説明

繊維強化セラミック複合材料層を有する歯科成形修復用シート

【課題】種々の歯科用成形修復物を作成するための、優れた硬度及び靭性を有する新規な歯科用セラミック繊維強化複合材料のペースト状の層を有する歯科成形修復用シートの提供。
【解決手段】セラミック粉末(a)のスラリーを、強化用セラミック繊維(b)に含浸してなるペースト層を樹脂フィルム上に設けてなる繊維強化セラミック複合材料のペースト状の層を有する歯科成形修復用シートであって、該セラミック粉末(a)は、アルミナ粉末(a1)及び/又はジルコニア粉末(a2)であり、該強化用セラミック繊維(b)は、強化用アルミナ繊維(b1)又はジルコニア繊維(b2)であり、該ペースト層は、厚さが0.05mm(50μm)乃至4mm(4000μm)であり、前記フィルム上に形成後の粘度(η)が10〜10(Pa・s)であり、該セラミック粉末、及び該強化用セラミック繊維のうち少なくとも一方は、表面活性化処理されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改良された歯科用材料に関し、特に、繊維強化された無機粉末材料からなる歯科用セラミック材料、そのグリーンペーストを支持体上に層状に設けた歯科成形修復用シート、及び、これから得られる歯科用焼結体に関する。この歯科用セラミック材料、その歯科成形修復用シート及び歯科用焼結体は、成形修復用歯科材料、及び義歯材料として非常に有用である。
【背景技術】
【0002】
歯科用材料には、これらの他にも、歯科印象材料、歯冠補綴用材料、合着・接着用材料、インプラント材料、切削研磨用材料などがあるが、これらを含む歯科用材料の材質としては、金属、セラミック(陶材)、レジン及びこれらの複合材料が用いられており、うち、本発明は、セラミック材料に属する。
従来、セラミック材料、歯科用陶材成分には、主に、(i)長石質(正長石;KO・Al・6SiO)、(ii)石英(SiO)、(iii)陶土(カオリン;Al・2SiO・2HO)を主成分とするものが用いられてきた。これら3者のうち、(i)の長石(KO・Al・6SiO)は、成分比で80−90%を占め歯科用陶材の主成分であり透明性の維持及び増加、他成分(石英、陶土)の結合、造歯形状の維持に寄与し、(ii)の石英(SiO)は、成分比で10−20%を占め強度の増大、焼成時の保形に寄与し、(iii)の陶土(Al・2SiO・2HO)は、成分比で0−5%を占め賦形性(築盛、成型)を高めるものである。
主成分の長石(カリ長石)は1250―1500℃で融解し、粘度が高く熱塑性流動度の小さな透明ガラスである。陶材の熱塑性流動は、陶歯焼成時の好ましくない変形と密接に関係し、形態を損わないためには、熱塑性流動は小さいものがよいが、天然の正長石には少量のソーダ長石(Na2O・Al・6SiO)は不可避的に混入し、このソーダ長石は正長石の融点を低下させる反面、熱塑性流動を低下させ、かつ、焼成体の透明度を低下させる。また、(iii)陶土の添加量が増えても焼成体の透明度が低下する。そこで、通常は、中温焼成陶材(焼成温度;1100〜1250℃)、低温焼成陶材(焼成温度;800〜1100℃)にするため、長石、石英、陶土にフラックス(融剤;CaONaO,KONaCO、KCO、CaCO,Na(ホウ砂)を加えて溶融後、水中に投入・急冷・粉砕・篩掛して得たフリット)を配合している。
このような長石、石英、陶土を主成分とする歯科用陶材のうち、典型例としては、(i)長石質陶材、及び、(ii)アルミナ陶材が挙げられる。
(i)長石質陶材は一般に硬くて脆い。(ii)アルミナ陶材は、この欠点を補うため、(a)長石質陶材に、アルミナ(Al)を添加したものである。長石質陶材にアルミナ(Al)を添加すると、歯科材料の強度は増加するが、陶材は白濁して透明度が低下する。そのため、(ii)のアルミナ陶材は、全部陶材冠を作製する際のボディやコア用として使用されてきた。問題は、(i)の長石質陶材、及び(ii)のアルミナ陶材共に、焼結後の著しい体積減少がある点を含む成形上の煩わしさにもある。
【0003】
しかし、(i)の長石質陶材、及び、(ii)のアルミナ陶材は、成形、焼結後の色調が天然歯色に近く、また、微妙な色調調整が可能なものであるので、成形操作が改善され、また脆さが改善されれば、全部陶材冠を作製する際のボディやコア用としての使用だけでなく、成形修復材料、歯冠用材料、歯冠補綴用材料及び義歯用材料としても本来は適しているはずであるが、そのためのベースト作成、築盛・型取り・コンデンスを含む成形、及び焼成過程にも、改善すべき点が多い。
即ち、例えば陶材を用いて種々の歯科用成形修復物を作成するときに、成形過程は、一般に、ペースト作成―築盛―コンデンス−乾燥―焼成の操作が行なわれ、さらに、歯の色調や透明度に合わせるために数種類の粉末を用いた成形が行なわれるが、例えば築盛(陶材粉末と蒸留水を混ぜたペーストをスパチュラや筆を用いてセラミックスのコアやメタルフレーム上に盛り上げる操作)により、得られた築盛体のコンデンス(築盛体内の水や気泡を除去し、陶材粒子の充填密度を高めるための操作)の結果は、常時一定でなく、常に完全に満足できるものが得られる訳ではないという問題がある。
【0004】
陶材粉末は水と混合すると粘りを出し、築盛操作に都合のよいベースト状を呈する。しかし、築盛操作が長引くと、水が蒸発して操作性が低下する。これを防止するため、高粘度で蒸発し難い専用液を添加すると、その高粘度が原因で、充分なコンデンスができず、焼成収縮が大きくなることがある。一般に、焼成時には32〜37Vol. %の焼成収縮を生じるため、焼成前の築盛体は、実際の歯の大きさよりもやや大き目に調製しなければならず、熟練を要する。このような問題は、鋳造等の他の成形操作の場合も、基本的には生じる。
【0005】
陶材の築盛に用いられたペースト中の水は、その表面張力により陶材粉末の結合材となり、築盛体の形態を保持する作用があるがしかし、築盛体内に残留する水分は、焼成時に揮発して、焼成収縮や気泡発生の原因となり、焼結体の強度や透明度の低下に影響を及ぼす。そのため、焼成収縮や気泡発生を最小限になし、乾燥時の形の歪みを最小限になすべく、コンデンスにより築盛体内の水分をなるべく少なくするため、築盛体に振動を与えて水分を表面に浮き上がらせる振動法、築盛体の表面を彫刻刀でなでながら軽くたたき、表面に浮き上がった水分を吸い取るスパチュラ法、築盛体の上に乾燥した粉末を軽く振りかけ、毛細管現象により水分を吸い取るブラッシュ法等が、臨床では行なわれている。また、大粒径粒子の陶土粉末に、小粒径粒子の陶土粉末を配合することにより、大粒径粒子粉末由来の粒子間の大きな空隙率を低下させることも知られているが、大粒径粒子の陶土粉末を用いると、これらが融着した焼結体の大収縮率、表面性及び内部の大空隙が問題となり、小粒径粒子の陶土粉末を用いると、コンデンスによる水分除去がより困難となる。
【0006】
また上記のように、陶材の強度増加のためアルミナが添加されるが、陶材の強度はアルミナの添加率増大に伴って増加し、かつ、アルミナ粒子の平均粒径が小さいほど、強度を増す。しかし、アルミナは、大抵の場合、湿式処理され、焼成されて後に得られる焼結体が、組織や密度で均一性に欠けることがしばしば生じる。湿式処理の際、スラリー中で粒子が凝集することが主な原因である。スラリー中の凝集体はスラリー粘度の上昇を招き、高粘度がさらにスラリー中での粒子の分散を妨げる。スラリー中での粒子の高分散を保つためには、粒子のζ電位を高くせねばならない。図1にはアルミナ粉末のζ電位、スラリー粘度、スラリー液のpHの関係が示される(出典;非特許文献1の(社)日本セラミック協会「セラミック工学ハンドブック」1989年4月10日技報堂、pp866)。粒子を高いζ電位状態に維持すれば、円滑な焼結(粒子相互の融着)にも寄与するものと思われる。しかし、歯科材料成形の都度このような操作を的確に遂行するのは容易ではない。
とはいえ、例えばアルミナ微細粒子(酸化ジルコニア粒子でも同様)を用いて種々の歯科用成形修復物を作成する際の利点は、材料力学的見地から、想像することができる。以下、念のため、従来から知られている主要部分について、以下、略記する。
【0007】
一般的に、m距離(a)だけ離れた1対の原子、イオン或いは超微粒子のポテンシャルエネルギー(Ua)は、距離(a)の関数で、近似的に、次式(1)、
(Ua)=(−A/an)+(B/am) 式(1)
(ここで、A、B、n及びmは正の値の物質定数で、n<m)
で表され、n<mであるから、図2のように、a=a0のところで深さUの谷底を持つ曲線となる。変位に必要な力(f(a))は、次の式(2)、
f(a)=−[(dUa)/(da)]=[(−nA/an+1)+(mB/am+1)] 式(2)
で与えられる。第1項は引力、第2項は斥力を表している。a=a0のところでf=0となるが、この位置からいずれの方向にずれても、元に引き戻す力が作用するので、この位置が安定な平衡点になっている。応力(σ)は−fに比例するから、a方向の垂直ひずみに対するヤング率(E)は、次の式(3)
−(df/da)=(dU/da) 式(3)
に比例する。つまり、ヤング率は、Ua曲線の谷底の曲率、或いはf(a)曲線の勾配に比例する。
【0008】
融点、昇華熱、弾性定数、潜膨張率などは、いずれもポテンシャルエネルギー曲線の形と関連がある。谷底の深さ(E0)は、温度0Kにおいて原子同士を無限の距離に引き離すに要するエネルギーであるから、強い結合ほどポテンシャルの谷が深く、このため融点が高く、昇華熱が大きい傾向にあり、また、谷底の切れ込み先端の曲率が大きいので、線膨張率が小さくヤング率が高い傾向にある。ヤング率の大きいものから並べると、およその傾向として、共有結合、金属結合、イオン結合、ファン・デル・ワールス力(ポリアミドのCONH部位や、セルロースのOH部位に対する水素配位結合を含む)などによる分子結晶などの順になる。
