説明

練製品及びその製造法

【課題】大豆蛋白素材の配合率を高めても本来の練製品らしい食感を有する練製品、及びその製造法を提供する。
【解決手段】肉類、及び大豆蛋白素材を含む練製品であって、該大豆蛋白素材のゲル化物が練製品のマトリックス中に分散しており、該大豆蛋白素材のゲル化物は、大豆蛋白素材に蛋白質架橋酵素が作用したものであって、かつ、カルシウム塩又はマグネシウム塩を含有するものであることを特徴とする練製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水産練製品や畜肉練製品等の練製品及びその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
畜産物や水産物などを原料とした食品には、焼肉・煮魚・フィッシュフライ・するめなど様々なものがある。これらの食品の中には、原料から採取した畜肉や魚肉などをサイレントカッターやニーダーなどで練り、必要に応じ塩溶性蛋白の結着力を利用して、消費者に嗜好される食感が付与されて定着してきたものがある。具体的には、ソーセージやミートボールなどの畜産練製品や、蒲鉾や魚肉ソーセージなどの水産練製品などである。
これら練製品は、畜産物や水産物をそのまま加熱した食品にありがちな粗くて方向性のある繊維感ではなく、生地が練られていることに由来する比較的均質な構造を感じながらも、口腔内にて微細なヘテロ感を心地よく感じることができる複雑な食感を有する。この微細なヘテロ感とは、粗い粒状の肉粒感や、ざらついた異物感や、もさつきのある繊維感や、人工的なゲル食感や、べたつきのある不快感などの、練製品らしくない食感とは区別される。
【0003】
例えば、細挽きの畜肉ソーセージや、細挽きのミートボールや、成型蒲鉾や、薩摩揚や、竹輪や、魚肉ソーセージなどの比較的均一な練製品を食した場合は、肉粒感に邪魔されにくいので、微細なヘテロ感を感じ易くなる。微細なヘテロ感とは、具体的には、多糖類や蛋白質などのようなゲル化素材の添加によって人工的に作り出された食感ではなく、本来の練製品らしい自然な食感を有しているものとして口腔内で感じることができる食感覚である。もちろん、その食品が練製品であるという最終的な認知に至るには、食感だけではなく、練製品の有する味や香りも重要な因子ではあるが、練製品らしい味や香りを伴っても、練製品と異なる異質な食感であると、一般的な練製品であるとは認知され難い。
【0004】
微細なヘテロ感とは、より具体的には、練製品を食した際、噛み出しはやや均質で一体感のある構造を全体的に感じるものの(硬さとたわみ)、口腔内で徐々に砕かれてゆくに従い、それらが練製品らしい緻密な構造から成り立っていると想像させる食感覚であって、練製品が有する心地よい食感覚である。この微細なヘテロ感は、生地が練られることによって形成される製品の全体的な均一感の中に、原料肉に含まれる細かいスジや細胞膜片や繊維状物といった不均一な構成物などが生地に馴染みながら点在していることに由来しているものと考えられる。練製品らしい食感を特徴付けるその微細なヘテロ感を物性測定装置による物理的指標で表現することは現状難しいが、官能評価では感知可能なものである。
【0005】
さて、練製品の生地に配合される副原料には、澱粉・蛋白素材・油脂・塩類・野菜類・調味料・着色料・着香料等があり、蛋白素材に関しては従来から大豆蛋白素材が利用されてきた。大豆蛋白素材が配合されてきた主な目的は物性面(結着性・乳化性・ゲル形成性など)であったが、経済面(安定供給・コストなど)や栄養面(蛋白質栄養・健康志向など)などのニーズの高まりとともに、練製品の生地に大豆蛋白素材をより多く配合したいというニーズが高まっていた。ところが大豆蛋白素材の配合率を高めるにつれ、練製品の食感は大豆蛋白素材由来の食感を感じやすいものとなり、練製品らしい食感が失われてゆくといった致命的な問題があった。
【0006】
大豆蛋白素材由来の食感とは、水和・乳化・凝集・加熱などによって発生する物理特性に由来し、べたついた食感や粘土的食感や豆腐的食感や均質なゲル食感やゴム的食感などといった食感であって、本来の練製品とは異質な食感覚である。その食感変化を利用して新食感の練惣菜などが開発されたことがあったが、それらは練製品の食感とは異なる新食感の練惣菜の創出であって、本来の練製品の食感とは異なるものであった(特許文献1〜4)。
