緩衝装置および着陸装置
【課題】大きな衝撃を緩和し、且つ、繰り返し使用できる緩衝装置。
【解決手段】本体に結合された結合部と、外部からの衝撃を受ける受衝部と、一端を結合部に結合され、他端を受衝部に結合され、受衝部が衝撃を受けた場合に塑性変形する形状記憶合金部材を含む緩衝部とを備え、形状記憶合金部材は、塑性変形する前の初期形状を記憶している。形状記憶合金部材を加熱して母相に変態させる加熱部を更に備えてもよい。また、加熱部は、形状記憶合金部材が初期形状に復元するまで緩衝部を加熱してもよいし、形状記憶合金部材が初期形状に復元する前に加熱を停止させる加熱制御部を更に備えてもよい。
【解決手段】本体に結合された結合部と、外部からの衝撃を受ける受衝部と、一端を結合部に結合され、他端を受衝部に結合され、受衝部が衝撃を受けた場合に塑性変形する形状記憶合金部材を含む緩衝部とを備え、形状記憶合金部材は、塑性変形する前の初期形状を記憶している。形状記憶合金部材を加熱して母相に変態させる加熱部を更に備えてもよい。また、加熱部は、形状記憶合金部材が初期形状に復元するまで緩衝部を加熱してもよいし、形状記憶合金部材が初期形状に復元する前に加熱を停止させる加熱制御部を更に備えてもよい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩衝装置および着陸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
想定される衝撃の大きさに応じて様々な緩衝装置がある。そのうちでも、特に大きな衝撃を受けることが予想される緩衝装置には、部材の塑性変形により衝撃を吸収する構造を有するものがある。
【0003】
下記の特許文献1には、金属帯板の塑性変形により衝撃を吸収する構造の緩衝装置が記載される。また、下記特許文献2には、発砲樹脂等により形成された部材の変形および圧壊により衝撃を吸収する構造が記載される。
【特許文献1】特開2002−013575号公報
【特許文献2】特開2008−213577号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような緩衝装置は、一部の部品の塑性変形、破壊により大きなエネルギを吸収する。従って、一旦動作した後は、塑性変形あるいは破壊した部材を交換しなければ当初の性能を回復することができない。このため、ランニングコストが高くなる。また、例えば、深海、宇宙空間等のように部品の交換が困難な環境では反復利用ができない。更に、反復使用に適していないので、開発試験等では使用し難い。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、上記課題を解決すべく、本発明の第1の態様として本体に結合された結合部と、外部からの衝撃を受ける受衝部と、一端を結合部に結合され、他端を受衝部に結合され、受衝部が衝撃を受けた場合に塑性変形する形状記憶合金部材を含む緩衝部とを備え、形状記憶合金部材は、塑性変形する前の初期形状を記憶している緩衝装置が提供される。
【0006】
また、本発明の第2の態様として、移動する輸送機器を衝突させて当該輸送機器を停止させる緩衝装置であって、大地に対する相対位置を固定された固定部と、輸送機器を衝突させる受衝部と、一端を固定部に結合され、他端を受衝部に結合され、受衝部が衝撃を受けた場合に塑性変形する形状記憶合金部材を含む緩衝部とを備え、形状記憶合金部材は、塑性変形する前の初期形状を記憶している緩衝装置が提供される。
【0007】
更に、本発明の第3の態様として、浮上した状態から着陸面に着陸する機体の着陸装置であって、機体に結合された結合部と、着陸する場合に地面に当接する受衝部と、一端を結合部に結合され、他端を受衝部に結合され、受衝部が衝撃を受けた場合に塑性変形する形状記憶合金部材を含む緩衝部とを備え、形状記憶合金部材は、塑性変形する前の初期形状を記憶している着陸装置が提供される。
【0008】
また更に、本発明の第4の態様として、浮上した状態から着陸面に着陸する機体の着陸装置であって、機体に結合された結合部、着陸する場合に地面に当接する受衝部、一端を結合部に結合され、他端を受衝部に結合され、受衝部が衝撃を受けた場合に塑性変形する、塑性変形する前の初期形状を記憶した形状記憶合金部材を含む緩衝部、および、形状記憶合金部材を加熱して母相に変態させる加熱部を各々が備えた複数の緩衝装置と、加熱部を個別に動作させる加熱制御部とを備え、着陸の衝撃を緩和したことにより塑性変形した形状記憶合金部材を個別に復元させて着陸した当該機体の姿勢を制御する着陸装置が提供される。
【0009】
上記の発明の概要は、発明の全ての特徴を列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションも発明となり得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明する。以下に記載する実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせ全てが発明の解決に必須であるとは限らない。
【0011】
図1は、着陸装置201を備えた月面着陸船200の外観を示す斜視図である。また、図2は、同じ月面着陸船200の側面図である。図示のように、月面着陸船200は、本体210と、着陸装置として本体に装着された4脚の着陸装置201を備える。
【0012】
本体210は、アルミ合金等のトラスとパネルとを組み合わせて形成された略立方体の筐体をなす。内部には、エンジン、燃料タンク、測定機器、通信機器等を収容する。本体210の下面にはノズル260が現れている。
【0013】
4脚の着陸装置201は、互いに同じ構造を有し、本体210の四隅から放射状に拡がると共に、ノズル260の下端よりも下方まで延在する。これにより、概ね垂直に月面に降下した場合に、ノズル260を月面に当接させることなく着陸できる。
【0014】
着陸装置201の各々は、複数のリンクを含む着陸脚と、着陸した場合に月面に当接する受衝部220と、受衝部220が受けた衝撃の一部を緩和する緩衝装置100とを有する。着陸脚は、主脚230、ロワリンク232およびアッパリンク240を含む。
【0015】
ロワリンク232およびアッパリンク240の各々の上端は、本体210の側面に軸支される。ロワリンク232の他端は、主脚230の下端近傍に結合される。この結合部は、着陸面202に平行な1軸の周りに回転自在に形成される。アッパリンク240の下端は、主脚230の上端に、やはり、着陸面202に平行な1軸の周りに回転自在に結合される。
【0016】
主脚230は、アッパリンク240およびロワリンク232よりも着陸面202に対して垂直に近い角度で装着される。主脚230の下端には、着陸面202に当接する受衝部220が配される。なお、受衝部220も、塑性変形または弾性変形により、着陸面202に密着する構造を有する場合もある。
【0017】
また、アッパリンク240の上端近傍には、本体210から遠い側に突出したロッカアーム242が設けられる。緩衝装置100は、ロッカアーム242の先端と、本体210の側面との間に装着される。なお、緩衝装置100自体の構造は、図1に示した緩衝装置と同じなので、重複する説明は省く。
