説明

繊維導体電線の接続構造及び接続方法

【課題】繊維導体電線を端子に簡単に且つ確実に低コストで接続させる。
【解決手段】繊維導体1に結び目2が形成され、端子4に繊維導体を挿通させる孔部3が設けられ、孔部が結び目を収容する収容部5を有し、孔部に繊維導体が挿通され、収容部に結び目が係止され且つ電気的に接触した繊維導体電線7の接続構造を採用する。繊維導体1を緩く結んで結び目2を形成し、端子4の孔部3に繊維導体を挿通させ、繊維導体を引っ張って、結び目を孔部内の収容部5に係合させつつ、収容部に電気的に接触させる繊維導体電線の接続方法を併せて採用する。前記収容部内の結び目2の上から端子4を押圧して、結び目を収容部5に密着させることも有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈曲自在な繊維導体を端子に接続させる繊維導体電線の接続構造及び接続方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、複数本の導電金属(銅)製の素線を束ねて構成される導電線は、屈曲性が悪く、重量も重いために、その対策として、複数本の合成樹脂製の繊維の表面に導電金属製のメッキを施して導電線を形成することが知られている(例えば特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−288912号公報
【特許文献2】特開2010−108662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の繊維導体電線にあっては、引張強度は強いものの、剪断強度が弱いために、既存の圧着端子を用いた圧着接続が困難であり、例えば、ピン状ないし板状の端子に繊維導体を巻き付けた状態で、ハンダ付け等の他の方法で端子に接続固定せざるを得ず、接続に多くの工数や装置を必要とし、コスト高になるという懸念があった。
【0005】
本発明は、上記した点に鑑み、繊維導体電線を端子に簡単に且つ確実に低コストで接続することのできる繊維導体電線の接続構造及び接続方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る繊維導体電線の接続構造は、繊維導体に結び目が形成され、端子に該繊維導体を挿通させる孔部が設けられ、該孔部が該結び目を収容する収容部を有し、該孔部に該繊維導体が挿通され、該収容部に該結び目が係止され且つ電気的に接触したことを特徴とする。
【0007】
上記構成により、孔部の内面に繊維導体の外面が電気的に接触し、孔部内の収容部に繊維導体のこぶ状の結び目が係合して、結び目の外面が収容部の内面に電気的に接触する。これにより、繊維導体と端子との電気的接続が行われる。結び目が収容部に係止固定されたことで、端子からの繊維導体の抜け出しが阻止される。
【0008】
請求項2に係る繊維導体電線の接続方法は、繊維導体を緩く結んで結び目を形成し、端子の孔部に該繊維導体を挿通させ、該繊維導体を引っ張って、該結び目を該孔部内の収容部に係合させつつ、該収容部に電気的に接触させることを特徴とする。
【0009】
上記構成により、孔部の内面に繊維導体の外面が電気的に接触し、孔部内の収容部に繊維導体のこぶ状の結び目が係合して、結び目の外面が収容部の内面に電気的に接触する。結び目が緩く結ばれた仮締め状態で収容部内に進入することで、収容部の内面に結び目の外面が隙間なく密着し、電気的接続性が高まる。収容部よりも結び目が大きな場合は、繊維導体を強く引っ張ることで、結び目が縮径されて、収容部の内面に結び目の外面が隙間なく密着して、同様に電気的接続性が高まる。結び目が収容部に係止固定されることで、端子からの繊維導体の抜け出しが阻止される。
【0010】
請求項3に係る繊維導体電線の接続方法は、請求項2記載の繊維導体電線の接続方法において、前記収容部内の前記結び目の上から前記端子を押圧して、該結び目を前記収容部に密着させることを特徴とする。
【0011】
上記構成により、結び目の外面が収容部の内面になじんで、結び目の外面と収容部の内面との間の隙間が確実になくなり、結び目と収容部との電気的接触性が高まる。これと同時に孔部の内面と繊維導体の外面との接触性も高まる。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載の発明によれば、ハンダ付け等に依らずに、屈曲性の高い繊維導体を結んで端子の孔部に挿入するという簡単な操作で、繊維導体を端子に簡単に且つ確実に低コストで接続することができる。
【0013】
