説明

縦続接続エタロンを使用した連続的に同調可能な光学分散補償合成装置

【課題】調整中、制御されなくて予測できないTDCの分散によって増加する信号ひずみを誘起することなく、所望の範囲にわたって連続的な熱光学調整を可能にする多段式縦続接続エタロンTDC装置の個々のステージを設計する方法を提供する。
【解決手段】少なくとも2つのエタロンステージを含む多段式エタロンの同調可能な分散装置(TDC)を調整する本願発明は、第1の温度で各エタロンステージの温度を制御し、次いで、少なくともいくつかのステージの温度を第2の温度に変化させて、前記装置の分散を第1の分散値から第2の分散値に変化させる。ここで、各温度の変化は単調である。さらに、少なくとも3つのエタロンステージを含む多段式エタロンの同調可能な分散補償装置(TDC)を製造する本願発明は、1つまたは複数の自由スペクトル領域にわたり、波長および温度の関数として、測定した群遅延または位相によって各エタロンステージを特徴付け、そしてその結果得られたデータと一連の対象分散値を相互に関連付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、光学分散補償である。より詳しくは、同調可能な光学分散補償合成装置を製作するために縦続接続エタロンを設計する方法、およびそれらを調整する方法を対象とする。
【背景技術】
【0002】
光学システムが、40Gbsなどのより高い伝送速度に移行するので、波長分散を補償し、システムの残留波長分散を最適化して伝送ペナルティを最小にする必要がある。残留分散は、ファイバ工場と標準的な光伝送システム中に使用される固定式分散補償器の分散間の整合が不完全であることによる所産である。この問題を解決するために、現在の固定式分散補償装置を置き換える、および/または補うための同調可能な分散補償装置の開発に向けて、かなりの努力がなされてきた。さらに、光伝送システムは、より柔軟で再構成可能なシステム・アーキテクチャへ発展しているので、再構成によるノード距離の変化としての波長分散、または温度変化の結果としての波長分散を動的に補償する必要がある。
【0003】
40Gbpsなどの高伝送ビットレートにおける波長分散による伝送ペナルティを最小にするため、閉ループの調整方法が通常使用される。閉ループの方法では、制御器へのフィードバック信号がシステム・ペナルティと関連付けられ、制御される調整装置が同調可能な分散補償器(tunable dispersion compensator:TDC)である。閉ループ・システム中の分散調整には、その装置が、全部の分散範囲にわたって、すべてのネットワークのチャネル間全部で連続的に分散および分散勾配をともに調整することが必要である。利用できるTDCでは、分散が1つの値から他の値にと調整されるので、信号は、所望の状態になる前に、TDCが制御しない分散による、予測できない信号ひずみの期間中に通過する恐れがある。現在、エタロン・ベースの分散補償装置について、分散の設定点間における追加の信号ひずみのこれらの期間の回避を保証する解決策は、知られていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
同調可能な分散の補償を行う、いくつかの知られたアプローチがある。エタロン(Etalon)、ファイバ・ブラッグ・グレーティング(Fiber−Bragg Gratings:FBG)、アレイ導波路回折格子(Arrayed Waveguide Gratings:AWG)、バーチャル・イメージ・フェーズ・アレイ(Virtual Imaged Phased Array:VIPA)、マッハ・ゼンダ干渉計(Mach−Zehnder Interferometers:MZI)、および平面光波回路(Planar Lightwave Circuits:PLC)などの技術がある。これらの技術のいずれもが、満足な連続的分散の調整および/または連続的な分散勾配の調整を行ったことがない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
所望の分散値設定点間で信号ひずみが増加する期間を生じることなく、所望の範囲全体で連続的な熱光学の調整を行う方法を可能にするために、多段の縦続接続エタロンのTDC装置の個々のステージを設計する方法を開発した。これによって、調整中、品質障害の増加する、またはダーク・スポットの期間中、通過することなしに、信号の補償が可能になる。この方法には、全組立て後、温度などの制御パラメータの関数としてスペクトル群遅延プロフィールを得るために、各エタロン・ステージを特徴付ける事前の知識が含まれる。これは、許容される製造公差による性能のばらつきを明らかにするためのモデル化または特徴付けによって、達成することができる。次いで、群遅延プロフィールを、エタロン構造設計に基づく予想される理論的な群遅延プロフィールに適合(fit)する。最良の適合(best fit)を得るために変更する標準のパラメータは、表面反射率、キャビティ自由スペクトル領域(Free spectral range:FSR)、および群遅延測定値中の不確実さを説明するため、群遅延のオフセットおよび勾配項である。個々のステージの、その結果得られた理論的なエタロンの群遅延プロフィールは、対象分散通過域(チャネル幅)および波長範囲(一式のチャネル)全体で、対象分散および任意選択で分散勾配を最良に合成するエタロン位置(温度)を特定するための一連のソルバ・アルゴリズム(solver algorithms)中に使用される。