【0009】
ところで、一般に、蜜実に充填された微粒子からなる構造力学材料の応力下でのポアソン変形及び降伏変形に対する強度(σ)は、次の式(4)
σ=σ+k・d−1/2 式(4)
(ここで、σは原強度、dは粒子の粒径、kはすべり転移常数を表わす)
で表わされることが知(Hall-Petchの降伏強度の粒度依存性関係式)られているが、これは、静圧応力か動的応力かによっても異なり、かつ一口に動的応力と云っても、高周波数の振動応力と低周波数の周期的振動応力とで異なり、更に、ずり応力、引張応力、圧縮応力、曲げ応力でも値は異なる。無論、材質によっても異なる。例えば、ガラスに引張応力をかけた場合、静的疲労を生じるが、これは、環境との相互作用に基くもので短い場合には、0.01秒程度でも破壊する。表面の傷にガス吸着を生じる(全ての吸着と同様、発熱反応つまり内部潜熱の放出反応であって、不可避的)ためと考えられているが、ソーダガラスの場合、200℃以上ではクラック先端が鈍化するので疲労抵抗を増す。押込み型硬度計で硬度を測定するときには、Griffinth理論から、得られる表面エネルギーも金属の場合と同様、表面エネルギーより桁違いに大きくなっており、クラック周辺での塑性仕事(微小塑性変形)が存在する。
【0010】
この点について付言すると、ガラスや高分子材料のような無定形材料では完全脆性を示し、結晶体では破壊前に塑性変形が進むが、Griffinthは、いずれにしても、脆性を示す材料では最初に存在する楕円形状微小クラックの先端に応力集中があり、これによってクラックが成長して弾性エネルギーが解放されるが、一方では表面(活性化)エネルギーが増加し、破壊が生じ、この場合、弾性エネルギー、表面(活性化)エネルギールを含む全体エネルギーの増加がない限り破壊が進行すると考えたが、この理論は、その後、一般に受け容れられている。
【0011】
図3に示すように、端部クラックの長さ(C)或いは内部クラックの長さ(2C)の半分(C)と、クラック先端の最大応力値(σm)、クラック主軸先端の曲率半径(ρ)、クラックに垂直にかかる応力(σ)の間には、次式(5)の関係が成り立つ。
σm=2σ(C/ρ)1/2 式(5)
いま、クラック先端の最大応力値(σm)が理想強度(Eγ/a1/2であるとし、クラック先端の半径(ρ)を2に等しいと置くと、
σf=(Eγ/2C)1/2 式(6)
また、エネルギー的に考えた場合、クラックが伝播しはじめると弾性エネルギーが解放されるが、一方クラックが大きくなるので表面エネルギーが増加する。クラックが拡がるため開放されるエネルギーは、単位厚さあたりの板に対して、
Uf=−(πCσ)/(E) 式(7)
で、この場合の表面エネルギーの増加(Un)は、「Un=4Cγ」である。
このような結果は、破砕や粉砕によって新たに生じた劈断面が活性であるという経験則によく一致している。
【0012】
陶材(セラミックス)の変形と破壊を考える場合、すべりと延性について見ると、延性は、3つの大きな因子により影響される。第1は構造転位の運動に必要な応力レベルが破壊応力に比べどれだけ低いかということであり、第2は転位源の密度であり、第3は可能なすべり系の数である。これらは、結晶すべり、双晶、粒界すべり及びHerring-Nabarroクリープ(高温で熱平衡に存在する原子空隙が、応力を緩和する方向に流れ、粒界に達し、消滅するので、そのため一方方向へ生じるクリープ)機構を含んでいるが、転位の運動は原子の結合様式による。劈解されたAlの場合、結合が強く、したがって、転位の運動に対するパイエルス力(転位が結晶中を動く場合に超えなければならない障壁エネルギーであるPeiels Gapを超えるために必要な応力)が高いため、T/Tm=0.6以下(Tmはケルビン度(k)による融点)の転位の運動は不可能である。また塑性をほとんど持ち得ない場合、表面損傷に対して敏感である。共有結合性の強いAlの方が、イオン結合性の強いMgO(これは非常に多用されるセラミック成分中で、酸素原子との結合性が非常に強い金属原子の典型例である)に比べ転位の運動に対する抵抗が高い。つまり、Alについては高温でのみ、すべりが可能である。より共有結合性の強いZrOの場合は、より高温でのみ、すべりが可能である。一方、MgOのようにイオン結合性の強いものでは容易にすべりを生じ易い。もし、原子間結合がイオン結合と金属結合の中間であるようなAgClの場合には、転位の運動はより容易である。しかし、低温になればいずれの場合も転位の運動に対する抵抗は大きくなる(非特許文献2の井形直弘著「材料強度学」1996年9月30日(株)培風館発行、pp16―17、210−211参照)。
【0013】
現在、歯冠修復材料として金属、陶材、ガラスセラミックス、レジンなどが用いられているが、その中でも歯科用セラミックスは天然歯に似た色調や光沢があり、生体親和性、硬さ、圧縮強さ、耐摩耗性などの特徴を持っており、金属焼付陶材冠、全部陶材冠、ラミネートベニヤなどの審美性修復材料として臨床で広範に応用されている。一般的に、金属焼付陶材冠は陶材の機械的強さを補うために金属で裏装することから、金属色による審美性の阻害や金属に起因するアレルギーなども懸念される。また、全部陶材冠は審美性に優れるものの強さ面に劣る。そのため歯科用セラミックスの優れた審美性を維持しつつ、また金属アレルギーの観点からも完全なメタルフリーを目指すために、機械的性質を改善したオールセラミックスの研究、開発が進んでいる。特に、キャスタブルセラミックス・加熱加圧成形セラミックス・CAD/CAM用セラミックスなどの材料は歯科臨床に既に応用されている。しかしながら、専用設備を必要とするなどの難点がある。
【0014】
一方、材料の機械的性質を向上させる手段の一つとして材料の複合化があり、これは二種類以上の基材を組み合わせて単一の材料にはなかった特性を生み出すものである。現在広く歯科臨床に応用されているコンポジットレジンは、マトリックスレジンをフィラーで強化した粒子複合材料の一種である。
【0015】
歯科材料のさらなる機械的性質向上のために、特に強化繊維による補強が考えられ、ガラス繊維・アラミド繊維・ポリエチレン繊維などを強化材としたクラウンやブリッジあるいは義歯床に関する研究はいくつか見られる。
Vallittu(非特許文献3:Vallittu PK, Lassila VP, Lappalainen R: Transverse strength and fatigue of denture acrylic-glass fiber composite, Dent Mater, 10: 116-121, 1994.)らは、義歯床用レジンをシラン処理したガラス繊維で補強したガラス繊維強化義歯床用レジンを作製した。その結果、強化していない義歯床用レジンと比較してせん断強さが約1.5倍増加したと報告している。同じくTanimoto(非特許文献4:Tanimoto Y, Nishiwaki T, Nishiyama N, Nemoto K, Maekawa Z: A simplified numerical simulation method of bending properties for glass fiber cloth reinforced denture base resin, Dent Mater J, 21: 105-117, 2002.)らは、試作ガラス繊維強化義歯床用レジンは、強化されていない義歯床用レジンと比べて曲げ強さが約2.3倍向上したと報告している。これらの結果は、ガラス繊維の表面をシラン処理することにより、ガラス繊維とレジンが化学的に結合しており、構造体としてガラス繊維の高強度を効率良く引き出しているためである。一般的にガラス繊維強化レジンを用いたシステムは、ガラス繊維にあらかじめ樹脂を含浸させたシートを用いることにより、気泡を減らすとともに操作性の向上を図っている。しかしこのシステムは、歯科用高分子材料を強化繊維で補強したものであり、歯科用セラミックスをセラミックス繊維で補強したセラミックス繊維強化セラミックスに関する報告はない。これは気泡を発生させることなく、粉末あるいは泥状のセラミックスと繊維を複合化することが非常に困難なためである。このことからセラミックス繊維とセラミックスマトリックスを効率良く複合化させる手段として、歯科用セラミックスのシート化が考えられる。
【0016】
工業分野において,セラミックスの微粉末と有機バインダ、可塑剤などを混合して調製したスラリーを、キャリアフィルム上に流延して、乾燥させた後、キャリアフィルムから剥離して、薄いシート状セラミックスを得るための成形方法としてドクターブレード法を用いたテープキャスティング技術がある。この方法の大きな利点は、任意の厚みの均一なセラミックスシートが得られることである。
Shimokawa(非特許文献5:Shimokawa R, Takahashi T, Takato H, Ozaki A, Takano Y: 2μm thin film c-Si cells on near-Lambertian Al2O3 substrates, Sol Energy Mater Sol Cells, 65: 593-598, 2001.)らは、ドクターブレード法を用いたテープキャスティングにより、アルミナのシート化を行い、厚さ2μmの均一な薄いアルミナシートが得られたと報告している。さらにYeo(非特許文献6:Yeo JG, Jung YG, Choi SC: Zirconia-stainless steel functionally graded material by tape casting, J Eur Ceram Soc, 18: 1281-1285, 1998.)らは、テープキャスティングにより、ジルコニア/ステンレスの比率を変えた複数のシートを作製し、これらを積層することによって、厚さ方向に材料特性を傾斜させた傾斜機能材料を作製することが可能であったと報告している。
