説明

締結工具

【課題】先端面に工具係合穴を有するピン50と、これに螺合するナット60とを相対回転させて螺合締結させる締結工具において、締結作業が進行するに従ってピンに係合する先端部品をよりピンに近い部位でより強固に保持する。
【解決手段】図8(a)→図8(b)で示すように、ピン50のナット60への螺入に伴って棒レンチ38はピン50に押されて後退するが、棒レンチホルダ31はナットに当接した状態のまま留まり、その先端部の六角孔31cによりナットに隣接した位置で棒レンチを回転不能に保持する。ピンがナットに螺入しきった後ナットは弱体部62でねじ切れる。ピンが螺入するほど棒レンチホルダは棒レンチをよりピンに近い部位で保持し、棒レンチの先端部のねじり変形量を小さく抑えて、棒レンチとピンとを確実に係合させ、締結作業の最終段階で大きなトルクを要するねじ切り式ナットのねじ切りを確実に完結できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピンとナットとを螺合締結させる締結工具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1−3にも記載されるように、先端面に工具係合穴を有するピンと、これに螺合するナットとからなる締結具が利用されている。同締結具を図9に示した。
図9に示すように本締結具は、ピン50と、ナット60とからなる。ピン50は頭部51と軸部52とからなる。その軸部52の周面には雄螺子53が形成され、軸部52の先端面に工具係合穴54が形成されている。工具係合穴54は六角穴であり、工具係合穴54に六角棒レンチが係合する。
ナット60は、雄螺子53に螺合する雌螺子部61と、レンチなどの締結工具が係合する外周形状を有する工具係合部63とを有し、雌螺子部61と工具係合部63とは、せん断可能な弱体部62を介して連続している。弱体部62は雌螺子部61及び工具係合部63より断面積が小さいことで実現されており、雌螺子部61及び工具係合部63との間にトルクが負荷されることでねじ切れて、工具係合部63が雌螺子部61から分離する。雌螺子部61はピン50と螺合締結した状態で残る。
【0003】
以上の締結具の締結作業を行うための締結工具の最も簡単な構成としては、ピン50の工具係合穴54に係合する棒レンチと、ナット60の工具係合部63に係合するレンチとで足りる。但し、ピン50に係合する棒レンチと、ナット60に係合するレンチとが干渉しないことが条件となる。すなわち、ナット60に係合するレンチとしては、いわゆるスパナなどの開放された係合部を有するものか、穴レンチであれば、棒レンチをスルーさせる貫通孔が必要となる。
そして、これらの両レンチを相対回転させることで、それぞれに係合するピン50とナット60と螺合回転させて締結作業を行うことができる。
【0004】
単純な棒レンチと穴レンチのように別体の工具ではなく、これら双方に置き換わる一体的に構成された締結工具が利用されている(特許文献1−3)。
特許文献1には動力駆動の工具が記載され、特許文献2には動力駆動のものと手動のものとが記載され、特許文献3には手動のものが記載されている。
いずれの工具も、ピン(本願図9で50)に係合する棒レンチ又は棒レンチを保持する部品がナット(同60)に係合する穴レンチ内を通った構造を有する。
【0005】
特許文献3に記載の手動工具は、ラチェットとソケットレンチとL型棒レンチとを組み合わせた基本構成を有する。L型棒レンチとして市販のものを使用すると、長い方をラチェット及びソケットレンチ内に挿入せざるを得ず、そのため手で持つ部分が短くなり、L型棒レンチを押さえ難くなる。したがって、快適に作業するには専用品が必要となる。
また、L型棒レンチのラチェット及びソケットレンチ内に挿入されている部分は、途中で回転不能に保持されていないので、締結作業時には全長に亘ってねじり応力が生じ、ねじり変形量も大きくなる。
【0006】
特許文献1、2に記載の動力駆動の工具にあっては、ピンに係合する六角形状の先端部品(特許文献1で36、特許文献2で114)は、筒状部品(特許文献1で38、特許文献2で98)の六角孔に挿入されて回転不能に保持される。この筒状部品はナットを動力で回すナットランナの先端部内を通って逆側に突出し、バネ(特許文献1で66、特許文献2で138)により軸方向に移動可能で回転不能に押さえられている。この筒状部品がナットランナに対して軸方向に移動可能にされるのは、ピンとナットの締め付け方向の螺合回転に伴ってピンに係合する先端部品をナット及びナットランナに対して後退させる必要があるからであり、この筒状部品がナットランナのフレーム(非回転部)に対して回転不能に押さえられているのは、ナットを回転させる時にピンが連れ回りしないように固定しておくためである。
