緩速ろ過装置およびそれを含む緩速ろ過システム
【課題】簡単かつ適切にメンテナンスできる、緩速ろ過装置およびそれを含む緩速ろ過システムを提供する。
【解決手段】緩速ろ過システム10は、上流側から順に、第1液体供給装置12、緩速ろ過装置14、第2液体供給装置16および水消毒装置18を含む。緩速ろ過装置14は、緩速ろ過槽24を含む。緩速ろ過槽24は、上下方向に同軸上に並べられる上部槽24aおよび下部槽24bを有する。下部槽24bの内径は上部槽24aの内径よりも小さく、上部槽24aと下部槽24bとの間には段部26が設けられる。下部槽24bにおいて支持台28上には、最上段のろ過層S3の上面が段部26と面一になるようにろ過層S1〜S3が設けられる。砂層であるろ過層S3の高さは略400mmに設定される。また、上部槽24aには高さ略500mmの水層Wが設けられる。
【解決手段】緩速ろ過システム10は、上流側から順に、第1液体供給装置12、緩速ろ過装置14、第2液体供給装置16および水消毒装置18を含む。緩速ろ過装置14は、緩速ろ過槽24を含む。緩速ろ過槽24は、上下方向に同軸上に並べられる上部槽24aおよび下部槽24bを有する。下部槽24bの内径は上部槽24aの内径よりも小さく、上部槽24aと下部槽24bとの間には段部26が設けられる。下部槽24bにおいて支持台28上には、最上段のろ過層S3の上面が段部26と面一になるようにろ過層S1〜S3が設けられる。砂層であるろ過層S3の高さは略400mmに設定される。また、上部槽24aには高さ略500mmの水層Wが設けられる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は緩速ろ過装置およびそれを含む緩速ろ過システムに関し、より特定的には小型の緩速ろ過装置およびそれを含む緩速ろ過システムに関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、水を緩速ろ過する緩速ろ過池が開示されている。このような緩速ろ過池では、砂層の上層部に物質が蓄積されることによって、ろ過抵抗が大きくなり、処理能力が低下する。処理能力の回復は、一般的には砂層の上層部を削り取ることによって行われる。そして、削り取り作業を繰り返した結果、砂層の高さが緩速ろ過処理後の水の水質維持に必要な最低限の高さ(最低高さ)まで低下すれば、洗浄された砂が緩速ろ過池に補給される。
【0003】
通常、非特許文献1に開示されているように、砂層の最低高さは、400mm程度に設定される。砂層の高さがこれ以上であれば、砂層の上層部における微生物等の活動や砂層内における物質の除去機能を維持でき、好ましい水質の水を得ることができる。また、通常、砂層の高さの上限は、700mm〜900mm程度に設定される。砂層の高さがこの程度であれば、上層部に物質が蓄積されるまでは円滑に緩速ろ過できる。また、砂層の上側の水層の高さは、900mm〜1200mm程度に設定するのが一般的である。
【非特許文献1】水道施設設計指針改定委員会著、「水道施設設計指針」、社団法人日本水道協会、2000年3月31日、p.237−245
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
メンテナンスする者が不慣れな場合、従来技術の緩速ろ過装置では、最低高さ未満に砂層を削ってしまい、緩速ろ過処理後の水の水質を低下させるおそれがあった。また、砂を必要以上に補給してしまい、円滑に緩速ろ過できなくなるおそれがあった。つまり、不慣れな者では適切にメンテナンスできないおそれがあった。
【0005】
それゆえに、この発明の主たる目的は、簡単かつ適切にメンテナンスできる、緩速ろ過装置およびそれを含む緩速ろ過システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的を達成するために、請求項1に記載の緩速ろ過装置は、上部槽、前記上部槽の下側に設けられ前記上部槽よりも内径が小さい下部槽、および前記上部槽と前記下部槽との間に設けられる段部を有する緩速ろ過槽を備え、前記上部槽には水層が設けられ、前記下部槽には上面が前記段部と面一になるように砂層が設けられる。
【0007】
請求項2に記載の緩速ろ過装置は、請求項1に記載の緩速ろ過装置において、前記上部槽には前記段部から上向きに水が導入されることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の緩速ろ過装置は、請求項1または2に記載の緩速ろ過装置において、前記砂層の高さは略400mmであることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の緩速ろ過装置は、請求項1から3のいずれかに記載の緩速ろ過装置において、前記水層の高さは略500mmであることを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の緩速ろ過システムは、請求項1から4のいずれかに記載の緩速ろ過装置を含む緩速ろ過システムであって、前記緩速ろ過装置の損失水頭を測定するために前記緩速ろ過装置に連結される透明管を備える。
【0011】
請求項6に記載の緩速ろ過システムは、請求項5に記載の緩速ろ過システムにおいて、前記緩速ろ過装置と前記透明管との間に設けられる3方弁をさらに含むことを特徴とする。
【0012】
請求項7に記載の緩速ろ過システムは、請求項1から4のいずれかに記載の緩速ろ過装置を含む緩速ろ過システムであって、前記緩速ろ過装置での処理量を制御するために前記緩速ろ過装置の下流側に設けられる処理量制御手段を備える。
【0013】
請求項1に記載の緩速ろ過装置では、その上面が段部と面一になるように緩速ろ過槽の下部槽に砂層が設けられる。メンテナンス作業時には、砂層の上層部の砂を削り取った後に段部を目安して砂層に砂を補充するだけで、砂層の高さを略一定に保つことができる。したがって、メンテナンスする者の経験・技能にかかわらず簡単かつ適切にメンテナンスできる。このように経験が浅い者であっても簡単かつ適切にメンテナンスできるので、この発明の緩速ろ過装置は、発展途上国において好適に用いられる。
【0014】
請求項2に記載の緩速ろ過装置では、緩速ろ過槽の上部槽に段部から上向きに水が導入されることによって、砂層の上層部の撹拌を抑えることができる。これによって、上層部の微生物等の活動を維持でき、好ましい水質の水を得ることができる。また、水層を浮遊する物質をオーバーフローする水とともに緩速ろ過槽から流出させることができ、砂層の上面における物質の堆積を抑えることができる。
【0015】
請求項3に記載の緩速ろ過装置では、砂層の高さを水質の維持に最低限必要な略400mmにすることによって、水質の低下を招くことなく緩速ろ過槽を小さくでき、1日の処理量が同程度の従来の装置に比べて小型に構成できる。したがって、設置を容易にできるとともにコストを低減できる。
【0016】
通常、たとえば非特許文献1に開示されているように、緩速ろ過槽の水層の高さ(砂層上の水深)は、必要なろ過水頭(ろ過圧力)を確保するために900mm〜1200mm程度に設定することが推奨されている。また、水面に生じる波の影響によって砂層の上層部が撹拌されることを防止するためにも、水層の高さにはこのような値が推奨されている。このために、1日の処理量が数10トン以下の小型の緩速ろ過装置であっても、緩速ろ過槽の高さは大型の緩速ろ過装置のものと同程度になっていた。しかし、小型の緩速ろ過装置では緩速ろ過槽の横幅(横断面)が小さくなるので、水層の高さをこのような値に設定すると、緩速ろ過槽が縦長になってしまい、砂層の上面に与えられる光が少なくなる。その結果、砂層の上層部の微生物等の活動が低下し、緩速ろ過処理後の水の水質が低下してしまう。小型の緩速ろ過装置であれば、緩速ろ過槽の砂層の高さも小さくてよいので、水層の高さが略500mmあれば、十分なろ過水頭を得ることができる。さらに、水層の高さが略500mmあれば、水面の波が砂層の上層部に与える影響もほとんどない。そこで、小型の緩速ろ過装置においては、請求項4に記載するように、小型の緩速ろ過槽を用いて水層の高さを略500mmにすることによって、砂層の上面に十分な光を与えることができ、砂層の上層部における微生物等の活動を活発にできる。その結果、好ましい水質の水を得ることができる。また、緩速ろ過槽を小さくでき、1日の処理量が同程度の従来の装置に比べて小型に構成できるので、設置を容易にできるとともにコストを低減できる。