これらのことからテープキャスティングにより作製したシート状のアルミナ繊維強化アルミナセラミックスは、従来の歯科用陶材、キャスタブルセラミックス、加熱加圧成形セラミックス、CAD/CAM用セラミックスなどとは異なる新しい歯科用セラミックスとして期待される。しかしながら現在までに操作性に優れたシート状の歯科用セラミックスの開発に関する報告はない。
【0017】
特許文献1の特開2000−139959号公報には、57〜65wt%のSiO、15〜25wt%のB、8〜18wt%のAl、0.2〜8wt%のLiO、3〜7wt%のNaO、及び0.1〜2wt%のZnOからなる組成を有するディオプサイトガラスセラミックス薄層を粉砕して得た平均粒径37μmの粉末からなり、熱膨張係数が6.0×10−6以下と極めて低い歯科用陶材が記載されているが、これは、前記のように、シリカを主成分とする陶材に、強度増加のためアルミナが添加されものである。
【0018】
特許文献2の特開平10−113355号公報には、(A)一部がアルミナ繊維であってもよいアルミナ粉末、スピネル粉末、及びアルミナとジルコニアの混合粉末から選ばれたセラミック100重量部、(B)0.5〜2.0重量部の界面活性剤(分散剤)、(C)30〜90重量部の有機溶媒、(D)5〜12部のブチラール樹脂のような結合剤からなる人工歯形成用スラリー組成物を樹脂フィルムに塗工してセラミックシートを形成する方法が記載されているが、これは、界面活性剤及びブチラール樹脂のような結合材樹脂成分を用いたものであり、賦形には適しているが、焼結時には揮発性有機質成分の管理を必要とする。
【0019】
特許文献3の特表平11−502733号公報には、前処理した歯牙の窩洞乃至前処理した歯牙残存部に嵌め込むための修復用インレー、義歯冠又は修復用橋義歯又は橋脚のような義歯作成方法であって、窩洞乃至歯牙残存部の三次元構造を測定し、インレー乃至義歯冠の予め設定した拡大率により拡大した三次元の原形を、酸化ジルコニウム又は酸化アルミニウムセラミック、又は炭化物又は窒化物セラミックの硬質材料を1000〜1300℃で予備焼結してなる歯牙補綴物用材料から作成し、窩洞乃至歯牙残存部の収縮が相当する寸法でその原形を後処理することを内容とする義歯修復用補綴物の作成方法が記載されているが、これは、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、炭化物又は窒化物毎に、焼結後の寸法収縮に対する固有の配慮を必須とする。
【0020】
特許文献4の特開2005−118574号公報には、下層構造と、この下層構造と結合可能でかつ下層構造を少なくとも1部分被包する上層部位と、該下層構造と上層部位とを結合する硬化性樹脂又はセラミックの結合材料からなり、該下層構造が金属枠材、金属セラミック枠材、セラミック枠材であり、該上層部位が酸化アルミニウムセラミック又は酸化ジルコニウムセラミック又はガラスセラミックであり、該結合材料が光硬化性樹脂、自然硬化性樹脂又はセラミックである咬合要素が記載されているが、これら材料は、樹脂、金属、セラミックとそれぞれ線膨張率が大きく異なる材料の積層構造である。
【0021】
特許文献5の特開2000−302521号公報には、2〜7重量部の繊維長5μm以上のシリカ系ガラス繊維と、93〜98重量部の石膏を含有する多孔質成形物を焼成してなる歯科用陶材フレームが記載されているが、これは、上記特許文献1記載の歯科用陶材と同様、シリカを主成分とする陶材である。
【0022】
特許文献6の特表平8−508025号公報には、アルミナ、ジルコニア、シリカ、炭化ケイ素、窒化ケイ素、燐酸カルシウムより選ばれ、焼成中の亀裂発生を防止するための強化補強材繊維又は薄片の5〜60重量部と、シリカ、アルミナ、酸化カルシウム及び酸化ナトリウム粉末の25重量部以下を必須成分とする混合物を焼成、粉砕して形成したフリット粉末と、溶剤及び/又はキャリアとを含むペースト又は噴霧可能液を、非凝集性の離型剤粉末を表面に施した耐火性コアに被覆、910〜1150℃で焼成してなる歯牙修復物作成用のセラミックスキャップ形成材が記載されているが、このキャップ形成材は、補強材繊維又は薄片を単に粉末材料に混合しており、緊張状態で粉末材料中に配置し、焼成したものではない。
【0023】
一方、シート状の生体無機材料の例として、特許文献7の特開平2−241460号公報には、生体吸収性高分子物質からなる基材シートの少なくとも片面側にリン酸カルシウム系化合物からなる粒子を付着させプレスすることにより、前記粒子の一部を前記基材シートに埋入させ、表面から裏面まで連通する連通孔が設けられ、前記基材シートを打ち抜くことにより、平均孔径が10〜2000μmの連通孔を多数設けてなる骨補填用シートが記載されており、特許文献8の特開平5−220211号公報には、アパタイトと、酸によって溶解したキトサンゾルとを混合した混合体によって作られたシートを有し、該シートはI族金属及びII族金属元素のグループから選択された少なくとも一つの元素を含む化合物の溶液によって中和されていることを特徴とする、生体内で毒性がなく、化学反応終了後は生成物が中性付近の硬化物であり、骨形成に優れたシート状骨補填剤が開示されており、特許文献9の特開2000−126280号公報には、ポリ−L−ラクチド(PLLA)、ポリ−D−ラクチド(PDLA)、ポリ−D,L−ラクチド(P−D,L−LA)、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、L−ラクチド/グリコライド共重合体、D−ラクチド/グリコライド共重合体、L−およびD−ラクチド/グリコライド共重合体(P(LA/GA))、L−ラクチド/カプロラクトン共重合体、D−ラクチド/カプロラクトン共重合体、L−およびD−ラクチド/カプロラクトン共重合体(P(LA/CL))からなる群から選択された生体吸収性高分子物質からなる基材シートの少なくとも片面側にリン酸カルシウム系化合物からなる粒子を付着させ該シートを加熱下にプレスすることにより、前記粒子の一部を前記基材シートに埋入させてなり、粉体が体内に散在しないようにした骨補填用シートが記載されている。
【0024】
しかしながら、これら特許文献7〜9記載の骨補填用シートは、Al、ZrO系のセラミック材料を用いたものでなく、特許文献7記載の骨補填用シートにおいては、リン酸カルシウム系化合物の粒径について留意する開示はなく、また、特許文献8記載の骨補填用シートについては、800℃〜1100℃で3〜7時間焼成し無機質のみとした粒径100μm以下、好ましくは74μm以下の牛骨粉(アパタイトよりも生体の骨を伝達する速度が速いとのこと)50〜1重量%と、アパタイト50〜99重量%とからなるリン酸カルシウム系化合物と、酢酸、ギ酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、アジピン酸、酒石酸、マロン酸などの酸によって溶解したキトサンゾルとを混合して混合体を作り、これをシート状に形成し、形成されたシートを少なくともI族金属及びII族金属元素のグループから選択された少なくとも一つの元素の化合物を含む水溶液によって中和することにより製造されるものであることが記載されているが、リン酸カルシウム系化合物自体の粒径については記述がなく、さらに、特許文献9記載の技術で用いられるβ―TCP顆粒体の粒径は、制限があるものではなく、好ましくは0.1〜10mmであるとして、比較的大粒径粒子を推奨している。
【0025】
また、これら特許文献7〜9記載のアパタイトのような燐酸カルシウム系補填材料を可撓性シート材料表面に層状に塗工してシート状骨補填材料を製造する前記従来技術は、概して燐酸カルシウム系材料の粒径に特段注目するところがなく、燐酸カルシウム系材料の比率が低くてバインダの使用量が多く、液組成物乃至ペースト状組成物の長期間保存性が満足すべきレベルになく、塗工液又はペーストの粘度が高過ぎ、したがって、塗工操作の調節が難かしく、不均一な塗工層を生じ易く、また、得られたシート状骨補填材材料は、湿潤性に欠け、通常の取り扱い態様時に骨補填材料層がシート材料表面からに剥離、脱落し易く、又は、必要時に所要形状の剥離パターンで的確にシートから骨補填材料層のみを剥離することができず、骨補填材料の活性度が劣り、したがって骨の生育に長期間を要すると云った問題点が克服されていない。
【0026】
【特許文献1】特開2000−139959号公報
【特許文献2】特開平10−113355号公報
【特許文献3】特表平11−502733号公報
【特許文献4】特開2005−118574号公報
【特許文献5】特開2000−302521号公報
【特許文献6】特表平8−508025号公報
【特許文献7】特開平2−241460号公報
【特許文献8】特開平5−220211号公報
【特許文献9】特開2000−126280号公報
【非特許文献1】(社)日本セラミック協会「セラミック工学ハンドブック」1989年4月10日技報堂、pp866
【非特許文献2】井形直弘著「材料強度学」1996年9月30日(株)培風館発行、pp16―17、210−211
【非特許文献3】Vallittu..et al Transverse strength and fatigue of denture acrylic-glass fiber composite, Dent Mater, 10: 116-121, 1994.