【0018】
このような構造により、月面着陸船200が浮上した状態から着陸面202に着陸した場合、まず、受衝部220が着陸面202に当接する。これにより、受衝部220および主脚230は、本体210に対して上方に変位する力を受ける。
【0019】
主脚230は、アッパリンク240およびロワリンク232の2本のリンクにより本体210に対して結合されている。従って、着陸面202に対する角度を大きく変えることなく、本体210に対して上方に変位する。
【0020】
これに対して、アッパリンク240およびロワリンク232の一端は、着陸面202に平行な1軸の周りに回転自在に、本体210に結合されている。これにより、アッパリンク240およびロワリンク232は、本体210側の一端を軸として回動する。
【0021】
図3は、図1において点線で囲った、緩衝装置100の周辺を拡大して示す部分斜視図である。図4は、図2において点線で囲った、緩衝装置100の周辺を拡大して示す部分斜視図である。
【0022】
アッパリンク240のロッカアーム242は、アッパリンク240と一体的に形成される。これにより、アッパリンク240が変位した場合は、ロッカアーム242も共に変位する。
【0023】
従って、月面着陸船200が着陸して受衝部220および主脚230が上昇して、アッパリンク240の下端が上昇した場合、ロッカアーム242の上端において、緩衝装置100の上端は上方に引き上げられる。緩衝装置100の下端は、本体210に結合されているので、上端が上昇することにより、緩衝装置100は引き延ばされる。
【0024】
ロッカアームとアッパリンクの長さの比例配分により、緩衝装置100が引き延ばされる量は、アッパリンク240の下端の変位よりも小さい。換言すれば、ロッカアーム242を介して緩衝装置100を結合することにより、後述する緩衝材150(図5参照)が塑性変形を生じる範囲に想定される緩衝装置100の伸縮量を納めることができる。
【0025】
図5は、緩衝装置100の構造を示す断面図である。図示のように、緩衝装置100は、内筒110、外筒120、本体側結合部130、受衝部側結合部140および緩衝材150を備える。
【0026】
内筒110および外筒120は、それぞれ略円筒形の外形を有する。内筒110の外径は、外筒120の内径よりもわずかに小さく、内筒110は外筒120の内側を、長手方向に円滑に摺動する。これにより、内筒110および外筒120は、全体として伸縮自在になる。
【0027】
内筒110の一端に装着された本体側結合部130の一端は、この緩衝装置100が搭載された車体、機体等の本体210に結合される。これにより、緩衝装置100全体が、本体210に対して結合される。後述するように、緩衝装置100に圧縮または伸長する応力が作用した場合も、本体210および緩衝装置100の間隔は一定に保たれる。
【0028】
外筒120の一端に装着された受衝部側結合部140の一端は、ロッカアーム242に結合される。従って、受衝部側結合部140は、外部から本体210に対して与えられる衝撃を受ける。これにより、本体210には、緩衝装置100により緩和された衝撃が伝わる。
【0029】
緩衝材150は、丸棒状の形状記憶合金により形成される。緩衝材150の一端は、本体側結合部130に近い位置において、内筒110に結合される。この実施例では、内筒110の外側から締結部材112によりかしめることにより、内筒110および緩衝材150が結合される。
【0030】
緩衝材150の他端は、受衝部側結合部140に近い位置において、外筒120に結合される。この実施例では、外筒120の外側から締結部材122によりかしめることにより、外筒120および緩衝材150が結合される。
【0031】
これにより、主脚230に加えられた衝撃は、緩衝材150の一端に伝達される。緩衝材150の他端は、本体210に対して一定の位置に固定されている。緩衝材150は、受けた衝撃の大きさに応じて塑性変形することにより衝撃のエネルギの一部を吸収して衝撃を緩和する。
【0032】
なお、内筒110の内径は、緩衝材150の外径よりも僅かに大きい。また、緩衝材150の全長の90%程度までは、内筒110の内側に収容されている。ただし、締結部材112によりかしめられた領域を除くと、内筒110は、緩衝材150を拘束せず、緩衝材150の自由な変位を許す。これにより、内筒110は、緩衝材150の変形を妨げることなく、緩衝材150の座屈等による不整な変形を防止する。
【0033】
なお、緩衝材150に塑性変形を生じさせる力は、緩衝材150の長手方向に作用する圧縮力であっても引っ張り力であってもよい。いずれの場合も、緩衝材150の塑性変形により、衝撃エネルギの一部を吸収することができる。
【0034】
また、緩衝材150は形状記憶合金により形成されているので、当初の形状を記憶させておけば、緩衝動作により塑性変形した後に、形状回復温度まで加熱することにより元の形状を回復することができる。従って、この緩衝装置100は、緩衝材150の塑性変形により衝撃を緩和する構造でありながら、反復使用することができる。
【0035】
図6は、他の実施形態に掛かる緩衝装置100の構造を示す断面図である。なお、図5に示した緩衝装置100と共通の要素には同じ参照番号を付して重複する説明を省く。
【0036】
この緩衝装置100は、図5に示した緩衝装置に対して、内筒110の内径がやや大きい。それに従って、外筒120の内径も大きくなっている。これにより、緩衝材150と内筒110および外筒120の間の間隙がより大きくなっている。
【0037】
更に、この緩衝装置100は、緩衝材150の全長の殆どにわたって巻き付けられた電熱線160を、緩衝材150と内筒110および外筒120の間に有する。これにより、電熱線160に電力を供給して形状回復温度まで加熱することにより、衝撃を受けて短縮または伸長された緩衝材150を元の形状まで戻すことができる。
【0038】
図7は、図6に示した緩衝装置100を備えた月面着陸船200の制御系300の構造を模式的に示す図である。図示のように、この月面着陸船200は、電熱線160に電力を供給する共通の電源部320と、緩衝装置100の各々に供給する電力量を個別に変化させることができる制御部310とを備える。
【0039】
これにより、例えば、着陸面202が傾斜していた場合に、着陸後に、緩衝装置100それぞれの復元量を個別に変えることにより、月面着陸船200の本体を、着陸面202の傾斜にもかかわらず水平にすることができる。また、アンテナの指向性、測定機器等の打ち出し方向を調節する場合にも、緩衝装置100をアクチュエータとして使用することができる。
【0040】
なお、電熱線160に供給する電力は、緩衝材150の温度が上昇する範囲であれば、特に大電力であることは求められない。これにより、限られた電力で、月面着陸船200の姿勢を制御する強力なアクチュエータとなる。
【0041】
