説明

縮合多環式芳香族化合物、その製法、及び縮合多環式芳香族化合物の共重合体

【課題】新規な縮合多環式芳香族化合物を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される、縮合多環式芳香族化合物。


(式(1)中、R1〜R12は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、オリゴアリール基、置換オリゴアリール基、複素環基、置換複素環基、アルコキシ基、置換アルコキシ基、アルキルチオ基、置換アルキルチオ基、ニトロ基、アミノ基、置換アミノ基、シリル基、置換シリル基、アルキルスルホニルオキシ基などからなる群より選ばれた1種であり、nは1〜100の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な縮合多環式芳香族化合物、その製法、及び縮合多環式芳香族化合物の共重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機薄膜トランジスタ、有機電界発光素子は、省電力化や軽量化、薄型化が可能なことから活発に検討されてきた。特に、正孔、電子などの電荷輸送能(半導体や超伝導体となる可能性を有する)を備えた有機化合物の開発は、高分子化合物、低分子化合物を問わず活発に研究されてきた。
【0003】
このような有機化合物の分子設計として、高い平面性を持つπ共役系骨格を有する分子を構築することが有効な方法の一つと考えられている。例えば、アントラセンやペンタセンなどの縮合多環式芳香族化合物は、密なパッキング構造により高い電荷移動度を示すことが知られている(例えば、非特許文献1,2参照)。他にも、クリセン誘導体(非特許文献3)などが活発に研究されてきた。
【非特許文献1】M. D. Watson, A. Fechtenkotter, K. Mullen, Chem. Rev. 2001, 101, 1267.
【非特許文献2】J. E. Anthony, Chem. Rev. 2006, 106, 5028
【非特許文献3】S. Yamaguchi, T. M. Swager, J. Am. Chem. Soc. 2001, 123, 12087.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
π共役化合物を半導体材料として実用化する場合には、その特性として、高い電荷(キャリア)移動度を有する材料や、キャリア注入が容易な材料が求められる。しかしながら、これらの要件を満たすπ共役化合物は極めて限られているのが現状であり、真に優れた特性を有する新規な材料の開発が望まれていた。
【0005】
また、非特許文献1,2,3に示すような縮合多環式化合物の合成に際しては、一般に多段階の工程を必要とすることが多い。また、過酷な反応条件を要する場合が多く、官能基や複素環を有する化合物の合成には制約があった。上述の応用に向けて、短工程、簡便かつ汎用性の高い合成法の開発が重要課題となっていた。
【0006】
本発明は、上述した課題に鑑みなされたものであり、新規な縮合多環式芳香族化合物、その製法、及び縮合多環式芳香族化合物の共重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記した課題について検討した結果、下記式(1)又は下記式(2)で示される構造を備えた縮合多環式芳香族化合物およびその製造方法を新たに見いだした、さらに、その結晶構造を解析したところ、平面性の高い分子構造と、高い電荷移動度に有利とされる密なパッキング構造を有していることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の縮合多環式芳香族化合物は、下記式(1)又は下記式(2)で表されるものである。
【0009】
【化1】

【0010】
(式(1)中、R1〜R12は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、オリゴアリール基、置換オリゴアリール基、複素環基、置換複素環基、アルコキシ基、置換アルコキシ基、アルキルチオ基、置換アルキルチオ基、ニトロ基、アミノ基、置換アミノ基、シリル基、置換シリル基、シアノ基、ハロゲン原子、カルバモイル基、置換カルバモイル基、ホルミル基、スタンニル基、置換スタンニル基、イミノ基、置換イミノ基、ボリル基、置換ボリル基、ホスフィノ基、置換ホスフィノ基、シリルオキシ基、置換シリルオキシ基、アリールスルホニルオキシ基、及びアルキルスルホニルオキシ基からなる群より選ばれた1種であり、nは1〜100の整数である)
【0011】
【化2】