【0017】
請求項5に記載の緩速ろ過システムでは、透明管を目視するだけで緩速ろ過装置の損失水頭を簡単に測定できる。ひいては、緩速ろ過装置のメンテナンスの要否を簡単かつ適切に判断できる。
【0018】
請求項6に記載の緩速ろ過システムでは、緩速ろ過装置と透明管との間に3方弁が設けられることによって、透明管から水を排出でき、損失水頭の測定時以外は透明管を空の状態に保つことができる。これによって、透明管内における水の腐敗および2次汚染を防止でき、緩速ろ過装置からの浄水が汚染されることを防止できる。
【0019】
請求項7に記載の緩速ろ過システムでは、緩速ろ過装置の下流側に設けられる処理量制御手段によって、緩速ろ過装置における処理量(ろ過速度)が略一定に保たれる。したがって、ろ過速度の管理が不要になり、システムの管理に要する手間を軽減できる。また、ろ過速度が一定であることによって、緩速ろ過装置における微生物等の生息環境を最適化し、緩速ろ過を安定させることができる。
【0020】
この発明において、「緩速ろ過」とは、5〜8m/日程度の速度で水を流しながら微生物や藻によって水をろ過することをいう。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、簡単かつ適切にメンテナンスできる、緩速ろ過装置およびそれを含む緩速ろ過システムが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照してこの発明の実施の形態について説明する。
図1を参照して、この発明の一実施形態の緩速ろ過システム10は、たとえば8m(縦)×10m(横)程度の小型の浄水システムに用いられ、小型に構成される。
【0023】
緩速ろ過システム10は、上流側から順に、第1液体供給装置12、緩速ろ過装置14、第2液体供給装置16および水消毒装置18を含む。
【0024】
第1液体供給装置12は、水を収容するタンク12aを含む。タンク12aには、川、池、井戸等の水源からの水が、荒ろ過装置(図示せず)によって荒ろ過(1次ろ過)された後に供給される。タンク12aには、弁20が介挿されるパイプ22を介して緩速ろ過装置14が接続される。
【0025】
第1液体供給装置12は、タンク12a内の水を流量制御装置(図示せず)によって略一定の流量で緩速ろ過装置14に供給する。この実施形態では、略3.6L(リットル)/分の流量で第1液体供給装置12から緩速ろ過装置14に給水され、緩速ろ過装置14への1日の給水量は略5.2トンとなる。なお、第1液体供給装置12の流量制御装置としては、第2液体供給装置16の流量制御装置54(後述)と同様のものが用いられる。
【0026】
図2〜図5に示すように、緩速ろ過装置14は、緩速ろ過槽24を含む。緩速ろ過槽24は、それぞれ横断面円形に形成される上部槽24aおよび下部槽24bを有する。上部槽24aと下部槽24bとは上下方向に同軸上に並べられる。図4に示すように、下部槽24bの内径D1は上部槽24aの内径D2よりも小さく、上部槽24aと下部槽24bとの間には円環状の段部26が設けられる。
【0027】
この実施形態では、緩速ろ過槽24は、着色FRPを含んで構成され、またはFRPとFRPによって挟まれた遮光部材(たとえばアルミニウムホイールや黒色のプラスティックシート)とを含んで構成される。また、たとえば、上部槽24aの内径D2はφ1200mm、下部槽24bの内径D1はφ1000mmに設定される。したがって、段部26の幅は100mmになる。
【0028】
図5に示すように、下部槽24b内の底面には、たとえばFRPからなる支持台28が配置される。図6に示すように、支持台28は、円板状の板状部材30、板状部材30の周縁部に沿うように板状部材30の下面に設けられる円環状の枠体32、および板状部材30の下面中央に設けられる十字状の板状部材34を含む。板状部材30には、枠体32の内側の位置に複数の貫通孔30aが設けられる。また、枠体32には、4つの切り欠き32aが等間隔に設けられる。支持台28の各部の厚みはたとえば10mmに設定される。また、板状部材30の貫通孔30aの直径はたとえば10mmに設定される。
【0029】
図5に示すように、下部槽24bにおいて支持台28上には、下から順にろ過層S1とろ過層S2とろ過層S3とからなる3層構造のろ材が配置される。この実施形態では、ろ過層S1のろ材は15〜30mmのれきであり、ろ過層S2のろ材は2〜5mmのれきであり、ろ過層S3のろ材は0.5〜0.6mmの砂である。ろ過層S1〜S3のろ材の大きさをこのように設定することによって、ドレン作業時に水流によってろ過層S3のろ材(砂)が貫通孔30aを介して支持台28の下に落ちることを防止できる。
【0030】
ろ過層S1〜S3は、砂層であるろ過層S3の上面(表面)が段部26と面一になるように下部槽24bに設けられる。言い換えれば、ろ過層S1〜S3は、最上段のろ過層S3が上部槽24a内に至らないように下部槽24bに設けられる。この実施形態では、ろ過層S1の高さ(厚み)は略65mmに設定され、ろ過層S2の高さは略50mmに設定され、ろ過層S3の高さは略400mmに設定される。
【0031】
緩速ろ過槽24の段部26には、上部槽24aに水を導入するための入水パイプ36が取り付けられる。図2および図3に示すように、入水パイプ36には、プレハブジョイント37を介してパイプ38が連結される。パイプ38の一端にはタンク12aに取り付けられるパイプ22が連結され(図1参照)、パイプ38の他端には弁40が取り付けられる。第1液体供給装置12からの水は、パイプ22,38、プレハブジョイント37およびパイプ36を介して緩速ろ過槽24の上部槽24aに供給される。図5に示すように、上部槽24aには、入水パイプ36を介して第1液体供給装置12からの水が上向きに導入され、水層Wが設けられる。
【0032】
また、下部槽24bの側面下部には浄水を排出するためのパイプ42が取り付けられ、パイプ42には弁44が取り付けられる。さらに、上部槽24aの側面上部には、上部槽24aから水をオーバーフローさせるためのパイプ46が取り付けられる。パイプ46は、水層Wの高さ{水面から段部26(ろ過層S3の上面)までの深さ}が500mmを超えたときに、上部槽24aから水をオーバーフローさせる位置に取り付けられる。
【0033】
緩速ろ過装置14における水のろ過速度(流量)ひいては処理量は、処理量制御手段である下流側の第2液体供給装置16からの水の流量に応じて設定される。この実施形態では、緩速ろ過装置14における通常の処理量が略4.0トン/日(ろ過速度が略5m/日)に設定され、第1液体供給装置12からの給水量(略5.2トン/日)よりも小さくなる。したがって、通常、緩速ろ過装置14に供給された水の一部はパイプ46を介して緩速ろ過槽24からオーバーフローし、上部槽24aの水層Wの高さは略500mmに保たれる。
【0034】
パイプ46にはプレハブジョイント47を介してパイプ48(図1参照)が連結され、パイプ48にはタンク50が接続される。緩速ろ過槽24からオーバーフローした水は、パイプ46、プレハブジョイント47およびパイプ48を介してタンク50に供給される。タンク50内の水は、たとえば、上述の荒ろ過装置における荒ろ過槽の洗浄や荒ろ過槽の充填等に有効利用される。
【0035】
このような緩速ろ過装置14では、水層Wの水が主としてろ過層S3でろ過され浄化される。詳しくは、砂層であるろ過層S3の上層部には、微生物や藻が繁殖することによって生物ろ過層が形成されている。このようなろ過層S3を水層Wの水が通過(流下)することによって水中の物質が除去される。これによって浄水が得られる。ろ過層S3からの浄水は、ろ過層S2,S1、支持台28の貫通孔30aおよび切り欠き32a、パイプ42、ならびに弁44を介して緩速ろ過装置14から流出する。
【0036】
なお、緩速ろ過槽24には透光性を有する蓋(図示せず)を被せてもよい。これによって、ろ過層S3における微生物等の活動を遮光によって阻害することなく、緩速ろ過槽24内に落ち葉や虫等が入ることや緩速ろ過槽24内で藻類が過剰に繁殖することを防止できる。
【0037】
図2、図7および図8に示すように、第2液体供給装置16は、緩速ろ過装置14からの水(浄水)を収容するタンク52、およびタンク52から一定の流量で水を流出させるための流量制御装置54を含む。