また、緩衝材150を形状回復温度まで加熱する場合の熱源は、電熱線160とは限らず、ロケット燃料等の燃焼を利用してもよい。また、地上における実験等では、緩衝装置100に加熱装置を設けなくても、外部から熱風機等により加熱してもよい。更に、上記の例では、緩衝材150が伸長または短縮するように変形させる例について述べたが、緩衝材150の曲げ、捩じり等による塑性変形を利用する構造でもよい。
【0042】
上記のような緩衝装置100の利用は月面着陸船200等の天体着陸船に限られるものではなく、自動車のバンパ、鉄道列車の車止め、エレベータの非常停止装置、航空機の着陸装置等、大きな衝撃を緩和することが求められる多くの用途に使用できる。
【0043】
緩衝材150を形成する形状記憶合金としては、例えば、米国のTiNi Aerospace 社が製造するCuAl(Ni)系単結晶合金を例示できる。この合金は、例えばCu−13.1Al−4.5Niの組成の場合に、摂氏150度程度まで塑性変形領域(マルテンサイト相)で安定し、非破壊変形量は9%に達する。従って、緩衝材150の材料として用いた場合に、大きな衝撃を緩和させることができる。
【0044】
緩衝材150として上記の材料により形成した直径10mm、長さ300mmの丸棒を用いて緩衝装置100を製造し、更に、下記の表1に示す要求仕様の月面着陸船200を形成した場合の性能について検討した。
【0045】
【表1】
【0046】
前記のように、Cu−13.1Al−4.5Niは9%まで塑性変形することが判っているが、実用においては、6%以下で使用することにした。即ち、着陸した場合に受衝部220が受けると想定される衝撃により、緩衝材150の変形量が6%以内となるように、アッパリンク240およびロッカアーム242の長さを決定した。
【0047】
その結果、図8にひずみ応力線図を示す着陸装置201が形成された。この場合、緩衝装置100の全長は、345mmから366mmまで変化する。このような衝撃に対する緩衝材150の変形量を、下記のパラメータを用いて解析した。なお、着陸装置201における摩擦はないものとした。
【0048】
緩衝材を除く着陸装置要素(CFRP):
密度ρ=1600[kg/m3]
縦弾性係数(ヤング率)E=75000[MPa]
横弾性係数G=28846[MPa]
ポアソン比ν=0.3
緩衝材要素:
密度ρ=7000[kg/m3]
縦弾性係数(ヤング率)E=25000[MPa]
横弾性係数G=9615[MPa]
ポアソン比ν=0.3
【0049】
上記のようなモデルにより得られた着陸装置201の特性の傾向を図9から図13までに示す。図9は、主脚230への鉛直変位および垂直変位の傾向を示す。図10は、アッパリンク240の変位の傾向を示す。図11は、緩衝装置100への軸力との関係を示す。図12は、主脚230への接地反力と緩衝装置100へ軸力との関係を示す。図13は、主脚230下端における変位と、緩衝装置100の上端における変位との関係を示す。
【0050】
次に、図13の結果を用いて、月面着陸船200が着陸した場合について運動解析する。図14に、月面着陸船200の運動解析で用いる構造モデルを示す。また、運動解析において想定する緩衝材150単体の応力−変形特性を図15に示す。
【0051】
図16は、月面着陸船200の着陸直後における、本体210の垂直運動の変位を模式的に示す図である。ここで、P1は、形状記憶合金部材が塑性変形を起こした後、再び弾性領域に戻る時点を示す。着陸装置201が着陸の衝撃を受けた場合、着陸装置201全体の弾性変形領域を越えたエネルギは、緩衝材150の塑性変形により吸収される。
【0052】
続いて、着陸装置201の弾性変形が原形を回復することにより、その弾性率に応じた振動が生じる。以降の運動は徐々に減少するので、緩衝材150が塑性変形を生じるのは、最初の圧縮領域、即ち、着陸開始から時点P1までの期間に限られる。しかしながら、時点P1までの期間に緩衝材150がエネルギを吸収するが、着陸装置201を形成する他の部材には弾性エネルギが蓄積されているので、時点P1以降の運動は小さな振幅から始まる。
【0053】
図17は、水平な着陸面202に月面着陸船200が着陸することを想定した場合の、着陸装置201の運動モデルを示す図である。同図において、着陸装置201が着陸面202に当接した瞬間が原点となる。なお、着陸装置201の変形による着陸面202との摩擦は考慮していない。また、緩衝材150に生じる変位は線型として扱った。
【0054】
ここで、mbは、月面着陸船200の質量を、mlは着陸装置201の質量を表す。また、kd′およびFd′は、緩衝材150の弾性係数kdと塑性荷重の効果を表す。更に、klおよびclは着陸装置201のバネ定数と減衰係数を示す。更に、kcおよびccは、着陸面202のバネ定数と減衰係数を示す。また更に、zbおよびzlは各々着陸機本体の運動変位と着陸脚の運動変位を表す。
【0055】
上記のような運動モデルにより、緩衝材150の変位に対する荷重は、図18のように表すことができる。なお、図18における数値は、下記の表2に示す通りである。
【0056】
【表2】
【0057】
これにより、緩衝材150の変位δと荷重fdの関係は、図19のように表すことができる。ここで、図19における各数値を、下記の表3に示す。
【0058】
【表3】
【0059】
以上の結果、緩衝材150が塑性変形する場合の運動は、下記の数式1のように表すことができる。
【0060】
【数1】
【0061】
また、緩衝材150が弾性変形する場合の運動は、下記の数式2のように表すことができる。
【0062】
【数2】
【0063】
更に、月面着陸船200の垂直方向(z方向)の相対変形変位zdに対する、緩衝材150の荷重fdにより本体210が受ける力fbは、下記の数式3のように表すことができる。
【0064】
【数3】
【0065】
更に、月面着陸船200のダイナミクスを、着陸面202から浮上している場合と、着陸面202に対して接している場合とを分けて記述すると、下記の数式4および数式5のように表せる。
【0066】
【数4】
【0067】
【数5】
【0068】
以上のような関係を勘案して、図20に示すシミュレーションシステムを構築した。このシミュレーションシステムには多く4つのブロックに分けられ、各々、zeからδへの変換、緩衝材150のδとfdの関係、fdからfbへの変換、および、月面着陸船200の運動方程を実行する。
【0069】
また、ここで取り扱うシステムの場合には、緩衝材150に関わるパラメータとして、α、Sd、Ldの3つがある。ここで、以下のシミュレーションにおいては、Ldを固定値して、他のパラメータα、Sdを変化させた場合について調べた。シミュレーションの条件を、下記の表4にまとめて示す。
【0070】
【表4】
【0071】
また、下記の表5に示すように、パラメータα、Sdを3組用意した。なお、後述する測定結果も、表5に併せて示した。
【0072】
【表5】
【0073】
図21から図26までは、表5に示したCaseAに係るシミュレーション結果を示す図である。即ち、図21は、月面着陸船200の本体210の垂直変位と経過時間との関係を示す。図22は、月面着陸船200の本体210の垂直移動速度と経過時間との関係を示す。
