説明

編糸保持切断装置および横編機

【課題】 2つの保持機構でそれぞれ編糸の糸端を独立して保持して解放可能であり、設置スペースを小さくすることができるコンパクトな編糸保持切断装置および横編機を提供する。
【解決手段】 駆動源となるモータ13の出力軸13aに装着される駆動レバー14の先端付近には、駆動ピン部材15が装着される。駆動ピン部材15は、はさみ用リンク部材16、および2つのルーパ用リンク部材17,18の長孔16aおよび円弧状溝17a,18aに、共通に挿入される。はさみ用リンク部材16は、モータ13の出力ではさみ10を作動させるための駆動力の伝達を行う。ルーパ用リンク部材17,18は、モータ13の出力で、各ルーパ11,12を選択的に作動させるための駆動力の伝達と切換えとを行う。各ルーパ11,12は、下降時に、上端のフック状の部分が糸保持レバー19,20との間で編糸6,7をそれぞれ挟んで保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、給糸口から編地編成のために供給される編糸を保持して切断する編糸保持切断装置、およびそのような編糸保持切断装置を備える横編機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、横編機で連続的に製品を編成すると同時に製品単品毎に切離すためなどに、糸把持装置が用いられている(たとえば、特許文献1参照。)。特許文献1に開示されている糸把持装置は、歯口下方または歯口側端下方から一対のニップ爪を開いた状態で編地の編端から給糸口に渡る編糸の経路に上昇させ、ニップ爪を閉じて把持し、編糸を把持したニップ爪を下降させて編糸を保持する。このようなニップ爪の昇降動作は、モータの回転出力をラックとピニオンとで直線出力に変換して行われる。ニップ爪の開閉動作は、昇降動作をリンク機構で変換して行われる。糸把持装置で保持される編糸は、糸把持装置よりも編地側に設けられる糸切断装置で切断される。糸把持装置は切断された編糸の糸端を保持し、次の製品の編成が開始されると、必要に応じてニップ爪を開いて保持している糸端を解放する。
【0003】
特許文献1には、以上で説明しているような糸把持装置が2組搭載され、さらに糸切断装置が1組搭載される編糸把持切断装置の構成も開示されている。このような編糸把持切断装置は、同一の製品内でも、たとえば1つの編糸を使用して編成する領域が離れていて、領域間で長い渡り糸が生じるような場合に、編糸を切断して渡り糸が生じないようにするためにも用いられる。
【特許文献1】特公平4−74463号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている2組の糸把持装置と1組の糸切断装置とを搭載する編糸把持切断装置は、各糸把持装置が編糸を独立して保持し、さらに保持する際には、各糸切断装置毎に独立して切断することもできる。横編機で多様な編地を後加工の手間を省いて効率よく編成するためには、編成の途中で複数の編糸を切断し、糸端を保持しうる編糸保持切断装置が必要となる。しかしながら、編糸保持切断装置を設置するのは、歯口下方または歯口側端下方となるので、設置可能なスペースは小さい。特許文献1に開示されている編糸把持切断装置は、駆動源として3つのモータなどを要するので、設置スペースなどが大きくなってしまう。
【0005】
本発明の目的は、2つの保持機構でそれぞれ編糸の糸端を独立して保持して解放可能であり、設置スペースを小さくすることができるコンパクトな編糸保持切断装置および横編機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、横編機で編地を編成するために使用される編針の範囲の外側に設けられ、編地から該範囲の外側に位置する給糸口に渡る編糸をそれぞれ個別に捕捉し、保持して解放するように開閉および昇降が可能な2つの保持機構と、保持機構が保持する編糸を編地側で切断する切断機構とを備える編糸保持切断装置において、
出力軸の回転方向を切換え可能な駆動源と、
該出力軸が予め定める基準状態から角変位する方向に応じて、一方側の保持機構または他方側の保持機構を選択的に作動させ、該基準状態との角度差が増大すれば作動させる保持機構を開いて上昇させ、該角度差が減少すれば該保持機構を下降させて閉じさせる選択駆動機構と、
選択駆動機構で該基準状態との角度差が増大してから減少する際に、連動して切断機構を作動させる切断駆動機構とを、