請求項2記載の発明によれば、ハンダ付け等に依らずに、屈曲性の高い繊維導体を緩く結んで端子の孔部に挿入するという簡単な操作で、結び目を収容部に隙間なく密着させて電気的に確実に接触させ、繊維導体を端子に簡単に且つ確実に低コストで接続させることができる。
【0014】
請求項3記載の発明によれば、結び目の外面と収容部の内面とを隙間なく密着させて、電気的接続の信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)(b)は、本発明に係る繊維導体電線の接続方法の一実施形態における一工程を順に示す斜視図である。
【図2】繊維導体電線の一形態を示す、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は繊維導体の一本の素線を示す斜視図である。
【図3】本発明に係る繊維導体電線の接続構造及び接続方法で使用する端子の一形態を示す、(a)は斜視図、(b)は縦断面図である。
【図4】同じく端子の孔部に繊維導体を挿通した状態を示す斜視図である。
【図5】同じく端子の収容部に繊維導体の結び目を係合させた状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1〜図5は、本発明に係る繊維導体電線の接続構造及び接続方法の一実施形態を示すものである。
【0017】
この繊維導体電線の接続構造及び接続方法は、図1の如く、繊維導体1に結び目2を作り、図3の如く、繊維導体挿通用の孔部3を有する端子4を用い、図4の如く、端子4の孔部3に繊維導体1を通し、繊維導体1を引っ張って、図5の如く、端子4の孔部3の中間の大径の収容部5に繊維導体1の結び目2を係止固定させるものである。
【0018】
以下、繊維導体電線の接続構造及び接続方法を工程順に詳細に説明する。
【0019】
先ず、図1(a)(b)の如く、繊維導体1の先端側を軽く結んで結び目2を形成する。図1(b)において、結び目2は緩く締まっており、内側に隙間6を有した仮結びの状態である。
【0020】
本例の結び目2は一重結びであるが、結び目2の種類は、結び目(こぶ)2の大きさ等に応じて、八の字結びや、もやい結び等、種々のものを適宜採用可能である。これらの結び目2は一本の繊維導体電線におけるものであり、例えば二本の繊維導体電線の各繊維導体1を相互に結束する場合はこま結び等を適用可能である。
【0021】
図2は、繊維導体電線の一形態を示すものであり、図2(a)(b)の如く、繊維導体電線7は、繊維導体1と、繊維導体1の外周を覆う絶縁樹脂被覆8とで構成される。繊維導体1は、図2(c)の如く、合成樹脂製の一本の極細の繊維9の外表面に導電金属メッキ層10を形成して成る導電性の素線11を複数本束ねて構成される。
【0022】
繊維9としては、パラ系アラミドやポリアリレート等が好ましく、パラ系アラミド繊維の外径は約φ12μmで、約240本の繊維9(素線11)で一本の繊維導体1が構成され、ポリアリレートの外径は約φ22μmで、約80本の繊維9(素線11)で一本の繊維導体1が構成される。導電メッキ10としては、厚みが約2〜3μmの銅メッキが好ましい。
【0023】
図3(a)(b)の如く、本例の端子4は、前半に板状(タブ状)の電気接触部12、後半に電線接続部13を一体に有したものであり、電線接続部13の中央に、電気接触部12の長手延長方向に延びる繊維導体挿通(貫通)用の孔部3が貫通して設けられている。
【0024】
孔部3は前半の孔部分3aと後半の孔部分3bと中間の収容部5とで成り、収容部5は略球状の空間(収容室)で、前後の各孔部分3a,3bよりも大径である。図3(b)の如く前半の孔部分3aは後半の孔部分3bよりも例えばテーパ状に大径に形成されることが、繊維導体1(図1)の結び目2を収容部5にスムーズに挿入且つ確実に係止させる上で好ましい。
【0025】
この場合、前半の孔部分3aは前部開口3cが最も広く、後側の収容部5に向かうにつれて漸次小径に形成され、後半の孔部分3bは前半の孔部分3aの後端と同等かそれよりもさらに小径に形成される。後半の孔部分3bの内径は自由状態の繊維導体1の外径と同等に形成されることが、結び目2の係止力(後抜け防止性)を高める上で好ましい。前半と後半との各孔部分3a,3bは必ずしも同じ長さである必要はない。
【0026】
孔部3は電線接続部13の例えば上下二枚の板部14,15に径方向の半割状態に形成することで、容易に形成可能である。この場合、上側の板部14の下面と下側の板部15の上面とにプレス加工等で半割状(断面半円状)の溝部(3)が形成され、上下の溝部(3)が合体して孔部3が構成される。二枚の板部14,15は一側方の屈曲部(折り曲げ部)16で相互に連結されている。
