説明

縦型炉装置

【課題】フランジ部とフロアとの間に水分等の凝縮液体が残留することを防止でき、Oリング及び周辺部品の腐食や作業環境の悪化を防止できるようにする。
【解決手段】縦型炉装置10は、プロセスチューブ1及びフロア4を備えている。フロア4の上面におけるプロセスチューブ1の内周面の下端部が位置する部分を含む範囲内に、全周にわたってすり鉢状の第1の凹部41を形成した。フロア4の上面で第1のフランジ部11の底面と当接する部分における第1の凹部41の外側には、全周にわたって第2の凹部42を形成した。第2の凹部42には、円周方向における複数の位置のそれぞれに、プロセスチューブ1の外部の気体源45からに導入用パイプ45及び連通孔43を経由してNガス等の不活性ガスを導入する。結露によって生じた水分等の凝縮液体を第1の凹部41内の中心側に導き、蒸発させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数枚のシリコン基板やガラス基板を、鉛直方向に沿って多段に配置して熱処理を行う縦型炉装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の製造工程には、シリコン基板やガラス基板等の基板を高温で加熱する熱処理が含まれる。基板に対して熱処理を施す装置として、複数枚の基板を鉛直方向に沿って多段に配置して収納する縦型炉装置が用いられる。縦型炉装置は、所定の処理雰囲気中で複数枚の基板を収納するプロセスチューブを備えている。
【0003】
プロセスチューブは、底面が開放した筒状を呈しており、底面から内部に複数枚の基板が搬入出される。熱処理中にはプロセスチューブの底面は、フロアによって閉塞されている。フロアは、プロセスチューブの下方で昇降自在に設けられており、上面に設置されたボートに複数枚の基板が載置される。
【0004】
プロセスチューブの下端面には、フロアの上面との接触面積を拡大してフロアによるプロセスチューブ内の密閉性を保つべく、全周にわたってフランジ部が形成されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2007−299795号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、プロセスチューブの下端部は、周辺機器の劣化や作業環境の高温化を防止するため、熱処理中に冷却される。このため、例えば、パイロジェニック酸化処理のように、水蒸気などの低温で凝集する成分を含む気体を用いる熱処理にあっては、熱処理中にプロセスチューブ内に導入された気体は、プロセスチューブの下端部の内周面及びフロアの上面に結露する。例えば、水蒸気酸化処理を行う従来の縦型炉装置では、フランジ部とフロアとの間に水分が残留し、後の処理でプロセスチューブ内に反応性ガスが導入されると、残留した水分に溶解し、或いは直接凝集して腐食性の水溶液が形成される場合がある。この結果、Oリングや周辺の金属部品が腐食する問題、更には作業環境を悪化させる問題がある。
【0006】
この発明の目的は、プロセスチューブの下端部に結露によって生じた水分等の凝縮液体をフロアの中心部に移動させて再度蒸発させることにより、フランジ部とフロアとの間に水分等の凝縮液体が残留することを防止でき、周辺部品の腐食や作業環境の悪化を防止できる縦型炉装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る縦型炉装置は、プロセスチューブとフロアとを備えている。プロセスチューブは、下端面が開放し、下端面の周囲にフランジ部を備えた筒状を呈している。フロアは、プロセスチューブの下端面を開閉するようにプロセスチューブの下方に昇降自在に配置され、第1の凹部が形成されている。第1の凹部は、フロアの上面におけるプロセスチューブの内面の位置に一致する部分を含む範囲内に形成され、プロセスチューブの中心側に向かって下方に傾斜した傾斜面を有する。
【0008】
この構成では、プロセスチューブの下端部の内側面に結露によって生じた水分等の凝縮液体は、重力によってフロア上の第1の凹部内に落下し、傾斜面に沿ってプロセスチューブの中心側に向かって移動する。フロアの上面の温度は、プロセスチューブの中心側ほど高温であるため、第1の凹部内に落下した水分等の凝縮液体はプロセスチューブの中心側で蒸発する。このため、水分等の凝縮液体がフランジ部とフロアとの間に残留することがない。
【0009】
この構成において、第1の凹部をフロアの上面におけるフランジ部の底面の内側部分の位置を含む範囲内に形成してもよい。フランジ部の底面とフロアの上面との接触面積が減少し、フランジ部とフロアとの間の水分等の凝縮液体の残留をより確実に防止できる。