含むことを特徴とする編糸保持切断装置である。
【0007】
また本発明で、前記選択駆動機構は、
前記駆動源の出力軸に平行で、該出力軸の角変位に応じて旋回変位する駆動ピンと、
駆動ピンが挿入される円弧状の溝を有する2つのリンク部材とを含み、
前記基準状態で、一方のリンク部材の円弧状の溝の一端と、他方のリンク部材の円弧状の溝の他端とに駆動ピンが共通に挿入され、
該出力軸が該基準状態から角変位する方向に応じて切換えられる1つのリンク部材の円弧状の溝内を該駆動ピンが通過しながら、他のリンク部材を、該駆動ピンが円弧状の溝の端に挿入されている状態で連行して駆動することを特徴とする。
【0008】
また本発明で、前記駆動ピンは、前記円弧状の溝に挿入される部分で円形の一部が切り欠かれた断面形状を有し、
前記リンク部材の円弧状の溝は、前記基準状態で該駆動ピンが共通に挿入される端部では該駆動ピンの円形断面の直径の真円が挿入可能な形状を有し、該端部を除く部分では該真円が通過しないで、該切り欠かれた断面形状が通過する幅を有することを特徴とする。
【0009】
また本発明で、前記切断駆動機構は、前記駆動ピンが挿入される長孔を有し、駆動ピンが該長孔を通過する間は、前記切断機構の作動を休止するリンク部材を備えることを特徴とする。
【0010】
また本発明で、前記2つの保持機構のうちの切断装置に近い側の保持機構は、該保持機構から前記編針の範囲の外側に位置する給糸口に渡る部分の編糸が他の保持機構の上昇時に捕捉されないように、編糸を保持すると給糸口に渡る部分の位置をずらす突起を有することを特徴とする。
【0011】
さらに本発明は、前述のいずれか1つに記載の編糸保持切断装置を備えることを特徴とする横編機である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、選択保持機構で、回転方向を切換え可能な駆動源の出力軸が予め定める基準状態から角変位する方向に応じて、一方側の保持機構または他方側の保持機構を選択的に作動させる。基準状態との角度差が増大すれば作動させる保持機構を開いて上昇させ、角度差が減少すれば保持機構を下降させて閉じさせるので、1つの駆動源で2つの保持機構を選択的に作動させ、編地から編端外側に位置する給糸口に渡る編糸をそれぞれ個別に捕捉し、保持して解放するように開閉および昇降させることができる。切断駆動機構は、選択駆動機構で基準状態との角度差が増大してから減少する際に、切断機構を作動させるように駆動するので、2つの保持機構に対して、切断機構を共通に仕様させることができる。2つの保持機構で編糸の糸端を独立して保持して解放可能であり、切断機構で糸端を切断可能であっても、単一の駆動源で2つの保持機構を駆動するので、設置スペースを小さくすることができ、コンパクトな編糸保持切断装置を得ることができる。
【0013】
また本発明によれば、駆動源の出力軸の角変位に応じて旋回変位する駆動ピンが、基準状態で、一方のリンク部材の円弧状の溝の一端と、他方のリンク部材の円弧状の溝の他端とに共通に挿入され、一方の円弧状の溝内を駆動ピンが通過しながら他方の円弧状の溝の端を連行して駆動することができる。
【0014】
また本発明によれば、駆動ピンは、リンク部材の円弧状の溝に挿入される部分で円形の一部が切り欠かれた断面形状を有する。リンク部材の円弧状の溝は、基準状態で駆動ピンが共通に挿入される端部では駆動ピンの円形断面の直径の真円が挿入可能な形状を有し、端部を除く部分では切り欠かれた断面形状が通過する幅を有するので、基準状態から角変位する方向に応じた駆動の切換えを確実に行うことができる。
【0015】
また本発明によれば、切断駆動機構は、駆動ピンが該長孔を通過する間に切断機構の作動を休止するリンク部材を備えるので、保持機構が編糸を捕捉して、引下げてから切断するように、作動を遅れさせることができる。さらに、駆動ピンは、保持機構を駆動する単一の駆動源の出力軸の角変位に応じて旋回変位するので、単一の駆動源で切断機構も駆動することができる。2つの保持機構と切断機構とを単一の駆動源で駆動するので、編糸保持切断装置をさらにコンパクトにすることができる。
【0016】
また本発明によれば、2つの保持機構のうちの切断装置に近い側の保持機構は、糸端を保持している編糸の編端外側に位置する給糸口に渡る部分の位置をずらして、他の保持機構の上昇時に捕捉されないようにすることができる。