【0074】
図23は、月面着陸船200の本体210の垂直加速度と経過時間との関係を示す。図24は、着陸装置201の垂直変位と経過時間の関係を示す。図25は、着陸装置201の垂直速度と経過時間の関係を示す。図26は、緩衝材150の長さと経過時間との関係を示す。図27は、月面着陸船200の本体210に作用する力と経過時間との関係を示す。
【0075】
更に、同様に、CaseBおよびCaseCに係るシミュレーションも実行したが、グラフの記載は割愛する。上記のようなシミュレーションにより、CaseA、B、Cのいずれもが緩衝材150の最大許容塑性変形長さ以内にはなっている。しかしながら、CaseBでは、月面着陸船200の本体210に作用する衝撃加速度が許容範囲を越えていることが判る。
【0076】
また、CaseAおよびCaseBを比較すると、αを大きくとった場合、▼z▲bとzbの最大値が大きくなることが判る。また、δPの最大値が小さくなることが判る。これらの結果から、αを大きくすることにより、着陸装置201のシステム剛性を高くできることが判る。
【0077】
更に、CaseBおよびCaseCを比較すると、Sdを大きくとると、▼z▲bおよびzbの最大値が大きくなることが判る。また、δPの最大値が小さくなることも分る。これらの結果から、Sdを大きくすることにより、着陸装置201のシステム剛性を高くできることが判る。
【0078】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加え得ることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0079】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示していない限り、また、前の処理の出力を後の処理で用いない限り、任意の順序で実現し得ることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面の動作フローに関して、便宜上「まず」、「次に」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】月面着陸船200の構造を模式的に示す斜視図である。
【図2】月面着陸船200の構造を模式的に示す側面図である。
【図3】図1の一部を拡大して示す部分拡大斜視図である。
【図4】図2の一部を拡大して示す部分拡大斜視図である。
【図5】緩衝装置100の構造を模式的に示す断面図である。
【図6】緩衝装置100の他の構造を模式的に示す断面図である。
【図7】月面着陸船200の制御系300の構造を模式的に示す図である。
【図8】着陸装置201のひずみ応力線図を示す模式図である。
【図9】主脚230への鉛直変位および垂直変位の傾向を示すグラフである。
【図10】アッパリンク240の変位の傾向を示すグラフである。
【図11】緩衝装置100への軸力との関係を示すグラフである。
【図12】主脚230の接地反力と緩衝装置100の軸力との関係を示すグラフである。
【図13】主脚230下端と緩衝装置100の変位との関係を示すグラフである。
【図14】月面着陸船200の運動解析で用いる構造モデルを示す図である。
【図15】緩衝材150単体の応力−変形特性を示すグラフである。
【図16】本体210の垂直運動の変位を模式的に示す図である。
【図17】着陸装置201の運動モデルを示す図である。
【図18】緩衝材150の変位に対する荷重はを示す図である。
【図19】緩衝材150の変位δと荷重fdの関係は、図19のように表す。
【図20】ミュレーションシステムの構造を模式的に示すブロック図である。
【図21】本体210の垂直変位と経過時間との関係を示すグラフである。
【図22】本体210の垂直移動速度と経過時間との関係を示すグラフである。
【図23】本体210の垂直加速度と経過時間との関係を示すグラフである。
【図24】着陸装置201の垂直変位と経過時間の関係を示すグラフである。
【図25】着陸装置201の垂直速度と経過時間の関係を示すグラフである。
【図26】緩衝材150の長さと経過時間との関係を示すグラフである。
【図27】本体210に作用する力と経過時間との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0081】
100 緩衝装置、110 内筒、120 外筒、130 本体側結合部、140 受衝部側結合部、150 緩衝材、160 電熱線、200 月面着陸船、201 着陸装置、202 着陸面、210 本体、220 受衝部、230 主脚、232 ロワリンク、240 アッパリンク、242 ロッカアーム、300 制御系、310 制御部、320 電源部
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩衝装置および着陸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
想定される衝撃の大きさに応じて様々な緩衝装置がある。そのうちでも、特に大きな衝撃を受けることが予想される緩衝装置には、部材の塑性変形により衝撃を吸収する構造を有するものがある。
【0003】
下記の特許文献1には、金属帯板の塑性変形により衝撃を吸収する構造の緩衝装置が記載される。また、下記特許文献2には、発砲樹脂等により形成された部材の変形および圧壊により衝撃を吸収する構造が記載される。
【特許文献1】特開2002−013575号公報
【特許文献2】特開2008−213577号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような緩衝装置は、一部の部品の塑性変形、破壊により大きなエネルギを吸収する。従って、一旦動作した後は、塑性変形あるいは破壊した部材を交換しなければ当初の性能を回復することができない。このため、ランニングコストが高くなる。また、例えば、深海、宇宙空間等のように部品の交換が困難な環境では反復利用ができない。更に、反復使用に適していないので、開発試験等では使用し難い。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、上記課題を解決すべく、本発明の第1の態様として本体に結合された結合部と、外部からの衝撃を受ける受衝部と、一端を結合部に結合され、他端を受衝部に結合され、受衝部が衝撃を受けた場合に塑性変形する形状記憶合金部材を含む緩衝部とを備え、形状記憶合金部材は、塑性変形する前の初期形状を記憶している緩衝装置が提供される。
【0006】
また、本発明の第2の態様として、移動する輸送機器を衝突させて当該輸送機器を停止させる緩衝装置であって、大地に対する相対位置を固定された固定部と、輸送機器を衝突させる受衝部と、一端を固定部に結合され、他端を受衝部に結合され、受衝部が衝撃を受けた場合に塑性変形する形状記憶合金部材を含む緩衝部とを備え、形状記憶合金部材は、塑性変形する前の初期形状を記憶している緩衝装置が提供される。
【0007】