【0007】
従い、新食感の練惣菜といったジャンルではない一般的な練製品(従来から消費者に嗜好され定着してきた市販の練製品群)の食感を可能な限り損なわずに、経済面や栄養面などのニーズを満たすべく大豆蛋白素材の配合率を高めることは、大きな課題として残されていた。
【0008】
そのため、今もなお練製品に添加される粉末状大豆蛋白素材の量は、練製品本来の食感が損なわれない程度の量に制限される場合が多く、魚肉等の原料肉100重量部あたり5重量部程度が一般的であった。そして添加量が10重量部を超える場合はあっても練製品本来の食感から外れるものであった(特許文献3,5)。例えば特許文献3には粉末状大豆蛋白素材の添加量を増やしていくにつれ、本来の蒲鉾的食感であったものが柔らかく、弾力があり、滑らかで歯切れの良い揚げ天様のものとなり、さらに増やしていくとしっかりした食感を有する厚揚的食感に近づいていくことが記載されている(実施例1より)。
以上のように、大豆蛋白素材の配合率を高めても本来の練製品らしい食感が得られるような有効手段は十分に見出されているとは言い難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭50−46862号公報
【特許文献2】特開昭53−88354号公報
【特許文献3】特開昭63−167765号公報
【特許文献4】特許第3508373号公報
【特許文献5】特許第3282468号公報
【特許文献6】特開2002−112741号公報
【特許文献7】特開平1−27471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、経済面や栄養面などのニーズに鑑み、大豆蛋白素材の配合率を高めても本来の練製品らしい食感を有する練製品、及びその製造法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題につき鋭意研究を行った結果、大豆蛋白素材の配合率を高めたい場合には、肉類、大豆蛋白素材及び蛋白質架橋酵素を均一に混合するのでなく、予め水の存在下において大豆蛋白素材に蛋白質架橋酵素とカルシウム塩もしくはマグネシウム塩を混合して大豆蛋白素材のゲル化物を調製し、その後に肉類と混合することによって、該ゲル化物を練製品の生地のマトリックス中に分散させることが、本来の練製品らしい食感を付与するために非常に重要である知見を得、本発明を完成させるに至った。蛋白質架橋酵素を練製品の生地のマトリックス全体に均一に添加するという知見は従来示されてはいたものの(特許文献6)、本発明のように該酵素を生地中の大豆蛋白素材に優先的に作用させる思想とは異なるものである。
【0012】
すなわち本発明は、
(1)肉類、及び大豆蛋白素材を含む練製品であって、該大豆蛋白素材のゲル化物が練製品のマトリックス中に分散しており、該大豆蛋白素材のゲル化物は、大豆蛋白素材に蛋白質架橋酵素が作用したものであって、かつ、カルシウム塩又はマグネシウム塩を含有するものであることを特徴とする練製品、
(2)肉類が魚肉である前記(1)記載の練製品、
(3)大豆蛋白素材の含有量が肉類に対して10〜25重量%である、前記(1)記載の練製品、
(4)該練製品のマトリックス中に分散しているゲル化物の粒の平均粒子径が、1mm以下である前記(1)記載の練製品、
(5)肉類及び大豆蛋白素材を含む練製品であって、予め水の存在下において大豆蛋白素材に蛋白質架橋酵素とカルシウム塩もしくはマグネシウム塩を混合し、該混合物を酵素反応させ、大豆蛋白素材のゲル化物を得る工程、該ゲル化物と肉類を混合することによってマトリックス中に該ゲル化物が分散した練生地を得る工程、を含むことを特徴とする練製品の生地の製造法、
(6)該混合物を加熱することによって、蛋白質架橋酵素の反応と殺菌とが同時に行われる前記(5)記載の練製品の製造法、
(7)該混合物を加熱する温度が50〜65℃である前記(6)記載の練製品の製造法、