【0012】
(式(2)中、R1〜R12は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、オリゴアリール基、置換オリゴアリール基、複素環基、置換複素環基、アルコキシ基、置換アルコキシ基、アルキルチオ基、置換アルキルチオ基、ニトロ基、アミノ基、置換アミノ基、シリル基、置換シリル基、シアノ基、ハロゲン原子、カルバモイル基、置換カルバモイル基、ホルミル基、スタンニル基、置換スタンニル基、イミノ基、置換イミノ基、ボリル基、置換ボリル基、ホスフィノ基、置換ホスフィノ基、シリルオキシ基、置換シリルオキシ基、アリールスルホニルオキシ基、及びアルキルスルホニルオキシ基からなる群より選ばれた1種であり、nは1〜100の整数である)
また、本発明の縮合多環式芳香族化合物の製法は、
下記式(11)で表されるジアリールアセチレン化合物の2,2’位にチエニル又は置換チエニル基を持つ化合物に光を照射し、分子内二重環化反応を行うことにより下記式(12)で表される縮合多環式芳香族化合物とするものである。
【0013】
また、本発明の縮合多環式芳香族化合物の製法は、
下記式(13)で表されるジアリールアセチレン化合物の2,2’位にチエニル又は置換チエニル基を持つ化合物に光を照射し、分子内二重環化反応を行うことにより下記式(14)で表される縮合多環式芳香族化合物とするものである。
【0014】
【化3】

【0015】
(式(13)及び(3)中、R1〜R12は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、オリゴアリール基、置換オリゴアリール基、複素環基、置換複素環基、アルコキシ基、置換アルコキシ基、アルキルチオ基、置換アルキルチオ基、ニトロ基、アミノ基、置換アミノ基、シリル基、置換シリル基、シアノ基、ハロゲン原子、カルバモイル基、置換カルバモイル基、ホルミル基、スタンニル基、置換スタンニル基、イミノ基、置換イミノ基、ボリル基、置換ボリル基、ホスフィノ基、置換ホスフィノ基、シリルオキシ基、置換シリルオキシ基、アリールスルホニルオキシ基、及びアルキルスルホニルオキシ基からなる群より選ばれた1種である)
【0016】
【化4】