更に、本発明の第3の態様として、浮上した状態から着陸面に着陸する機体の着陸装置であって、機体に結合された結合部と、着陸する場合に地面に当接する受衝部と、一端を結合部に結合され、他端を受衝部に結合され、受衝部が衝撃を受けた場合に塑性変形する形状記憶合金部材を含む緩衝部とを備え、形状記憶合金部材は、塑性変形する前の初期形状を記憶している着陸装置が提供される。
【0008】
また更に、本発明の第4の態様として、浮上した状態から着陸面に着陸する機体の着陸装置であって、機体に結合された結合部、着陸する場合に地面に当接する受衝部、一端を結合部に結合され、他端を受衝部に結合され、受衝部が衝撃を受けた場合に塑性変形する、塑性変形する前の初期形状を記憶した形状記憶合金部材を含む緩衝部、および、形状記憶合金部材を加熱して母相に変態させる加熱部を各々が備えた複数の緩衝装置と、加熱部を個別に動作させる加熱制御部とを備え、着陸の衝撃を緩和したことにより塑性変形した形状記憶合金部材を個別に復元させて着陸した当該機体の姿勢を制御する着陸装置が提供される。
【0009】
上記の発明の概要は、発明の全ての特徴を列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションも発明となり得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明する。以下に記載する実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせ全てが発明の解決に必須であるとは限らない。
【0011】
図1は、着陸装置201を備えた月面着陸船200の外観を示す斜視図である。また、図2は、同じ月面着陸船200の側面図である。図示のように、月面着陸船200は、本体210と、着陸装置として本体に装着された4脚の着陸装置201を備える。
【0012】
本体210は、アルミ合金等のトラスとパネルとを組み合わせて形成された略立方体の筐体をなす。内部には、エンジン、燃料タンク、測定機器、通信機器等を収容する。本体210の下面にはノズル260が現れている。
【0013】
4脚の着陸装置201は、互いに同じ構造を有し、本体210の四隅から放射状に拡がると共に、ノズル260の下端よりも下方まで延在する。これにより、概ね垂直に月面に降下した場合に、ノズル260を月面に当接させることなく着陸できる。
【0014】
着陸装置201の各々は、複数のリンクを含む着陸脚と、着陸した場合に月面に当接する受衝部220と、受衝部220が受けた衝撃の一部を緩和する緩衝装置100とを有する。着陸脚は、主脚230、ロワリンク232およびアッパリンク240を含む。
【0015】
ロワリンク232およびアッパリンク240の各々の上端は、本体210の側面に軸支される。ロワリンク232の他端は、主脚230の下端近傍に結合される。この結合部は、着陸面202に平行な1軸の周りに回転自在に形成される。アッパリンク240の下端は、主脚230の上端に、やはり、着陸面202に平行な1軸の周りに回転自在に結合される。
【0016】
主脚230は、アッパリンク240およびロワリンク232よりも着陸面202に対して垂直に近い角度で装着される。主脚230の下端には、着陸面202に当接する受衝部220が配される。なお、受衝部220も、塑性変形または弾性変形により、着陸面202に密着する構造を有する場合もある。
【0017】
また、アッパリンク240の上端近傍には、本体210から遠い側に突出したロッカアーム242が設けられる。緩衝装置100は、ロッカアーム242の先端と、本体210の側面との間に装着される。なお、緩衝装置100自体の構造は、図1に示した緩衝装置と同じなので、重複する説明は省く。
【0018】
このような構造により、月面着陸船200が浮上した状態から着陸面202に着陸した場合、まず、受衝部220が着陸面202に当接する。これにより、受衝部220および主脚230は、本体210に対して上方に変位する力を受ける。
【0019】
主脚230は、アッパリンク240およびロワリンク232の2本のリンクにより本体210に対して結合されている。従って、着陸面202に対する角度を大きく変えることなく、本体210に対して上方に変位する。
【0020】
これに対して、アッパリンク240およびロワリンク232の一端は、着陸面202に平行な1軸の周りに回転自在に、本体210に結合されている。これにより、アッパリンク240およびロワリンク232は、本体210側の一端を軸として回動する。
【0021】
図3は、図1において点線で囲った、緩衝装置100の周辺を拡大して示す部分斜視図である。図4は、図2において点線で囲った、緩衝装置100の周辺を拡大して示す部分斜視図である。
【0022】
アッパリンク240のロッカアーム242は、アッパリンク240と一体的に形成される。これにより、アッパリンク240が変位した場合は、ロッカアーム242も共に変位する。
【0023】
従って、月面着陸船200が着陸して受衝部220および主脚230が上昇して、アッパリンク240の下端が上昇した場合、ロッカアーム242の上端において、緩衝装置100の上端は上方に引き上げられる。緩衝装置100の下端は、本体210に結合されているので、上端が上昇することにより、緩衝装置100は引き延ばされる。
【0024】
ロッカアームとアッパリンクの長さの比例配分により、緩衝装置100が引き延ばされる量は、アッパリンク240の下端の変位よりも小さい。換言すれば、ロッカアーム242を介して緩衝装置100を結合することにより、後述する緩衝材150(図5参照)が塑性変形を生じる範囲に想定される緩衝装置100の伸縮量を納めることができる。
【0025】
図5は、緩衝装置100の構造を示す断面図である。図示のように、緩衝装置100は、内筒110、外筒120、本体側結合部130、受衝部側結合部140および緩衝材150を備える。
【0026】
内筒110および外筒120は、それぞれ略円筒形の外形を有する。内筒110の外径は、外筒120の内径よりもわずかに小さく、内筒110は外筒120の内側を、長手方向に円滑に摺動する。これにより、内筒110および外筒120は、全体として伸縮自在になる。
【0027】
内筒110の一端に装着された本体側結合部130の一端は、この緩衝装置100が搭載された車体、機体等の本体210に結合される。これにより、緩衝装置100全体が、本体210に対して結合される。後述するように、緩衝装置100に圧縮または伸長する応力が作用した場合も、本体210および緩衝装置100の間隔は一定に保たれる。
【0028】
外筒120の一端に装着された受衝部側結合部140の一端は、ロッカアーム242に結合される。従って、受衝部側結合部140は、外部から本体210に対して与えられる衝撃を受ける。これにより、本体210には、緩衝装置100により緩和された衝撃が伝わる。
【0029】
緩衝材150は、丸棒状の形状記憶合金により形成される。緩衝材150の一端は、本体側結合部130に近い位置において、内筒110に結合される。この実施例では、内筒110の外側から締結部材112によりかしめることにより、内筒110および緩衝材150が結合される。