(8)前記(5)記載の生地を成形し加熱し凝固させて得られる練製品の製造法、である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によって、大豆蛋白素材の配合率を高めても本来の練製品らしい食感を有する練製品、及びその製造法が提供されることにより、経済的・栄養的に優れた練製品の提供が可能となる。
特に水産練製品においては、噛み出しの硬さとたわみ、さらには微細なヘテロ感をより有効に付与することができ、魚肉のみで製造した本来の水産練製品に匹敵する練製品を提供することができる。
また副次的には、カルシウム塩もしくはマグネシウム塩を蛋白質架橋酵素と組み合わせて使用することにより、練製品の加熱工程を簡略化することができ、より高い生産性で練製品を製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の練製品は、肉類、及び大豆蛋白素材を含む練製品であって、該大豆蛋白素材のゲル化物が練製品のマトリックス中に分散しており、該大豆蛋白素材のゲル化物は、大豆蛋白素材に蛋白質架橋酵素が作用したものであって、かつ、カルシウム塩又はマグネシウム塩を含有するものであることを特徴とする。
また、本発明の練製品及びその生地の製造法は、肉類及び大豆蛋白素材を含む練製品であって、予め水の存在下において大豆蛋白素材に蛋白質架橋酵素とカルシウム塩もしくはマグネシウム塩を混合し、該混合物を酵素反応させ、大豆蛋白素材のゲル化物を得る工程、該ゲル化物と肉類を混合することによってマトリックス中に該ゲル化物が分散した練生地を得る工程、を含むことを特徴とするものである。
以下、本発明について具体的な実施形態を詳細に説明する。
【0015】
(練製品)
まず本発明において練製品とは、魚介類の肉や畜肉等の肉類を原材料とし、これを練り合わせて得たペースト状の肉を成形し、加熱凝固させて得られる食品である。大きくは畜産練製品と水産練製品に分けられるが、畜肉と魚介類の肉を組み合わせた製品も含む。畜産練製品としては、ソーセージ、ウインナー、ハンバーグ、ミートボール等が挙げられ、水産練製品としては、竹輪類、蒲鉾類、はんぺん類、魚肉ハム、魚肉ソーセージ、魚肉ハンバーグ等が挙げられる。また、これらの練製品は、プラスチック製のカップや、ケーシングチューブ等に充填される場合もある。
本発明は大豆蛋白素材を多量に含む練製品に噛み出し時の硬さ・噛み出し時のたわみ・微細なヘテロ感といった練製品本来の物性を付与する効果が高く、そのため当該物性の付与が望ましい水産練製品においてより有効に利用することができ、特に蒲鉾類における利用がより好ましい。
【0016】
(大豆蛋白素材)
本発明の練製品に用いる大豆蛋白素材は、典型的には減脂大豆や脱脂大豆などを原料として、ホエー成分やオカラ成分を除去して得られる、蛋白質含量が高められた素材であり、その粗蛋白質含量(乾物換算)は60重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上である。
【0017】
特に大豆蛋白素材としては、濃縮大豆蛋白や粗蛋白質含量が90重量%以上である分離大豆蛋白が好ましく、これらは乾燥粉末化した粉末状のものが好ましい。
【0018】
また、大豆蛋白素材としては、分離大豆蛋白や濃縮大豆蛋白などから脂質親和性蛋白質(Lipophilic Proteins)を多く含む画分を除去もしくは低減し、β−コングリシニン又はグリシニン等のグロブリン含量を高めた分画大豆蛋白素材であることもできる。
【0019】
ただし、大豆蛋白素材であってもゲル化性を有しないタイプのもの、例えばプロテアーゼによる加水分解によって、0.22Mトリクロロ酢酸可溶率(以下、単に「TCA可溶率」と称する場合あり。)が30%以上になった大豆蛋白加水分解物や、NSI(水溶性窒素指数、Nitrogen Solubility Index)が60未満の水可溶性を低下させた大豆蛋白素材は、練製品に添加しても大豆蛋白の肉類代替としての機能であるゲル化性を発揮しにくい。
したがって、ゲル化性を有する大豆蛋白素材であることが好ましい。ここで、ゲル化性を有するか否かは、大豆蛋白素材の12%水溶液を折径38mmの塩化ビニリデンケーシングに充填し、湯煎(80℃)にて30分間加熱した時にゲルを形成するか否かで判断することができる。
