説明

繊維、フィルム、及びプラスチック材料を製造するのに用いられる、セルロースアセテートとスターチアセテートとから成るポリマーブレンド物及び該ブレンド物を調製する方法

【目的】 セルロースアセテート及びスターチアセテート成るブレンド物を有効に利用し得る手段及び用途を提供することを目的とする。
【構成】 繊維、フィラメント、糸、プラスチック材料、及び他の用途のためのセルロースアセテートとスターチアセテートとのブレンド物を開示する。ブレンド物は、特に50〜99%のセルロースアセテートと1〜50%のスターチアセテートを含んで成る。該ブレンド物を作る方法、該ブレンド物から製造されるトウから作られるシガレットフィルター、該ブレンド物から製造したトウから作られるフィルターを用いて作られるシガレット、該ブレンド物を含むフィラメント及びファブリック、該ブレンド物を含むアセテートフレーク、及び該ブレンド物を含む他の組成物も開示する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、繊維、フィラメント、糸、プラスチック材料、及び他の用途のためのセルロースアセテートとスターチアセテートとのブレンド物に関するものである。更に詳しくは、本発明は、繊維、フィラメント、糸、ファブリック、プラスチック材料を製造するための及び他の用途のための、セルロースアセテート50〜99%とスターチアセテート1〜50%とから成るブレンド物に関するものである。また、更に詳しくは、本発明は、該ブレンド物を作る方法、該ブレンド物から製造されるトウから作られるシガレットフィルター、該ブレンド物から製造したトウから作られるフィルターを用いて作られるシガレット、該ブレンド物を含むフィラメント及びファブリック、該ブレンド物を含むアセテートフレーク、及び該ブレンド物を含む他の組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】セルロースアセテート及びスターチアセテートは、19世紀から知られている。しかしながら、これら2つの通常の材料から成るブレンド物は、加工問題の故に、これまで利用することはできなかった。
【0003】通常は、ある程度アセチル化されているセルロースアセテートを用いて、シガレット用トウ、紡織繊維、フィルム、プラスチック、及び他の材料を製造する。しかしながら、木材パルプから誘導されるセルロースアセテートは高価であり、しかも加工時に大量のアセトンを必要とし、その結果として、アセトン回収コストが高くなり且つ有害となる可能性のあるアセトンが放出される。スターチアセテートは、遊離ヒドロキシル基の置換度(DS)に従って、工業的に重要な多くのプロセスで用いることができる。低置換度スターチアセテートは食品用途において重要であり、2〜3の置換度を有する高度に誘導されたスターチアセテートは、有機溶媒中におけるそれらの溶解度と、フィルム及び繊維を形成する能力とを有するが故に有用である。スターチアセテートを調製するための原料として用いられるスターチは低コストであり、木材パルプのアセチル化に比べて、アセチル化において固体濃度一層高くなる。
【0004】セルロースアセテートとスターチアセテートとのブレンド物は、セルロースアセテートのみから製造される繊維に比べて、同等か又は一層良い品質及び改良された特性を有する繊維を製造することができる安価な原料となる可能性を有する。木材パルプに比べ品質が改良されるのは、スターチの分子構造に由来する。乾燥スターチは、一般的に、α−D−グルコピラノシル単位から成る線状アミロースポリマーと枝分かれアミロペクチンポリマーとの25/75%混合物である。アミロースは、平均分子量17,000〜225,000、及び重合度(DP)約100〜1400を有する。アミロペクチンは、200,000〜1,000,000を超える平均分子量を有する。セルロースアセテートを製造するのに用いられる原料である乾燥木材パルプは、200,000〜3,000,000を超える平均分子量及び対応する重合度が1200〜20,000を超えるものから成る。
【0005】グルコースという同じモノマーから3つのポリマーは作られているにもかかわらず、スターチアセテート又はセルロースアセテートのいずれか1つだけと比べて、ブレンド物の特性が向上していることの原因は、アミロペクチンの枝分かれ構造とポリマーのコンフォメーションが異なることにある。セルロースに比べて、アミロース及びアミロペクチンが低分子量であること、また分子配列、即ち水素結合が異なっていることから、紡糸液中の固形分を増加させるスターチアセテートの低粘度アセトン溶液が生成する。紡糸液は、セルロースアセテート/スターチアセテートのアセトン溶液である。紡糸液の固形分が増加すると、そのような紡糸液はより高強度の繊維を一般的に与える液晶挙動を示す。