【0038】
タンク52は上端開口の中空略直方体状に形成され、タンク52の上端部には蓋56が被せられる。蓋56にはタンク52内を外気と連通するためのパイプ58が設けられる。また、タンク52の底面にはパイプ60が取り付けられる。図2に示すように、パイプ60にはT字ジョイント61を介してパイプ62が連結され、パイプ62には弁44が接続される。タンク52には、パイプ62、T字ジョイント61およびパイプ60を介して緩速ろ過装置14からの水が供給される。
【0039】
図9〜図11に示すように、流量制御装置54は取り付け部材64を含む。取り付け部材64は、略短冊状の取り付け板64aと、取り付け板64aの下面に設けられる挿通部材64bとを含む。取り付け板64a上には2つの略球状の浮き66が取り付けられ、挿通部材64bにはボルト68によって略直方体状のキャップ70が揺動可能に取り付けられる。キャップ70は水を導入するための貫通孔70aを有し、貫通孔70aには孔72aを有する中空円板状の調整部材72が装着される。調整部材72の孔72aの大きさによって、流量制御装置54に導入される水の流量ひいては流量制御装置54から流出する水の流量が調整される。この実施形態では、孔72aの直径が7.8mmに設定され、流量制御装置54からの水の流量は略2.8L/分(略4.0トン/日)となる。
【0040】
キャップ70にはパイプ74の一端が装着される。パイプ74はその一端から他端にまで延びる流路74aと側面から流路74aに貫通する貫通孔74bとを有する。貫通孔74bにはホース76の一端が嵌入され、流路74aがホース76を介して大気に開放される。ホース76の先端部は、取り付け板64a上に設けられる略L字状の保持部材78によって保持される。なお、2つの浮き66は、パイプ74内が水で充満された状態でもホース76の先端が水面上に位置する浮力を有するサイズで構成される。
【0041】
パイプ74の他端には、パイプ74を揺動可能に支持するためにタンク52の側面下方寄りに設けられる支持部材80が取り付けられる。
【0042】
支持部材80は、パイプ74に接続されるキャップ80a、キャップ80aに接続されるパイプ80b、パイプ80bに取り付けられるナット80c、および蓋80dを含む。
【0043】
キャップ80aは、たとえば直方体状に形成され、嵌入孔および当該嵌入孔と直交する貫通孔(ともに図示せず)を有し、したがって略T字状の孔を有する。キャップ80aの嵌入孔にはパイプ74が嵌入され、貫通孔には一方側からパイプ80bが回動可能に挿入されかつ他方側から蓋80dが設けられ、パイプ74と80bとがキャップ80aを介して略L字状に連通される。そして、パイプ80bをタンク52の側面に挿通してパイプ80bの鍔部80eとナット80cとでタンク52の側面を挟みナット80cを締めることによって、タンク52の側面に支持部材80が固定される。なお、キャップ80aに対するパイプ80bの取り付け部近傍および蓋80dの取り付け部近傍にはそれぞれ、Oリング80fおよび80gが装着される。
【0044】
このような流量制御装置54を用いた第2液体供給装置16では、タンク52内の水位(水面の高さ)の変化に伴う浮き66の浮動によって、取り付け部材64がキャップ70に対して揺動するとともにパイプ74が支持部材80に対して揺動する(図7参照)。これによって、タンク52内の水位にかかわらず、水面からパイプ74の導水口(調整部材72の孔72a)までの深さが略一定となり、当該導水口に加わる水圧が安定する。また、ホース76によってパイプ74内は大気圧に保たれている。したがって、タンク52内の水位にかかわらずパイプ74の流路74aを流れる水量を常に略一定にでき、タンク52から略一定の流量(略4.0トン/日)で水を流出させることができる。したがって、この実施形態では、第2液体供給装置16からの水の流量が略4.0トン/日となり、緩速ろ過装置14における水の処理量が略4.0トン/日に設定される。また、2つの球状の浮き66を取り付け板64a上に横方向に並べて取り付けることによって、パイプ74内の水の有無にかかわらず、2つの球状の浮き66ひいては流量制御装置54の姿勢が崩れることなく、円滑に送水できる。なお、タンク52内では緩速ろ過装置14からの浄水を扱うので、パイプ74には殺菌作用を有する銅パイプが使用される。
【0045】
流量制御装置54の支持部材80には3方弁82が接続される。図1に示すように、3方弁82には、水消毒装置18に取り付けられるパイプ84が接続される。
【0046】
水消毒装置18は、第2液体供給装置16からの水を収容するタンク86、およびタンク86内で水中に配置される電解塩素発生装置88を含む。水消毒装置18では、電解塩素発生装置88の駆動に伴ってタンク86内の水に含まれる塩素イオンが電気分解される。これによって、次亜塩素酸イオンおよび次亜塩素酸が生成され、タンク86内の水が消毒される。このように水消毒装置18で消毒された水は、たとえば飲料水として利用される。電解塩素発生装置88の駆動開始および駆動停止のタイミングは、たとえばタンク86内の水位に基づいてコントローラ(図示せず)が制御する。
【0047】
また、図2、図7および図8に示すように、T字ジョイント61にはパイプ90の一端が接続される。パイプ90には緩速ろ過処理後の浄水を採取するための弁92が介挿される。また、パイプ90の他端には、3方弁94を介して、緩速ろ過装置14の損失水頭を測定するための透明管96、および透明管96内の水を外部に排出するための排出パイプ98が接続される。
【0048】
このような緩速ろ過システム10の緩速ろ過装置14では、時間経過に伴って、ろ過層S3の上層部における物質の蓄積およびろ過層S3の上面における物質の堆積が進み、水層Wの水がろ過層S3を通過(流下)しにくくなる。つまり、時間経過に伴って、ろ過抵抗が大きくなり、ろ過速度ひいては処理量が小さくなる。このように閉塞状態になって処理能力が低下すれば、以下のようなメンテナンス作業によって、緩速ろ過装置14の処理能力を回復させる。
【0049】
まず、弁20を閉じて第1液体供給装置12から緩速ろ過装置14への給水を停止する。その後、弁40を開いて緩速ろ過槽24の上部槽24aから水を排出(ドレン)する。このとき、第2液体供給装置16に取り付けられる3方弁82を操作して、第2液体供給装置16から外部に水を排出するようにしてもよい。これによって、パイプ42を介して緩速ろ過槽24から流出する水量が多くなり迅速に上部槽24aから水を排出できる。
【0050】
上部槽24aからの水の排出が完了すれば、ろ過層S3の上層部を5mm〜10mm程度削り取る。そして、ろ過層S3の上面が段部26と面一になるようにろ過層S3に砂を補充する。つまり、下部槽24bにおいて、ろ過層S3の上層部5mm〜10mm程度の砂を入れ替える。これによって緩速ろ過装置14の処理能力を回復させることができる。その後、弁40を閉じて、弁20を開き、第1液体供給装置12から緩速ろ過装置14への給水を再開する。
【0051】
このようなメンテナンス作業の要否は、透明管96を用いて緩速ろ過装置14の損失水頭を測定することによって判断される。
【0052】
図7に示すように、損失水頭の測定時には、3方弁94によって、排出パイプ98への水の流入が遮断され、かつパイプ90と透明管96とが連通される。これによって矢印F1で示すようにパイプ90から透明管96に水が流入し、透明管96内の水位が上昇する。このように上昇した透明管96内の水位を目視することによって、緩速ろ過装置14の損失水頭を測定でき、緩速ろ過装置14におけるろ過抵抗を確認できる。透明管96内の水位が低いほど(損失水頭が大きいほど)、緩速ろ過装置14におけるろ過抵抗は大きくなっている。したがって、たとえば図2に示すように透明管96に目印96aを付しておき、透明管96内の水位が目印96aを下回っていれば、上述のメンテナンス作業が行われる。
【0053】
また、損失水頭の測定後には、3方弁94によって、パイプ90からの水の流出が遮断され、かつ透明管96と排出パイプ98とが連通される。これによって矢印F2で示すように透明管96から排出パイプ98に水が流入し、透明管96内の水が外部に排出される。したがって、損失水頭の測定時以外は透明管96が空の状態に保たれる。
【0054】