当然に特許文献1、2に記載の工具にあっては、ピンに係合する六角形状の先端部品を含めて専用品が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第4538483号明細書
【特許文献2】米国特許第5305666号明細書
【特許文献3】特開平6−155319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、以上の従来技術にあってもさらに次のような問題があった。
上述のピンに係合する先端部品及びこれを回転不能に保持する筒状部品とは、一体となって軸方向に移動する。
したがって、締結作業の進行段階に拘わらず、この先端部品のピンからのトルクを受ける先端部位と筒状部品に回転不能に保持される部位との間の距離は不変である。
そのため、締結作業の後半、特にナットをねじ切る段階において、ピンに係合する先端部品に大きなトルクが負荷されても、締結作業開始時と同じ軸方向長さに亘ってねじり応力が生じ、ねじり変形量は当然に大きくなる。
すなわち、従来技術にあってはピンに係合する先端部品をピンにより近い部位で強固に保持する構造が採れない。
特許文献1に記載されるように、締結作業開始時にナット内に筒状部品(同文献38)の先端部が挿入された構造をとっても、締結作業の進行に伴って、この筒状部品が後退してナット内から出て行くとともに、ナット内に入る細さに形成されるから十分なねじり剛性を発揮できない。したがって、ピンに係合する先端部品をピンにより近い部位でより強固に保持する構造が採れない。
ピンに係合する先端部品のねじり変形量が大きくなると、先端部品のピンに係合する部位の形状に生じるひずみも大きくなるから、先端部品とピンとの係合が解けてしまうおそれが高まり、従って先端部品がピンの工具係合穴内をなめてしまい、次第に係合を不十分にしたり、ナットのねじ切りを完結できなくしたりするおそれがある。
【0009】
また、特許文献1,2に記載の動力駆動の工具にあっては、ピンに係合する先端部品及びこれを保持する筒状部品はナットランナのフレーム(非回転部)に対して回転不能に保持されているので、先端部品がピンの工具係合穴に係合する角度を捜すために、これらの装着工具を含めたナットランナ全体をピンの軸周りに回動させなければならない。
また、ナットランナは重量が大きく、ソケットレンチを介してナットにも係合している。そのため、手に伝わる感覚で先端部品がピンの工具係合穴に係合しているか否かを確認することは困難である。
【0010】
本発明は以上の従来技術における問題に鑑みてなされたものであって、先端面に工具係合穴を有するピンと、これに螺合するナットとを相対回転させて螺合締結させる締結工具であって、締結作業が進行するに従ってピンに係合する先端部品をよりピンに近い部位で強固に保持することができる締結工具を提供することを課題とする。
さらにはピンの工具係合穴に工具を係合させる作業やピンの工具係合穴に工具が係合しているか否かを確認する作業の作業性を向上することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上の課題を解決するための請求項1記載の発明は、先端面に工具係合穴を有するピンと、これに螺合するナットとを相対回転させて螺合締結させる締結工具であって、
前記ナットに係合して回転する回転部と、非回転部とを有し、当該回転部の回転軸の周りを囲む内周面を有して当該回転軸方向に沿って貫通孔が形成された構造のナット回転工具と、
前記貫通孔に挿入されて、前記回転部に対してその回転軸周りに相対回転可能、かつ、同回転軸方向に移動不能に保持される筒状部品と、
前記筒状部品内に挿入されて、前記筒状部品に対してその軸方向に移動可能、かつ、その軸周りに相対回転不能に保持され、前記工具係合穴に係合する棒レンチと、
前記筒状部品を前記非回転部に対して前記回転軸周りの一方向に回転自由にして逆転不能に保持するワンウエイ機構部と、
前記棒レンチを前記回転軸方向に沿って前記ピン側に付勢する付勢機構とを備える締結工具である。
【0012】
請求項2記載の発明は、前記棒レンチの後端部が外部に出ており、当該後端部を作業者が操作して前記ワンウエイ機構部が許す前記一方向に前記棒レンチを回転操作可能に構成された請求項1に記載の締結工具である。