【0010】
また、フロア上面でフランジ部の底面が位置する範囲内であって第1の凹部の外側の範囲内に位置する第2の凹部、及び第2の凹部からプロセスチューブの外部に連通する連通孔を設け、連通孔を経由して前記第2の凹部内に不活性ガスを導入する導入手段を設けても良い。第1の凹部の外側から不活性ガスを導入することでフランジ部とフロアとの間に結露によって生じた水分等の凝縮液体を確実に第1の凹部に移動させることができる。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、プロセスチューブの下端部に結露によって生じた水分等の凝縮液体をフロアの中心部に移動させて再度蒸発させることにより、フランジ部とフロアとの間に水分等の凝縮液体が残留することを防止でき、周辺機器の腐食や作業環境の悪化を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は、この発明の実施形態に係る縦型炉装置の概略の断面図である。縦型炉装置10は、プロセスチューブ1、ヒータ2、ライナー管3、フロア4、支持体5を備えている。縦型炉装置10の下方には、基板の搬入出部が形成されている。
【0013】
プロセスチューブ1は、例えば、石英を素材として底面が開放した円筒形状を呈する。プロセスチューブ1の外周面には、下端部に第1のフランジ部11が形成されており、上下方向の下部に第2のフランジ部12が形成されている。プロセスチューブ1の内部には、底面の炉口から複数枚の基板を鉛直方向に沿って多段に配置したボートが搬入出される。
【0014】
プロセスチューブ1の下方には、基板を搭載したボートの搬入出のための搬送装置が設置される。第1のフランジ部11は、搬送装置の故障や基板の搬入出作業の作業環境の悪化を防止すべく、プロセスチューブ1の下端部を低温化するために、冷却水によって冷却される。
【0015】
ヒータ2は、プロセスチューブ1の下端部を除く周囲を間隙を設けて包囲する。したがって、ヒータ2も底面が開放した円筒形状を呈する。ヒータ2は、プロセスチューブ1の内部温度が所定の処理温度となるように駆動される。
【0016】
ライナー管3は、プロセスチューブ1とヒータ2との間に配置されている。したがって、ライナー管3も底面が開放した円筒形状を呈する。ライナー管3は、ヒータ2からの熱がプロセスチューブ1の下端部を除く部分の外表面に均一に作用させる。
【0017】
フロア4は、プロセスチューブ1の下方で昇降自在に配置されている。フロア4が最下部に下降している状態で、フロア4の上面に基板がボートを介して載置される。フロア4が最上部に上昇した状態で、フロア4の上面に第1のフランジ部11の底面が当接する。
【0018】
第1のフランジ部11の底面における外周部近傍とフロア4の上面との間には、Oリング13が配置される。Oリング13は、フロア4が最上部に位置している状態で、プロセスチューブ1内の気密性を保つ。Oリング13が第1のフランジ部11の外周部近傍に配置されているのは、弾性体を素材とするOリング13をできるだけ低温部に配置してOリング13の劣化を防止するためである。
【0019】
支持体5は、プロセスチューブ1、ヒータ2、ライナー管3を支持する。支持体5には、孔部51が形成されている。孔部51には、プロセスチューブ1が下方から貫通する。支持体5は、上面においてヒータ2の下端部及びライナー管3の下端部を支持する。支持体5は、底面においてプロセスチューブ1の第2のフランジ部12を支持する。
【0020】
図2は、上記縦型炉装置の炉口廻りの断面図である。また、図3は、フロア4の平面図である。フロア4の上面におけるプロセスチューブ1の内周面の下端部が位置する部分を含む範囲内には、全周にわたって第1の凹部41が形成されている。第1の凹部41は、プロセスチューブ1の中心側に向かって下降する傾斜面を備え、すり鉢状を呈している。
【0021】
プロセスチューブ1の半径方向について、第1の凹部41の外側端は、第1のフランジ部11の底面の中間部に位置している。したがって、第1のフランジ部11の底面は、外縁部の近傍の一部でのみフロア4の上面と当接している。
【0022】
フロア4の上面で第1のフランジ部11の底面と当接する部分における第1の凹部41の外側には、全周にわたって第2の凹部42が形成されている。フロア4における第2の凹部42の円周方向における複数の位置のそれぞれには、連通孔43が形成されている。連通孔43は、第2の凹部42をプロセスチューブ1の外部に連通しており、導入用パイプ44を介して気体源45に接続されている。気体源45は、導入用パイプ44及び連通孔43を経由して、第2の凹部42内にNガス等の不活性ガスを導入する。