【0017】
(式(13)及び(14)中、R1〜R12は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、オリゴアリール基、置換オリゴアリール基、複素環基、置換複素環基、アルコキシ基、置換アルコキシ基、アルキルチオ基、置換アルキルチオ基、ニトロ基、アミノ基、置換アミノ基、シリル基、置換シリル基、シアノ基、ハロゲン原子、カルバモイル基、置換カルバモイル基、ホルミル基、スタンニル基、置換スタンニル基、イミノ基、置換イミノ基、ボリル基、置換ボリル基、ホスフィノ基、置換ホスフィノ基、シリルオキシ基、置換シリルオキシ基、アリールスルホニルオキシ基、及びアルキルスルホニルオキシ基からなる群より選ばれた1種である)
【発明の効果】
【0018】
本発明の縮合多環式芳香族化合物によれば、高い電荷移動度に必須とされる、固体状態での密なパッキング構造をとる、という効果が得られる。
また、本発明の縮合多環式芳香族化合物の製法によれば、本発明の縮合多環式芳香族化合物を短工程かつ比較的高い収率で得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明でR1〜R12として使用可能なアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などの分岐があってもよいアルキル基のほか、シクロペンチル基やシクロヘキシル基などの環状アルキル基などが挙げられる。また、アリール基としては、例えばフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ピレニル基などが挙げられる。また、アルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基などが挙げられる。
【0020】
また、アルキルチオ基としては、例えばメチルチオ基、エチルチオ基、n−プロピルチオ基、イソプロピルチオ基、n−ブチルチオ基、sec−ブチルチオ基、tert−ブチルチオ基などが挙げられる。また、複素環基としては、フリル基、チエニル基、ピロリル基、ピリジル基、ベンゾチエニル基、キノリル基などが挙げられる。また、脱離基としては、例えばスルホニルオキシ基やハロゲン原子などが挙げられ、スルホニルオキシ基としては、メシラート基、トシラート基、トリフラート基などが挙げられ、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。また、置換アルキル基のように接頭語に「置換」の付いているものの具体的な置換基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子;メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などの分岐があってもよいアルキル基;シクロペンチル基やシクロヘキシル基などの環状アルキル基;ビニル基、アリル基、ブテニル基、スチリル基などのアルケニル基;エチニル基、プロパギル基、フェニルアセチニル基などのアルキニル基;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基などのアルコキシ基;ビニルオキシ基やアリルオキシ基などのアルケニルオキシ基;エチニルオキシ基やフェニルアセチルオキシ基などのアルキニルオキシ基;フェノキシ基、ナフトキシ基、ビフェニルオキシ基、ピレニルオキシ基などのアリールオキシ基;トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、ペンタフルオロエトキシ基などのパーフルオロ基及びさらに長鎖のパーフルオロ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジフェニルアミノ基、カルバゾリル基などのアミノ基;ジフェニルボリル基、ジメシチルボリル基、ビス(パーフルオロフェニル)ボリル基などのボリル基;アセチル基やベンゾイル基などのカルボニル基;アセトキシ基やベンゾイルオキシ基などのカルボニルオキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基などのアルコキシカルボニル基;メチルスルフィニル基やフェニルスルフィニル基などのスルフィニル基;トリメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、ジメチル−tert−ブチルシリル基、トリメトキシシリル基、トリフェニルシリル基などのシリル基;フェニル基、2,6−キシリル基、メシチル基、デュリル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピレニル基、トルイル基、アニシル基、フルオロフェニル基、ジフェニルアミノフェニル基、ジメチルアミノフェニル基、ジエチルアミノフェニル基、フェナンスレニル基などのアリール基;チエニル基、フリル基、シラシクロペンタジエニル基、オキサゾリル基、オキサジアゾリル基、チアゾリル基、チアジアゾリル基、アクリジニル基、キノリル基、キノキサロイル基、フェナンスロリル基、ベンゾチエニル基、ベンゾチアゾリル基、インドリル基、カルバゾリル基、ピリジル基、ピロリル基、ベンゾオキサゾリル基、ピリミジル基、イミダゾリル基などのヘテロ環基などが挙げられる。そのほかに、ニトロ基、ホルミル基、ニトロソ基、ホルミルオキシ基、イソシアノ基、シアネート基、イソシアネート基、チオシアネート基、イソチオシアネート基、シアノ基などもあげられる。さらに、これらの置換基がお互いに任意の場所で結合して環を形成していてもよい。
【0021】
本発明の縮合多環式芳香族化合物は、さらに、下記式(3)又は(4)にて表される化合物と、さらに下記の式(5)、(6)、(7)、(8)、(9)及び(10)からなる群から選択される少なくとも一つで表される化合物とを繰り返し単位とする、縮合多環式芳香族化合物の共重合体であってもよい。
【0022】
【化5】

【0023】
(式(3)中、R1〜R10は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、オリゴアリール基、置換オリゴアリール基、複素環基、置換複素環基、アルコキシ基、置換アルコキシ基、アルキルチオ基、置換アルキルチオ基、ニトロ基、アミノ基、置換アミノ基、シリル基、置換シリル基、シアノ基、ハロゲン原子、カルバモイル基、置換カルバモイル基、ホルミル基、スタンニル基、置換スタンニル基、イミノ基、置換イミノ基、ボリル基、置換ボリル基、ホスフィノ基、置換ホスフィノ基、シリルオキシ基、置換シリルオキシ基、アリールスルホニルオキシ基、及びアルキルスルホニルオキシ基からなる群より選ばれた1種であり、
nは1〜100の整数である)
(式(4)中、R1〜R10は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、オリゴアリール基、置換オリゴアリール基、複素環基、置換複素環基、アルコキシ基、置換アルコキシ基、アルキルチオ基、置換アルキルチオ基、ニトロ基、アミノ基、置換アミノ基、シリル基、置換シリル基、シアノ基、ハロゲン原子、カルバモイル基、置換カルバモイル基、ホルミル基、スタンニル基、置換スタンニル基、イミノ基、置換イミノ基、ボリル基、置換ボリル基、ホスフィノ基、置換ホスフィノ基、シリルオキシ基、置換シリルオキシ基、アリールスルホニルオキシ基、及びアルキルスルホニルオキシ基からなる群より選ばれた1種であり、
nは1〜100の整数である)
【0024】
【化6】