【0006】
本発明は、図面とともに検討したとき、さらに良く理解することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の設計方法は、すべての適切なエタロン構造を対象とする。好ましい実施形態は、ファブリ・ペロー(Fabry−Perot:FP)エタロン、Gires−Tournois(GT)エタロン、およびその組み合わせである。以下の説明は、少なくとも1つのFPエタロンを含む、エタロンおよびエタロンの組み合わせに主に焦点を合わせているが、本発明がそのようには限定されないことを理解すべきである。
【0008】
ファブリ・ペロー・エタロンは、通常2つの反射面を有する透明なプレートから作られる。代替の設計は、その間にギャップがあり、2つの反射面を形成する任意の対のプレート面を有する、1対の透明なプレートから構成することである。ファブリ・ペロー・エタロンの透過スペクトルは、波長の関数としてエタロンの共振に対応する大きな透過のピークを示す。図1を参照すると、光がエタロンに入射し、複数の内部反射を受ける。透過機能は、2つの反射面間での光の複数の反射間の干渉によって、変化させられる。透過ビームが同相である場合、干渉は、プラスに発生し、これは、エタロンの高透過のピークに対応する。透過ビームの位相が一致しない場合、干渉は、マイナスに発生し、これは、透過の最小値に対応する。複数回反射されるビームが同相であるか、そうでないかは、光の波長(λ)、光がエタロンを通過する角度(θ)、エタロンの厚さ(l)、および反射面間にある材料の屈折率(n)に依存する。
【0009】
各透過ビーム間の光路長の差(2nlcosθ)が、波長の整数倍数であるとき、最大の透過(T=1)が起きる。吸収がない場合、エタロンの反射率Rは、T+R=1となる透過率の補数であり、光路長の差が波長の奇数倍数の半分に等しいとき、これが起きる。
【0010】
装置の品位は、エタロンの表面(複数の表面)の反射率を変更することによって、調整することができる。エタロンの品位(finesse)は、

F=(π(R1/4)/(1−(R1/2

によってエタロンの反射率に関連付けられる。ただし、Fは、品位であり、R、Rは、エタロンの面1および面2の反射率である。
【0011】
GTエタロンは、基本的に1つの表面の反射率が高いFPエタロンである。
【0012】
隣接する透過のピーク間の波長分離が、エタロンの自由スペクトル領域(FSR)Δλであり、次式で与えられる。

Δλ=λ/2nlcosΘτ

ただし、λは、もっとも近い透過のピークの中心波長である。FSRは、エタロンの品位によって半値全幅に関連付けられる。高い品位を有するエタロンは、より低い最低透過係数を有し、より鋭い透過のピークを示す。
【0013】
エタロンのFSRは、温度に敏感に反応する、というのは、エタロンの光路長またはエタロン内の屈折率が通常温度に敏感であるからである。この温度感受性は、通常不要であり、制御した場合、エタロンを組み込んだ装置を調整するのに役立つように使用することができる。TDCでは、装置の分散は、エタロンの温度を変化させることによって変化させることができる。1つのエタロンの装置を有するTDCでは、この調整方法は、比較的単純であり得る。しかし、調整範囲および分散勾配能力は、限られる。
【0014】
調整範囲を拡大し、分散勾配を向上するため、多段のステージが使用される。原則として、多段のキャビティ・エタロンは、基本的にいくつかのエタロン・プレートが光学的に互いに結合され、分散の調整範囲または勾配を増加するために使用することができるはずである。しかし、実際には、それらのエタロンは、同じ群遅延プロフィールを有してはいない。それは、TDCが有効であるためには、各ステージの温度などの制御パラメータを独立に制御すべきであることを意味する。また、それは、各ステージを他のステージと物理的に分離し、各ステージ中のエタロン(複数のエタロン)の温度を独立に制御することが可能なように、十分に隔てるべきであることを意味する。
【0015】
上記に述べたように、1ステージによって所望の調整結果を得ることは、単純であるが、1ステージのTDCは、関心が限られる。しかし、より広く実用的なTDCを得るためにステージを増加すると、問題が急速により複雑になる。1または2つのステージのTDC中の調整パラメータは、実験に基づく方法を使用して関連付けることができる。しかし、3以上のステージを有するTDCにおいて実用的な補償の調整を行うには、新しい設計アプローチが必要である。