【0017】
さらに本発明によれば、横編機で2つの保持機構で編糸の糸端をそれぞれ独立して保持して解放可能であり、かつ切断機構で編糸を切断可能であって、コンパクトな編糸保持切断装置を備えるので、編地編成途中での編糸の切断および保持を伴う多様な処理を行うことができる。編糸保持切断装置は、コンパクトに構成することができるので、使用する数を増やして、処理可能な編糸の数を増大させることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1〜図12は、本発明の実施の一形態としての編糸保持切断装置1の概略的な構成を示す。なお、以下の説明で、先に説明している部分と対応する部分は、同一の参照符を付し、重複する説明を省略する。
【0019】
図1は、本実施形態の編糸保持切断装置1を備える横編機2の部分的な構成を簡略化して示す。編糸保持切断装置1は、前後に針床3を備える横編機2で、前後の針床3が対峙する歯口4の下方または歯口4の側端外側の下方に設けられる。横編機2では、各針床3で個別に編地5を編成したり、前後の針床3で周回編成し、編端両端を連結しながら筒状に編地を編成したりすることができる。編地5は、編糸6,7を給糸口8,9から供給しながら針床3の編針に編成動作を行わせて編成される。
【0020】
編糸保持切断装置1は、切断機構であるはさみ10と、2つのルーパ11,12とを含む。ルーパ11,12は個別に昇降変位可能であり、上昇時には歯口4の上方まで進出することができる。歯口4の上方から針床3の側端外方の上方には、給糸口8,9を下端に備えるヤーンフィーダなどが走行する。編地5の編成に使用され、休止する編糸6,7は、編地5から給糸口8,9の間に、渡るように懸架される。一方、たとえばルーパ11を、二点鎖線で示すように上昇させれば、編糸6を捕捉することができる。編糸6を捕捉したルーパ11が下降すると、他のルーパ12が上昇しても、ルーパ11が捕捉している編糸6をルーパ12が捕捉するのは困難な状態となる。編糸保持切断装置1では、単一のモータ13を駆動源として、2つのルーパ11,12を選択的に作動させることができる。いずれかのルーパ11,12の作動とともに、はさみ10も作動する。モータ13としては、たとえばステッピングモータを使用することができる。サーボモータなども使用することができる。また、出力軸13aは、直接モータの回転出力を取出すばかりではなく、変速機構を介して取出すようにしてもよい。
【0021】
駆動源となるモータ13の出力軸13aには、駆動レバー14が装着される。駆動レバー14は、出力軸13aの径方向の外方に延びる。駆動レバー14の先端付近には駆動ピン部材15が装着される。駆動レバー14と駆動ピン部材15とは、一体にしても、別体としてもよい。駆動ピン部材15は、はさみ用リンク部材16、および2つのルーパ用リンク部材17,18の長孔16aおよび円弧状溝17a,18aに、共通に挿入される。はさみ用リンク部材16は、モータ13の出力ではさみ10を作動させるための駆動力の伝達を行う切断駆動機構として機能する。ルーパ用リンク部材17,18は、モータ13の出力で、各ルーパ11,12を選択的に作動させるための駆動力の伝達と切換えとを行う。各ルーパ11,12は、下降時に、上端のフック状の部分が糸保持レバー19,20との間で編糸6,7をそれぞれ挟んで保持する。ルーパ11,12と糸保持レバー19,20とは、2つの保持機構を構成する。
【0022】
図6も参照して、編糸保持切断装置1では、ルーパブロック取付台21が構造上のベースとなる。ルーパブロック取付台21には、上下方向に延びる溝が設けられ、大略的に柱状のルーパブロック22がその溝に嵌め合わされる。ルーパブロック22には、2つのルーパ11,12が挿入される上下方向に延びる溝22a,22bが並設されている。モータベース23は、ルーパブロック取付台21から下方に延び、下端付近にはモータ13が装着される。ルーパブロック22の溝22a,22bに挿入されるルーパ11,12は、ルーパ押え板24で溝22a,22bから脱落しないように押えられる。
【0023】
ルーパ用リンク部材17,18は、ルーパ用ばね25,26の下端によってそれぞれ吊下げられる状態で支持される。ルーパ用リンク部材17を吊り下げるルーパ用ばね25の上端は、モータベース23に立設されるばね掛けピン27で支持される。ルーパ用ばね26の上端は、後述するように、同様なばね掛けピンで支持される。これらの駆動レバー14および駆動ピン15とルーパ用リンク部材17,18とは、選択保持機構を構成する。