なお、TCA可溶率は全蛋白質量に対する0.22Mのトリクロロ酢酸溶液に可溶の蛋白質量の割合をケルダール法により測定し、100を乗じた値(%)とする。またNSIは試料中の全窒素含有量に対する同試料の水抽出物中の窒素含有量の割合を意味し、前者を100としたときの値で表わされる。通常は「基準油脂分析試験法」(日本油化学協会編)1.1.4.6に記載の測定法により求めることができる。
【0020】
大豆蛋白素材を高配合して、従来の練製品の食感とは異なる新食感を付与しているもの(特許文献1〜5など)は別として、一般的な練製品に配合される大豆蛋白素材の量は、肉類に対して、通常1〜10重量%程度である(特許文献3、6など)。
しかしながら本発明の方法によれば、例えば、大豆蛋白素材を肉類に対して、10重量%を超えて、また12重量%以上配合しても、練製品と同等の食感にすることができる。無論、従来通り肉類に対して10重量%以下の量で大豆蛋白素材を添加することを何ら妨げるものではない。またその上限は特に設定されず、練製品らしい食感として許容できる量を配合できるが、通常は肉類に対して25重量%以下であることができる。
【0021】
(蛋白質架橋酵素)
本発明の練製品に用いる蛋白質架橋酵素は、蛋白質の分子どうしを架橋することができる架橋酵素であって、天然物に含まれている他、微生物によっても産生されることで知られている。典型的にはトランスグルタミナーゼが例示される。トランスグルタミナーゼの活性単位(ユニット)は、特開平1−27471号公報(特許文献7)の第3頁第5欄に記載される<活性測定法>で測定され、かつ定義される。市販のトランスグルタミナーゼ製剤を使用する場合、例えば「アクティバTG」(味の素(株)製)のシリーズを使用することができる。
【0022】
本発明における蛋白質架橋酵素の添加量は、架橋酵素の種類にもよるが、トランスグルタミナーゼの場合では大豆蛋白素材の粗蛋白質1gに対して0.01ユニット以上10ユニット未満が適当である。酵素量が0.01ユニットよりも少ない場合は、酵素による大豆蛋白質の架橋効果が発揮されにくく、製品がべたついた食感となる。酵素量の上限は10ユニット未満で十分であり、かつ経済的である。
【0023】
(大豆蛋白素材のゲル化物)
本発明の練製品の製造において蛋白質架橋酵素の使用は必須であるが、単に練生地中に均一に分散させて酵素を作用させるのではなく、予め水の存在下において大豆蛋白素材に蛋白質架橋酵素を混合し反応させることにより、大豆蛋白素材に蛋白質架橋酵素が作用したゲル化物を予め調製しておくことが重要である。そして該ゲル化物が練製品においてそのマトリックス中に分散していることが重要である。ただし、マトリックス中において蛋白質架橋酵素が作用した部分が完全に0であることまで要するものではない。
【0024】
水の存在下における大豆蛋白素材と蛋白質架橋酵素との混合は、サイレントカッター、ステファンカッターやロボクープ等の攪拌機に、冷水ないし氷、粉末状大豆蛋白素材及び蛋白質架橋酵素を投入し攪拌するなどの方法で例えば行うことができる。なお、大豆蛋白素材に水を加えてから蛋白質架橋酵素を加えるよりも、予め蛋白質架橋酵素を水に溶解してから粉末状大豆蛋白素材と混ぜた方が作業性が良く好ましい。
【0025】
一方、蛋白質架橋酵素を添加せずに水と大豆蛋白素材を混合して得られる大豆蛋白ペーストや、さらに油脂を加えた大豆蛋白エマルジョンカードを肉類と混ぜて練生地とし、成形後加熱殺菌しても、一定以上の混合率を超えるとべたついた食感になってしまい、練製品らしい食感に仕上げることが困難となるため、大豆蛋白素材の配合量が制限されてしまう。また、蛋白質架橋酵素が添加されていない大豆蛋白素材を肉類と混合してから蛋白質架橋酵素を添加して練生地とし、成形、酵素反応し、加熱殺菌しても、均一なゲル食感になってしまい、これも練製品らしい食感に仕上げることが困難となる。
【0026】
大豆蛋白素材のゲル化物は、例えば大豆蛋白素材の乾燥重量に対して、好ましくは1重量倍以上9重量倍未満の水を加えて大豆蛋白素材及び蛋白質架橋酵素を混合し、次いで肉類と混合する前に該混合物を予め酵素反応(後述)させることによって得られる。