【0023】
フロア4の上面の外縁部には、段部46が形成されている。段部46には、Oリング13が収納される。
【0024】
縦型炉装置10における熱処理の一例として、水素ガスと酸素ガスとの燃焼ガスをプロセスチューブ1内に導入して水蒸気雰囲気中で基板の表面に酸化膜を形成した後、引き続き亜酸化窒素ガス(NO)をプロセスチューブ1内に導入する水蒸気酸化処理がある。水蒸気酸化処理では、プロセスチューブ1の下端部の内周面に結露によって水が付着する。
【0025】
プロセスチューブ1の下端部の内周面に付着した水は、重力によって第1の凹部41内に落下した後に傾斜面に沿ってプロセスチューブ1の中心側に向かって移動する。第1の凹部41が形成されているフロア4の上面において、プロセスチューブ1の中心側は、第2のフランジ部12に近接した半径方向の外側に比較して温度が高い。このため、第1の凹部41内のプロセスチューブ1の中心側に移動した水は蒸発し、フロア4上に残留することがない。
【0026】
また、第1の凹部41の半径方向の外側端は、第1のフランジ部11の中間部に位置しており、フロア4の上面と第1のフランジ部11との接触面積が減少している。このため、結露によって生じた水がフロア4の上面と第1のフランジ部11との接触範囲に残留し難くなる。
【0027】
さらに、半径方向における第1の凹部41の外側に配置されている第2の凹部42には、プロセスチューブ1の外部から不活性ガスが導入される。このため、熱処理中に水蒸気が、フロア4の上面と第1のフランジ部11との間で、第2の凹部42を超えて半径方向の外側に流入することがなく、この部分に結露を生じることがない。また、フロア4の上面と第1のフランジ部11との間の第2の凹部42よりも内側に結露を生じたとしても、この部分に付着した水は第2の凹部42からプロセスチューブ1内に向かう不活性ガスによって第1の凹部41内に導かれる。
【0028】
これらによって、結露によって生じた水がフロア4の上面と第1のフランジ部11との接触範囲に残留することをより確実に防止できる。
【0029】
したがって、亜酸化窒素ガス等の反応性ガスをプロセスチューブ1内に導入しても、強酸性又は強アルカリ性の水溶液が形成されることはなく、プロセスチューブ1のOリング13や下端部周辺の金属部品を腐食させることがない。
【0030】
なお、上記の実施形態では一例として水蒸気酸化処理について説明したが、本発明は水蒸気酸化処理以外の低温で凝集する成分を含む気体を用いる熱処理においても同様の効果を奏するものである。
【0031】
上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施形態に係る縦型炉装置の概略を示す断面図である。
【図2】同縦型炉装置の炉口廻りの断面図である。
【図3】同縦型炉装置に備えられるフロアの平面図である。
【符号の説明】
【0033】
1−プロセスチューブ
2−ヒータ
3−ライナー管
4−フロア
5−支持体
10−縦型炉装置
11−第1のフランジ部
12−第2のフランジ部
41−第1の凹部
42−第2の凹部
43−連通孔
44−導入用パイプ
45−気体源
46−段部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下端面が開放し、下端面の周囲にフランジ部を備えた筒状のプロセスチューブと、
前記プロセスチューブの下端面を開閉するように前記プロセスチューブの下方に昇降自在に配置されたフロアと、を備え、
前記フロアは、上面における前記プロセスチューブの内面の位置に一致する部分を含む範囲内に、前記プロセスチューブの中心側に向かって下方に傾斜した傾斜面を有する第1の凹部を設けた縦型炉装置。
【請求項2】
前記フロアは、上面における前記フランジ部の底面の内側部分の位置を含む範囲内に、前記第1の凹部を設けた請求項1に記載の縦型炉装置。
【請求項3】
前記フロアは、上面における前記フランジ部の底面が位置する範囲内であって前記第1の凹部の外側の範囲内に位置する第2の凹部、及び前記第2の凹部から前記プロセスチューブの外部に連通する連通孔を備え、
前記連通孔を経由して前記第2の凹部内に不活性ガスを導入する導入手段をさらに備えた請求項1又は2に記載の縦型炉装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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