【0024】
図1でルーパブロック22の針床3側には、はさみ駆動カム部材28が上下動可能に支持される。はさみ駆動カム部材28の上部は板状であり、大略的に傾斜した形状のカム溝28aが形成されている。はさみ駆動カム部材28は、成型や切削などで全体を一体的に形成することができるけれども、複数の部材を組合わせて形成することもできる。はさみ駆動カム部材28を上下動可能に支持するために、カム板押え29が用いられる。カム板押え29は、板ばねであり、はさみ駆動カム部材28が自重などで下降しないで、はさみ用リンク部材16による駆動でのみ摺動変位するように押える。
【0025】
はさみ10は、はさみ押え30で押えられる。はさみ押え30は、はさみブロック31の上部に取付けられる。図6ではさみブロック31の右側には、はさみ駆動カム部材28が嵌合する溝31aが設けられている。前述のカム板押え30は、溝31aに嵌合したはさみ駆動カム部材28との間で、はさみブロック31で溝31aが形成されている部分の裏側を挟むようにして、はさみブロック31に対して挟み駆動カム部材28を摺動変位可能に支持する。はさみブロック31は、ルーパブロック22に取付けられて支持される。
【0026】
ルーパ11,12が糸保持レバー19,20との間で編糸6,7を挟んで保持している状態から、ルーパ11,12を上昇させれば、編糸6,7を解放させることができる。編糸6,7が確実に抜けるように、ルーパ11,12が上昇して編糸6,7を放す時には、ルーパブロック22に取付けるエア配管継手32に圧縮空気を外部から供給し、図2や図3に示すルーパブロック22に設けるノズル32aから吹き出させる。ノズル32aは、糸保持レバー19,20に対して、それぞれ設けられる。ルーパ11,12を選択的に駆動するための基準状態は、駆動レバー14の位置をセンサ33で検知して確認することができる。
【0027】
2つのルーパ11,12のうち、針床3の側端に近い方のルーパ11がたとえば編糸6の糸端を保持している状態では、ルーパ11の上部と糸保持レバー19とで挟んで保持している部分から給糸口8に渡る編糸6の部分を、他のルーパ12の上昇で捕捉されてしまうおそれがある。そのような誤作動を防ぐため、糸保持レバー19に傾斜ピン34を立設させ、編糸6の保持時に傾斜ピン34を図の手前側に傾斜させて、給糸口8に渡る編糸6の経路をルーパ12の上昇時に捕捉可能な範囲からずらすようにしている。
【0028】
図2は、主としてルーパ11に関する構成を示す。ルーパ12に関する構成も、糸保持レバー20には傾斜ピン34が立設されていないことを除き、基本的に同等である。糸保持レバー19は、ルーパブロック22の上端付近に、揺動軸35を中心として揺動変位可能に支持され、ばね36で図の反時計回り方向に付勢されている。糸保持レバー19にはルーパ溝19aが設けられ、ルーパ11の上部が通過可能である。破線で示すようにルーパ11を上昇させれば、前針床3fと後針床3bが対峙する歯口4の上方に突出して、給糸口8よりも高い位置に達することができる。給糸口8は、前後の針床3f,3bから歯口4に進出させる編針3fn,3bnに編糸を供給して編地を編成するために適した高さの位置を通過する。上昇したルーパ11を下降させると、基準状態では実線で示すように先端が糸保持レバー19のルーパ溝19aに入る。一方の編糸の保持機構は、ルーパ11とともに、ルーパ溝19aが形成されている糸保持レバー19で構成される。他方の編糸の保持機構は、ルーパ12と糸保持レバー20とで構成される。すなわち、ルーパ11,12と糸保持レバー19,20との間の開閉で、編糸6,7を保持または解放させる。なお、ルーパ11,12と糸保持レバー19,20との間で編糸6,7を解放させる際には、ノズル32aからのエア吹きも行われる。
【0029】
ルーパ用リンク部材17,18は、大略的に上半が直線状で下半が半円状で、全体的には板状の形状を有する。ルーパ用リンク部材17,18の半円状の部分には、半円弧状の円弧状溝17a,18aがそれぞれ形成される。半円状の部分の中間付近には、径方向の外方に突出する突起部17b,18bがそれぞれ形成される。ルーパ用リンク部材17,18の突起部17b,18bは、基準状態で、モータベース23に立設される当りピン37,38にそれぞれ当接する。ルーパ用リンク部材18を吊り下げるルーパ用ばね26の上端は、図1でルーパ用ばね25の上端がばね掛けピン27で支持されているのと同様に、モータベース23に立設されるばね掛けピン39によって支持される。ルーパ用リンク部材17の上端は、連結部材40を介して、ルーパ11の下端にピン結合される。