このような緩速ろ過システム10によれば、緩速ろ過装置14のメンテナンス作業時に、段部26を目安して下部槽24bのろ過層S3の砂を入れ替えるだけで、ろ過層S3の高さを略一定に保つことができる。したがって、メンテナンスする者の経験・技能にかかわらず簡単かつ適切にメンテナンスできる。このように経験が浅い者であっても簡単かつ適切に緩速ろ過装置14をメンテナンスできるので、緩速ろ過システム10は、発展途上国において好適に用いられる。
【0055】
小型の緩速ろ過槽24を用いる緩速ろ過装置14によれば、ろ過層S3の上層部を削り取る際に段部26を足場として利用でき、足載せ用の板等を別途準備する必要もない。さらに、ろ過層S3上で作業する必要がなくなり、ろ過層S3内の微生物等に悪影響を与えることも防止でき、ろ過層S3を緩速ろ過に適した状態に保つことができる。
【0056】
緩速ろ過槽24の上部槽24aに段部26から上向きに水が導入されることによって、ろ過層S3の上層部の撹拌を抑えることができる。これによって、ろ過層S3の上層部の微生物等の活動を維持でき、好ましい水質の水を得ることができる。また、水層Wを漂う藻、ならびに水層Wに落ちた枯葉および虫等の水層Wを浮遊する物質をオーバーフローする水とともに上部槽24aから流出させることができる。これによって、ろ過層S3の上面における物質の堆積を抑えることができ、2次的な汚染を引き起こすことも防止できる。
【0057】
砂層の高さが400mmあれば緩速ろ過の浄化機能に問題がないことが一般的に知られている。砂層であるろ過層S3の高さを緩速ろ過処理後の水の水質維持に最低限必要な略400mmにすることによって、水質の低下を招くことなく緩速ろ過槽24を小さくでき、1日の処理量が同程度の従来の装置に比べて小型に構成できる。したがって、設置を容易にできるとともにコストを低減できる。
【0058】
必要なろ過水頭(ろ過圧力)の確保、および砂層の撹拌防止のために、水層の高さを900mm〜1200mm程度に設定することが一般的に推奨されている。しかし、上述の荒ろ過装置による荒ろ過(前処理段階)で濁度が十分に除去されていれば、小型の緩速ろ過装置14では、このような高さの水層は不要である。小型の緩速ろ過装置14では、水層Wの高さが略500mmあれば、十分なろ過水頭を得ることができ、水面の波がろ過層S3の上層部に与える影響もほとんどない。小型の緩速ろ過槽24を用いて水層Wの高さを略500mmにすることによって、ろ過層S3の上面に十分な光(屋外に配置される場合は日光)を与えることができる。これによって、ろ過層S3の上層部における微生物等の活動が活発になり、好ましい水質の水を得ることができる。また、ろ過層S3の高さを略400mmにするとともに水層Wの高さを略500mmにすることによって、より一層、緩速ろ過槽24を小さくでき、1日の処理量が同程度の従来の装置に比べて小型に構成できる。したがって、より一層、設置を容易にできるとともにコストを低減できる。
【0059】
透明管96内の水位を目視するだけで簡単に緩速ろ過装置14の損失水頭を測定でき、緩速ろ過装置14のメンテナンスの要否を簡単かつ適切に判断できる。
【0060】
緩速ろ過装置14と透明管96との間に3方弁94を設けることによって、透明管96から水を排出でき、損失水頭の測定時以外は透明管96を空の状態に保つことができる。これによって、透明管96内における水の腐敗および不純物の混入による2次汚染を防止でき、緩速ろ過装置14からの浄水が汚染されることを防止できる。
【0061】
緩速ろ過装置14の下流側に設けられる第2液体供給装置16によって、緩速ろ過装置14におけるろ過速度が略一定に保たれる。したがって、ろ過速度の管理が不要になり、緩速ろ過システム10の管理に要する手間を軽減できる。また、ろ過速度が一定であることによって、緩速ろ過装置14における微生物等の生息環境を最適化し、緩速ろ過を安定させることができる。
【0062】
また、第2液体供給装置16によれば、流量制御装置54を用いることによって、タンク52内の構造を単純化できタンク52を小さくできる。それに伴ってタンク52内の水を減らすことができ、水を汚染する機会を減らすことができる。
【0063】
図2に示すように、タンク52に対する流量制御装置54の取り付け位置すなわち排出口の位置を、下部槽24bの上端(ろ過層S3の上面)下100mmの高さに設定することによって、タンク52内の水位をろ過層S3の上面下100mmまで自動的に低下させることができる。緩速ろ過装置14のメンテナンス作業時にタンク52内の水位をここまで下げれば、ろ過層S3の上層部から水がなくなり、作業を円滑に行える。
【0064】
緩速ろ過装置14よりも下流側の第2液体供給装置16や水消毒装置18のメンテナンスや清掃時には、弁44を閉じればこれらの装置への給水を絶つことができる。また、弁92を開けることによって、緩速ろ過装置14からの水を直接かつ容易に採取・測定できる。これによって、緩速ろ過槽24内の水質を直接かつ正確に把握できる。さらに、たとえば緩速ろ過装置14が十分に機能していないときには、3方弁82を開けることによって第2液体供給装置16の水を廃棄できる。
【0065】
水消毒装置18によれば、その内部の電解塩素消毒装置88によって緩速ろ過装置14からの水に含まれる塩素イオンを用いて次亜塩素酸イオンおよび次亜塩素酸を発生させて水を消毒し細菌の繁殖を防止できる。したがって、次亜塩素酸液を水に直接供給する場合とは異なり、薬品を管理する必要がなく安全な飲料水を得ることができる。
【0066】
以上のように浄水システム10によれば、薬品を必要とせず簡単にシステムの駆動およびメンテナンスを行え、特に、開発途上国の村落、病院、学校、寺院等の比較的小規模な浄水施設を必要とする所に好適に用いられる。
【0067】
なお、緩速ろ過槽24は、メンテナンスする者が段部26に立った状態でシャベル等の先端部をろ過層S3の上面中央部に到達させることができる程度の任意の大きさに設定できる。
【0068】
また、上述の実施形態では、処理量制御手段として第2液体供給装置16を用いる場合について説明したが、処理量制御手段はこれに限定されない。処理量制御手段としては、たとえば特開2000−246087号公報に開示されている装置を用いてもよく、一定量の水を供給可能な任意の供給装置を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】この発明の一実施形態の緩速ろ過システムの配管の一例を示す図解図である。
【図2】緩速ろ過装置、第2液体供給装置および透明管を示す図解図である。
【図3】緩速ろ過装置の一例を示す側面図である。
【図4】緩速ろ過装置の一例を示す平面図解図である。
【図5】緩速ろ過槽の一例を示す図解図である。
【図6】(a)は緩速ろ過槽内に配置される支持台の一例を示す正面図であり、(b)はその底面図である。
【図7】第2液体供給装置、透明管および3方弁の一例を示す図解図である。
【図8】蓋をはずした状態の第2液体供給装置、透明管および3方弁の一例を示す平面図である。
【図9】流量制御装置の一例を示す正面図である。
【図10】流量制御装置の一例を示す背面図である。
【図11】流量制御装置の一例を示す側面図である。
【符号の説明】
【0070】
10 緩速ろ過システム
12 第1液体供給装置
14 緩速ろ過装置
16 第2液体供給装置
18 水消毒装置
24 緩速ろ過槽
24a 上部槽
24b 下部槽
26 段部
54 流量制御装置
82,94 3方弁
96 透明管
S1,S2,S3 ろ過層
W 水層
【技術分野】
【0001】
この発明は緩速ろ過装置およびそれを含む緩速ろ過システムに関し、より特定的には小型の緩速ろ過装置およびそれを含む緩速ろ過システムに関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、水を緩速ろ過する緩速ろ過池が開示されている。このような緩速ろ過池では、砂層の上層部に物質が蓄積されることによって、ろ過抵抗が大きくなり、処理能力が低下する。処理能力の回復は、一般的には砂層の上層部を削り取ることによって行われる。そして、削り取り作業を繰り返した結果、砂層の高さが緩速ろ過処理後の水の水質維持に必要な最低限の高さ(最低高さ)まで低下すれば、洗浄された砂が緩速ろ過池に補給される。
【0003】