【0030】
緩衝材150の他端は、受衝部側結合部140に近い位置において、外筒120に結合される。この実施例では、外筒120の外側から締結部材122によりかしめることにより、外筒120および緩衝材150が結合される。
【0031】
これにより、主脚230に加えられた衝撃は、緩衝材150の一端に伝達される。緩衝材150の他端は、本体210に対して一定の位置に固定されている。緩衝材150は、受けた衝撃の大きさに応じて塑性変形することにより衝撃のエネルギの一部を吸収して衝撃を緩和する。
【0032】
なお、内筒110の内径は、緩衝材150の外径よりも僅かに大きい。また、緩衝材150の全長の90%程度までは、内筒110の内側に収容されている。ただし、締結部材112によりかしめられた領域を除くと、内筒110は、緩衝材150を拘束せず、緩衝材150の自由な変位を許す。これにより、内筒110は、緩衝材150の変形を妨げることなく、緩衝材150の座屈等による不整な変形を防止する。
【0033】
なお、緩衝材150に塑性変形を生じさせる力は、緩衝材150の長手方向に作用する圧縮力であっても引っ張り力であってもよい。いずれの場合も、緩衝材150の塑性変形により、衝撃エネルギの一部を吸収することができる。
【0034】
また、緩衝材150は形状記憶合金により形成されているので、当初の形状を記憶させておけば、緩衝動作により塑性変形した後に、形状回復温度まで加熱することにより元の形状を回復することができる。従って、この緩衝装置100は、緩衝材150の塑性変形により衝撃を緩和する構造でありながら、反復使用することができる。
【0035】
図6は、他の実施形態に掛かる緩衝装置100の構造を示す断面図である。なお、図5に示した緩衝装置100と共通の要素には同じ参照番号を付して重複する説明を省く。
【0036】
この緩衝装置100は、図5に示した緩衝装置に対して、内筒110の内径がやや大きい。それに従って、外筒120の内径も大きくなっている。これにより、緩衝材150と内筒110および外筒120の間の間隙がより大きくなっている。
【0037】
更に、この緩衝装置100は、緩衝材150の全長の殆どにわたって巻き付けられた電熱線160を、緩衝材150と内筒110および外筒120の間に有する。これにより、電熱線160に電力を供給して形状回復温度まで加熱することにより、衝撃を受けて短縮または伸長された緩衝材150を元の形状まで戻すことができる。
【0038】
図7は、図6に示した緩衝装置100を備えた月面着陸船200の制御系300の構造を模式的に示す図である。図示のように、この月面着陸船200は、電熱線160に電力を供給する共通の電源部320と、緩衝装置100の各々に供給する電力量を個別に変化させることができる制御部310とを備える。
【0039】
これにより、例えば、着陸面202が傾斜していた場合に、着陸後に、緩衝装置100それぞれの復元量を個別に変えることにより、月面着陸船200の本体を、着陸面202の傾斜にもかかわらず水平にすることができる。また、アンテナの指向性、測定機器等の打ち出し方向を調節する場合にも、緩衝装置100をアクチュエータとして使用することができる。
【0040】
なお、電熱線160に供給する電力は、緩衝材150の温度が上昇する範囲であれば、特に大電力であることは求められない。これにより、限られた電力で、月面着陸船200の姿勢を制御する強力なアクチュエータとなる。
【0041】
また、緩衝材150を形状回復温度まで加熱する場合の熱源は、電熱線160とは限らず、ロケット燃料等の燃焼を利用してもよい。また、地上における実験等では、緩衝装置100に加熱装置を設けなくても、外部から熱風機等により加熱してもよい。更に、上記の例では、緩衝材150が伸長または短縮するように変形させる例について述べたが、緩衝材150の曲げ、捩じり等による塑性変形を利用する構造でもよい。
【0042】
上記のような緩衝装置100の利用は月面着陸船200等の天体着陸船に限られるものではなく、自動車のバンパ、鉄道列車の車止め、エレベータの非常停止装置、航空機の着陸装置等、大きな衝撃を緩和することが求められる多くの用途に使用できる。
【0043】
緩衝材150を形成する形状記憶合金としては、例えば、米国のTiNi Aerospace 社が製造するCuAl(Ni)系単結晶合金を例示できる。この合金は、例えばCu−13.1Al−4.5Niの組成の場合に、摂氏150度程度まで塑性変形領域(マルテンサイト相)で安定し、非破壊変形量は9%に達する。従って、緩衝材150の材料として用いた場合に、大きな衝撃を緩和させることができる。
【0044】
緩衝材150として上記の材料により形成した直径10mm、長さ300mmの丸棒を用いて緩衝装置100を製造し、更に、下記の表1に示す要求仕様の月面着陸船200を形成した場合の性能について検討した。
【0045】
【表1】
【0046】
前記のように、Cu−13.1Al−4.5Niは9%まで塑性変形することが判っているが、実用においては、6%以下で使用することにした。即ち、着陸した場合に受衝部220が受けると想定される衝撃により、緩衝材150の変形量が6%以内となるように、アッパリンク240およびロッカアーム242の長さを決定した。
【0047】
その結果、図8にひずみ応力線図を示す着陸装置201が形成された。この場合、緩衝装置100の全長は、345mmから366mmまで変化する。このような衝撃に対する緩衝材150の変形量を、下記のパラメータを用いて解析した。なお、着陸装置201における摩擦はないものとした。
【0048】
緩衝材を除く着陸装置要素(CFRP):
密度ρ=1600[kg/m3]
縦弾性係数(ヤング率)E=75000[MPa]
横弾性係数G=28846[MPa]
ポアソン比ν=0.3
緩衝材要素:
密度ρ=7000[kg/m3]
縦弾性係数(ヤング率)E=25000[MPa]
横弾性係数G=9615[MPa]
ポアソン比ν=0.3
【0049】
上記のようなモデルにより得られた着陸装置201の特性の傾向を図9から図13までに示す。図9は、主脚230への鉛直変位および垂直変位の傾向を示す。図10は、アッパリンク240の変位の傾向を示す。図11は、緩衝装置100への軸力との関係を示す。図12は、主脚230への接地反力と緩衝装置100へ軸力との関係を示す。図13は、主脚230下端における変位と、緩衝装置100の上端における変位との関係を示す。
【0050】
次に、図13の結果を用いて、月面着陸船200が着陸した場合について運動解析する。図14に、月面着陸船200の運動解析で用いる構造モデルを示す。また、運動解析において想定する緩衝材150単体の応力−変形特性を図15に示す。
【0051】
図16は、月面着陸船200の着陸直後における、本体210の垂直運動の変位を模式的に示す図である。ここで、P1は、形状記憶合金部材が塑性変形を起こした後、再び弾性領域に戻る時点を示す。着陸装置201が着陸の衝撃を受けた場合、着陸装置201全体の弾性変形領域を越えたエネルギは、緩衝材150の塑性変形により吸収される。
【0052】