【0027】
下側の板部15の下半側にタブ状の電気接触部12が一体に突設される(下側の板部15は電気接触部12よりも厚い)。あるいは、下側に板部15のさらに下側に三枚目の板部17が設けられ、上から二枚目と三枚目の各板部15,17は他側方の屈曲部(折り曲げ部)18で相互に連結され、三枚目の板部17にタブ状の電気接触部12が板部17と同じ板厚で一体に突出形成される。電気接触部12の付根(基端)の上側に孔部3の前部開口3cが位置する。電気接触部12は電線接続部13の幅方向中央に位置する。
【0028】
図4の如く、孔部3に繊維導体1を挿通(貫通)させ、電気接触部12の上側に繊維導体1の軽く(緩く)結んだ結び目2を位置させた状態から、矢印Aの如く繊維導体1を後方に引っ張る。結び目2は軽く結ぶことで、図5において収容部5の内面に大きな面積で接触させることができる(図4の状態で結び目2を強く結んでいると、図5において収容部5の内面との間に隙間を生じて接触性が低下する懸念がある)。
【0029】
図4の状態から繊維導体1すなわち絶縁被覆8(図2)を含む繊維導体電線7を後方に引くことで、軽く結んだ結び目2が前半の孔部分3aに挿入案内されつつ、図5(a)(b)の如く結び目2が収容部5内に係合し、結び目2の外周面が収容部5の内周面に密着(隙間なく接触)して、良好な電気的接続性を発揮すると共に、収容部5内にしっかりと係止されて後抜けが防止される。後半の孔部分3bの内周面には結び目2から後方の繊維導体部分1bがほぼ隙間なく接触して、電気的接続性を発揮する。
【0030】
図4においては絶縁被覆8を図示していないが、端子4から後方に導出された繊維導体部分1cを絶縁するためには、少なくとも図4の状態で後方に導出された繊維導体部分1cは絶縁被覆8で覆われていることが好ましい。この場合、図5において端子4の後端4bと絶縁被覆8の前端との間には引張長さ分の繊維導体部分が露出するので、その露出部分は必要に応じて絶縁テープ等で絶縁処理する。
【0031】
その手間を省くには、例えば図2(b)において絶縁被覆8を薄く形成し、図1(b)において結び目2の後方に近接して絶縁被覆8の前端を位置させ(絶縁被覆8の前端の近傍に結び目2を作り)、結び目2の外径(最大径)を絶縁被覆8の外径よりも大きくし(必要に応じて一重結びではなく、八の字結びやもやい結び等を採用し)、図3の端子4の孔部3の内径を絶縁被覆8の外径と同程度に設定し、図4の如く繊維導体電線7を後方に引っ張って、結び目2を場合により少し縮径させつつ孔部3よりも大径な収容部5に隙間なく係合(嵌合)接触させる。
【0032】
これにより、孔部3の後端3d(図3)から絶縁被覆8が導出されて繊維導体1が簡単且つ確実に絶縁される。絶縁被覆8として、絶縁樹脂ではなく薄肉のエナメル等を用いることも可能である。
【0033】
図1の繊維導体1のみの電線を用いる場合や、エナメル等の薄い絶縁皮膜(8)を有する繊維導体電線(7)を用いる場合、あるいは図2のような厚い絶縁被覆8を有する繊維導体電線7を用いる場合は、図1(b)の状態から結び目2の後方の繊維導体部分1cの後端部(図示せず)を図3の端子4の孔部3の前部開口3cから後向き(電線引張方向)に挿入する。
【0034】
図1(b)の結び工程を端子4への電線7の挿入前ではなく端子4への電線7の挿入後に行う場合は、結び目2のない繊維導体1の先端部(前端部)1aを孔部3の後部開口3dから前向き(電線引張とは反対方向)に挿入し、その後、繊維導体1の先端側部分(1a)を図1(b)のように結んで、図4のように繊維導体1を後方に引っ張る。この場合は、厚い絶縁被覆8を有していても、孔部3を繊維導体1の外径とほぼ同じ内径で小径に形成可能である。
【0035】
収容部5の位置を電線接続部13の前端寄りに設定すれば、絶縁被覆8の前端8aから孔部3の後端3dまでの間の繊維導体1の露出長さも短縮可能である。前半の孔部分3aの内径を繊維導体1の外径と同程度に設定し、後半の孔部分3bの内径を絶縁被覆8の外径と同程度に設定すれば、繊維導体1の露出を防止できる。
【0036】
また、少し工数はかかるが、図3の端子4の下側(中間)の板部15に対して上側の板部14を開いて孔部3の内面を露出させた状態で、繊維導体1を上方から孔部3に挿通させ(結び目2は図4のように孔部3の前方に露出させる)、上側の板部14を閉じて図4の矢印A方向に引っ張ったり、あるいは、上側の板部14を開いた状態で、結び目2を直接、収容部5内に挿入嵌合して、上側の板部14を閉じることも可能である。
【0037】