通常、非特許文献1に開示されているように、砂層の最低高さは、400mm程度に設定される。砂層の高さがこれ以上であれば、砂層の上層部における微生物等の活動や砂層内における物質の除去機能を維持でき、好ましい水質の水を得ることができる。また、通常、砂層の高さの上限は、700mm〜900mm程度に設定される。砂層の高さがこの程度であれば、上層部に物質が蓄積されるまでは円滑に緩速ろ過できる。また、砂層の上側の水層の高さは、900mm〜1200mm程度に設定するのが一般的である。
【非特許文献1】水道施設設計指針改定委員会著、「水道施設設計指針」、社団法人日本水道協会、2000年3月31日、p.237−245
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
メンテナンスする者が不慣れな場合、従来技術の緩速ろ過装置では、最低高さ未満に砂層を削ってしまい、緩速ろ過処理後の水の水質を低下させるおそれがあった。また、砂を必要以上に補給してしまい、円滑に緩速ろ過できなくなるおそれがあった。つまり、不慣れな者では適切にメンテナンスできないおそれがあった。
【0005】
それゆえに、この発明の主たる目的は、簡単かつ適切にメンテナンスできる、緩速ろ過装置およびそれを含む緩速ろ過システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的を達成するために、請求項1に記載の緩速ろ過装置は、上部槽、前記上部槽の下側に設けられ前記上部槽よりも内径が小さい下部槽、および前記上部槽と前記下部槽との間に設けられる段部を有する緩速ろ過槽を備え、前記上部槽には水層が設けられ、前記下部槽には上面が前記段部と面一になるように砂層が設けられる。
【0007】
請求項2に記載の緩速ろ過装置は、請求項1に記載の緩速ろ過装置において、前記上部槽には前記段部から上向きに水が導入されることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の緩速ろ過装置は、請求項1または2に記載の緩速ろ過装置において、前記砂層の高さは略400mmであることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の緩速ろ過装置は、請求項1から3のいずれかに記載の緩速ろ過装置において、前記水層の高さは略500mmであることを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の緩速ろ過システムは、請求項1から4のいずれかに記載の緩速ろ過装置を含む緩速ろ過システムであって、前記緩速ろ過装置の損失水頭を測定するために前記緩速ろ過装置に連結される透明管を備える。
【0011】
請求項6に記載の緩速ろ過システムは、請求項5に記載の緩速ろ過システムにおいて、前記緩速ろ過装置と前記透明管との間に設けられる3方弁をさらに含むことを特徴とする。
【0012】
請求項7に記載の緩速ろ過システムは、請求項1から4のいずれかに記載の緩速ろ過装置を含む緩速ろ過システムであって、前記緩速ろ過装置での処理量を制御するために前記緩速ろ過装置の下流側に設けられる処理量制御手段を備える。
【0013】
請求項1に記載の緩速ろ過装置では、その上面が段部と面一になるように緩速ろ過槽の下部槽に砂層が設けられる。メンテナンス作業時には、砂層の上層部の砂を削り取った後に段部を目安して砂層に砂を補充するだけで、砂層の高さを略一定に保つことができる。したがって、メンテナンスする者の経験・技能にかかわらず簡単かつ適切にメンテナンスできる。このように経験が浅い者であっても簡単かつ適切にメンテナンスできるので、この発明の緩速ろ過装置は、発展途上国において好適に用いられる。
【0014】
請求項2に記載の緩速ろ過装置では、緩速ろ過槽の上部槽に段部から上向きに水が導入されることによって、砂層の上層部の撹拌を抑えることができる。これによって、上層部の微生物等の活動を維持でき、好ましい水質の水を得ることができる。また、水層を浮遊する物質をオーバーフローする水とともに緩速ろ過槽から流出させることができ、砂層の上面における物質の堆積を抑えることができる。
【0015】
請求項3に記載の緩速ろ過装置では、砂層の高さを水質の維持に最低限必要な略400mmにすることによって、水質の低下を招くことなく緩速ろ過槽を小さくでき、1日の処理量が同程度の従来の装置に比べて小型に構成できる。したがって、設置を容易にできるとともにコストを低減できる。
【0016】
通常、たとえば非特許文献1に開示されているように、緩速ろ過槽の水層の高さ(砂層上の水深)は、必要なろ過水頭(ろ過圧力)を確保するために900mm〜1200mm程度に設定することが推奨されている。また、水面に生じる波の影響によって砂層の上層部が撹拌されることを防止するためにも、水層の高さにはこのような値が推奨されている。このために、1日の処理量が数10トン以下の小型の緩速ろ過装置であっても、緩速ろ過槽の高さは大型の緩速ろ過装置のものと同程度になっていた。しかし、小型の緩速ろ過装置では緩速ろ過槽の横幅(横断面)が小さくなるので、水層の高さをこのような値に設定すると、緩速ろ過槽が縦長になってしまい、砂層の上面に与えられる光が少なくなる。その結果、砂層の上層部の微生物等の活動が低下し、緩速ろ過処理後の水の水質が低下してしまう。小型の緩速ろ過装置であれば、緩速ろ過槽の砂層の高さも小さくてよいので、水層の高さが略500mmあれば、十分なろ過水頭を得ることができる。さらに、水層の高さが略500mmあれば、水面の波が砂層の上層部に与える影響もほとんどない。そこで、小型の緩速ろ過装置においては、請求項4に記載するように、小型の緩速ろ過槽を用いて水層の高さを略500mmにすることによって、砂層の上面に十分な光を与えることができ、砂層の上層部における微生物等の活動を活発にできる。その結果、好ましい水質の水を得ることができる。また、緩速ろ過槽を小さくでき、1日の処理量が同程度の従来の装置に比べて小型に構成できるので、設置を容易にできるとともにコストを低減できる。
【0017】
請求項5に記載の緩速ろ過システムでは、透明管を目視するだけで緩速ろ過装置の損失水頭を簡単に測定できる。ひいては、緩速ろ過装置のメンテナンスの要否を簡単かつ適切に判断できる。
【0018】
請求項6に記載の緩速ろ過システムでは、緩速ろ過装置と透明管との間に3方弁が設けられることによって、透明管から水を排出でき、損失水頭の測定時以外は透明管を空の状態に保つことができる。これによって、透明管内における水の腐敗および2次汚染を防止でき、緩速ろ過装置からの浄水が汚染されることを防止できる。
【0019】
請求項7に記載の緩速ろ過システムでは、緩速ろ過装置の下流側に設けられる処理量制御手段によって、緩速ろ過装置における処理量(ろ過速度)が略一定に保たれる。したがって、ろ過速度の管理が不要になり、システムの管理に要する手間を軽減できる。また、ろ過速度が一定であることによって、緩速ろ過装置における微生物等の生息環境を最適化し、緩速ろ過を安定させることができる。
【0020】
この発明において、「緩速ろ過」とは、5〜8m/日程度の速度で水を流しながら微生物や藻によって水をろ過することをいう。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、簡単かつ適切にメンテナンスできる、緩速ろ過装置およびそれを含む緩速ろ過システムが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照してこの発明の実施の形態について説明する。
図1を参照して、この発明の一実施形態の緩速ろ過システム10は、たとえば8m(縦)×10m(横)程度の小型の浄水システムに用いられ、小型に構成される。
【0023】
緩速ろ過システム10は、上流側から順に、第1液体供給装置12、緩速ろ過装置14、第2液体供給装置16および水消毒装置18を含む。
【0024】
第1液体供給装置12は、水を収容するタンク12aを含む。タンク12aには、川、池、井戸等の水源からの水が、荒ろ過装置(図示せず)によって荒ろ過(1次ろ過)された後に供給される。タンク12aには、弁20が介挿されるパイプ22を介して緩速ろ過装置14が接続される。
【0025】