【0013】
請求項3記載の発明は、締め付け専用であって、前記筒状部品の前記ワンウエイ機構部により回転不能にされる方向が、締め付け時の前記回転部の回転方向である請求項1又は2に記載の締結工具である。
【0014】
請求項4記載の発明は、前記ナットが前記回転部に係合しつつ、前記筒状部品の先端面に当接可能となるように構成された請求項1から請求項3のうちいずれか一に記載の締結工具である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、棒レンチを回転不能に保持する筒状部品は、軸方向に関し棒レンチに対して移動可能で回転部に対して移動不能にされているので、締結作業の進行に伴って棒レンチが後退しても、この筒状部品は棒レンチとともに後退することはなく、回転部とともにナットからの距離を変えることなく留まるので、締結作業が進行するに従ってピンに係合する棒レンチをよりピンに近い部位で強固に保持するという効果がある。
したがって、棒レンチの先端部のねじり変形量を小さく抑えて、棒レンチとピンとを確実に係合させ、締結作業の最終段階で大きなトルクを要するねじ切り式ナットのねじ切りを確実に完結できるという効果がある。
さらには、棒レンチの後端部を回転操作可能に外部に出すことによって、ワンウエイ機構部が許す一方向については棒レンチをナット回転工具から独立して回転操作できるので、ピンの工具係合穴に棒レンチを係合させる作業やピンの工具係合穴に棒レンチが係合しているか否かを確認する作業の作業性が向上するという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る締結工具の全体側面図である。
【図2】図1に示した締結工具の出力端部の拡大図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る締結工具の装着部品の分解斜視覚図である。
【図4】図3と異なる方向から見た装着部品の分解斜視覚図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る締結工具のソケット式孔レンチの平面図(a)及び半身断面側視図(b)である。
【図6】本発明の一実施形態に係る締結工具の棒レンチホルダの平面図(a)及び半身断面側視図(b)である。
【図7】本発明の一実施形態に係る締結工具のベアリングホルダの平面図(a)及び側面図(b)である。
【図8】本発明の一実施形態に係る締結工具の締結作業状態を示す縦断面図(a)及び(b)であり、図(a)は比較的初期段階を、図(b)は図(a)に対してさらに締結作業が進んだ段階を示す。
【図9】従来公知の締結具の側視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の一実施形態につき図面を参照して説明する。以下は本発明の一実施形態であって本発明を限定するものではない。
【0018】
本実施形態は、図9を参照して上述したピン50とナット60とを相対回転させて螺合締結させる締結工具である。本実施形態においてナット60は六角ナットである。
図1に示すように本実施形態の締結工具1は、ナットランナ本体2と、ナットランナ本体2に装着されて使用されるソケット式孔レンチ21と、同様にナットランナ本体2に装着されて使用され、ピン50を棒レンチで保持するためのピン保持装置3とを備える。
【0019】
ナットランナ本体2は工業用に一般的に使用されているものである。
ナットランナ本体2のエア供給口22には加圧エアの供給管が接続される。ナットランナ本体2はエア供給口22から供給される加圧エアにより、図2に示す出力端部に内臓された回転部(図示せず)を回転駆動する。
ナットランナ本体2に内臓の回転部は、その回転中心を中心軸として六角貫通孔を有する。各種のナットに対応するため、この六角貫通孔にソケット式孔レンチ21が挿入されて装着され、ナットランナ本体2及びソケット式孔レンチ21によりナット回転工具が構成される。
【0020】
図3〜図5に示すようにソケット式孔レンチ21は外形が六角形で、その一外面に形成された係合突起21aが装着時の抜け止め機能する。
ソケット式孔レンチ21は貫通孔を有するもので、その貫通孔のうち一端部がナット60と係合する六角形のナット係合孔21bを構成し、残りの部分がナット係合孔21bより大径の円形孔21cを構成する。
【0021】