【0016】
図2に、3つのステージ21、22、23を有するTDC装置を示す。3つのステージは、図に示すようにステージを直列に接続する手段(図示せず)によって、光学的に結合される。3つのステージのそれぞれは、エタロン24、25、26を含み、それぞれが個別の温度制御27、28、29を備える。装置中の2つのステージが、本明細書に説明する方法に必要な実用的最小限度である。しかし、ほとんどの用途には、少なくとも3つのステージが使用されることになると予想される。もっと、もっと多くのステージを有するTDC装置の設計が、これらの方法の目標である。TDC装置が、少なくとも50ピコ秒(ps)/ナノメートル(nm)、好ましくは少なくとも200ps/nmの範囲の全面にわたって同調可能であることが望ましい。この結果を得るためには、ステージ数が、従来のエタロンを使用すると、通常5を超えることになるはずである。12、14または16ステージを使用する、調整範囲がさらに広いエタロンを設計した。
【0017】
本明細書で第一に関心がある設計方法は、通常1.55ミクロンでまたはその近傍で動作する、光伝送システム用である。これは、エタロンに使用される材料が1.55ミクロンの周りに透明窓を有すべきであることを意味する。しかし、設計方法は、他の波長形態にも同様に有効である。多くのシステム用途に所望の波長範囲は、1.525〜1.570ミクロンである。その範囲は、本発明の方法を明示するために使用する。
【0018】
エタロンの構造は、基本的に従来のものであり、それぞれが、平行な境界を有する透明プレートを含む。様々な材料を使用することができ、その選択は、いま示した通り、信号波長にある程度依存する。エタロンの光学特性は、少なくとも2つのパラメータによって温度とともに変化する。温度による屈折率の変動は、通常、熱光学効果と言われ、dn/dtとして表され、それは、光インターフェース間の光路長、そして熱膨張係数(CET)を変化させ、それが、光インターフェース間の物理的間隔を変化させる。標準のエタロン装置設計では、装置の温度変化に対する光感度が最小にされる。低dn/dtおよび/または低CTEを有する材料を選択することができる。dn/dtおよびCTEが符号で反対であり、補償する材料を選択することもできる。エタロンの通常の材料は、石英ガラス、五酸化タンタルまたは五酸化ニオブである。半導体材料またはガラスを使用することもできる。
【0019】
本発明の設計方法は、大量のエタロン基板材料として、シリコンに基づくことが好ましい。シリコンは、大きな熱光学係数を有し、したがってほとんどの光学装置には、使用禁止とされている。しかし、アモルファス・シリコン、ポリシリコン、および好ましくは単結晶シリコンが本明細書に記載の方法に推奨される、というのは、大きな熱光学係数が望ましいからである。単結晶シリコンの熱光学係数は、エタロンを調整するために使用される温度範囲にわたって約1.9〜2.4×10−4/度Kである。
【0020】
図3に、本発明の方法が特に適切に適用されるTDC装置の実施形態を示す。この実施形態では、対のキャビティ・エタロンが各ステージで使用される。加熱要素(図示せず)が、図2で示唆されたように、エタロン2に隣接する。対のキャビティ・エタロンの好ましい形は、FP/GTエタロンの組み合わせである。対のキャビティ・エタロンのFPキャビティでは、両面の反射率<<100%であり、一方、対のキャビティ・エタロンのGTキャビティでは、エタロンの1面の反射率<<100%であり、他面の反射率がほとんど100%である。図3に、エタロン1としてファブリ・ペロー・キャビティ、およびエタロン2としてGTキャビティを示す。対のキャビティについて該当するパラメータは、ファブリ・ペロー・エタロンの厚さT1、GTエタロンの厚さT2、ファブリ・ペロー・エタロンの入力インターフェースの反射率P1、GTエタロンの背面(高反射率面)の反射率P3、および2つのキャビティ間で共用されるインターフェースの反射率P2である。面P1は、低反射率面であり、面P2は、中位の反射率面であり、面P3は、高反射率面である。一般に、面P1の反射率は、0〜25%の範囲にわたり異なることがあり、面P2の反射率は、35〜80%の範囲にわたり異なることがあり、面P3の反射率は、98〜100%、好ましくは99.5〜100%の範囲にわたり異なることがある。
【0021】
エタロンの通常の寸法は、1.8mmの正方形であり、光学窓が約1.5mmの正方形である。厚さT1、T2は、通常約0.8mmである。
【0022】