【非特許文献4】Tanimoto..et al A simplified numerical simulation method of bending properties for glass fiber cloth reinforced denture base resin, Dent Mater J, 21: 105-117, 2002.
【非特許文献5】Shimokawa..et al 2μm thin film c-Si cells on near-Lambertian Al2O3 substrates, Sol Energy Mater Sol Cells, 65: 593-598, 2001.
【非特許文献6】Yeo..et al Zirconia-stainless steel functionally graded material by tape casting, J Eur Ceram Soc, 18: 1281-1285, 1998.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
本発明の目的は、種々の歯科用成形修復物を作成するための、優れた硬度及び靭性を有する新規な歯科用セラミック繊維強化複合材料のペースト状の層を有する歯科成形修復用シートを提供することにある。この歯科成形修復用シートは、複合材料のペースト層から所望量を簡単に採取し、歯科成形修復の際の成形材料として用いることができる。また、歯科用セラミック繊維強化複合材料の原料調合の際のバラツキをなくしロット毎の品質を一定化することにある。さらに、本発明の目的は、複数の材料が効率よく複合化して強度を向上させた歯科用セラミック繊維強化複合材料のペースト状の層を有する歯科成形修復用シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0028】
上記目的は、以下の本発明によって解決される。
(1)「セラミック粉末(a)のスラリーを、強化用セラミック繊維(b)に含浸してなるペースト層を樹脂フィルム上に設けてなる繊維強化セラミック複合材料のペースト状の層を有する歯科成形修復用シートであって、
該セラミック粉末(a)は、アルミナ粉末(a1)及び/又はジルコニア粉末(a2)であり、
該強化用セラミック繊維(b)は、強化用アルミナ繊維(b1)又はジルコニア繊維(b2)であり、
該ペースト層は、厚さが0.05mm(50μm)乃至4mm(4000μm)であり、前記フィルム上に形成後の粘度(η)が10〜10(Pa・s)であり、
該セラミック粉末(a)及び該強化用セラミック繊維(b)のうち少なくとも一方は、表面活性化処理されたものであることを特徴とする繊維強化セラミック複合材料層を有する歯科成形修復用シート」
(2)「前記表面活性化処理が、該セラミック粉末(a)の水性液中でのζ電位上昇のためのpH調節処理及び/又は微細な表面磨砕傷付与処理からなる表面活性化処理であることを特徴とする前記第(1)項に記載の歯科用繊維強化セラミック複合材料層を有する歯科成形修復用シート」、
(3)「前記アルミナ粉末(a1)は、アルミナ(Al)粉末/ホウ珪酸ガラス(SiO・B)粉末の重量比が50/50〜90/10のアルミナ粉末であり、前記ジルコニア粉末(a2)は、酸化ジルコニウム(ZrO)/酸化イットリウム(Y)のモル比が96/4〜90/10のジルコニア粉末であることを特徴とする前記第(1)項又は第(2)項に記載の歯科成形修復用シート」、
(4)「前記ペースト層は、前記粉末セラミック材料と前記強化用セラミック繊維の他に、さらにホウ珪酸ガラス成分を含むものであることを特徴とする前記第(1)項乃至第(3)項のいずれかに記載の歯科成形修復用シート」
(5)「前記ペースト層は、厚さが0.05mm(50μm)乃至4mm(4000μm)であり、前記フィルム上に形成後の粘度(η)が10〜10(Pa・s)であることを特徴とする前記第(1)項乃至第(4)項のいずれかに記載の歯科成形修復用シート」、
(6)「前記アルミナ(Al)粉末が、平均粒径10μm以下のものであることを特徴とする前記第(5)項に記載の歯科成形修復用シート」。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、種々の歯科用成形修復物を作成するための、優れた硬度及び靭性を有する新規な歯科用セラミック繊維強化複合材料のペースト状の層を有する歯科成形修復用シートが提供され、この歯科成形修復用シートは、複合材料のペースト層から所望量を簡単に採取し、歯科成形修復の際の成形材料として用いることができ、また、本発明によれば、歯科用セラミック繊維強化複合材料の原料調合の際のバラツキをなくしロット毎の品質が一定化され、さらに、本発明によれば、複数の材料が効率よく複合化して強度を向上させた歯科用セラミック繊維強化複合材料のペースト状の層を有する歯科成形修復用シートが提供されるという極めて優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明では機械的性質の向上を図るため、操作性に優れるシート状セラミックの概念を取り入れたセラミック繊維強化セラミックを用いた歯冠成形修復物の成形方法を開発した。すなわち本発明は、金属の代わりにセラミック繊維を用いてセラミックスを補強するため、金属アレルギーの問題を解消できる上、強化繊維によって歯科用陶材の欠点である焼成後の収縮を抑えることができる。さらに本発明では任意厚さを付与したシートあるいはブロック状のセラミックを用いることで、適用部位に合わせた形状として取り扱えるため,非常に臨床操作性も向上する、全く新しい歯冠修復構造材の成形方法を提案するものである。
【0031】
加えて、本発明らは、アルミナ長繊維で強化されたアルミナ微粉末材料からなる歯科用陶材について検討中、或る条件下では、成形物の焼成により、原料のアルミナ微粉末とアルミナ長繊維が一体化した歯科用セラミック繊維強化複合材料が形成されることを見い出し、更に検討を進めた結果、原料アルミナ微粉末の二次凝集を回避すべく、pH調節等により一旦高いζ電位にして純水にて洗浄したアルミナ微粉末材料を用いたペーストより築盛し、焼結した場合、原料微粉末と繊維との一体化が達成されることを知見した。
【0032】
また、緊張状態にあるアルミナ長繊維にアルミナ微粉末分散液を浸透させたペーストより築盛し、比較的低温で焼結した場合に、原料微粉末と繊維との一体化が達成されることを知見した。
【0033】
また、原料微粉末と繊維との一体化を促進すべく、1200℃〜1800℃の比較的高温で、アルミナ繊維で補強されたアルミナ粒子の複合体を焼結処理した場合、焼結体の強度は逆に低下することを知見した。未だ完全に解明された訳ではないが、アルミナ繊維に微笑気孔が生じ、またアルミナ繊維の結晶粒が成長しているためと考えられる。したがって、高温焼結よりも、焼結前の複合材料ペースト作成時の活性化処理の方が、より有効である。さらに、このような結果は、アルミナだけでなく、酸化ジルコニウムを用いた場合にも生じることを知見するに至った。
さらに、焼結助剤としてホウ珪酸ガラスを用いると、アルミナ粒子と、充填剤としてのアルミナ繊維との一体化がより円滑に促進されることが分かった。
【0034】
本発明の歯科用繊維強化セラミック複合材料は、基本的に、セラミック粉末(a)のスラリーを、強化用セラミック繊維(b)に含浸してなるペースト層を樹脂フィルム上に塗工してなる歯科用繊維強化セラミック複合材料である。
該セラミック粉末(a)としては、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al23)、ジルコニア(ZrO2)、チタン酸バリウム(TiO3)、酸化ホウ素(B2O3)、酸化マグネシウム(MgO)、リン酸カルシウム(Ca3(PO4)2)やこれらの混合物例えばムライト(SiO-Al23)、スピネル(MgO- Al23)、ジルコンやジルコサンド(ZrSiO4)等の酸化物系のもの、炭化ケイ素(SiC)、炭化ホウ素(BC)、窒化ホウ素(BN)等の非酸化物系のものが挙げられるが、うち、アルミナ(Al23)、ジルコニア(ZrO2)、炭化ケイ素(SiC)、炭化ホウ素(BC)が好ましく、さらに焼成時に着火の恐れのないアルミナ(Al23)、ジルコニア(ZrO2)をより好ましく用いることができる。
【0035】
アルミナ(Al)はアンダーミリミクロン以下(1.0μm未満)の粒径の(α型又はγ型Al)が、高純度であることもあって、好ましい。即ち、アルミナとしては、純度では99.6%から99.99%(4N)以上まで、1次粒径で0.2μmから5μm以上までの粉末が市販されている。これらは、普通アルミナ、低ソーダアルミナ、高純度アルミナと3つに分類されているが、うち、普通アルミナや低ソーダアルミナは原料水酸化アルミニウムの形骸を有し、凝集体の形になっていて、粒径も1.7μm以上である。一般的なセラミック原料としては、この凝集粒を1次粒子まで粉砕して用い、純度が98%以下のセラミック原料(厚膜用基板やスパークプラグ用)の原料としては、1次粒径が1μm以上の低ソーダアルミナに、SiO−CaO−MgO系のフラックスが添加された粉末が使用されるが、無論、本発明においてこれを使用することも(最善ではないが)可能である。Al23分が99%以上のセラミック(薄膜基板用、切削工具用)原料は通常はサブミクロン粉末である。透光体用や、医療用には高純度アルミナはほとんど例外なしにサブミクロン粉末であり、1000Å以下の微細粒子が存在する中間アルミナのα化が進行し、比表面積が10m/g以下(BET法による測定)になった緻密な微粒子で構成されており、本発明において好ましく用いることができるものである。市販品としては、住友化学社製のAKP−20(φAv=0.58μm)、AKP−30(φAv=0.42μm)、AKP−50(φAv=0.23μm)、バイコフスキー社製のCR−6(φAv=0.52μm)、CR−30(φAv=0.54μm)、大明化学社製のタイミクロン、昭和電工社製のA−43M(φAv=1.0μm)、A−50K、A−50N、A−50F(いずれもφAv=1.2μm)等々が挙げられる。これは、融剤としてのB23(融点=450℃)、具体的にはホウ珪酸ガラス(SiO2・B23)粉末融剤と配合して用いることができる。配合する際の重量比(Al23)/(SiO2・B23)は、50/50〜90/10であることが好ましい。