続いて、着陸装置201の弾性変形が原形を回復することにより、その弾性率に応じた振動が生じる。以降の運動は徐々に減少するので、緩衝材150が塑性変形を生じるのは、最初の圧縮領域、即ち、着陸開始から時点P1までの期間に限られる。しかしながら、時点P1までの期間に緩衝材150がエネルギを吸収するが、着陸装置201を形成する他の部材には弾性エネルギが蓄積されているので、時点P1以降の運動は小さな振幅から始まる。
【0053】
図17は、水平な着陸面202に月面着陸船200が着陸することを想定した場合の、着陸装置201の運動モデルを示す図である。同図において、着陸装置201が着陸面202に当接した瞬間が原点となる。なお、着陸装置201の変形による着陸面202との摩擦は考慮していない。また、緩衝材150に生じる変位は線型として扱った。
【0054】
ここで、mbは、月面着陸船200の質量を、mlは着陸装置201の質量を表す。また、kd′およびFd′は、緩衝材150の弾性係数kdと塑性荷重の効果を表す。更に、klおよびclは着陸装置201のバネ定数と減衰係数を示す。更に、kcおよびccは、着陸面202のバネ定数と減衰係数を示す。また更に、zbおよびzlは各々着陸機本体の運動変位と着陸脚の運動変位を表す。
【0055】
上記のような運動モデルにより、緩衝材150の変位に対する荷重は、図18のように表すことができる。なお、図18における数値は、下記の表2に示す通りである。
【0056】
【表2】
【0057】
これにより、緩衝材150の変位δと荷重fdの関係は、図19のように表すことができる。ここで、図19における各数値を、下記の表3に示す。
【0058】
【表3】
【0059】
以上の結果、緩衝材150が塑性変形する場合の運動は、下記の数式1のように表すことができる。
【0060】
【数1】
【0061】
また、緩衝材150が弾性変形する場合の運動は、下記の数式2のように表すことができる。
【0062】
【数2】
【0063】
更に、月面着陸船200の垂直方向(z方向)の相対変形変位zdに対する、緩衝材150の荷重fdにより本体210が受ける力fbは、下記の数式3のように表すことができる。
【0064】
【数3】
【0065】
更に、月面着陸船200のダイナミクスを、着陸面202から浮上している場合と、着陸面202に対して接している場合とを分けて記述すると、下記の数式4および数式5のように表せる。
【0066】
【数4】
【0067】
【数5】
【0068】
以上のような関係を勘案して、図20に示すシミュレーションシステムを構築した。このシミュレーションシステムには多く4つのブロックに分けられ、各々、zeからδへの変換、緩衝材150のδとfdの関係、fdからfbへの変換、および、月面着陸船200の運動方程を実行する。
【0069】
また、ここで取り扱うシステムの場合には、緩衝材150に関わるパラメータとして、α、Sd、Ldの3つがある。ここで、以下のシミュレーションにおいては、Ldを固定値して、他のパラメータα、Sdを変化させた場合について調べた。シミュレーションの条件を、下記の表4にまとめて示す。
【0070】
【表4】
【0071】
また、下記の表5に示すように、パラメータα、Sdを3組用意した。なお、後述する測定結果も、表5に併せて示した。
【0072】
【表5】
【0073】
図21から図26までは、表5に示したCaseAに係るシミュレーション結果を示す図である。即ち、図21は、月面着陸船200の本体210の垂直変位と経過時間との関係を示す。図22は、月面着陸船200の本体210の垂直移動速度と経過時間との関係を示す。
【0074】
図23は、月面着陸船200の本体210の垂直加速度と経過時間との関係を示す。図24は、着陸装置201の垂直変位と経過時間の関係を示す。図25は、着陸装置201の垂直速度と経過時間の関係を示す。図26は、緩衝材150の長さと経過時間との関係を示す。図27は、月面着陸船200の本体210に作用する力と経過時間との関係を示す。
【0075】
更に、同様に、CaseBおよびCaseCに係るシミュレーションも実行したが、グラフの記載は割愛する。上記のようなシミュレーションにより、CaseA、B、Cのいずれもが緩衝材150の最大許容塑性変形長さ以内にはなっている。しかしながら、CaseBでは、月面着陸船200の本体210に作用する衝撃加速度が許容範囲を越えていることが判る。
【0076】
また、CaseAおよびCaseBを比較すると、αを大きくとった場合、▼z▲bとzbの最大値が大きくなることが判る。また、δPの最大値が小さくなることが判る。これらの結果から、αを大きくすることにより、着陸装置201のシステム剛性を高くできることが判る。
【0077】
更に、CaseBおよびCaseCを比較すると、Sdを大きくとると、▼z▲bおよびzbの最大値が大きくなることが判る。また、δPの最大値が小さくなることも分る。これらの結果から、Sdを大きくすることにより、着陸装置201のシステム剛性を高くできることが判る。
【0078】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加え得ることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0079】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示していない限り、また、前の処理の出力を後の処理で用いない限り、任意の順序で実現し得ることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面の動作フローに関して、便宜上「まず」、「次に」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】月面着陸船200の構造を模式的に示す斜視図である。
【図2】月面着陸船200の構造を模式的に示す側面図である。
【図3】図1の一部を拡大して示す部分拡大斜視図である。
【図4】図2の一部を拡大して示す部分拡大斜視図である。
【図5】緩衝装置100の構造を模式的に示す断面図である。
【図6】緩衝装置100の他の構造を模式的に示す断面図である。
【図7】月面着陸船200の制御系300の構造を模式的に示す図である。
【図8】着陸装置201のひずみ応力線図を示す模式図である。
【図9】主脚230への鉛直変位および垂直変位の傾向を示すグラフである。
【図10】アッパリンク240の変位の傾向を示すグラフである。
【図11】緩衝装置100への軸力との関係を示すグラフである。
【図12】主脚230の接地反力と緩衝装置100の軸力との関係を示すグラフである。
【図13】主脚230下端と緩衝装置100の変位との関係を示すグラフである。
【図14】月面着陸船200の運動解析で用いる構造モデルを示す図である。
【図15】緩衝材150単体の応力−変形特性を示すグラフである。
【図16】本体210の垂直運動の変位を模式的に示す図である。
【図17】着陸装置201の運動モデルを示す図である。
【図18】緩衝材150の変位に対する荷重はを示す図である。