図3に示す対のキャビティの使用によって、調整メカニズムの複雑さが減少し、さらに調整範囲の増加が可能になる。本発明の方法には、スペクトル群遅延プロフィールの点から見て、あたかも対のキャビティ・エタロンが1つのキャビティ・エタロンであるかのように、モデル化および/または特徴付けによる各対のキャビティ・ステージの事前の知識が必要である。しかし、対のキャビティ・エタロンでは、あたかもそれが2つのステージであるかのように、分散調整範囲が拡張される。図3の実施形態は、装置の調整の複雑さを減少するための対のキャビティ・エタロンを表し、3つ以上のキャビティを同じ目的で光学的に互いに結合することができる。
【0023】
本明細書に説明される調整方法が、かなりの範囲T2〜T1にわたって、エタロン・ステージの温度などの制御パラメータを変化させることを利用していることが当業者に明白になるはずである。温度変化を生じるために必要な、固有の不可避な時間遅延D=t2−t1が存在する。この固有の遅延Dは、数秒になることがある。これらの装置のユーザにとって、その時間遅延中に何が起こるかが重要である。熱的に調整されるTDC装置に関してほとんどの場合、およびTDC装置に複雑な多段ステージの熱光学的調整が行われるすべての場合、信号は、TDCの制御されない分散による予測できないひずみの1つまたは複数の期間を経験することになる。装置を調整するとき、信号が一瞬過度のひずみを受けることは、まれではない。以下で詳細に説明する設計方法は、調整中の信号中に予測できないひずみがある期間を回避する能力を有する。それは、連続調整という要求がより厳しい目標も有する。連続的な分散調整とは、分散が時間t2における最終的な分散値に達するまで、時間t1における信号が、遅延期間を通じて予測可能で単調な、分散の変化を受けるということを意味する。
【0024】
本発明の設計方法には、温度などの制御パラメータの関数としてスペクトル群遅延プロフィールを求める、全部の組立て後の1つまたは複数の特徴付けのステップによって得ることができる、各ステージの群遅延についての知識が必要である。特徴付けを使用することによって、許容された製造公差による性能のばらつきを明らかにする。次いで、群遅延プロフィールは、結合干渉計の平面波行列モデルに基づき、予想される理論的な群遅延プロフィールに適合(fit)される。最良適合(best fit)を得るために変更される通常のパラメータは、面1および2の反射率、キャビティ1および2の自由スペクトル領域(FSR)、および群遅延測定値中の不確実さを明らかにするため、群遅延のオフセットおよび勾配項である。個々のステージの得られた理論的なエタロンの群遅延プロフィールは、対象の分散通過域(チャネル幅)および波長範囲(一式のチャネル)にわたって対象の分散および分散勾配を最良に合成するエタロン位置(温度)を特定する一連のソルバ・アルゴリズム(solver algorithms)中に使用される。ソルバ・アルゴリズム中の制約には、エタロン温度範囲、および分散範囲にわたって重要な不連続を避けるための要件が含まれる。ソルバは、「粗い」分散増分(たとえば、10〜200ps/nm)で不連続解を見つけて、開始点として前回の解を使用して温度対分散の完全なエタロンのマッピングを生成するように、対象の分散の範囲にわたってこのプロセスを繰り返す。次いで、このマッピングは、規定された範囲内の所望の分散についてエタロン温度を設定するために、内蔵コントロールが使用する。エタロン温度を求めるために、「粗い」分散増分(たとえば、10〜200ps/nm)によって得られた不連続解を使用して、制御器が、その「粗い」位置を補間することによって、任意の「細かい」分散増分(<1ps/nm)を設定することができるように、ソルバ・アルゴリズムの一部として使用される制約によってマッピングがもたらされる。これは、分散の規定された範囲中の分散設定点にわたって連続的に分散精度および群遅延リップル性能を満たす装置をもたらすことになる。
【0025】
図4〜7に、本発明の方法によってTDC合成装置を設計するために使用される標準のパラメータを示す。以下にこの方法の例を、これらの図とともに説明する。
【0026】
ステップ1:測定した群遅延または位相によって個々のステージをそれぞれ特徴付けする。
図4を参照すると、動作するチャネル(複数のチャネル)、波長および温度の範囲内の1つまたは複数のFSRにわたって、波長および温度の関数として、測定した群遅延(または位相)によって、個々のステージをそれぞれ特徴付ける。このステップは、精密な熱光学的に調整されるTDC装置のため、要求の厳しい製造仕様によるエタロンの組立てが、一般に、本明細書で所望の結果、すなわち分散補償値間の連続調整を得るには十分でないという認識の結果として行われる。前に示したように、分散補償値間の連続調整とは、信号品質が調整中に連続的に改良を受けるという意味である。これを達成するため、縦続接続ステージの設計への準備として、各エタロン・ステージを個々に特徴付けることが、有効であることが判明している。このステップは、多段の連結された群遅延ステージを使用して、所望の群遅延関数を生成する。複数の波長チャネルおよび複数の温度において、かつ波長チャネルおよび温度の関数として群遅延応答中の非線形性を明示するのに十分細かい増分で、特性付けが実施される。図4は、3つの異なる温度40℃、75℃、および115℃において、群遅延対波長をプロットした図である。特徴付けには、測定データおよび/または予測データが含まれる。