【0027】
(蛋白質架橋酵素による反応)
本発明において大豆蛋白素材に蛋白質架橋酵素を作用させる反応は、水の存在下において大豆蛋白素材に蛋白質架橋酵素を混合し、該混合物からゲル化物を調製する際に行う。
酵素反応工程における反応条件は、用いる蛋白質架橋酵素に適する反応条件(温度・時間・pHなど)を参考に適宜設定すればよい。例えば、反応温度を25〜65℃、好ましくは40〜62℃に混合物の温度を調整し、反応時間を10〜120分、好ましくは30〜60分、pHを6.5〜8.5に調整して反応させることができる。なお、酵素反応後に必要により50℃以上の温度で加熱処理を併せて行うことにより、酵素反応と酵素の失活、ゲル化物の殺菌を一連に行うことができる。また酵素反応の際の温度として加熱殺菌を兼ねたなるべく高い温度、例えば50〜65℃、好ましくは55〜65℃、さらに好ましくは58〜62℃に設定することにより、酵素反応と酵素の失活、殺菌の工程を同時に行うことも可能である。
【0028】
(カルシウム塩またはマグネシウム塩の添加)
本発明の大豆蛋白素材のゲル化物には、もう一つの必須原料としてカルシウム塩又はマグネシウム塩が添加され、含まれることが重要である。すなわち予め大豆蛋白素材のゲル化物を調製する際にこれらの塩を添加する。これによって該ゲル化物を撹拌機で肉類等と練り合わせ、練生地に調製する際に、該ゲル化物を細かい粒子に砕くことが容易となり、練生地中への粒子の分散を容易にすることができる。
カルシウム塩としては塩化カルシウム、硫酸カルシウム、乳酸カルシウム、リン酸カルシウム(第一〜第三)、グルコン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、炭酸カルシウム等が例示される。マグネシウム塩としては、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、グルコン酸マグネシウム等が例示されるが、これらの例示には限られるものではない。
カルシウム塩又はマグネシウム塩が該ゲル化物に添加されない場合、得られる該ゲル化物は粘弾性が高くたわみのある物性のものとなるため、練生地に調製する際に該ゲル化物が混練機の刃にかかりにくく破砕が困難となり、粗大な粒子が残り、練生地中に該ゲル化物が均一に細かい粒子で分散しにくくなる。そのため該ゲル化物は80℃以上の加熱によって粘弾性が低く破砕されやすい物性に変える工程が必要となり、製造工程が煩雑で時間を要する。カルシウム塩又はマグネシウム塩の添加量は大豆蛋白素材の乾燥重量に対して0.4〜5重量%が好ましい。
【0029】
(油脂の添加)
本発明における大豆蛋白素材のゲル化物には、副原料として油脂も添加しておくこともできる。すなわち予め該ゲル化物を調製する際に油脂を添加し、乳化させることにより、該混合物は、白濁による白さが付与され、練製品の設計次第では望ましい。油脂の添加量は大豆蛋白素材の乾燥重量に対して50〜100重量%が好ましい。
【0030】
(肉類)
本発明における肉類は、アクチンやミオシンなどのような塩溶性の蛋白質を有する肉類であればよく、例えば、牛、豚、鶏、羊などの鳥獣肉(畜肉)や、タラ、グチ、エソ、イカやホタテなどの魚介肉などを用いることができる。典型的には、皮や骨などの不要物を取り除き、必要に応じて水さらしし、ペースト状とし、冷凍等して加工したものが、種々の練製品の原料となる。練製品においてはこのペースト状の肉が他の原料を結着させる「つなぎ」の役目を果たし、練製品中のマトリックスを構成する。畜肉においてはミンチ、魚介肉においてはすり身などと称されている。魚肉を用いた水産練製品の場合、大豆蛋白素材を多く配合しても本発明による微細なヘテロ感を付与する効果がより奏しやすい。
【0031】
(副原料)
本発明における副原料は、例えば、油脂、澱粉、糖類、食塩・香辛料・アミノ酸等の調味料など、練製品に一般的に使用される副原料を使用することができる。
【0032】
(練生地の調製)
肉類を必要により副原料と共に、前記の大豆蛋白素材のゲル化物と混合し、攪拌機で練り合わせることによって該ゲル化物を細かく破砕し、該ゲル化物がマトリックス中に分散した練生地を得る。