他の実施形態として、図5において、結び目2を収容部5に収容した後、端子4の電線接続部13の底面と上面すなわち本例で一番下の板部(底板部)17と一番上の板部(上板部)14とを矢印Bの如く板厚方向に押圧して、結び目2の外面と収容部5の内面との接触性を高めることも有効である。孔部3の内周面と繊維導体1の外周面との接触性も同時に高められる。
【0038】
電線接続部13を二枚の板部(下側の厚い板部と上側の薄い板部)14,15で形成した場合も、同様に上下の板部14,15を押圧して、結び目2の外面と収容部5の内面等の接触性を高める。これら電線接続部13の押圧操作はプレス機等で行うことが好ましい。
【0039】
なお、上記実施形態においては、雄型の電気接触部12を有する端子4を用いたが、略矩形筒状(内部に弾性接触片を有する)や眼鏡状等の雌型の電気接触部の後方の底板延長部に図3と同様の電線接続部13を一体に形成した端子(図示せず)を用いることも可能である。
【0040】
また、図3においては、電線接続部13を左右方向に幅広に形成したが、例えばタブ状の電気接触部(タブ部)12と同程度に幅狭に電線接続部13を形成することも可能である。この方が例えば不図示の絶縁樹脂製のコネクタハウジング内に端子4を収容する際に、端子収容室(図示せず)がファインピッチ化される。
【0041】
また、端子4に代えて導電金属製のバスバー(図示せず)の端部に図3の電気接触部13を一体に形成することも可能である。この場合、図3のタブ部12が長い板状のバスバーに代わる。また、端子4として、電気接触部12のないジョイント(短絡)端子や、アース用の丸型板端子等を用いることも可能である。
【0042】
また、端子4の孔部3として、前半の孔部分3aを収容部5と同じ内径とし(前半の孔部分3aが収容部5を含む)、後半の孔部分3bを前半の孔部分3aよりも小径に、繊維導体1の外径と同程度の内径で形成することも可能である。
【0043】
また、繊維導体1として、図2の例では各繊維(素線)9の外周面に金属メッキ10を施したが、メッキ10に代えてカーボンや導電金属粉等の導電材を合成樹脂製の各繊維9に含ませて成る繊維導体(1)を用いることも可能である。
【0044】
また、上記実施形態においては、一本の繊維導体1の端部に結び目2を形成したが、例えば分岐用のジョイント端子等を用いる場合は、繊維導体1の長手方向の中間部に結び目2を形成し、その結び目2を端子4の孔部3(収容部5)に挿通係止させることも可能である。その場合、二本の繊維導体1の各端部をこま結び等で結ぶことで、一つの結び目2を形成することも可能である。
【0045】
また、繊維導体1に代えて通常の導電金属製の複数の素線で成る導体を結ぶ作業は、各素線の屈曲性が悪く、多くの工数を要してなかなか困難である。従って、繊維導体1に代えて導電金属製の導体を用いることは、既存の圧着接続をする場合に較べてメリットは少ないと言える。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明に係る繊維導体電線の接続構造及び接続方法は、容易に屈曲可能な繊維導体を端子やバスバーの端子部等(端子と総称する)に容易に且つ確実に接続させるために利用することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 繊維導体
2 結び目
3 孔部
4 端子
5 収容部
7 繊維導体電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維導体に結び目が形成され、端子に該繊維導体を挿通させる孔部が設けられ、該孔部が該結び目を収容する収容部を有し、該孔部に該繊維導体が挿通され、該収容部に該結び目が係止され且つ電気的に接触したことを特徴とする繊維導体電線の接続構造。
【請求項2】
繊維導体を緩く結んで結び目を形成し、端子の孔部に該繊維導体を挿通させ、該繊維導体を引っ張って、該結び目を該孔部内の収容部に係合させつつ、該収容部に電気的に接触させることを特徴とする繊維導体電線の接続方法。
【請求項3】
前記収容部内の前記結び目の上から前記端子を押圧して、該結び目を前記収容部に密着させることを特徴とする請求項2記載の繊維導体電線の接続方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−70464(P2012−70464A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−210434(P2010−210434)
【出願日】平成22年9月21日(2010.9.21)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】