【0025】
(式(5)〜(10)中、Ar1〜Ar6は、それぞれ独立に、アリーレン基、2価の複素環基、または金属錯体構造を有する2価の基を示し、Y1〜Y5は、それぞれ独立に、−CR13=CR14−,−C≡C−,−N(R15)−,−B(R16)−,または−(SiR1718q−を示し、R13およびR14は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、1価の複素環基、カルボキシル基、置換カルボキシル基又はシアノ基を示し、R15〜R18は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、1価の複素環基又はアリールアルキル基を示し、o,p及びqは、それぞれ独立に、1〜12の整数を示す)
本発明の上記式(1)又は上記式(2)で表される縮合多環式芳香族化合物は、nが1であってもよいが、nが2以上、好ましくはnが10以上のポリマーとしてもよい。このようなポリマーを作製するには、J. Am. Chem. Soc., 2008, vol.130, pp7670-7685を参考にして合成することができる。その一例を下記化7に示す。この例では、3,9−ジオクチロキシジチエノ[2,3−g:2’,3’−p]クリセン(式(15)参照)のTHF溶液にNBSを加えることにより、ジブロモ体(式(16)参照)を得る。一方、これとは別に、式(15)で表される化合物のTHF溶液にn−BuLiのヘキサン溶液を滴下したあと塩化トリメチルスズ(Me3SnCl)を加えることにより、トリメチルスタンニル基が導入された式(17)で表される化合物を得る。そして、式(16)で表される化合物、式(17)で表される化合物、Pd(PPh32Cl2を無水THF中で混合して加熱還流させた後、メタノールへ投入し、反応物を抽出することにより、ポリマー(式(18)参照)を得ることができる。
【0026】
【化7】

【0027】
(i) 式(18)の化合物の製造方法のうち、原料である式(15)の部分を化合物(11)に変更することにより、それ以外の式(1)の化合物も製造できる。また,(18)の化合物の製造方法のうち、原料である式(15)の部分を化合物(13)に変更することにより、式(2)の化合物も製造可能である。
【0028】
(ii)上記(i)の変更は容易に行うことができる。
【0029】
本発明の上記式(3)又は上記式(4)で表される縮合多環式芳香族化合物の共重合体は、Synthetic Metals, 2005, vol.127, pp251-254を参考にして合成することができる。その一例を下記化8に示す。式(17)で表される化合物、2,2’−ビス(ピナコラートボリル)−9,9−ジオクチルフルオレン(化合物19)、Pd(PPh34、及び炭酸カリウム水溶液をTHF中で混合して加熱還流させた後、反応混合物を少量のクロロホルムに溶解させメタノールへ投入し、沈殿物を精製することにより、共重合体(式(20)参照)を得ることができる。
【0030】
【化8】

【0031】
次に、本発明の上記式(12)又は(14)で表される縮合多環式芳香族化合物の合成ルートの一例を下記化5及び化6に示す。なお、化5及び化6のR1等については既に述べたとおりであるため、ここではその説明を省略する。本発明の上記式(3)で表される縮合多環式芳香族化合物は、下記式(11)で表されるジアリールアセチレン化合物の2,2’位にチエニル又は置換チエニル基を持つ化合物の分子内二重環化反応を進行させることにより合成することができる。
【0032】
また、本発明の上記式(14)で表される縮合多環式芳香族化合物は、下記式(13)で表されるジアリールアセチレン化合物の2,2’位にチエニル又は置換チエニル基を持つ化合物の分子内二重環化反応を進行させることにより合成することができる。
【0033】
なお、反応溶媒、反応温度、反応時間や試薬のモル濃度などの反応条件は、使用する試薬等に応じて適宜設定すればよい。
【0034】
式(3)で表される縮合多環式芳香族化合物は、式(1)でnが1の場合に相当し、式(4)で表される縮合多環式芳香族化合物は、式(2)でnが1の場合に相当するが、nが2以上の場合の合成例については既に述べたとおりである。
【0035】
【化9】