図3及び図4に示すようにピン保持装置3は、棒レンチホルダ31と、ベアリングホルダ32と、ワンウエイベアリング33と、セットカラー34aと、止め螺子34bと、コイルバネ35と、バネ押えプレート36と、キャップボルト37,37と、L型六角棒レンチ38とからなる。
【0022】
図3、図4及び図6に示すように棒レンチホルダ31は、小径部31aと大径部31bとを有した段付円筒状で、中心軸に沿って貫通孔が形成されている。その貫通孔の一端部は、L型六角棒レンチ38を保持するための六角孔31cを構成し、残り部分が六角孔31cより大径の円形孔31dを構成する。小径部31aは、ソケット式孔レンチ21の円形孔21cに挿入される。小径部31aが円形孔21c内にガタツキなく保持されつつ滑動回転可能に構成されている。図8に示すように、小径部31aの長さは円形孔21cの長さとほぼ等しく、小径部31aは、ナット係合孔21bと円形孔21cとの段差部に当接するまで挿入される。
【0023】
図3、図4及び図7に示すようにベアリングホルダ32は、ベアリングハウジング部32aと、固定プレート部32bとからなる。ベアリングホルダ32の底面は一平面で構成される。固定プレート部32bには長孔32cが形成されている。ベアリングハウジング部32aは固定プレート部32bより厚みがあり、そのため、ベアリングホルダ32の上面は段差状となる。
ベアリングハウジング部32aには、底面に開口するベアリング保持穴32dが形成されている。また、ベアリング保持穴32dと同軸で小径のコイルバネ挿通孔32eが上面部に形成されている。さらに、ベアリング保持穴32dの側壁部分には、螺子穴32f、32fが形成されている。螺子穴32f、32fは、ベアリング保持穴32dの中心軸を介して相対する位置に配置されており、ベアリングハウジング部32aの上面に開口する。
ベアリング保持穴32dにはワンウエイベアリング33が内装され、棒レンチホルダ31の大径部31bがワンウエイベアリング33に嵌入される。
図1,図2に示すように、ベアリングホルダ32の底面がナットランナ本体2の出力端部上面に合わされ、固定プレート部32bに形成された長孔32cを利用してボルト23,23及びナット24,24によりベアリングホルダ32がナットランナ本体2に固定される。
【0024】
L型六角棒レンチ38は市販の既製品で、長軸部38aと短軸部38bとが直角に連続したL字型であり断面は六角形である。
バネ押えプレート36は、棒レンチ挿通孔36aを中央に有し、棒レンチ挿通孔36aを挟んだ両側に一対の螺子挿通孔36b、36bを有した板である。螺子挿通孔36b、36bがそれぞれ螺子穴32f、32fに同軸に配置されるとき、棒レンチ挿通孔36aがベアリングホルダ32のコイルバネ挿通孔32eと同軸に配置される。棒レンチ挿通孔36aは、コイルバネ挿通孔32eより小径で、コイルバネ挿通孔32eはセットカラー34a、コイルバネ35及びL型六角棒レンチ38の軸部を通すが、棒レンチ挿通孔36aはセットカラー34a及びコイルバネ35を通さず、L型六角棒レンチ38の軸部を通す大きさである。
【0025】
L型六角棒レンチ38の長軸部38aが、バネ押えプレート36の棒レンチ挿通孔36a、コイルバネ35、セットカラー34aの順で挿入され、止め螺子34bによってセットカラー34aが長軸部38aに固定される。固定されたセットカラー34aにより、コイルバネ35の先端面のL型六角棒レンチ38に対する位置が規制される。
このようにセットカラー34a、コイルバネ35及びバネ押えプレート36が付設されたL型六角棒レンチ38の長軸部38aが、図8に示すように、コイルバネ挿通孔32e、続いて棒レンチホルダ31の円形孔31dに挿入され、セットカラー34aが円形孔31dと六角孔31cとの間の段差部に当接し、セットカラー34aより先の長軸部38aが六角孔31cに挿入される。長軸部38aの先端はナット係合孔21bより外部に突出する。なお、図8においてはコイルバネ35が圧縮されているので、セットカラー34aは段差部に当接していない。セットカラー34aが段差部に当接するとき、長軸部38aのナット係合孔21bからの突出長さは最大となる。
セットカラー34a、コイルバネ35及びL型六角棒レンチ38の長軸部38aが挿入されたら、キャップボルト37,37をそれぞれバネ押えプレート36の螺子挿通孔36b、36bに通し、螺子穴32f、32fに螺入させてバネ押えプレート36をベアリングホルダ32に固定する。固定されたバネ押えプレート36により、コイルバネ35の後端面の位置が規制される。