【0006】上述のように、スターチアセテートとセルロースアセテートとのブレンド物が有利であることは明らかであるが、アセトンに溶解したそのようなブレンド物は、これまで調製されて来なかった。その理由は、より高度にアセチル化されたスターチアセテート(アセチル価(AV)=2.6〜3)のアセトン溶液は、標準的なセルロースアセテート(アセチル価(AV)=2.55)のアセトン溶液に対して不混和性であるからである。
【0007】セルロースアセテートと他のポリマーとのブレンド物を用いて、ブレンド物の特性を向上させるということは、従来技術においては公知の事柄である。米国特許第2,059,425号明細書では、セルロースアセテートと、例えばグルコース、スクロース又はフルクトースのような微細に分割された糖類とのブレンド物、あるいは例えばカルシウム、バリウム又はストロンチウムのグルコセート、フルクトセートなどのようなそれらの金属化合物とのブレンド物を用いて、繊維材料及びフィルムを製造することが開示されている。この特許明細書における目的は、例えば製造されるフィルム又は繊維のようなプラスチック材料を水又は溶媒で処理して、微細に分割された糖類を除去することによって、前記プラスチック材料を艶消しすることにある。開示されているブレンド物は、製造プロセスにおいて中間製品として製造される。
【0008】米国特許第3,272,638号明細書では、例えばフィルター用トウのようなフィラメントを製造するための、シュクロースを有するセルロースアセテートと、脂肪酸エステル又はグルコース脂肪酸エステルとの混合物が開示されている。脂肪酸は、酢酸、プロピオン酸及びイソ酪酸である。紡糸速度及び硬化プロセスを向上させることがこの特許明細書における目的の1つである。シュクロース又はエステルを、紡糸直前に、アセトン紡糸液に加える。
【0009】米国特許第3,272,640号明細書は、疎水性フィルムファーマー(filmfirmer)において「不溶化剤」を水溶性材料と混和させることによって、セルロース系材料に対応する例えばセルロース系誘導体及びスターチ誘導体のような水溶性材料を不溶化させる方法を開示している。得られた生成物は、高度の耐水性を有するフィルム及び永久サイズ剤を調製するのに有用であると特許請求されている。スターチアセテート及びセルロースアセテートは共に、水不溶性材料である。
【0010】米国特許第4,808,479号明細書では、特有な流動性を有するスターチエーテル及び/又はスターチエステルを含むたて糸用サイジング組成物を開示している。しかしながら、この特許明細書では、ブレンド物の有する問題点については言及していない。
【0011】スターチアセテートとセルロースアセテートとのブレンド物から紡糸された繊維は、純粋なセルロースアセテートから紡糸された繊維に比べて、有意な向上を示す。例えば、これらの繊維は、より良好な可染性、ポリマー構造に起因するより高い伸び率、及び向上した水分率を示す。更に、スターチアセテートとセルロースアセテートとのブレンド物から紡糸された繊維を用いると、スターチアセテートを用いることによってブレンド物に付与される幾つかの物理的性質を利用することができる。例えば、紡糸液中の固体濃度が高く、繊維に対して液晶挙動を付与するので、テナシティが更に高くなる。
【0012】本発明の工業的意義は、改良された繊維の望ましさだけでなく、環境的側面及び経済的側面にある。セルロースアセテートは、一般的に、硫黄系触媒を用いて、酢酸中で硬木パルプをアセチル化及び熟成させて製造する。一層低分子量原料であるスターチを、同様に加工して、そのアセテート化物を製造することができる。しかしながら、スターチのコストは、木材パルプのそれの約半分であり、原料は、極めて多量に供給される。本発明の環境的側面は、スターチアセテートの加工において、酢酸回収コスト及びアセトン回収コストが低いことと関連がある。木材パルプアセチル化に比べて、スターチアセチル化では、固体濃度が高いので、酢酸回収コストが低くなる。従って、酢酸を回収するのに用いられる抽出及び蒸留における溶媒の放出が少なくなる。更に、アセトン紡糸液中の固体濃度がより高濃度になると、アセトン回収コスト及びアセトン放出量が減少する。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】従って、本発明は、セルロースアセテート及びスターチアセテート成るブレンド物を有効に利用し得る手段及び用途を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】本発明のブレンド物は、セルロースアセテートを調製する標準的な方法によって調製する。
【0015】本発明は、セルロースアセテートとスターチアセテートとのブレンド物、及びその新規なブレンド物から導かれる他の発明、並びに該ブレンド物を調製する方法に関するものである。
【0016】本明細書において、「セルロースアセテート」という用語は、置換度が1.0〜3.0であり、アセチル価が約20〜62%である、有機酸によってアセチル化されている任意の従来の木材パルプ、綿、又は任意の他の適当なセルロース材料を指している。