【0030】
図3は、図2のルーパ11が給糸口8から歯口4に供給される編糸6を捕捉して、糸保持レバー19との間で挟んで保持している状態を示す。ルーパ11の上端下部と糸保持レバー19のルーパ溝19aとの間に編糸6が介在すると、ルーパ11の下降で、糸保持レバー19はばね36の付勢に抗して揺動変位し、傾斜ピン34も図の右方に傾斜する。傾斜ピン34が傾斜する方向には、保持している編糸6が給糸口8に渡る部分が存在するので、傾斜ピン34の傾斜で編糸6の位置をずらし、他のルーパ12の捕捉範囲外に退避させることができる。
【0031】
図4は、(a)で駆動レバー14および駆動ピン部材15の組合わせ状態、(b)および(c)でルーパ用リンク部材17,18の構成をそれぞれ示す。駆動ピン部材15は、ルーパ用リンク部材17,18の円弧状溝17a,18aに挿入される部分が真円ではなく、切欠部15aとして一部が直線的な弦となるような弓形の断面形状を有する。各ルーパ用リンク部材17,18の上端には、ルーパ11,12の下端と連結するための連結孔17c,18cがそれぞれ設けられる。また、ルーパ用リンク部材17,18の上半と下半との中間付近には、図2に示すルーパ用ばね25,26の下端を掛けるためのばね掛け孔17d,18dがそれぞれ設けられる。円弧状溝17a,18aの下端は、駆動ピン部材15の真円部が挿通可能な真円部17e,18eとなっている。円弧状溝17a,18aの他の部分は、駆動ピン15の真円部が通過可能な幅よりも小さく、切欠部15aが円弧状溝17a,18aの内周側に向いた状態で通過可能な幅に形成されている。
【0032】
図5は、糸保持レバー19,20の構成を拡大して示す。(a)は平面視して示し、(b)は糸保持レバー19を正面視して示す。各糸保持レバー19,20の横方向に延びる腕には、ルーパ11,12の上部が通過可能なルーパ溝19a,20aがそれぞれ設けられる。糸保持レバー19の腕の先端付近には、図2に示すばね36の上端を受ける突起19bが下方に突出するように設けられる。糸保持レバー20にも同様の突起20bが設けられる。糸保持レバー19,20の腕の上面には、編糸を保持する際の抜け口となる糸溝19c,20cもそれぞれ設けられる。さらに糸保持レバー19には、図3で説明している動作を行う傾斜ピン34が設けられる。傾斜ピン34は、糸保持レバー19とは別の部材を組合わせることもでき、一体的に形成することもできる。
【0033】
図6は、図1の編糸保持切断装置1の主要部分を分解斜視して示す。説明の便宜上、ばねは省略し、結合用のボルトなどを追加している。なお、ボルトなどでも省略しているものがある。図1に示すはさみ10は、可動部材10aと固定部材10bとで形成される。はさみ10の可動部材10aは、中間部分に立設される案内ピン41がはさみ駆動カム部材28のカム溝28aに嵌合して案内される。はさみ用リンク部材16は、上端が連結ピン部材42ではさみ用駆動カム部材28の下端にピン結合される。はさみ10の可動部材10aは、下端付近を支持ピン部材43で揺動変位可能に支持される。はさみ用リンク部材16が駆動レバー14の作用を受けて、はさみ駆動カム部材28が上下に変位すると、カム溝28aでの案内ピン41を介する案内で、可動部材10aは支持ピン部材43を支点とする揺動変位を行い、固定部材10bとの間ではさみ10としての開閉動作を行う。はさみ10が閉じる際に、可動部材10aと固定部材10bとの間に編糸が存在していれば、その編糸に対する切断が行われる。なお、図4に示すルーパ用リンク部材18の上端の連結孔18cとルーパ12の下端との連結は、連結部材44によるピン結合で行われる。
【0034】