【0027】
ステップ2:エタロン・ベースの物理モデルを使用して、群遅延の測定した応答を適合(fit)する。
図5を参照すると、測定した群遅延の応答は、変数が、表面反射率、キャビティのFSR/厚さおよび温度係数として、エタロン・ベースの物理モデルに適合(fit)する。図5に、いくつかの個別のエタロン・ステージ(左側縦座標に関連付けられた複数のぼかしたカーブ)および群遅延カーブ(右側縦座標に関連付けられた黒い太線)について、データを示す。物理的なエタロン・モデルに整合するようにデータを適合することによって、任意の周波数において容易に計算することができる、装置の応答の正確な数学的表現/モデルが生成されることになる。製造中に起きる表面反射率、キャビティのFSR/厚さおよび温度係数のばらつきが明らかにされて、モデルが正確に実際の装置を表現していることを保証する。
【0028】
ステップ3:温度の関数として、個別のステージにおけるファブリ・ペローの平面波行列モデルのパラメータをそれぞれ解く。
所望の全体的な連結群遅延を得るためには、温度の関数として個々のステージの群遅延応答に関する知識が必要である、というのは、温度が、各ステージを位置決めするために使用する制御パラメータであるからである。表面反射率、キャビティのFSR/厚さおよび温度係数を含む製造ばらつきが、予想される温度調整範囲にわたって任意の温度で、モデルが正確に実際の装置を表すことができるように、明らかにされることになる。適合(fit)に先立ち、群遅延応答中の非線形性を定量化しモデル化するために、適切な温度増分で、群遅延の測定を行うべきである。
【0029】
ステップ4:分散合成装置入力を供給する。
分散合成装置は、個々のエタロン・ステージの温度(物理モデルからの出力)を調整して、所望の連結分散および/または群遅延応答を生成する数学的エンジンである。合成装置への入力には、所望の群遅延および/または1つまたは複数のITUチャネルにわたる分散応答、応答が要求される帯域幅、個々のエタロン・ステージの温度範囲を最適化する性能指数、およびエタロン・ステージの物理モデルが含まれる。合成装置では、許容できる結果をもたらすエタロン温度の組み合わせを見つけるために、1つまたは複数の最適化アルゴリズムが使用される。最適化モデルには、遺伝および勾配ベースの分類のモデルが含まれる。最大または最小の分散における初期部分解を得るために、遺伝アルゴリズムが使用され、次いで、勾配ベースのアルゴリズムが、その遺伝部分解を使用し、それを精緻化する。この多段モデルのアプローチによって、大域解を得るための効率および確率が最適化される。
【0030】
ステップ5:性能指数(figure of merit)を定義する。
最適化のために使用される測定基準は、模擬した応答が所望の応答の要件をどの程度うまく満たしているかを定量化する、性能指数である。(所望の応答は、群遅延または分散としてもよい)。適切な性能指数は、対象分散への最良適合(best fit)、対象群遅延への最良適合などによって定義することができる。最適化器(optimizer)が許容可能な解を見つけたとき、そのことを最適化器に知らせるために、許容値を指定し使用する。
【0031】
ステップ6:最小および最大の所望の分散目標(複数の目標)に関し、個々のエタロン・ステージの温度について解く。
装置が、2つ以上の所望の分散または群遅延応答を同調可能なので、最適化が1つの対象から始められる。任意の所与の対象について複数の解があり、それらの解は(連続性を満たすため)独立ではないので、最適化アルゴリズムは、細かく隔置され順序付けられた対象の場合に、より有効である。その結果得られたデータは、図7に示すようなプロットに使用することができる。図7に、12ステージのTDC装置について、所望の分散設定点対エタロン温度をプロットする。明らかに分かるように、所望のTDC調整範囲を達成するために、ステージの4つが非常に大きい温度の変移、すなわち約35℃の変移を受けている。
【0032】
ステップ7:有限の分散間隔において系統的で連続的な形で、各分散/群遅延の対象(複数の対象)について、個々のエタロン・ステージの温度を反復して解く。
装置が、1つの対象から他の対象に連続的に調整するので、個々の対象についての解は、連続になるはずである。装置が1つの対象から他の対象に調整するとき、連続解は、各ステージの温度の相対的特性によって定義される。分散または群遅延の対象の範囲にわたって装置を調整するとき、各ステージの温度は、連続であるために、単調に(または非常に単調に近く)動くべきである。各ステージが単調である場合、2つの対象間で(遷移中に)装置のその結果得られる分散または群遅延の応答は、2つの対象の範囲内に入る、すなわちどちらの対象よりも低くなく、どちらの対象よりも高くないことになる。最適化によって解が決定される間隔は、その間隔内の対象が有効であることを保証するのに適正であるべきであり、装置は、予想される間隔で予想される応答性能を果たすこととなる。