【0017】本明細書で用いている「アセチル価」という用語は、スターチアセテート又はセルロースアセテート1単位当たりの酢酸の重量%を表している。
【0018】本明細書で用いている「スターチアセテート」という用語は、本発明において許容可能であると考えられる任意の割合で、アミロースとアミロペクチンとを含み、且つ置換度が1.0〜3.0であり、アセチル価が約20〜60%である、有機酸によってアセチル化されている任意の従来のトウモロコシ、ジャガイモ、穀物、又は他の適当なスターチを指している。
【0019】本明細書で用いている「ブレンド物」という用語は、溶媒を用いることによって、スターチアセテートと有機酸又は無機酸と共に用いた任意のセルロースエステルとを併用したもの、及びスターチアセテートとセルロースエステル及び他のポリマーの混合物とを併用したものを指している。
【0020】「溶媒」という用語は、上述したセルロースエステル、セルロースアセテート、スターチアセテート、又はそれらの任意の組合せを溶解させることができるアセトン、メチルエチルケトン、塩化メチレン/メタノール、氷酢酸、又は任意の適切な溶媒を指すと考えるべきである。
【0021】また、本発明は、セルロースアセテートとスターチアセテートとの混合物を調製する工程、適当な溶媒中にその混合物を溶解させる工程、混合工程、濾過工程、及び紡糸用キャビネット(spinning cabinet)において、得られたブレンド物を紡糸する工程を含んで成る、該ブレンド物から紡績糸を製造する方法も提供する。本発明の方法は、セルロースアセテートを調製するときに通常用いられる紡糸方法の任意の種類を想定している。その種類としては、乾式紡糸、湿式紡糸、及び溶融紡糸が挙げられる。ブレンド物を調製する別法としては、アセテート製造時に、適当な割合で、水中にてセルロースアセテートとスターチアセテートとの反応混合物を共沈させ、次に紡糸工程を含む通常のセルロースアセテート調製工程を行う方法がある。ドープ温度を約50〜950℃に維持し、そして、蒸発によって紡績糸から溶媒を除去するために、紡糸キャビネットにおける下降気流温度を約50〜100℃に維持すべきである。
【0022】本発明の方法に好ましい溶媒は、アセトンである。
【0023】本発明の方法に適切な溶媒は、押出可能なドープを生成せしめ得る任意の非水溶媒である。好ましくは、溶媒は、セルロースアセテート及びスターチアセテートを完全に溶解させることができるものを選択する。そのような溶媒としては、例えば低分子量のアルデヒド、ケトン、炭化水素、ハロゲン化炭化水素、エステル、及びエーテルのような揮発性非水液体が挙げられる。セルロースエステルを特に溶解させることができる溶媒の例は、本明細書に参考として組み入れられる米国特許第2,362,182号明細書において開示されている。それらの溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、蟻酸メチル、蟻酸エチル、蟻酸プロピル、及びそれらの組合せが挙げられる。他の適当な溶媒としては、例えば酢酸、塩化メチレン、メタノール、及びそれらの組合せがある。
【0024】セルロースアセテートの1つの主な用途としては、フレークにして、それをシガレット用トウへと加工し、シガレット用フィルターで用いる用途がある。セルロースアセテートは、望ましくない味をフィルターに与えないので用いることができる。セルロースアセテート/スターチアセテートブレンド物のフィルターを用いて作られたシガレットは、セルロースアセテートのみから作られたシガレットに比べて、味に関して有意な違いがないことが官能検査によって認められた。
【0025】以下、実施例を掲げて、本発明の様々な態様を更に説明する。実施例は、単に本発明を説明するためだけのものであり、本明細書で開示している発明を限定するものではない。
【0026】
【実施例1】アセトン(固形分26.8%、スターチアセテート25%、セルロースアセテート75%)27.3ポンド中に溶解したセルロースアセテート(アセチル価=2.55)7.5ポンドとスターチアセテート(アセチル価>2.8)2.5ポンドとから成る混合物を、高剪断ミキサー中に供給した。得られた安定溶液を、従来のセルロースアセテート紡糸キャビネットにおいて紡糸して、アセトン(固形分26.8%、セルロースアセテート100%)中に溶解させた純粋なセルロースアセテート(アセチル価=2.55)の対照と比較した。
【0027】糸を、供給ロール速度500m/分で製造し、ドープ温度は85℃に維持した。蒸発によって紡績糸からアセトンを除去するために、紡糸キャビネットにおける下降気流の温度は75℃であった。ブレンド物の粘度は 100,000cpsであり、対照の粘度は150,000〜180,000cpsであった。デニール、テナシティ、及び伸び率はそれぞれ、ブレンド物において179、1.00g/デニール、25.27%であり、対照においては170、1.14g/デニール、28.50%であった。ブレンド物は、改良された可染性を示した。