図7は、はさみ10を駆動するための構成を示す。基準状態では、駆動ピン部材15がはさみ用リンク部材16の長孔16aの下端に位置している。駆動ピン部材15は、ルーパ用リンク部材17,18の円弧状溝17a,18aでも下端に位置している。円弧状溝17a,18aの高さh1は、長孔16aの長さh2に比較して大きく、h1>h2となっている。駆動ピン部材15は、出力軸13まわりの旋回で上方に移動する際に、長孔16aの上端に達するまで、はさみ用リンク部材16に対する駆動を行わない。したがって、h1≦h2であれば、はさみ10を開閉する駆動は行われない。長孔16aの長さh2の部分を駆動ピン部材15が移動する期間は、はさみ10の開閉動作は行われず、ルーパ11,12の上下動作から遅れる。h1に対するh2の調整で、ルーパ11,12の作動に対するはさみ10の動作のタイミングを調整することができる。また、はさみ10を作動させるまでに、ルーパ11,12による編糸6,7の捕捉動作と解放動作とを完了させるようにしておけば、基準位置から途中まで出力軸13aを回転し、反転させて、編糸6,7の捕捉および保持と、捕捉からの解放とを、はさみ10による切断を伴わずに行わせることができる。
【0035】
図8は、図7に示す基準状態でのルーパ11に関する構成を(a)で、はさみ10に関する構成を(b)でそれぞれ示す。以下、図12まで、同様にルーパ11とはさみ10とに関する構成を分けて示す。
【0036】
図8(a)に示すように、駆動ピン部材15は、各ルーパ用リンク部材17,18の円弧状溝17a,18aの端部の真円部17e,18eにそれぞれ位置している。ルーパ用リンク部材17,18は、ルーパ用ばね25,26によって吊り上げるように付勢されているけれども、駆動ピン部材15によって下端に引下げられている。(b)に示すように、はさみ用リンク部材16を介して、はさみ駆動カム部材28も下方に引下げられており、カム溝28aによる案内ピン41の案内で、はさみ10の可動部材10aは、固定部材10bとの間を閉じている。
【0037】
図9は、図8の基準状態から駆動レバー14を時計回り方向に約90度程度角変位させた状態を示す。(a)に示すように、ルーパ11の下端と上端が連結しているルーパ用リンク部材17は、円弧状溝17aの下端の真円部17eが駆動ピン部材15に連行されて、出力軸13aを支点とするリンクを形成して、ルーパ11の下端を上昇方向に駆動する。ルーパ用リンク部材18の円弧状溝18a内は、駆動ピン部材15の切欠部15aが内周側に向く状態となって、駆動ピン部材15は通過可能となる。ルーパ用リンク部材17では突起17bが当りピン37に当接しなくなるのに対し、ルーパ用リンク部材18では突起18bが当りピン38に当接する状態を続ける。したがって、駆動ピン部材15は、ルーパ用リンク部材18の円弧状溝18a内を通過するだけであり、ルーパ用リンク部材18の上端に連結されるルーパ12に対する駆動は行われない。(b)に示すように、駆動ピン部材15ははさみ用リンク部材16の長孔16aの途中に位置する。はさみ用リンク部材16の上端とはさみ駆動カム部材28の下端とは連結ピン部材42でピン結合されているだけなので、はさみ用リンク部材16は、連結ピン部材42を支点とする揺動変位を行うだけであり、はさみ駆動カム部材28は上昇しない。
【0038】
図10は、図8の基準状態から駆動レバー14を時計回り方向に約135度角変位させた状態を示す。図9(a)に続いて、ルーパ用リンク部材17は上端の連結孔17aが連結部材40を介してルーパ11の下端を押上げ、ルーパ11の上端のフック部11aは図2に示すような糸保持レバー19との間を開いて、針床3よりも上方に突出するようになる。図3に示すように編糸6がフック部11aと糸保持レバー19との間で保持されていれば、編糸6は解放される。(b)に示すように、はさみ用リンク部材16の長孔16aでは、駆動ピン部材15が上端に達する。
【0039】
図11は、図8の基準状態から駆動レバー14を時計回り方向に約170度角変位させた状態を示す。図10(a)に続いて、ルーパ11のフック部11aは、針床3の上方に突出し、編糸を捕捉可能な高さまで上昇する。(b)に示すように、図10(b)で駆動ピン部材15の位置が長孔16aの上端に達した後、駆動レバー14の時計回り方向への旋回とともに、はさみ駆動カム部材28は上昇し、カム溝28aによる案内ピン41の案内ではさみ10の可動部材10aは固定部材10bに対して開くように駆動される。
【0040】
図12は、図11の状態から駆動レバー14を反時計回り方向に旋回させ、図8の基準状態からは時計回り方向に約55度角変位している状態を示す。(a)に示すように、ルーパ11は下降し、上端のフック部11aは針床3よりも低い位置となり、フック部11aと図2に示す糸保持レバー19との間は閉じる。図11(a)でフック部11aに編糸を捕捉していれば、捕捉した編糸を引下げて、図3に示すように糸保持レバー19との間で保持することができる。(b)に示すように、ルーパ11で引下げた編糸6は、はさみ10で切断することができる。図1に示すように、ルーパ12で引下げる編糸7も、編糸6と同様に、はさみ10で切断することができる。