【0036】
一方、本発明で好ましく用いられるジルコニア粉末は、一次粒径の大きさが20〜50nmと微細であり、これが集合して数μm径の2次凝集粒子を形成している。酸化イットリウム(Y)やMgO、CaO等の融剤を含有させることにより融点、軟化点を低くすることが好ましい。そのための酸化イットリウム(Y)のモル配合比は4〜10モルであることが好ましく、(ZrO)/(Y)のモル比が94/6前後であることが最も好ましい(融点を約1100℃程度に低下させることができる。)。
【0037】
ZrOには、単斜晶、正方晶、立方晶の3つ結晶形があり、単斜晶から正方晶には1170℃で、また正方晶から立方晶には2370℃で結晶変換するが、焼結体とする場合には、通常、MgO、CaO、Yなどの安定化剤を添加し、低温まで安定な立方晶の固溶体(安定化ジルコニアと称する)とする。湿式法によるZrOは、乾式法によるZrOよりも価格が高いが純度が高い(99%以上)であるので、湿式法によるZrOが好ましい。特に、有機金属塩由来で、Yを6モル%含有するZrOは、温度1100℃で焼成することができる。
ZrO製造(焼成)の際のZr(HO)粒径、比表面積(BET法)は、得られるZrOの活性度(焼結温度)に影響を及ぼす。図4には、乾燥ゲルの焼成温度に伴う比表面積の変化が示される。一般に、焼結温度が高く、粒径が大きくなるほど、焼成体の粒子間の凝集も強くなる。
【0038】
本発明で用いられるアルミナ繊維(アルミナ繊維の織布を含む)は、Alを含む多結晶の繊維である。本発明ではアルミナ繊維の織布も用いられるが、これも本明細書では、便宜上、アルミナ繊維として説明する。アルミナ(Al)は融点が2040℃と高い割合に、融液粘度も低いため、溶融紡糸できないので、通常、アルミニウムを含む粘稠液を紡糸して前駆体繊維となし、1000℃以上で焼成してアルミナ繊維とされ、市販されている。
例えば、電気化学工業社製のアルミナ短繊維「デンカアルセン(登録商標)」、これを用い紡糸され、Al70%−SiO20%の組成から成り、繊維径7μmΦ、及び10μmΦの(株)ニチビ製の「ニチビアルフ(登録商標)」のS−640D(7)、S−1280D(7)、S−1920D(7)、S−3840D、S−5760D(7)、RP−18(7)、織布としての3025T、111−P、0909−P、2626−P、2525−P、4018−D、三菱化学製のマフテック(登録商標)シリーズ、大明化学工業社製のALFLEX(登録商標)シリーズ、住友化学社製のアルテックス(登録商標)シリーズ等々を挙げることができる。
【0039】
また、本発明で用いられるジルコニア繊維(ジルコニア織布を含む)は、融点が約2700℃という高融点のセラミック材料である。そこで、ジルコニウム塩溶液を特殊変性及び濃縮した溶液に、安定化剤となるMgO、CaOなどの液状化合物及び有機バインダを添加、混合し、その混合用液を冷間で紡糸、繊維前駆体となし、この前駆体を高温で焼成して繊維としたものである。
この繊維は、一般的にZrO+HfO;85〜99%、Y;0〜10%、MgO;0〜7%、CaO;0〜7%の組成を有する。一次繊維の繊維径は0.8μm〜4μm程度である。
市販品としては、米国Zircar Zirconia 社のZirar ZYBY(登録商標)シリーズ(日本電子硝子社、巴工業社、取扱い)等を挙げることができる。
【0040】
本発明で用いられるセラミック粉末(a)及び強化用セラミック繊維(b)のうち少なくとも一方は、表面活性化処理されたものである。
そして、本発明における、この表面活性化処理には、アルミナ材料及びジルコニア材料のζ電位保持のためのpH処理、及び、表面への微細クラック付与のための機械的攪拌処理が含まれる。
該pH処理は、使用材料を弱酸性液(pH3.5〜6.5)で処理した後、純水で洗浄するものである。純水洗浄に代えてアルカリで中和する場合は、純水洗浄の場合に比し、効果が劣ることが多い。
本発明における上記機械的攪拌処理は、通常、不活性溶媒(水を含む)の存在下に、中速度(1000rpm相当以上の乱攪拌)、好ましくは高速度(1200rpm相当以上の激しい乱攪拌)で1分間以上、相互攪拌するものである。
【0041】
本発明の歯科用繊維強化セラミック複合材料を作製するには、素材原料のアルミナ又はジルコニア粉末を、水、水溶性または水混和性有機溶媒と水の混合物中で充分にミリング処理して用いることが好ましい。充分なミリング処理が行なわれたか否かは、重量平均粒径が10μm以下で、粒径100μm以上の粗大粒子を実質的に含まなくなるまで磨砕されたか否かを検討することによって判断することができる。例えばボールミルを用いた場合、通常、8時間以上ミリングすることが好ましい。このような湿式ミリング処理は、2次凝集体をできるだけ磨砕するだけでなく、表面活性化を齎らす。この場合の重量平均粒径Dwは、以下の式で表わされる。
Dw={1/Σ(nD3)}×{Σ(nD4)} 式(8)
前記式中、Dは各チャネルに存在する粒子の代表粒径(μm)を示し、nは各チャネルに存在する粒子の総数を示す。
【0042】
なお、チャネルとは、粒径分布図における粒径範囲を等分に分割するための長さを示すもので、本発明の場合には、後述のような各チャンネルのチャンネル長さを採用した。また、各チャネルに存在する粒子の代表粒径としては、各チャネルに保存する粒子粒径の中央値を採用した。
【0043】
粒径分布を測定するための粒度分析計としては、レーザー回析粒径分析装置(
島津製作所、モデルSALD−7000)を用いた。
その測定条件は以下の通りである。
(1)粒径範囲:500〜0.015μm
(2)チャネル数:52
(3)各チャネルのチャネル長さ(チャネル幅):後述のとおり
(4)各チャネルの代表粒径:後述のとおり
体積平均粒径は、例えば、COULTERTA−II(COULTER ELECTRONICS,INC)や、マイクロトラック粒度分析計(モデルHRA 9320−X100:Honewell社製、屈折率:2.42)等を用いて同様に測定することもできる。
【0044】
市販アルミナ(Al)、ジルコニア(ZrO)粉末は、通常、微細1次粒子が多数凝集した2次粒子からなるが、これらは本発明においてミリング処理される。本発明におけるアルミナ、ジルコニアの湿式分散処理は、ペイントシェーカー、ボールミル、アトライター、ケデイミル、サンドミル、ダイノミル、コロイドミル等公知の分散装置を用いて行なうことができ、特にボールミル、サンドミルを好ましく用いることができ、所謂アンダーテン(平均粒径10μm以下)を比較的簡単確実に達成できる高比重(例えばジルコニア球)を用いることができ、この場合、より小粒径粒子を得るにはより小さい球のジルコニアを用いて長時間分散処理することが必要で、例えば、平均粒径を10μm以下、好ましくは5μm以下(実際はアンダーミリミクロン)にするためには、分散液を高速循環させて分散することや、ジルコニアメディア径が0.5mm〜1.0mmのものを用いて粗粉砕(1次分散)し、次いで0.5mm未満の径のメディアを用いて分散(2次分散)することで好ましく達成される。端的に云えば1次分散はボールミルが、また、2次分散はビーズミル処理が好ましい。2次分散の際のビーズミルの回転速度は1000rpm以上の速度であることが好ましく、より好ましくは1200rpm以上の回転速度である。分散過程で、ミルの発熱がある場合(高速運転すると通常は発熱する)は、ミルを水にて冷却する。
【0045】
ボールミル処理は、乾式よりも湿式で行うことが好ましく、その際には、後の塗工時に用いるバインダのうちの適量な一部と共にボールミル処理することが好ましい。バインダは、特にビーズミルによる二次分散の際に、高速の分散処理過程で、繰り返し引き伸ばされ、かつ引き千切られることにより、その中に包含されている2次凝集体もこれに随伴させて引き千切ぎり、二次凝集を解き、かつ再凝集を防止する。さらに、良好な分散を齎らし、また分散済みの微粒子が再度凝集することを避けるため、ノニオン系の分散剤(界面活性剤)、特にパーフルオロ炭化水素基含有の分散剤、及び液媒体に溶解して充分な粘度を与える高分子系分散助剤を被分散物に適量添加することが好ましい。ビーズミル二次高活性な超微粉(これは、過剰な表面エネルギーを凝集熱として放出しなければならず、したがって凝集し易い)が二次凝集するのを防ぐためにも有効であり、而して、アルミナ、ジルコニア粉末及びバインダ成分を含むビーズミル処理後の液状物又はこれから導びかれるペーストは、長期保存にも耐えることができる。
