う(S7)。ここで、電子クラッチとは、制御回路15による制御により、モータ30に対して低い電流を供給してモータ30を小刻みに正逆運転させることをいう。
【0043】
本実施の形態では、大きな慣性モーメントの重り40を高速で回転させるため、締め付けトルクのコントロールは難しい。また、ねじ締め時に、ねじと穴との寸法誤差や、ねじと穴との間に異物が挟まったりすることでねじが着座前に抵抗が発生した場合に、必要な回転速度が得られなくなりねじ締めの性能が低下することが予想される。また、ねじ等が締め付けられる締付対象物の剛性が低い場合も着座時の回転エネルギは低下する。
【0044】
しかし、上述フローチャートで示すように制御回路15によって制御を行うため、ねじ締め時における多少の抵抗の違いを調整することができる。また、着座時にモータ30に供給される電流が上限値を超えたら電力の供給を中断または低下(電子クラッチ)させることで余分な回転エネルギを遮断することができる。
【0045】
モータ30の出力軸31に接続され出力軸31と同軸的に一体回転可能な重り40を備えるため、先端工具の回転により締め付けるねじが最終的に締め付け完了する着座時に、1打撃のみ回転方向への打撃を行うようにすることができる。
【0046】
このため締付工具1内部に衝撃が生じないため打撃音は小さく、更に手に伝わる反動も抑制することができる。また、電気的な制御によって回転数を調整してトルクをコントロールできる。また、モータ30の出力軸31との間に回転減速機構が設けられていないため、手に伝わる反動を極力抑制することができる。
【0047】
また、ねじを締付ける締付トルク1Nmあたりの工具の回転エネルギが0.2J以上0.4J以下であるため、この値に基づいて、目標とする締付トルク値に応じてモータ30及び先端工具の回転数を容易に設定することができる。
【0048】
また、重り40の慣性モーメントが80kg・m〜150kg・mであり、モータ30は工具を350rad/s〜500rad/sの回転速度で回転可能であり、工具の回転エネルギは8J以上16J以下であるため、低騒音且つ低反動の締付工具1であっても高トルク締付を効率よく実現することができる。
【0049】
また、重り40はモータ30の出力軸31に直接接続され固定されているため、モータ30の出力軸31と一体回転する重り40の構成を簡単にすることができる。
【0050】
本発明の締付工具は、上述した実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変形や改良が可能である。例えば、本実施の形態では、重り40の前端部40Aたる工具駆動部に図示せぬ先端工具を着脱可能に構成されていたが、この構成に限定されない。例えば、図6、図7に示すように、締付工具101の重り140と工具駆動部たる先端工具取付け部140Aとを別体で構成し、これらを一体回転可能としてもよい。
【0051】
具体的には、重り140の前端面には、重り140の軸心を中心とする直径方向位置において前方へ突出する一対の重り側凸部141Cが設けられている。重り側凸部141Cは、図7に示すように、前後方向に直交する平面で切った断面がそれぞれ扇形をなす。先端工具取付け部140Aの後端面には、重り140の軸心を中心とする直径方向位置において後方へ突出する一対の扇型をした取付け部側凸部140Bが設けられている。重り140がモータ30の出力軸31と一体回転することにより、重り側凸部141Cが重り140の軸心を中心として回転し取付け部側凸部140Bと当接し取付け部側凸部140Bを重り140の軸心を中心として押圧することにより先端工具取付け部140Aを重り140及びモータ30の出力軸31と同軸的に一体回転させる。重り側凸部141C、取付け部側凸部140Bは回転開始遅延手段に相当する。
【0052】
このような構成とすることで、重り140の回転に対して先端工具取付け部140Aにあそびを持たせることができ、重り140が回転し始めてから、重り側凸部141Cが取付け部側凸部140Aに当接するまでの間に重り140に回転の勢いをつけることができる。このため、何らかの原因により図示せぬ先端工具で締め付けているねじが締め付け完了していない途中でフリーランの状態とならずに回転が止まってしまった場合に、そのような状態から脱出し、再びフリーランの状態とすることができる。また、一旦締結されたねじを追い締めすることもできる。
【0053】