【図19】緩衝材150の変位δと荷重fdの関係は、図19のように表す。
【図20】ミュレーションシステムの構造を模式的に示すブロック図である。
【図21】本体210の垂直変位と経過時間との関係を示すグラフである。
【図22】本体210の垂直移動速度と経過時間との関係を示すグラフである。
【図23】本体210の垂直加速度と経過時間との関係を示すグラフである。
【図24】着陸装置201の垂直変位と経過時間の関係を示すグラフである。
【図25】着陸装置201の垂直速度と経過時間の関係を示すグラフである。
【図26】緩衝材150の長さと経過時間との関係を示すグラフである。
【図27】本体210に作用する力と経過時間との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0081】
100 緩衝装置、110 内筒、120 外筒、130 本体側結合部、140 受衝部側結合部、150 緩衝材、160 電熱線、200 月面着陸船、201 着陸装置、202 着陸面、210 本体、220 受衝部、230 主脚、232 ロワリンク、240 アッパリンク、242 ロッカアーム、300 制御系、310 制御部、320 電源部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体に結合された結合部と、
外部からの衝撃を受ける受衝部と、
一端を前記結合部に結合され、他端を前記受衝部に結合され、前記受衝部が衝撃を受けた場合に塑性変形する形状記憶合金部材を含む緩衝部と
を備え、
前記形状記憶合金部材は、塑性変形する前の初期形状を記憶している緩衝装置。
【請求項2】
前記形状記憶合金部材において母相が安定する変態温度まで、前記形状記憶合金部材を加熱する加熱部を更に備える請求項1に記載の緩衝装置。
【請求項3】
前記加熱部は、前記形状記憶合金部材が前記初期形状に復元するまで前記緩衝部を加熱する請求項2に記載の緩衝装置。
【請求項4】
前記加熱部は、前記形状記憶合金部材が前記初期形状に復元する前に加熱を停止させる加熱制御部を更に備える請求項2に記載の緩衝装置。
【請求項5】
前記形状記憶合金部材は、ニッケルを添加された銅およびアルミニウムの合金の単結晶により形成される請求項1から請求項4までのいずれかに記載の緩衝装置。
【請求項6】
移動する輸送機器を衝突させて当該輸送機器を停止させる緩衝装置であって、
大地に対する相対位置を固定された固定部と、
輸送機器を衝突させる受衝部と、
一端を前記固定部に結合され、他端を前記受衝部に結合され、前記受衝部が衝撃を受けた場合に塑性変形する形状記憶合金部材を含む緩衝部と
を備え、
前記形状記憶合金部材は、塑性変形する前の初期形状を記憶している緩衝装置。
【請求項7】
浮上した状態から着陸面に着陸する機体の着陸装置であって、
前記機体に結合された結合部と、
着陸する場合に地面に当接する受衝部と、
一端を前記結合部に結合され、他端を前記受衝部に結合され、前記受衝部が衝撃を受けた場合に塑性変形する形状記憶合金部材を含む緩衝部と
を備え、
前記形状記憶合金部材は、塑性変形する前の初期形状を記憶している着陸装置。
【請求項8】
浮上した状態から着陸面に着陸する機体の着陸装置であって、
前記機体に結合された結合部、
着陸する場合に地面に当接する受衝部、
一端を前記結合部に結合され、他端を前記受衝部に結合され、前記受衝部が衝撃を受けた場合に塑性変形する、塑性変形する前の初期形状を記憶した形状記憶合金部材を含む緩衝部、および、
前記形状記憶合金部材を加熱して母相に変態させる加熱部
を各々が備えた複数の緩衝装置と、
前記加熱部を個別に動作させる加熱制御部とを備え、
着陸の衝撃を緩和したことにより塑性変形した前記形状記憶合金部材を個別に復元させて、着陸した当該機体の姿勢を制御する着陸装置。
【請求項1】
本体に結合された結合部と、
外部からの衝撃を受ける受衝部と、
一端を前記結合部に結合され、他端を前記受衝部に結合され、前記受衝部が衝撃を受けた場合に塑性変形する形状記憶合金部材を含む緩衝部と
を備え、
前記形状記憶合金部材は、塑性変形する前の初期形状を記憶している緩衝装置。
【請求項2】
前記形状記憶合金部材において母相が安定する変態温度まで、前記形状記憶合金部材を加熱する加熱部を更に備える請求項1に記載の緩衝装置。
【請求項3】
前記加熱部は、前記形状記憶合金部材が前記初期形状に復元するまで前記緩衝部を加熱する請求項2に記載の緩衝装置。
【請求項4】
前記加熱部は、前記形状記憶合金部材が前記初期形状に復元する前に加熱を停止させる加熱制御部を更に備える請求項2に記載の緩衝装置。
【請求項5】
前記形状記憶合金部材は、ニッケルを添加された銅およびアルミニウムの合金の単結晶により形成される請求項1から請求項4までのいずれかに記載の緩衝装置。
【請求項6】
移動する輸送機器を衝突させて当該輸送機器を停止させる緩衝装置であって、
大地に対する相対位置を固定された固定部と、
輸送機器を衝突させる受衝部と、
一端を前記固定部に結合され、他端を前記受衝部に結合され、前記受衝部が衝撃を受けた場合に塑性変形する形状記憶合金部材を含む緩衝部と
を備え、
前記形状記憶合金部材は、塑性変形する前の初期形状を記憶している緩衝装置。
【請求項7】
浮上した状態から着陸面に着陸する機体の着陸装置であって、
前記機体に結合された結合部と、
着陸する場合に地面に当接する受衝部と、
一端を前記結合部に結合され、他端を前記受衝部に結合され、前記受衝部が衝撃を受けた場合に塑性変形する形状記憶合金部材を含む緩衝部と
を備え、
前記形状記憶合金部材は、塑性変形する前の初期形状を記憶している着陸装置。
【請求項8】
浮上した状態から着陸面に着陸する機体の着陸装置であって、
前記機体に結合された結合部、
着陸する場合に地面に当接する受衝部、
一端を前記結合部に結合され、他端を前記受衝部に結合され、前記受衝部が衝撃を受けた場合に塑性変形する、塑性変形する前の初期形状を記憶した形状記憶合金部材を含む緩衝部、および、
前記形状記憶合金部材を加熱して母相に変態させる加熱部
を各々が備えた複数の緩衝装置と、
前記加熱部を個別に動作させる加熱制御部とを備え、
着陸の衝撃を緩和したことにより塑性変形した前記形状記憶合金部材を個別に復元させて、着陸した当該機体の姿勢を制御する着陸装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【公開番号】特開2010−112404(P2010−112404A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−283521(P2008−283521)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(502294172)株式会社ウェルリサーチ (5)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(502294172)株式会社ウェルリサーチ (5)
【Fターム(参考)】
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