【0036】
(式(11)及び(12)中、R1〜R12は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、オリゴアリール基、置換オリゴアリール基、複素環基、置換複素環基、アルコキシ基、置換アルコキシ基、アルキルチオ基、置換アルキルチオ基、ニトロ基、アミノ基、置換アミノ基、シリル基、置換シリル基、シアノ基、ハロゲン原子、カルバモイル基、置換カルバモイル基、ホルミル基、スタンニル基、置換スタンニル基、イミノ基、置換イミノ基、ボリル基、置換ボリル基、ホスフィノ基、置換ホスフィノ基、シリルオキシ基、置換シリルオキシ基、アリールスルホニルオキシ基、及びアルキルスルホニルオキシ基からなる群より選ばれた1種である)
【0037】
【化10】

【0038】
(式(13)及び(14)中、R1〜R12は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、オリゴアリール基、置換オリゴアリール基、複素環基、置換複素環基、アルコキシ基、置換アルコキシ基、アルキルチオ基、置換アルキルチオ基、ニトロ基、アミノ基、置換アミノ基、シリル基、置換シリル基、シアノ基、ハロゲン原子、カルバモイル基、置換カルバモイル基、ホルミル基、スタンニル基、置換スタンニル基、イミノ基、置換イミノ基、ボリル基、置換ボリル基、ホスフィノ基、置換ホスフィノ基、シリルオキシ基、置換シリルオキシ基、アリールスルホニルオキシ基、及びアルキルスルホニルオキシ基からなる群より選ばれた1種である)
以下、本発明を実施例を用いて具体的に説明する。
【実施例1】
【0039】
以下の実施例につき、融点(mp)は、ヤナコのYanacoMP−S3を用いて測定した。1HNMRは、日本電子のAL−400あるいはGSX−270を用いて測定した。質量分析は島津製作所のGCMS QP2010を用いて測定した。反応は、アルゴン中にて脱水溶媒を用いて行った。反応に用いたTHFは、市販の脱水溶媒(Kanto)を用いた。薄層クロマトグラフィー(TLC)はシリカゲル60F254(Merck)を用いて行った。シリカゲルカラムクロマトグラフィーには、PSQ100B(富士シリシア)を用いて行った。リサイクル分取逆相HPLCは、Wakosil−II 5C18HG Prep(Wako)を備え付けたLC−9201(日本分析工業)を用いて行った。光照射には、高圧UVランプ(ウシオ)を用いた。
【0040】
(1)3,9−ジメトキシジチエノ[2,3−g:2’,3’−p]クリセン(化合物21)の合成(化10参照)
乾燥アルゴン雰囲気下、スクリューキャップ付きパイレックス(登録商標)製試験管に、ビス{5−メトキシ−2−(3’−チエニル)フェニル}アセチレン(化合物22)(121mg,0.30mmol)およびヨウ素(152mg,0.60mmol)のTHF溶液(1.5mL)を作成し、密閉した上で室温で高圧UVランプを6時間照射した。反応混合物に飽和亜硫酸ナトリウム水溶液を加えて過剰のヨウ素を分解したのち、二層に分離し、クロロホルムで抽出した。得られた有機層を合わせて飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を留去した。得られた粗生成物からシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより化合物21及び化合物23の混合物を取り出し(Rf=0.46,溶出溶媒:ヘキサン/クロロホルム=1/1)、これをさらにリサイクル分取逆相HPLCを用いて分離することで(溶出溶媒:アセトニトリル/THF=2/1)、化合物21及び化合物23を得た(化合物21:収率15%;化合物23:異性体23aと23bの混合物として収率8.9%)。
【0041】
【化11】