具体的には、例えばサイレントカッターやステファンカッターなどの攪拌機で該ゲル化物を細かく破砕しながら、そこに肉類と副原料とを混合して練生地とすることができる。得られた練生地はそのマトリックス中に該ゲル化物が分散したものとなる。練製品中の該ゲル化物由来の粒の粒子径は1mm以下であるのが望ましい。大きすぎると肉粒感を感じ易く、視覚的にも違和感が生じ易い。粒子径の下限は練製品の微細なヘテロ感が損なわれない程度であればよく、0.1mm以上が好ましい。
なお、「粒子径」は、例えば練製品を約1mmの厚みにスライスし、その切断面を光学顕微鏡で観察し、大豆蛋白素材のゲル化物由来の粒の最大径を測定することで求めることができる。
【0033】
(練生地の成形)
上記により得られた練生地を製品の種類に適した所望の大きさ、形状に成形する。成形には一般に使用されている成形機を使用することができる。
【0034】
(成形後の練生地の加熱)
得られた成形後の練生地を加熱する。この工程によって練生地中の雑菌の死滅と酵素の活性が残存している場合のその失活を図ると共に、練生地を凝固させて練製品を得る。
加熱の条件は練製品で通常行われる条件であればよいが、通常は80〜200℃、30秒〜60分間の範囲で行うことができる。加熱装置も練製品の製造に一般に使用されている装置を使用することができ、蒸し機、レトルト殺菌機、フライヤー、焼成機等を使用することができる。
【0035】
従来のように、蛋白質架橋酵素が添加されていない大豆蛋白素材のゲル化物と肉類と副原料とを均一に混ぜてから、そこに蛋白質架橋酵素を混ぜて練生地とし、成形・酵素反応・加熱殺菌するのでは、得られる製品を練製品らしい食感に仕上げることは困難である。
一方、本発明のように、予め水の存在下において大豆蛋白素材に蛋白質架橋酵素とカルシウム塩もしくはマグネシウム塩を混合し、該混合物に酵素と塩を肉類よりも大豆蛋白素材に優先的に作用させる状態とすることで、練製品中の大豆蛋白素材の配合率が従来よりも高い領域であっても練製品らしい食感にすることが可能となる。またその場合、カルシウム塩やマグネシウム塩を使用することなく蛋白質架橋酵素を作用させたゲル化物と比較してゲルの物性に脆さが加わるため、サイレントカッターなどの混練機により、より均一で微細にせん断し、破砕することが可能になる。このことによっても外観にざらつきの無い、好ましい照りのある練り製品が得ることが可能となる。また破砕時に残った大粒のゲルが異物と見られることも避けられる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。単位の「%」や「部」は特段断りのない限り、「重量%」や「重量部」を意味するものとする。
【0037】
(実施例1)
縦型回転式混練機であるロボクープに分離大豆蛋白「ニューフジプロSE」(不二製油(株)製)100部、冷水430部、トランスグルタミナーゼ製剤「アクティバTGK」(味の素(株)製)0.3部を投入して3分間混練を行い、さらに塩化マグネシウム1部を投入して1分間混練を行った。その後真空脱気後、折径35mmの塩化ビニリデン製ケーシングに充填し、60℃で60分間蒸し加熱を行い、本加熱によって酵素反応、酵素の失活及び殺菌を同時に行い、冷却して分離大豆蛋白のゲル化物を得た。そして翌日にレオメーター「レオナー RE-33005」((株)山電製)でゲル物性の測定を行った(サンプル高25mm、進入速度1mm/秒、プランジャー球の径5mm)。また同時に官能による評価を行い、そのしなやかさと脆さを確認した。
なお、用いた分離大豆蛋白の粗蛋白質含量は乾燥重量あたり92重量%、NSIは90、0.22M TCA可溶率は30%未満であり、またこの分離大豆蛋白の12%水溶液を折径38mmの塩化ビニリデンケーシングに充填し、湯煎(80℃)にて30分間加熱した時に、ゲル状となるものであった。
【0038】
(試験例1)
実施例1の配合及び調製方法において、下記表1の配合の通り塩化マグネシウムを塩化カルシウムに置き換えた配合(配合例1)、塩化マグネシウムとトランスグルタミナーゼ製剤を添加しない配合(配合例2)、塩化マグネシウムを添加しない配合(配合例3)、塩化マグネシウムの添加量を分離大豆蛋白に対して0.2%、0.4%、0.6%、0.8%、1.2%及び1.4%に各々変化させた配合(配合例4〜9)について、それぞれゲル化物を調製した。得られたゲル化物のゲル物性についても実施例1と同様にして評価した。評価結果を合わせて表1に示した。