【0046】
いずれにしても、力を限られた小局部のみに絞って的確に印加できないときには、衝撃力による応力のみで本発明におけるような極小粒径の粒子に粉砕することが難かしく、このような極小粒径の粒子にメカノケミカル的に粉砕するには、攪拌分散過程でずり応力を印加しつつ分散処理することが好ましい。そのためには例えば、分散液中でバインダに捕捉された状態で混練される分散処理に附されることが好ましい。ずり応力付与という観点からは、ボールミルによる分散時のバインダは、易溶性のものよりも若干難溶性又は膨潤性のものを少量用いることが有効である。液粘度は、バインダの性質及び量と分散媒液体との相関による。例えば親水性かつ水易溶性のバインダを水に溶解して分散操作に附す場合、メタノールやアセトンのような水混和性かつバインダ不溶性の易揮発性溶媒の少量添加により分散液粘度を調節することができる。
ボールミルによる分散液の分散時粘度は100mPas〜1Pasに調整することが好ましい。ボールミル処理時間は、通常8時間〜3週間(約500時間)である。
このような被分散液には、分散媒液相成分が、アルミナ、ジルコニア100重量部当り、30〜300重量部、好ましくは40〜200重量部用いられ、液相には、例えば純水;有機溶剤の比率が35〜70;65〜30(容積比)のものを好ましく用いることができる。
【0047】
また、硬度が高くボールミル処理で微粉砕し難いアルミナ、ジルコニアの場合には、食塩のような角ばった粉砕助剤を、これら溶かさない有機溶媒と共にボールミル処理に入れて粉砕処理した後、処理済みの分散液に水を加えて粉砕助剤を溶解し去り、水洗・ろ過することにより、所望の粒度のアルミナ、ジルコニアとすることができる。
【0048】
しかし、シート上の形成層におけるバインダの比率が増大して実効成分としてのアルミナ、ジルコニアの比率が低下する欠点を避けるという観点からは、分散時に過剰量のバインダ使用を差し控えることが望ましい。
【0049】
そのためには、予め、粉砕手段とエアーバッグフィルタ分級手段との間の粗粉循環路を有するジェットミルのような慣用のニューマチック製粉装置で粉砕して後にボールミル分散処理を施すことができ、かつ好ましい。この場合、ボールミルによる1次分散過程ではほとんど、超微粉(高活性)が二次凝集した粗粉を解きほぐすだけでよいので、分散時間は通常6〜24時間と短くて済む。
又は、予め三本ロールにより熔融バインダ中でずり応力を付与することにより充分に破砕して後、分散液を用いてボールミル処理することもできかつ好ましい。以上、アルミナ又はジルコニア粉末の磨砕処理について説明してきたが、本発明において、アルミナ又はジルコニア繊維が短繊維である場合は、同様に、水、水溶性または水混和性有機溶媒と水の混合物中で充分にミリング処理して用いることができる。
【0050】
本発明において、アルミナ又はジルコニア粉末と、アルミナ繊維又はジルコニア繊維の量比は、通常97;3〜35;65であり、好ましくは95;5〜40;60、より好ましくは90;10〜50;50である。
アルミナ繊維又はジルコニア繊維は、例えば、粉末材料のスラリーが流延される樹脂フィルム上に、予め、所望の間隔を置いて緊張状態で架設され、次に、この上に、粉末材料のスラリーを流延することにより含浸される。
【0051】
本発明における粉末材料スラリーのためのバインダ材料としては、親水性の高分子材料例えばポリ酢酸ビニル、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体、アクリル酸やアクリルニトリル等のアクリル系(共)重合体、天然ゴムラテックス、マレイン酸系(共)重合体、ポリエステル、でんぷんまたはその変性物、ポリビニルアルコールまたはその変性物、SBRラテックス、NBRラテックス、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、エポキシ樹脂部とポリオキシアルキレン部を有するポリオール樹脂、尿素系初期重縮合物、メラミン系初期重縮合物、フェノール樹脂、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、コラーゲン、フィブリン、アルブミン等のポリペプチド、デンプン、プルラン、ヒアルロン酸、キチン、デキストリン等のポリグリコシド、核酸等のポリホスフェート、酸化セルロース、ポリ−L−ラクチド(PLLA)、ポリ−D−ラクチド(PDLA)、ポリ−D,L−ラクチド(P−D,L−LA)、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、L−ラクチド/グリコライド共重合体、D−ラクチド/グリコライド共重合体、L−およびD−ラクチド/グリコライド共重合体(P(LA/GA))、L−ラクチド/カプロラクトン共重合体、D−ラクチド/カプロラクトン共重合体、L−およびD−ラクチド/カプロラクトン共重合体(P(LA/CL))を挙げることができ、これらうち、アクリル系(共)重合体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、アルブミン等のポリペプチド、デキストリン等のポリグリコシドを好ましく用いることができ、特にアクリル系(共)重合体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールをより好ましく用いることができる。
【0052】
生体吸収性がある天然物としての活性炭精製ゼラチン、ライススターチ、キチン、デキストリンや合成品としてのポリ−L−ラクチド(PLLA)、ポリ−D−ラクチド(PDLA)、ポリ−D,L−ラクチド(P−D,L−LA)、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、L−ラクチド/グリコライド共重合体、D−ラクチド/グリコライド共重合体、L−およびD−ラクチド/グリコライド共重合体(P(LA/GA))、L−ラクチド/カプロラクトン共重合体、D−ラクチド/カプロラクトン共重合体、L−およびD−ラクチド/カプロラクトン共重合体(P(LA/CL))もまた好ましく用いられる。
これらバインダ成分の添加量は、アルミナ、ジルコニア100重量部当り0.1重量部〜90重量部、好ましくは10重量部〜30重量部である。
【0053】
本発明における被分散処理液には、また、界面活性剤を添加することが好ましい。界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ベタイン系界面活性剤を用いることができ、特にノニオン系界面活性剤を好ましく用いることができる。また、食品添加物として用いられるポリ乳酸、ポリラクチド乳酸、ポリリジン、ポリグルタミン酸を併用することができる。これら界面活性剤は、燐酸カルシウム粒子の濡れ促進、発泡抑制、分散促進、及びシート状歯冠修復材料の湿潤性と柔軟性と表面平滑性向上に資する。界面活性剤の添加量は、分散処理されるアルミナ、ジルコニア100重量部当り0・001〜20重量部、好ましくは0・01〜10重量部、より好ましくは0・1〜5重量部である。
【0054】
分散処理の後、分散液は8メッシュの開目を有するフィルタでろ過処理することにより、重量平均粒径3.5μm乃至8・0μmで重量平均粒径100μm以上の粗大粒子を実質的に含まないアルミナ、ジルコニアを含む精製分散液を得ることができる。ここで、体積平均粒径100μm以上の粗大粒子を実質的に含まないとは、100個の粒子づつ10回、顕微鏡で観察したとき(即ち1000個の観察)、粗大粒子の含有数が1個以下(当該粗大粒子の含有率が0.1個数%以下)であることを意味する。
【0055】
而して得られた精製分散液は、塗工操作に適した粘度に粘度調節される。粘度調節は分散媒体液の添加による希釈、及び/又は液体部分の真空除去や他の補助成分の添加による粘度上昇による。塗工操作に適した粘度は、通常、25℃において10センチポイズ〜2000センチポイズである。
【0056】
塗工液には、その他助剤として、pH調節剤例えば酢酸、ギ酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、アジピン酸、酒石酸、マロン酸などの酸、及び、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウムなどのアルカリ水溶液、ポリエチレングリコール等の分散安定剤、アスコルビン酸等の酸化防止剤、リジン、レシチン等の界面活性剤、ノニルセロソルブ等の界面活性の貧水溶性液体有機材料、ジメチルシリコン、メチルイソブチルシリコンや特にトリフロロメチル基含有シリコンのようなシリコン系消泡剤を所望により添加してもよい。
【0057】
塗工液はpH値が6〜4の範囲に調節されていることが好ましい。pH値はアルミナ、ジルコニアの分散処理(ミリング)の進行に伴って、通常、若干低下する。また、ポリエチレングリコールは分散安定剤として働くだけでなく、可塑剤的な作用又は湿潤剤的な作用も奏し、乾燥後の塗工層が例えば手で接触することによりシート基材から容易にブロック剥離するのを防ぐ役割も果たす。
【0058】
かくして得られた分散液乃至ペーストは、そのまま又は粘度調整されて保存され、患部に投与され、又は塗工液としてシート状基質表面に塗工される。シート状歯冠修復材料のための塗工液中の固形分濃度は65%以上(乾燥重量)であることが好ましい。