また、工具駆動部と先端工具とを一体で構成してもよい。
【0054】
また、本実施の形態では、重り40はモータ30の回転軸に直接固定されることにより、モータ30の出力軸31と一体回転可能であったが、直接固定されなくてもよい。また、重り40は1つ設けられたが1つに限定されない。例えば、重りは複数設けられ、モータ30の出力軸31には重り支持部が接続され、複数の重りは重り支持部にそれぞれ固定され、モータ30の出力軸31を中心として複数の重りとが回動可能又は回転可能な構成としてもよい。
【0055】
重り40が複数設けられているため、重り40を支持する部材、例えばモータ30の出力軸31等の負担を分散させ軽減させることができる。このため、モータ30の出力軸31が破損してしまうことを抑えることができる。また、出力軸31と重り40との間に生ずるすべりを抑えることができ、エネルギロスを抑えることができる。
【0056】
また、本実施の形態では、重り40とモータ30の出力軸31とは直接接続され固定されて一体回転したが、この構成に限定されない。例えば、ねじを回転させ始めて締め付けが完了するまで重りとモータの出力軸とが連結されて一体回転し、その後重りとモータの出力軸とは連結が解除され一体回転しない状態となるような構成としてもよい。
【0057】
また、本実施の形態では、モータ30の回転数を制御し、モータ30に流れる電流値の大小によりモータ30に供給する電流値を変化させたりしたが、回転数と電流値との両方に限定されず、いずれか一方のみを制御するようにしてもよい。
【0058】
また、本実施の形態では、電動機たるブラシレスモータ30が用いられたが、ブラシレスモータ30に限定されない。例えばエアモータ等であってもよい。
【0059】
また、本実施の形態では、締付工具1で締付ける「ねじ」とは、具体的にはボルトであったが、ボルトに限定されない。締め付け開始時には回転させるための負荷がほとんどかからず、締付け完了時に急激に負荷が大きくなるものであればよい。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の締付工具は、ねじやボルト等の締め付けを行うための締付工具の分野において特に有用である。
【符号の説明】
【0061】
1、101・・・締付工具 10・・・ハウジング 30・・・モータ 31・・・出力軸 40、140・・・重り


【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力軸を有するモータと、
前記モータを収容するハウジングと、
前記モータに接続され、前記モータにより回転駆動される先端工具保持部と、
回転減速機構を介さずに前記出力軸と接続可能であり、前記モータの出力軸と一体的に回転可能な重りと、を備え、
前記重りと、前記先端工具保持部とを一体回転可能に構成したことを特徴とする締付工具。
【請求項2】
該モータの駆動開始後に該モータを一定回転させる制御と、該モータが一定回転中に該モータに流れる電流値が所定の値以上になったときに該モータへの電流の供給を中断又は低下させる制御と、を行う制御手段を有することを特徴とする請求項1記載の締付工具。
【請求項3】
該先端工具保持部に保持される先端工具によって締め付けられる締付具の締付トルク1Nmあたりの該先端工具保持部の回転エネルギが0.2J以上0.4J以下であることを特徴とする請求項1記載の締付工具。
【請求項4】
該重りの慣性モーメントが80kg・m以上150kg・m以下であり、該モータは該先端工具保持部を350rad/s以上500rad/s以下の回転速度で回転可能であり、該先端工具保持部の回転エネルギは8J以上16J以下であることを特徴とする請求項3記載の締付工具。
【請求項5】
該重りは該モータの出力軸に直接接続され固定されていることを特徴とする請求項1記載の締付工具。
【請求項6】
該重りは複数設けられていることを特徴とする請求項1記載の締付工具。
【請求項7】
該重りが回転し始めてから所定角度回転した後に該先端工具保持部と該重りとを連結して該先端工具保持部と該重りとを一体回転させる回転開始遅延手段を有していることを特徴とする請求項1記載の締付工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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