【0039】
(表1)

【0040】
トランスグルタミナーゼと塩化マグネシウムを添加しなかった配合例2のゲル化物は、しなやかな物性ではあるが、破砕するには柔らか過ぎて固さに欠けるもので不適あった。この傾向は塩化マグネシウムのみを添加した場合でも大きく変わらなかった。
これに対して、トランスグルタミナーゼのみ添加し、塩化マグネシウムを添加しなかった配合例3のゲル化物は非常に弾力があったが、しなやかすぎて脆さに欠けるため、破砕時に刃から逃げやすく、均一に破砕しにくくかった。塩化マグネシウムを分離大豆蛋白に対して0.2%添加した配合例4のゲル化物も同様であった。
分離大豆蛋白に対して塩化マグネシウムを0.4%添加した配合例5はやや脆さが感じられ、0.6〜0.8%添加した配合例6、7では明確な脆さが感じられた。また1%以上添加した実施例1及び配合例8,9では固脆さが明確に確認でき、カルシウム塩で置換した配合例1も実施例1と同様の結果であった。以上より、蛋白質架橋酵素とマグネシウム塩もしくはカルシウム塩を併用すれば、固いゲルでありながら剪断力に脆い大豆蛋白ゲル化物が得られることが示された。
【0041】
(試験例2)
次に、実施例1及び試験例1で調製した分離大豆蛋白のゲル化物を用いて、下記表2の配合と下記調製方法にて魚肉のすり身と混練し、練り生地をそれぞれ調製し、各生地におけるゲル化物の破砕状態を観察した。さらに各練り生地を用い、下記調製方法にて揚げ蒲鉾を調製し、それらの外皮のざらつきの有無及び照りの有無、並びに食感について比較評価した。品質の総合的な評価については、各試験例の相対評価として「非常に良好」を◎、「良好」を○、「許容できる」を△、「悪い」を×とした。評価結果を表3に示した。
【0042】
(表2)

【0043】
・練り生地の調製方法
サイレントカッター(3枚刃、1400rpm)に凍結したスケソウ陸上2級すり身を約−3℃程度まで解凍したものと各分離大豆蛋白ゲル化物を投入し粗擂りを行った。サイレントカッター内のすり身の温度が氷点下から2℃に上昇した時点で食塩を投入し、3分間塩擂りを行った。次いで糖類として砂糖とグルコース、調味料としてMSG(グルタミン酸ナトリウム)を投入して2分間本擂りを行った。その後、馬鈴薯澱粉と水(延ばし水)を投入し、練り生地を調製した。
【0044】
・揚げ蒲鉾の調製方法
各練り生地を重量60g、厚さ7mmの円盤状に成型し、150℃で1分間フライした後、さらに170℃で1分20秒フライして揚げ蒲鉾を得た。各生地から揚げ蒲鉾を調製した。
【0045】
(表3)

【0046】
表3の通り、分離大豆蛋白に対して塩化マグネシウム又は塩化カルシウムを0.6%以上添加した実施例1や配合例6〜9は、内層のマトリックス中に分離大豆蛋白のゲル化物に由来する細かい粒子が均一に分散しており、粗大な粒子は確認できなかった。この粒を本文記載の方法に準じて光学顕微鏡で確認し、その粒子径を測定したところ、約0.4〜1mm程度の細かいものであった。また分離大豆蛋白を多量に含むにもかかわらず、外皮の状態は自然で照りもあり、食感も非常に良好な揚げ蒲鉾となっていた。また製造工程についてもゲル化物の調製において1回の加熱のみで酵素反応、酵素失活及び加熱殺菌を兼ねており、非常に効率的な製造が可能であった。
【0047】
トランスグルタミナーゼも塩化マグネシウムも無添加のゲル化物(配合例2)から得た揚げ蒲鉾は、その内層のマトリックス中にゲル化物の粒子を確認することができなかった。おそらくゲルが柔らかいため潰れてしまい、生地に均一に練り込まれた状態になってしまったものと考えられる。そのためか食感も柔らかく、外観も火膨れが多くなった。これは分離大豆蛋白を通常の大豆蛋白ペーストの状態で添加する方法で大量に添加したときに得られる、典型的な状態の揚げ蒲鉾であり、揚げ蒲鉾としても好ましいものではなかった。
【0048】