【0042】
化合物21のスペクトルデータは以下のとおり:1H NMR (400 MHz, CDCl3)δ4.13 (s, 6H), 7.41 (dd, 2H, J = 2.4 Hz, 8.8 Hz), 7.68 (d, 2H, J = 5.2 Hz), 8.07 (d, 2H, J = 5.6 Hz), 8.42 (d, 2H, J = 8.8 Hz), 8.79 (d, 2H, J = 2.4 Hz); MS (EI) m/z = 400 (M+).
化合物23のスペクトルデータは以下のとおり(二種類の異性体23a/23b=1/1の混合物):1H NMR (400 MHz, CDCl3)δ 4.04 (s, 6H), 4.12 (s, 6H), 7.374 (dd, 2H, J = 4.4 Hz, 8.8 Hz) 7.375 (d, 2H, J = 8.8 Hz), 7.58 (d, 2H, J = 5.6 Hz), 7.69 (d, 2H, J = 5.6 Hz), 8.08 (d, 2H, J = 5.6 Hz), 8.24 (d, 2H, H = 8.8 Hz), 8.39-8.44 (m, overlapped, 6H), 8.74 (d, 2H, J = 2.4 Hz).
(2)X線結晶構造解析
X線結晶構造解析に用いた化合物21の単結晶は、クロロホルム−ヘキサンの二層拡散法により得た。強度データは、Rigaku single crystalCCDX線解析装置(Saturn70with MicroMax−007,MoKα照射(λ=0.71070Å,graphite monochrometer)を用いて測定した。構造は直接法(SIR-97)により求め、full−matrix least−squares on F2(SHELXS-97)により最適化した。水素以外の原子は異方的に最適化し、水素原子は AFIX instructionを用いて配置した。図1に化合物21の結晶構造を、図2に化合物21の結晶中におけるパッキング構造を示す。なお,図1においてC1〜C12及びC1*〜C12*は炭素原子、O1及びO1*は酸素原子、S1及びS1*は硫黄原子を表し、白丸は水素原子を表す。図2において、矢印は結晶軸の向きと種類を表す。
【0043】
これをみると、化合物21は、強固で平面性の高いπ共役骨格をもつことが明らかである。また、結晶中において化合物21は分子同士で共役面が二次元的ネットワークを有したヘリンボーン構造をとり、最も接近した2分子間の最近接原子間距離は3.451オングストロームと密にパッキングしていた。
【0044】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に
属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の縮合多環式芳香族化合物は、結晶において分子間が密にパッキングした構造を持つ。このような構造は高い電荷移動度を発現するのためと重要な要素であることが多く報告されている。このような構造特性を利用して、蒸着膜や塗布膜を用いることで有機半導体材料などに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】化合物21のX線結晶解析結果の説明図である。
【図2】化合物21のX線結晶解析により求めたパッキング構造の説明図である。破線は,最も近接した二分子間の最近接原子間距離を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される、縮合多環式芳香族化合物。
【化1】

(式(1)中、R1〜R12は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、オリゴアリール基、置換オリゴアリール基、複素環基、置換複素環基、アルコキシ基、置換アルコキシ基、アルキルチオ基、置換アルキルチオ基、ニトロ基、アミノ基、置換アミノ基、シリル基、置換シリル基、シアノ基、ハロゲン原子、カルバモイル基、置換カルバモイル基、ホルミル基、スタンニル基、置換スタンニル基、イミノ基、置換イミノ基、ボリル基、置換ボリル基、ホスフィノ基、置換ホスフィノ基、シリルオキシ基、置換シリルオキシ基、アリールスルホニルオキシ基、及びアルキルスルホニルオキシ基からなる群より選ばれた1種であり、
nは1〜100の整数である)
【請求項2】
下記式(2)で表される、縮合多環式芳香族化合物。
【化2】