【0028】
【実施例2】アセトン(固形分35.7%、スターチアセテート25%、セルロースアセテート75%)18ポンド中に溶解したセルロースアセテート(アセチル価=2.55)7.5ポンドとスターチアセテート(アセチル価 =2.59)2.5ポンドとから成る溶液を、実施例1と同じ方法で調製した。得られた溶液を、従来のセルロースアセテート紡糸キャビネットにおいて紡糸して、アセトン(固形分26.8%、セルロースアセテート100%)中に溶解させた純粋なセルロースアセテート(アセチル価 =2.55)の対照と比較した。
【0029】技術的な条件は、実施例1と同じであった。ブレンド物の粘度は 265,000cpsであり、対照の粘度は 150,000〜180,000cpsであった。デニール、テナシティ、及び伸び率はそれぞれ、ブレンド物において175、0.79g/デニール、28.36%であり、対照においては155、1.22g/デニール、33.49%であった。
【0030】他の実施例も同様に行った。その条件及び結果を表Iに示す。
【0031】
【表1】


本発明の実施態様には以下のものを含んで成る。
1.フィルム、繊維、フィブレット(fibret)、及び任意の機械的変型又はそれらの組合せを製造するために用いことができる、セルロースアセテートとスターチアセテートとを含んで成る組成物。
2.セルロースアセテートが50〜99%で存在し、スターチアセテートが1〜50%で存在している1項記載の組成物。
3.セルロースアセテートが1.2〜3のアセチル価を有し、スターチアセテートが1〜3のアセチル価を有する1項記載の組成物。
4.セルロースアセテートが2.0〜3.0のアセチル価を有し、スターチアセテートが2.55〜3のアセチル価を有する3項記載の組成物。
5.セルロースアセテートが65〜85%で存在し、スターチアセテートが15〜35%で存在している4項4の組成物。
6.a)適切な溶媒中において、スターチアセテートとセルロースアセテートとの溶液を混合する工程;
b)その溶液を濾過してドープを分離させる工程:及びc)標準的な紡糸手段を用いて該ドープを押出して、フィラメントを作る工程を含んで成る、フィルム、繊維、フィブレット、及び任意の機械的変型、又はそれらの組合せを製造するために用いることができるスターチアセテートとセルロースアセテートとのブレンド物を製造する方法。
7.1項記載の組成物から調製されるシガレット用トウ。
8.7項記載のシガレット用トウから調製されるシガレット用フィルター。
9.1項記載の組成物から調製される、ファブリック及び他の用途のためのフィラメント。
10.1項記載の組成物から調製されるフィルム及び他の最終用途。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 フィルム、繊維、フィブレット、及び任意の機械的変型又はそれらの組合せを製造するために用いことができる、セルロースアセテートとスターチアセテートとを含んで成る組成物。
【請求項2】 セルロースアセテートが50〜99%で存在し、スターチアセテートが1〜50%で存在している請求項1記載の組成物。
【請求項3】 セルロースアセテートが1.2〜3のアセチル価を有し、スターチアセテートが1〜3のアセチル価を有する請求項1記載の組成物。
【請求項4】 セルロースアセテートが2.0〜3.0のアセチル価を有し、スターチアセテートが2.55〜3のアセチル価を有する請求項3記載の組成物。
【請求項5】 セルロースアセテートが65〜85%で存在し、スターチアセテートが15〜35%で存在している請求項4記載の組成物。
【請求項6】 a)適切な溶媒中において、スターチアセテートとセルロースアセテートとの溶液を混合する工程;
b)その溶液を濾過してドープを分離させる工程:及びc)標準的な紡糸手段を用いて該ドープを押出して、フィラメントを作る工程を含んで成る、フィルム、繊維、フィブレット、及び任意の機械的変型、又はそれらの組合せを製造するために用いることができるスターチアセテートとセルロースアセテートとのブレンド物を製造する方法。
【請求項7】 請求項1記載の組成物から調製されるシガレット用トウ。
【請求項8】 請求項7記載のシガレット用トウから調製されるシガレットフィルター。
【請求項9】 請求項1記載の組成物から調製される、ファブリック及び他の用途のためのフィラメント。
【請求項10】 請求項1記載の組成物から調製されるフィルム及び他の最終用途。

【公開番号】特開平6−329832
【公開日】平成6年(1994)11月29日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−89364
【出願日】平成6年(1994)4月27日
【出願人】(590000330)ヘキスト・セラニーズ・コーポレーション (6)
【氏名又は名称原語表記】HOECHST CELANESE CORPORATION