シート状基質は可撓性、柔軟性があるものが好ましく、剛直で曲げ応力に対して耐性に欠けるものであるときには直接又は塗工液から可塑剤を供給して柔軟性を付与することができる。シート状基質の厚みは、5μm〜100μmであることが好ましい。5μm未満であると製造時及びその後の取り扱い時に破損することがあり、100μmを超えると剛直となり易くまた、患部に適用した際、実効成分としてのアルミナ、ジルコニアの比率を低下させる。シート状基質は例えばエキシマレーザーを照射してΦ1.0μm未満の微細な通気性孔を多数穿孔したものであることができる。
【0059】
塗工は、公知の各種塗工装置、例えば、スピンプレナーコーター、ビードコーター、ダイコーター、ロールコーター、ワイヤーバーコーター、エアナイフコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、コンマコーター、ディップコーター、カーテンフローコーター、シルクスクリーン印刷機、グラビアコーターなどを単独で又は複数組み合わせて(例えば、ブレードコーターで塗工後、未乾燥状態の塗工層表面を平滑化するためのエアナイフ処理)行なうことができ、スピンプレナーコーター、ロールコーター、ワイヤーバーコーター、ブレードコーター、カーテンフローコーター、シルクスクリーン印刷機、グラビアコーターなどを好ましく用いることができる。
【0060】
特にブレードコーター、例えばバリドウエルブレードコーター、ベルババブレードコーター、ショートドウエルブレードコーター、トレーリングブレードコーター、フレキシブルブレードコーター、ロールアプリケーションブレードコーター、フラデッドニップブレードコーター、フォンテンブレードコーター、ビルブレードコーターのようなブレードコーターを好適に用いることができる。このようなコーターを用いたブレードコーティングは、本発明における10〜10センチポイズ、好ましくは10〜200センチポイズ(100〜2000mPa・sec)の粘稠な塗工液を用いて層厚の塗工層をシート上に形成するのに適している。
【0061】
シート状基質には、特に制限がなく、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、塩ビ−酢ビ共重合体フィルム、スチレン−ブタジエン共重合体フィルム、アセテートフィルム、ポリエステルフィルム、ポリアミドフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリカーボネートフィルム等の樹脂フィルムを用いることができるが、患部の治癒後再度切開することを防ぐため、水溶性材料から形成された各種フィルム、特に、塗工層形成の際に使われるアルミナ、ジルコニア用の前記バインダ材料と同じ材質のフィルム、例えばポリビニルアルコールフィルムカルボキシメチルセルロースフィルムが好ましく用いられ、この際、シート状基質とバインダ材料の親和性が高すぎ、アルミナ、ジルコニアがシート状基質中にあまりに浸透埋没するのを防ぐには、上記のように、メタノールやアセトン、テトラヒドロフランのような水混和性かつバインダ不溶性の易揮発性溶媒を効果的に用いる(例えば、予めシート状基質にこれらを塗布してから塗工液を塗工する)ことができる。
【0062】
塗工後は、乾燥し、ロール状に巻き取り或いは巻き取らず直接、(患部に巻き付けて投与した場合の体液通過や骨形成の迅速化、円滑化に資する)小孔を適宜頻度で穿孔した後所要のサイズに切断し、所望枚数を包装する。塗工層の厚さは乾燥後、通常0.05mm(50μm)乃至4mm(4000μm)であり、好ましくは0.1mm〜2mmである。またフィルム上に形成後の粘度(η)は、通常10〜10(Pa・s)、好ましくは10〜10(Pa・s)である。
【実施例】
【0063】
以下、実施例1により本発明を更に具体的に説明する。
(実施例1)
[材料及び方法]
図5に、本発明の1具体例として、アルミナ繊維強化アルミナセラミックスの成形プロセスの流れ図を示す。但し、この例は、本発明の理解を容易にするための説明例であって、本発明を制限するためのものではない。
マトリックスは、アルミナ(α−Al,AL45−1,昭和電工)とホウケイ酸ガラス(SiO−B,SNK−01,泉陽硝子)を60wt%:40wt%の割合で混合したアルミナセラミックスを用いた(図6)。アルミナ繊維強化アルミナセラミックスのマトリックスとして用いたアルミナは、生体親和性に優れ、化学的にも安定している。他にセラミックス系マトリックスとしては、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ジルコニア、ムライトなどが考えられる。
【0064】
また強化繊維は、アルミナ繊維(γ−Al,Alflex,大明化学)を用いた(図7)。他にセラミックス系強化繊維としては、炭化ケイ素繊維などが考えられる。
アルミナ繊維強化アルミナセラミックスの作製方法としては、アルミナ粉末18g,ホウケイ酸ガラス粉末12g,蒸留水6g(和光純薬),エタノール6g(和光純薬)および分散剤0.12g(AQ−2559,ライオン)に、直径3mmと5mmのアルミナボールを加えて、遊星型ボールミル(P−5/2,フリッジジャパン)にて、18時間混合分散した(一次分散)。これにより一次粒子が多数溶着したアルミナセラミックス粉末の二次凝集粒子を分散剤,蒸留水,エタノールなどにより、粒子表面の電荷を調整することで、一次粒子に分散させた。次に一次分散したスラリーにバインダ4.8g(HB−500,ライオン),可塑剤0.6g(PRG#600,ライオン),消泡剤0.03g(1020H,ライオン),25%アンモニア水0.06g(和光純薬),エタノール1.5gを加えて2時間混合し、均一に分散させた(二次分散)。これは、シートに成形性と操作性を付与するため、バインダおよび可塑剤をアルミナ粒子表面および粒子間の空隙に充填し、アルミナ粒子同士さらにはアルミナ繊維と結合させるためであった。他にバインダとしては、ポリアクリル酸,ポリエチレングリコール,ポリビニルアルコール,ポリビニルブチラール,メチルセルロース,ハイドロキシエチルセルロースなどが挙げられる。またスラリー粘度は粘度計(VM−10A,CBC Materials)により監視し、必要なシートの厚みや成形条件に合わせて500mPas付近を目安とした。100mPas以下のスラリーは粘度が低く、1Pas以上のスラリーは粘稠な感じを受ける。そのためスラリーの粘度は100mPas〜1Pasが妥当であると考えられる。スラリーの粘度は、分散する際のエタノール,蒸留水,特にバインダ、分散剤等の量により調整できる。さらには真空中におけるスラリーの撹拌脱泡の時間あるいは環境(設定)温度によっても調整できる。
【0065】
またレーザー回折式粒度分布測定装置(SALD−7000,島津)を用いた粒度分布測定の結果、分散前の粒度分布の粒径範囲は0.1〜100μmであったが、一次、二次分散後の粒度分布の粒径範囲は、それよりも粒径の小さいほうにシフトしていることが確認できた(図8)。つまり分散前のアルミナセラミックスの平均粒径は7.86μmであったが、一次分散後では3.65μm,二次分散後では3.27μmと減少していることから、一次分散および二次分散における長時間のボールミルにより、アルミナセラミックスが微細化されていることが確認できた。また粒度分布は2つのピークが検出されたが、小さい方のピークはアルミナであり、大きい方のピークはホウケイ酸ガラスであった。
【0066】
シート作製はドクターブレード装置(DP−150,サヤマ理研)を用いて行った。すなわち、ブレードAとBのギャップをそれぞれ1.0mmと1.5mmに設定し、あらかじめアルミナ繊維を貼り付けたキャリアフィルムを移動速度20cm/minの条件で、繊維に粘度調整したスラリーを含浸させ、アルミナ繊維強化アルミナセラミックスシートを作製した。Tok(Tok AIY, Boey FYC, Khor KA: Tape casting of high dielectric ceramic composite substrates for microelectronics application, J Mater Process Technol, 90: 508-512, 1999.)らとCorso(Corso G, Casto SL, Lombardo A, Freni S : The influence of the tape-casting process parameters on the geometric characteristics of SiC tapes, Mater Chem phys, 56 : 125-133, 1998.)らは、ドクターブレード法を用いたテープキャスティングにおいて作製されるセラミックスシートの厚さは、ブレードのギャップ、フィルムの移動速度、スラリーの粘度に大きく影響すると報告している。すなわち、テープキャスティングは、これらの要素を調整することで任意の厚さのセラミックスシートを得ることができるため、症例に応じた適切な厚さのシートを取り扱うことが可能と考えられる。本実験において使用したキャリアフィルムは、ポリエステルやポリエチレングリコールテレフタレートであり、その表面にはフッ素樹脂やシリコーンが塗布されており、作製したシートとキャリアフィルムを容易にはく離できるよう工夫がなされている。またスラリーの分散状態が悪い場合、空気に接する上側(エアー面)にはバインダ樹脂が部分的に偏析し、一方、キャリアフィルムと接する下側(フィルム面)には、セラミックス粉末の割合が多くなる恐れがある。