【0041】
図11(b)から図12(b)までの駆動レバー14の角変位では、駆動ピン部材15がはさみ用リンク部材16の長孔16a内を上端から下端まで相対的に移動するだけである。この間、はさみ駆動カム部材28は、カム板押え29によるはさみブロック31の挟み込みで発生する摺動抵抗で保持される。駆動レバー14がさらに反時計回り方向に角変位すると、はさみ用リンク部材16は引下げられ、連結ピン部材42を介してはさみ駆動カム部材28を引下げ、カム溝28aによる案内ピン41の案内ではさみ10の可動部材10aを固定部材10bに対して閉じさせる。はさみ10の可動部材10aと固定部材10bとの間が閉じると、ルーパ11が捕捉している編糸6を切断することができる。
【0042】
図9〜図12の(a)に示すように、駆動ピン部材15には切欠部15aが設けられているけれども、駆動ピン部材15の断面形状では切欠部15aにかからない真円の直径の両端がルーパ用リンク部材17の円弧状溝17aの端部の真円部17eの内周に接している。したがって、駆動ピン部材15は、円弧状溝17aの真円部17eから外れて円弧状の部分には入り込まないロック状態となって、安定に駆動レバー14の旋回に連行させることができる。図8の基準状態から、駆動レバー14を反時計回り方向の角変位範囲で旋回させれば、以上で説明したルーパ用リンク部材16と同様に、ルーパ12を駆動するルーパ用リンク部材17のみを選択的に変位させることができる。
【0043】
なお、出力軸13aが予め定める基準状態から角変位する方向に応じて、一方側のルーパ11または他方側のルーパ12を選択的に作動させ、基準状態との角度差が増大すれば作動させるルーパ11,12と糸保持レバー19,20との間でそれぞれ構成される保持機構を開いてルーパ11,12上昇させ、角度差が減少すればルーパ11,12を下降させて保持機構を閉じさせる選択駆動機構としては、たとえば、円弧状のカムと螺旋状のカムとを組合わせて実現することもできる。カムはカム板の外周であっても、板面に溝として形成されていてもよい。組合わせのカムは、一方の保持機構が螺旋状のカムと係合して作用状態となる間に、他方の保持機構が円弧状のカムと係合して不作用状態となるようにすればよい。
【0044】
また、単一のモータ13を駆動源として、2つのルーパ11,12を選択的に作動させれば、はさみ10は独立の駆動源で駆動しても、各ルーパ11,12毎に駆動源を設ける構成よりも編糸保持切断装置をコンパクト化することができる。はさみ10の駆動は、モータ13とは独立したモータを駆動源として、編糸保持切断装置1と同様なリンク機構を介して行うこともでき、ソレノイドなどのアクチュエータをはさみ10の可動部材10aに直接作用させることもできる。駆動源が別の場合のルーパ11,12とはさみ10との連動は、プログラム制御などで電気的に行うことができる。
【0045】
少なくとも2つのルーパ11,12を単一の駆動源で選択的に作動させることができるので、編糸保持切断装置は、コンパクト化され、針床の端部に固定して設置するばかりではなく、移動可能にすることも容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施の一形態である編糸保持切断装置1を備える横編機2の部分的な構成を簡略化して示す正面図である。
【図2】主として図1のルーパ11に関する構成を示す側面図である。
【図3】図2のルーパ11が給糸口8から歯口4に供給される編糸6を捕捉して、糸保持レバー19との間で挟んで保持している状態を示す側面図である。
【図4】図1の駆動レバー14および駆動ピン部材15の組合わせ状態と、ルーパ用リンク部材17,18の構成とをそれぞれ示す正面図およよび側面図である。
【図5】図1の糸保持レバー19,20の構成を拡大して示す平面図および側面図である。
【図6】図1の編糸保持切断装置1の主要部分の分解斜視図である。
【図7】図1のはさみ10を駆動するための構成を示す側面図である。
【図8】図1の編糸保持切断装置1の基準状態でのルーパ11に関する構成と、はさみ10に関する構成とをそれぞれ示す側面図である。