第1液体供給装置12は、タンク12a内の水を流量制御装置(図示せず)によって略一定の流量で緩速ろ過装置14に供給する。この実施形態では、略3.6L(リットル)/分の流量で第1液体供給装置12から緩速ろ過装置14に給水され、緩速ろ過装置14への1日の給水量は略5.2トンとなる。なお、第1液体供給装置12の流量制御装置としては、第2液体供給装置16の流量制御装置54(後述)と同様のものが用いられる。
【0026】
図2〜図5に示すように、緩速ろ過装置14は、緩速ろ過槽24を含む。緩速ろ過槽24は、それぞれ横断面円形に形成される上部槽24aおよび下部槽24bを有する。上部槽24aと下部槽24bとは上下方向に同軸上に並べられる。図4に示すように、下部槽24bの内径D1は上部槽24aの内径D2よりも小さく、上部槽24aと下部槽24bとの間には円環状の段部26が設けられる。
【0027】
この実施形態では、緩速ろ過槽24は、着色FRPを含んで構成され、またはFRPとFRPによって挟まれた遮光部材(たとえばアルミニウムホイールや黒色のプラスティックシート)とを含んで構成される。また、たとえば、上部槽24aの内径D2はφ1200mm、下部槽24bの内径D1はφ1000mmに設定される。したがって、段部26の幅は100mmになる。
【0028】
図5に示すように、下部槽24b内の底面には、たとえばFRPからなる支持台28が配置される。図6に示すように、支持台28は、円板状の板状部材30、板状部材30の周縁部に沿うように板状部材30の下面に設けられる円環状の枠体32、および板状部材30の下面中央に設けられる十字状の板状部材34を含む。板状部材30には、枠体32の内側の位置に複数の貫通孔30aが設けられる。また、枠体32には、4つの切り欠き32aが等間隔に設けられる。支持台28の各部の厚みはたとえば10mmに設定される。また、板状部材30の貫通孔30aの直径はたとえば10mmに設定される。
【0029】
図5に示すように、下部槽24bにおいて支持台28上には、下から順にろ過層S1とろ過層S2とろ過層S3とからなる3層構造のろ材が配置される。この実施形態では、ろ過層S1のろ材は15〜30mmのれきであり、ろ過層S2のろ材は2〜5mmのれきであり、ろ過層S3のろ材は0.5〜0.6mmの砂である。ろ過層S1〜S3のろ材の大きさをこのように設定することによって、ドレン作業時に水流によってろ過層S3のろ材(砂)が貫通孔30aを介して支持台28の下に落ちることを防止できる。
【0030】
ろ過層S1〜S3は、砂層であるろ過層S3の上面(表面)が段部26と面一になるように下部槽24bに設けられる。言い換えれば、ろ過層S1〜S3は、最上段のろ過層S3が上部槽24a内に至らないように下部槽24bに設けられる。この実施形態では、ろ過層S1の高さ(厚み)は略65mmに設定され、ろ過層S2の高さは略50mmに設定され、ろ過層S3の高さは略400mmに設定される。
【0031】
緩速ろ過槽24の段部26には、上部槽24aに水を導入するための入水パイプ36が取り付けられる。図2および図3に示すように、入水パイプ36には、プレハブジョイント37を介してパイプ38が連結される。パイプ38の一端にはタンク12aに取り付けられるパイプ22が連結され(図1参照)、パイプ38の他端には弁40が取り付けられる。第1液体供給装置12からの水は、パイプ22,38、プレハブジョイント37およびパイプ36を介して緩速ろ過槽24の上部槽24aに供給される。図5に示すように、上部槽24aには、入水パイプ36を介して第1液体供給装置12からの水が上向きに導入され、水層Wが設けられる。
【0032】
また、下部槽24bの側面下部には浄水を排出するためのパイプ42が取り付けられ、パイプ42には弁44が取り付けられる。さらに、上部槽24aの側面上部には、上部槽24aから水をオーバーフローさせるためのパイプ46が取り付けられる。パイプ46は、水層Wの高さ{水面から段部26(ろ過層S3の上面)までの深さ}が500mmを超えたときに、上部槽24aから水をオーバーフローさせる位置に取り付けられる。
【0033】
緩速ろ過装置14における水のろ過速度(流量)ひいては処理量は、処理量制御手段である下流側の第2液体供給装置16からの水の流量に応じて設定される。この実施形態では、緩速ろ過装置14における通常の処理量が略4.0トン/日(ろ過速度が略5m/日)に設定され、第1液体供給装置12からの給水量(略5.2トン/日)よりも小さくなる。したがって、通常、緩速ろ過装置14に供給された水の一部はパイプ46を介して緩速ろ過槽24からオーバーフローし、上部槽24aの水層Wの高さは略500mmに保たれる。
【0034】
パイプ46にはプレハブジョイント47を介してパイプ48(図1参照)が連結され、パイプ48にはタンク50が接続される。緩速ろ過槽24からオーバーフローした水は、パイプ46、プレハブジョイント47およびパイプ48を介してタンク50に供給される。タンク50内の水は、たとえば、上述の荒ろ過装置における荒ろ過槽の洗浄や荒ろ過槽の充填等に有効利用される。
【0035】
このような緩速ろ過装置14では、水層Wの水が主としてろ過層S3でろ過され浄化される。詳しくは、砂層であるろ過層S3の上層部には、微生物や藻が繁殖することによって生物ろ過層が形成されている。このようなろ過層S3を水層Wの水が通過(流下)することによって水中の物質が除去される。これによって浄水が得られる。ろ過層S3からの浄水は、ろ過層S2,S1、支持台28の貫通孔30aおよび切り欠き32a、パイプ42、ならびに弁44を介して緩速ろ過装置14から流出する。
【0036】
なお、緩速ろ過槽24には透光性を有する蓋(図示せず)を被せてもよい。これによって、ろ過層S3における微生物等の活動を遮光によって阻害することなく、緩速ろ過槽24内に落ち葉や虫等が入ることや緩速ろ過槽24内で藻類が過剰に繁殖することを防止できる。
【0037】
図2、図7および図8に示すように、第2液体供給装置16は、緩速ろ過装置14からの水(浄水)を収容するタンク52、およびタンク52から一定の流量で水を流出させるための流量制御装置54を含む。
【0038】
タンク52は上端開口の中空略直方体状に形成され、タンク52の上端部には蓋56が被せられる。蓋56にはタンク52内を外気と連通するためのパイプ58が設けられる。また、タンク52の底面にはパイプ60が取り付けられる。図2に示すように、パイプ60にはT字ジョイント61を介してパイプ62が連結され、パイプ62には弁44が接続される。タンク52には、パイプ62、T字ジョイント61およびパイプ60を介して緩速ろ過装置14からの水が供給される。
【0039】
図9〜図11に示すように、流量制御装置54は取り付け部材64を含む。取り付け部材64は、略短冊状の取り付け板64aと、取り付け板64aの下面に設けられる挿通部材64bとを含む。取り付け板64a上には2つの略球状の浮き66が取り付けられ、挿通部材64bにはボルト68によって略直方体状のキャップ70が揺動可能に取り付けられる。キャップ70は水を導入するための貫通孔70aを有し、貫通孔70aには孔72aを有する中空円板状の調整部材72が装着される。調整部材72の孔72aの大きさによって、流量制御装置54に導入される水の流量ひいては流量制御装置54から流出する水の流量が調整される。この実施形態では、孔72aの直径が7.8mmに設定され、流量制御装置54からの水の流量は略2.8L/分(略4.0トン/日)となる。
【0040】
キャップ70にはパイプ74の一端が装着される。パイプ74はその一端から他端にまで延びる流路74aと側面から流路74aに貫通する貫通孔74bとを有する。貫通孔74bにはホース76の一端が嵌入され、流路74aがホース76を介して大気に開放される。ホース76の先端部は、取り付け板64a上に設けられる略L字状の保持部材78によって保持される。なお、2つの浮き66は、パイプ74内が水で充満された状態でもホース76の先端が水面上に位置する浮力を有するサイズで構成される。
【0041】
パイプ74の他端には、パイプ74を揺動可能に支持するためにタンク52の側面下方寄りに設けられる支持部材80が取り付けられる。
【0042】
支持部材80は、パイプ74に接続されるキャップ80a、キャップ80aに接続されるパイプ80b、パイプ80bに取り付けられるナット80c、および蓋80dを含む。
【0043】