【0033】
ステップ8:最適化出力から分散マップを生成する。
最適化が完了したとき、分散または群遅延の対象対ステージ・エタロン温度の2次元配列を生成し、分散/群遅延対象を設定するために使用する。このデータは、分散/群遅延の設定点を設定し制御するために、装置の制御器にダウンロードすることができる。図8に、典型的な分散マップを示し、そこでは分散が、縦座標に対して表され、横座標としての波長に対してプロットされている。
【0034】
ステップ9:分散マップ中の範囲内の任意の所望の分散/群遅延について、適切な補間モデルを使用して、個々のエタロン・ステージの温度を推定する。
上記に説明した方法は、個々のエタロン・ステージ温度について、一連の連続分散解を生成するので、装置は、任意の2つの隣接する解の間に入る分散対象において、動作することができる。2つの隣接する解の間に入る分散/群遅延対象について、個々のエタロン・ステージ温度を推定するために、これらの同じ2つの隣接する解の間のエタロン・ステージ温度のそれぞれについての簡単な補間を使用することができる。
【0035】
ところで、先の説明が、分散補償のために使用される装置を主に扱っているが、説明した装置が、他の用途のために分散値を調整することが可能であることは、当業者に明らかになるはずである。
【0036】
当業者は、装置が調整されている間、信号が「ヒットのない」として述べられる、上記に述べた状況は、TDCが調整中に使用されていること、すなわち光信号が、TDCを組み込んだWDMシステムによって送信中であることを意味すると認識するはずである。システムが利用されていない間、すなわちTDC装置を通る光信号がないとき、TDCを調整することができることも明らかに理解すべきである。しかし、ほとんどの場合、動的調整が使用されることになり、TDCが調整されるので信号品質を守ることができる。いくつかの場合では、光テスト信号を用いてもよい。
【0037】
いま述べた方法が完全に自動化されて、光学システムのために連続的に分散を補償することができることも明らかに理解すべきである。分散ドリフトが検出されたとき、システムは、それを検出するとすぐに、そのドリフトを自動的に補償することになる。しかし、多くの場合、システムの分散変化は、ドリフトではなく、増加する変化であり、ときには大きく増加する変化である。システムが、新しい、または修理された後の使用のために再構成された場合、これが起きることがある。したがって、TDCは、広い分散値全体にわたって補償し、したがって大きな温度変移をすることが求められることがある。
【0038】
本発明の様々な追加の変更に、当業者が気付くことになる。技術を発展させてきた原理およびその均等物に基本的に依存する、本明細書の具体的な教唆からのすべての逸脱は、説明されクレームされた本発明の範囲内に入ると適切に見なされる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】標準的なエタロンの動作を示す概略図である。
【図2】個々に温度制御されるエタロンを使用した、3ステージの縦続接続TDCの概略図である。
【図3】本発明の方法によって作成された好ましい設計に使用される二重キャビティ・エタロンの概略図である。
【図4】3つの異なる温度で個々のエタロン・ステージについて、測定した群遅延プロフィールを示す、ピコ秒で示された群遅延対波長のプロット図である。
【図5】所与の温度設定における群遅延の物理モデルを、その温度における測定した群遅延に適合するステップを表すグラフの図である。
【図6】ファブリ・ペロー物理モデルからの適合結果の表である。
【図7】多段のエタロン・ステージを縦続接続して生成した拡張チャネルを示す、個々の群遅延(左側の縦座標、複数のカーブ)および合成した群遅延(右側の縦座標、濃いカーブ)対MHzで表されたチャネル幅のプロット図である。
【図8】12の個々のエタロン・ステージについて、分散対温度を示すプロット図である。
【図9】図8の12ステージについて、分散対ITU波長のプロット図である。
【図10】本発明の態様によって設計された12ステージのTDC装置の例を示す、対象分散対温度設定点のプロット図である。
【図11】本発明の他の態様による分散勾配の補償を示す、平均分散対波長のプロット図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多段式エタロンの同調可能な分散装置(TDC)を調整する方法であって、前記TDCは少なくとも2つのエタロンステージを含み、前記方法は、
第1の温度で各エタロンステージの温度を制御するステップと、