【図9】図8の基準状態から駆動レバー14を時計回り方向に約90度程度角変位させた状態を示す側面図である。
【図10】図8の基準状態から駆動レバー14を時計回り方向に約135度角変位させた状態を示す側面図である。
【図11】図8の基準状態から駆動レバー14を時計回り方向に約170度角変位させた状態を示す側面図である。
【図12】図11の状態から駆動レバー14を反時計回り方向に旋回させ、図8の基準状態からは時計回り方向に約55度角変位している状態を示す側面図である。
【符号の説明】
【0047】
1 編糸保持切断装置
2 横編機
3 針床
4 歯口
5 編地
6,7
編糸
8,9
給糸口
10 はさみ
10a 可動部材
10b 固定部材
11,12 ルーパ
13 モータ
14 駆動レバー
15 駆動ピン部材
15a 切欠部
16 はさみ用リンク部材
17,18 ルーパ用リンク部材
17a,18a 円弧状溝
17e,18e 真円部
19,20 糸保持レバー
28 はさみ駆動カム部材
34 傾斜ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
横編機で編地を編成するために使用される編針の範囲の外側に設けられ、編地から該範囲の外側に位置する給糸口に渡る編糸をそれぞれ個別に捕捉し、保持して解放するように開閉および昇降が可能な2つの保持機構と、保持機構が保持する編糸を編地側で切断する切断機構とを備える編糸保持切断装置において、
出力軸の回転方向を切換え可能な駆動源と、
該出力軸が予め定める基準状態から角変位する方向に応じて、一方側の保持機構または他方側の保持機構を選択的に作動させ、該基準状態との角度差が増大すれば作動させる保持機構を開いて上昇させ、該角度差が減少すれば該保持機構を下降させて閉じさせる選択駆動機構と、
選択駆動機構で該基準状態との角度差が増大してから減少する際に、連動して切断機構を作動させる切断駆動機構とを、
含むことを特徴とする編糸保持切断装置。
【請求項2】
前記選択駆動機構は、
前記駆動源の出力軸に平行で、該出力軸の角変位に応じて旋回変位する駆動ピンと、
駆動ピンが挿入される円弧状の溝を有する2つのリンク部材とを含み、
前記基準状態で、一方のリンク部材の円弧状の溝の一端と、他方のリンク部材の円弧状の溝の他端とに駆動ピンが共通に挿入され、
該出力軸が該基準状態から角変位する方向に応じて切換えられる1つのリンク部材の円弧状の溝内を該駆動ピンが通過しながら、他のリンク部材を、該駆動ピンが円弧状の溝の端に挿入されている状態で連行して駆動することを特徴とする請求項1記載の編糸保持切断装置。
【請求項3】
前記駆動ピンは、前記円弧状の溝に挿入される部分で円形の一部が切り欠かれた断面形状を有し、
前記リンク部材の円弧状の溝は、前記基準状態で該駆動ピンが共通に挿入される端部では該駆動ピンの円形断面の直径の真円が挿入可能な形状を有し、該端部を除く部分では該真円が通過しないで、該切り欠かれた断面形状が通過する幅を有することを特徴とする請求項2記載の編糸保持切断装置。
【請求項4】
前記切断駆動機構は、前記駆動ピンが挿入される長孔を有し、駆動ピンが該長孔を通過する間は、前記切断機構の作動を休止するリンク部材を備えることを特徴とする請求項2または3記載の編糸保持切断装置。
【請求項5】
前記2つの保持機構のうちの切断装置に近い側の保持機構は、該保持機構から前記編針の範囲の外側に位置する給糸口に渡る部分の編糸が他の保持機構の上昇時に捕捉されないように、編糸を保持すると給糸口に渡る部分の位置をずらす突起を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の編糸保持切断装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の編糸保持切断装置を備えることを特徴とする横編機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−7914(P2008−7914A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−182602(P2006−182602)
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【出願人】(000151221)株式会社島精機製作所 (357)
【Fターム(参考)】