(式(2)中、R1〜R12は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、オリゴアリール基、置換オリゴアリール基、複素環基、置換複素環基、アルコキシ基、置換アルコキシ基、アルキルチオ基、置換アルキルチオ基、ニトロ基、アミノ基、置換アミノ基、シリル基、置換シリル基、シアノ基、ハロゲン原子、カルバモイル基、置換カルバモイル基、ホルミル基、スタンニル基、置換スタンニル基、イミノ基、置換イミノ基、ボリル基、置換ボリル基、ホスフィノ基、置換ホスフィノ基、シリルオキシ基、置換シリルオキシ基、アリールスルホニルオキシ基、及びアルキルスルホニルオキシ基からなる群より選ばれた1種であり、
nは1〜100の整数である)
【請求項3】
nが1である請求項1に記載の縮合多環式芳香族化合物。
【請求項4】
nが1である請求項2に記載の縮合多環式芳香族化合物。
【請求項5】
下記式(3)又は(4)にて表される化合物と、さらに下記の式(5)、(6)、(7)、(8)、(9)及び(10)からなる群から選択される少なくとも一つで表される化合物とを繰り返し単位とする、縮合多環式芳香族化合物の共重合体。
(式(3)及び(4)中、R1〜R10は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、オリゴアリール基、置換オリゴアリール基、複素環基、置換複素環基、アルコキシ基、置換アルコキシ基、アルキルチオ基、置換アルキルチオ基、ニトロ基、アミノ基、置換アミノ基、シリル基、置換シリル基、シアノ基、ハロゲン原子、カルバモイル基、置換カルバモイル基、ホルミル基、スタンニル基、置換スタンニル基、イミノ基、置換イミノ基、ボリル基、置換ボリル基、ホスフィノ基、置換ホスフィノ基、シリルオキシ基、置換シリルオキシ基、アリールスルホニルオキシ基、及びアルキルスルホニルオキシ基からなる群より選ばれた1種であり、nは1〜100の整数である)
(式(5)〜(10)中、Ar1〜Ar6は、それぞれ独立に、アリーレン基、2価の複素環基、または金属錯体構造を有する2価の基を示し、Y1〜Y5は、それぞれ独立に、−CR13=CR14−,−C≡C−,−N(R15)−,−B(R16)−,または−(SiR1718q−を示し、R13およびR14は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、1価の複素環基、カルボキシル基、置換カルボキシル基又はシアノ基を示し、R15〜R18は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、1価の複素環基又はアリールアルキル基を示し、o,p及びqは、それぞれ独立に、1〜12の整数を示す)
【化3】

【化4】

【請求項6】
有機半導体材料として用いられる、請求項1〜4のいずれかに記載の縮合多環式芳香族化合物。
【請求項7】
有機半導体材料として用いられる、請求項5に記載の縮合多環式芳香族化合物の共重合体。
【請求項8】
下記式(11)で表される、ジアリールアセチレン化合物の2,2’位にチエニル又は置換チエニル基を持つ化合物に光を照射し、分子内二重環化反応を行うことで下記式(12)で表される縮合多環式芳香族化合物とする、縮合多環式芳香族化合物の製法。
(式(11)及び(12)中、R1〜R12は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、オリゴアリール基、置換オリゴアリール基、複素環基、置換複素環基、アルコキシ基、置換アルコキシ基、アルキルチオ基、置換アルキルチオ基、ニトロ基、アミノ基、置換アミノ基、シリル基、置換シリル基、シアノ基、ハロゲン原子、カルバモイル基、置換カルバモイル基、ホルミル基、スタンニル基、置換スタンニル基、イミノ基、置換イミノ基、ボリル基、置換ボリル基、ホスフィノ基、置換ホスフィノ基、シリルオキシ基、置換シリルオキシ基、アリールスルホニルオキシ基、及びアルキルスルホニルオキシ基からなる群より選ばれた1種である)
【化5】

【請求項9】
下記式(13)で表される、ジアリールアセチレン化合物の2,2’位にチエニル又は置換チエニル基を持つ化合物に光を照射し、分子内二重環化反応を行うことで下記式(14)で表される縮合多環式芳香族化合物とする、縮合多環式芳香族化合物の製法。
(式(13)及び(14)中、R1〜R12は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、オリゴアリール基、置換オリゴアリール基、複素環基、置換複素環基、アルコキシ基、置換アルコキシ基、アルキルチオ基、置換アルキルチオ基、ニトロ基、アミノ基、置換アミノ基、シリル基、置換シリル基、シアノ基、ハロゲン原子、カルバモイル基、置換カルバモイル基、ホルミル基、スタンニル基、置換スタンニル基、イミノ基、置換イミノ基、ボリル基、置換ボリル基、ホスフィノ基、置換ホスフィノ基、シリルオキシ基、置換シリルオキシ基、アリールスルホニルオキシ基、及びアルキルスルホニルオキシ基からなる群より選ばれた1種である)
【化6】


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−155791(P2010−155791A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−333669(P2008−333669)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】