次いで、少なくともいくつかのステージの温度を第2の温度に変化させて、前記装置の分散を第1の分散値から第2の分散値に変化させるステップとを含み、各温度の変化は単調である、方法。
【請求項2】
第1の分散値から第2の分散値への前記変化は単調である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記温度変化は、エタロンステージ毎の別々の加熱装置を調節することによって引き起こされる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記エタロンステージは、FPエタロンとGTエタロンとの対キャビティを含み、前記加熱装置は前記GTエタロンに隣接する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記エタロンステージは、単一のGires−Tournoisエタロンを含み、前記加熱装置は前記エタロンに隣接する、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記TDCは少なくとも3つのステージを有する、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
調整されたTDCステージ中の前記エタロンはシリコンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記温度変化は、光信号が前記TDCによって送信されるときに行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記TDCは、前記TDCによって送信される信号の分散を補償するために使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
多段式エタロンの同調可能な分散補償装置(TDC)を製造する方法であって、前記TDCは少なくとも3つのエタロンステージを含み、前記方法は、
1つまたは複数の自由スペクトル領域にわたり、波長および温度の関数として、測定した群遅延または位相によって各エタロンステージを特徴付けするステップと、
その結果得られたデータと一連の対象分散値を相互に関連付けるステップと、を含む、方法。
【請求項11】
2つ以上の前記エタロンステージは対のキャビティエタロンを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記対のキャビティエタロンは、それぞれがファブリペローエタロンおよびGTエタロンを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
エタロンベースの物理モデルを使用して、群遅延の測定した応答を適合する追加のステップを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
温度の関数として、個々のステージのファブリペロー物理モデルのパラメータをそれぞれ解く追加のステップを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
分散合成装置入力を供給する追加のステップを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
性能指数を定義する追加のステップを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
所望の分散を求めて個々のエタロンステージ温度について解く追加のステップを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
有限の分散間隔において系統的で連続的な形で、分散/群遅延を得るために、分散/群遅延対象について個々のエタロンステージ温度を反復して解く追加のステップを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
最適化出力から分散マップを生成する追加のステップを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
補間モデルを使用して、前記分散マップ中の分散/群遅延を求めて個々のエタロン・ステージ温度を推定する追加のステップを含む、請求項19に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−109999(P2009−109999A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−274203(P2008−274203)
【出願日】平成20年10月24日(2008.10.24)
【出願人】(599084555)アバネックス コーポレーション (1)
【氏名又は名称原語表記】Avanex  Corporation
【Fターム(参考)】