トランスグルタミナーゼのみ添加し塩化マグネシウムを添加しなかった配合例3のゲル化物から得た揚げ蒲鉾は、食感が練製品らしい硬さと微細なヘテロ感があり非常に良好であったものの、揚げ蒲鉾の内層のマトリックス中に大小のゲル化物の粒子が確認でき、不均一な分散状態となっていた。このためか揚げ蒲鉾の表面はざらついており照りがなかった。そのため自然な外観を有し照りもある実施例1の揚げ蒲鉾の方が総合的に優れていた。分離大豆蛋白に対して塩化マグネシウムを0.2%添加した配合例4から得た揚げ蒲鉾も配合例3と同様の結果であった。配合例3のゲル化物は物性がしなやかでたわみが強いため、これを別途90℃で30分間加熱したところ、物性に脆さが出て練り生地への分散性が増した。しかしながら、加熱工程を別途に追加しなければならず工程が煩雑となる点が実施例1と比べ不利であった。
【0049】
分離大豆蛋白に対して塩化マグネシウムを0.4%添加した配合例5から得た揚げ蒲鉾は、わずかに2mm程度の大粒のカード粒子が確認できるが、大半は1mm以下に均一に分散しており、外観は自然で照りもあり、食感も良好であった。
【0050】
上記のように、蛋白質架橋酵素とカルシウム塩もしくはマグネシウム塩を併用することにより、均一に細かく破砕できる大豆蛋白素材のゲル化物を調製することができ、これによって大豆蛋白素材のゲル化物が練製品のマトリックス中に容易に均一に細かく分散することが可能であり、これを大量添加しても本来の食感を備えた練製品を調製することができた。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明により、一般的な練製品の食感を損なわずに大豆蛋白素材の配合率を高め得た練製品を提供することが可能となる。特に以下の利用可能性が挙げられる。
(1)魚や肉などの比較的高値の動物性蛋白原料の安定的な確保に関するリスク対策の一環として、世界的に重要で安定的な供給が見込める蛋白資源である大豆を多く使用した練製品を安定的に提供できる。
(2)従来から嗜好されてきた「練製品らしい食感」を損なうことなく、食の嗜好の保守性にも対応した練製品を違和感なく提供できる。
(3)従来よりも経済面(安定供給・コストなど)や栄養面(蛋白栄養・健康志向など)などに優れた練製品を幅広く提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
肉類、及び大豆蛋白素材を含む練製品であって、
該大豆蛋白素材のゲル化物が練製品のマトリックス中に分散しており、
該大豆蛋白素材のゲル化物は、大豆蛋白素材に蛋白質架橋酵素が作用したものであって、かつ、カルシウム塩又はマグネシウム塩を含有するものである
ことを特徴とする練製品。
【請求項2】
肉類が魚肉である請求項1記載の練製品。
【請求項3】
大豆蛋白素材の含有量が肉類に対して10〜25重量%である、請求項1記載の練製品。
【請求項4】
該練製品のマトリックス中に分散しているゲル化物の粒の平均粒子径が、1mm以下である、請求項1記載の練製品。
【請求項5】
肉類及び大豆蛋白素材を含む練製品であって、
予め水の存在下において大豆蛋白素材に蛋白質架橋酵素とカルシウム塩もしくはマグネシウム塩を混合し、該混合物を酵素反応させ、大豆蛋白素材のゲル化物を得る工程、
該ゲル化物と肉類を混合することによってマトリックス中に該ゲル化物が分散した練生地を得る工程、
を含むことを特徴とする練製品の生地の製造法。
【請求項6】
該混合物を加熱することによって、蛋白質架橋酵素の反応と殺菌とが同時に行われる、請求項5記載の練製品の製造法。
【請求項7】
該混合物を加熱する温度が50〜65℃である、請求項6記載の練製品の製造法。
【請求項8】
請求項5記載の生地を成形し加熱し凝固させて得られる、練製品の製造法。

【公開番号】特開2012−105571(P2012−105571A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256213(P2010−256213)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【出願人】(000236768)不二製油株式会社 (386)
【Fターム(参考)】