キャップ80aは、たとえば直方体状に形成され、嵌入孔および当該嵌入孔と直交する貫通孔(ともに図示せず)を有し、したがって略T字状の孔を有する。キャップ80aの嵌入孔にはパイプ74が嵌入され、貫通孔には一方側からパイプ80bが回動可能に挿入されかつ他方側から蓋80dが設けられ、パイプ74と80bとがキャップ80aを介して略L字状に連通される。そして、パイプ80bをタンク52の側面に挿通してパイプ80bの鍔部80eとナット80cとでタンク52の側面を挟みナット80cを締めることによって、タンク52の側面に支持部材80が固定される。なお、キャップ80aに対するパイプ80bの取り付け部近傍および蓋80dの取り付け部近傍にはそれぞれ、Oリング80fおよび80gが装着される。
【0044】
このような流量制御装置54を用いた第2液体供給装置16では、タンク52内の水位(水面の高さ)の変化に伴う浮き66の浮動によって、取り付け部材64がキャップ70に対して揺動するとともにパイプ74が支持部材80に対して揺動する(図7参照)。これによって、タンク52内の水位にかかわらず、水面からパイプ74の導水口(調整部材72の孔72a)までの深さが略一定となり、当該導水口に加わる水圧が安定する。また、ホース76によってパイプ74内は大気圧に保たれている。したがって、タンク52内の水位にかかわらずパイプ74の流路74aを流れる水量を常に略一定にでき、タンク52から略一定の流量(略4.0トン/日)で水を流出させることができる。したがって、この実施形態では、第2液体供給装置16からの水の流量が略4.0トン/日となり、緩速ろ過装置14における水の処理量が略4.0トン/日に設定される。また、2つの球状の浮き66を取り付け板64a上に横方向に並べて取り付けることによって、パイプ74内の水の有無にかかわらず、2つの球状の浮き66ひいては流量制御装置54の姿勢が崩れることなく、円滑に送水できる。なお、タンク52内では緩速ろ過装置14からの浄水を扱うので、パイプ74には殺菌作用を有する銅パイプが使用される。
【0045】
流量制御装置54の支持部材80には3方弁82が接続される。図1に示すように、3方弁82には、水消毒装置18に取り付けられるパイプ84が接続される。
【0046】
水消毒装置18は、第2液体供給装置16からの水を収容するタンク86、およびタンク86内で水中に配置される電解塩素発生装置88を含む。水消毒装置18では、電解塩素発生装置88の駆動に伴ってタンク86内の水に含まれる塩素イオンが電気分解される。これによって、次亜塩素酸イオンおよび次亜塩素酸が生成され、タンク86内の水が消毒される。このように水消毒装置18で消毒された水は、たとえば飲料水として利用される。電解塩素発生装置88の駆動開始および駆動停止のタイミングは、たとえばタンク86内の水位に基づいてコントローラ(図示せず)が制御する。
【0047】
また、図2、図7および図8に示すように、T字ジョイント61にはパイプ90の一端が接続される。パイプ90には緩速ろ過処理後の浄水を採取するための弁92が介挿される。また、パイプ90の他端には、3方弁94を介して、緩速ろ過装置14の損失水頭を測定するための透明管96、および透明管96内の水を外部に排出するための排出パイプ98が接続される。
【0048】
このような緩速ろ過システム10の緩速ろ過装置14では、時間経過に伴って、ろ過層S3の上層部における物質の蓄積およびろ過層S3の上面における物質の堆積が進み、水層Wの水がろ過層S3を通過(流下)しにくくなる。つまり、時間経過に伴って、ろ過抵抗が大きくなり、ろ過速度ひいては処理量が小さくなる。このように閉塞状態になって処理能力が低下すれば、以下のようなメンテナンス作業によって、緩速ろ過装置14の処理能力を回復させる。
【0049】
まず、弁20を閉じて第1液体供給装置12から緩速ろ過装置14への給水を停止する。その後、弁40を開いて緩速ろ過槽24の上部槽24aから水を排出(ドレン)する。このとき、第2液体供給装置16に取り付けられる3方弁82を操作して、第2液体供給装置16から外部に水を排出するようにしてもよい。これによって、パイプ42を介して緩速ろ過槽24から流出する水量が多くなり迅速に上部槽24aから水を排出できる。
【0050】
上部槽24aからの水の排出が完了すれば、ろ過層S3の上層部を5mm〜10mm程度削り取る。そして、ろ過層S3の上面が段部26と面一になるようにろ過層S3に砂を補充する。つまり、下部槽24bにおいて、ろ過層S3の上層部5mm〜10mm程度の砂を入れ替える。これによって緩速ろ過装置14の処理能力を回復させることができる。その後、弁40を閉じて、弁20を開き、第1液体供給装置12から緩速ろ過装置14への給水を再開する。
【0051】
このようなメンテナンス作業の要否は、透明管96を用いて緩速ろ過装置14の損失水頭を測定することによって判断される。
【0052】
図7に示すように、損失水頭の測定時には、3方弁94によって、排出パイプ98への水の流入が遮断され、かつパイプ90と透明管96とが連通される。これによって矢印F1で示すようにパイプ90から透明管96に水が流入し、透明管96内の水位が上昇する。このように上昇した透明管96内の水位を目視することによって、緩速ろ過装置14の損失水頭を測定でき、緩速ろ過装置14におけるろ過抵抗を確認できる。透明管96内の水位が低いほど(損失水頭が大きいほど)、緩速ろ過装置14におけるろ過抵抗は大きくなっている。したがって、たとえば図2に示すように透明管96に目印96aを付しておき、透明管96内の水位が目印96aを下回っていれば、上述のメンテナンス作業が行われる。
【0053】
また、損失水頭の測定後には、3方弁94によって、パイプ90からの水の流出が遮断され、かつ透明管96と排出パイプ98とが連通される。これによって矢印F2で示すように透明管96から排出パイプ98に水が流入し、透明管96内の水が外部に排出される。したがって、損失水頭の測定時以外は透明管96が空の状態に保たれる。
【0054】
このような緩速ろ過システム10によれば、緩速ろ過装置14のメンテナンス作業時に、段部26を目安して下部槽24bのろ過層S3の砂を入れ替えるだけで、ろ過層S3の高さを略一定に保つことができる。したがって、メンテナンスする者の経験・技能にかかわらず簡単かつ適切にメンテナンスできる。このように経験が浅い者であっても簡単かつ適切に緩速ろ過装置14をメンテナンスできるので、緩速ろ過システム10は、発展途上国において好適に用いられる。
【0055】
小型の緩速ろ過槽24を用いる緩速ろ過装置14によれば、ろ過層S3の上層部を削り取る際に段部26を足場として利用でき、足載せ用の板等を別途準備する必要もない。さらに、ろ過層S3上で作業する必要がなくなり、ろ過層S3内の微生物等に悪影響を与えることも防止でき、ろ過層S3を緩速ろ過に適した状態に保つことができる。
【0056】
緩速ろ過槽24の上部槽24aに段部26から上向きに水が導入されることによって、ろ過層S3の上層部の撹拌を抑えることができる。これによって、ろ過層S3の上層部の微生物等の活動を維持でき、好ましい水質の水を得ることができる。また、水層Wを漂う藻、ならびに水層Wに落ちた枯葉および虫等の水層Wを浮遊する物質をオーバーフローする水とともに上部槽24aから流出させることができる。これによって、ろ過層S3の上面における物質の堆積を抑えることができ、2次的な汚染を引き起こすことも防止できる。
【0057】
砂層の高さが400mmあれば緩速ろ過の浄化機能に問題がないことが一般的に知られている。砂層であるろ過層S3の高さを緩速ろ過処理後の水の水質維持に最低限必要な略400mmにすることによって、水質の低下を招くことなく緩速ろ過槽24を小さくでき、1日の処理量が同程度の従来の装置に比べて小型に構成できる。したがって、設置を容易にできるとともにコストを低減できる。
【0058】
必要なろ過水頭(ろ過圧力)の確保、および砂層の撹拌防止のために、水層の高さを900mm〜1200mm程度に設定することが一般的に推奨されている。しかし、上述の荒ろ過装置による荒ろ過(前処理段階)で濁度が十分に除去されていれば、小型の緩速ろ過装置14では、このような高さの水層は不要である。小型の緩速ろ過装置14では、水層Wの高さが略500mmあれば、十分なろ過水頭を得ることができ、水面の波がろ過層S3の上層部に与える影響もほとんどない。小型の緩速ろ過槽24を用いて水層Wの高さを略500mmにすることによって、ろ過層S3の上面に十分な光(屋外に配置される場合は日光)を与えることができる。これによって、ろ過層S3の上層部における微生物等の活動が活発になり、好ましい水質の水を得ることができる。また、ろ過層S3の高さを略400mmにするとともに水層Wの高さを略500mmにすることによって、より一層、緩速ろ過槽24を小さくでき、1日の処理量が同程度の従来の装置に比べて小型に構成できる。したがって、より一層、設置を容易にできるとともにコストを低減できる。