【0067】
ドクターブレード法を用いたテープキャスティングにより作製したアルミナ繊維強化アルミナセラミックスシートの写真を図9に示した。テープキャスティングにより得られたシートは、柔軟性があり、曲げることが可能であった。またアルミナ繊維強化アルミナセラミックスシートの内部のSEM像を図10に示したが、アルミナ繊維とアルミナ粉末がバインダによって結合され、複合化している様子が確認できた。作製したシートは、常温で安定するまで乾燥させ、その後シートを5層積層し、100℃,21MPaで30分圧縮成形を行った。焼成は、卓上型高速昇温電気炉(MSFT−1520−P,ニッカトー)を用い、大気中において1000℃,4時間行った。また繊維強化の効果を確認するため、比較対象として、繊維強化されていないアルミナ単体の試供体も同様にして作製した。アルミナを緻密に焼結させるためには、1600℃以上の恒温が必要である。このため一般的にはアルミナの焼結は特性を大きく損なわない程度の焼結助剤を添加して液晶焼結を促進することで焼成温度を低下させている。
【0068】
1000℃で焼成後のアルミナ繊維強化アルミナセラミックスのSEM観察からは、面性状が均質であり、緻密に焼結していることが確認できた(図11)。本研究の成形プロセスのように低い焼成温度を可能にしたことは、歯科応用を考えた場合、特別な高温電気炉を必要としない点で非常に重要であると言える。また焼成温度を高くした設定した場合、強化繊維であるアルミナ繊維が劣化する恐れがある。
【0069】
さらには焼成したアルミナ繊維強化アルミナセラミックスの結晶の同定は、X線粉末回折装置(Geigerflex,リガク)を用い、X線回折(XRD)を行った。アルミナ繊維強化アルミナセラミックスのシートおよび焼結体のXRDパターンを図12に示した。焼成前のアルミナ繊維強化アルミナセラミックスシートのXRDパターンでは、2θ=25.62°,35.20°,37.82°,43.40°,52.57°,57.53°,61.35°,66.53°,68.22°にピークが見られ、アルミナの主要なピークと一致し、シートの結晶構造は、アルミナ原粉末と同じであることが確認できた。すなわち長時間のボールミルによるアルミナセラミックスのスラリー化は、アルミナの結晶構造に影響を及ぼさないことが確認できた。またホウケイ酸ガラスに関しては、非晶質固体のため、ピークは検出されなかった。一方、1000℃で焼成後のアルミナ繊維強化アルミナセラミックス焼結体のXRDパターンからは、アルミナの特徴を示すピークに加えて、ムライトおよびクリストバライトなどのピークが確認できた。これは、アルミナに添加したホウケイ酸ガラスが結晶化して、ムライトとクリストバライトなどが生成したものと考えられる。
【0070】
焼成したアルミナ繊維強化アルミナセラミックスの焼成収縮率は、デジタルノギス(CD−20CP,ミツトヨ)を用い、焼成後の試験体の繊維長軸方向を長さ方向とした長さ(X)方向,幅(Y)方向,厚さ(Z)方向のそれぞれの線収縮率および体積収縮率を測定した。1000℃で焼成後のアルミナ繊維強化アルミナセラミックスの線収縮率および体積収縮率を表1に示した。アルミナ繊維強化アルミナセラミックス成形体の線収縮率は、アルミナ単体と比較してX方向で0.21,Z方向で0.32に減少した。またY方向の線収縮率に関して有意差は見られなかった。これはY方向においては繊維の影響が少ないため、収縮率がアルミナ単体と同程度であったと考えられる。さらにはアルミナ繊維強化アルミナセラミックスの体積収縮率は、アルミナ単体と比較して0.45に減少し、収縮を改善することができた。これらの結果は、アルミナマトリックスの収縮を繊維によって抑制できたためと考えられる。
【0071】
焼成したアルミナ繊維強化アルミナセラミックスの曲げ特性は、繊維長軸方向を長さとして、インストロン型万能試験機(TCM500CR,ミネベア)を用い、三点曲げ試験を行い、曲げ強さおよび曲げ弾性率を算出した。試験体数は12とした。三点曲げ試験から得られたアルミナ繊維強化アルミナセラミックスおよびアルミナ単体の曲げ特性を表2に示した。アルミナ繊維強化アルミナセラミックスとアルミナ単体を比較した場合、曲げ強さおよび曲げ弾性率はアルミナ繊維強化アルミナセラミックスの方が有意に大きかった。図13に曲げ試験後のアルミナ繊維強化アルミナセラミックスおよびアルミナ単体のSEM像を示したが、アルミナ単体の破壊面は、アルミナ繊維強化アルミナセラミックスと比べて比較的滑らかであった。一方、アルミナ繊維強化アルミナセラミックスの破断面は、繊維がマトリックスに結合され、束になって引き抜かれた様子が確認できた。
以上、作製したアルミナ繊維強化アルミナセラミックスは、シートを積層するものであり、操作性に優れるとともに、焼成収縮率および曲げ特性にも優れ、明らかな繊維補強効果が確認できたことから、新しい歯科用セラミックスとして期待できる。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】アルミナ粉末のζ電位、スラリー粘度、スラリー液のpHの関係を示す図である。
【図2】微粒子相互の距離とポテンシャルエネルギーの関係を示す図である。
【図3】固体材料を加圧した際の典型的なクラック発生モードを説明する図である。
【図4】ZrO製造(焼成)の際の焼成温度に伴う比表面積の1変化例を示す図である。
【図5】本発明におけるアルミナ繊維強化アルミナセラミックスの1成形プロセス例の流れを示す図である。
【図6】本発明におけるアルミナ繊維強化アルミナ粒子のセラミックマトリックスの1例を示す図である。
【図7】本発明で用いられアルミナ(γ−Al)繊維の1例を示す図である。
【図8】本発明におけるアルミナ粒子の分散処理による平均粒径の低下例を示す図である。
【図9】本発明のアルミナ繊維強化アルミナセラミックスシートの写真を示す図である。
【図10】本発明の繊維強化アルミナセラミックスシートの1例の内部のSEM像を示す図である。
【図11】本発明の1000℃で焼成後のアルミナ繊維強化アルミナセラミックス例のSEM写真である。
【図12】本発明のアルミナ繊維強化アルミナセラミックスのシート例および焼結体例のXRDパターンを示すチャートである。
【図13】本発明図のアルミナ繊維強化アルミナセラミックスおよびアルミナ単体の曲げ試験後のSEM像を示す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック粉末(a)のスラリーを、強化用セラミック繊維(b)に含浸してなるペースト層を樹脂フィルム上に設けてなる繊維強化セラミック複合材料のペースト状の層を有する歯科成形修復用シートであって、
該セラミック粉末(a)は、アルミナ粉末(a1)及び/又はジルコニア粉末(a2)であり、
該強化用セラミック繊維(b)は、強化用アルミナ繊維(b1)又はジルコニア繊維(b2)であり、
該ペースト層は、厚さが0.05mm(50μm)乃至4mm(4000μm)であり、前記フィルム上に形成後の粘度(η)が10〜10(Pa・s)であり、
該セラミック粉末(a)及び該強化用セラミック繊維(b)のうち少なくとも一方は、表面活性化処理されたものであることを特徴とする繊維強化セラミック複合材料層を有する歯科成形修復用シート。
【請求項2】
前記表面活性化処理が、該セラミック粉末(a)の水性液中でのζ電位上昇のためのpH調節処理及び/又は微細な表面磨砕傷付与処理からなる表面活性化処理であることを特徴とする請求項1に記載の歯科用繊維強化セラミック複合材料層を有する歯科成形修復用シート。
【請求項3】
前記アルミナ粉末(a1)は、アルミナ(Al)粉末/ホウ珪酸ガラス(SiO・B)粉末の重量比が50/50〜90/10のアルミナ粉末であり、前記ジルコニア粉末(a2)は、酸化ジルコニウム(ZrO)/酸化イットリウム(Y)のモル比が96/4〜90/10のジルコニア粉末であることを特徴とする請求項1又は2に記載の歯科成形修復用シート。
【請求項4】
前記ペースト層は、前記粉末セラミック材料と前記強化用セラミック繊維の他に、さらにホウ珪酸ガラス成分を含むものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の歯科成形修復用シート。
【請求項5】
前記ペースト層は、厚さが0.05mm(50μm)乃至4mm(4000μm)であり、前記フィルム上に形成後の粘度(η)が10〜10(Pa・s)であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の歯科成形修復用シート。
【請求項6】
前記アルミナ(Al)粉末が、平均粒径10μm以下のものであることを特徴とする請求項5に記載の歯科成形修復用シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−31087(P2008−31087A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−206253(P2006−206253)
【出願日】平成18年7月28日(2006.7.28)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】