【0026】
次に、本締結工具1の使用手順に沿って説明する。
まず、上述した要領に従って本締結工具1を組み立て図1,2に示す組立完了状態とする。
図8の断面図に示すように、ナットランナ本体2及びソケット式孔レンチ21からなるナット回転工具には、ソケット式孔レンチ21によりナット60に係合して回転する回転部が構成される。ソケット式孔レンチ21には、ナット係合孔21b及び円形孔21cにより貫通孔が形成される。この貫通孔は、回転軸Aの周りを囲む内周面を有して回転軸A方向に沿ってが形成されている。
棒レンチホルダ31は、ソケット式孔レンチ21に対して回転軸A周りに相対回転可能にされている。棒レンチホルダ31の大径部31bがソケット式孔レンチ21の後端面とベアリングハウジング部32aの上面部とで挟持され、棒レンチホルダ31の小径部31aの先端面がソケット式孔レンチ21内の段差部に当接して、棒レンチホルダ31は回転軸A方向に移動不能に保持されている。
【0027】
L型六角棒レンチ38は、棒レンチホルダ31の六角孔31cに挿入されて、棒レンチホルダ31に対して回転軸A方向に移動可能、かつ、回転軸A周りに相対回転不能に保持される。したがって、棒レンチホルダ31とL型六角棒レンチ38とは一体回転する。
ワンウエイベアリング33は、棒レンチホルダ31をナットランナ本体2の非回転部に対して、回転軸A周りの一方向に回転自由にして逆転不能に保持する。本締結工具1は締め付け専用であるので、ワンウエイベアリング33により回転不能にされる方向は、締め付け時のソケット式孔レンチ21の回転方向である。
コイルバネ35は、L型六角棒レンチ38を回転軸A方向に沿ってピン50側に付勢する。すなわち、コイルバネ35は、L型六角棒レンチ38の長軸部38aがソケット式孔レンチ21のナット係合孔21bから突出する方向へL型六角棒レンチ38を付勢する。
【0028】
一方、ピン50にナット60を手で螺合させて図9に示す程度の状態を得る。
次に、図8(a)に示すように、本締結工具1の回転軸Aとピン50・ナット60の中心軸とを合わせつつ、本締結工具1をピン50・ナット60に近づけていき、本締結工具1のL型六角棒レンチ38をピン50に、ソケット式孔レンチ21をナット60に係合させる。
このとき、ナット60がソケット式孔レンチ21のナット係合孔21bに係合しつつ、棒レンチホルダ31の先端面に当接する。したがって、棒レンチホルダ31は、その先端部の六角孔31cにより、ナット60の工具係合部63に隣接した位置でL型六角棒レンチ38を回転不能に保持する。
【0029】
ソケット式孔レンチ21のナット係合孔21bがナット60に係合する時、L型六角棒レンチ38が工具係合穴54に係合するように、上述した長軸部38aの最大突出長さを組み立て時にセットカラー34aの固定位置で調整しておく。
L型六角棒レンチ38の後端部、すなわち、短軸部38bは外部に出ている。
L型六角棒レンチ38と、ピン50との角度が合わず係合しない場合は、作業者が短軸部38bを掴んで、ワンウエイベアリング33が許す方向にL型六角棒レンチ38を回転操作して、ピン50の工具係合穴54との角度を合わせて係合させる。また、L型六角棒レンチ38を回転操作して、手に伝わる感覚により工具係合穴54に係合しているか否か確認することができる。
【0030】
次に、ナットランナ本体2の回転出力を開始して、ソケット式孔レンチ21をナット60の締め付け方向に回転させる。これによりソケット式孔レンチ21及びこれに係合するナット60が回転する。このとき、ピン50はナット60が回転する方向に連れ回ることなく、L型六角棒レンチ38及び棒レンチホルダ31を介してワンウエイベアリング33の作用により回転が止められている。したがって、ピン50がナット60に螺入していく。
図8(a)→図8(b)で示すように、ピン50のナット60への螺入進行に伴って、L型六角棒レンチ38は、ピン50に押されて後退する。しかし、棒レンチホルダ31はナット60に当接した状態のままであり、締結作業の全体に亘って棒レンチホルダ31は、その先端部の六角孔31cにより、ナット60の工具係合部63に隣接した位置でL型六角棒レンチ38を回転不能に保持する。締結作業の進行に伴いピン50が棒レンチホルダ31に近づくにつれて、L型六角棒レンチ38のねじりトルクが負荷されるスパンは短くなっていく。