【0059】
透明管96内の水位を目視するだけで簡単に緩速ろ過装置14の損失水頭を測定でき、緩速ろ過装置14のメンテナンスの要否を簡単かつ適切に判断できる。
【0060】
緩速ろ過装置14と透明管96との間に3方弁94を設けることによって、透明管96から水を排出でき、損失水頭の測定時以外は透明管96を空の状態に保つことができる。これによって、透明管96内における水の腐敗および不純物の混入による2次汚染を防止でき、緩速ろ過装置14からの浄水が汚染されることを防止できる。
【0061】
緩速ろ過装置14の下流側に設けられる第2液体供給装置16によって、緩速ろ過装置14におけるろ過速度が略一定に保たれる。したがって、ろ過速度の管理が不要になり、緩速ろ過システム10の管理に要する手間を軽減できる。また、ろ過速度が一定であることによって、緩速ろ過装置14における微生物等の生息環境を最適化し、緩速ろ過を安定させることができる。
【0062】
また、第2液体供給装置16によれば、流量制御装置54を用いることによって、タンク52内の構造を単純化できタンク52を小さくできる。それに伴ってタンク52内の水を減らすことができ、水を汚染する機会を減らすことができる。
【0063】
図2に示すように、タンク52に対する流量制御装置54の取り付け位置すなわち排出口の位置を、下部槽24bの上端(ろ過層S3の上面)下100mmの高さに設定することによって、タンク52内の水位をろ過層S3の上面下100mmまで自動的に低下させることができる。緩速ろ過装置14のメンテナンス作業時にタンク52内の水位をここまで下げれば、ろ過層S3の上層部から水がなくなり、作業を円滑に行える。
【0064】
緩速ろ過装置14よりも下流側の第2液体供給装置16や水消毒装置18のメンテナンスや清掃時には、弁44を閉じればこれらの装置への給水を絶つことができる。また、弁92を開けることによって、緩速ろ過装置14からの水を直接かつ容易に採取・測定できる。これによって、緩速ろ過槽24内の水質を直接かつ正確に把握できる。さらに、たとえば緩速ろ過装置14が十分に機能していないときには、3方弁82を開けることによって第2液体供給装置16の水を廃棄できる。
【0065】
水消毒装置18によれば、その内部の電解塩素消毒装置88によって緩速ろ過装置14からの水に含まれる塩素イオンを用いて次亜塩素酸イオンおよび次亜塩素酸を発生させて水を消毒し細菌の繁殖を防止できる。したがって、次亜塩素酸液を水に直接供給する場合とは異なり、薬品を管理する必要がなく安全な飲料水を得ることができる。
【0066】
以上のように浄水システム10によれば、薬品を必要とせず簡単にシステムの駆動およびメンテナンスを行え、特に、開発途上国の村落、病院、学校、寺院等の比較的小規模な浄水施設を必要とする所に好適に用いられる。
【0067】
なお、緩速ろ過槽24は、メンテナンスする者が段部26に立った状態でシャベル等の先端部をろ過層S3の上面中央部に到達させることができる程度の任意の大きさに設定できる。
【0068】
また、上述の実施形態では、処理量制御手段として第2液体供給装置16を用いる場合について説明したが、処理量制御手段はこれに限定されない。処理量制御手段としては、たとえば特開2000−246087号公報に開示されている装置を用いてもよく、一定量の水を供給可能な任意の供給装置を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】この発明の一実施形態の緩速ろ過システムの配管の一例を示す図解図である。
【図2】緩速ろ過装置、第2液体供給装置および透明管を示す図解図である。
【図3】緩速ろ過装置の一例を示す側面図である。
【図4】緩速ろ過装置の一例を示す平面図解図である。
【図5】緩速ろ過槽の一例を示す図解図である。
【図6】(a)は緩速ろ過槽内に配置される支持台の一例を示す正面図であり、(b)はその底面図である。
【図7】第2液体供給装置、透明管および3方弁の一例を示す図解図である。
【図8】蓋をはずした状態の第2液体供給装置、透明管および3方弁の一例を示す平面図である。
【図9】流量制御装置の一例を示す正面図である。
【図10】流量制御装置の一例を示す背面図である。
【図11】流量制御装置の一例を示す側面図である。
【符号の説明】
【0070】
10 緩速ろ過システム
12 第1液体供給装置
14 緩速ろ過装置
16 第2液体供給装置
18 水消毒装置
24 緩速ろ過槽
24a 上部槽
24b 下部槽
26 段部
54 流量制御装置
82,94 3方弁
96 透明管
S1,S2,S3 ろ過層
W 水層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部槽、前記上部槽の下側に設けられ前記上部槽よりも内径が小さい下部槽、および前記上部槽と前記下部槽との間に設けられる段部を有する緩速ろ過槽を備え、
前記上部槽には水層が設けられ、
前記下部槽には上面が前記段部と面一になるように砂層が設けられる、緩速ろ過装置。
【請求項2】
前記上部槽には前記段部から上向きに水が導入される、請求項1に記載の緩速ろ過装置。
【請求項3】
前記砂層の高さは略400mmである、請求項1または2に記載の緩速ろ過装置。
【請求項4】
前記水層の高さは略500mmである、請求項1から3のいずれかに記載の緩速ろ過装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の緩速ろ過装置を含む緩速ろ過システムであって、
前記緩速ろ過装置の損失水頭を測定するために前記緩速ろ過装置に連結される透明管を備える、緩速ろ過システム。
【請求項6】
前記緩速ろ過装置と前記透明管との間に設けられる3方弁をさらに含む、請求項5に記載の緩速ろ過システム。
【請求項7】
請求項1から4のいずれかに記載の緩速ろ過装置を含む緩速ろ過システムであって、
前記緩速ろ過装置での処理量を制御するために前記緩速ろ過装置の下流側に設けられる処理量制御手段を備える、緩速ろ過システム。
【請求項1】
上部槽、前記上部槽の下側に設けられ前記上部槽よりも内径が小さい下部槽、および前記上部槽と前記下部槽との間に設けられる段部を有する緩速ろ過槽を備え、
前記上部槽には水層が設けられ、
前記下部槽には上面が前記段部と面一になるように砂層が設けられる、緩速ろ過装置。
【請求項2】
前記上部槽には前記段部から上向きに水が導入される、請求項1に記載の緩速ろ過装置。
【請求項3】
前記砂層の高さは略400mmである、請求項1または2に記載の緩速ろ過装置。
【請求項4】
前記水層の高さは略500mmである、請求項1から3のいずれかに記載の緩速ろ過装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の緩速ろ過装置を含む緩速ろ過システムであって、
前記緩速ろ過装置の損失水頭を測定するために前記緩速ろ過装置に連結される透明管を備える、緩速ろ過システム。
【請求項6】
前記緩速ろ過装置と前記透明管との間に設けられる3方弁をさらに含む、請求項5に記載の緩速ろ過システム。
【請求項7】
請求項1から4のいずれかに記載の緩速ろ過装置を含む緩速ろ過システムであって、
前記緩速ろ過装置での処理量を制御するために前記緩速ろ過装置の下流側に設けられる処理量制御手段を備える、緩速ろ過システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−297647(P2009−297647A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−154653(P2008−154653)
【出願日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】
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