ピン50がナット60に螺入しきった後、ナットランナ本体2の出力によりさらにナット60にトルクが負荷されて、ナット60は、弱体部62でねじ切れ、工具係合部63が雌螺子部61から分離する。雌螺子部61はピン50と螺合締結した状態で残る。
以上により本締結工具1による締結作業が完了する。
【0031】
以上の実施形態によれば、締結作業が進行するほどに棒レンチホルダ31はL型六角棒レンチ38をよりピン50に近い部位で強固に保持し、L型六角棒レンチ38の先端部のねじり変形量を小さく抑えて、L型六角棒レンチ38とピン50とを確実に係合させ、締結作業の最終段階で大きなトルクを要するねじ切り式ナットのねじ切りを確実に完結できる。
また、上述したようにL型六角棒レンチ38の後端部を回転操作可能に外部に出すことによって、ワンウエイベアリング33が許す一方向については棒レンチ38をナット回転工具から独立して回転操作できるので、ピン50の工具係合穴54に棒レンチ38を係合させる作業やピン50の工具係合穴54に棒レンチ38が係合している否かを確認する作業の作業性が向上する。
【0032】
以上の実施形態においては、棒レンチ38とピン50とが係合するための特定形状、ソケット式孔レンチ21とナット60とが係合するための特定形状、ソケット式孔レンチ21とナットランナ本体2とが係合するための特定形状をすべて六角形としたが、他の多角形や多角形以外の特殊形状など、トルクを伝達可能な係合状態を構成できるものであれば、どんな形状でもよいことは勿論である。
また棒レンチは、L型でなくても実施でき、I型、T型、Y型のほか、ピン50に係合する先端部と、操作される後端部とを別部品として結合又は連結したものでもよい。
【0033】
また以上の実施形態においては、ねじ切り式ナット用であるため、締結工具1を締め付け専用に構成したが、通常のナット、すなわち、工具係合部が残るタイプであれば、ナットを緩める作業をも可能となるように構成してもよい。それには、ワンウエイ機構部を、ラチェットのように、回転自由方向と回転阻止方向とを切り替えられる機構に構成すればよい。
【符号の説明】
【0034】
1 締結工具
2 ナットランナ本体
21 ソケット式孔レンチ
21a 係合突起
21b ナット係合孔
21c 円形孔
3 ピン保持装置
31 棒レンチホルダ
31a 小径部
31b 大径部
31c 六角孔
31d 円形孔
32 ベアリングホルダ
33 ワンウエイベアリング
34a セットカラー
34b 止め螺子
35 コイルバネ
36 バネ押えプレート
37,37 キャップボルト
38 L型六角棒レンチ
50 ピン
51 頭部
52 軸部
53 雄螺子
54 工具係合穴(六角穴)
60 ナット
61 雌螺子部
62 弱体部
63 工具係合部(六角)
A 回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端面に工具係合穴を有するピンと、これに螺合するナットとを相対回転させて螺合締結させる締結工具であって、
前記ナットに係合して回転する回転部と、非回転部とを有し、当該回転部の回転軸の周りを囲む内周面を有して当該回転軸方向に沿って貫通孔が形成された構造のナット回転工具と、
前記貫通孔に挿入されて、前記回転部に対してその回転軸周りに相対回転可能、かつ、同回転軸方向に移動不能に保持される筒状部品と、
前記筒状部品内に挿入されて、前記筒状部品に対してその軸方向に移動可能、かつ、その軸周りに相対回転不能に保持され、前記工具係合穴に係合する棒レンチと、
前記筒状部品を前記非回転部に対して前記回転軸周りの一方向に回転自由にして逆転不能に保持するワンウエイ機構部と、
前記棒レンチを前記回転軸方向に沿って前記ピン側に付勢する付勢機構とを備える締結工具。
【請求項2】
前記棒レンチの後端部が外部に出ており、当該後端部を作業者が操作して前記ワンウエイ機構部が許す前記一方向に前記棒レンチを回転操作可能に構成された請求項1に記載の締結工具。
【請求項3】
締め付け専用であって、前記筒状部品の前記ワンウエイ機構部により回転不能にされる方向が、締め付け時の前記回転部の回転方向である請求項1又は2に記載の締結工具。
【請求項4】
前記ナットが前記回転部に係合しつつ、前記筒状部品の端面に当接可能となるように構成された請求項1から請求項3のうちいずれか一に記載の締結工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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